機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-15「緋の刃、穿つ戦場」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アトランタ突破作戦を無事に終え、部隊を収容した大和は再び、その艦首を南へと向けていた。

 

 アトランタを陥落させたことで、北米解放軍が誇る大要塞群「バードレス・ライン」の一角を突き崩す事に成功した。これにより、北米解放軍も防御陣地の再構築を迫られる事になる。

 

 事前の偵察情報では、解放軍の本拠地はメキシコ湾の入り口に突き出したフロリダ半島のどこか、と言う事になっており、事実として、過去にフロリダ半島上空を偵察した機体は1機も戻ってこなかったと言う事情もある。

 

 偵察衛星を用いて軌道上から撮影された画像によれば、かなり大規模な迎撃陣地が集中しており、これを地上からの侵攻で陥落させるとなると、かなりの犠牲が伴う事が予想された。

 

 そこで共和連合軍、と言うよりも主戦力を担うザフト軍は、今回の作戦において地上部隊で敵の攻撃を引き付ける一方で、衛星軌道上から降下揚陸部隊を確認されている敵拠点へ直接降下させ、これらを一挙に制圧すると言う作戦を撃ちだしていた。

 

 降下揚陸部隊の活用はザフト軍の18番であり、これまで多くの戦いを制してきた必勝戦法である。いかに解放軍が戦力が多く、かつ地の利を得ていたとしても頭上を押さえられたのでは如何ともしがたいはず。

 

 しかも今回、フロリダ半島周辺の解放軍拠点は手薄になっている事が確認されている。事実、戦闘開始と同時に、フロリダ半島から大規模な部隊が南へ向かうのが確認されている。恐らく、東アジア諸島付近に展開した南米軍の迎撃を行う為に出撃したと思われた。

 

 加えてバードレス・ライン防衛用の戦力も裂かなくてはならない。それを考えれば全軍を統括するハウエル司令部の判断は、あながち的外れとは言えなかった。

 

「それで、グラディス連絡官」

 

 航行する艦を指揮しながら、シュウジは傍らのアランに尋ねた。

 

 アランは同盟相手とはいえ他国の民間人。本来なら艦橋のような重要な場所へは立ち入る事ができないのだが、大和へはプラント本国やザフト軍との意思疎通を行う橋渡し役として来ている。その為シュウジは、円滑な意思伝達を行う為、特別にアランが艦橋に入る事を許可していた。

 

「これから、我々はどのように行動するのですか?」

 

 基本、ザフト軍からの命令はアランを介する形でシュウジへ伝達される。その為、アランにはザフト軍の作戦命令書を開封する権限とコードが与えられていた。

 

 艦橋には今、先のアトランタ戦における報告を行うべくやって来たリィスの姿もあった。

 

「それなのですが・・・・・・・・・・・・」

 

 促すシュウジに、アランは少し言いにくそうに口を開きながら、開封した命令電文をシュウジへと渡した。

 

「オーブ軍戦艦大和は、現在位置を死守。そのまま待機しつつザフト軍本隊の到着を待て、とあります」

 

 アランの言葉を聞きながら、シュウジは目を細めて電文を見やる。

 

 確かに、アランの言うとおり、電文には大和に待機を命じる旨が掛かれている。しかも、ザフト軍北米派遣軍司令官デニス・ハウエル総隊長の署名入りである。正式な書類である事は間違いなかった。

 

「そんなッ」

 

 納得いかない調子で声を上げたのは、傍らに立っていたリィスだった。

 

「要塞陣地突破に成功した以上、私達はより深く敵陣へと進むべきじゃないんですか?」

 

 言い募るリィス。

 

 確かに、彼女の言うとおり、大和がこの場にて待機するのは最上とは言えないだろう。敵が敷いた防衛ラインを突破する事に成功したのだから、その機動力を活かした後方攪乱や、艦載機を用いた威力偵察等、できる事は幾らでもある。

 

 勿論、下手に突出し過ぎれば敵中に孤立してしまう事も考えられたが、今回の場合、解放軍にも多くの予備戦力があるとは思えない関係から、より奥地へと進んだ方が得策であるように思えた。

 

「いったいザフト軍は何を・・・・・・」

「それくらいにしておけ、ヒビキ一尉」

 

 尚も言い募ろうとするリィスを制したのはシュウジだった

 

「グラディス連絡官の役割は作戦の立案ではなく、立案された作戦を我々に伝える事だ。彼を責めても仕方がない」

 

 実際にはシュウジ自身、ザフト軍司令部の連中に行ってやりたい事は多々あるのだが、それでも、その程度の節度は弁えているつもりだった。この場にあってメッセンジャー以上の役割を与えられていないアランを責めるのは、お門違いも甚だしかった。

 

「とにかく、待機を命じられた以上、我々としてはどうする事もできん。この場で次の命令を待つ事になるが、その間の警戒は怠らないでくれ」

「・・・・・・了解しました」

 

 尚も不承不承と言った感じのリィスだが、部隊長であるシュウジがそう決断したからには、従う意外に無かった。

 

 型通りの敬礼をして、艦橋を出て行くリィス。

 

 その彼女の背中を、アランが慌てて追いかけていく。

 

 そんな2人の背中を見送るとシュウジは前方に向き直って、人知れず口元に笑みを浮かべた。

 

「・・・・・・・・・・・・若いな」

 

 何やら年寄り臭い事を言うシュウジ。

 

 しかし実際のところ、彼自身、リィス達とは3歳しか違わない年齢であるのだが、どうにも苦労を背負い込む事が多いせいか、一回りは年長に思えるのだった。

 

 

 

 

 

「ヒビキ一尉、待ってください!!」

 

 足取りも荒く1人でズンズンと先へ行ってしまうリィスに、アランは慌てて追いつき引き留めようとする。

 

 すると、リィスはいきなりクルッと振り返り、やや釣り上げた瞳をアランへと向けてきた。

 

「何か?」

 

 先程のやり取りのせいもあるのだろう。少し険のある声を出してしまう。

 

 女性士官の齎す迫力に対してアランは若干身を引きながらも、気を取り直してリィスへと向き直った。

 

「その・・・・・・・・・・・・さっきは、すみませんでした」

「・・・・・・はい?」

 

 予想していなかったアランの言葉に、リィスは怪訝な表情を作る。わざわざ追いかけてきたのだから、文句の一つも言われるかも、と身構えていたのだが、完全に拍子抜けだった。

 

「その、我が軍が割に合わない作戦を立ててしまった事、プラントを代表してお詫びいたします」

「そんな事・・・・・・」

 

 リィスは、少し面食らってしまった。

 

 そんな事をわざわざ言う為に、自分を追いかけてきたアランは、どうやら思っている以上に義理堅い性格であるらしいと言う事が分かった。

 

「さっき艦長も言った通り、これがザフト軍主導の作戦である以上、命令には従いますよ。私だってオーブの軍人ですから。それくらいの事は弁えています」

「でも、あなたは納得していない。そうでしょう?」

 

 杓子定規な返答を返すリィスに対して、アランは尚も言い募ってきた。

 

「だから、あなたに謝りたくて・・・・・・その・・・・・・」

 

 何やらしどろもどろに話すアラン。

 

 それに対して、リィスは深くため息をついて言った。

 

 アランが人一倍、誠実で義理堅いな性格をしていると言う事は良く判ったし、今回の件が彼にとってどうにもならない事だと言う事も理解した。

 

 だからリィスとしても、これ以上この件をネチネチと引っ張る気はなかった。

 

「もう良いです。あなたのせいじゃない事は、私にも判ってますから」

「ほ、本当ですか!?」

 

 勢いよく顔を上げるアランに、今度はリィスが引く番だった。

 

 一瞬、リィスを射るアランの視線。

 

 それを見返すリィスはと言えば、どう反応して良いのか困惑している。あまりにも視線が真っ直ぐに向けられた為、出かかった言葉を思わず飲み込んでしまったのだ。

 

 そんな2人の様子を、

 

「何あれ?」

「さあ?」

 

 ヒカルとカノンが見つめ、互いに顔を見合わせて首をかしげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 CE93年4月8日

 

 後に「第1次フロリダ会戦」の名で呼ばれる事になる戦いは、共和連合軍の戦線攻撃によって始まった。

 

 フロリダ半島北部を塞ぐように建設された「バードレスライン」は、解放軍が威信かけて建造した強固な要塞陣地群であり、事実上の交戦状態にあるモントリオール政府軍、並びにザフト北米駐留軍の攻勢を支え続けてきた。

 

 強固な防御陣地と無数の砲台、そして多数の駐留兵力を前に、共和連合軍も攻めあぐねていたのが実情である。

 

 しかし今回、共和連合軍は徹底した陽動戦術で解放軍の戦力を拡散する事に成功した共和連合軍は、一挙に攻勢に出たのだった。

 

 

 

 

 

 前線から次々と報告が齎される様子を、北米解放軍の指導者であるブリストー・シェムハザは身じろぎせずに聞き入っている。

 

 トップと言うのは、その組織において象徴的な意味合いを持つ。トップがぐらつけば、組織がぐらつく。組織がぐらつけば戦いに敗れる。全ては連鎖的につながっているのだ。

 

 逆を言えば、トップがどっしりと構えてさえいれば、たとえ負け戦であったとしても組織の屋台骨が崩れる事は無い。一定の磐石を維持できると言う訳だ。

 

 故に、シェムハザは例えいかなるときであろうと、自身が動揺した姿を見せる事は許されなかった。

 

 入ってくる戦況は、解放軍にとって決して芳しいとは言えない。

 

 戦線各所で攻勢を仕掛けてくる共和連合軍。

 

 それに対して主力を欠いている北米解放軍は完全に防戦一方と化し、敗走と壊滅を繰り返している。

 

 解放軍自慢の要塞線「バードレス・ライン」はズタズタにされつつある光景が、モニターからは見て取れた。

 

 主力を成すのは駐留ザフト軍とモントリオール政府軍。特にザフト軍は、今や質、量ともに過去にない充実を見ており、名実ともに「世界最強の軍隊」と言う呼び名もある。それ故に凄まじい進撃で解放軍が展開する前線部隊を駆逐している。

 

 流石はザフトの精鋭部隊、と言うべきだろう。

 

 戦力的には解放軍も決して劣ってはいないのだが、怒涛の如く攻め寄せてくるザフト軍を前に、今まで無敵を誇ってきた要塞も成す術が無かった。

 

 それもこれも、戦闘第一段階におけるアトランタの陥落が大きく響いていた。

 

 シェムハザは、視線をモニターの一角に向ける。

 

 アトランタは開戦第一撃の、僅か数時間の間に陥落してしまい、それに伴い、解放軍の戦線は壊乱状態に陥ってしまった。

 

 強固な壁程、一角でも穴を開けられれば脆いものである。ちょうど、洪水時に堤防が決壊するような物だ。

 

 アトランタを陥落させられた事で、共和連合軍が後方遮断に出る事を危惧した前線指揮官の幾人かが、司令部からの指示を待たずに要塞を放棄して後退してしまったのだ。その為、解放軍の前線は壊乱状態に陥ってしまった。

 

 現在、要塞を放棄した部隊はクラークヒル湖沿岸の旧オーガスタまで後退して部隊を再編成し、共和連合軍の更なる南下に備えている。

 

 再編成は順調に進み、間も無く戦闘準備も完了すると言う報告がシェムハザの元にも届けられている。

 

 奇妙な事に、バードレスラインを陥落させた共和連合軍は、その後の動きを鈍らせている。詳しい理由は不明だが、これは完全に解放軍にとって好都合であった。おかげで、作戦開始当初に起こった計算違い解消されたに等しい。

 

 しかし旧オーガスタは殆ど起伏の少ない平面な地形の上にある。強固な要塞に拠っても敵の進撃を防ぐ事はできなかった事を考えると、まともな戦闘で敵の進撃を食い止めるのは難しい。

 

 やはり、作戦は当初の予定通り運ぶ必要があるだろう。

 

「南米軍に、その後の動きは?」

「特にこれと言った物は。カリブ海南岸部からパナマ基地に掛けて戦力を展開しているが、北上の動きはありません」

 

 オペレーターからの返事を聞き、シェムハザは自分の考えが間違っていなかった事を確信した。

 

 どうやら、南の南米軍は囮か牽制の役割を担っているのだろう。解放軍の主力を南に引き付け、その間に北から来る共和連合軍主力部隊が解放軍領土に突入する為に。

 

 そこまでは、シェムハザにも判っていた。

 

 ではなぜ、敢えて敵の策に乗って主力部隊を南へと振り向けたのか?

 

 そこには、攻め寄せてきた共和連合軍を一網打尽にするために、シェムハザが張り巡らせた壮大な罠が隠されていた。

 

 その為の布石は全て打ち終えている。あとは共和連合の間抜け共が、そうとは知らずにノコノコとやって来るのを待つだけだった。

 

「さあ、来るが良い。貴様等に本物の戦略とはいかなるものか、たっぷりと教育してやる」

 

 そう呟くとシェムハザは、凄味のある笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 何とも、まどろっこしいやり方に思えてならない。

 

 ディアッカは進軍するザフト軍の中にあって、人知れず嘆息しながらそのように考えていた。

 

 ハウエル司令部は、バードレス・ラインを事実上陥落させたのち、各地に散っていた部隊を集結させたのち、改めて何かを開始すると言う方策を打ち立てていた。

 

 その為、散開した部隊が再集結するのに2日、更に部隊を再編するのに1日の時間を費やしてしまっている。

 

 先行偵察機からの報告によれば、既にバードレス・ラインを放棄した北米解放軍は、オーガスタ近郊で再集結を終え、こちらを迎え撃つ体勢にあると言う。自分達はまんまと、敵に息を吐く時間を与えてしまったのだ。

 

 共和連合軍は、再集結などと言う悠長な事を考えず要塞突破の勢いに任せて、波状攻撃的に一気に攻め立てるべきだった。そうすれば、敗走中の敵を追い打つ理想的な追撃戦ができたのに。

 

 しかし、ディアッカ自身がそれを主張しようにも、孤立気味のハウエル司令部の中にあっては、意見が通る可能性はマイナス以下でしかない。事実、これまでも幾度かディアッカが意見を言った事はあったのだが、全て却下され続けてきた。

 

 人知れず、ため息を吐く。

 

 これまでディアッカはザフトの軍人である事に誇りを持ち、そして軍人と言う職業に面白みを感じて過ごして来た。

 

 しかし、それもままならなくなりつつある現実に、どうやら直面しているらしかった。

 

「さあ、進め、ザフトの勇敢なる戦士たちよ!! 我等が栄光を、後々の世代にまで刻み付ける為に、その軍靴を鳴らすのだ!!」

 

 司令席に座ったデニス・ハウエルが、高揚した面持ちで兵士達を鼓舞している。

 

 いい気な物だ、とディアッカは冷めた目でハウエルを見やる。

 

 確かに、これだけの大兵力を動員したハウエルの手腕は、非凡ではあるだろう。しかしディアッカに言わせれば、大軍を指揮する人間なら、この程度の事はできて当たり前の事である。

 

 バードレス・ラインより南の拠点情報は、殆ど無いのが現状である。そのような状況にあって、ここから先にどうやって攻め込むのか、具体的には殆ど決まっていないに等しい。更に、ここに来るまで共和連合軍の備蓄物資は大半を消耗している。これ以上南へ攻め込むなら、せめて補給線を確保する必要性があった。

 

 しかし、ハウエルはそこら辺の事を聊かも考慮していないように思える。そう言った細々とした事は、誰かほかの奴がやってくれるだろう、くらいにしか思っていないようだ。

 

 ハウエルのみならず、彼の子飼いの幕僚達についても同様である。

 

 情報処理や補給確保と言う仕事は、作戦立案や部隊運用など「花形」の仕事に比べれば、いかにも地味で「裏方」的な意味合いが強い。手柄を求める者や、華々しい武勲を求める者ほど、やりたがらない傾向にある。

 

 しかし軍隊の運用において、もっとも重要なのは実はその2つである。

 

 補給が無ければ戦艦もモビルスーツも動けないし、敵がどこにいるのか判らなければ、戦う事はできない。

 

 しかし、この場でその事を理解している人間は実質、ディアッカ1人と言って良かった。

 

 実のところ、長く軍務を担ってきたクライン派軍人多数を粛清、放逐してしまった事で、ザフト軍全体の技量は、数年前と比べて大幅に低下していると言って良かった。

 

 クライン派が持っている部隊運用や作戦立案のノウハウなど全て、グルック派軍人は碌な引継ぎをしていない状態である。これでは、実際の戦闘になった場合、どんな弊害が出るのか見当も付かなかった。

 

 その時、

 

「オーブ軍、戦艦大和、接近します!!」

 

 オペレーターからの報告に、ハウエル以下の幕僚達は訝るように顔を上げた。

 

「何の事だ? なぜオーブの戦艦がこのような場所にいる?」

「いえ、隊長。ジュノー基地に駐留していたので、作戦参加要請を出していた筈です。アトランタ要塞を陥落させたのも、あのオーブ戦艦です」

 

 幕僚からの説明を受けてハウエルは、ようやく思い出したように頷きながら苦い表情を作った。

 

 アトランタ基地はバードレス・ラインの中で最も早く陥落した解放軍拠点である。つまり、そう言う意味では大和以下のオーブ軍部隊の戦闘力は、今回参加した共和連合軍部隊の中で随一であると言っても過言ではない。

 

 グルック政権の元、「強いプラント」「強いザフト」を目指して軍備増強を目指してきたグルック派ザフト軍人にとって、「格下」と思っている同盟軍に負ける事など、耐え難い屈辱であるらしい。

 

 その感情を隠そうともせず、ハウエルは吐き捨てるように命令を伝えた。

 

「連中には、後方で待機するように伝えろ!!」

「ハッ」

 

 何とも露骨な兵力配置である。ハウエルは目障りな大和を後方待機させ、戦線へ加えないつもりなのだ。

 

 見かねたディアッカは、若干躊躇いながらも、声を掛けてみる事にした。

 

「隊長、連中の戦力は強大です。ここは前線に出して活用した方が良いんじゃないですかね?」

 

 ディアッカはそう言いながらも、内心では恐らく無駄だろうと考えていた。

 

 ハウエルが自分の意見を採用する事などあり得ないし、何より自軍の優位を信じているハウエルが、大和の直接参戦を認める公算は限りなく低かった。

 

 案の定と言うべきか、提案したディアッカに対して、ハウエルは不審人物を見るような目を向けて口を開いた。

 

「その必要は無い。要塞を陥落させた以上、既に戦いは制したような物だ。この上が、オーブ軍の支援など不要である」

 

 言下に決めつけるように、ハウエルは言い放った。

 

 その強硬な態度に辟易しつつも、ディアッカは尚も抗弁を試みた。

 

「味方の損害を僅かでも減らす事も重要だと思いますが?」

 

 戦場では何があるか判らない。故に切り札は多いに越した事は無い。いざと言う時の為に、大和とその艦載機はすぐに参戦できる場所に待機させておいた方が良いのでは、とディアッカは言っているのだ。

 

 しかし、そのニュアンスはハウエルには伝わらなかったらしい。ディアッカの言葉を聞くと、明らかに不機嫌そうな表情を作った。

 

「我が軍が損害を被る事などあり得んよ。敵は既に壊滅状態だ。残っているのも敗残の連中ばかり。これでは精強なる我が軍を押しとどめる事などできはしないだろうさ」

 

 自信満々にハウエルは言い放つ。どうやら完全に、解放軍との戦闘は終わったものと考えている節すらあった。

 

 見れば、他の幕僚達も、侮蔑に満ちた表情でディアッカを見ている。

 

 「お飾りの参謀長の癖に」「役立たずは黙ってろよ」「無能者が」

 

 そんなニュアンスが含まれているのは確実だった。

 

「とにかく、君の意見は却下する。我が軍は現隊形を維持したまま進撃を続行する」

 

 断を下すように言うと、ハウエルはそれ以上、ディアッカへ興味を失ったように視線を外す。

 

 対してディアッカは、結局徒労に終わった意見具申に嘆息するしかなかった。

 

 

 

 

 

 指定されたとおり、大和を隊形の最後列に着けると、シュウジはエンジンの出力を落として微速で高度を維持するように指示を出した。

 

 ザフト軍の自分達に対する扱いには露骨な物を感じている。しかし、その根底にある考えはディアッカとは異なっていた。

 

 元々、ザフト軍からの要請に従って参戦した今回の作戦だが、実際の話、勝ってもオーブには何の得も無い。せいぜい、北米解放軍が将来的にオーブに進出する可能性の芽をつぶしておける、と言う程度の物である。

 

 ならば、無駄な戦いを避けられれば、人も機体も損耗を避けられる、と言う訳である。

 

「良いんですかね?」

 

 傍らに立つミシェルが、面白くなさそうに言った。

 

 パイロットである彼にとって、出番が無いと言う事は退屈極まりない事である。ましてか、友軍が戦っている現状で自分達が待機を命じられるのはあまりにも面白くなかった。

 

 対して、シュウジは肩を竦めて見せた。

 

「我々が望む戦場はここではない。避けられる損害なら、避けるに越した事は無いだろう」

 

 既にアトランタを攻略すると言う、当初の作戦要請は達したのだ。ならばオーブ軍として、同盟軍への義理は果たしたと言える。

 

 シュウジとしては、これ以上の損害は極力抑える方針だった。ザフト軍が、自分達を必要無い存在だと言うなら、それは幸いな事である。こちらはせいぜい、戦力の温存に努めるだけだった。

 

「ま、その考えには賛成ですがね。俺達が頑張って命張って、得をするのがザフトの連中じゃ、完全にくたびれ儲けだ」

 

 そう言って大きく体を伸ばすミシェルを、シュウジはフッと笑って見やる。

 

 彼の父親で、現在はオーブ軍最高顧問の地位にあるムウ・ラ・フラガ大将も、あまり上下関係に捉われないフランクな性格である事で有名だが、その気質は確実に息子のミシェルに受け継がれているようだった。

 

「戦場では何が起こるか判らん。最後まで気を抜かないように頼む」

「了解です」

 

 崩れた調子で敬礼すると、ミシェルは艦橋を出て行く。

 

 戦況は共和連合軍が有利に進んでいるが、万が一の可能性としてザフト軍が敗れる可能性も考えられる。

 

 それに、

 

 シュウジには一つ、気になっている事があった。

 

 大和がアトランタを攻略してから、共和連合軍は破竹の勢いで進撃をつづけている。その事自体は喜ばしい事である。

 

 しかしシュウジの目にはどうにも、事態が順調に進み過ぎているように思えるのだ。

 

 今まで数年に渡って強固に共和連合軍の進撃を阻んできたバードレス・ラインが、これまでにない規模での攻勢を受けたとは言え、あっさりと陥落し、尚且つ、解放軍の部隊は尚も後退を続けている。

 

 事態が、あまりにも上手く運びすぎているのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・考えすぎか」

 

 自分の中に浮かんだ考えを、シュウジは頭を振って否定する。

 

 自軍が有利なのは、それだけで喜ばしい事である。他に特に考える必要も無いだろう。

 

 間もなくザフト宇宙軍の降下揚陸作戦も開始される事になる。それが成れば、敵は地上と宇宙から挟撃されて更なる後退を余儀なくされるだろう。

 

 そうなれば最早、勝ったも同然だった。

 

 

 

 

 

 その頃、フロリダ半島上空に展開したザフト軍宇宙艦隊が、大気圏上層部へと接近して、次々と艦底部に備えた降下揚陸ポットを切り離していく。

 

 ザフト軍が伝統としている降下揚陸作戦のパターンは、ヤキン・ドゥーエ戦役の頃から特に変化は無い。

 

 地上部隊が攻勢を掛け、その間に降下部隊が上方を占位して攻撃を仕掛ける。

 

 これまで、多くの戦いをザフト軍は、この戦法を用いる事で制してきたのだ。まさに必勝のパターンであると言える。

 

 大気圏を突破したザフト軍の降下ポッドが一斉に弾け、内部からモビルスーツ部隊が射出される。

 

 雲を抜けた先、眼下に広がるのは北米の大地。北米解放軍の拠点があるフロリダ半島である。

 

 ここを制圧すれば、共和連合軍の勝利は動かない。

 

 現在、北米解放軍の主力は北と南に散開して、フロリダ半島周辺は手薄になっている。今なら確実にここを叩く事ができるはずだ。

 

 誰もがそう思っていた。

 

 やがて、地上が近付いて来る。

 

 視界一杯に大地が広がり、全てを包み込むように迫ってくる。

 

 次の瞬間、

 

 ザフト兵士達の視界は、突如出現した強烈な閃光によって満たされた。

 

 一体何が!?

 

 その質問を発する事もできず、閃光は網膜を破壊し、周囲を高温にして包み込んで行く。

 

 やがて、新たなる閃光が吹き上がる。

 

 その閃光が、自分の機体が爆発した事によって起こった事も理解できないまま、パイロット達は一気に焼き尽くされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対空掃射砲ニーベルング。

 

 ユニウス戦役時、地球連合軍が実戦投入した対空型の大量破壊兵器である。

 

 ヘブンズベース攻防戦の際に威力を発揮し、その際にはたった1基のニーベルングが、ザフト軍の降下揚陸部隊を全滅させている。

 

 そのニーベルングを、北米解放軍は各拠点に1基ずつ、合計で20基も配備していたのだ。その一斉掃射を前にしては、如何なる抵抗も無意味だった。

 

 降下揚陸部隊全滅。

 

 もし、ヘブンズベースでの戦いに参加した経験豊富なザフト兵がハウエル司令部にいたら、無茶な降下揚陸作戦の実行に対して警鐘を鳴らした事だろう。

 

 しかし、クライン派軍人の大粛清によって多くの人材が軍を去った中、新たにトップに就任したグルック派軍人では、そのような過去の戦訓をつぶさに分析している者は皆無と言って良かった。

 

 その結果が、降下揚陸部隊全滅と言う無残な結果へとつながっていた。

 

 ニーベルングによる強烈な掃射軌跡は、離れた場所に布陣しているザフト軍本隊からも確認できた。

 

 同時に、揚陸部隊のシグナルが途絶した事も伝えられる。

 

 その報告に、ハウエル以下の司令部幕僚は思考停止し、誰もが呆然自失状態に陥っていた。皆、一様に目を見開き、視界の彼方で暴虐の限りを尽くす閃光を見詰めている。

 

 自分達が必勝の作戦と信じていた揚陸作戦が、一瞬にして瓦解したのだか。信じられない無理も無い話である。

 

 しかし、現実に今、あの閃光の中では彼等の戦友たちが断末魔の悲鳴を上げて消滅して言ってるのだ。

 

 ハウエル達の動揺は、前線部隊にも波及する。

 

 司令部が思考停止状態に陥った為、前線部隊は次の行動をどうすれば良いのか判らず、身動きが取れなくなってしまったのだ。

 

 そこへ、容赦なく襲い掛かる者達が現れた。

 

 突然、撃ちかけられた無数の砲撃によって、次々とザフト機が撃破されていく。

 

 疾風の如く駆け抜けた機影が、手にした対艦刀やビームガンでザフト機を鮮やかに屠る。

 

 黄色の装甲を持つレイダー級機動兵器。

 

 ゲルプレイダーはザフト軍部隊の間を駆け抜けると同時に、クルリと反転して人型へ変形。両腕のビームガンと肩のビームキャノンを展開して撃ち放つ。

 

「敵を追い落とすチャンスだッ 一気に攻勢を仕掛けろ!!」

 

 ゲルプレイダーを駆りながら、オーギュスト・ヴィランは味方を鼓舞するように声を上げる。

 

 同時に、両手にはシュベルトゲベール対艦刀を装備、向かってくるゲルググを一刀のもとに斬り捨て、更に返す刀でグフ1機を胴切りにする。

 

 そんなゲルプレイダーに続くように、次々と機体が飛来し、ザフト軍機に砲火を浴びせていく。

 

 その数は、ゆうに数百機にも上る。

 

 それは正に、北米解放軍の主力部隊に他ならなかった。

 

「馬鹿なッ 連中の主力は南に行ったんじゃなかったのか!?」

 

 指揮官の1人が、呆然とした表情で呟きを漏らす。

 

 次の瞬間には、指揮官もゲルプレイダーの放ったミョルニルを直撃され、機体を粉々に粉砕されてしまった。

 

 北米解放軍の主力部隊は、南方のカリブ海に展開した南米軍と対峙している。そのような前提で臨んだのが、今回の作戦である。

 

 しかし現実に、解放軍の主力部隊は目の前にいて、次々とザフト軍の機体に攻撃を仕掛けていた。

 

 シェムハザの作戦は完璧だった。

 

 そもそも、北米解放軍の主力が南に向かった事自体が、目的を隠匿する為の欺瞞だったのだ。

 

 あくまでも主目標は北から来る共和連合軍の主力部隊であり、南米軍くらいなら、多少暴れたところで大した痛痒にはならないと考えたのだ。

 

 フロリダの基地を進発した解放軍主力部隊は、いったん南に行くと見せかけて進路を大きく迂回し、進撃する共和連合軍の側面を突ける位置で待機していたのだ。

 

 そしてニーベルング砲台群がザフト軍の降下揚陸部隊を撃破したのを合図に、一斉攻撃を開始したのである。

 

 バードレス・ラインが陥落したのも最初から計算の内であった。

 

 そこに強大な要塞があり、一定以上の戦力が駐留していると判っていれば、誰だって最優先で攻略しようとするだろう。しかし、共和連合軍が攻略を開始した時点で、既に要塞内には最低限の人員と侵害を務める防空部隊を除いて、全要員の退避が完了していたのだ。唯一、大和が迅速に侵攻したアトランタ要塞のみが、退避が間に合わず犠牲になった形である。

 

 つまりシェムハザは初めから、自慢の要塞をカムフラージュに利用して、共和連合軍を自分達のテリトリーに引きずり込む作戦を考えていたのだ。

 

 そして今や、その作戦は完全に成功したと言っても過言ではなかった。

 

 頼みの揚陸部隊が全滅された上に解放軍の主力部隊までもが現れた為、共和連合軍、特にその主力となるザフト軍の士気は地の底にまで落ちてしまっていた。

 

 更なる攻撃を行い、戦火を拡大する北米解放軍。

 

 その先頭には、ジーナ・エイフラムの駆るヴェールフォビドゥンも有り、その火力を駆使してザフト軍機複数を同時に撃破している。

 

 接近すれば巨大な大鎌が振り回され、容赦なく斬り捨てられる。さりとて離れれば、軌道が変化する砲撃によって絡め取られ、成す術も無くやられてしまう。

 

 動揺を来したザフト軍に、ジーナの間の手から逃れるすべはない。

 

 先程まで、意気揚々と進撃していた大軍の威容は完全に失われている。今や攻守は完全に逆転し、北米解放軍の大部隊がザフト軍を駆逐し始めていた。

 

 更なる攻勢を強めようとする北米解放軍。

 

 しかし、その攻勢の前に、蒼翼を羽ばたかせて飛来した機体が立ちはだかった。

 

 F装備で出撃したセレスティ。同時にフルバースト射撃を仕掛け、意気揚々とザフト軍に攻撃を仕掛けている解放軍機複数を、同時に撃墜する。

 

 その、セレスティのコックピットの中で、ヒカルは苦い思いを隠せなかった。

 

「俺達をのけ者にした結果がこれかよ!!」

 

 複数のモビルスーツが同時に弾ける。

 

 初手からフルバースト射撃を叩き付けながら、ヒカルは醜態をさらすザフト軍に文句を叩き付ける。

 

 吹き飛ばされるウィンダムの部隊の間を駆け抜けながら、セレスティはビームライフルを斉射。飛行形態で接近を図ろうとしていたレーダのコックピットを撃ち抜いて撃墜する。

 

 降下揚陸部隊の壊滅と解放軍主力部隊の到着により、共和連合軍の戦線崩壊が確定的となった時点で、シュウジはハウエル司令部の指示を待たずに独断で戦線に介入する事を決定、ヒカル達に発進を命じたのだ。

 

 ザフト軍の陣形は散々に乱れ、軍団としての体を成していない。最早、完全に邪魔者と言って良かった。

 

 その様子に、ヒカルは舌打ちする。

 

 こんな事なら、アトランタを陥落させた時点でさっさと自分達を先に行かせればよかったのだ。そうすれば、解放軍も再編成する余裕が無かったのに。

 

 グロリアス放たれる攻撃をシールドで弾きながら後退、同時にヒカルはセレスティ腰部のレールガンを展開して発射。砲弾は、自身を攻撃したグロリアスを直撃して吹き飛ばす。

 

 既にカノン達のリアディスや、イザヨイなど、大和に搭載されている他の艦載機も発艦し、ザフト軍の援護を行っている。

 

 しかし、尚も混乱状態にあるザフト軍は、交戦どころか撤退もままならない状態である。いかにヒカル達が奮戦しようと、彼等を守って戦うのは容易な事ではない。

 

 それでも、どうにかザフト軍が体勢を立て直すまで、戦線を維持する必要があるだろう。

 

 更に敵軍に攻撃を仕掛けようと、セレスティを駆って前に出るヒカル。

 

 しかし次の瞬間、鋭い砲撃が放たれ、進路を遮られた。

 

「あれは!?」

 

 とっさに翼を翻してセレスティを急停止させ、振り仰ぐヒカル。

 

 そこには、ビームガンとビームキャノンを構えて接近してくる、ゲルプレイダーの姿があった。

 

「見つけたぞ、《羽根付き》!! 今日こそ貴様の首を取る!!」

 

 言い放ちながら、ミョルニルを放ってくる。

 

 飛んでくる2つの鉄球を回避するヒカル。同時にスロットルを開いて急加速。接近と同時にセレスティは腰からビームサーベルを抜き放つ。

 

「黄色いレイダーッ この前の奴か!!」

 

 相手は先のデンヴァー攻防戦で交戦したゲルプレイダーであると瞬時に見抜いたヒカル。

 

 セレスティはスラスターを吹かしながら、ゲルプレイダーとの距離を詰めに掛かる。

 

 接近と同時に、セレスティの剣が横薙ぎにゲルプレイダーに斬り掛かる。

 

 しかしそれよりも一瞬早く、オーギュストは機体をモビルアーマー形態に変形させ、スラスターを全開にして回避。上空に占位すると同時にセレスティに対してビームキャノンによる一斉攻撃を仕掛ける。

 

「喰らえ!!」

 

 放たれるレイダーからの攻撃。

 

 対してヒカルは、舌打ちしながらセレスティを後退させて回避する。

 

「そうこなくてはなッ」

 

 オーギュストは、自分の攻撃を回避したセレスティを見てニヤリと笑う。この程度でどうにかなるような相手では、自分が今まで苦戦してきた甲斐が無い。せいぜい頑張ってもらわない事には。

 

 2本のシュベルトゲベールを抜き放つオーギュスト。

 

 対抗するようにヒカルも、シールドとサーベルを構え直す。

 

 接近と同時に互いの刃が風を斬って振るわれ、斬撃の軌跡が縦横に交錯する。

 

 ヒカルとオーギュストは、互いの剣を振り翳しながら、尚も混迷する砲火を避けるように激突を繰り返していた。

 

 

 

 

 

 一方、リィス、ミシェル、カノンの駆るリアディス3機は、大和に向かおうとするヴェールフォビドゥンを発見すると、その進路を塞ぐようにして立ち塞がる。

 

 青、赤、緑。それぞれの胸部装甲を持つリアディスは、フォーメーションを組みながら、手にしたライフルを構える。

 

「こいつを大和に近付けちゃダメよ。ミシェル、カノン!!」

《おう!!》

《判った!!》

 

 3人は同時にライフルを放ち、鋭い火線をヴェールフォビドゥンに集中させる。

 

 しかし、

 

「無駄!!」

 

 3機を相手取るジーナは、ゲシュマイディッヒパンツァーを展開、真っ向から閃光を迎え撃つ。

 

 その結果、放たれたビームは全て、ヴェールフォビドゥンに命中する前に明後日の方向へと逸らされる。

 

 ミラージュコロイドの偏向システムを前に、殆どのビーム攻撃は無力と化す。ビーム兵器全盛の昨今においては、誠に有効な武器であると言えた。

 

「なら、これで!!」

 

 言い放つと、カノンはリアディス・ドライを駆って地上を疾走。射程に入ると同時にミサイルを一斉発射した。

 

 放物線を描いて迫るミサイル群。

 

 しかし、その全てが、ヴェールフォビドゥンを捉える事無くすり抜ける。

 

「嘘っ!?」

 

 驚くカノン。

 

 同時に、カノンの目の前にいた筈のヴェールフォビドゥンは、蜃気楼のように消えてしまう。

 

 彼女が本物と思っていたのは、ジーナが作り出したフォビドゥンの虚像だったのだ。

 

 その間に、大鎌を振り上げたヴェールフォビドゥンが、視覚を攪乱してリアディス・ドライの前へと躍り出た。

 

「死になさいッ!!」

 

 振り下ろされる大鎌。

 

 カノンは回避しようと機体を後退させようとするが、もはや間に合わない。

 

 ミシェルとリィスが目を剥くが、2人が援護する暇も無い。

 

 次の瞬間、

 

《やめろォ!!》

 

 上空から駆け下りてきたセレスティが、手にしたビームサーベルを一閃し、ヴェールフォビドゥンに斬り掛かった。

 

 ゲルプレイダーと激しい空中戦を繰り広げていたヒカルだったが、カノンの危機を察知して駆け付けたのだ。

 

 これには、流石のジーナも迎撃が追いつかなかった。

 

 セレスティが振り下ろした剣を後退する事で回避する。

 

「チィッ あと少しだってのに!!」

 

 舌打ちしながらフレスベルク誘導砲を発射。追撃を掛けようとビームサーベルを構えるセレスティを牽制する。

 

 対してヒカルは、屈曲するビームを前に苦戦し、距離を取って回避するしかない。

 

 その一瞬の隙を突き、上空からゲルプレイダーが迫る。

 

「まさか、この俺を無視するとはなッ その代償は大きいぞ!!」

 

 シュベルトゲベール2本を構え、背後からセレスティに斬り掛かろうとするオーギュスト。

 

 しかし、その前にビームライフルを構えたリアディス・アインが立ち塞がった。

 

「弟の背中くらい守ってやらないと、姉の立つ瀬が無いでしょ!!」

 

 冗談めかすように言いながら、ゲルプレイダーの動きを牽制するリィス。

 

 同時に、今度はムラマサ対艦刀を構えたリアディス・ツヴァイがゲルプレイダーに斬り掛かる。

 

「かせぐ時間が決められていないってのはきついが、それでもやるしかないか!!」

 

 旋回して斬り掛かるミシェルの攻撃に、さしものオーギュストもセレスティへの攻撃を断念せざるを得ない。

 

 後退するゲルプレイダーを追って、更に斬り込むミシェル。

 

 目を転じれば、セレスティとリアディス・ドライがヴェールフォビドゥン相手に奮戦しているのが見える。

 

 カノンが援護してヒカルが斬り込むと言うフォーメーションで戦う2人は、徐々にではあるがヴェールフォビドゥンを追い詰めつつある。

 

 行けるかもしれない。

 

 指揮官2人を拘束された事で、解放軍は動きを鈍らせている。このまま行けば、撤退の時間を稼ぐのも不可能ではないかもしれない。

 

 誰もが希望を抱き始めた。

 

 その時、

 

 突如、降り注いだ無数の閃光が上空より降り注ぐように放たれ、複数の機体が撃ち抜かれて爆砕する。

 

「なッ!?」

 

 その場にいた誰もが、絶句して動きを止める。

 

 敵も、

 

 味方も、

 

 誰もが上空を見上げて息を止める中、

 

「あ・・・・・・あれは・・・・・・」

 

 呟きを漏らすヒカル。

 

 その視線の先には、

 

 深紅に染まる炎の翼を広げた、堕天使の如き美しさを持った機体がある。

 

「そんな・・・・・・まさか・・・・・・」

 

 そんなヒカル達を見下ろしながら、

 

「何で・・・・・・何で、お前がここにいるんだよ、レミル!!」

 

 スパイラルデスティニーは、ゆっくりと戦場へ舞い降りた。

 

 

 

 

 

PHASE-15「緋の刃、穿つ戦場」      終わり

 


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