機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-14「蒼穹の射手」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ローターが巻き上げる砂塵が盛大に視界を塞ぐ中、1機のVTOL機が舞い降りてくる。

 

 かつては主力機動兵器の座に君臨していた航空機は、モビルスーツが主流化した現在、一線では殆ど使われなくなったが、輸送用の機体などは積載量や信頼度には定評があり、今でも後方の輸送部隊や要人の移動用に使われる事が多い。

 

 オーギュストやジーナを始め、整然と並んだ北米解放軍の幹部達が厳粛に見守る中、開かれたハッチからやや初老と思われる男性が降り立ってきた。

 

 ブリストー・シェムハザ将軍。

 

 大西洋連邦時代は地球連合軍の高官を務め、常に最前線で戦い続けた武闘派であり、北米解放軍の指導者として、開戦から一貫して同組織を指揮してきた人物である。

 

 顔の彫りの深さと、頭髪を覆う白髪が、男が歩んできた過酷な半生を物語っているようである。年齢に比して、引き締まった印象がある体躯は健康そのものと言った感じの印象である。

 

 老いてなお衰える事を知らない存在感は、ある種の凄味と威厳、そしていような不気味さとを兼ね備えているのが分かる。

 

「お待ちしておりました、閣下!!」

 

 VTOLから降りてきたシェムハザに向かって、一部の隙もない敬礼をするオーギュスト。

 

 それに倣い、ジーナ以下、居並ぶ兵士達も自分達の偉大な指導者に対して敬礼を行う。

 

 反政府組織と言えば所謂「民兵」によるゲリラ的な存在を連想してしまうが、北米解放軍に限って言えば、その限りではない。それは目の前の統率された行動が何より証明していた。

 

 その整然とした光景は、いかにも精強な軍隊を連想させる。どこかで、旧世紀の交響楽団が奏でる重厚な音程が聞こえて来そうな雰囲気すらあった。

 

「うむ、ご苦労」

 

 シェムハザが、一同を見回して重々しく頷く。

 

 ただそれだけで、空気の質量が増したような緊張感が場を支配する。

 

 己の目指す信念を決して曲げない、巌の如き存在。それこそが、強大な共和連合軍を相手にしながら、北米解放軍と言う一大組織を率いてこれた最大の要員でもある。

 

 オーギュスト自らが案内役を務め、シェムハザを執務室へと案内すると、早速とばかりにシェムハザの方から声を掛けてきた。

 

「話には聞いているぞ」

 

 執務室のソファに腰掛けたシェムハザは、傍らに立つオーギュストを睨みつけるようにして話し始めた。

 

 ただそれだけで、オーギュストは背中に冷や汗を浮かぶのを押さえられなかった。

 

 北米解放軍において、シェムハザの存在は神をも上回っている。それは崇拝の対象のみならず、恐怖の面においても同様である。

 

 シェムハザが何らかの理由でオーギュストを見限れば、その瞬間、オーギュストの人生には幕が下ろされる事になる。

 

 これまで、シェムハザの意向に逆らった幾人ものメンバーが粛清の憂き目に遭っている。オーギュストが生き残って来れたのは、自身が常にシェムハザの信頼を勝ち得るだけの成果を上げて来たからに他ならない。これがもし万が一、オーギュストが自身の部下として不適格であるとシェムハザが考えれば、オーギュストは即座に処刑場行きになる事は疑いなかった。

 

 力による恐怖もまた、巨大組織を束ねる上で重要な要素である。

 

 そんなオーギュストの内心など知らぬげに、シェムハザは話を続ける。

 

「たかが1隻の戦艦に苦戦し続けるとは、貴様らしくも無い醜態だな」

「は、申し訳ありません。閣下の御顔に泥を塗るが如き振る舞い。万死を持ってしても償えぬものと心得ます」

 

 そう言って、ただ平伏するオーギュスト。

 

 まるで王と従者の如き光景だが、この北米解放軍においては、これが当たり前の光景である。

 

 絶対者であるシェムハザは至高の上にこそある。他の者は、ただそれに従えば良い。

 

 その事が徹底しているのである。

 

「・・・・・・・・・・・・まあ良い」

 

 暫くした後、シェムハザは鷹揚な調子でオーギュストに許しを出した。

 

「苦戦したとは言え、一定の戦果を挙げたのは事実。それを鑑みれば、貴様の作戦にも意義があったと言えよう」

「ありがとうございます」

 

 内心の冷や汗を拭いつつ、喜色を浮かべて顔を上げるオーギュスト。どうやら、自分の首が皮一枚の所で繋がった事は自覚できた。

 

 しかし、シェムハザの方でも釘を刺してくるのを忘れなかった。

 

「ただし、次は無いと心得よ」

「・・・・・・ハッ」

 

 再び平伏するオーギュスト。

 

 暗に「代わりは幾らでもいる」とほのめかすシェムハザに、オーギュストは生きた心地がしなかった。

 

 一連のやり取りを終えると、シェムハザはオーギュストを着席させて本題に入った。

 

 ここ数カ月の間、シェムハザはユーラシアの方へ足を運んでいたのだが、それが急に帰国したのには理由があった。

 

「共和連合軍が、我が軍に対して大規模な軍事行動を起こす事を画策しておる」

「・・・・・・何ですって?」

 

 シェムハザの言葉に、オーギュストも緊張が増したのを感じた。

 

 これまでも何度か、ザフト軍主導で共和連合が解放軍の支配地域に侵攻を掛けてきたことがあったが、その全てを撃退する事に成功している。

 

 今回も、それらの延長にあるのか? それとも何がしかの切り札を用意しての事かは、今のところ判別とはしないが。

 

「国際テロネットワークの方から連絡を寄こしよった。連中のキャッチした事ならば、恐らく間違いではあるまい」

 

 言いながらも、シェムハザが僅かに顔を歪めたのを、オーギュストは横目で見ていた。

 

 世界中のテロ組織を支援する国際テロネットワークの存在は、CE以前の旧世紀から確認されているが、現代の彼等も北米解放軍を始め、多くの組織を支援している。

 

 現状、彼等の存在があってこそ、共和連合軍に対抗し得ているという状況が、シェムハザには苦々しい物として映っているのだろう。

 

 しかし、今回のように敵の情報を逐一もたらしてくれる事を考えれば、決して存在を軽視できる物ではなかった。

 

「来ると言うのなら是非もありません。全力で迎え撃つのみです」

「無論だ。今の我が軍は戦力的に充実している。たとえ共和連合軍全軍が相手であったとしても、勝利は容易かろう」

 

 シェムハザの言葉は、決して誇張ではない。現に北米解放軍は近年になって増強の一途をたどり、大規模な会戦においては、その殆どに勝利している。彼等の自信は実績によって見事に裏打ちされているのだ。

 

「北米大陸の解放は、我らに課せられた使命であり義務だ。その道を妨げようとする者は、たとえ誰であろうと許されない」

「その通りでございます」

 

 厳かなシェムハザの言葉に、オーギュストは恭しく頭を下げて答える。

 

 絶対君主と、それに忠誠を捧げる家臣団。それこそが、北米解放軍の在り方であると言える。上意下達と言う形はある意味、組織の運営上、最も望ましい物であるとも言える。

 

 そんな彼等にとって、北米解放とはまさに、悲願以外の何物でもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 補給と整備、そして若干の休息を置いた後、戦艦大和は再び征途へと着いていた。

 

 しかし、その戦う相手は、またも北米解放軍であると言う事実に、クルー達の間には戸惑いを覚える者も少なくなかった。

 

 自分達の目的はあくまでも、ハワイを襲った北米統一戦線であると言う認識を持っているものが大半である。そんな中にあって、幾度にも渡る遠回りには、辟易させられる者も出始めていた。

 

 とは言え、軍人である以上、多少の不満は押し殺して命令に従わなくてはならない。

 

 現状、大和の艦載機戦力は、セレスティ、リアディス・アイン、ツヴァイ、ドライ、イザヨイ8機の、合計12機。部隊としての戦力はそれなりである。

 

 しかし、やはりそれだけで北米解放軍の支配地域に攻め込むのは、無謀を通り越して自殺行為であると言わざるを得ない。

 

 その事を鑑みて、部隊長を兼任するシュウジは、作戦はあくまで同時進撃するザフト軍、およびモントリオール政府軍と歩調を合わせる形で行うと決めていた。

 

「既に、モントリオールと、その周辺基地からは味方の部隊が出撃している。明朝を期して、北米解放軍が大陸南部に築いた要塞群に総攻撃を掛ける事になる」

 

 壇上に立ったミシェルは、そのように説明を始める。

 

 ミシェルは大和において、モビルスーツ隊副隊長の立場にある。こうしたブリーフィングにおける説明を行うのも彼の役目だった。

 

「敵はニューメキシコ、オクラホマ、ミズーリ、テネシー、ケンタッキー、ヴァージニアのラインを繋いで、《バードレス・ライン》と呼ばれる防空要塞群を形成、防衛ラインを形成している。ここが厄介な存在で、コイツを突破しない事には南部への侵攻は不可能と言われている」

「バードレス・・・・・・あ、『鳥も飛ばない』って意味か」

 

 カノンが納得したように手を打った。

 

 そのような物騒な名前の要塞を作るくらいだから、その防衛力には絶対の自信があるのだろう。事実、ザフト軍の機体が幾度となくハードレス・ライン以南の偵察に出ているが、無事に帰還し得た機体は、その中のごく一部であると言う。

 

 加えて地上に展開する部隊の事も考慮に入れなくてはならない。事実上、要塞を完全に制圧する事は不可能に近い。

 

「俺達が目指すのは、ここだ」

 

 そう言うと、ミシェルは地図上の一点を差した。ロッキー山脈の南端に近いその場所には、北米解放軍が築いた要塞の一つが存在している。

 

「敵の防衛ラインぎりぎりを突いて突破しようって言う訳ですか?」

「そう言う事。ここなら、敵が多少、多めの戦力を配備していたとしても、他の要塞との連絡が遅れるだろうからな」

 

 敵の要塞陣地の弱い部分を突いて突破。一気に敵中枢へ迫ろうと言う作戦らしい。

 

 そこで、ミシェルはヒカルの方に向き直った。

 

「尚、今回、セレスティには作戦上、重要な役割を担ってもらう事になる。よろしく頼むぞ」

「あ、ああ、判った」

 

 突然指名されて、ヒカルは面食らったように目を丸くする。

 

 ミシェルとは子供の頃からの付き合いで、よく遊んでもらった記憶があるが、そんな相手に命令を受けるのは、何だか可笑しな気分だった。

 

 そんなヒカルの気持ちを察したのだろう。ミシェルはニヤッと笑って見せる。

 

「そう緊張すんなって。今までの戦いと違って、お前を掩護する人間はたくさんいるんだ。気楽に行け、気楽に」

「そうそう。あんまり緊張しすぎるとハゲるよ、ヒカル」

「ハゲるか!!」

 

 調子に乗ったカノンがそう茶化すと、ヒカルはついムキになって反論してしまった。

 

 気心が知れた幼馴染故の反応なのだが、その反応がよほど可笑しかったのだろう。ブリーフィングルーム内の他のメンバー達からも爆笑が起こった。

 

 それに釣られるようにして、ミシェルも笑みを浮かべる。

 

 上層部の判断によって、さんざん振り回されている自分達だが、部隊としての士気は決して低くはない。これならば、作戦の方も上手く行く可能性は充分にあった。

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に聞きたいんですけど」

 

 廊下を歩きながら、リィスは自身の隣を歩く青年へと視線を向けた。

 

 戦艦のクルーとしてはふさわしくないスーツ姿の青年は、やはり軍人らしからぬ線の細い顔つきをしている。

 

 プラント政府から連絡官としてやってきたアラン・グラディスは、尋ねられた事に対して首をかしげるようにして返す。

 

「何でしょう? 僕に答えられる事なら、何でも聞いてください」

「じゃあ、ザフト軍は、今回の作戦に際して、どの程度、敵の情報を把握しているんですか?」

 

 率直に、リィスは自分が思っている疑問をぶつけてみた。

 

 リィスの質問は、これから作戦開始するに当たって当然の質問であった。北米南部へ侵攻するのは良いが、その作戦に参加する予定の大和には、ほとんど何も情報が下りてきていなかった。

 

 これでは、目隠しをされたまま戦いに赴くような物である。モビルスーツ隊の指揮官として、最低限の敵情報くらいは把握しておきたかった。

 

「まず、どの程度の敵戦力が展開していると思われるのか、お聞きしたいんですけど?」

「・・・・・・すみません」

 

 質問するリィスに対して、アランは少し申し訳なさそうに困った表情で謝った。

 

「それは、お教えできないんです」

 

 当然だが、その答えはリィスが望んだ物ではない。

 

 ムッとした表情を作ると、リィスは言い募るように更に質問を重ねた。

 

「じゃあ、要塞群より南部にある敵の拠点情報や、具体的にはどういう作戦で進めるのか、そこら辺は? それくらいは聞かせてもらわないと、こちらとしても動きようがありません」

「すいません・・・・・・」

 

 またも、アランの口から出て来たのは謝罪の言葉だった。

 

 これには、リィスも腹に据えかねる物があった。

 

「あのッ」

 

 リィスは堪らず足を止めると、口調を荒くしてアランに向き直る。

 

「は、はい?」

「機密保持の観点は理解できますけど、同盟軍の事をもっと信用しても良いんじゃないですか? 必要最低限の情報すら回してくれないんじゃ、戦う事なんてできませんッ」

 

 驚くアランに、リィスはそう言ってまくし立てる。

 

 これは最早、機密がどうとかいう話のレベルではない。こうまで何もかも教えてくれないのでは、同盟軍を信用されていないとしか考えられなかった。

 

 そもそも、今回の作戦はザフト軍の要請で参戦が決まった物である。だと言うのに、アランの態度は不誠実にも程があった。

 

 だが、

 

「違うんです」

 

 慌てたように、アランはリィスの前で手を振って見せた。

 

「お教えしないんじゃなくて、教える事ができないんです。僕は今回の作戦発動について政府の代表としてこの艦に乗艦しましたが、作戦の内容や情報については何も聞かされていないんですよ」

 

 言ってから、少し考え込んでアランは言った。

 

「・・・・・・いや、もしかすると、ザフト軍の誰も、南部の状況について正確に把握している人なんていないんじゃないかな」

「・・・・・・どういう事ですか?」

 

 取りあえず、いったん自分の中の苛立ちを引っ込めて、リィスは問い返す。どうやらアランにはアランなりの事情を抱えているらしい事を察したのだ。

 

 それに対して、アランは少し深刻さを滲ませるような口調で言った。

 

「これは、ここだけの話なのですが、どうも今回の作戦は、モントリオール政府の独走なのではないか、と言う噂があるんです」

 

 アランの説明によれば、こうだった。

 

 元々、モントリオール政府とはプラントから派遣された総督府によって運営されている。この総督直属の軍が、所謂「モントリオール政府軍」となり、北米における治安維持の中枢を担う事となる。

 

 問題なのは、この総督府が北米内部においてはある程度の独自行動も許可されていると言う事である。つまり、総督が必要であると判断すれば、独断で軍を動かす事もできるのだ。

 

「今回のように南部地域へと侵攻する作戦は、より慎重な行動が必要であると軍内でも意見が出ていたのです。ところが、最近になってモントリオール政府から作戦を行う旨が本国の方に届いたのです。それで本国の作戦本部は、その要請に従い軍を動かす許可を出しました」

「でもそれじゃあッ」

 

 声を上げかけて、リィスは途中で言葉を止めた。

 

 敵の情報が何もない状態で戦場に赴く事に危険性を、リィスはよく理解している。これでは目隠しされて戦うに等しかった。

 

 とは言え、ここでこれ以上、アランに言い募っても無駄な事は、既に分かった。彼もまた、今回の作戦については不審な点があると思っている一人なのだ。

 

 リィスはこれから始まる大規模な戦いを前にして、湧き上がる不安を押し殺す事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この男ほど、軍歴が長い人間はザフト軍にもそうはいないだろう。

 

 何しろ、初陣がヤキン・ドゥーエ戦役にまでさかのぼる訳だか。当時を知る人間は、既に大半が退役しているか戦死しているかのどちらかである。

 

 しかし今、ディアッカ・エルスマンは渋い表情で、目の前に立って自信たっぷりな人物を見詰めていた。

 

 かつてはエースパイロットとして鳴らし、数多くの紛争で活躍したディアッカは現在、北米派遣軍の参謀長としてここにいた。

 

 主な任務は、治安維持に当たる軍の統率だが、今回の南部侵攻に当たっては、司令官の補佐として同行していた。

 

「・・・・・・で、あるからして、勇敢なるザフトの兵士諸君。我々の敵、天にも逆らう事を厭わず、歴史を逆行させ、世界に悪の種を撒こうとしている北米解放軍は許されざる敵である。奴らの存在は、塵のひとかけらまで消し去らねばならず、その罪は子々孫々まで思い知らさなくてはならないッ それができるのは、諸君ら勇敢なる兵士のみであると、私は信じている!!」

 

 彼は今回の侵攻作戦における指揮官である、デニス・ハウエル隊長が得意絶頂と言った感じに演説しているのを、ディアッカは逆に冷めた瞳で見つめている。

 

 何とも、聞けば聞く程に、興が削がれる演説である。

 

 そもそも「天に逆らう~」と言うのは、昔のブルーコスモスがコーディネイター批判をする時の常套句ではないか。かつての敵が使っていた台詞を兵士達の鼓舞に使っている辺りが、ディアッカには低俗に思えるのだった。

 

 否、それ以前にディアッカ自身、今回の作戦には反対の立場を取っている人間の1人である。

 

 理由は単純。あまりにも無謀すぎるからだ。

 

 若い頃は、その有り余る活力と、若さゆえの盲目故に敵を侮る事が多かったディアッカも、年齢を重ねるにつれて、年相応の落ち着きを身に着けていた。

 

 そのディアッカの目から見ても、今回の作戦はあまりにも無謀だった。

 

 まず、敵がどの程度の戦力を有しているのか、全く分かっていない。

 

 次いで、敵の拠点の規模と場所が分かっているのは、共和連合との支配地域が隣接している要塞群まで。それより南に何があるのか、誰も分かっていない。

 

 本来なら作戦はいったん延期して、徹底した敵情偵察に努めるべきところである。

 

 しかし、今回の作戦は北米総督リチャード・カーナボンが押している作戦であり、ハウエルも強く賛同している。ディアッカ1人が反対したところでどうにもならなかった。

 

 加えて、リチャードとハウエルはグルック派。ディアッカは旧クライン派と言う立場の違いもあり、ディアッカ自身、このリチャードたちから疎まれていると言う事もある。

 

 近年、グルック派の台頭に伴い、その影響力は軍にまで影響し始めている。軒並み、粛清、追放の対象となったクライン派は殆ど孤立無援に等しく、その勢力は今や完全に少数派である。

 

 当然、北米派遣軍内部におけるディアッカの存在も軽視される傾向にあり、会議の場にあっては意見を問われる事も少ない。中には、露骨に侮蔑の表情を見せる者もいるくらいだった。

 

 ハウエル司令部はディアッカ以外の全員がグルック派で占められている。ディアッカ自身は、殆ど居場所が無いに等しい状態だった。

 

 演説を終えたハウエルが、振り返ってディアッカを見た。

 

「参謀長、準備はどうか?」

「はあ・・・まあ、全部完了していますが」

 

 やる気の欠いた調子で、ディアッカは答える。そもそもからして反対していた作戦に、自身の士気も上げようが無かった。

 

 その事はハウエルの方でもわかっているだろう。一つ、これ見よがしに鼻を鳴らすと、それ以上はディアッカを見ようともしなかった。

 

「さあ、行くぞ諸君。我らに逆らう不遜な者達に、正義の鉄槌を下そうではないか!!」

 

 得意絶頂と言った感じ宣言するハウエルの後ろで、ディアッカは密かに肩を竦める。

 

 司令官本人の士気が高いのは結構な事だが、どうにも頭の方に手足が伴っていないように思えてならない。

 

 最大限好意的な見方をすれば、昔の相棒に性格が似ていない事も無い、かも? と言うくらいの物だが、それとて「あいつ」に対して失礼なので、ディアッカは慎ましく頭の中で呟くだけにしておいた。

 

「何にしてもこいつはそろそろ、腹の括り方について真剣に考えておいた方が良いかもね」

 

 ため息交じりに呟きながら、ディアッカは得意絶頂のハウエルから視線を逸らすのだった。

 

 

 

 

 

 ザフト軍が進撃を開始した頃、大和もまた、目標作戦区域へと到達していた。

 

 既に全艦に戦闘態勢が発令し、攻撃開始の時を待っている。

 

 目の前には、解放軍が築いた大型の要塞が存在している。それを突破し、ザフト軍との合流を目指す事になる。

 

 しかし、戦力が限られている現状で、無駄な消耗は避けなくてはならない。

 

 そこでシュウジは一計を案じ、特殊な方法を用いる事で、最小限の労力で要塞の無力化を図る事にした。

 

 その為の装備は、既に完成してセレスティに搭載している。

 

 万全、とは言い難いかもしれない。

 

 連戦の疲れも出始めているし、何より北米と言う慣れない土地での長期遠征は、クルーに対する大きな負担となっている。

 

 大和のクルー達を支えているのは、偏に連戦連勝の誇りだけである。

 

 そろそろ、リフレッシュが必要な時期に来ている。今回の作戦が終了したら、一度ハワイに戻る事も検討した方が良いかもしれないとシュウジは考えていた。

 

 その為にも今回の戦い、何としても戦い抜く必要があった。

 

「モビルスーツ隊、発進せよ」

 

 厳かな命令と共に、開戦のベルが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 セレスティのコックピットに座り、ヒカルは前方に開ける視界を真っ直ぐに見据える。

 

 指はパネルのボタンを操作し、発進準備の最終シークエンスを進めていく。

 

 しかし、その瞳は快活な少年らしからず、不快に細められている。

 

 正直、自分は何をしているのだろう、と言う思いはあった。本来の敵である北米統一戦線を追わず、ただ回り道ばかりを繰り返す事に苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 

「・・・・・・何やってるんだろうな、俺は」

 

 脳裏に、レミル(レミリア)の事が浮かぶ。

 

 あいつにもう一度会って、事の真偽を確かめるためにここまで来たと言うのに、いまだにそれを成せず、ただ時を浪費しているかのような日々は、ヒカルの徒労感を否が応でも増していた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 首を振って、意識を戦いの方向へ向ける。

 

 今は戦いに集中しないと。

 

 今回のヒカルとセレスティは、作戦の要である。ヒカルの活躍如何によって、作戦の成否がかかっていると言っても過言ではなかった。

 

 レミル(レミリア)の事は、いったん頭の隅へと寄せる。とにかく、今回の作戦を成功させれば、次こそは・・・・・・

 

 シグナルが灯り、発進準備が整った。

 

 今回、セレスティは背部に大型の砲を1門装備している。バラエーナとは違い、砲身は3つに畳まれ、かなりの大型砲である事が伺える。更にツインアイにも照準補正用のバイザーが装備された。

 

 L装備と呼ばれるこれらは、今回の作戦に間に合わせる為に、大和の整備班が急ピッチで組み上げた物である。

 

 眦を上げるヒカル。

 

 今はただ、何も考えずに戦うだけだった。

 

「ヒカル・ヒビキ、セレスティ行きます!!」

 

 急激な加速感と共に、カタパルトから打ち出される。

 

 蒼穹に飛び上がると同時に、その特徴とも言える8枚の蒼翼が広がられた。

 

 

 

 

4

 

 

 

 

 

 共和連合軍動く。

 

 その報告を受け、北米解放軍各部隊は俄かに動きを活発化させていた。

 

 北からはモントリオール政府軍。並びに駐留ザフト軍が空を埋める勢いで迫り、南からは南米軍が展開し、北上の機会を虎視眈々と狙っている。

 

 その状況で、北部における各要塞群に迎撃の指令が出され、同時に司令本部のあるフロリダ半島一帯に点在する基地には警戒の為の部隊が展開している。

 

 北と南、双方を敵に囲まれている状況にあっては、さしもの北米解放軍も苦戦を免れない。

 

 そこで、オーギュスト以下司令部が迎撃案の立案を行った。

 

 まず、敵の主力となるのは、北から来るザフト軍と思われる。そこで、北部は要塞を利用した地の利で対抗し、その間に南から来る南米軍を撃破。しかるのち、全兵力を北部へと振り向けることになった。

 

 問題は迅速な兵力移動であるが、その点に関して、所有する母艦や輸送機に頼る一方、主力部隊が反転してくるまでの間、要塞駐留部隊が耐え忍んでくれることに期待するしかなかった。

 

 アトランタ。

 

 かつては北米南部の街として栄えたこの街も、武装組織エンドレスが引き起こした核攻撃で破壊され、長く廃墟として放置されていた。

 

 アパラチア山脈に隣接するような形で存在する旧アトランタ市に、北米解放軍の要塞陣地は存在した。

 

 この場所は、本拠地の存在するフロリダ半島のちょうど真北に位置している。その為、特に多くの兵力が駐屯していた。

 

 強固なべトンによって補強された地下基地の内部には、およそ200機近いモビルスーツが収容できる施設が存在している。

 

 それらが今、共和連合軍進撃の報を受けて、迎え撃つべく基地上空へと飛び上がっていた。

 

 これだけの大兵力を展開すれば、いかに兵力に勝る共和連合軍と言えど、簡単には突破できないはず。要塞の地の利を生かせば、勝利は容易い物と思われた。

 

 時間は解放軍の味方である。籠城を続け時間を稼ぐ事ができれば、南部に展開する主力部隊が援軍に駆け付けるはず。そうなれば解放軍の勝利は間違いなかった。

 

 誰もがそう思って、楽観していた。

 

 その瞬間までは。

 

 突如、閃光の如く飛来した砲弾が、上空を警戒するように飛んでいたウィンダムを直撃し、これを吹き飛ばした。

 

 吹き飛ばされ、爆炎を残して散って行くウィンダム。

 

 解放軍兵士達の間に、動揺が走る。

 

 敵が来た!?

 

 まさか!?

 

 そう思っている間にも、攻撃は続く。

 

 1機、

 

 また1機

 

 続けて1機

 

 更にまた1機

 

 誰もが呆然としている中、解放軍の機体が次々と撃破、破壊されていく。

 

《超遠距離からの攻撃だ!! 警戒しろ!!》

 

 隊長が叫んだ瞬間、

 

 その、当の隊長が操縦するグロリアスが、コックピットを正確に撃ち抜かれて撃墜した。

 

 大きくなる動揺。

 

 見えない敵への恐怖は、加速度的に解放軍部隊へと蔓延していった。

 

 その恐怖を司る者は、

 

 8枚の蒼翼を広げた状態で長大なライフルを構え、右往左往する北米解放軍をスコープ越しに睨みつけていた。

 

「第1波攻撃完了、続けて行く!!」

 

 セレスティを操るヒカルは、力強い調子で言い放った。

 

 スコープを覗く目を、しっかりと見開く。

 

 セレスティは現在、腰に砲身長15メートル以上の大型砲を構えている。更に顔のツインアイ全体を覆うように、ゴーグルのような装備が取り付けられている。こちらは視覚照準補正用である。

 

 L装備と呼ばれるこれらは、長距離狙撃用の特殊装備である。メインとなる155ミリ狙撃砲は、レールガン方式を採用する事で大気圏内に置いては、事実上450キロ超の狙撃が可能となる。射撃時の機体高度を上げれば、その距離はさらに伸びる事になる。

 

 ただし、当然それだけの極大射程では、目標は地平線の下に隠れてしまい直接照準は不可能になる。更に、ヒカルは狙撃の素養がそれほど高い訳ではない。射程距離に関してはあくまで計算上、弾丸が届く範囲である。

 

 それらの諸問題を解消する為に、ツインアイに装着したバイザー型の照準補正装置が活躍する事になる。これは形の通り、モビルスーツのカメラ機能を外付け的に補強する物であり、これによって、ある程度レベルの低いパイロットでも、安定した狙撃が可能となる訳である。

 

 トリガーを絞るヒカル。

 

 一瞬にして放たれた砲弾は大気を斬り裂いて飛翔、目標へ着弾すると同時に吹き飛ばす。

 

 一発で戦艦の主砲にも匹敵する砲弾を受けては、いかなるモビルスーツであっても耐えられる物ではない。仮にPS装甲を装備していたとしても意味はないだろう。装甲が耐えられても、レールガンの超加速を前に、内部骨格が着弾の衝撃で圧壊する事は間違いない。

 

 スコープの中では、右往左往する解放軍の様子がハッキリと映し出されている。

 

 突然、すぐ横にいた味方が撃墜されると言う事態に動揺した彼等は、ただ闇雲に動き回る事しかできない。どちらの方角から、どのような攻撃が来ているのかすら把握できないらしく、防御姿勢もバラバラである。

 

 そこへ、ヒカルは容赦なく砲撃を浴びせる。

 

 戦場においてスナイパーとは、恐怖の対象である。

 

 「得体が知れず」「姿も見えない」。この2つの要素が齎す相乗効果は、実際に目に見える被害以上に効果がある。

 

 シュウジが立案した作戦は、敵のモビルスーツをヒカルが狙撃で片付け、その間に部隊主力でもって要塞を陥落させると言う物だった。これにより、最小の労力で防衛線の突破を図るのだ。

 

 既に要塞上空に展開した解放軍の機体は、セレスティの狙撃によって大半が撃墜されている。残った敵も殆ど脅威にはならないくらい

 

 散漫になった防衛ラインを見て、ヒカルは通信機のスイッチを入れた。

 

「こちらヒカル。敵前衛部隊の排除に成功しました」

 

 その報告を受け、

 

 待機していた大和が、フルスピードで突撃を開始した。

 

 その様子に、アトランタ要塞内の司令部は大混乱に陥った。

 

「敵大型戦艦、急速接近!!」

「迎撃急げ!!」

「ダメですッ 稼働可能機体、先の攻撃で2割にまで減少ッ 代替機の発進を!!」

 

 司令本部内も浮足立ち、怒号と悲鳴が交錯する。

 

 自分達自身が建造し、無敵と信じていた要塞に、まさか敵が侵攻してくるとは思っても見なかったのだ。

 

「落ち着け!!」

 

 司令官が声を裂かんばかりに怒鳴る。

 

「この要塞は無敵だッ 今まで如何なる攻撃にも耐え、全ての敵を撃退してきたのだぞッ 共和連合軍如き何する物ぞ!! 諸君はただ、落ち着いて敵が自滅するのを待てば良い!!」

 

 そう叫ぶ司令官自身、自分の声が震えている事に気付いていない。

 

 今回は今までの敵とは何か違う。

 

 今までの敵は、大兵力を活かして力押しで攻めて来る者がほとんどだった。だから解放軍は、要塞の地形的優位を活かして勝利できたのだ。

 

 しかし今回の敵は、まず迎撃の為に上がったモビルスーツ隊を排除してから、戦艦が突撃してきた。明らかに、これまで敵が行った戦術とは一線を画している。

 

 更に、高速で突進してくる戦艦の異様にも圧倒される。

 

 あれほど巨大な戦艦は、解放軍内にもそう何隻もいるわけではない。もし、あれの攻撃が要塞の壁を破壊したら・・・・・・・・・・・・

 

「陽電子リフレクターを展開しろッ とにかく、敵の要塞内への侵攻だけは防ぐんだ!!」

 

 旧地球軍が開発し、ビームシールドの基にもなった陽電子リフレクターは、このアトランタ基地も装備している。あらゆる攻撃を防ぐ事が可能で、かつ電力も地下の大出力発電機を使用できるため。事実上無限に稼働させる事もできる。アトランタ基地が難攻不落を誇ったゆえんである。

 

「リフレクター発生装置展開ッ 照射、開始します!!」

 

 地下に格納されていたリフレクター照射装置が迫り出し、上空に向けて展開用レーザーの照射を開始する。

 

 その様子を見て、司令官は内心の冷や汗を拭うように息を吐いた。

 

「これで良い・・・・・・これで・・・・・・」

 

 これでアトランタの防衛は強固な物となった。あとは南に向かった本隊が増援として到着するまで持ちこたえる事ができれば任務は達成できる。

 

「我々の勝ちだ」

 

 ニヤリと、笑みを浮かべた。

 

 しかし、

 

 その様子を、遥か彼方から猛禽の如く見詰める瞳があった。

 

「目標確認、これより第三次攻撃を開始します!!」

 

 通信を入れると同時に、ヒカルは再びスコープを覗きこむ。

 

 同時にセレスティの腕が動く。狙撃ライフルからマガジンを排出し新たに再装填。そして脇のボルトを引いて射撃体勢を整える。

 

 今回、ヒカルに与えられた任務は二つ。一つは敵機動兵器の排除。

 

 そして、もう一つは敵要塞が展開する防御用兵器の破壊である。

 

 バイザーによって解像度が強化されたセレスティのカメラアイは、今にも陽電子リフレクターを展開しようとしている装置の姿がハッキリと映し出されていた。

 

「行けッ」

 

 トリガーを引き絞ると同時に、砲弾が電磁波に乗って放たれる。

 

 殆ど一瞬で、目標へと到達すると、リフレクター発生装置を直撃、これを破壊する。

 

 ヒカルの攻撃は、それでは終わらない。

 

 次々と狙撃を敢行し、他のリフレクター発生装置も破壊していく。

 

「発生装置、6割を喪失!! 出力低下!! リフレクター強度、維持できません!!」

 

 今回の作戦に先立ちシュウジはアランを通じて、これまでザフト軍やモントリオール政府軍が行ったアトランタ攻略作戦の報告書を取り寄せて、その詳細をつぶさに研究したのだ。その為、要塞守備側の行動は完全にシュウジの掌の内と言っても良かった。

 

 確かに多数のモビルスーツや、陽電子リフレクターの展開を許せば大和であっても、攻略は困難になる。

 

 しかし、それらが来るのを判っていれば、対処もたやすいと言う訳だ。

 

 それらの情報を統合してシュウジが立てた作戦は、「機動兵器」「リフレクター発生装置」「要塞本体」を各個撃破する作戦であった。

 

「敵大型戦艦。更に接近しますッ 司令!!」

 

 オペレーターの悲痛な声も、聞こえていないように、司令官は呆然としたままモニターの中で迫り来る大和の様子を眺めている。

 

「大丈夫・・・・・・大丈夫だ・・・・・・・・・・・・」

 

 他ならぬ自分自身に言い聞かせるように、うわ言のような呟きを漏らす司令官。

 

 この要塞は無敵だ!! 陥落する事など絶対にありえない!!

 

 そのはずだ!!

 

 司令官や解放軍の兵士が見守る中。

 

 大和は、長大な艦首に備えた巨大な砲門を要塞へと向ける。

 

「陽電子チャンバー、出力臨界!!」

「単発発射設定良し。余剰出力格納閉鎖良し!!」

「照準補正完了。誤差、0.001パーセント以内!!」

「総員、対ショック、対閃光防御完了!!」

 

 全ての準備が整い、シュウジは立ち上がると同時に、右腕を水平に振り抜いた。

 

「グロス・ローエングリン、撃てェ!!」

 

 次の瞬間、閃光が迸る。

 

 艦載砲としては世界最強の陽電子砲が、その有り余る出力をアトランタ要塞へと叩き付ける。

 

 次の瞬間、

 

 全てが崩壊した。

 

 閃光が要塞内を狂奔し、そこにあるあらゆる物を飲み込んで原子レベルへと分解していく。

 

 あらゆる防御手段を失っては、いかに強固な要塞と言えども無力だった。

 

 分厚いべトンはあっさりと崩壊し、巨大な瓦礫となって地下へとなだれ込んで行く。

 

 人も、モビルスーツも、等しく閃光やがれきに飲み込まれ、押し潰され、分解していく。

 

 その中に、司令官以下、要塞司令部の面々がいる事は言うまでもない事である。

 

 やがて、閃光が止んだ時、最前まで威容を誇っていた要塞の姿は無く、ただ無惨に黒煙を噴き上げるだけの無惨な瓦礫がそこにあるだけだった。

 

 上空にはまだ、ヒカルの狙撃から生き残った解放軍のパイロット達が滞空し、既にその役目を果たす事の無くなった自分達の要塞を、呆然とした瞳で見つめている。

 

 そこへ、突然、複数のビームが射かけられて爆発する機体が続出する。

 

 見ると、大和から発艦した艦載機部隊が、リィスのリアディス・アインを先頭に突き進んでくるのが見えた。

 

「第1小隊、わたしに続いて攻撃開始!! ミシェル君は第2小隊と第3小隊の統率!! カノンは支援砲撃宜しく!!」

《了解だ!!》

《まっかせて!!》

 

 地上を疾走するリアディス・ドライが、全砲門を開いて攻撃を開始する中、リィスのリアディスはビームライフルを振り翳してウィンダムを撃墜する。

 

 更に、ミシェルのリアディス・ツヴァイも、ムラマサ対艦刀を抜いて続く。

 

「おっしゃ、行くぜ!!」

 

 振りかざされる双剣が、逃れようとするレイダーの翼を切断して撃墜。更に次の目標へと剣を向ける。

 

 勇敢に斬り込んで行くオーブ軍の各機。

 

 それに対して、司令部と言う「頭脳」と、要塞と言う「家」を同時に失った解放軍は、あまりにも脆かった。

 

 突き崩される防衛ライン。

 

 浮足立った彼等に、勢いに乗るオーブ軍を止める手段は無かった。

 

 

 

 

5

 

 

 

 

 

 作戦を終えた大和に、次々と艦載機が戻ってくる。

 

 その中に、ヒカルのセレスティの姿もあった。

 

 機体を所定のメンテナンスベッドに固定すると、整備兵に後を託してコックピットを出る。

 

 同時に感じるめまいには、やや辟易したような仕草を見せた。

 

 今回は「狙撃」と言う、いままでやり慣れていない任務をこなしたため、掛かった疲労も半端な物ではなかった。

 

 とは言え、ここでへばっている時間は無い。

 

 ようやく敵の防衛ラインに風穴を開けたとは言え、戦いはまだ始まったばかりなのだ。

 

 とにかく、少し休もうか。

 

 そう思って足を進めた。

 

 次の瞬間。

 

「ヒっカルー!!」

「どわァ!?」

 

 突然、背後から体当たりを掛けられ、ヒカルは格納庫の床に顔面からダイビングした。

 

 グワンッ

 

 かなり景気の良い音が鳴り響き、作業班が手を止める中、背後からカノンに抱きつかれたヒカルが身動きできずに床に頭をぶつけていた。

 

「お疲れヒカル。てか、大丈夫?」

「んな訳あるか!!」

 

 怒り心頭、と言った感じでヒカルは頭を起こす。

 

 戦闘後で疲れている所に来て、姦しさ人三倍のカノンの相手までしなくてはいけないとなると、疲労は否応なく相乗効果を現してヒカルにのしかかってくる。

 

「とにかくどけッ 重い!!」

「ムッ ヒカルのくせに失礼な。あたし、そんなに重くないもん!!」

 

 そう言ってカノンは、馬乗りになったヒカルの上からどこうとしない。

 

 と、

 

「お前等、じゃれるのも大概にしとけよ。まだ作戦はこれからなんだからな」

 

 2人の様子を見ていたミシェルが、苦笑交じりに言うと、周囲の隊員達も、つられて笑みを浮かべる。何やら、じゃれ合う2匹の子犬を見守るような微笑ましい光景である。

 

「ちょ、笑ってないで誰か助けて!!」

 

 そう言って手を伸ばすヒカルだが、誰も手を差し伸べる者はいない。

 

 だって、見てる方が面白いし。

 

 困難な作戦を終えたばかりだとは思えない陽気さが、そこにはあった。

 

 

 

 

 

PHASE-14「蒼穹の射手」      終わり

 


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