「ここからが本題だ」
ヤンはユリアンにそう告げた。
「何でしょうか?ヤン長官?僕も暇ではないのですが」
ヤンはユリアンの目を見て話した。その瞳の奥を見透かすように。
「だろうね。いろいろ画策するのに忙しいようだ」
ユリアンは内心たじろいだが態度には見せなかった。
「もしかして、まだ僕をお疑いですか?それなら何故ヘルクスハイマー少佐を出て行かせたのですか?」
「今の彼女に聞かせたい話になると思うかい?」
ユリアンは諦めて椅子に座りなおした。
「何が聞きたいかはっきりと仰ってください。商人達も僕の手の内で、僕が毒薬を撒いていた黒幕とでもお考えですか?」
「いや、そんなことはないさ。そもそも君にそんなことをするメリットはない」
「では、何でしょうか?」
「生命水を質量分析にかけて検出された不明のピーク、あれは何だい?」
「ただの測定ノイズ、あるいは不純物ではないでしょうか?」
「そんな誤魔化しはいらないよ。地球財団の予算は潤沢とはいえないとはいえ、小規模に健康商品を売る程度では大して助けにならないだろう。
一方で、クリストフ・フォン・バーゼルを助けたいならお金を渡すだけでいい。
そうしなかったのは、君なりの意図があったからだ。お願いだ。それを教えてくれ」
ユリアンは黙って少し考えた末に答えた。
「長くなりますがいいですか?」
「もちろんだ」
「発端は、現銀河人類、月の民、銀河の流民フリーマン、それに地球アーカイブの過去の人類の凍結保存細胞、それぞれのゲノムデータの比較結果が得られたところからでした。旧地球教団は、外部世界で失われた過去のバイオテクノロジーの所産を保持していました。全ゲノムシークエンジング技術とそのデータの解析技術もその一つです」
「何がわかったんだ?」
「現銀河人類のゲノムには、他のゲノムには存在しない遺伝子の挿入や欠失、変異が見られました」
「それは通常の進化の範囲では説明がつかないのか?」
「たった九百年かそこらで?遺伝子の欠失や変異はあり得るでしょうが、新しい遺伝子が新規に挿入されるなど自然にはまずあり得ません。このことが意味することは明らかです」
「何だ?」
ヤンはそう問いつつも、既に答えを予感していた。
「人類は長期にわたって何者かによるゲノム操作を受けてきた」
訪れたのは沈黙だった。
オーベルシュタインもアッシュビーもヤンも、驚きをあまり表に出すタイプではなかったから。
ヤンは言った。
「俄かには信じられない話だ。だが君がこういうことで嘘をつくとも思えない」
「ええ、事実です。それに理屈上はあり得る話です。一般にはロストテクノロジーとなっていますが、ゲノム編集という、13日戦争以前に生まれた技術があります。誕生当時は原始的なものでしたが、時代を経るにつれその技術は改良され、洗練され、遂には食物や飲み物にそれを混入させるだけで、それを摂取した人の体細胞を徐々に変異させることが可能になりました。本当は治療を目的とした技術なのですがね。
真相は不明なのですが、ド・ヴィリエ大主教は、歴代のゴールデンバウム王朝の皇帝に対してこのゲノム編集技術が使われたということを示唆する発言をしていました。繰り返しますが真相は不明です」
ユリアンは、ド・ヴィリエがラインハルト帝に対してもこの技術が使われ、彼を死に至らしめた可能性まで示唆していたが、それは地球財団の立場を不利にする恐れがあったため黙っていた。
しかし、ユリアンが話した内容だけでも十分に衝撃は大きかった。
ゴールデンバウム王朝末期の皇族の遺伝子異常、そして多発した流産や早逝、それは誰かの介入を考えなければ確かに不自然なレベルであった。
ユリアンは話を続けた。
「銀河人類に対するゲノム改変。特にその影響を受けていたと思われるのは、女性の妊娠機能でした。
卵巣機能に関連した遺伝子と妊娠時の恒常性に関連する遺伝子に変異が入るとともに、ホルモンに応答する受容体の遺伝子が新規に出現していました。
つまり、女性は過去の人類よりも妊娠しにくく、さらにはホルモンバランスの乱れで容易に流産しやすくなっていると推測されます。
本当なら男性の精巣機能や精子に関連する遺伝子の方が改変しやすい気もするのですが、その場合顕微鏡で容易に問題が発覚する可能性がありますからそれを恐れたのかもしれません。
ちなみに女性が一律で妊娠しにくいというわけではありません。やはり個人差はあります」
ヤンはローザとの間に息子が生まれていた。それがどんなに幸運なことだったのかと、彼は今更思い知った。
「不思議に思ったことはありませんか?歴史の講義で我々はこう習います。「初期のワープは人体とくに女性の出産能力にいちじるしい悪影響がみられたが、西暦24世紀末には早々に完全な実用化がなされた」と。それなのに何故今日でもワープは母体に障るとされるのか。ワープ技術はさらに改良され続けたのに。現代のワープ技術が劣化しているわけではありません。人類の方が影響を受けやすいように変化したのです。ワープに伴って産生量が増えるホルモン。それに敏感に応答する受容体が胎盤に発現するようゲノム改変を受けていたのです。これによってワープで流産が誘発されるようになっていたのです」
ここでアッシュビーが指摘した。
「おかしいじゃないか。同盟は人口爆発を経験している。女性の妊娠機能に問題が生じていたならそんなことは起きないはずだ」
「連合の人口増大は出生率の増大によるものではなく、単純に亡命者の流入によるものです。同盟の人口爆発は、逆に遺伝子改変に関する傍証と言えるかもしれません。アーレ・ハイネセンがアルタイルを出発した頃はまだ銀河人類は遺伝子改変の影響をさほど受けていなかったと考えられます。
何故なら長征一万光年は五十年以上続いていたからです。母体がワープに耐えられないなら子供は産まれず、長征一万光年が終わる頃には長征のメンバーは皆老人となって全滅するはずです。それがそうはならなかった」
ヤンが尋ねた。
「彼らが冷凍睡眠を用いていた可能性は?」
「今も大して広まっていないことからわかるように、冷凍睡眠は万能ではありません。使ったとしても身体への負担から十年程度しか無理でしょう。それならやはり結論は変わりません」
「それなら同盟人はゲノム改変の影響を受けていないのか?今は同盟も人口が減少しているじゃないか」
「いいえ。同盟に人口減少の傾向が現れるのは帝国から亡命者が大量に流入して以降の話です。つまり、ゲノム改変された人々との混血が進み、それによって結局はゲノムの改変がなされたのです。その時点で同盟に対してもゲノム改変の工作が別に行われていたのかもしれませんが」
ヤンがここで疑問を持った。
「待ってくれ。長征一万光年終了時の人口は16万人。出発時は40万人で、それに対して「同志の過半」を失ったと伝えられている。それが事実なら、殆ど世代交代が進んでいないことになる。子供世代が16万人に相当数含まれていたなら失われた同志の数は「過半」などでは済まないし、そのような表現にはならないはずだ」
ユリアンは少し答えるのを躊躇った。
「妊娠に対するワープの影響が少ないとはいえ危険な旅です。子供世代の数はそんなに多くはなかったのでしょうね。ミンツ家もそうなのですが、長征世代が同盟で名家とされるのも数が少ないことが理由なのでしょう」
「それならば人口爆発はもっと小規模になったはずだ」
ユリアンは諦めて話すことにした。
「……これも取り扱い注意の情報ですが、同盟の初期の人口爆発には地球教団の技術が使われていた可能性が高い」
ユリアンはアッシュビーを見た。
アッシュビーの顔色が変わった。
「そうです。クローンです。ハイネセン達はシリウス星系の惑星の地下で地球教団の支援を受けて恒星間航行船を入手し、さらには地球教団の所有する過去の地球人類の凍結保存細胞から受精卵がつくられ、人工子宮装置と共にハイネセン一行の船に搭載された。少なくとも地球教団の記録にはそう残されています。
グエン・キム・ホア一行は惑星ハイネセンに降り立った後、それを使って人口を増やしたのでしょう」
アッシュビーが反応した。
「人工子宮?そんなものがあるならエンダースクールは俺達を生み出すのに、母胎を借りる必要なんてなかったじゃないか。もっと大量にアッシュビークローンを生み出せたはずだ」
ユリアンは困った顔をした。
「私も不思議には思うのですが、人工子宮技術は地球教団でも既に失われた技術になっています。しかし、ハイネセンの時代の地球教団はそれを所有していました。同盟にそれが残っていないのは当時の賢明な同盟指導層が、地球教団が協力した証拠ごと禁忌技術を破棄してしまったからなんでしょうね。地球教団としては親地球勢力をつくるつもりだったのでしょうが、見事に裏切られましたね」
「何とも不思議な話だ」
アッシュビーは疑わしげだった。
「私も不思議です。何者かの意図が働いているのか……」
ヤンがさらに疑問を示した。
「では、銀河帝国は何故この状況を放置してきたんだ?」
しかし、ヤンの中ですぐに答えが出たようだった。
「いや、できなかったのか」
ユリアンは頷いた。
「ええ。このあたり、オーベルシュタイン局長が調査されていたはずですが」
ユリアンに話を振られてオーベルシュタインは口を開いた。
「いろいろと腑に落ちることがあります」
オーベルシュタインの説明は劣悪遺伝子排除法の制定経緯から始まった。
一般に、劣悪遺伝子排除法はルドルフ大帝が長年の思いに基づき自発的に定めたものだとされていた。
しかし、オーベルシュタインはルドルフ2世との会話によって、ルドルフ大帝が真に望んで排除法を定めたのか気になり始めたのだった。
オリオン連邦帝国、ゼーフェルト博士の調査により、通説は大帝の権威づけのために流布されたものに過ぎず、実際はルドルフ大帝に対して、排除法を定めるように提言した者達がいたことがわかった。
それは「科学革新同盟」と、それに属する「革新遺伝学派」の者達だった。
「科学革新同盟」は、ルドルフの主張する国家革新主義に賛同する科学技術者の集団であり、国家革新主義に基づく「科学」を提唱していた。
すべての科学研究は実用性にのみ重きが置かれるべきであるとの主張に基づき、彼らが「非実用科学」、「頽廃的科学」と判断したものをルドルフの名の下に次々に攻撃し、排除していった。多くの場合その攻撃は、彼らにとっての政敵を排除する方便に過ぎなかったが。
「革新遺伝学派」は、その中の、生物学における一派であった。彼らは連邦時代の欲望に任せたバイオテクノロジーの乱用と、それを可能にした生命科学それ自体を頽廃的であると批判するとともに、国家革新のためには「人の革新」が必要であると唱えた。
そのための科学として「革新優生学」なるものに基づく「劣悪遺伝子の排除」をルドルフ大帝に提言したのだった。ルドルフ大帝としては、彼らの提言を法制化したに過ぎなかったのである。
「科学革新同盟」及び「革新遺伝学派」は、科学技術の世界に粛清の嵐を呼び込んだ。非道徳的科学、退廃的科学の成果はその殆どが破棄され、後世に受け継がれなかった。加えて、彼らの主張や研究成果には疑似科学の要素が多分に含まれており、科学技術の正常な発展を阻害した。
これが今日まで後を引く科学技術の後退、特に生命科学分野における後退と疑似科学の蔓延を産んだ。
例えば同盟では電子が細胞の自然治癒力を大幅に活性化するとされ、今でも負傷兵治療に採用されているが、これは科学革新同盟が広めたもので、宇宙暦以降そのメカニズムも効果それ自体も、実際は明確に検証されたことはなかった。
既に連邦時代には科学技術の発展は停滞していたとされる。しかし、それは停滞に過ぎず後退ではなかった。そこからパラダイムの転換が起こり、新しい発展が起こる可能性も十分にあった。その可能性を科学革新同盟はルドルフの名を利用して摘み取り、踏みにじったのである。
オーベルシュタインは、彼ら科学革新同盟、特に革新遺伝学派が地球教団と繋がっていたのではないかと疑った。地球教団が自らの目的のために生命科学の衰退を狙ったのではないかと。確かに彼らに資金を提供したものの一部が地球出身の商人であったという記録は残されていた。しかし、逆に月あるいは地球上にあった地球教団の記録にはそのような活動は記録されていなかったし、その商人の出生記録も存在せず何の裏付けも取れなかった。
「未だに証拠はありませんが、この生命科学の衰退が、人類に対するゲノム改変を容易にするために意図的に起こされたものだとすれば、納得できるのです。今の人類はバイオテロに対して無防備、エネルギー中和磁場を持たずに戦艦と対峙しているようなものと言えるでしょうな」
アッシュビーが尋ねた。
「人類に悪意を持っているのであれば、それこそ病原性細菌でもばら撒けばいいのではないか?」
オーベルシュタインは答えた。
「それでは流石に対処の必要性に気付きましょう。それによって人類が手遅れになる前に防備を整えてしまっては意味がない。気づかれないまま人類を衰退、滅亡に追いやることが彼らの目的だったのでしょう」
ヤンはユリアンに続きを促した。
「人類が何者かの意図でゲノム改変を受けている。それはひとまず認めるとしよう。それで、君がやっていたことは何なのだ」
ユリアンは笑顔で答えた。
「人類からゲノム改変の影響を取り除くことです」
「何だって?」
「地球財団は、特定のゲノム改変を再編集して元に戻す薬剤を開発しました。これは、ゲノム改変に用いられたと思われる薬剤と本質的には同じもので、目的が異なるだけです」
「……」
「僕はこれをビタミンDと共に生命水に添加しました。これを禁じる法律はありません。これを飲んだ人は、ゲノムの一部が再編集されます。それによって妊娠機能が回復または向上することが期待されるのです」
皆無言で聞いていた。
「僕はいくつかの再開拓惑星で生命水によってこれを試験し、出生率の向上が図れるかを確認しようとしていたのです。上手くいけば銀河系全体にこれを適用するつもりでした」
ユリアンは皆の反応を待った。しかしアッシュビーもヤンも厳しい顔をしたまま無言だった。オーベルシュタインだけは無表情だったが。
「皆さんどうしました?」
ヤンが口を開いた。
「君、何が問題かわかっていないのか?」
ユリアンは戸惑った。
「何か問題がありましたか?新連邦の法律には違反しておりませんし、出生率の向上は皆の願うところだと思うのですが」
「なぜ、私に黙っていた」
「いえ、言っていなかっただけで隠していたわけでは」
「隠していただろう。この瞬間まで言わなかったではないか」
「……銀河保安機構の管轄するところではないと思いますが」
ヤンは溜息をついた。
「ミンツ総書記、ミンツ総書記。ヘルクスハイマー中佐がここにいなくてよかったな。私は君が撃ち殺されるところなんて見たくないよ」
「一体何が問題なのですか?」
「いいか。本人に知らせず薬剤を投与する。君のやっていたことは明確な人体実験だ。合法非合法は関係ない。これは倫理の問題だ」
「倫理など……」
ユリアンは言いかけてやめた。自らの考えが危険、少なくとも危険視されるに値することに今更気づいたのだ。
「正しいと思えば何をやっても良いと?そう考えた者達が歴史上何をやってきたか君も知っているだろう?」
「……」
「そして君は今回のことを皆の納得を得る形で進めることもできた。それだけの立場に君はいるんだ。
君はその労力を惜しんだ。いや必要とも思わなかったのか。
緊急避難だったらしょうがないかもしれない。しかし今回はそうではなかった。時間の余裕はあったんだ。君のやり方は地球教団や神聖銀河帝国ではそれでよかったかもしれない。しかし、地球財団、そして新連邦の人間が取っていいやり方ではない」
ユリアンは反論できなかった。その通りだと思ってしまった。
「生命水それ自体で事故が発生したということも今の所はないようだ。だから君がやったことを新連邦の法で罰することはできない。今回のことは君に反省を促して終わりだ。
……銀河人類がゲノム改変を受けており、それが人口減少の原因だという情報も、慎重に取り扱わねばパニックを引き起こすだろうな。新連邦主席に四国首脳とも話をして今後の方針を決めることになるだろう。それでいいな?」
「わかりました」
それしか言えなかった。
ヤンは思いついたように言った。
「そういえば、トリューニヒト氏には今回の情報は伝えてあるのか?」
「……いいえまだです」
ヤンは再度溜息をついた。
「そうか。いや、彼に伝えてあって、私には教えてくれていなかったとなるとそれはそれで複雑なんだけどね。それでも君はこの情報を誰かと共有すべきだったね。……君はすべての責任を一人で被ろうとし過ぎだよ」
ユリアンは自らの保護者を自任してくれている敬愛すべき男のことを思った。そして申し訳なくなった。
「はい。僕の考えが足りませんでした。申し訳ありません」
ユリアンは素直に謝った。
「本来は謝って済む問題ではないし、私に謝られてもしょうがないんだが、でも謝らないよりはマシだろうな。これからはぜひ気を付けて欲しい」
そう言って、深刻な顔つきになっていたユリアンに対してヤンはわずかに笑顔を見せた。
アッシュビーは苦笑いをしていた。
「我々も脛に傷持つ身だ。本当はひとのことなんて言えないのだが。だからこそ忠告したくもなるんだ」
ヤンはさらに付け加えた。
「ヘルクスハイマー中佐には彼女が落ち着いた頃にうまく伝えておくから心配しないでくれ」
「はい。ありがとうございます」
ユリアンは深々と頭を下げた。
オーベルシュタインが話の流れを無視するように、口を挟んだ。
「ミンツ総書記、人類のゲノム改変の影響は出生率に対してだけなのか?」
ユリアンは首を横に振った。
「他にもいくつもの改変が見られます。様々な機能不明の受容体や酵素の遺伝子が多数挿入されています。何らかの薬物に応答する受容体も。今回のワープ怪死事件もそのいずれかによって引き起こされたものかもしれません。例えばある薬物に特定の受容体が応答してまた別の受容体が細胞に発現する。その受容体はワープの刺激による体の変化に反応して、劇的な応答を引き起こすとか」
アッシュビーはお手上げといった態だった。
「生物の話は正直さっぱりわからん。それも生命科学の衰退の影響かもしれないが」
オーベルシュタインはヤンに話しかけた。
「細かいメカニズムはともかく、今回の件がミンツ総書記の行動によって引き起こされた可能性はありますな」
ヤンは怪訝な顔をした。
「どういうことだい?」
「ミンツ総書記が人類のゲノムを再修正しようとしているのを知り、その前に人類に打撃を与えたり、あわよくば全滅に追い込もうと何者かが動いた。だからタイミングが重なったのです。あるいは、ミンツ総書記に罪をなすりつけようとまで考えたのかもしれませんな」
あり得る、と皆が思った。
しかし、そうだとすれば。
「第二第三の事件が起こる可能性がありますな。ゲノム改変の影響を精査するとともに、対応策を至急練る必要があります」
ヤンは天井を見上げた。
「さらに忙しくなるなあ。……ミンツ総書記、対応策の立案に関してはぜひ協力を頼むよ」
「勿論です」
ユリアンとアッシュビーが出て行って、ヤンとオーベルシュタインが残った。
ヤンはオーベルシュタインに告げた。
「オーベルシュタイン局長、君をミンツ総書記に近づけたのはやっぱり間違いだったかな」
「どうしてそう思うのです?」
「今回の彼のやり方は君のやり口に似ている。彼に、新連邦でも今までのやり方でよいと勘違いさせてしまったんじゃないかと思うんだよ。いや、君はあえて勘違いさせたんじゃないかという気もするな」
ミンツ総書記に何らかの大きな問題を強引な手段で解決させ、その手段を問題視することで彼に立場を失わせ、排除のきっかけとする。オーベルシュタインはそんな一挙両得を頭に描いていたのではないか。
オーベルシュタインに動揺はなかった。
「買い被りでしょうな。"正しい事をするのを、決して道徳観念に邪魔させてはならない"という古代の警句を彼に教えたことはありましたが、それをどう受け止めたかは彼自身の問題です」
ヤンはオーベルシュタインに対する監視を強めるようバグダッシュに伝えておこうと思った。
「しかし、ヤン長官」
オーベルシュタインが逆に呼びかけてきた。
「何だ?」
「失礼ながら、出禁のヤンと呼ばれたあなたが、他人に向かってよくもまあ説教などできたものです」
ヤンは黙りこんだ後、ただ一言だけを口にした。
「本当に失礼だな!」
科学革新同盟や技術面の話に関して活動報告で追記予定です