時の女神が見た夢・ゼロ   作:染色体

13 / 105
11話 相似存在のロストワールド/遭遇

宇宙暦???年 自由惑星同盟 惑星ハイネセン

 

惑星ハイネセンの、軍用地に程近い、とある山奥の洞窟の前に航時機は出現した。

ヤン・ウェンリー達一行は航時機をその洞窟の中に隠した後、山から街にまで続く道に出た。

紅葉が美しくハイネセンの山々を染めていた。季節は紛れもなく秋であった。

 

道を歩きながらアッシュビーがユリアンに話しかけた。

「航時機の電子暦(エレク・カレンダー)は宇宙暦745年10月を指し示していたが、ここが本当に745年なのかどうかはよくわからんな」

 

ユリアンは答えた。

「同じ空間にもう一台の航時機があるのは確かなようですが」

 

航時機のレーダーは、別の航時機の存在を検出していた。おそらくは神聖銀河帝国残党のものなのだろう。とはいえ、場所まではわからない。

 

「それが正しいとしてもここが745年であることを保証するものではないだろう。まあ、誰かに訊いてみるしかないか」

 

「通常の散策ルートからは外れていますが、紅葉を見に誰かが通りかかるかもしれませんね」

 

その推測は現実のものとなった。

マルガレータが最初に見つけた。

「人がこちらに向かって歩いて来ます!」

マルガレータの声に反応して、アッシュビーはサングラスをかけた。カツラは最初から被っている。

 

彼我の距離は徐々に近づいた。

フレデリカが呟いた。

「姿勢がいいですね。私服ですが軍人かもしれません」

 

そのうちに顔が視認できる距離となった。

その顔は、皆が知っている人物のものだった。

「そんなまさか」

「タイムワープに失敗したのか?」

 

ヤンは思わずその名前を呼んだ。

「アッテンボロー!なんでこんなところにいるんだ!?」

その人物は、ヤンの後輩、アッテンボローと同じ顔をしていた。

アッテンボローはヤンと共に銀河保安機構に所属し、中将として艦隊の司令官を務めているはずだった。

そのアッテンボローが山道を歩いているなど、予想外もいいところだった。

 

声をかけられた方は当惑していた。

「アッテンボロー?誰ですか、それは?私はバクスターだが」

 

ヤンも当惑した。アッテンボローは私を揶揄っているのだろうか。

「何を言っているんだ。君は私の後輩で中将で自称独身主義のダスティ・アッテンボローだろう。気でも違ったのか?それとも私の知らない間に婿養子にでも入ったのか?……アッテンボロー、少し見ない間になんだか私より老けていないか?」

 

バクスターと名乗った男はヤンの言い草に半ば怒り半ば混乱した。

「どうしてファーストネームの方を知っているんだ?確かに私はダスティだが、ダスティ・バクスターだ。それに中将ではなくて大佐で、独身でもない!」

 

ヤンは尻尾を掴んだと思った。

「ほら、ダスティだなんてやっぱりアッテンボローじゃないか。中佐、君から見ても彼はアッテンボローだろう?」

 

「長官!」

マルガレータが短く警告を発し、小声で耳打ちした。

「違います。同じ顔だからといって本人とは限りません」

ヤンはある可能性に思い至った。

「まさかアッテンボロークロー」「長官!」

マルガレータが慌ててさらに耳打ちした。

「アッテンボロー提督は軍人だったお祖父さんの生まれ変わりだとお父さんが信じているという話、聞いたことありませんか?」

 

……ヤンは自分が大変な失敗をしでかしたことをようやく理解した。彼はきっとアッテンボローのお祖父さん、「ダスティじいさん」なのだ。

 

「長官?中佐?軍人なのか?それにしてはうだつの上がらない学者みたいな風貌だな……」

ダスティ・バクスター氏は彼らに疑念を抱き始めているようだった。

 

収拾がつかなくなったのを見て、ライアル・アッシュビーが溜息をつきながらカツラとサングラスを外した。

 

バクスター大佐の様子が急変した。

「ア、ア、アッシュビー閣下!なぜこんなところに!」

 

「悪いが、極秘事項なんだ。わかるな」

 

「はっ!失礼しました!」

バクスター大佐は直立不動で敬礼をした。

 

「通っていいか」

 

「どうぞ!」

 

バクスター大佐は、アッシュビーの姿が見えなくなるまで敬礼を続けた。

 

後に、バクスター大佐はこの日のことを思い出すことになる。

アッテンボローを名乗るいけ好かない軍人でもない男が、娘を嫁にくれと言ってきた時に。

自らとよく似た顔でアッテンボローという姓を持った男が中将までなったという話を。

 

 

バクスター大佐の姿が見えなくなった頃、ライアル・アッシュビーが口を開いた。

「これで採るべき行動が一つに決まってしまったな」

 

ユリアンが尋ねた。

「一つとは何でしょうか?」

 

「宇宙艦隊司令部を訪問するんだ。あのバクスターという大佐、いずれ妙な関心を抱いて当日のブルース・アッシュビーの行動を調べるかもしれん。そうなると顔を見られているだけに厄介だ。ここは先手を打つべきだろう」

ヤンは困惑した。

「どういうことだい?」

 

「ブルース・アッシュビー自身に我々の目的を説明して協力願うのさ」

 

ヤンは半信半疑だった。

「信じてくれるのかな?」

 

「俺なら信じる。ならばブルース・アッシュビーも信じると俺は信じる。駄目か?」

 

ヤンは少し悩んだ挙句、決めた。

「わかった。ライアル・アッシュビー保安官の直感を信じよう」

 

ユリアンが疑問を投げかけた。

「しかし、どうやって入り込むんです。司令長官への取次など簡単にはしてもらえないでしょう?怪しまれて捕まるのがおちです」

 

「簡単だ」

ライアル・アッシュビーはニヤリと笑った。

「堂々と入り込むんだ」

 

 

ライアル達は星都ハイネセンポリスに到着して宿を取った。

男三人と女二人の二部屋である。

夕食後、ライアルは部屋で携帯端末を操作した。それは外観こそ宇宙暦745年当時のものに偽装されていたが、宇宙暦804年から持ってきたもので、同盟から提供された当時の様々な情報が保存されていた。

「運がいい。同盟軍の公式記録によると、明日の午前、ブルース・アッシュビーは有給を取っている。午前中に司令部に入り込み、彼を待ち受けよう」

 

 

翌日の宇宙暦745年10月4日、ライアル・アッシュビーは、ユリアンとマルガレータを宿に待機させ、フレデリカ、ヤンと宇宙艦隊司令部に向かった。

 

ライアルは最後に言い置いた。

「若い男女二人になるが、羽目を外し過ぎて宿から叩き出されるなよ」

「「外しません!」」

二人の声が重なった。

 

 

二人きりになってユリアンがまず口を開いた。

「マルガレータ、デグスビイ主教のことなんだけど」

「デグスビイ……アッシュビークローンと共にこの時代に来た神聖銀河帝国残党の男のことだな」

「うん。僕は彼と因縁がある。彼と会ったら僕は多分冷静でいられない。だから、僕が暴走したら止めて欲しいんだ」

デグスビイはユリアンにとって、シンシア・クリスティーンの仇のようなものだった。ユリアンは神聖銀河帝国滅亡時にデグスビイを殺すことができなかった。しかしそれを後悔してはいない。彼女が復讐を望んでいたかというと疑問だったから。

それでもなおユリアンはデグスビイを憎悪していた。

ユリアンは、自分が常に特定の対象を憎悪することで精神の均衡を保っている自覚があった。かつてはヤン・ウェンリーを。そして今はデグスビイを。

デグスビイを殺した時、その憎悪は消える訳ではなく、別の対象に向かうのではないか。憎悪を身近な人に向けてしまうのではないか。ユリアンはそれがとても怖かった。

 

マルガレータはユリアンとデグスビイの間に何があったかは詳しく知らない。しかし、ユリアンが自らの中にいる怪物の暴走を恐れているのはよくわかった。

「任せてほしい。私はそのために来たようなものだから」

「ありがとう」

 

マルガレータはいまだに思う。同盟の人間でもない自分がこの旅に参加して本当によかったのだろうかと。

ヤン長官に尋ねると「話の成り行き」だとあっさり言われてしまった。ユリアンが参加することになり、彼一人だと何をしでかすかわからないから、お目付役で自分が選ばれた。そういうことらしい。

……もっとも、ヤンの現副官のスールズカリッター中佐によると、自分は生活不能者であるヤンのお目付役でもあるそうなのだが。マルガレータが副官から転属した後、ヤンの官舎と長官室は酷い惨状となったそうだ。今はスールズカリッター中佐が当番兵を決めて毎日部屋の整理整頓をさせているらしい。

 

マルガレータとしては、任務として二人の世話をきっちりとこなすつもりだった。

それにユリアンとは約束があった。自分が彼にしてやれることは、それだけだとも思っていた。

 

「……どうかな?」

 

物思いに耽っていたせいでマルガレータは話しかけられたことにすぐには気づけなかった。

 

「え、あ、何だ?ユリアン?」

 

「ハイネセンをどう思ったかなと思って」

 

「ハイネセン?」

 

「君は、帝国と連合のことは知っているけど、同盟には来たことがなかっただろう?宇宙暦804年ではハイネセンに着いてすぐにこの旅に出発してしまったし。だから一日ハイネセンを歩いてみてどう思ったかなって」

 

マルガレータにはまだユリアンの意図がわからなかった。

「どうしてそんなことを訊くんだ?」

 

ユリアンは照れくさそうに笑った。

「それは、ほら。僕にとっては故郷だから」

 

マルガレータはそのことを失念していた。そうか、ここはユリアンの故郷だったか。

「いいところだな。うん。いいところだ。人々には活気があるし、都市も綺麗で機能的に整備されている。山々も生命が溢れていたし、それでいて都市の緑化も十分だ」

……論評のようになってしまったので、マルガレータは言い直した。

「自由惑星同盟の人々が、ユリアン達がこの惑星を誇れる場所にしようと努力を続けてきたのがわかる」

 

ユリアンは笑顔を見せた。

「だろう?僕はこの自分が生まれ育ったハイネセンが大好きなんだ。仮に同盟が滅びたとしてもこのハイネセンだけは残って欲しいかな」

そこまで話して少し笑顔が翳った。

「いや、僕はもう同盟の人間ではないし、裏切り者みたいなものなんだけど」

 

気にすることではないとマルガレータは思った。

「いいじゃないか。どこにいたって故郷は故郷だ。私だって帝国の旧ヘルクスハイマー領のことは今でも美しい思い出として残っている。いくらでも大切に思うべきだ」

 

それを聞いてユリアンに笑顔が戻った。

「そうか、君もそうだったね。いつか君の故郷も案内してほしいな」

 

マルガレータはその一言に胸が高鳴らせてしまった。だが、ユリアンの言葉には深い意味はないのだと自分に言い聞かせ、ユリアンをジトッとした目で見た。

「ユリアン、私の故郷なんかよりも、カーテローゼの故郷や、エリザベートとサビーネの旧領に行ってやれ。それが先だろう」

 

言ってみてからマルガレータの中で苦しさが増した。彼女は自分の部屋に戻ることにした。

マルガレータは振り返らなかった。自分の今の顔をユリアンに見られたくなかったから。だが、そのことはユリアンの表情を確認することができないということでもあった。

 

 

 

宇宙暦745年10月4日10時 自由惑星同盟軍宇宙艦隊司令部

 

ライアル・アッシュビー、フレデリカ、ヤンの三人は連れ立って宇宙艦隊司令部に入った。

衛兵達も、将官達もライアル・アッシュビーを見て敬礼をした。

皆、彼のことを本物のブルース・アッシュビーだと思っていた。

 

宇宙艦隊司令部は五十年前も同じ造りであった。

ライアル達は一路司令長官室を目指した。

フレデリカは小声でライアルに話かけた。

「うまくいきましたわね」

「上手くいかないわけがない」

 

司令長官室までの廊下で彼らは准将の階級を持った一人の女性将校とすれ違った。

敬礼する彼女に、ライアル達も答礼しながら通り過ぎた。

フレデリカは、その女性将校の整った顔立ちの中に、意外の念と自分への注目があるのを見た。

 

その直後、ライアルは彼らにとって重要な人物が目の前にいることに気づいた。

黄色がかった金髪に厚い唇、同盟軍宇宙艦隊総参謀長アルフレッド・ローザス中将である。

彼はライアルに声をかけた。

「ブルース、有給のはずなのに早いじゃないか」

ライアルはブルース・アッシュビーの振りをして答えた。

「まあただの気まぐれだ。理由はないさ」

「そうか。しかし、連れている二人は見慣れない顔だが」

ローザスは二人の顔を交互に見た。

「情報部の新任だ」

ローザスは何か問いたげな表情をしたが、結局やめたようだった。彼は代わりにアッシュビーに頼んだ。

「そうか。紹介してもらえないか」

 

「ああ、彼らは……」

フレデリカがすかさず名乗り、敬礼をした。

「フリーダ・アシュレイ中尉です」

尋ねられた時の偽名と所属は既に決めてあった。

ヤンも名乗り、同様に敬礼をした。

「フォン・タイロン中尉です」

 

ローザスは答礼をしつつ、フレデリカとヤンに笑顔を見せた。

「そうか。情報部は同盟軍の要だ。よろしく頼む。アッシュビー、この二人と今から司令長官室で打ち合わせか?私も同席した方がいいか?」

 

「いや、今回はいい。また呼ぶからその時によろしく頼む」

 

「わかった。ではまた後で」

 

ヤンは笑顔で去っていくローザスを見送りながら思った。ヤンが軍人になってからもローザス提督はしばらく存命だったはずだ。元の時代ではお目にかかる機会のなかった偉大な人物に、この時代で会うことになろうとは……

 

アッシュビー達は司令長官室に入った。

ライアルは司令長官の席に腰を下ろした。

「ローザス提督とあそこで出くわすとは。予想しておくべきだったか。だがまあ予定通りだ。後は本物のブルース・アッシュビーが来るのを待つだけだ」

 

しかし、フレデリカは厳しい表情をしていた。

「少しまずいかもしれませんわ」

「どういうことだ?」

「ただの勘ですが、気づかれたかもしれません」

 

 

その勘が正しかったことは、十分後に証明された。

長官室の入り口からローザスが入って来た。

彼はドアを背にしてそれ以上進もうとしなかった。

 

ライアルは何気無さを装って尋ねた。

「どうした?ローザス?」

「外に武装した将兵を配置している。大人しく連行されることだ」

 

ライアルは驚愕を内心に隠し、不愉快そうな表情をつくった。

「ローザス、これはどういうことだ。細君を失くして悲しいのはわかるが、自暴自棄でクーデターを起こすような奴ではなかったはずだが」

 

ローザスの指がわずかに震えた。

「誤魔化しは無用だ。情報部に照会したがフリーダ・アシュレイもフォン・タイロンもいなかった。それに、お前はブルースではない。誰だ?」

 

アッシュビーはなおも平静を装った。

「一体何を言っているんだ?」

 

「お前が廊下で俺の前にすれ違った女性が誰かわかるか?」

 

アッシュビーが反応する前にフレデリカが答えた。

「サリー・ローレンス准将。ローザス閣下とアッシュビー閣下の同期生ですね」

彼女はわかり得る限りのこの当時の将校の顔写真と情報を記憶していたのだ。

 

 

ローザスは瞠目したが一瞬のことだった。

「なかなか優秀な仲間を持っているようだが、名前はそれほど重要ではない。重要なのは彼女がブルースの元愛人だということだ。彼女とすれ違う時、ブルースは敬礼など返さない。代わりにすれ違ってから彼女の方に目を動かすんだ。普段と異なる行動に違和感を持ってよくよく観察してみればお前の髪は昨日のアッシュビーよりも1センチ長い。流石に一晩で1センチ伸びることはなかろう」

 

皆、ローザスの異常な観察力に驚いた。

ヤンは、ジークマイスターから上がってくる玉石混淆の情報をローザスが再解析し、取捨選択した上でアッシュビーに渡していたという自らの説の正しさに確信を持った。

 

「お前の気のせいだろう。ローザス」

ライアルはなおも取り繕った。少なくともアッシュビーが来る前に連行されるわけにはいかなかった。ブルース・アッシュビーなら信じるだろうが、ローザスを含め他の人間が信じてくれる確証がライアルにはなかった。何より大事になってしまっては歴史が変わってしまう。時間を稼ぐ必要があった。

 

 

「気のせいではないし、証拠も不要だ。ひとまず連行する。後で本物のアッシュビーに確認すればわかる。……だが」

 

ここで、ローザスは迷いを見せた。

「赤の他人というには、その風格がアッシュビーに酷似し過ぎている。アッシュビーのような奴が二人もいるとは思えんが、一体何者だ?」

 

ライアルはその様子を見て姑息な手を思いついた。

「ばれてしまったならしょうがない。俺はブルース・アッシュビーの生き別れの弟、レッドフォード・アッシュビーだ。兄に会いたくて変装してここまで来てしまったんだ」

 

場に沈黙が落ちた。

 

すぐに否定してくると思われたローザスだったが、意外にも考え込んでいた。アッシュビー家の複雑な家庭事情を多少は知っているだけに完全には否定しづらかったのだ。ブルースは確かに弟の話をしていたことがあった。

「弟……弟か。では、この二人は誰だ」

 

ライアルは、かかったと思った。

如何に優れた分析力を持つと言っても、ローザスはアッシュビーと長年付き合えるぐらいのお人好しなのだ。基本的には押しに弱く、まずは人の話を聞いてしまうタイプだと直感していた。彼一人で部屋に入って来たのも、大事にする前に我々の事情を聞くためだと考えていた。その直感はどうやら正しかったようだ。

 

フレデリカもライアルの出まかせに乗っかることにした。

「私は、ブルース・アッシュビーの妹です」

 

ヤンは困った。流石に東洋系の自分がアッシュビーの兄弟を名乗るのは難しいだろう。

「私はええと……ファン・チューリンの叔父の息子の父親の兄の息子です」

 

ローザスは難しい顔のまま言った。

「ファン・チューリンに叔父の息子の父親の兄の息子がいたかどうかは知らんが、アッシュビーの奴に妹がいるなど聞いたことがない。それに全然似ていない」

 

フレデリカは言い逃れを咄嗟に思いついた。

「私はレッドフォード・アッシュビーの妻。つまりブルース・アッシュビーの義理の妹です」

 

「義理の妹、だと……」

ローザスは否定したかったが、そのための材料がなかった。とはいえ馬鹿正直に話を聞き過ぎた気もしていた。

やはり連行して尋問するか。ローザスがそう考えた時、さらに部屋に侵入してくる者がいた。

 

「何だ、この騒ぎは?通せ。……誰だこいつらは?……何故俺がもう一人いる?」

赤い髪、鋭い目、纏う覇気。本物のブルース・アッシュビーだった。

 

ライアル達は時間稼ぎに成功したのだった。

 

しかし、本物のブルース・アッシュビーを待っていたのはローザスも同じだった。

「やっと来たな、ブルース。お前さんにそっくりなこの男がお前の弟を、さらにはこの娘がお前の義理の妹を名乗っているんだが、本当なのか?」

 

「俺に義理の妹など……」

その言葉は途中で消えた。

ブルース・アッシュビーはフレデリカをまじまじと見て、それからライアルを一瞥し、またフレデリカの美貌を眺めた後にローザスの方を向いて言った。

 

「弟の方は知らんが、この娘は俺の義理の妹だ。俺にはわかる。俺には義理の妹がいたに違いない」

ブルース・アッシュビーは真顔だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。