時の女神が見た夢・ゼロ   作:染色体

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101話 果てしなき流れの果に その5 人と星と(エピローグ1)

 

 

 

ユリアン達の結婚式から5年が経過した。

その後もいくつかの波乱はあったものの、銀河人類は徐々に落ち着きを取り戻し、平穏な時を刻み続けていた。

 

銀河植民、未踏宙域改めノイエ・ラントの開拓事業も再び軌道に乗り始めていたし、

その先に宙域に勢力圏を築いている異星種族〈鳥〉との間にも通商条約の締結がなされようとしていた。

 

絶望をもたらす存在である〈上帝〉に対しては、「世界改変術式」による無力化の計画が秘密裏ながらも着々と、進行しつつあった。

「術式」は秘匿されるべきものとして、最終的には新銀河連邦の管理下に置かれることになった。

 

 

ユリアンはその日、家族と共に月裏面の展望ドームから星々を見上げていた。

 

地球財団総書記に返り咲いていたユリアンは再び精力的に仕事をこなしていた。

カーテローゼをはじめとする妻達はユリアンを支えた。

マルガレータは帝国に戻り、帝国貴族として、軍人として、またユリアンとの間に生まれた二児の母親として多忙な生活を送っていた。

 

そんな中で、彼らは久々に家族で集まる時間を持ったのである。

 

それは先日月を訪れたヤンとその息子のテオの姿にユリアンが心を動かされたからでもあった。

 

ユリアンと共にエリザベート、ザビーネ、カーテローゼ、マルガレータ、それに子供達の姿があった。

 

五人の妻に二男三女。それが今のユリアンの家族だった。そしてもう一人家族に加わろうとしていた。

ひと悶着も、ふた悶着もあった末に迎えた5人目の妻はそのもう1人を妊娠しているため大事をとってこの場にはいなかった。

 

ユリアンはマルガレータとの二人目の子供である、1歳半になる長男のカイを腕に抱いていた。

ユリアンがカイと会うのはユリアンとマルガレータ、双方の多忙のせいで数える程しかなかった。

ユリアンは息子を自分のように愛された自覚のない子供にしてしまうことを恐れていた。だからこそ、息子との時間をつくりたいと思ったのである。

 

眼前には数億年から数十億年を閲した星々の海があった。

人の生命は星々の一瞬にも及ばない。

しかし、星々の永劫を前にして、ユリアンが立ちすくむ事はなかった。

今の彼には、彼と人生を共にしてくれる者達がいるのだから。

 

お父さん(ファーター)

 

ユリアンは一瞬聞き間違えかと思った。

 

「今、カイが喋った!お父さんって」

ベアテの言葉に、息子がユリアンを父親と呼んでくれたことを自覚した。

 

笑顔で自らの顔を触ってくる息子カイに、ユリアンは愛しさを感じた。そして、それを感じられる自分にしてくれた家族に感謝した。

 

カイは、さらに星々の方に顔を向け、手を伸ばした。星々とまるで握手(シェイクハンド)をしようとするかのように。

 

ユリアンは腕の中の赤子がまるで宇宙との仲介者であるかのような不思議な感覚に襲われた。

カイだけではない、あるいは誰もが。人は、人々を介してこの世界と繋がっている。それが人間なのではないか。

ただの思いつきに過ぎないことではあったが、ユリアンは自分が人間であることにこの瞬間幸せを感じた。

 

「そろそろ行こうか、ユリアン」

「行くわよ、ユリアン」

「みんなあなたを待ってるわよ」

「行きましょう」

 

「そうだね、行こうか」

都市内では、アマーリエやクリスティーネ、シェーンコップ……ユリアンの家族達が待っている。

ユリアンはそこに向かって歩いていくのだった。

 

 

 

40年後、銀河人類は、第5代主席ユリアン・フォン・ミンツの下、真に連邦国家となった新銀河連邦の一員として再統合を果たすことになる。

 

星間人類国家同士による長期の戦争は、この時代が事実上最後となった。

 

新銀河連邦の下、人類は平和な時を謳歌した。

 

 

 

 

その平和は、30年後の宇宙暦880年、異星種族〈鳥〉との間に戦争が起こるまで続いた。


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