テンプレ乙。アタシは体型的に戦艦じゃね?
そして6日間の《
アタシは肩にかけたポシェットの中身を確かめるとマイルームをあとにする。
この決戦が終わった後、はたしてアタシはここに帰ってこられるのかな。
「昨夜は遅くまで何かやっていたようだが、体調の方は大丈夫なのかジナコ」
「問題ないっス。アタシFAやってた頃は寝ながらレベルを上げてたんだから。いざとなったら寝ながらでもきっちり指示は出すっスよ」
「……頼もしいのかそうでないのか判断に困るセリフだな」
カルナを言葉を交わしながら1Fに降りると、
決戦場への入り口になっている用務員室の扉の前に1人のNPCが立っていた。
「ようこそ決戦の地へ。身支度は全て整えてきたかね?」
確か言峰とかいう神父のNPCっスね。
一日目に会って以来見なかったから忘れかけてたけど。
「扉はひとつ、再びこの校舎に戻るのも一組。覚悟を決めたのなら、闘技場への扉を開こう」
覚悟というほど立派なもんじゃないんだけどね。
でも戦う意志がなきゃこのジナコさんがわざわざ布団から出てここまで来るわけないっス。
アタシは昨日慌てて用意した2つの
扉を封鎖していた鎖がトリガーによって砕け、闘技場への扉が開いた。
実はこれがないと闘技場に入れないこと昨日まで忘れてたんスよね。
まぁ、なくてもカレンに強制連行されそうなんだけど。
でもそうなったらあの女いい笑顔ですごいペナルティ課してきそうだし。
「これでいいっスか? お勤めご苦労様っス」
「いいだろう、もう若くはない闘士よ。決戦の扉は今、開かれた。もし生き延びられたのなら2日後の筋肉痛に気をつけ給え」
「余計なお世話っス! まだ次の日にくるもん! 多分!」
さらっと刺してくるっスねこの神父は!
なんかカレンに似たものを感じるのは気のせいっスかね。
叫ぶアタシに全く動じることなく神父は静かに言葉を続ける。
「ささやかながら幸運を祈ろう。再びこの校舎に戻れることを」
幸運……ね。
このアタシがここに戻ってくるにはどれだけの運が必要なんだか。
「そして――――存分に、殺し合い給え」
物騒なセリフに見送られながらアタシ達は開いた扉へと足を踏み出した。
◆ ◆ ◆
扉の先はもちろん用務員室ではなく闘技場へと降りるエレベーターだ。
これから戦う2組のマスターとサーヴァントはこのエレベーターで闘技場へと降りていく。
1組はアタシとカルナ。
そしてもう一組は……。
「今日はさすがに寝坊はなかったと見える。だが身支度をする時間はなかったようだな。今日もいつも通りのボサボサ頭よ。小生の神プロデュースもそこまでは行き届かなかったというわけか?」
「ちゃんちゃらおかしいっスよ。イケメン力たったの5のおっさんに会うならこれで十分っス。おしゃれしたハイパージナコさんが見たいなら、イケメン力を53万まで上げて出直すことっスね」
透き通ったシステムの壁の向こうに立っているのはガトーとアルクェイドだ。
「小生からほとばしる御力を感じ取れぬとは未熟にもほどがある。万能にして優美なる我が神から賜った大天使の羽にも劣らぬこの圧倒的感無量寿経の前にはイケメン力などゴミクズに等しい! そして小生は決して5という数字にショックを受けてはいない! 決してだ!」
「ゴミクズとか言っといて。めちゃショック受けてるじゃないっスか!」
でもどうやら昨日と違って完全に本調子みたいっスね。
まぁ、昨日の雰囲気で来られてもこっちが調子狂っちゃうんだけど。
「どうやらお主は完全に敵となったようだなジナコ! その心意気に免じてお主との戦いは我が聖典の新たなる一節に加えてやろう! モンジ奮闘記第五章第三節。かくして小娘めはめでたく小生のイケメンぶりを思い知りました、とな!」
「なんスかその後で読み返したら悶絶確定の黒歴史的聖典は! そんなのに記録されるなんて耐えられないっス! こうなったらソレおっさんごと燃やすしかなさそうっスね!」
アタシ達がギャアギャアといい合いを続ける間にもエレベーターは降り続ける。
そろそろネタも尽きてきたか思った頃、
ようやくエレベーターは最下層の闘技場へとたどり着いた。
やっと着いたっスか……。
戦う前にかなり疲れた気がするっスよ。
停止したエレベーターの扉が開く。
その先の闘技場に入る前ににちょっとしたイタズラを思いつき、
アタシはガトーを呼び止めた。
「あ、おっさん」
「ぬ? まだ何かあるのかジナコ」
律儀にこちらを振り返るガトーにアタシはニヤリと笑ってやる。
これは『あの時』の意趣返しだ。
「アタシはおっさんの『敵』って言ったっスけど。おっさんはアタシの『敵』じゃないっスよ」
「……どういうことだ?」
「さぁ? それは自分で考えるっス」
不思議そうな顔をするガトーをおきざりにしてアタシは歩き出す。
あとはお互い戦うのみ。
そしてこの闘技場でアタシの運命が決まるのだ。
◆ ◆ ◆
そこは海の底を思わせる一面の蒼。
周囲には珊瑚や魚の群れが見えるが本物ではないだろう。
そんな観客もいない闘技場でアタシとガトーは向かい合う。
「よくぞ逃げずにここまで来た。その成長ぶりに我が神もご満悦よ。だが『敵』として小生の前に立ちはだかるのなら容赦はせぬ! ジナコよ我が神の雷に撃たれて塵と化せい!」
「ガアアアアアアアアアアアア!」
ガトーの口上を受けてアルクェイドが吼える。
「そうは問屋が卸さないっスよ。明日ってのは今のことッス! 本気出したジナコさんの力を見せてやるっスよ! 主にカルナさんが!」
「ジナコ。最後の一言はなくてもよかったぞ」
アタシの口上受けてカルナが冷ややかなツッコミを返す。
2組のマスターとそのサーヴァントは互いに構えをとり。
――――激突する。
「シッ!」
先手はカルナ。
アルクェイドへの間合いを詰めると貫手による突きを繰り出す。
しかしそれはあの模擬戦の再現だ。
カルナの素手での攻撃はアルクェイドには通用しない。
「ガァッ!」
力任せにその突きを払いのけ、こんどはアルクェイドの爪がカルナに迫る。
模擬戦ではここでカルナはサンドバッグになるのだ。
しかし――――。
「ハァッ!」
カルナがアルクェイドの爪を鮮やかにいなす。
受け止めるのでもなく回避するのでもなく最小限の動きで攻撃の方向のみを操作する。
これならば相手よりパワーやスピードが劣っていてもダメージを食らわないですむだろう。
「ぬぅ……。そうか全てはこの時のためだったというわけか神の子よ」
「そういうことだガトー。連日のアリーナとそして先日の模擬戦。アルクェイドの動きは存分に見せてもらった。その上でならこういう戦いもできるというわけだ」
アタシが『修行』と称したアリーナでのデスマーチの最中で、
カルナは敵となるであろうアルクェイドの動きを見ていたのだ。
そしてあの模擬戦の間も相手の動きを見ることに徹したことで攻撃を受け続けるハメになった。
思えばあの最後の一撃は、カルナがアルクェイドの動きを見切って放たれたものだったのだ。
「ていうかわざとやられてたんスか?! あの時アタシがどれだけ……」
「かなり本気でやられていたのだがな。それでもお前が戦わないというのならあのまま倒れるつもりだった。それを変えたのはお前の意思だジナコ」
アタシというハンデを背負いながら。
劣るパワーとスピードを己の見切りと武の技で補いながら。
その身の上を一切嘆くことなく。
このサーヴァントはアタシの『戦う』という意志に全力で応えようとしているのだ。
「そしてお前の成長の証を今俺が見せてやろう」
何度目かの攻撃をいなされたアルクェイドが大きく体勢を崩した。
その隙に攻撃を加えようとカルナの右手が貫手の形に構えられる。
しかし素手での攻撃はアルクェイドには通らないことはもう自明の理だ。
「カルナ! それじゃ……」
ダメだと言おうとしたアタシはその動きに目を奪われた。
貫手と思われたカルナの手のひらが『何か』を掴む形に握り締められていく。
その動作と共に膨大な魔力がその右手に集まり、炎を纏った槍を形作る。
そしてそれは即座にアルクェイドへと放たれていた。
「ガァァァッ!?」
槍を受けた部分を焦がしながらアルクェイドが下がる。
今の一撃は完全に『通った』
初めてアタシはアルクェイドにまともなダメージを与えたのだ。
しかしカルナの槍は今の一撃で力を失ったように消失してしまう。
「まだ安定はしないか……。だが最初に比べれば随分マシだ。お前の成長が形をとって敵を貫いた。誇るがいい我が主人よ。そして我が槍の神技しかとその目に焼き付けるがいい」
これはカルナの意趣返しか。
アタシはアリーナに初めて入った時を思い出す。
でもあの時とはアタシもカルナも違う。
それをカルナは証明してくれたのだ。
月の姫と太陽の御子が再びにらみ合う。
さて、カルナさんの次はアタシの番っスね。
アタシは『とっておき』の準備をするべく、肩にかけたポシェットに手を伸ばした。
始まりました1回戦
皆さんジナコが勝つんだろーと思っているのかもしれませんが
負けてもお話としては成立するんですよね……。
この小説がジナコががんばった『だけ』の話になるのか。
ジナコががんばって『勝つ』話になるのか。
これは作者が最後まで迷ったところなのですが、さて。