Fate/EXTRA NEET   作:あけろん

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今年ももう終わりだなぁ。
そうっスね。去年の今頃アタシはガトーのおっさんと戦ってたっス。
……遅筆でスマン。
まぁドンマイ。


カーマインブレイジ

 凛さんが残した意味深な言葉についてしばらく考えた結果「なるほどわからん」という結論に達したアタシは、掲示板の前を離れアリーナにやってきた。

 自分の意志でアリーナに入るのはこれが初めてのことだ。1回戦は最初にカレンの手で布団ごと放り込まれ、その後はガトーのおっさんに『修行』と称して拉致られた。2回戦は外道シェフの命令でアリーナに食材を探しにいくことになり、早朝から長い通路をエネミーに追いかけられながら駆けずり回った。どちらも2度としたくない経験ではあったけど、それによりアタシの魔力が鍛えられたこともまた事実だ。

 考えてみれば1回戦・2回戦と誰かに強制的に動かされてばかりだったが、結果的にそれが魔術師としての実力を高めることになっていたのだ。だがこの3回戦ではそれがない。ということは自分で自分自身を鍛えなければならないということである。

 この月において魔術師がてっとり早く実力をつける手段といえばやはりアリーナで戦うことだろう。回廊にひしめくエネミーとの戦いによってマスターの魔力は鍛えられ、、おまけに配置されているアイテムボックスからは役に立つPPTや礼装などが手に入る。

 『アリーナ? なんスかそれ。辛いんスか?』そう言っていた時期がアタシにもありました。これからはアリーナをくまなく歩き回って全ての敵を殲滅するっス。

 ヒャッハー! エネミーは消毒だぁ!

 

「ということでカルナさんアリーナっスよアリーナ! 逃げる奴はエネミーだ! 逃げない奴は訓練されたエネミーだ! ここの攻性プログラム共を残らず経験値とPPTに変えてやるっス!」

「見事な掌返しだジナコ。今の言葉を1回戦のお前に聞かせてやりたいところだな。しかし我が主人が自分から外出しあまつさえアリーナで自らを鍛えようとする姿に、俺は感動を通り越してなにやら天災の前触れのような不安を感じてしまうのだが」

「なんでさ!?」

 

 失礼なカルナの物言いにつっこみながらアタシはアリーナの通路を進み始めた。いつもであれば『起動鍵』を見つけた時点で探索は終了だが、今日は魔力が続く限りここに篭ってエネミー狩りをすることになる。小腹がすいた時のためのお菓子も準備万端だ。

 少し歩くと前方に通路を徘徊するエネミーが見えた。『WEATHER DRIVE』と名前がついている青いボディの鳥型エネミーだ。向こうもこちらを捕捉したようで「殺ってやんよオラァ!」という感じでこちらに向かって突っ込んでくる。

 

「カルナ先生お願いします!」

「承知した」

 

 エネミーの強さはマスターでは太刀打ちできないレベルなので戦闘はサーヴァントに任せるしかない。ガトーのおっさんなら『修行』とか言って単身でエネミーに挑みそうだけど、アタシはもちろんそんな真似をするつもりはなかった。

 空を飛びながら突っ込んでくるエネミーの動きを見極めたカルナは翼による攻撃を的確にガードし、攻撃後の隙を逃さず槍でカウンターを返す。今度は翼で身体を包み防御の体勢に入るエネミーに向かって勢いよく槍を回転させると強烈な二連撃を叩き込んだ。防御の上からでもかなりの衝撃だったのかエネミーの体勢が完全に崩れる。

 

「こんがり焼いちゃえカルナ!」

「燃え尽きるがいい」

 

 カルナの手にした槍が紅蓮の炎に包まれた。

 スキル『魔力放出(炎)』によって炎の魔力をまとった槍がエネミーを貫き、その身体を焼き尽くす。

 あわれWEATHER DRIVEはガラスの割れたような音と共に爆発四散した。

 

「ふぅ、激戦で小腹がすいたっスね。カルナさんお菓子食べていいっスか?」

「まだ1戦目な上に戦闘内容も激戦には程遠かったのだが……」

 

 半目になっているカルナを尻目にアタシはポシェットからスナック菓子を取り出す。売店で新発売していた『ムーンセルスナック 激辛麻婆豆腐味』を食べようと何気なくそばにあった壁に寄り掛かろうとした時。アタシの背中が触れるのと同時にその壁が消失した。

 

「あれ?……ってぶへぁ!」

 

 支えを失ったアタシはカエルが潰れたような声を出しながら床に倒れる。強く打ちつけてしまった背中が猛烈に痛い。

 

「なんなんスかもう……」

 

 文句を言いながら立ち上がると壁だと思っていたところに通路ができていた。いわゆる『隠し通路』というやつだろう。見た目はただの壁だが触れることにより通路が現れる仕掛けになっていて、アタシは偶然それを見つけてしまったというわけだ。

 

「お菓子を食べると言ったな。あれは嘘だ。どうっスかカルナさん。直感スキル:A持ちのジナコさんはここに隠し通路があることなんてまるっとお見通しだったんスよ!」

「どう見ても偶然だったのだが、お前がそう言うならそういうことにしておこう」

 

 隠し通路の先にはレアアイテムがあるのがセオリーだ。アタシはムーンセルがセオリーを守ってくれることを祈りながら通路を進む。するとどうやら祈りは届いたようで、たどりついた通路の突き当りに赤いアイテムフォルダを見つけた。

 

「宝箱キタコレ! きっとヤバイ級の礼装が入ってるに違いないっス!」

 

 期待に胸をふくらませながら手をかざすとアイテムフォルダが開く。中から出てきたのは礼装っぽい赤いブレスレットだった。月の電脳空間ではアイテムは手にした時点でその名称と効果を見ることが出来る。それによると名称は『カーマインブレイジ』効果は『gain_mgi』と表示されていた。

 

「どうやらサーヴァントの魔力を上昇させる術式が刻まれた礼装のようだな」

「じゃあ、これを着ければカルナの魔力を上げるコードキャストが使えるってこと?」

 

 アリーナで手に入る礼装は着けるだけで使用者に効果をもたらしてくれる。1回戦の時のように苦労して術式を作らなくても、この礼装を着けるだけでサーヴァントの魔力を上昇させる『gain_mgi』というコードキャストを使えるようになるというわけだ。

 

「でもカルナってランサーっスよね? ガチ物理メインのクラスなのに魔力上げてもしょうがないんじゃないっスか?」

「そうでもない。槍から発する炎の威力は俺の魔力に依存するものだし、1回戦で令呪の力を借りて放った『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』も同様だ。俺の魔力が上昇するということはそれらの威力が上昇することを意味している」

 

 なるほど槍を使った攻撃にはあまり影響はなくても、使用するスキルの威力が上がるのはありがたい。それに現状アタシの魔力不足でカルナのステータスはかなり制限を受けている。そのことに少し後ろめたさを感じていたが、この礼装でそれを補うことができれば晴れてサーヴァントにデカイ顔ができるというものだ。

 

「よぉし、じゃあさっそく使ってみるっスよ。うまくいったらカルナが今までアタシをディスってきた言葉の数々を取り消してもらうっスからね!」

「俺がお前を貶めたことなど一度もないはずだが……」

「自覚ないのが一番タチ悪いんスよ!」

 

 赤いブレスレット『カーマインブレイジ』を右手に装着し魔力を流し込む。これで礼装に刻まれ『gain_mgi』の術式が発動しサーヴァントの魔力が上昇。アタシはドヤ顔でカルナに完全勝利(?)する。

 ……はずだったのだが。

 

「何も……起きないっスね」

「ああ、こちらも魔力の上昇は感じられない」

 

 魔力を流し込まれた礼装はウンともスンともいわなかった。使う前に色々言ってしまった手前非常に気まずい。カルナも微妙な表情でアタシと右手のブレスレットを見つめている。

 

「次、次が本番だから! なんか台詞がいるんスよきっと『ゲインマギ発動!』『赤き腕輪よ我が従僕に力を!』『アタシの右手が真っ赤に燃える!』『I am the bone of my lard!』――――」

 

 思いつくままに叫びながら何度も『カーマインブレイジ』に魔力を流し込んだが、礼装は一向に起動しなかった。このままではサーヴァントの魔力を上げる前にアタシの魔力が尽きてしまいそうだ。

 

「か、かくなる上は……」

 

 アタシは次の行動に移るべくポシェットからリターンクリスタルを取り出した。

 

 

 

「ちょっとカレン。この礼装壊れてるじゃないっスか! ムーンセルが作った電脳空間にこんな不良品があるなんて『管理の怪物』が聞いて呆れるっスよ! ジナコさんはこの不始末に対するムーンセルの謝罪と賠償を強く要求するっス!」

 

 リターンクリスタルでアリーナを脱出したアタシが向かったのは保健室だった。扉を開いて中に飛び込むと中央のテーブルで燭台を磨いているカレンに向かって『カーマインブレイジ』を突きつける。

 あれだけやっても起動しなかったということは礼装に問題があるのだ。だからアタシは悪くない。ということで聖杯戦争の事実上のトップであるカレンにクレームをつけにきたというわけだ。エネミー狩りは途中になってしまったが仕方ない。明日から本気だす。

 

「いきなり誰が来たのかと思えば2回戦で命の恩人をぶっ殺して勝ち残った人でなしさんじゃありませんか。当社(ムーンセル)の製品にはなんの落ち度もございません。お客様が重量感溢れるその身体で踏ん付けて壊したのでは?」

 

 カレンは磨いていた燭台から目を離すと面倒臭そうにアタシとアタシが差し出している礼装『カーマインブレイジ』を見る。

 

「ああ、それ隠しておいたのに見つけちゃったんですか。豚だけに鼻はいいんですね。それは3回戦でブタコさんにだけ取得できる ”特別な” 礼装です。泣いて喜んでもいいんですよ?」

 

 妙な話だ。ムーンセルは一人のマスターに特別な礼装を渡すような贔屓はしないはずである。

 アタシの顔から言いたいことを察したのかカレンは言葉を続ける。

 

「簡単に言ってしまえば『救済措置』というやつですよ。2回戦であなたがアリーナで獲得するはずだったPPTやアイテムは全て食材になっていましたからね。マスターに提供されるリソースは一応平等でなければいけません。そこで3回戦ではあなたに強力な礼装を取得させることでつり合いを取ったというわけです」

 

 つまりこの礼装は2回戦で食材にされた為に取得できなかったPPTやアイテムの補填として提供されたものというわけだ。それなら2回戦の時に渡せよとか、なんで分かりにくい隠し通路の先に置いたとか、言いたいことは色々あるが、まずそれより先に言わなければならないことがある。

 

「まぁくれるって言うなら有難くもらっとくっスけど、初めに言った通りこの礼装壊れてるんスよ。どれだけ魔力を流しても全く起動しないっス」

「それは礼装ではなくあなたに問題があるんですよ」

 

 カレンはそう言うと燭台のロウソクに火をともした。

 

「通常何かを強化する術式というのは対象と魔力を同調させることを前提にしています。対象と魔力を同調させ術式を展開し強化する。このようにです」

 

 カレンが指を鳴らすとロウソクの火がボッと3倍ほどの大きさになる。

 彼女が魔力を対象と同調させロウソクの燃える力を強化したということなのだろう。

 

「ムーンセルの礼装を使って放つコードキャストも同じです。ただその工程の全てを礼装側で処理している為、使用者は魔力を流すだけでいい。ただこの『カーマインブレイジ』は初期段階に作られたプロトタイプの礼装なので術式は刻まれていますが、対象と魔力を同調させる機能までは持っていません。ですので魔力を流しただけでは起動しないんです」

 

 ちょっと待て。ということはこの礼装を起動させる為にはアタシが自分で対象と魔力を同調させないといけないってことっスか?

 無理だよそんなの、見た事も聞いた事もないのにできるわけないよ!(某ロボットアニメ風)

 

「それって結局は欠陥品てことじゃないっスか!」

「いいえこれは仕様です」

「いやだから……」

「仕様です」

「アッハイ」

 

 不具合を仕様と言い張る運営様マジ外道っス。

 

「ですが起動した時の効果は保証しますよ。同調機能を付けて改良した『純銀のアンクレット』はもっと上のアリーナに置かれる強力な礼装ですが、効果だけならそれと同等なのですから」

「じゃあそのアンクレットをくれればいいじゃないっスか!」

「聖杯戦争が始まった時点で全ての礼装はアリーナに配置済みでした。あの時手元にあったのは捨て忘れてた……もとい秘蔵されていたその『カーマインブレイジ』だけだったのです」

「今捨て忘れてたって言ったよね!?」

 

 結局この『カーマインブレイジ』は廃棄予定の欠陥礼装だったのだ。

 さすがにこのオチには全ジナコさんも苦笑いっス。

 

「その礼装がゴミになるか切り札になるか、それはあなた次第ということです」

 

 にこやかに無責任極まりない言葉を吐くカレン。

 正体の分からない対戦相手に起動しない礼装。

 三回戦の1日目からアタシのお先は真っ暗っス。

 これからどうなるんスかね……。




年内にもう1話投稿できるといいなぁ。

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