Fate/EXTRA NEET   作:あけろん

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ジナコ! ジナコきた! これで勝つる!
黄金の鉄の塊でできているナイト、ジナコ=カリギリ、カカッと参上!
ニートからナイトに転職なんてすごいなーあこがれちゃうなー。
……鎧着てるからってジナコさんを盾役にしないでほしいんスけど。
あ、盾持ってないから内藤だったか。
うはwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwwwっスwwwwwwww。


幻想が砕け散る時

 背後からかけられた声に振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。

 

「間桐桜です。これから7日間よろしくお願いします」

 

 そう言うとその少女は礼儀正しく頭を下げる。

 「間桐桜」という名前からして日本人なのだろう。動きに合わせて長めの黒髪(・・)がさらりと流れる。頭を上げたその顔はかなりの美少女で、清楚なたたずまいの合わさったその姿は古き良き絶滅危惧種「大和撫子」を思わせた。

 これから殺し合いをする相手によろしくも何もないと思うが、出合頭にカピバラ扱いされたり味の値踏みをされるよりは余程『普通』の対応だろう。

 どうやら今度の相手は1回戦・2回戦のようなぶっ飛んだ性格はしていないようだ。今回『普通』じゃないのはむしろアタシの方かもしれない。

 

「あ、どもご丁寧に。アタシはジナコ=カリギリっス。コンゴトモヨロシクっス」

 

 東京が何度も崩壊する某ゲーム風の挨拶を返しながらアタシは奇妙なデジャヴュを感じていた。会ったことはないはずなのに妙な懐かしさを覚えるこの感じは1回戦で白野クンに初めて会った時と同じものだ。しかしノーマル人な彼と違って間桐桜はみんな大好き黒髪ロングの美少女である。言わば完全に別次元の生き物であり、彼以上にアタシとの関わりが見えてこない。

 だがこのままでは気になって仕方がないので、白野クンの時と同様の問いかけをしてみることにする。

 

「ええっと間桐さん? どこかでアタシに会ったことはないっスか?」

 

 どう見ても不審者です。本当にありがとうございました。

 言ってて自分にドン引きだよ。あのケモ耳キャスターにもナンパ扱いされた台詞をどうしてそのまま使ってしまったのか。このままだと辺りに百合の花が咲き乱れてキマシタワーが建ってしまうっス。

 アタシは慌てて「今のナシ! ノーカンで!」と言おうとしたが、怪しさ大爆発の問いかけに対して間桐桜が見せたのは困ったような微笑みだった。

 

「ごめんなさい。分からないです」

「……へ?」

 

 意外な返答にアタシは間の抜けた声を出してしまう。

 この場合返答としては「会ったことがある」「会ったことがない」または「覚えている」「覚えていない」あとは「そっちの趣味はないので」「通報しますた」だと思うのだが、「分からない」というのはどういうことだろう。

 

「分からないってどういう……」

 

 その時アタシの言葉をさえぎる様に小柄な人影が間桐桜の前に実体化した。

 瞬間アタシはその姿に釘づけになる。

 現れたのは「若い」というよりは「幼い」という印象を受ける美少年だった。青い髪と蝶ネクタイのついた中世の服に身を包んだその姿はまるで本の中から抜けだした妖精のように見える。

 こ、これはまさしく……!

 

「ショタサーヴァントきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ジナコ、あの娘に聞きたいことがあったのではないのか?」

「そんなことはもうどうでもいいっス! 桜さん今すぐそのショタっ子をprprさせてくださいなんでもしますから!! ハァ……ハァ……!!」

「……たった今俺の中でお前の評価が底辺を更新した。我が主人ジナコ=カリギリ。お前はどこまで堕ちていく?」

 

 カルナから冷たい視線を浴びながらも鼻息荒く詰め寄ろうとするこちらを見ると現れた美少年は口を開いた。

 アタシはこれからその口で紡がれるであろう天使の旋律を聞き逃すまいと身構える。しかし彼の口から飛び出したのはその見た目とはかけ離れたダンディーな声だった。

 

「見ろ桜、あれが女を捨てた生き物のなれの果てだ。怠惰で臆病で厭世的。魔術師としての実力は並程度だがウェストサイズだけなら全ての女子マスターの中でも最強だろう。そして、おそらく、腐っている。あそこまで熟成された豚肉にはなかなかお目にかかれんぞ。おい貴様、ちょっと金メッキを貼ったからと言って調子にのるなよ。いくらメッキを貼り付けようと所詮豚肉は豚肉。牛の凶悪さには到底及ばん。いや牛は牛で腹にもたれるのでいかんな。そう鳥だ鳥を見習え。鳥はいいぞ。栄養素は低いが美しいフォルムは駄肉の中でも飛びぬけている。それに比べたら豚肉である貴様の存在価値など誤字以下のゴミに等しい。俺の視界に入るなこの腐肉!」

 

 怒涛の暴言がアタシに向かって放たれ、アタシはヘヴン状態から奈落に突き落とされる。かくして天使のような声と性格だろうとwktkしていたアタシの幻想は粉々に打ち砕かれた。

 

「こ、こんなの嘘っス。やっと出会えたショタサーヴァントが……アタシの天使が……。ウワァァァァァァァァァン!! カルナさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「落ち着けジナコ。言葉は悪いが言っていることはおおむね事実だ」

「ちょっ!? カルナさんはどっちの味方なんスか!?」

「肉体的にはお前の味方だ」

「そこは精神的と言ってほしかったっス!」

 

 その上自分のサーヴァントは奈落に落ちたアタシを慰めてもくれない。

 鉄壁を誇る黄金の鎧も言葉のナイフの前には無力だ。ついでに心の傷も癒してはくれない。

 おおブッタよ寝てるんスか。ジナコさんはこの出会いを呪うっスよ。

 

「他人の評価に無駄な情熱を捧げてきた我が主人を同じ土俵でここまで打ち負かすとはたいしたものだ。どこの英霊かは知らないが人を観察する目と煽りスキルは超一流のようだな」

「何、それしか取り柄がないのでな。そういうそちらも人をみる目には自信があるのではないか? もっとも人の善性を信じて語るお前と違って俺は人の悪性を楽しんで書きなぐる性質(たち)だ。話は合わんだろうがな」

 

 カルナと言葉を交わしながらニヤリと笑うその顔は完全に少年のものではなかった。

 ここで後ろに立つ桜さんが驚いた表情で慌てて頭を下げる。

 

「ご、ごめんなさいジナコさん。まさか彼がこんなに口が悪いなんて。どうしてそんなことを言うのキャスター」

「こればかりは性分だ。どうにもならん。それとお前が俺に代わって謝る必要はないぞ。筋合い的にも立場的にもな。どうせこちらは執筆の合間の息抜きだ。気楽に付き合っておけ」

 

 あくまで不遜な態度を崩さないキャスターに桜さんは苦笑いする。

 そのやり取りを見ながらアタシは「おや?」と思った。

 仲が良いにしろ悪いにしろここにいるということは彼女とキャスターは1回戦、2回戦を共に戦った仲のはずだ。ならば桜さんはキャスターの毒舌なんてとっくに知っているはずなのに、頭を下げた時の彼女の様子はそれをたった今知ったかのような驚きと慌てようだった。

 目の前の2人の間からはまるで出会ったばかりの他人同士のようなぎこちなさを感じる。

 

「挨拶はこれくらいでいいだろう。俺は部屋に戻るぞ桜。帰って駄作の続きを書かねばならん」

「ま、待ってキャスター!」

 

 言うだけ言って勝手に帰ろうとするキャスターを桜さんが追いかける。彼女は廊下の曲がり角で一度だけこちらを振り返り「失礼します!」と頭を下げるとその姿は見えなくなった。

 茫然と見送るしかないアタシはカルナが鋭い目付きで彼女が消えた方向を見つめていることに気が付いた。

 

「あの間桐桜というマスター……」

「なんスか獲物を狙う鷹みたいな目しちゃって。カルナさんはああいう娘が好みなんスか?」

「いや、そういう意味で見ていたわけではない。ただ……」

「ただ?」

 

 アタシの問いかけにカルナは一瞬口を開きかけたが思い直したように首を振った。

 

「……いや、サーヴァントがあの性格ではマスターは苦労しているだろうと思ってな」

「そうっスねぇ。サーヴァントの性格に苦労してるのはアタシだけじゃないってことか」

「むしろ苦労をかけられているのは俺の方だと思うのだが」

「アーアーキコエナーイ」

 

 そう言って耳を押さえながらカルナから顔をそむけたアタシはその先に見覚えのある姿を見つけて眉をひそめる。

 遠目でも目立つ赤い服を着たツインテールの少女がアタシ達と同じく桜さんが去った廊下の角を厳しい表情で見つめていた。

 

「あれ、凛さんじゃないっスか。そんなところで何してるんスか?」

 

 声をかけられた彼女は一瞬ばつの悪そうな顔をするとアタシに近づいてくる。

 

「べ、別に覗き見してたわけじゃないわよ? ちょっと通りかかっただけなんだから」

 

 いや絶対ウソでしょ。あれはカルナさんと同じ獲物を狙う鷹の目だったっス。

 

「……まさか凛さんもああいう娘が好みなんスか?」

「私にソッチの趣味はないわよ!」

 

 拳を握りながらがーっと吠えた凛さんだったが、やがて我に返りコホンと一つ咳払いをすると一転まじめな顔になる。

 

「あなたにはあの娘がどう見えた?」

「どうって、みんな大好き黒髪ロングの美少女っスけど? あと胸は凛さんより大きいっスね。まぁアタシほどじゃないっスけど」

 

 バスト109は伊達じゃないっス。ウェスト? 女子マスターにおいて最強ですが何か?

 ぐふっ!(吐血) さっきショタの皮をかぶった悪魔にやられた傷が痛むっス。

 

「む、胸の話をしてるんじゃないわよ! 見た目じゃなくて中身というか雰囲気というか話していておかしなところはなかったかって聞いてるの!」

「う~ん……」

 

 再び猛獣となった凛さんをスルーしながらアタシは考え込む。

 間桐桜は良くも悪くも普通の少女に見えた。

 デジャヴュを感じたことも彼女自身におかしいところがあったことにはならないだろう。

 あえて挙げるとしたら……。

 

「サーヴァントと妙によそよそしかったことっスかね。まぁサーヴァントとの付き合い方は人それぞれだろうし、そんなにおかしなことでもないかもしれないっスけど」

「サーヴァントと妙によそよそしかった、か……。なるほどね」

 

 凛さんは何かに納得するように一人でうなずくと踵を返す。

 

「おかげで確信が持てたわ。ありがとう」

「いや、こっちは全然分からないんスけど……」

 

 何がなんだか分からないアタシを置いて凛さんはさっさと離れていく。

 そして階段を降りようとしたところでこちらを振り返った。

 

「教えられっぱなしなのはフェアじゃないから一つだけこちらも教えてあげるわ。今度のあなたの対戦相手は ”誰でもあって誰でもない” そういうマスターよ」

 

 そう言い残して凛さんは階段を降りていきその姿は見えなくなった。

 残されたアタシは物理的にも精神的にも完全においてけぼり状態だ。

 

「カルナ、今の凛さんが言ったこと分かったっスか?」

「分からんな。しかし彼女は無意味なことを言う人間ではないだろう。どうやらあの間桐桜というマスター。お前が考えるような『普通』の少女ではないのかもしれん」

 

 アタシはもう一度桜さんが去った廊下の角を見る。

 凛さんは彼女のことを誰でもあって誰でもないマスターだと言った。だが彼女はアタシに「間桐桜」だと名乗ったはずだ。掲示板にもそう書いてあった。ならば彼女は誰でもあって誰でもないマスターではなく「間桐桜」というマスターであるはずで……。

 

「結局どういうことなんだってばよ」

 

 解けない疑問を抱えながらアタシは掲示板の前に立ち尽くした。




ジナコの幻想をぶち殺す。
この小説を書き始めた時から絶対入れようと思っていた話です。

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