Fate/EXTRA NEET   作:あけろん

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いつのまにか推薦を頂いていたりお気に入りが300を超えていたりで狂喜乱舞しております。
アタシも手足を食われた甲斐があったってもんっス!
これからもがんばりますのでこの小説をよろしくお願いします。


失われし黄金郷①

 左手と右足を食いちぎられたジナコの身体が床に倒れる。

 それを目の当たりにしながらカルナは動くことができなかった。

 彼の槍であれば《bite_gluttony()》の牙を打ち砕きジナコを守ることができるだろう。しかしそれも傍にいることができればの話だ。

 彼がジナコを助けようとすれば目の前のサーヴァントにその隙を突かれ、致命的な一撃を受けることになる。そしてそれはジナコの敗北、ひいては死につながる。

 下手に敵に背を向け、主の元に駆けつけるわけにはいかなかったのだ。

 

「ランルーの食事の邪魔はさせないわよ。あなたはそこで自分のマスターが食べられていく様をゆっくり見ているといいわ」

「随分と献身的なのだな。お前は他人に尽くすタイプではないと思っていたのだが」

 

 エリザの言葉だけでなくこれまでの行動もカルナは意外に思っていた。

 彼女は自分本位の究極をいく性格だったはずだ。

 それこそ自分の若さと美しさの為に他人の犠牲を一切いとわないくらいにである。

 そんな彼女がこの場ではマスターのコードキャスト完成の為に自分の戦い(ステージ)を前座にしてまで時間稼ぎをし、今なお「食事」の為の露払いをしている。

 ステージの真ん中でスポットライトを浴びる「アイドル」を自称するエリザがだ。

 

「今のランルーはやっと見つけた私の『パートナー』だもの。彼女の為なら泥臭い下積みでもやってやるわ。私、決めた相手には尽くすタイプなのよ?」

「なるほど、怪物は怪物同士通じ合うものがあるということか。しかしこちらもマスターが食べられるのを黙って見ているわけにはいかない」

 

 そう言うとカルナは槍を構えた。

 こうなれば彼に打てる手は一つ、エリザを倒すことだ。

 月の聖杯戦争で行われるマスター同士の勝敗はサーヴァントの勝負に委ねられている。

 カルナがエリザを倒せばその時点でジナコの勝利が決まり、この晩餐会を終わらせることができるのだ。

 

「悪いが晩餐会は俺の槍で幕を引かせてもらおう」

 

 カルナはエリザを倒しジナコを救うべく地を蹴る。

 彼の地力が今のエリザを上回っていることは最初の攻防で明らかだ。いくらマスターが追い込まれていようともサーヴァント同士の戦いならばカルナに分がある。

 しかしエリザの顔には余裕があった。

 彼女はゆっくりと槍を構えると、

 

恋愛夢想の現実逃避(セレレム・アルモディック)

 

 その身体が淡い光に包まれた。

 互いに繰り出す攻撃は三手。

 だが発動したエリザのスキルが刹那の攻防を彼女の勝利へと書き換える。

 カルナの槍は「まるでそれが決まっていたかのように」エリザに防御され、逆にエリザの繰り出した槍は「まるでそれが決まっていたかのように」カルナの防御をすり抜た。

 エリザの槍をまともに食らい、カルナの身体がよろめく。

 

「私が弱くなっていると思ったら大間違いよ。ランルーの霊格が以前より上がっている分私の階梯も高くなっているの。ステータスは下げられているけど、使えるスキルは前より増えているのよ。こんなふうに、ね!」

 

 エリザが構えた槍を手放す。

 床に落ちるかと思われた槍はふわりと浮かび、それに彼女が飛び乗った。

 

絶頂無情の夜間飛行(エステート・レビュレース)!!」

 

 槍が猛烈な勢いで射出され、カルナを襲う。

 かろうじて防御するもカルナは大きく吹き飛ばされ、その身体は激しく石畳に叩きつけられた。

 

「もう石牢で一人ぼっちはまっぴら。今のランルーは私を分かってくれる。私の歌を聞いてくれる。これから私達はずっと一緒に思う存分人間を貪るのよ」

 

 エリザの透き通った声はいつになく真剣味を帯びている。

 槍から飛び降り、再び手にした彼女は立ち上がるカルナを見て目を細めた。

 

「しぶといわね。あなたが頑張れば頑張るほどあのトド女の苦しみが長引くのが分からない?」

 

 エリザが自分の後方を指し示すとランルーの《bite_gluttony()》が発動する。

 今度はジナコの左足が食いちぎられ絶叫が闘技場に響いた。

 

「あらあらとても可哀想ね。分かったらそこで自害でもしたらどうかしら。私のマスターはオンリー・ワンだけど、あなたの方はワン・オブ・ゼムでしょう。もう諦めて早く楽にしてあげたら? 邪魔なのよあなた達」

 

 状況は絶望的だ。

 マスターは完全に死に体であり、分があると思っていたサーヴァント同士の戦いもステータスの差を多彩なスキルで埋められ、逆に追い込まれている。

 それにそもそもエリザは勝つ必要すらない。

 このままジナコがランルーによって食い尽くされてしまえば、単独行動のスキルもないカルナはエリザにやられるまでもなく消滅してしまうからだ。

 しかしそれでもカルナの槍は己ではなくエリザに向けられていた。

 

「確かに俺のマスターはそちらとは比べ物にならない落ちこぼれだ。膨大な無駄と皮下脂肪をぶら下げ、どこに向かって歩いているのかも分からない半端者だ」

 

 しかしジナコはこの聖杯戦争で1歩を踏み出した。

 遅々とした頼りない歩みだが自らの生を掴むべく戦っている。

 その姿は間違いなく尊いものだとカルナは感じていた。

 この身はマスターに寄り添うもの。

 ならばそのマスターより先に死を選ぶわけにはいかない。

 

「ジナコを死なせはしないし、俺もこんな所で消える気はない。ゆくぞ吸血鬼。この槍が貫くのは俺ではなく、貴様と決まっている」

 

 カルナはふらつく身体で槍を構える。

 彼はそれが当然のことのようワン・オブ・ゼムな主人を命の限り守る道を選んだ。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 朦朧とする意識の中で自分の荒い呼吸だけが頭に響く。

 左手と右足を食いちぎられたアタシは立ち上がることもできずに震えていた。

 あと何回これが続くのだろう。

 食いちぎられる箇所が増えるたびに全身を貫く痛みも倍化していく。

 死ぬ前に痛みで気が狂いそうだ。

 

『あなたのサーヴァントはよく持ちこたえているわ。おかげでこちらは最後まで楽しめそうよ』

 

 声に何かしらの細工がされているのだろうか。

 アタシとランルーさんの距離はかなり離れているはずだが、その声はまるで耳元で話しかけられているかのように鮮明だった。

 こうしている今もカルナは懸命に戦っているのだろう。しかしそれは結果的にランルーさんがアタシを嬲る時間を増やしているだけなのだ。

 今のアタシは食卓にのせられた「御馳走」だ。

 このまま彼女に食べられる以外の道はないのだから。

 

『でも変ね。食べても食べてもお腹がすくの。どうしてかしら』

 

 耳元で聞こえるランルーさんの声にとまどいが混じる。

 

『こんなに美味しいのに。喉を通り過ぎるとどうしてこんなに虚しいのかしら』

 

 待ち望んだ御馳走にありつけたというのにその声はなぜか悲しげに聞こえた。

 

 アタシの左手と右足を持っていったくせにどうしてそんなに不満げなのか。

 痛みに狂いそうになる心を抑える為に怒ろうとしてみたがうまくいかない。

 考えてみたら出された御馳走にとって客の満足なんてどうでもいいのだ。

 ならば恨み言の一つでも言ってやろうと思ったが、2度の絶叫で喉が痛んでうまく声が出ない。

 

『きっと量が足りないんだわ。もっともっと食べればきっと私は満たされるはずよ』

 

 三度ランルーさんの指が舞い踊り宙に魔法陣を形成する。

 

「《bite_gluttony()(来たれ暴食の牙)》」

 

 そして現れた咢が今度はアタシの左足に牙を立てる。

 

「あっ!? がああああああああああああああああああ!!」

 

 ぶちぶちと左足が引きちぎられた。

 食いちぎられたアタシの肉が魔法陣を通してランルーさんの口の中へと運ばれていく。

 前にも勝る痛みが襲い、アタシは手足の足りない身体でのたうち回る。

 

『右足とは少し味が違うのね。利き足じゃないからかしら。ああ、でも駄目だわ。とても美味しいのにお腹がすいて仕方がないの。校舎に戻ったら早く次の獲物を探さなくちゃ。そうと決まったらこの御馳走は平らげてしまいましょう』

 

 ああ、やっと終わる。

 これ以上痛い思いをしなくてすむ。

 生へ執着も戦う意思も全て痛みに塗りつぶされた。

 あとはこのまま目を閉じて……。

 

『そうね、次の獲物はあなたがよく食堂で話していた ”彼” にしましょう』

 

 ――――あの女、今なんて言った。

 

 その時冷たくなりかけていたアタシの心に熱が生まれる。

 

『一目見て気に入ったわ。 ”彼” ならきっと私を満足させてくれるはず』

 

 ――――彼とは一体誰の事だ。

 

 決まっている。

 アタシが食堂で話していた ”彼” は一人しかいない。

 

『校舎に戻ったらすぐに迎えに行きましょう。あなたより趣向をこらしておいしく食べてあげるわ。 ”彼” もきっといい声で鳴いてくれるでしょうね』

 

 ――――それは……のことか。

 

 この胸に渦巻くのは「怒り」だ。

 どうしてか分からないがアタシは ”彼” がランルーさんに食べられてしまうことに激しい怒りを感じているのだ。

 アタシと同じように手足を食いちぎられ、苦悶の声を上げながら床に倒れる ”彼” の姿が頭に浮かんだその時。

 身体の中で何かが弾けた。

 

「白野クンのことかーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 痛む喉に構わず叫んだアタシを黄金の光が包み込む。

 カルナがアタシに譲渡した宝具である『黄金の鎧』が発動したのだ。

 欠けた手足が光に包まれるのと同時に一瞬で再生する。

 アタシは左手を床につき身体を起こすと、両足を踏ん張って立ち上がった。

 

「い、一体何が……」

 

 少し離れたところで驚愕の表情を浮かべているランルーさんが見える。

 そちらに向かってアタシは言ってやった。

 

「とっくにご存知なんだろ? アタシは用務員室からやってきたノーマル人。穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説のニート……スーパーノーマル人ジナコ=カリギリっス!」




シチュエーション的にやらずにはいられなかった。
ジナコだったら絶対言うと思った。

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