Fate/EXTRA NEET   作:あけろん

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ジナコさんの本気を見るのです!
『カルナ砲』撃ち方始めっス!
……まじめにやろうか。
……そうっスね。




変貌の道化師

 そして第2回戦決戦日の朝が来た。

 マイルームを出たアタシは窓から差し込む朝日に目を細めながら伸びをする。

 

「んっん~! 昨日は堪能したっス。久しぶりだと『ジャンプキック』でさえ面白いと感じるんだから不思議っスよね」

 

 ちなみに『ジャンプキック』というのは格闘ゲームであるにも関わらずプレイヤーの出せる技がジャンプとキックしかないという謎ゲーである。

 

「しかし、4画面で同時にアニメを見ながら両手両足でゲームを4つ同時にプレイするというのはいくらなんでも無茶だったのではないか?」

 

 横に立つカルナが疲れた声を出す。

 昨日はアタシのゲームの相手をしたり、アニメ画面のリモコン操作をさせたりとかなりコキ使われたからだろう。

 神話に語られる太陽の化身が真面目な顔をしてレースゲームでクラッシュ連発したり、魔法少女物のアニメをリモコンを構えながら真剣に見ていた(飛ばすタイミングを逃さない為だろう)のには思わず笑ってしまった。

 

「時間がなかったんだからしょうがないじゃないっスか。あの後魂の改竄に時間を取られたし、今日の為にちゃんと寝る時間も確保しなきゃいけなかったんスから」

「その情熱をどうして他に向けることができない……」

 

 アタシはどこぞのラノベ主人公ではないのでゲームのスコアの方はボロボロだったっスけどね。

 ジナコさんは質より量をとる派なんスよ。

 

「それでも全部は消化できなかったっスからね。残りを消化するためにも今日死ぬわけにはいかないっス。というわけで今日の決戦はがんばるっスよカルナさん!」

「俺はお前のアニメとゲーム消化のために槍を振るうことになるのか?」

 

 がっくりと肩を落とすカルナをスルーして1階にたどり着くと決戦場へのエレベーターの前に僧服姿の言峰が立っていた。

 

「ようこそ決戦の地へ。身支度は全て整えてきたかね?」

「今日はその服装なんスね。監督役もコック服でやるのかと思ったっス」

「誰かと思えば昨日サボタージュしたロクデナシ従業員ではないか。おかげで昨日は皿が一枚も割れなかったし、料理もダメにならなかった。礼を言おう」

 

 これほど嬉しくないお礼がかつてあっただろうか、いやない(反語)。

 

「『元』従業員っスよ。約束は猶予期間までだったはず。今のアタシはもう自由の身なんスから」

「ふむ、そうだったな。短い間とはいえ共に働いた部下の門出を祝おう。カレンからも伝言を頼まれている。『100万PPT分笑わせていただきました』だそうだ。首に付いている拘束具は餞別にくれるそうだぞ」

 

 これほど嬉しくない餞別がかつてあっただろうか、いやない(天丼)。

 ていうかあの女やっぱりアタシが地獄見てるのを覗いて笑ってたわけか許せん。

 こんな首輪いらないんスけど、ただ捨てるだけじゃ気が収まらないっスね。

 2回戦が終わったら散々踏みつけた後トイレにでも流してやるっス。

 わぁいジナコさんまた死ねない理由が増えちゃったっス。やったね!

 

 首に付いている革製の黒い首輪『赤いワンちゃん』を外すとポシェットの中に突っ込む。

 

「では、監督役としての仕事に戻らせてもらうとしよう。扉はひとつ、再びこの校舎に戻るのも一組。覚悟を決めたのなら、闘技場への扉を開こう」

 

 アタシは戦う意思を示すためアリーナで獲得した2つの暗号鍵(トリガー)を提示する。

 これを取るために遅刻して拷問着ぐるみ『るなっしー』を着せられたっけ。

 思い出したくないっス。

 

 言峰がうなづくと1回戦と同じく闘技場へのエレベーターを封鎖していた鎖が砕けた。

 

「いいだろう、重き闘士よ。決戦の扉は今、開かれた。その身体に溜め込んだ余分なカロリーを闘技場で存分に消費してくるがいい」

「毎度余計なお世話っス! デブじゃないもん! ぽっちゃりだもん!」

 

 張りつめてる決戦前のマスターをさらっとディスるのやめてもらえませんかね。

 鬱って負けたら化けて出てやるっス。

 

「ささやかながら幸運を祈ろう。再びこの校舎に戻れることを。そして――――存分に、殺し合い給え」

 

 相変わらずの物騒な言葉に見送られながらアタシはエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 後ろで扉が閉まると同時にエレベーターが降下を始める。

 対戦相手のマスターとサーヴァントもこのエレベーターに乗り込んでいるはずだ。

 閉鎖空間でのランルーくんとランサーのやり取りはアタシも聞いている。

 アタシの相手は愛する人間しか食べられないという本能を抑えながら子供に会いに行くために聖杯を求める母親でもあるマスターだ。

 システムの壁を隔てた向こうにはレンレンバーガーのマスコットの姿をしたランルーくんが血走った目でアタシを見ているはず……。

 

「――――いらっしゃい。待ってたわ」

 

 見ていなかった。

 それどころかランルーくんの姿すらない。

 そこにいたのは赤いドレスを着た1人の女だった。

 もちろん顔にマスコットの化粧もしていない。

 

「今日はよろしくね。いい戦いをしましょう」

 

 再び女が口を開く。

 少しハスキーな色気のある声。

 そしてその容姿は絶世の美女を呼べるほどに美しかった。

 長く伸びた栗色の髪はウェーブしながら艶やかな光沢を放ち、長いまつ毛がのった切れ長の瞳がアタシを見つめている。

 モデルのように高い身長と均整のとれたプロポーションに真っ赤なドレスが似合いすぎるほど似合っていた。

 

 え、誰?

 ジナコさんこんな人知らないっスよ?

 ははぁん、さては……。

 

「あの馬鹿神父がミスって別のマスターがいるエレベーターに乗せられたんスね? カルナさん呼び出しボタンを連打っス。厨房仕事でなまった監督役に文句を言ってやるっスよ」

「いや、ジナコどうやら……」

「その必要はないわよ」

 

 カルナの言葉をさえぎって虚空から人影が現れる。

 今度は見知った顔だった。

 可憐な容姿に硬質の角と尻尾を持つ少女。

 ランルーくんのサーヴァント、ランサーだ。

 

「あなたの対戦相手は彼女で間違いないわ」

「またご冗談を。アタシの対戦相手はランルーくんっスよ?」

「だから彼女がランルーよ」

「……は?」

 

 アタシは目の前の超絶美人を凝視する。

 見れば見るほどきれいな人だ。

 姿、声ともにアタシが出会った中でもベスト3に入るだろう。(1位はママ)

 ついていかない頭でカルナを見ると「そのとおりだ」と言わんばかりに大きくうなづいていた。

 視線を超絶美人の方に戻すと彼女は柔らかく微笑む。

 

「服装と髪型を変えてメイクも落としているのだから分からなくて当然だわ。混乱させてしまってごめんなさいね」

 

 なんということでしょう。

 ランルーくんって素顔はこんなに美人さんだったのか。

 ていうか声まで変わってるし、どこのエステサロンに行ってきたのかと。

 これはもうランルーくんじゃない『ランルーさん』っス。

 

 信じられないビフォーアフターについていけないアタシにランルーさんが話しかけてくる。

 

「それで調子はどうかしら? 昨日はよく眠れた?」

「ええ、ちゃんと眠れたっス」

「持病とかはどう? 何か常用してる薬はあるのかしら」

「いや、特にはないっス」

「何か身体に特殊な改造をしていたりは?」

「ないっスよ。ピアスの穴すら開けてないっス」

 

 なんだかおかしな質問だったが、相手の雰囲気にのまれてスラスラと答えてしまう。

 驚いたがこれは逆にやりやすくなったのかもしれない。

 以前のランルーくんには本能を無理やり押さえつけている危うさがあった。

 あの血走った目に見つめられると生きた心地がしなかったものだ。

 いまのランルーさんは確かにものすごい美人だが、普通のお姉さんに見える。

 まるで狂った本能が消えてしまったかのように。

 ランルーさんはアタシの言葉に「そう……」とつぶやくととても嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「良かった。これならおいしく食べることができそうね(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 一瞬何を言われたのか分からなかった。

 

「少し脂が多そうだけど、薬臭くないのと手が加えられてないところは高得点ね。やっぱり初めての肉はナチュラルな味じゃないと」

 

 アタシは耳を疑った。

 以前のランルーくんでさえアタシを「食べる」とは言わなかったのだ。

 もしかして彼女の狂った本能は消えてしまったのではなく……。

 

「ええ、『解放』されたのよ。邪魔なモノから解き放たれたってわけ」

 

 声の主はランルーさんの隣に立つランサーだ。

 

「あなたも見てたでしょ? スポンサーの手でランルーの『母性愛』が引っこ抜かれるところを」

 

 あの時だ。

 閉鎖空間で殺生院キアラが「ランルーくん」の胸から光る玉を抜き出したのをアタシも目の当たりにしている。

 

「ランルーが壊れかけていたのは暴走しようとする本能を無理やり抑え込んでいたからなの。あの格好だって自分の美しさを隠して人を寄せ付けない為だったみたいだしね。それがなくなった今、私のマスターは本来あるべき姿に戻ったのよ」

「ええ、とてもいい気分だわ。以前の私は何を悩んでいたのかしら。愛する者しか食べられない? そして愛する者は食べられない? 馬鹿なことだわ。愛する者も憎い者も、親も夫も友人も、そして自分の子供でさえも私にとっては同じモノ。お腹を満たす肉の塊にすぎないのだから」

 

 ランサーの言葉にうなづくランルーさんの顔に狂気の色はない。

 だがアタシを見つめるその目に背筋が凍った。

 あれは「養豚場の豚を見る目」というやつだ。

 彼女にとってアタシの生死に意味はなく、その人生を尊ぶことをせず、共に笑おうとは露とも思わず、あるのはただアタシの肉が美味しいかどうかの興味だけなのだ。

 

「どうやらまともなのは見た目だけのようだな。中身は前の方がまだまともだった」

 

 カルナがアタシをかばうように前に出る。

 

「3日に1度しか風呂に入らない我が主の肉が食べたいとは物好きもいたものだ。だがいきなりメインディッシュは腹にもたれるだろう。前菜に俺の槍を味わっていけ」

「あら衛生面に難があったのね。いいわ、汚れは洗えば落ちるもの」

 

 カルナの脅しにもランルーさんは動じない。

 やがてエレベーターが最下層にたどりつき闘技場への扉が開いた。

 

「さぁ、食事前の軽い運動よエリザ。肉は私に血はあなたに。晩餐会を始めましょう」

「ええ、任されたわ『パートナー』! ユニットになった私達の初ライブよ!」

 

 そしてアタシの聖杯戦争第2回戦が始まる。




やったねエリザちゃん。ベストパートナーに出会えたよ!(錯乱)

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