とりあえず2話です。
「始まりましたね。私を楽しませてくれるのはどんなマスターかしら。勝利を約束された天才か、取るに足らない路傍の石か、はたまた惰眠をむさぼるメス豚か。うふふ……楽しみですね」
「 」
「悪趣味ですって? あなたには言われたくないですね。私は《ムーンセル》に与えられた健康管理AIの役目はきちんとこなしています。自分の欲望を満たすことしか考えていないあなたと一緒にしないでください」
「 」
「ええ、あの場所は封印済みです。一人入口に気がついたマスターがいたようですが問題ないでしょう。あの程度の実力なら1回戦で消えるでしょうし」
「 」
「分かっています。”彼女”を排除できたのはあなたのおかげでもありますから。今のところは見逃して差し上げますよ。でもやりすぎればどうなるか、分かっていますよね?」
「 」
「いいでしょう。その醜悪な願いを叶える為にせいぜいがんばってください。では、よき戦いを」
◆ ◆ ◆
『アリーナ? なんスかそれ。辛いんスか?』
『あのNPCの話を聞いていなかったのかジナコ。マスターが7日後の戦いに備えて己を鍛える場所がアリーナだ』
『ああ、あの陰気な神父さんがそんなこと言ってたっスね』
『あのカレンというNPCの言葉から戦いが避けられないことは分かっただろう。ならばアリーナで鍛錬を……』
『だが断る』
『なんだと?』
『この程度のことでジナコさんのニート魂がくじけると思ったら大間違いっス! 考えてみたらあの用務員室に入れなくなっただけじゃないッスか。まだメインカメラをやられただけ。ジナコさんは絶対に自分を曲げないっスよ!』
『眠れる蝸牛にも一分の矜持があるというわけか。だが忘れるなジナコ。7日後にお前を待つのはシステムによる緩やかな死ではない。敵マスターとの殺し合いの果てに訪れる無残な敗死だ』
『……ッ! アタシもう寝る! 絶対起こさないでよカルナ!』
そう言ってたどり着いたマスター用のマイルームで眠りについたのが昨日のこと。
「ん、んん……」
アタシの意識が眠りの中から目覚める。
今何時だろうか。
なんだか布団の外の空気が妙に冷たい気がする。
アタシは布団から身を起こし――――。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
身を起こしたアタシの目に飛び込んできたのは眠りについたマイルームの室内ではなかった。
辺りは先の見えない深い闇。
そこに浮かぶ立体的な通路が入り組みながら奥へと続いている。
「ようやく起きたかジナコ。先ほどの叫び声の勢いから察するによく眠れたようだな」
「か、カルナさん! 何がどうなってるんスか! ここはどこっスか!?」
「ふむ、どうやらアリーナのようだな」
「マイルームで寝てたアタシがどうしてアリーナにいるんスか! しかも布団ごと!」
「どうやら朝になると同時にここに転移させられたようだな。布団ごと」
朝になると同時に転移?
布団を引っぺがすどころかまるごと外に放り出すこの所業。
こんな外道なことを一体誰がするというのか……。
『おはようございますブタコさん。アリーナの寝心地はいかがですか?』
聞き覚えのある声がアリーナに響く。
うん、なんとなくそんな気はしてたっス。
「ボクをここに放り出したのはあんたっスか? カレン」
『ええ、その通りです。本当は顔を合わせてご挨拶したいところなんですが、私も忙しい身ですから声だけで失礼しますね。ああ……紅茶がおいしい』
絶対忙しくないよこの女。
人を部屋から拉致っといて自分は優雅にティータイムだよ。
そしてジナコさんの怒りは有頂天だよ!
「このドS銀髪鬼! あんたは1度ならず2度までもアタシから安息の地を奪うんスか!」
「マイルームは不可侵領域のはずだ。上級AIであっても手はだせないはずだが?」
アタシとカルナの言葉に声だけのカレンが答える。
『未だに戦う覚悟もない豚さんにマスターとしての権利が与えられるとでも? プライベートルームが欲しいのならせめて人に進化してきてください。入り口は封鎖しましたし、リターンクリスタルは使用不能に設定させて頂きました。ここから出たいのならアリーナの奥にある出口までたどり着くことですね。ではごきげんよう。そうだわ、棚においしいクッキーがあったわね……』
言いたいことを言ってカレンの声は途切れる。
「さて引き篭もる場所すらなくなってしまったわけだが、それでも曲がらないニート魂とやらをお前は持ち合わせているかジナコ」
「曲がるどころかへし折れたっスよカルナさん……」
こうなった以上出口にたどりつくしか道はない。
アタシは闇の中に浮かぶ通路へと足を踏み出した。
しばらく歩いたところで正面に丸い物体が浮かんでいるのを見つける。
「な、何かいるよ。カルナ」
「アリーナに放たれている攻性プログラムだな。近づけば攻撃してくるぞ」
「うええ!? それじゃ通れないじゃない!」
「心配するな。何のために俺がいると思っている」
そうだった。アタシにはサーヴァントがいる。
人ならざる神秘の体現者にして無類の武勇の使い手。
サーヴァントはマスターにとって最強の盾にして矛。
彼にとってあのような攻性プログラムなど敵ではないのだ。
「じゃあやっちゃおう。カルナ先生お願いします!」
「よかろう。我が槍の神技その目に焼き付けるがいい」
力強い言葉を残して敵へと駆けるカルナ。
彼の槍によるすさまじい一撃で攻性プログラムは粉砕――――されなかった。
「ぐはぁ!」
逆に敵の体当たりを食らいカルナがよろめく。
え? え?
ええええええええええええええええ!?
「ちょ、何やってるっスかカルナさん! 遊んでないで早く片付けるっス!」
「予想以上に魔力が足りない。槍の具現化もできないとはお前の魔力量はどうなっている」
え、魔力?
ちょ、ちょっと待つっス。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ! 燃え上がれアタシの魔力! セブンセンシズに目覚める勢いで! どうっすかカルナさん! 槍でもミサイルでも具現化できそうっスか!?」
「……もういい。素手で戦うしかないようだ」
そう言ってペチペチと拳で敵を殴り始めるカルナさん。
その背中には男の悲哀が漂っていた。
◆ ◆ ◆
その後カルナは一匹にかなりの時間をかけながらも全ての敵を撃破し、
アタシ達はアリーナの出口にたどりつくことができた。
「よくもまぁそんな体たらくで『我が槍の神技その目に焼き付けるがいい(笑)』なんて言えたもんスね。かわりにカルナさんのペチペチ拳法だけはしっかりこの目に焼きついたっスよ。動画サイトに上げて一人弾幕したいぐらい見事だったっス」
「自分の未熟さを棚に上げてサーヴァントを笑いものにしようとはたいした厚顔ぶりだ。俺もサーヴァントとして恥が高い」
「そこは鼻! 鼻って言うのよ絶対!」
あーつかれたー。
とっととマイルーム(仮)に帰って寝たい。
ていうかアリーナに布団置きっぱなしにしちゃったけど代わりの布団ってあったっけ。
「待てジナコ。マイルームに帰る前に向かうべき場所があるだろう」
「え、どこっスか? ジナコさんがこれから向かうべき場所はマイルームの布団の中だけっス」
「掲示板に1回戦の対戦者が貼りだされているはずだ。相手の名前くらいは知っておいたほうがいいのではないか?」
「あー……」
正直気が進まない。
でも、知りたいと思う自分もいる。
自分を殺すのは一体どういう人間なのか。
アタシが重い足取りで掲示板の前にたどりつくと見慣れない一枚の紙が張り出されていた。
真っ白な紙には2人の名前が書き込まれている。
一人はアタシそしてもう一人は――――。
マスター:臥籐門司
決戦場:一の月想海
それが5日後にアタシを殺すマスターの名前だった。
はい、あとがきです。
そうだアリーナへ行こう(強制)の巻になります。
Fate/extraはCCCを含め全部やりましたが作者の知らない設定がまだ沢山あると思います。
おかしいところが多々出てくるかと思いますが、生暖かい目で見ていただければ思います。
ジナ子じゃないジナコだったorz
修正しました。