Fate/EXTRA NEET   作:あけろん

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面白い漫画だったっスよねアレ。
ドラマにもなったしな。


100万の女

「ひゃく……まん……?」

「ええ、100万PPTです。ビタ一文まかりませんのでそのおつもりで」

「そんなの払えるわけないじゃないっスか!」

 

 あまりにも法外な治療費にアタシは叫ぶ。

 無免許の闇医者かあんたは!

 

「払えないというのでしたら、あなたのサーヴァントはずっとこのままです。もちろん決戦にもサーヴァントなしで臨んでもらいますよ。人の身で英霊に勝利できるのか試してみるのも一興かもしれませんね」

 

 冗談じゃない。

 人がサーヴァントに挑んで勝てるわけがない。

 しかも掲示板の前で会ったあのサーヴァントはどう見てもまっとうな英霊じゃなかった。

 アレに挑めばあっさり殺されるのはまだいい方だろう。

 おそらくじわじわとロクでもない殺され方をするのは目に見えている。

 最後に死なせてくれるのかどうかも怪しいところだ。

 

「そんなことできるわけないでしょーが! カルナも黙ってないで何か言ってやるっス!」

 

 アタシの言葉に天井から吊り下げられたカルナが口を開く。

 

「カレン、その治療費というのはPPTで支払わなければならないのか?」

「他のものでも構いませんよ。その場合私が100万PPTの価値があると認めたものに限りますが」

「では俺の『槍』を差し出そう。それでどうだ」

 

 ちょ!? 何言ってるんスかカルナさん!

 

「伝承に謳われる『雷神の槍』ですか。価値で言えば100万どころではすまない代物ですが、本当にいいのですか?」

「ダメっスよ! あれはカルナの大切な武器でしょう!? 明日からビームを撃つしか能がない『ランチャー』になっちゃってもいいんスか!?」

「かまわん。お前を一人で戦わせるくらいなら槍の一つや二つ喜んで差し出そう」

 

 カルナはなんの迷いもなくそう言い切った。

 サーヴァントの傷を満足に治すこともできないマスターを一言も責めることなく、

 この英霊はアタシの為に自分の分身である槍を手放そうとしているのだ。

 

「いいでしょう交渉成立です。では槍をこちらに――――」

「ちょっと待ったぁ!」

 

 1回戦でもそうだった。

 いつもカルナは未熟なアタシのツケを全て引き受けてくれる。

 でもいつまでもそれじゃダメなんだ。

 こんなことになったのは元はと言えばアタシのせい。

 だからこの100万PPT(ツケ)はアタシが払わなければいけないんだ。

 

「カルナの槍は渡せないっス。治療費はアタシがなんとかするっスよ」

「あなたが100万PPTを支払うと? それとも何かそれ相応の品を持っているのですか?」

「いや、アタシはあんたに支払えるものは何も持ってないっス」

「お話になりませんね。それでどうするおつもりですか?」

「だから買ってほしい(・・・・・・)んスよ」

「……どういうことですか?」

 

 アタシは眉をひそめるカレンを正面から見つめた。

 

「2回戦のアタシに与えられた猶予期間(モラトリアム)を100万PPTで買わないっスか?」

 

 一瞬部屋に沈黙が落ちる。

 

「買ってくれるのならこれから6日間アタシの時間はあんたのものっス。言うことはなんでも聞くし、やってやるっスよ。奴隷にするなりペットにするなり好きにすればいいっス」

「ジナコ、それは無謀だ。やはり俺が……」

「カルナは黙ってて」

 

 何かを言おうとするカルナを一言で黙らせるとアタシはカレンの返事を待つ。

 彼女は一瞬驚いたように目を見開いたがそれはすぐに呆れたような表情に変わった。

 

「何を言い出すかと思えば……。私があなたの6日間に100万PPTの価値を見出すと思っているのですか? 15年という月日を無為に過ごしてきたあなたのたった6日間に?」

「確かにあの頃のアタシの6日間なら二束三文でも売れないかもしれないっスね。でもこれからの6日間はアタシにとって生きるか死ぬが決まる時間になるんスよ。それにもし次の決戦でアタシが負けたならこの6日間がそのままアタシの余命になるわけっス」

 

 次の対戦相手にガトーのような手心は期待できないだろう。

 客観的に見て2回戦でアタシが勝てる見込みは現時点では低い。

 

「アタシの人生最後の時間になるかもしれない6日間っス。正直100万PPTでも安いと思っているんスけど、そこのところどうスかねカレン?」

 

 アタシの言葉にカレンは少し考え込んだが、やがて口元をニヤリと歪めると言った。

 

「……いいでしょう。『雷神の槍』より余程おもしろそうです。あなたの猶予期間、私が100万PPTで買いました」

 

 その言葉と同時にカレンの手に何かが具現化する。

 それはロックミュージシャンが付けるような革製の黒い『首輪』だった。

 

「こんなこともあろうかと作っておいた奴隷用拘束具『赤いワンちゃん』です。これからの6日間を私に売り払う証としてこれを身に着けて頂きましょう。それで交渉成立です」

 

 どんなことを想定していたんスかねこの女は、怖すぎっス。

 しかも黒い首輪で『赤いワンちゃん』とか意味不明っスよ。

 まぁ、付けるしかないんだけど。

 

「本当にいいのだなジナコ」

「大丈夫だって。少しはマスターに恰好つけさせるっスよ」

 

 念押ししてくるカルナを振り切ってアタシは首輪をつける。

 

「結構です。では約束通りサーヴァントは解放しましょう」

 

 カレンが手をかざすとカルナを拘束していた聖骸布が解かれた。

 

「さぁ、今度はこっちが約束を果たす番っスね。何をすればいいんスか? 鎖を付けて校内を散歩? それともひざまづいて足でも舐めればいいっスか?」

 

 この提案をした時から覚悟はできている。

 どんな無茶な要求だろうと耐え切ってみせよう。

 

「あなたを連れて散歩したところで恥ずかしいだけですし、足を舐められたところで汚いだけです。そんなことよりももっと楽しいことを思いつきました。あなたという人間の大部分を ”壊す” 。そんな素敵な命令をね。うふふふふ……」

 

 カレンの顔が邪悪に歪む。

 

 なんだこの女何を思いついた。

 アタシという人間の大部分を壊す?

 もしかして洗脳!? まさかの人体改造!?

 ジナコさん英霊じゃないライダーになっちゃうの!?

 

「ジナコ逃げるぞ。さすがの俺もマスターが変身ヒーローになる状況は受け入れ難い」

「おおお落ち着くっス、カルナさん。ままままだ慌てる時間じゃないっスよ!」

 

 だが次にカレンの口から飛び出した言葉は

 アタシにとっての最悪のさらにナナメ上をいくものだった。

 

「あなたには6日間この月海原学園に就職(・・)し、用務員として働いて(・・・)頂きます」

「な……」

 

 一瞬何を言われたのか分からなくなる。

 1秒後に全身を突き刺すような拒否反応、

 2秒後にこみあげる吐き気をどうにか抑え、

 3秒後にようやく脳がその言葉を理解した。

 

 なんだとおおおおおおおおおおおおおおおお!?

 それだけは絶対に嫌だああああああああああ!!

 働きたくないでゴザル!

 働きたくないでゴザル!!

 働きたくないでゴザル!!!

 

「それだけは勘弁してほしいっス! 他の命令ならなんでも聞くからどうかそれだけは! こ、このジナコさんが就職して働くだと!? ぎゃあああああああ! 口に出しただけで逝っちゃいそうっス!!」

「その苦痛にゆがんだ顔ゾクゾクしちゃいます。今更条件の変更は効きませんよ。6日間たっぷりとこき使ってあげますので楽しみにしていてくださいね♪」

「殺せえ! いっそひと思いに殺せええええええええ!!」

「……槍を差し出さなくて本当に良かった」

 

 床でじたばたと暴れるアタシと心から安堵するカルナ。

 そしてそれを見ながら愉悦の笑みを浮かべるカレン。

 

 こうしてアタシという人間の大部分であった『ニート』という属性は、

 保健室の悪魔の手によって粉々に破壊されたのだった。

 

 それはニートなアタシが味わった完全敗北。

 それは世にも恐ろしい労働(じごく)の始まり。

 それはこの歳で初めて登る社会人への階段。

 

「就職おめでとうジナコ。おまえの両親も天国でさぞかし喜んでいるだろう」

「がんばって家畜から立派な社畜になって下さいね♪」

「お前らちょっと黙るっスよ!」

 

 ジナコ=カリギリ29歳。

 今日から社会人1年生です。

 

 どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 




色々と突っ込みどころ満載の展開ですがご容赦を。
次回から題名がFate/EXTRA YOMINになります(嘘)

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