Fate/EXTRA NEET   作:あけろん

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今度はちゃんとシリアスを通せるんスよね?
い、いや……シリアスなギャグっていうのもあってね?(震え声)


君を忘れず

 カルナの右目から放たれた光は決戦場全体を白く染め上げていた。

 近くにいるアタシも眩しくて目を開けていられないほどだ。

 

 これ熱視線てレベルじゃねーっスよ!

 カルナさん『眼で殺す』ってそういう意味じゃないから!

 まぁ、アルクェイドがカルナの視線でメロメロになっても困るんスけどね。

 どっかの死神に分割されそうな気がするし。

 

 アタシの右手の甲に刻まれた令呪の一画が消失する。

 決戦場を染め上げる光が徐々に消失していく。

 そしてようやく見えるようになったカルナの背中が大きくよろめいた。

 

「カルナ!」

「大丈夫だ。まだ倒れるわけにはいかないからな」

 

 令呪の、いやアタシの意志に応えてあの技に全ての力を使ったのだろう。

 かくいうアタシの魔力も底をついている。

 令呪の魔力も乗せた閃光は確かにアルクェイドを貫いた。

 あれを食らって無事でいられるはずがない。

 

 とか考えてる時点でフラグっスかね。

 ここで「やったか!?」なんて死んでも言わないっスよ。

 

 光が消失した決戦場でアタシはガトーを探す。

 

「ふん、『アタシの敵はおっさんじゃない』か。なるほどな」

 

 声が聞こえた方向に目を向けるとガトーは神妙な面持ちでこちらを見ていた。

 傍らにアルクェイドも立っている。

 

 やっぱ嫌なフラグ建っちゃってたスね。

 でも諦めてなんてやるもんか。

 もう一つ令呪を使ってでも最後まであがいてやる。

 

 もう一度カルナにあの技を使ってもらうか。

 それとも両腕を治して正攻法で戦うか。

 それとも……。

 

 立っているのもやっとなアタシが思案をめぐらせたその時。

 ガトーがこちらを見てふっと笑った気がした。

 その顔に先ほどまでの敵意は微塵もなくて――――。

 

「間が悪かった……か」

 

 短くそう言ったガトーの横でアルクェイドがどさりと音を立てて倒れる。

 

「あ……え……?」

 

 頭が真っ白になっているアタシの前に、

 勝者と敗者を隔てる赤いシステム壁が現れる。

 

 臥籐門司のサーヴァントは倒れたまま動かない。

 そしてアタシのサーヴァントはかろうじてだがまだ立っている。

 

 勝った……の?

 

 もしかして負けたのは自分なのではと身体を見るが

 何も起こる気配はない。

 ということは。

 

「お主の『敵』は自分自身だったというわけか。見事にしてやられたわい」

「おっさん、それ……」

 

 赤いシステム壁の向こう。

 臥籐門司のアバターは足元から黒く変色し崩壊しようとしていた。

 このSE.RA.PH(セラフ)でアバターを失うということは

 すなわち『死ぬ』ということに他ならない。

 

「なんて顔をしておる。勝者のする顔ではないぞジナコ」

「だって……だって……」

 

 考えなかったわけではない。

 アタシが勝つということはガトーが負けるということ。

 アタシが生き残るということはガトーが死ぬということなのだ。

 決して考えなかったわけではない。

 しかし死にゆくガトーを前にして初めてアタシは現実を突きつけられる。

 自分の意思を貫いた結果ガトーを殺してしまったという現実を。

 

「アタシが……アタシが負ければよかったんだ……」

 

 小さなつぶやきが漏れる。

 

 アタシは自分の為に『負けたくない』と願い、

 ガトーは人々の為に『救いたい』と願った。

 どちらが生き残るべき人間なのかは明白だ。

 

 ガトーの迷いのない信念はいつか人々を救うかもしれない。

 だがアタシのようなニートが生き残ったところで何の役にも立ちはしないのだから。

 

「それは違う。それは違うのだジナコ」

 

 身体の半分を黒く染めながらガトーが首を振る。

 

「お主と小生の願いに優劣などありはしなかった。あったのは強弱だけよ。お主の願いが愚僧(おれ)の願いよりも強かった。それならばお主こそが生き残るべき者なのだ。お主はよく自分をニートだと蔑むが、人間とはそもそも奪い、殺し、貪り、そして忘れるスーパーニートなのだ! 何も悪いことではない!」

 

 そう言うガトーは敗北を経てもその言動に少しの迷いも感じられない。

 対するアタシは下を向いて泣くのをこらえるのに必死だった。

 これではどちらが勝者なのかわからない。

 

「ほれ、このハイパーイケメン求道僧に勝利したのだ。胸を張るがいい。なんならそこでコサックダンスを踊ってもかまわんぞ?」

「グスッ……まだイケメン力のこと気にしてたんスか? それにあの時は勢いで言ったけど正直ジナコさんの体型でコサックダンスは無理があるんスよ……」

 

 アタシ目をこすりながらは丸まりかけた背を正す。

 ガトーの最期をその目に焼き付ける為に。

 その身体は大部分が崩壊しておりもう顔の一部しか残っていなかった。

 

「しかしあらゆる教えを体得しながらもついに人間を救うことはできなんだか……」

「そんなことはないっスよ」

 

 もう時間がないガトーの言葉をアタシははっきりと否定する。

 

「少なくともおっさんに救われた人間が一人はいるっス。それはアタシが保証するっスよ」

「そう……か……」

 

 もうガトーの表情は分からない。

 だがアタシは確かにその顔が笑ったように見えた。

 

「ならば……良しとするかのぅ……」

 

 そしてついにその巨躯が完全に崩壊し消滅する。

 それが『敵』ではないアタシを殺すことを良しとせず己の在り方を貫き通した求道僧。

 臥籐門司の最期だった。

 

「――――はぁ、ようやく解放されたかー」

 

 その時決戦場に聞き覚えのない声が響く。

 驚いてそちらを見るとなんとアルクェイドが立ち上がっていた。

 

 え、ええええええええええ!?

 マスターがいないのにどうして消えないんスか!?

 それどころか普通に立ち上がってるんですけど!?

 

「ないわコレ! と思っていたんだけど最期はちょっとかっこよかったわよガトー。さよなら純真なマスターさん? アナタの教義に輪廻転生があるのなら、次の命で会いましょう」

 

 軽い調子ながらもその言葉にはガトーの死を悼む心が感じられる。

 

「さすがに真祖を殺しきる(・・・・)ことはできなかったか。マスターがいなくなり、サーヴァントの枠から解放されたのだろう」

「そーゆーこと。あのビームすごかったわね~。アナタの視線でお姉さんの心臓は見事に撃ち抜かれちゃったゾ☆」

 

 カルナの言葉にアルクェイドは頬に手を当てながらクネクネしている。

 

 ……なんかサーヴァントだった時とのギャップがひどいっス。

 ハッ!? まさかこの真アルクェイドとまだ戦わないといけないとか!?

 もうやめて! ジナコさんの魔力はゼロよ!

 

「これ以上戦う気なんてないから安心しなさい。そもそも此処どこなの? なんだか体がピリピリするんだけど。場違いな気もするしアタシは帰るわね」

「帰るって……」

 

 あっけに取られるアタシを置き去りに

 アルクェイドは決戦場の壁面に歩み寄るとその爪を一閃する。

 すると瞬く間に彼女が通れるほどの穴が空いた。

 

 デタラメすぎっス。

 帰るなら早く帰ってプリーズ。

 

「――――あ、そうそう。そこのアナタ?」

 

 穴へと向かう足を止めるとアルクェイドはこちらを振り返った。

 

 帰ると思ったんだがそんなことはなかったぜ。

 ななななんでしょうかアルク様。

 このジナコさんに落ち度でも!?

 

「意識がなかったとはいえやってくれたみたいね。殺されかけるなんて2回目よ。懐かしい気持ちにしてもらったお礼にいいこと教えてあげる」

 

 しかしアルクェイドの表情は屈託のない笑顔だった。

 彼女は赤い瞳でアタシを見ながら続ける。

 

「今ちょっと見えたんだけど校舎になんか甘ったるくてピンクの色魔がいるみたい。あなたは女だから大丈夫かもだけど一応気をつけなさい。なんだかアレ、かなり性質(たち)が悪そうだから」

 

 そう言うとアルクェイドは踵を返す。

 

「じゃあ、縁があったらまた会いましょう。その時は――――私を倒した責任ちゃんととってもらうんだから」

 

 今度こそ彼女は壁に空いた穴に飛び込んでいく。

 その姿が消えるのと同時に壁の穴も消失した。

 後に残るのは静寂。

 決戦場に残るのは勝者であるアタシとカルナだけだ。

 

「終わったんだね」

「ああ、終わったな」

「アタシ勝ったんだよね」

「ああ、勝ったのはお前だジナコ」

 

 カルナに言われてもアタシの心には

 勝利に対する喜びも達成感も沸いてはこなかった。

 アタシは聖杯戦争の1回戦を生き残った。

 ただそれだけ。

 だが何も得られなかったわけではない。

 アタシが初めて本気で向かい合い、ぶつかり合った男。

 その結果、アタシの替わりに死んでしまった男。

 例え人間が奪い、殺し、貪り、そして忘れる存在だったとしても、

 その男のことだけは絶対に忘れないとアタシは心に誓ったのだった。




臥籐門司はジナコが初めて本気で向き合った他人なのだと思います。
1回戦の相手がガトーじゃなかったらこの小説はできていませんね。
どうやって最初の一歩を踏み出させればいいのか分からないもん。
当初は1回戦で勝ったジナコが「これからもがんばるっス!」と言って完の予定だったんですが、
すまんのうもう少し続くんじゃ。

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