九条院金丸の華麗なる学園生活   作:ニョニュム

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問 次の2枚の絵を描いた画家の名前を答えなさい。
【ひまわり】
【アルルの寝室】

 九条院金丸の答え
 フィンセント・ファン・ゴッホ
 もしくは
 ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ

 教師のコメント
 正解です。流石、九条院君と言った所でしょうか。ですが、答えは簡潔にしても構いません。

 土屋康太の答え
 ゴッハ

 教師のコメント
 ……誰ですか? おそらくゴッホとバッハが混ざったのでしょうか?

 吉井明久の答え
 バッホ

 教師のコメント
 ……貴方達はフュージョンしてください。



第5話

 一切の力を振るわず、突出戦力と劣悪な設備による交渉を行いFクラスはDクラスとCクラスを傘下に収めることが出来た。これはある程度交戦する覚悟を決めていた雄二にとって思い掛けない産物である。手放しで喜べない事情もあるがそれでも状況は雄二の描いたAクラス打倒に対して有利に傾いている。

 

 同時に次のBクラスは金丸と姫路を使者に送った所で降伏しないだろう、と雄二は睨んでいる。それはムッツリーニを使って調べ上げた結果、Bクラスの代表が根本恭二と判明しているからだ。根本恭二はとにかく性格が悪いことで有名だ。根本恭二の性格が悪いことを学校中に知らしめた事件がある。周囲の人間はその事件のことを“下剋上事件”と呼び、根本のことを指差して笑う。

 

 一年の時、何をトチ狂ったのか根本は金丸に対して喧嘩を売ったことがある。確か理由は告白した相手の女子生徒が熱心な金丸のファンクラブ会員で告白を一蹴されたとか。金丸に何の非もない、完全な逆恨み。勿論、喧嘩を売られた金丸は根本の存在を知らない。金丸からしたら知らない人間がいきなり喧嘩を売ってきたのだ。ここで金丸独特の価値観が話を決定的に拗らせた。

 

 金丸は生きながらの覇者である。その人生において明確な敵対を示す人間は今まで出てこなかった。完璧超人である金丸を見て、逆らおうとしていた人間も心が折れていった。ある意味で珍種である自分へ正面から喧嘩を売ってくる根本を金丸は気に入った。

 

 勝手な嫉妬で喧嘩を売る根本。そんな根本に対して笑いながら手を差し伸べ、友好的な関係を築こうとする金丸。比べるまでもなく、二人の立っているステージは違う。格が違う。最終的に“下剋上事件”は根本の器の小ささと金丸の器の大きさを周囲に知らしめただけ。それ以来、根本と金丸は犬猿の仲なのだ。勿論、根本の一方的な、であるが。

 

 金丸へ強烈な劣等感を抱いている根本の下へ金丸を使者として送った場合、どういう交渉になるか、容易に想像がつく。根本は金丸の話を聞こうともせず、交渉を拒否。結果として戦争の勃発。おそらく、そんな所だ。

 

 金丸の存在でAクラス打倒計画に大幅な変更を余儀なくされた雄二であるが、金丸のおかげで色々な可能性を模索出来る。皆が真面目に授業を受けている傍ら、ある作戦を思い付いた雄二は一人小さく邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「なあ、秀吉。少し頼みたいことがあるんだが……」

「うむ、なんじゃ雄二? お主はわしに頼みごととは珍しい。明久ではなく、わしに用なのじゃな?」

「ああ、秀吉にしか頼めないことだからな」

 

 授業と授業の間にある休憩時間、皆で集まって雑談していると雄二がそんなことを言う。秀吉はそんな雄二に対して驚いた表情を見せる。秀吉の驚きは判る。憎たらしいことに雄二が人へ物を頼む時は僕が多い。これは別に雄二と秀吉が仲悪いとかじゃなくて、皆の中でも金丸と秀吉は特に仲が良く、僕と雄二は帰り道が一緒なので必然的に話す機会が多い。

 

 ムッツリーニはムッツリーニで学校に張り巡らせた情報網の整理で忙しい時やムッツリーニ商会で稼いでいる時はいなくなる。多分、ムッツリーニ商会で買い物したことある人間は僕くらいだろう。雄二達はムッツリーニ商会の存在そのものは知っていても売り上げに貢献したことは無い筈だ。まあ、金丸と雄二、金丸と秀吉といったツーショット写真がアンダーグラウンドな女の子の間で流行しているので別の意味で売り上げに貢献しているけど。後は金丸ファンクラブとムッツリーニの間でルートが出来ていて、定期的に金丸のブロマイドが捌けるなんて聞いたこともある。

 

「そうか、それなら仕方ないの。何をすればいいのじゃ?」

「コレを着て欲しい」

「………………」

 

 自分が頼られていることが少しだけ嬉しそうな秀吉に雄二が何処からともなく女子の制服を取り出してくる。赤と黒を基調としたブレザータイプの制服だ。いや、雄二。そんな制服、何処から持ってきたのさ。僕は雄二に呆れつつ、仕入れ先であろうムッツリーニへ視線を向ける。僕と視線の合ったムッツリーニはさっと視線を逸らした。その反応からして、仕入れ先はムッツリーニで間違いなさそうだ。ただし、ムッツリーニもここで使うとは思っていなかったのか驚いている。

 

 頼みごとが女子制服を着ることと知った秀吉の瞳から光が消え失せる。その表情からは絶望感すら漂ってくる。やっぱ、秀吉は“男装”が好きみたいだ。本来の制服に戻るだけなのにこんなに嫌なオーラを放っている。

 

 …………あれ? 何か決定的な間違いをしている気がしたけど多分気のせいだろう。

 

「ふむ、雄二。流石にそれは酷い。せめて、その制服を着る理由を教えてやられば秀吉も納得しないだろう」

「ああ、それは判っている。秀吉にはこの制服を着て、木下優子としてAクラスの使者を装ってもらう。そうだな、理由はFクラスに負けて傘下へ下る前に倒しに来た、で挑発してやればいい」

「なるほど……、AクラスからしたらBクラスはFクラスに負ける程度の奴らだと挑発する訳だな」

「そ、それなら構わんぞ。…………拠り所が金丸だけになったと焦ったぞ」

 

 流石に見かねた金丸が雄二を注意する。その注意に判っている、と頷いた雄二が作戦を説明して、金丸は納得している。いつのまにか大量の冷や汗を掻いていた秀吉も胸に手を当ててホッとしている。最後の方でなにか呟いていたけど聞こえなかった。

 

 秀吉には瓜二つな双子の姉でAクラスに所属する木下優子さんがいる。女子の制服に戻ることでお姉さんの演技をしてBクラスを挑発する訳だ。自分の手を汚さず、Bクラスを倒してAクラスへダメージを与える。陰険な雄二らしい嫌らしい作戦だ。

 

「その後、秀吉が帰ってきたら金丸にFクラスの使者としてBクラスに行ってもらうことになるが大丈夫か? その時にはBクラスは通過点だから従えば許す、と言っておいてくれ」

「ああ、任された」

 

 雄二の言葉に金丸は頷く。僕らは下位集団なのに随分と態度のデカい使者がいたもんだ。勿論、金丸以外が使者としてそんな口を利いたらぶっ飛ばされそうだけど、金丸にはそれを可能にする威圧感や実力が備わっている。

 

 こうして僕らのBクラス攻略作戦が始まった。

 

 

 

 

「ふむ、こんな所でいいのか? 私は女子の制服の構造なんて知らないぞ」

「いや、スカートを穿くにはまだ早い。先に上着から着せてもらえぬか?」

「これか?」

「ああ、それじゃ」

 

 万が一、Bクラスの人間に秀吉がFクラスから出てくる所を見られたら不味い、ということで男子トイレの中で着替えている秀吉。誰かがトイレへ入ってこないように外を見守っている僕たちと違い、一応手伝いということで秀吉の着替えを手伝っている金丸。トイレから聞こえてくる会話では手伝う側の金丸が足を引っ張り、演劇部のホープとして女性モノの衣装を着たことがある秀吉が金丸の間違いを正している。これじゃあ、手伝いの意味はなさそうだ。

 

 それより隣で鼻血を流しているムッツリーニをどうにかして欲しい。トイレから聞こえてくる声と服の擦れあう音で妙な妄想をしたのか、ドクドクと血が流れている。

 

「うむ、こんな所じゃろうな」

「すまない、秀吉。手伝いのつもりが邪魔をした」

「よい、迷惑など気にするな。お主とわしの仲じゃからな」

 

 ブシャー、とより一層鮮血を飛ばすムッツリーニ。

 

「……無念」

 

 血を流し過ぎたのか、廊下へ倒れるムッツリーニ。その表情は何故か満足気だ。

 

「ムッツリーニーィィィ!」

「何があった?」

「さあ?」

「さっさと行くぞ」

 ムッツリーニを抱き抱える僕を余所にトイレから出てきた秀吉と金丸は首を傾げていた。その状況を呆れた様子で眺めていた雄二はげんなりしながらCクラスに向けて歩き始めた。

 

 

 

 

 数分もしない内に僕達はBクラスの前まで移動した。金丸には木下優子本人が教室の外へ出てこないようにAクラスへ顔を出してもらっている。秀吉と仲がいい金丸は僕らの中で一番優子さんと親しい。それこそ勉強ノートを貸し借りするぐらいだ。僕らFクラスの中でAクラスに顔を出しても不審に思われないのが金丸と姫路さんしかいない。

 

「さて、ここからは一人になるがよろしく頼む。それと追加情報だ。Bクラスの代表はあの根本恭二だ」

「む? それは大丈夫なのか?」

「根本恭二って言えば、金丸と仲悪かったよね? 金丸が使者じゃあ、話が拗れるよ」

 

 雄二から伝えられた追加情報に秀吉が首を傾げる。それは僕も同様だ。金丸と根本が犬猿の仲であることは金丸本人以外に有名だ。Fクラスの使者として金丸を送ったら、話が拗れるに決まっている。

 

「ああ、それが目的なんだ。取りあえず秀吉は根本に対してFクラスに負ける。特に金丸に負けることを強く強調してくれ」

「う、うむ。どうなってもわしは知らんぞ」

 

 秀吉はあまり乗り気じゃないみたいだ。それもそうだ。わざわざ根本と金丸の間に火種を残す必要は無い。まあ、火種と思っているのは周囲だけで金丸本人はそんな風に思っていないだろうけど。

 

 そんなことを考えている内に秀吉がBクラスのドアを開けて、中へ入っていく。

 

『聞きなさい、この家畜にも劣るボンクラども!』

 

 聞こえてきた罵倒の言葉に僕は引く。これは流石、秀吉と褒める所なんだろうか? そっくり過ぎて逆に怖い。

 

『え~と、確かAクラスの木下さんだっけ? いきなりなんの用だ?』

『それ以上近付かないで! アンタみたいなブ男と同じ空気を吸いたくないの!』

『なっ、下手に出てみれば何だ、お前!』

『アンタみたいなブ男と私が話すだけでも感謝しなさい! Fクラスが試験召喚戦争でC・Dクラスを下したことはもう知ってるわよね?』

『は? なんだその話』

『何、そんなことも知らないの? ブスで無能って最悪ね、アンタ。死んだ方がマシじゃないの?』

 

 聞こえてくる会話からして秀吉は絶好調だ。それに戦争の話をBクラスが知っている筈無い。外交で終わった戦争なんだから。

 

『Fクラスは無謀にもAクラスを狙っている訳なの。それでC・Dクラスは既にFクラスに下った。Bクラス程度じゃあFクラスに負けるだろうし、今の内にFクラスの戦力になるであろうBクラスを片付けに来た訳。すぐに潰してあげるわ!』

『おいおい、俺達がFクラスに負ける訳ないだろ』

『そう、勝手にしなさい。そう言って他のクラスは九条院君一人にやられたようだけどね』

『んなっ! 九条院だとっ! あいつ、今はFクラスにいるのか! ハッ、いつも威張り散らしているからそうなるんだ!』

『…………アンタ、ほんとに馬鹿ね。Aクラスは九条院君一人にBクラスが負けると判断してBクラスを潰す訳。アンタと九条院君じゃあ、月とスッポンどころか、月とミジンコぐらい差があるのよ! その空っぽの脳みそで考えなさい! それじゃあ、後で潰しに来るから』

『――――ッ!』

 

 反論を言わせず、教室から出てくる秀吉。

 

「これで良かったかのう?」

「ああ、素晴らしい出来だった」

 

 不安げな秀吉に満足そうな雄二。それにしても演劇部のホープは恐ろしい。

 

「これで後は仕上げだな」

 

 そう言って雄二は丁度、Aクラスから出てきた金丸へ視線を送る。金丸は雄二の視線を受けて頷くとそのままBクラスへ入っていく。

 

『休憩中、失礼させてもらう。Fクラスの者だが、Bクラス代表はいるか?』

『…………一体、何のようだ?』

『なんと! 根本がBクラスの代表だったのか。それなら話が早い。我々FクラスはBクラスへ降伏勧告に来た。こちらの目標はAクラスの設備のみ。Aクラス攻略の際に協力して欲しい。もし、断った場合、FクラスはBクラスへ戦争を仕掛け、設備を交換する。Aクラスに戦争を挑んでもCクラス相当設備が劣化するだけだ。Fクラス設備より良いだろう』

 

 声音だけで金丸が嬉しそうに根本へ声を掛けていることが容易に想像出来る。

 

『――――――だ』

『む?』

『――――そうだ。Fクラスと戦争だ!』

 

 根本にとって金丸の提案は当然、耐えられるものじゃない。金丸は何も言ってないけど、秀吉の扮した優子さんが金丸一人でBクラスは敗北すると言ったのだ。根本の頭にはもうその言葉しか残っていない。

 

「ねえ、雄二。Bクラスと戦争してどうするつもりなのさ?」

「まあ、もうすこし待て」

 

 このままだとBクラスと戦うことになってしまう。無駄な戦争をやりたくない。そんな僕の言葉に雄二は楽しそうにクスクスと笑う。

 

『おい、馬鹿根本! Fクラスは放っておけばいいんだよ! 適当に従っていればFクラスはAクラスに挑んで自滅する。Fクラスに戦力を裂くぐらいならAクラスの対処を考えろよ!』

『うるさい、馬鹿はお前たちの方だ! Bクラスの代表は俺なんだからお前らは従ってればいいんだよ!』

『ふむ、それでは戦争ということでいいのだな?』

『当たり前だ!』

 

 金丸の最終確認に周囲が止める中、根本が独断で叫ぶ。

 

『なんだ、アイツ。代表だからって勝手に決めて……』

『そんな器だから九条院君に勝てないのよ……』

 

 Bクラスは根本の発言で明らかに不和が起きている。

 

「ねえ、雄二。Bクラスと戦争になったけど大丈夫なの?」

「当たり前だ。内輪もめしている相手なんていくらでも突き崩せる」

 

 確かに雄二の言葉は的を得ている。Bクラスが内紛状態ならFクラスにも勝機がある。

 

「まあ、本当は根本の判断が一番正しいんだがな」

「え、どういうこと?」

 

 それならBクラス内で内紛なんて起きない筈だ。

 

「よく考えてみろ。AクラスがBクラスを潰す理由はFクラスが動いているからだ。本来ならAクラスがFクラスへ直接挑めばいい。だが、今回の件でBクラスの奴らはAクラスが攻めてくると思っている。なら、Aクラスが攻めてくるよりも先にその原因であるFクラスを潰せば話は済むだろ?」

「あ、それは確かにそうだよね。でも、Bクラスぐらい頭が良いならそれぐらい気付きそうだけど……」

「なるほどのぅ。だからこそ、金丸を使って根本を挑発した訳か。正しい選択でもあの物言いではクラスメイトに良い印象は与えん」

 

 金丸を使って根本を怒らせる。その根本を使ってBクラスを怒らせる。結果としてBクラスとぶつかるのは必然だったとしても内部で不和が起きているかそうでないかで戦争の展開は全然違う筈だ。

 

『それでは失礼させてもらう』

「野郎ども、戦争の準備だ!」

 

 金丸がBクラスから出てくるのと同時に雄二は開戦の合図を告げた。

 




途中から一人称になっています。

Qなんで主人公の一人称じゃあないの?
Aギャグ系チートキャラの持ち味は理不尽能力に対する周囲のツッコミだから。

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