君がいた物語   作:エヴリーヌ

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今週中に終わらせるために投下投下透華の三話目。
今回は京太郎と戒能さんだけでなくあの女性も出ます。



歩くような速さで Vol.3

 インターハイ――それは全国の高校生雀士の頂点を決める戦い。

 

 俺が所属する清澄麻雀部の女子達は県大会に優勝して全国への切符を手に入れ、そこから何度も苦戦する場面もあったが、先ほど準決勝を勝利で終えてついに明日の決勝戦へと駒を進めた。

 皆このことを喜び、大いにはしゃいでいた。それは手伝いとして一緒に連れて来てもらった俺も一緒で、自分の事の様で誇らしかった。

 しかし――それに反し、心の隅では暗い事を考えている自分もいた。

 

 

「あー……なんだよあれ。あっりえねーよ」

 

 

 宿泊施設にて清澄唯一の男子ということで与えられている自分の部屋のベッドに寝転び、誰も聞くことはない愚痴を口から漏らし続ける。咲達は別部屋どころか別の棟なので万が一にも聞かれることはないし、こうしていれば顔も合さないで済む。

 県大会の時もそうだったが、全国に来てから正直一人で悩みこむ事が多くなった。

 

 ――そう……あまりにも皆が強すぎるし何をやっているのかわからないのだ。

 

 龍門渕の天江選手もそうだったが、全国には同じくらいヤバいのがいて、数か月前に始めたばかりの俺ではまったくついて行けなかった。

 そして女子がこれなら人数が多い男子も色々と強い人がいるのだろうな。

 

 

「俺……麻雀向いてないのかな……」

 

 

 中学の頃は体型に恵まれていたおかげもあってハンドボールで活躍をしたのもあり、高校では別の事をやりたくなって今までとは真逆の文化系の麻雀部に入ったのだが失敗しただろうか……。

 だけど麻雀面白いんだよなー、でもある程度才能なければ勝つ所かいい勝負が出来るという土俵にすら立てないしどうしようもないよな……。

 

 

「……うしっ! 悩んでも仕方ないしハギヨシさんとでも会ってみるか『ブーブー』……あ?」

 

 

 このまま一人悩んでいてもドツボにはまりそうだったので、こちらで仲良くなったハギヨシさんにタコスの事でも聞きながらちょっと相談してみることにした。そしてそのため電話をかけてみようかと思ったが、すぐ隣なので先に部屋に行ってみるかと思い、起き上がったところで携帯からメールの着信音が鳴り響く。

 

 こっちに来てから地元の奴らからよく近況報告を催促するメールが来るのでまたあいつらかと思い見てみると、まさかのヨッシーさんからだった。

 俺が東京に来てネトマをやっていないのとヨッシーさんも仕事で忙しいらしいので、一週間ほどあまり連絡をとっていなかったのだが何の用だろう。

 

 

「あーなになに?」

 

 

 開いてみると何のことはなく、メールの内容は東京に来てしばらく経つが調子はどうだ?という事だった。こちらに来た当初にも似たようなメールは来ており、それには普通に返していたのだが、このタイミングで来るなんてな。

 

 

「……………………」

 

 

 しばらく悩んだけど、これも何かの縁と思い、前と同じように先ほど考えたことをいくつか伏せながら伝えてみることにした。主に以前と似たような感じで全国の雀士の強さがヤバい的で自信がなくなりそうだということだ。

 

 迷惑かも知れないが、ヨッシーさんには近くにいる咲達には漏らせない様な悩みを時々聞いてもらっているので、ちょっと甘えたかったのもある。

 それにヨッシーさんならガツンと率直に言ってくれるだろうから、少しはやる気も出るかな。

 

 しかしそう思い待っていたのだが、いつもだったらすぐに返信してくれるはずなのに今日は10分以上経っても返事は来ず、流石の俺も焦ってきた。

 

 

「ちょっと愚痴りすぎたかな……」

 

 

 前にも同じような事を言ったし、人の愚痴なんて聞いていても面白くないから失敗したかなーと考え、謝りのメールを打とうとしたらちょうど返事が返ってきた。

 開いてみるそこには――

 

 

「…………へ?」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 長野とは違い、夜にはなってもサラリーマンや学生などの大勢の人達が出歩く東京。俺はそんな人々が行き交う駅前でヨッシーさんを待っていた。

 何故かというとさっき貰ったメールが原因で、話がしたいからこれから会わないか?という返事が来たのだ。

 

 何度も鬱陶しい話をする俺にガチギレして、直接会って殴られたりするのだろうかと思ったが、流石にわざわざそんなことの為に呼ばないだろうし、待ち合わせを駅前に選んだのもそういったのを配慮してのことだろう。

 とはいえ、今の俺は一応清澄麻雀部の一員として来ているのでなにか問題を起こしたらヤバいから悩んだのだが、ヨッシーさんの『無理だと思ったら断ってくれて構いません』というこちらを気遣う言葉と今まで世話になったことを踏まえてここまで来ていた。

 まぁ、本当に何かあったらすぐに逃げればいいだろう。

 

 一応部長に「用事が出来たから外に出てきます。遅くなるかもしれませんが明日以降に必要なものがあったら一緒に買ってきますよ」というメールを送っておいたら「大丈夫だけど、他校の生徒をナンパしちゃだめよ」という返事が返ってきた。あの人は俺をなんだと思っているのだろうか……。

 いや、まぁ大事な部員だと思ってくれるのはわかってるけどね。本人は「雑用よろしく!」と言って東京まで連れてきたがそれは照れ隠しで、実際は試合で場を離れられないときに弁当や飲み物を買ってくるぐらいの仕事しかなかったしな。

 それに男一人を二週間近く東京に滞在させるってかなり金かかるし、なにか問題起こせば責任を取るのは部長なんだから余計な負担を掛けたくないのなら連れてこなければいいんだもんな。

 部長としては俺に今回の試合を良い経験としてほしいのだろう……あの人には感謝だ。

 

 そんなわけでつい先ほど待ち合わせ場所に到着して待っているのだが、人混みのせいでよくわからないけどもう既に来ているのだろうか?

 辺りを見回してみるが、ぶっちゃけヨッシーさんの顔どころか性別すら未だ知らないので意味はないんだよな……そう思っているとメールが届いた。

 

 

『今、銅像の前で帽子を被っているウーマンが私です』

 

 

 そんなメールが届き、とりあえず視界の範囲で探してみるが、人混みが多くて分かりにくい。というかヨッシーさん女だったのか……。

 

 

『人が多いので時間はかかりますが今探しています。あと俺は金髪でジーパンと白いシャツを着ている男です』

 

 

 視線を飛ばしながらもケータイを弄りこちらの容姿がわかるように伝えておく。

 さて、どこだ――って、銅像がデカい上に周りに花が植えられて柵で囲んでいるからそれなりに円周が広くてわからないぞ……。

 わかりづらい目印を頼りに帽子の女性とやらを探していると、肩をポンとたたかれた。誰かと思い振り向くと――

 

 

「失礼、ゼロさんでよろしいですか?」

 

 

 声をかけてきたのは言われた特徴通りの帽子を深くかぶった、俺よりいくつか歳上の綺麗な女性だった……って!?

 

 

「か、かいの「ストップ。言いたいことはわかりますが、一先ずここを移動しましょう」わ、わかりました」

 

 

 口元に人差し指を置くジェスチャーをしながら暗に大声を出すのは止めて欲しいと言われたので、こちらも小さな声で返事をしながら頷き、先導するヨッシーさん?の後に続く。

 

 

「(帽子で隠しているけど、この人って戒能プロだよな? 麻雀を始めたばかりの俺でも知ってるぐらい話題のルーキープロじゃないか!?)」

 

 

 内心かなりビビっている俺を差し置き、戒能プロは人混みをかき分けるようにぐいぐい進む。

 

 その後、俺達はそのまま近くにあったそれなりに大きい公園へと入った。

 幸いにも周りには人影はなく、数十メートル先に待ち合わせなのか休憩しているのかはわからないが、サラリーマンっぽい人が何人かいるぐらいだ。

 

 

「ふう……ソーリー、待ち合わせ場所がわかりづらかったですし、私も分かりやすいように服装をもう少し教えるべきでしたね」

「あ、いえ……その……ヨッシー、さん……ですよね?」

「イエス、そういうあなたはゼロでよろしいですね? ちなみに一週間前最後に出した問題の答えは?」

「あー……とー……確か、六筒出すと満貫で上がられるから三筒出すのが正解……でしたよね?」

「イグザクトリー、本人で間違いないですね」

 

 

 そういうと良く出来ましたと言いたげにヨッシーさんが口元に笑みを浮かべながらこちらを見つめてくる。

 美人のそんな真っ直ぐな視線に恥ずかしくなり顔を背けると、ふと、まだ名乗っていないことに気付いた。

 

 

「あ、すいません。ゼロ改め須賀京太郎です」

「おっと先に言われてしまいました。ヨッシー改め戒能良子です。はじめまして須賀君」

「はじめまして。あ、敬語は良いですよ。こっちが年下ですし」

「いえ、須賀君にはネット上とはいえ今までそうでしたし、今更直すのも違和感があるのでこのままでお願いします」

「わかりました」

 

 

 簡単な自己紹介をして握手を交わす俺達。しかしまさか本物の戒能プロなんて、部長が言ってた冗談が本当だとは……。

 そんな俺の驚く様子が面白かったのかヨッシーさんは、女子高生には出せない大人の笑みで、ふふっと笑いだし、近くのベンチで話さないかと切り出してきた。

 

 本物のプロってことで詐欺的な話はなくなったから他に移動しても良かったけど、戒能プロの素性を考えると下手な店に入るより確かに此処の方がいいだろう。

 それからベンチへと座ると、今まで気付かないうちに緊張していたのか深く息を吐いた。どうやら初めてのオフ会兼相手がプロという事で緊張していたみたいだ。

 呼吸を整えている途中、横から視線を向けられているのに気付き、気になって顔を上げると、ヨッシーさんが俺の頭の辺りを見ている。

 

 

「ふむ、男子なのは予想していましたし、ハンドボールの話を聞いていましたけど、ここまで背が大きく体格が良いとは思いませんでしたね。」

「はは、俺もまさかヨッシーさんが戒能プロだなんて考えたことすらなかったですよ」

「そこは一応プロとして気を使っていましたからね。あと、名前で呼んでくれて構いませんよ。私も須賀君と呼びますから」

「わかりました戒能プロ」

「ノー、戒能さん」

「えっと……わかりました戒能さん」

 

 

 プロという事で緊張していたが随分と気さくな人で助かった。というか直接に会話をするのは初めてとは言え、ヨッシーさんとは四か月近くやり取りしているからそこまで困らなそうだ。

 とはいえ、そんなこんなで呼び方も変えたのは良いが肝心の話を聞いてないんだよな。

 

 

「戒能さん、今日会おうといったのは……?」

「はい、一度会ってみたいと思っていた所に須賀君がちょうど来ていたからいいチャンスだと思いました。つまりオフ会ですね」

「なるほど……俺も戒能さんに会えてよかったです。今までお世話になってたからずっと会いたいと思ってました。でもまさかこんな綺麗な人だとは思ってもみませんでしたよ」

 

 

 お互い好きな食べ物やスポーツなどの話はしていたが、相手の素性に関わることについてはタブーな感じだったからな。それなのに向こうから会ってみたいって言われるのは嬉しいものだ。

 それに今まで男の人だと思っていたから嬉しさも数倍だ。男子高校生からしたら麻雀プロというよりも綺麗でおもちの大きいお姉さんというのは役満以上の価値があると言えるのだ。

 そんなアホな事を考えていると、薄暗くて気づくのに遅れたが、戒能さんが顔を赤くしていることに気付いた。

 

 

「どうしました?」

「いえ……君は中々のプレイボーイですね」

「???」

 

 

 小声でボソッと言われたためうまく聞き取れなかったが、なにか失礼な事でもしただろうか?

 不安になり戒能さんに聞こうと思ったが、なにか聞きづらい雰囲気だった。

 

 

「こほん。何でもありませんよ」

「そうですか?」

「イエス」

 

 

 咳払いをし、疑問に思う俺を差し置いて何かを誤魔化していたがツッコまないことにする。大人には大人の事情があるのだろう。

 それからしばらく東京はどうだとか取り留めのない話をしていたのだが、三十分程話し時間が経つと、チラリと腕時計を見た戒能さんが立ち上がる。

 

 

「さて、そろそろ行きましょうか」

「え? 行くって……どこにですか?」

「それは着いてからのお楽しみです」

 

 

 ちょっと不安になったが、プロなんだし変なことはしないだろうと思い後について行くことにした。

 それから最初は先ほどのように先導する戒能さんの後ろについて歩いていたのだが、途中からそのままでは話しづらく、並んで歩くようになっていた。

 そのまましばらく話しながら歩いていると、一軒の麻雀バーに辿り着いた。

 

 

「ここです。ちょっと怪しい雰囲気ですが、取って食べたりしませんよ」

「はは、信頼してます」

 

 

 俺が緊張しているのがわかったからか、冗談を交えながら中に入って行く戒能さんの後に続くと、店にはマスターと部屋の中央の席に一人の女性が座っているだけだ……って!?

 

 

「はやりん!?」

「はややっ、来たねー」

 

 

 こちらを見て笑っているのはプロの雀士であり、牌のお姉さんとして有名な瑞原はやりであった。

 驚き固まっている俺とは裏腹に戒能さんは躊躇うことなく店の中央へと歩いて行く。

 

 

「すいません、遅くなりました」

「いいよ~皆まだ来てないしね」

「そもそもみなさんあれを解読できるのですか?」

 

 

 どうやら二人は知り合いらしく気安い感じで話をしている。そもそもプロなら面識があってもおかしくないが、どうやらそれだけでなくプライベートの仲の良さを感じさせる。

 そう頭の中では冷静に観察し考えているが、突如目の前に現れた二人目のプロの登場で俺の体は未だ固まっていた。

 そんな入り口で固まっている俺に気付いたのか、はやりんがこちらへ視線を向けた。

 

 

「ほら、君もこっちおいでー」

「あ……あ、はいっ!」

「ここに座ってください」

「し、失礼します」

 

 

 はやりん……いや、瑞原プロに呼ばれて俺も急いで二人の元まで行くと、二人の間にある席を勧められて座る

 戒能さんだけでなく瑞原プロと直接会うなんて夢じゃないか?思わず頬を抓りそうになる俺だが、ふと視線が気になり横を見ると瑞原プロがこっちをニコニコしながら見ていた。

 

 

「あ、あのー……」

「君が良子ちゃんの言ってた弟子なんだねー」

「弟子って……そんな大層なもんじゃないですが……」

 

 

 興味津々といった感じで視線を向けられて尋ねられるが、思わず視線を逸らしてしまう。

 着ている服が服なため、さりげなくおもちが見えそうですばらなんだが、それ以上になんか怖い。

 ジロジロと瑞原プロに見られ萎縮する俺に横から救いの手が差し伸べられる。

 

 

「はやりさんストップ。怖がっていますのでそこまでにしてあげてください」

「ひどーい、私怖くないよねー?」

「彼は一般人ですから有名人が近くにいれば緊張するのは当然ですよ」

 

 

 まあ有名人なのはそうなのだが、こっちとしては何やら品定めされているような視線が一番きついんだが……。

 

 

「あ、あの……それより俺はなんでここに連れてこられたんですか?」

「あれ、説明してないの?」

「実際に見てもらう方が早いと思いまして」

「んー、でもちょっとは話しといたほうがいいんじゃないかな?」

「確かにそうですね」

 

 

 先ほどまでのプレッシャーを消し、首をかしげる瑞原プロにホッとしていると何やら話が進んでいる。ええっと……?

 

 

「ソーリー。簡単に言いますとこの後三人ほどさらに人が来るのですが、その三人とはやりさんがここで一局麻雀を打つのでそれを見てもらおうと思ったんです」

「別にそんなつもりじゃないんだけどなー」

「麻雀バーに来ているのにただの同窓会で終わらせるつもりだったのですか?」

「にゃはは」

 

 

 ツッコミを入れる戒能プロに対し、瑞原プロは笑ってごまかしている。なんとなく二人の仲の良さと関係が分かる会話だ。

 しかしなんでその同窓会の対局とやらを俺に見せる必要があるんだろうか?一応聞いてみると。

 

 

「そこはあとで説明した方がわかりやすいのでその時にしますから、今はただその対局を見ているだけでいいですよ。他に何かしろというわけではありませんのでリラックスしていてください」

「あ、私お酌して欲しいかなー」

「健全なお店だからダメです」

 

 

 俺に向かってボトルを渡そうとする瑞原プロを戒能さんが止めている。先ほどから感じでもいたが、やっぱ部長を止める染谷先輩みたいな関係なんだな。

 そんな感じで騒いでいると、新しく店の中に入ってくる人がいた。

 

 

「はややっ、はるえちゃんお久しぶり!」

「お久しぶりです」

 

 

 最初に反応したのは瑞原プロで、入ってきたのは変な前髪の女の人だった。多分歳的には瑞原プロと同じぐらいだと思う。

 会話からするにこの人が待ち人のうちの一人みたいだが……。

 

 

「おー、戒能プロもって……その子は?」

「どうも……知り合いの子でちょっと相席してもらいました。構いませんか?」

「よくわからないけど別に良いんじゃないかな。だけど学生っぽいし大丈夫なの?」

「大丈夫です。お酒は飲ませませんよ」

 

 

 そう言う心配なのだろうか?とりあえず名乗った方がいいかと思い口を開きかけると、又もや誰かが入ってきた。

 

 

「わかりにくいよ!」

「難解!」

 

 

 微妙に怒りながら二人の女性が入ってきた……って!?

 

 

「小鍛治プロに野依プロ!?」

「おー、グッドな反応ですね」

「お決まりだねっ」

「あ……す、すいません……」

 

 

 思わぬ人物達の登場に立ち上がり大声を上げてしまうが、横にいる二人の反応で恥ずかしくなって縮こまる。

 いや、マジでなんなんだよこの集まり……場違いすぎるだろ俺。

 

 

「えっと……どこの子?」

「知らない子!」

 

 

 当たり前だが向こうも俺の事は知らないので疑問顔だ。

 

 

「すいません、ちょ「ま、まさか!?」……小鍛治プロ?」

 

 

 訳を説明しようとした戒能さんの話に割り込むように、先ほどの俺に負けないほどの大声を上げる小鍛治プロ。

 なんだなんだ皆が視線を向けると、小鍛治プロは体全体をフルフルと震わせながら瑞原プロへと指を向けて――

 

 

「はやりちゃんの彼氏!?」

「せいかーい☆」

「「なにぃー!?」」

「犯罪!」

 

 

 小鍛治プロのありえない発言を何故か肯定する瑞原プロ。そして驚く俺と変な前髪の人。野依プロはこんな時でも変わらず片言だ。

 普通だったら当事者の俺が驚いていることで嘘だとわかるはずだが、小鍛治プロは聞いていないのか虚ろな目をしながら瑞原プロを見ていた。

 

 

「裏切ったね……はやりちゃんは生涯独身だと思っていたのに裏切ったね……」

「はややっ!?」

 

 

 さりげなくキツい一言により瑞原プロの額に漫画みたく怒りマークが浮かぶ。

 どうしようか困ってオロオロしながら、正面に立っている変な前髪の人と野依プロに視線を向けるが、どちらも逃げ腰になっていてどうしようもなかった……仕方ない。

 

 

「……あ、あのッ!」

「なにかな……?」

「ひぃ!?」

 

 

 一応原因の一つっぽいし、責任もって場を収めようと立ち上がると、小鍛治プロからメデューサの如き視線を向けられ固まる。こ、これが元世界二位の実力なのか……。

 しかし止まるわけにはいかないと勇気を振り絞って話を続ける。

 

 

「いいい今のは瑞原プロの、じょじょ冗談ですっ! じ、自分は須賀京太郎といいい言いまして! きき今日は、戒能プロに、つつつつ連れられて来ただけで、みみみ瑞原プロとは、しょしょ、初対面です!」

「………………ほんと?」

「………………ごめんねっ」

「………………はぁ」

 

 

 嘘を言っているんじゃないかと瑞原プロに問いただすも、ウインクをしながら謝る瑞原プロの顔を見て本当なのだと知り、ようやく元に戻ってくれた小鍛治プロ。ガチで心臓が止まるかと思った。

 以前咲が変なプレッシャーを出したことがあるが、これと比べると永水の副将と大将ぐらい差があった。何がとは言わんが。

 

 

「はぁ……」

「お疲れ様です」

 

 

 恐怖から解放され座り込むと戒能さんが飲み物を手渡してくれた。

 

 

「ありがとうございます……って、戒能さんが説明してくれれば良かったのか……なんで黙ってたんですか?」

「いえ、私も恐怖で足がすくんでいただけですよ。別に私の事を忘れてあちらの二人に助けを求めようとしたことに怒っているわけではありませんよ」

「すいませんでした」

 

 

 どこか拗ねた様子の戒能さんに素直に謝る。

 恐怖のせいと視界から外れていたのもあり、隣に座っていた戒能さんのことは完全に頭から吹き飛んでいました。

 

 

「まあ、あの中でいの一番に動いたのは褒めてあげます。男の子らしかったですよ」

「うぃ……あざっす」

 

 

 まるで麻雀の指導の時と同じように褒めてくれるが理由が理由だけに嬉しくはない……すまん、正直綺麗な年上の女性に褒められるのは嬉しいわ。

 

 

「さて……立ち話もなんですし、皆さんも座りましょう」

「そうだね……」

「……死ぬかと思った」

「心肺停止!」

 

 

 そんなこんなでなんやかんやあったが、戒能さんの一声で後から来た三人もようやく席に着くこととなった。

 席順は俺から左に見て円上に戒能さん、野依プロ、小鍛治プロ、変な前髪の人、瑞原プロだ。

 そして席に着き、ようやく落ち着けたので自己紹介となった。

 

 

「えっと……須賀君だったね、さっきはごめんね。小鍛治健夜です」

「野依理沙! 感謝!」

「赤土晴絵。さっきは助かったよ、よろしく」

 

 

 自己紹介と共にさっきのことについて謝られたり、感謝されたりする。

 と、そんな中でふと気になったのが……。

 

 

「ん、どうした?」

「い、いえ……」

 

 

 変な前髪の人……いや違った。赤土さんを思わず見ていたら怪訝な顔をされたので、誤魔化しておく。だけど……やっぱそうだよな……。

 

 

「えっと、清澄高校の須賀京太郎です。本日は皆さんの集まりにお邪魔させていただきます」

 

 

 向こうとしては誰こいつ状態だろうし、一応自分の立ち位置を教えておこうと思い、清澄の名前を出しておいた。

 すると事前に話してあった戒能さん以外の四人は驚いていたが、特にその中でも赤土さんの反応が一番大きかった。

 

 

「清澄って……和の?」

「あ、はい。同級生で部活仲間です」

 

 

 名前を聞いた時にもしやと思ったが、やっぱ前に和が話していた奈良での恩師か。

 赤土さんは、なるほどーといった感じでこちらをジロジロ見ている。本人としては悪意なく、昔の教え子の同級生という事で気になるんだろうが、ぶっちゃけ凄く居心地が悪い。

 

 

「そっか……和は元気にしてる? うちの子たちは会ってたみたいだけど私はまだだからさ……って私が阿知賀で子供たちに麻雀教えてたのは聞いてるの?」

「ええ、とても良い先生だったって和から聞いています。それでこっちの和ですが、元気にいつも『そんなオカルトありえません!』って言っていますよ」

「あははっ! 口癖は変わらないか! そっか……元気そうでなによりだ」

 

 

 共通の知人がいることで話題に花を咲かせる。和からは子供たちに懐かれる良い先生だって聞いていたことを伝えると嬉しそうにしていた。

 そんな感じでトラブルもあったけど和やかに自己紹介を終わったのだが、それからやはり話題となったのは自己紹介からの流れで俺の麻雀についての事だった。

 

 

「へぇー良子ちゃんが麻雀教えてるんだー。それに須賀君も麻雀部で東京にいるってことは大会に出てるの?」

「あ……それは……」

「須賀君は高校に入ってから始めたばかりの初心者なので、残念ですが県大会で敗退していますよ」

「あ、そうなんだゴメンね……」

「いえ、気にしないでください。そんなに甘くない世界だってのはわかっているので」

 

 

 答えづらそうにしていた俺の代わりに戒能さんが先に口を挟むと、小鍛治プロがやってしまったとばかりに顔をゆがめる。

 さっきのですげえ怖い人にだと思ったけど、普通にいい人みたいだ。

 

 

「ほらほら、暗い顔してないでみんな揃ったんだしなんか頼もう☆」

「そ、そうだね! 私たくさん食べるよ!」

「暴飲暴食!」

「よっしゃ! 景気づけに飲もうか! 須賀君も私が許すからガンガン頼んで飲んでいいからね! 生六つで!」

「ストップ。大人五人、未成年一人です。教師なんですから先ほど自分で言った台詞ぐらい覚えておいてください」

「気にしない気にしない!」

 

 

 俺のせいで空気が悪くなってしまったが、傍からも見てわかるけどやはりムードメーカーな瑞原プロの音頭でどんどん話が進む。

 赤土さんなんかは和の話が聞けたからかかなりテンションが上がっており、戒能さんが止めようと必死になっていた。

 

 それからしばらくはプロに囲まれていたこともあり緊張していたが、皆元から話しやすいタイプなのか緊張もほぐれて話題に花を咲かせた。

 なんでも赤土さんは少し前までは実業団で働いていたが、少し前から阿知賀麻雀部の顧問をしており、一緒に来ているのはかつて和と一緒に遊んでいた教え子たちらしい。

 また、小鍛治プロはTVで見るよりも気さくな人で先ほどのような怖い所は出さず、場違いな俺をとても気遣ってくれていた。そして野依プロの片言は興奮しているかららしいと知った。ちなみに瑞原プロのは素らしい。

 そんな感じで皆の人となりもわかってきたが、そこでふと気になることがあった。

 

 

「そういえばこれってなんの集まりなんですか?」

「あれ? 聞いてないの?」

「はい、この後皆さんが麻雀を打つとしか」

「え!? そうなの?」

「はや?」

 

 

 先程三人が来たこともあって、結局聞きそびれていたことを尋ねると小鍛治プロは驚き、今日召集を書けたらしい瑞原プロを見るが、本人は頬に人差し指を添えて「なんのことかわからな~い」といった感じのポーズをしている。

 元々のキャラがあれだからか随分と似合うな。

 

 

「雀卓常備!」

「まぁ、確かにこの店を選んでる時点でね……」

 

 

 どうやら野依プロと赤土さんはなんとなく予想がついていたみたいだ。店もそうだし、周りに俺たち以外の客がいないことから見てもそうだよな。

 そこでいい加減話そうと思ったのか戒能さんが飲んでいたグラスを置き、こちらを向いて口を開く。

 

 

「ふむ、簡単に言いますと十年前に私を除くこの四人は全国大会の準決勝の同じ卓で打っていた面子なんですよ」

「え? そうなんですか!?」

「別にお話しするだけでも良かったんだけど、どうせ集まったらなら……ね?」

 

 

 戒能さんの言葉に驚く俺。なるほど……四人とも同世代っぽいしそう言う集まりなのか……。だから同窓会って言っていたのも納得がいくな。

 そしてこちらに向かってウインクをしながら説明する瑞原プロ。流石半アイドル。マジで似合ってるな。

 

 

「それでどうする? 皆で打ってみる?」

「いいですね……っ!!」

 

 

 そして今度は三人の方を向いて瑞原プロが尋ねると、赤土さんがなにかを決意したように立ち上がり、残りの二人も無言だが力強く頷き後に続く。店のマスターも話を聞いていたのか元からその手筈だったのか、店に置いてある雀卓の用意をしていた。

 そして残った俺と戒能さんは邪魔にならない程度の距離に座り、それを見学することとなった。

 

 

「須賀君、よく見ていてください。これが今日あなたを呼んだ理由です」

「は、はい……」

「あそこにいるのはかつての全国で猛威を振るった存在で、今の麻雀界を引っ張る怪物たちです」

 

 

 あまり表情が動かない戒能さんだが、それでも傍目でわかるぐらい真剣な表情をしている。

 ただ……その言葉は俺にと言うよりも、戒能さん自身に言い聞かせているようにも聞こえた。

 

 

「それで勝ったら商品は出るのかな?」

「うーん……須賀君一年分?」

「なんと!?」

「お得!」

「はは、それはいいですね」

 

 

 小鍛治プロからの疑問に瑞原プロが悩んでいたかと思うと、いいことを閃いたとばかりに言い出す。しかも何故か他の皆も話に乗っているし。

 

 

「あの……俺の知らない所で勝手に話が進んでいるのですが……」

「ノープロブレム。緊張をほぐすためのただの軽口ですよ………………多分」

「断言はしてくれないんですね……」

 

 

 ――こうして、本来ならば此処にいるはずのない存在の俺が、因縁ある四人の対局を間近で見ることとなった。

 




 まさかのシノハユ0話を使った三話でした。前から使いたいなーと思っていたんで番外編で思わず使用。本編では……どうするかはその時に考えよう、わかんないけどっ。
 そして元の話に比べて一部の人たちが少々残念になってますが、男の子がいたらしょうがないよね、だって適齢期だもの。前髪が変な人はまだマシな方。のよりん辺りは空気過ぎたのが反省です。二人のアラサーとアラフォーが濃すぎるのが悪い。

 しかし書いていると思うんだけど、戒能さんは原作だとちゃんと敬語以外も使っているのに敬語キャラ感が半端ないという。元のイメージを崩さないように書くのがなかなか大変なキャラですね。

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