君がいた物語   作:エヴリーヌ

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一か月ってのは早いものですね…短編すら書けなかった

虎娘達(-2)の続きです。



20話

 あれからつまみ食いに来た照に説教したりと色々横道に逸れたりもしたけれど、なんとか昼飯を作り終えることが出来たので、そのまま車で昔からよく遊びに行っていた近くの山へと向かうこととなった。

 

 近くとはいえ、車を降りてから歩くこともあって時間もかかったが、しばらく顔を合わせていなく、積もる話もそれなりにあったためか、向こうでの照の暮らしや白糸台麻雀部の話で盛り上がり、道中も退屈な時間ならず楽しい登山となった。

 とはいえ途中、山登りで疲れた大星さんが駄々をこねたりもして困りもしたが、なんとか無事に頂上へたどり着いたのだった。

 

 

「ふぅ――――お腹すいた」

「ついて早々一言目がそれか……」

「まぁ、照だしな。それに結構いい時間だし」

 

 

 笑いながらつられて時計を見ると、登るのにそれなりに時間がかかったためか既にお昼の時間を過ぎていた。

 それにそこまで高くないとはいえ、一応山だからな。疲れて腹が減る気持ちもわからんでもない。実際に――

 

 

「まったく、淡もだらしのない」

「だってぇ~」

 

 

 ここまでの登山で体力を使い果たした大星さんが力尽きていた。

 そりゃ麻雀は一応インドアだし普段から運動でもしてなければ疲れるのも当然だ。これが普通の反応だろう。

 

 荷物は俺が背負っていたので、背中のリュックに手を伸ばしてペットボトルのお茶を目の前に差し出すと、大星さんは少し逡巡するそぶりを見せたが素直に受け取る。

 

 

「……ありがと」

「どういたしまして」

 

 

 うん、ちゃんとお礼も言えるし、いい子じゃないか。やっぱこいつらと仲がいいだけはあるよな。照も上手くやれているみたいでよかっ――

 

 

「京ちゃん京ちゃん」

「はいはい急かすなって」

 

 

 まあそんなちょっとした気持ちにも浸らせてくれないのが我が幼馴染である。

 とりあえず言いたいことはわかっていたので、背負っていたリュックを降ろし、辺りを散策する前に休憩を兼ねてお昼となった。

 

 取り出したお昼は普通のサンドイッチだが、それなりに具の種類には拘ったので飽きはしないだろう。大星さんほどではないが、皆山登りは流石に体力を使ったみたいで、景色の良さもあり次々と手が伸びる。

 

 

「京ちゃんのごはん久しぶり」

「ごはんってほどのものでもないけどな」

「でも本当に美味しいですよ、なぁ淡」

「まぁ、及第点かな」

「……なにを偉そうにしているんだお前は」

「まぁまぁ」

 

 

 そんな会話をしているうちに、あっという間に用意したサンドイッチがなくなっていた。

 8人前ぐらいは作った気がするんだけどな……俺の周りの女子はよく食べるなぁ。

 

 

「それでごはん終わったけど、どうする?」

「そうだなぁ……」

 

 

 控えめな言葉とは裏腹に俄然動く気満々な照の視線に、悩みながら他の二人の様子を窺う――――そうだな。

 

 

「……ちょっと疲れたから俺はもう少し休憩してるわ。照はその間近くを大星さんに案内してやったらどうだ? 腹ごなしの散歩にもなるし」

「うーん……淡はどうする?」

「ん、別にいいよ」

 

 

 お昼を挟んで疲れが取れた大星さんからの返事を受けて、照が少し悩みつつも立ち上がる。そして次にその視線が向くのは弘世なのだが……。

 

 

「ああ、私も休んでいるから行ってこい。ただあんまり遠くには行くなよ、迷子は勘弁だからな」

「大丈夫、ここは私の庭だから。咲と来た時もたまにしか迷わなかった」

「……微妙に不安なんだけどテル」

「大丈夫、京ちゃんもいるし」

 

 

 なにやら不安げな会話をしながら二人が離れていく……まあGPS機能がついている携帯もあるから何とかなるだろう。

 そして照達が離れると、ここに残るのは俺と弘世だけなのだが――

 

 

「さて、わざわざ残ってくれたんだし、話してくれるんだよな?」

「……やっぱりわかっていましたか」

「そりゃ照だけならともかく、全国まではまだ時間があるとはいえ、こんな大事な時期にわざわざ大星さんを連れてこっちに来てればな……」

 

 

 あいつらがいつ帰って来るのかわからないのですぐに話を切り出すと、向こうもこちらの言いたいことがわかっているのか苦笑しながら頷いていた。

 

 確かに照一人を帰省させるのは迷わないかと正直不安であるが、今までにも何度かあったから問題ないのだ。だから今回弘世が一緒に来たのは多分大星さんが理由だろう。

 そもそも我儘を言うなと一喝すればいのに、こんな所まで大星さんを一緒に連れてきたというのはやはりなにかしらの理由があると思うのが自然だ。その理由を話すためにこうやってあいつらから離れたのだろうし。

 

 そう伝えると、図星だったのか少し考えるそぶりをした後、降参だとため息をついて弘世が説明を始める。

 

 

「そうですね…………理由は色々ありますけど、一番は淡を須賀さんに合わせたかったからです」

「……俺に?」

「はい」

 

 

 思わぬ言葉に目を点にしながら聞き返す。なんで俺が出てくる?別になんでも解決できる不思議パワーなんて持ってないぞ。

 

 

「先ほど説明しましたが大星は一年でレギュラーになるほどの実力です。しかしその事もあって、他の部員との壁がありまして……」

「……うまくコミュニケーションが取れてないと?」

「はい、しかもあの性格ですから……だけど自分よりも実力が上の照に特に懐いているので……」

 

 

 なるほどそういうことね。部員も五人ちょうどのうちでは考えられないことだが、白糸台みたいな多くの部員の中から選ばれたのだから、同級生もそうだし、レギュラーの地位を狙っていた三年あたりからは当然嫉妬の対象となるだろう。

 

 また、あの白糸台で一年ながら大将を務めるという事はそれだけの実力という事だ。ならば麻雀自体が物事の判断の基準になっていてもおかしくはない。若いなら尚更だし、少しは生意気にもなるわな。

 

 とはいえ、照と弘世への態度を見る限り、本人自体はただの天真爛漫な性格なだけで、誰かを見下しているという認識はあまりないはずだ。

 ただ強豪校の麻雀部は体育会系の所も多いし、周りからすればレギュラーの事もあって生意気な一年生というイメージが大きくもなるはずだ。大星も年上に胡麻を擦るようには見えないからな。

 

 そして話の途中だが、ここまで聞いて大体言いたいことはわかった。

 

 

「つまりこういうことか。麻雀の実力がないのに照の兄貴分をやってる俺と、大星さんの尊敬する先輩である照の様子を見せれば、大星さんの年上に対する見方などが少しは変わるかもと?」

「はい、須賀さんには失礼な話でしょうが……」

「構わないよ、事実だしね。ただ、最初から警戒されてるみたいだけど……」

「それは……電車の中で照が須賀さんの事を話し続けたせいで――」

「――拗ねたと」

「予想外でした……」

 

 

 額を抑え、申し訳なさそうにする弘世だがこればかりはしょうがない、中々難しい問題だ。大星さんからすれば尊敬する相手が気にかけているのが、自分よりよわっちい俺なのが気に入らないのだろう。

 だけどな――

 

 

「確かに弘世の悩みもわかるよ、大事な時期だし少しでも不安要素は失くしておきたいもんな。だけどこればっかりは本人がどうにかしようって思わなくちゃいけないから、そこまで気負ってもしょうがないぞ」

「えっと……そうでしょうか……?」

 

 

 教師としてだけでなく、年上の大人としても少しアドバイスをすることにしたが、俺の言葉に納得がいかないのか弘世は訝しげな顔だ。

 確かに簡潔に言っちまえば放っておけという事だもんな。向こうとしては、少しは期待した回答を望んでいたのにこれではあんまりだろう。なので話は終わりではないと、横に首を振って続ける。

 

 

「別になにもしないってわけじゃないさ、別にそこまで焦らなくてもいいってことだよ。無責任かもしれないけど、今は多少のお小言だけでもいいんじゃないか? 今後それだけでも改善されるかもしれないしな」

「……」

「そしてそれでもダメなら、本当に大星さんが他の部員とぶつかった時に、お前たちが叱って手を貸してやればいいんだ。何か起こってからでは遅いって意見もあるけど、何かが起こってからじゃないと解決できない問題もあると俺は思うぞ」

 

 

 話を聞く限り、現状では周りも単に不満があるというだけで、今後の大星の行動で認識が改まる可能性もあるのだ。だけど今、下手に弘世達が出張れば、事態が悪化するという可能性も否めない。

 それに大人なら失敗は簡単に許されないけど子供なら許されることもある。大星さんはまだ一年生だ。これからゆっくりやって行けばいいさ。

 

 

「……そうですね、もう少し考えてみます。ありがとうございました」

「頑張れ」

 

 

 そんな俺の言葉に何か思う所があったのか、頷いて頭を下げてくる弘世に気にするなと手をひらひらさせて返す。

 本当に無責任だし少し偉そうに言ってしまったがしょうがない。部長と言っても弘世もそう歳も変わらない同じ高校生だ。出来ないことだってあるんだから気負う必要はないのだ。

 

 だけど――うちも県大会で優勝したし、今後もし全国でいい成績を収めたのならば来年はもっと部員が増えることだってあるだろう。少し気が早いかもしれないけど、俺も少しは今後の事を考えた方が良いかもな……。

 

 

「――と、あいつらも戻ってきたしこの話は終わりだな。さっきはああ言ったけど、なにかあればまた相談乗るからいつでも連絡してこい」

「はい」

 

 

 色々と辺りを散策していたみたいだが、それも終わったのか二人が戻ってきた。こうして中の良い所をみると姉妹みたいだ。咲が知ったら嫉妬しそうだな。

 

 

「京ちゃんそろそろいい?」

「ああ、それじゃあ向こうの花畑の方でも行こうか」

 

 

 折角ここまで来たからか高揚感を抑えられないみたいで、ワクワクという擬音が聞こえるぐらいの表情だった。インタビューの時とかもその顔でいればいいのにな。

 

 ――とその時、照の隣に立っていた大星さんが何かに気付いたように弘世に近づき、じーっと顔を眺めていた。

 

 

「んー…………?」

「どうした淡?」

「ふぅん……なるほどねぇ、なんでもない!」

 

 

 弘世と俺を交互に見ていたと思ったら、何やら含み笑いをしながら納得したとばかりの表情で笑っていた。

 うーん……よくわからんが、とりあえず移動するか。

 

 

「それじゃあ大星さん「呼び捨てでいい」え?」

「敬語使われるの気持ち悪いし、その代わり私もキョータローって呼ぶから」

 

 

 まさかの発言に俺と弘世が固まる。

 え?なんでいきなりデレてるの?いや、デレてるにしては随分と偉そうな感じだけど。

 

 

「待て淡、いきなり呼び捨てにするとか失礼だろ」

「なに? 先輩ってばやきもち?」

「な・に・を・言ってるんだ!!」

「おっと、危ないっ」

 

 

 弘世に怒られた大星さんがすかさず俺の後ろに隠れる。俺を間に挟めば弘世も怒るに怒れなくなるという計算だろう。

 うーん、近頃の子は狡賢いなぁ。

 

 

「まぁ、いいよ、好きに呼んでくれて。でも本当にこっちも普通に呼んでいいのか?」

「いいってば。あ、でも名前で呼ぶのはまだ駄目だから」

「はいはい、わかったよ。それじゃあ改めてよろしくな、大星」

「よろしくね、キョータロー」

 

 

 よくわからないが、距離が近づくのは悪い事ではないし、少しは心を開いてくれたってことでいいのかな?

 正直先ほどまでの当たり障りない会話は俺的にも疲れたし、照の後輩なら仲良くなりたいしな。

 

 

「さて、それじゃあ今度こそ行くか――ってどうした照?」

 

 

 とまあそんなこんなで心配事も一つ減ったので気分よく散策でもしようかと体を反転させると、目の前に河豚かと見間違わんばかりに思いっきり頬を膨らませる照がいた。

 うーん、こういう所を見るとやっぱ姉妹だ。よく似ている。

 

 

「……菫たちばっかりずるい」

「いや、ずるいって……」

「エコヒイキ」

「違うからな…………ハァ、どうしたらいいんだ?」

 

 

 プリプリ怒りだす照に、長年の経験から言い訳を続けてもどうせ聞きやしないと頭を振りながら結論付け、なにをしてほしいのかと聞く。どうせお菓子だろう。

 と、思っていたのだが――

 

 

「おんぶ」

「おま…………しょうがねぇな」

「よいしょ」

 

 

 まさかのお願いに絶句しかけるが、断っても駄々をこねるのは見えていたので、諦めて腰を下ろす。すると躊躇いなく、すぐさま乗ってきた。

 まったく……いい歳してこんなんで大丈夫なのかなコイツ。

 

 

「ロリコン……」

「違うからな!!!」

「♪」

 

 

 ジト目をした大星からボソッとこぼれた、聞き捨てならない言葉にすかさず反応する。教師にそういう単語は禁止だぞほんとに……。

 そんな呆れた視線を照越しにだが、確かに背中に二つ感じながら俺たちは歩く――ま、照も満足そうだしいいか。

 

 

 

 そんな感じで大会開け最初の俺の休日は、なにやらよくわからない三人と過ごすこととなったのだった。

 ただ、次の日には三人とも来た時よりもどこかすっきりした表情で東京へと帰って行き、俺としても悪くはない休みにはなった、とだけは言っておこう。

 




 大人が思っているよりも子供は聡い、それだけの話でした。あと仕事以外でも京太郎も拙いなりに大人らしいことはあるなって感じで。
 そして今後の彼女たちの出番は……どうでしょう?ただ、彼女たちが全国で当たる相手は――


 それでは今回はここまで。次回は早くあげられたらいいな…。


 キャラ紹介に【宮永照】・【弘世菫】・【大星淡】追加しました。

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