君がいた物語   作:エヴリーヌ

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玄「またしばらく出番がないのです」

咲「大丈夫ですよ。過去編には早めに登場してるのに、こっちでは台詞すらない人もまだいますから」

壁]照「…………」



18話

 月曜日――実に憂鬱だ。

 別に教師の仕事が嫌だというわけではないが、それでも週初めの月曜日はやはり気が重い。特に今日は昨日一昨日の県大会の疲れもあって余計だったが、ただ気分だけは実に良かった。

 やっぱり自分の教え子たちが頑張った結果が出て報われる姿を見られたのは、教師を始めた中でも一番嬉しいことであり、改めて教師をやって良かったと実感できた。

 

 とはいえ試合に出たあいつらに比べれば屁の河童だろうが、昨夜の祝勝会の後に咲を除いた四人を家まで送ったのもあって寝不足気味なのも事実だったため、疲れた体を鞭打ち引き摺りながらリビングへと向かう。

 

 顔を洗ってから到着したリビングではお袋だけがいて親父の姿は見えなかった。恐らく昨日の酒が残っているのでまだ寝ているのだろう。

 とりあえずお袋が朝食を用意してくれている間に置いてあった新聞を開く。昔からの習慣で朝は新聞に軽く目を通しているのだが、今日は最初に開くページが違っていた。

 

 

「お、言ってた通り勝ち上がったみたいだな照のやつ」

 

 

 そう、俺が見たのは全国麻雀大会県予選の結果である。昨日メールで連絡が来た通り、照の名前が先鋒としてそこに載っていた。

 ちなみに次鋒には照の友人であり、以前知り合った弘世菫の名前も載っていた。彼女には部長で忙しいのに色々と照の世話を見てもらっているし、今度会ったら労ってやらないとな。

 

 

「あと目ぼしい所は……」

 

 

 今後のこともあり他の高校を探してみると、去年も全国に行った学校の名前が多くあった。うちみたいな無名校がいきなり全国に行くってのはあまりないもんな。

 そんな感じでざーっと眺めていると。

 

 

「……ん? ………………へ? …………………………はぁ!!?」

 

 

 その中に見知った名前が『複数』あることに気付いた――

 

 

 

 

 

 放課後。昨日の大会のこともあって休みにしたかったが、今週末には個人戦があるし、これからのことを考えて俺たちは部活動を行っていた。

 といっても根を詰めすぎても駄目なので、どちらかというと息抜き的な意味合いが大きく、部室では昨日の試合の反省会という名目でその時の話題に花を咲かせている。

 しかしその中で俺だけは話題に加わらず、少し離れた所で一人携帯を操作していた。

 

 

「せんせーも携帯弄ってないで話に参加するべきだじょ。ほら、食うか?」

「あー……すまん、もうちょっと待って」

 

 

 そんな俺の様子が気になったのか、片岡が手に持ったタコスを向けながら誘ってきてくれるのだが、どうしても今のうちに終わらせておきたいので断る。顧問がこんなことやっていていいのかと思うがしょうがない。これも重要な案件だ。

 そんな俺の必死な様子が伝わったのか片岡も少し不満そうな顔を見せたが、聞き分けよく戻り、同じようにこちらの様子を窺っていた咲達も話を再開させた。

 

 そしてそれから十五分ほど経って、ようやくこちらの要件も終わった。

 出来れば電話を使いたかったけど、向こうの奴らも仕事などで忙しくて、メールでのやり取りしかできないみたいだったから実にもどかしかった。

 

 

「終わったの京ちゃん?」

「まあな、ありがとう」

 

 

 こちらの作業が終わったのを見計らってコーヒーを持ってきてくれた咲に礼を言い一気に飲み干す。内容が内容だけに精神的にも結構疲れて喉が渇いていたみたいで、凄く美味く感じた。

 そんなわけでようやく一息つけたのだが、視線を少しずらすと案の定さっきの俺の様子から気になっていたのか、興味津々とばかりに目を輝かせる咲達と目があった。

 

 

「それでどうしたの先生。随分と必死になってなんかやってたみたいだけど」

「ああ、少しな……それで宮永と原村ちょっと来い」

 

 

 とりあえず竹井の言葉に肯定しつつも濁して、この話題に関係がある咲と和を先に呼ぶ。

 そしたら二人とも、どうしたんだ?という疑問顔で近づいてきたので、さっそく鞄の中から持ってきたある物を見せる。

 

 

「これって……」

「今朝の新聞……ですか?」

「ああ、昨日の県大会の結果が載ってるやつだ。確かお前らまだ読んでないって言ってたよな? それでまず和、この奈良のところ見てみろ」

「奈良、ですか? ………………………………………………………ふええぇっっっ!!?」

 

 

 俺が指差す先を見た和が驚きのあまり思わずキャラ振れしたような声を出す。

 だけど無理もないだろう。何故ならそこにあったのは――阿知賀女子学園代表。高鴨穏乃、新子憧、松実玄、松実宥という俺たちにとって馴染み深い名前だったからだ。

 

 

「こ、ここここここ……っ!」

「ニワトリかしら?」

「こここれって!?」

「ああ、俺も最初見た時驚いたよ。あいつらマジで全国来るみたいだな……」

 

 

 優勝したことで浮かれて、自分たちの事で手がいっぱいだったためかこのことを知らなかった和が滅茶苦茶動揺していた。

 傍から見るとすごく面白いが、決して口には出さないでおこう。驚いたのは俺も同じだしな。しかし以前言ったことが本当になるとはな……まあ来る理由は違うかもしれないけどそれでも驚きだ。

 

 

「で、でも同姓同名ってことは……」

「いや、同じ名前と歳で麻雀、阿知賀だろ? さすがに本物としか考えられん」

「です……よね」

「それに一応大学時代の友人に連絡とったらやっぱりアイツらっぽかったわ」

 

 

 向こうのローカル放送で見ていたやつもいるんじゃないかと思って、連絡を取って教えてもらった特徴からもそうとしか考えられなかった。

 そんなわけで疑いたくなる気持ちもわかるけどどう考えてもあいつらだろう。近所で同じ名前の子供がいるなんて聞いたことがないしな。

 

 

「そうですよね……ですけど私と同じ副将の人は誰でしょうか? 知らない方ですけど」

「ん? ああ、灼の奴か」

「え、もしかしてお知り合いですか?」

「まあな。ほら、うちの近くにボウリング場あっただろ? あそこの娘さんだ」

「ああ、なるほど…・・・」

 

 

 新聞の記事をじっと眺めていて気付いたのか、自分と同じ副将の灼が気になった和がそのような知り合いいたっけってニュアンスで聞いてきたので説明すると、知りませんでした……という顔でうなずいていた。

 ちなみに俺が先程言った灼とは鷺森灼という当時近くに住んでいた女の子であり、今は玄と同じ高校二年生だ。

 

 当時、麻雀教室を開くために穏乃達と同年代で知り合いだった灼にも声をかけようと思ったのだけど、確か麻雀の話をした途端不機嫌になったんだよな。

 その事もあってそれ以来麻雀の事を話に上げたことはなかったけど、あれから何年もたったんだし、興味持ってもおかしくはないか。ちゃんと話して誘っておけばよかったかな。

 

 

「ま、でもこれで向こうに行った時の楽しみが出来たな」

「ええ」

「ついでにいいカモも……」

「須賀先生……」

 

 

 なんだかしんみりとした空気になってしまったので、冗談交じりで話すと呆れた目で見られてしまった。

 

 とはいえ昔馴染みと言えども手を抜くつもりはないから、試合で当たった時はあいつ等の癖などを知ってる俺たちが有利になるだろ――いや、でも全国に来たということはあの晩成を破ったという事か。

 晴絵が一度倒したとはいえ、あの晩成だしな……相当腕を上げてるとみていいから油断ならないか。

 

 

「それでどうする? いい機会だし連絡取ってみるか?」

「……いえ、どうせですし……ね?」

「……和も変わったなぁ」

「そんなしみじみと言わないでくださいっ」

 

 

 恥ずかしそうに顔を逸らしつつも怒る和には悪いが、なんだかんだ言って俺も賛成だった。そっちの方が面白そうだしな。

 そんなわけで少し気は早いが、夏の全国に向けて気持ちを高めていると、誰かが俺の裾をひっぱっている――咲だった。

 

 

「あ、悪い。忘れてた」

「…………」

「無言で頬を膨らませるなって。ほれ、咲はこっち見てみろ」

「ん? …………………………………………………………」

 

 

 中身を見た後、無言で新聞を閉じる咲。いや、気持ちはわかるけどなんかリアクションしろよ。

 

 

「……………………………………なんで?」

「俺に聞かれてもなぁ……」

 

 

 再び新聞を開いた咲が説明求むといった感じでこっちをガン見してきた。とはいえ俺も今朝新聞見るまでマジで知らなかったから話せることなんて限られているのだが……。

 とりあえず先ほどまで連絡を取り合っていたのでそこから得た情報を伝える。こっちは阿知賀の皆と違い、本人に直接聞いたから確信をもって話せるという違いはあるけどな。

 

 

「なんかうちらと同じで今年から麻雀部の人数が五人になったらしくてな。それで県大会出て優勝だってよ」

「…………シロさんって麻雀出来たんだね」

「俺も今日初めて知った」

 

 

 今まで何度もうちに来て顔を合わせた相手の意外な一面を知ってか咲が驚きつつも苦笑していた。うちに来た時はそんなそぶり一切見せなかったからな。

 確かに最近部活が楽しいって話は聞いてたけど、まさか麻雀部とはな……だから以前こっちからそこらへんの話を聞いた時も濁していたんだろう。

 

 そんななにか訳知り的な俺たちの様子が気になったのか、一歩引いて様子を見ていた竹井達が近づいてきた。

 

 

「えーと……先生、話が良く見えないんですけど」

「ああ、悪い。ほら、この岩手代表の枠に宮守高校ってあるだろ? ここの先鋒が俺の従妹なんだよ」

「………………マジですか?」

「マジだよ」

「いやいや、どんだけ引き出しあるんです先生?」

「お前だって藤田プロと知り合いだろ。まぁ、お前より長く生きてるからな、その分伝手も多いんだよ」

 

 

 俺から新聞を受け取った竹井達の視線が岩手代表宮守高校の所へ注がれ、ついには呆れた視線を向けられた。確かに自分でも縁に恵まれているとは思うけどな。

 

 

「この小瀬川白望って人か?」

「ああ、こいつだ。詳しく説明するとうちのお袋の妹の娘だ」

「この人です」

「ほう……確かに似とるのう。話から察するに咲も知り合いか?」

「はい、シロさんは休みによく京ちゃんに会いに来てたので。それと京ちゃんが中学生ぐらいの頃はもっと似てましたよ。」

「須賀先生な。あと余計な情報はいらんから」

 

 

 咲が携帯に保存してある去年一緒に撮ったシロの画像を見せると、染谷がまじまじとこちらと携帯を交互に見比べて頷いていた。まあ元々どっちもお袋似だからな。そのせいで昔は三尋木たちによく女顔だってからかわれたっけな……。

 

 というかあれってこの前携帯買った時にコピーして入れてやった写真だよな?咄嗟に出せるとかなんだかんだで携帯を使いこなしてて驚いたぞ。

 

 

「それで京ちゃん先生はほんとに知らなかったの?」

「須賀先生な。なんか驚かせようと県大会が終わるまで黙ってたらしくてな……ちなみに今朝こっちから詳しい話聞こうとしたら最初に返ってきたメールがこれだ」

「えーと……V? ……これってもしかしてビクトリー? なんかシロさんらしいね」

「ああ、めんどくさがりやなアイツらしいよ」

 

 

 咲と顔を合わせて思わず笑いあう。この一文字には、驚いた?とか凄いだろう?ダルいから的な複数の意味が込められているのだろう。まあ後でしっかりと時間とって電話するかな。

 

 

「それでその従妹以外は知り合いか?」

「一応二人とはな、後のもう二人とは会ったことないけど」

 

 

 全国で当たる可能性のある対戦校として気になる片岡にそう返しつつ、改めて新聞を見てみるが、胡桃ちゃんと塞ちゃん以外の二人はシロが最近話していた新しい友達だったはずだ。

 

 エイスリンって子はニュージーランドからの留学生で、豊音って子が小動物みたいな子だったかな。きっと胡桃ちゃんと一緒で小柄なタイプなのだろう。

 もう少し詳しくシロから聞いてみようかと思ったけど、あいつに仲間の情報を売らせるような感じになるし、どうせ向こうで顔を合わせる事も考えてやめておいた。

 

 

「ま、とりあえずシロ達の事はここまでにしといて、今は個人戦について話すか……といってもなんかあるか竹井?」

「そうねぇ……」

 

 

 今はこちらが優先事項だという事で部の方の話に戻す。ただ顧問としては情けないが、思いつかなかったため部長の竹井に話を振ると向こうもどうするべきかと腕を組んで悩んでいた。

 目標の全国行きはすでに果たしているからそこまで気負う必要はないけど、個人戦も大事だからなぁ……。

 

 

「……いつも通りでいいんじゃないかしら?」

「そうだな、そうすっか」

 

 

 そんなわけで結局、今さら慌てて個人練習などをするよりもいつも通り打って、他校の牌譜を調べるといった感じでその日は落ち着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ああ、ちゃんと伝えておくよ。……おう、わざわざありがとうな、お休み」

 

 

 夕食を終えた後、時間もあったので偶にはのんびりしようかと思っていたのだが、三尋木からかかってきた電話に対応していた為、いつのまにか九時を回っていた。

 どうやらいつの間にか一時間以上話していたようだ。

 

 

「さて……風呂でも入ってさっさと寝るか」

 

 

 一区切りついたし、少し早いが寝る準備をしようと思い立ち上がる。その振動でベッドの上で寝ていたカピが目を覚ますが、頭を撫でてやると気持ちよさそうに再び目を閉じた。まるで猫みたいだな。

 

 苦笑しながらそのまま部屋を出て行こうとしたのだが、ドアの所まで行ったところで突如先ほど置いた携帯が鳴り始めたので振り返る。着信音からするに電話だが、こんな時間かかってくるという事は三尋木が再度かけてきたのだろうか?

 無視して後でかけ直そうかと思ったのだが、その時に嫌味でも言われたらたまったものでもないのでため息をつきながら再度ベッドの上に戻る。

 

 

「はいはい、今で出ますよー――――――え?」

 

 

 いい時間なんだから少し自重しろよなー、などと内心愚痴りながら拾い上げた携帯のディスプレイを見ると、そこには思いもしない名前が出ていたため言葉を失う。

 

 驚きで心臓が脈打つのを感じる。それは久しく――それこそ三年以上まともに目にしたことはなかった名前だ。

 ゆえにどうするべきか逡巡したが、その間にも呼び出し音はまるで俺を急かすかのように部屋の中に鳴り響いており、こちらが出るまで簡単には諦めないというような意思を感じた。

 

 こうなったからには出ないことには始まらないと諦め、通話ボタンに手を伸ばす。そして緩慢ながらもついに通話ボタンを押して耳元へと携帯を寄せる――

 

 

「…………もしもし」

『ああ、やっと出たね』

 

 

 もしかしたら間違い電話ではないかという思いもあり控えめに切り出すと、それを裏切るかのように電話の主は呆れたような声を出した。

 その声色は聞きなれたものであり、最後に言葉を交わしたのは三年以上前だが、すぐに相手が電話の向こうでどのような表情をしているかが想像できる。

 

 

「……久しぶりだな、新子」

『ええ、久しぶりね須賀くん」

 

 

 緊張しながらも口を開くと、電話の相手――新子望も同じような言葉を返してきた。

 

 新子望――今日部室で話題になった阿知賀麻雀部にいる新子憧の姉で、俺が昔付き合っていた赤土晴絵の昔からの親友であり、俺にとっても仲の良い友人だった女性だ。

 

 当時、向こうに住んでいた時に晴絵の次に仲良くなった相手で、晴絵を含めた三人でよく遊び、また晴絵とギクシャクしていた時や付き合う時に世話になった相手でもあった。

 だが、三年前に晴絵と別れた後、電話で口論――といっても一方的なものだったが――したことによってそれ以降連絡を一切取っていなく、こうして言葉を交わすのはその時以来であった。

 

 

『いやーあの時はごめんね、感情的になっちゃって。謝ろうと思ってたんだけど、なんかかけづらくてさ』

「……気にしなくていいさ。新子は心配してかけてきてくれたんだし、怒るのも無理ないからな。俺だってずっと何もしてこなかったわけだし」

『なら痛み分けってことでっ、お互い手打ちにしようか』

「ああ」

 

 

 とまあ、そんなわけで仲直りとなったわけだがこれで終わりというわけではないだろう。

 

 

「それでどうしたんだ? わざわざこのタイミングでかけて来るってことはやっぱ県大会がらみか?」

『あれ? もしかして既に知ってたり?』

「ああ、おめでとう――ってここで新子に言うのはなんか変だけど、まぁおめでとう。姉やOGとして鼻が高いな」

『アハハッ、ありがとう。いやー、ほんとあの子たちがあそこまで行くとは正直びっくりだったよ!』

 

 

 俺の言葉に晴々とした声で新子が自分の事の様に喜んでいる。

 新子は10年前に阿知賀の麻雀部で晴絵と一緒に全国まで行っており、その大変さがわかっている為に嬉しさもより大きいのだろう。もしかしたら面子的にも新子が色々指導とかしていた可能性もあるしな。

 

 

「しかしあの晩成に勝ったってあいつら本当にすごいな。だけどこれで俺もまた一つ楽しみが増えたよ」

『ん? また一つってなにかあったの?」

「あれ、言ってなかったか? 俺、いま母校の清澄高校で教師やってるんだけど、麻雀部の顧問もしてて、うちも昨日の団体戦で優勝したんだよ」

「………………………………それ本当?」

「嘘なんてつかないさ。あ、顧問始めたのは二年前からだから、最後に話した時はまだだったか」

 

 

 当時は自分の事で手一杯だったのもあって、そういった話は全然していなかったな。麻雀部の顧問をしてるってのもあまり周りに話していなかったし、特に大学時代の友人には晴絵と共通の友人が多いために話しづらかったのもあったのだ。

 思わず頭を掻きながら気まずく感じていると、電話の向こうでなにやら新子の唸り声が聞こえた。

 

 

「どうした?」

『……いや、まさかの展開に驚きが隠せなくて』

「??? まあ、そんなわけで東京に行ったらあいつらと顔合わせるだろうからよろしく……じゃなかったわ。折角だしあっちで顔合わせた方が面白そうだから悪いけど黙っといてくれないか?」

『ああ、うん……』

 

 

 和に言われた事を思い出して穏乃達には内緒にしてくれるように頼んだのだが、何やら歯切れが悪い。新子ならサプライズってことでこういったのに嬉々として乗ってきそうだったのに。

 

 

『あー……ちょーとごめん。色々と立て直したいからまた近いうちにでもかけ直すわ」

「あ、ああ……わかった。なんかわからないけど頑張れよ」

 

 

 なにやら切羽包まっていながらも楽しそうな声を出す新子に激励を送る。立て直すって実家でも立て直すんだろうか?

 と、その前に――

 

 

「あ、新子。切る前に一つだけいいか?」

『ん? どうしたの?』

「そのな……」

 

 

 尋ねたいことがあて思わず引き止めってしまったが、その内容ゆえに言葉が詰まる。とはいえ電話を終えたがっている相手を引き留めて黙っているわけにも行かず、決意を込める。

 

 

「晴絵……あれからどうしてる? 実業団が解散したのは知ってるんだけど」

『ああ、ハルエ? あー……そのうち見れるから大丈夫だと思うよ』

「え、見れるって……?」

 

 

 親友の新子なら今の晴絵の現状を知っていると思って切り出したのだが、何故か軽い感じで返されてしまった。それなりに勇気がいる話だったのだが……。

 それに何処か呆れた含みを持たせた声色だが、いったいどういう事だろう?脳内に疑問が溢れ――あ、そうか、あいつの実力的にどっかにスカウトされててもおかしくないし、そのうちテレビやネットに出るという事か。それなら納得だ。

 

 

『ま、その時のお楽しみってことで。それじゃあお休み!』

「お、おう、お休み」

 

 

 そういうと向こうはまるで今までの事がなかったかのように軽く電話を切った。あまりの呆気なさに、今まで気まずくて遠ざけていたのがアホらしく感じた。

 気が抜けたのか体の力が抜けてしまったので、携帯を放り投げて再びベッドに横たわる。

 

 

「ふぅ…………でもそっか、あいつも上手くやれてるみたいだな……」

 

 

 実業団で働けるという折角のチャンスが潰れてしまったことを心配していたのだが、大丈夫なようでホッとした。あいつは麻雀をやっている時が一番輝いているからな。

 

 その安堵のためか立ち上がるのもめんどくさくなり、昨日の疲れもあって少し早いが寝ることにした。風呂は朝入ればいいし。

 そして実際に瞼を閉じたらすぐに眠気が襲ってきて、俺は段々と眠りに落ちていった。

 

 

 

 ただ――その中で俺は晴絵の事で安心しつつも、既にあいつにとって俺は必要な存在ではではないのだと完全に突きつけられたような感じがして、心苦しい気持ちを抱えながら眠りについたのだった。




 そんなわけで16話とは逆に京太郎達が阿知賀の出場を知る18話でした。自分の知り合いが新聞に出ていたら驚くよねと。
 だけどまさか話に出てた京太郎の従妹が白望だったとは誰も予想だにしなかったにあるまい……。

 ちなみに白望については名前を出したのはいいけど、出番が全国までなさそうなので短編の方で補完するかもしれません。

 それでは今回はここまで、次回もよろしくお願いします。

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