君がいた物語   作:エヴリーヌ

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うそすじ

 赤土晴絵と別れた後謎のジャージ娘と出会った京太郎。
 下半身に何も穿いていない様に見えた彼女だったが、実は上半身もボディペイントだったのだ……
 痴女ってレベルじゃねーぞ!


三話

「えーと……松実館松実館と……お、あれか?」

 

 

 女の子と別れてから十数分後。

 四方八方に視線を飛ばして探していたらようやく松実館とやらを発見したので、とりあえずバイクを止めてから旅館全体を眺めてみる。

 

 

「ふ~む、なるほどなるほど」

 

 

 パッと見た感じ、大きさ的にはそこまで大きくないが老舗の旅館といった雰囲気である。

 しかしそんな雰囲気とは裏腹に近くに土産物屋などもあって別に不便というわけでもないし、値段的にもそこまで張らなそうだからこれなら良さげだな。

 

 

「ま、とりあえず入ってみるか」

 

 

 いつまでも見ているだけでは何も始まらないので、バイクを駐車場に停めて中に入ることにする。そして受付で聞いてみると実際に値段も良心的で、部屋も空いているとのことなので今日の宿をここに決めた。

 その後部屋まで案内され、一人になったら気が抜けたのか荷物を置いて畳の上に座りこみ、そのままぐるりと首を動かして部屋の中を見渡してみる。

 

 華美な装飾はなく、畳、木のテーブル、襖、ブラウン管テレビ、窓際のイスというどの旅館にもよくみられる家具があり、一般的な宿といった感じである。

 しかしそんなゆったりとした雰囲気じゃら体だけでなく精神的にも安らぐ感じがして、人気が高いのも頷けた。

 

 その後部屋を見回している時にコンセントを見つけたため、携帯を充電し、その間に荷物の整理をしておく。時間的に夕食はまだ先だし風呂も後でいいしどうするべきか……。

 

 とりあえずいつでも風呂に行けるように準備をしたが、すぐに終わってしまったので体を休める為に横になる。

 十分ほど休んだ後、そろそろ少しは充電できただろうと携帯開きメールを確認する。

 

 

「おー、流石に半日放置してると結構来てるな」

 

 

 半日の間に溜まって友人達や後輩からのメールを一つずつ読んでいく。

 大抵が当たり障りない雑談的なものだが、中には遊びに行かないかとのお誘いメールもあった。

 今回の旅行はハギヨシや照達などの身近な相手にしか言ってないのでこういったメールもこの旅行中に何度か届いており、その都度用事があるって断っている。

 

 

「だって、ほら……あれじゃん。一人旅ってなんか恥ずかしくて言いにくいじゃん……」

 

 

 何処との誰とも知らない相手に言い訳をしつつも、流石にいつまでも休んでいるのはもったいないからと立ち上がり外に出る準備をする。

 財布や携帯など貴重品だけ持ち、部屋の外に出る。途中宿の人に会ったらいい観光地でもないか聞こうと思ったが、忙しそうなので適当に近くを歩くことに決めたのだが――

 

 

 

 

 

「いやー実にいい田んぼや畑ですねーーーー」

 

 

 ――一面に広がる山やのどかな田園風景に心洗われる……。

 

 

「わけねーよ……自分ちの近くでも見れるっての……」

 

 

 見渡す限りの自然に思わず毒づいてしまう。

 普通に行くんじゃつまらないし、こういった所の方に穴場があるのではないかって考えて建物が多い方とは逆方向に歩いてきたのが失敗したな……。

 

 まあ、こういった風景も風情があっていいんだが時と場合による。

 そういえば今更だけど、携帯を弄っている途中に調べたんだが、ここは吉野っていう地名らしいな。

 

 その後結局この道を十数分ほど歩いたが特に何もなく、これまた変哲もない十字路に出てしまった

 

 

「ふぅ……しゃーない、戻るか」

 

 

 この先にも建物はいくつかあるが、これ以上行っても面倒だから戻って土産物でも見るか。しかし踵を返そうとした時、ふと右の方から泣き声のようなものが聞こえたのでそちらの方へ視線を向ける。

 するとそこには見た目、小学校高学年ぐらいの女の子がいた。

 

 真夏なのになぜか長袖長ズボンの服を着て、尚且つこんな時期なら虫がいくらでも出て来そうな草むらの中を必死に覗き込んでいた。

 

 

「ふぇぇ……いったいどこにいっちゃったのぉ……」

 

 

 察するにどうやらなにかを失くしたみたいで探し回っているようだった。

 その為自分に向けられる視線に意識を回す余裕もないのか、こちらに気付いた雰囲気はなく、一生懸命に探していたみたいだったのだが……。

 

 

「ぐすっ……うっ……っ、ないよぉーー……っ! ……ッ……」

 

 

 あちこち探しても見当たらないのか、とうとう蹲り泣き出してしまう。

 もちろん田畑らしく辺りには俺以外人通りもなく、誰も声をかける人などいなかった。

 

 

 ――ふぅ……仕方ないな……。

 

 

「君、大丈夫? どこか痛いのか?」

 

 

 流石に無関係とは言え、泣いている女の子を無視する事もできず声をかける。

 もちろん先程から見ていた為、体の問題じゃないのはわかっているが念のためだ。

 

 

「ッ!? ……!? ……」

 

 

 すると誰もいなかったはずなのにいきなり声をかけられてびっくりしたのか、しゃくりを上げながらも驚いた表情で女の子がこちらを見上げる。

 

 近くに寄ったことに顔が見えるようになると、整った顔立ちをしていることがわかったが、それを台無しにしてしまうほど目元が腫れていた。

 この腫れ具合を見る限り、どうやら俺が見つけるよりずいぶん前から泣いていたみたいだった。

 

 

「ほら、服で擦ったら目に傷がつくからこれ使って」

「……っ! あっ……ありっ……あり、がと……ご、ござい……ますッ!……」

 

 

 そういって未使用の清潔なハンカチを渡すと、女の子は詰まりながらも礼を言い受け取る。涙を拭いている間少しでも楽になるよう背中を撫で続けてあげる。

 しかし撫でているうちに気付いたが、これってもしかして下に服を何枚も来てるのか?

 

 探し物するために長袖にしているのかと思ったが、実は風邪をひいているとか……?いや……でもこれだけ着込まないだろう普通……。

 

 普通ならあり得ない状況に思考を巡らせていると、段々と女の子も落ち着いたのかしゃくりが収まってきたみたいだ。

 

 

「もう大丈夫か?」

「……ぐすっ、はい……ありがとう、ございます……」

 

 

 泣き止んだのを見計らって手を離す。しゃくりも止まり落ち着いたのだが、未だに涙は少しだけだが出ている状態が続いている。ふむ……よし。

 

 

「ちょっとここで待っててな」

「……え?」

 

 

 そう言うと驚いている女の子を置いて近くにあった自販機まで走る。

 財布を取りだしお金を入れ商品を選ぶのだが、その段階になって、ふとある考えが浮かんだため悩み始めた。

 

 

「(あれだけ着込んでたってことは極度の寒がりだとか……。う~ん……いやでも、夏だしまさかな……でもまあ、それなら両方買えば問題ないだろ)」

 

 

 そう考えホットとアイスのお茶を一本ずつ買って戻る。冷たい方を選んで、暖かい方が残ったらぬるくなってから宿で飲めばいいしな。

 

 

「ほら、冷たいのと温かいのがあるけど好きな方飲んでいいよ」

「え……? でも……」

 

 

 知らない人からの差し入れだからか遠慮したのか、躊躇った感じで俺がさし出した二本のお茶を交互に見ている。

 もしくはそんなことをしている暇があったら、探し物を早く見つけたいのかもしれない。

 

 

「遠慮しなくていいから。それになんか探し物してたみたいだけど、その調子じゃ大変だし一回休んだ方がいいぞ」

「あ……そ、それじゃあ……こっちのを……」

「温かいのでいいのか? 冷たいのもあるけど」

「はい……私、寒がりだから……」

「そっか、じゃあこっちな。結構熱いから気を付けるんだぞ」

「はい……ありがとうございます」

 

 

 本人の発言と指をさしたのは暖かい方であった為、思っていた通り極度の寒がりだと判明し手渡す。

 だけど、こんな真夏日和の中でも暖かい飲み物を選ぶほどの寒がりだったとはな……。

 

 

「ン……ン……はぁ……あったか~い……」

 

 

 温かいお茶飲んだためか安心したのか、女の子は先ほどよりも頬を緩めて笑顔を見せてくれる。いや、どんだけ寒がりなんだよ……。

 しかし、一日に二回も女の子に飲み物を奢ることになるとは思わなかったな。

 

 

「落ち着いたか?」

「……あっ!? は、はい……あ、ありがとうございましたっ」

 

 

 女の子が落ち着いたのを見計らって声をかけると、驚いた顔でこちらを見て、それから急いで頭を下げていた。どうやら飲んでいるうちにリラックスできたのかこちらのことを忘れていたみたいだ。

 ただ、そのかいはあったのか目元は未だに赤いが、それでも先ほどよりは落ち着いている。

 

 

「それで、さっきから何か探してるみたいだけどどうしたんだ?」

「えっと……」

「あ、別に言いにくいなら言わなくてもいいんだぞ」

 

 

 答えようとするのだが言い淀んでしまっているし、様子からするに恐らく答えにくいものなんだろうと結論付け、先に言葉を挟んでおく。

 しかし女の子は何処か恥ずかしそうにしながらもこちらを見て何かを言おうとする。

 

 

「いえ……別にそういうのじゃないんですけど、その…………マフ、ラー……です」

「???」

 

 

 恥ずかしそうに答えた結果は予想外のマフラーである。

 一瞬頭の中が???で埋めつくされたが、先ほど寒がりだって言っていたことを思いだしすぐに納得する。

 確かに季節的におかしいけど、まあそういう人もいるよな。自分の周りに変人が多いこともあり再び納得する。

 

 

「うし、じゃあ探すの手伝うから、そのマフラーはどんな色で、どこら辺で失くしたかわかるか?」

「……え?」

 

 

 先程提案した通り俺が手伝おうと詳細を尋ねると、不思議そうな顔でこちらを見てきた。

 あれか?いきなり知らない人が手伝うとか言ったから驚いているのだろうか?

 

 

「あー……すごい今更だけど別に俺は怪しいものじゃないぞ。ただの観光客で、さっきから君が困っていたみたいだから声をかけたんだ」

 

 

 少しでも安心させようと事情を説明しようとするが、本当に今更であるし、大抵こういう事を言う奴は本当に怪しいと相場が決まっている。

 さて、どうすっかな……。

 

 

「あ……そ、そうじゃないんです……えっと……そ、その……」

 

 

 これ以上説明しようにもどうしようか悩んでいると向こうから声をかけてきたのだが、何か言いたいことがあるのだろうけど、上手く言葉に出来ずにいる。

 

 見たところあまり自己主張するタイプには見えないし、言いづらいんだろうな。

 こういった場合話しやすいようにこちらが手を引いてやるか、向こうが話すまでゆっくりと待つの、どちらかである。

 ふむ、だとしたら――

 

 

「何か気になることがあるのか? 別に怒らないから言いたいことがあるなら言ってもいいんだぞ」

「あ……その…………いえ、なんでもないです…………えっと……マフラーはピンク色で……お買いものから帰ったらなくなってました……」

 

 

 向こうが話させるようにこちらから促したら見事に失敗してしまった。

 まあ、気になるけど、それでもマフラーについて聞けたから良しとしよう。

 

 

「なるほどな、マフラーは首に巻いてなかったのか?」

「はい……お買い物の途中で邪魔になっちゃったので、寒かったんですけど外して……お買い物の袋の中に一緒にしまってたんですけど……き、気付いたらなくなってて……ぐすっ……」

「ああ、ほらハンカチ」

 

 

 失くした事を改めて実感したせいか、再度泣き始めてしまった為に先程とは違うハンカチを取り出して涙を拭う。

 しかしマフラーって結構かさばるもんだし、落としたことに気付かなかったってことは、相当買い物に一生懸命だったんだろうな。

 

 

「それじゃあ探し方はどんな感じだったんだ? 家から買い物したお店に戻る感じ?」

「ッ……はい……お家の近くは探したんだけど……全然見つからなくて……今はお店までの道を探してました……」

「ふむ、それでお家とお店の方角ってどっちかな?」

「えっと……あっちがお家で……こっちがお店です……」

 

 

 涙を拭きつつさらに詳しく聞いてみると、女の子が指をさしたのは今俺が来た旅館がある方と、先ほどの俺から見てこの子を見つけた方角である。

 

 しかし……ここらへんに住んでいる人はあまりいないみたいだし、家があるとしたら旅館のあたりだよな。ここにくるまでそれなりに歩いたし、つまりこの子は俺より前にこの道にいてずっと探してたってことなのか……。

 

 

「そっか、大変だったな……よしっ! 俺も手伝うから一度店までいかないか? もしかしたら落し物で届いてるかもしれないし」

「え……? で、でも……もし道に落ちてたら……」

「もちろん探しながらだけど、ピンクのマフラーって大きいし目立つから普通に道歩いてるだけで見つかると思うんだ。けど俺も向こうの道から来たんだが見てないし、この先に落ちてなかったらきっと誰かが拾ってくれてるんじゃないかな?」

 

 

 今日は風もあまり吹いていないから落ちたマフラーが何処かに飛んで行くというのも考えにくい。

 勿論最悪な事態として車に踏まれた勢いで何処かに行った可能性もあるが、悲しませるだけなので口には出さないでおく

 

 

「あ、そっか……」

 

 

 そこまで説明をすると気が楽になったのか、安心して悲しそうな顔ばかりしてた中で少しだけだがようやく笑みを見せてくれた。

 

 さっき見た時も思ったが小学生でこれか……今はおもちもないけど、そのまま育ったら後数年もすれば俺好みのタイプになるんだろうな……だけどもちろん手なんか出しません。

 Yesロリータ、Noタッチ。と、バカな考えは放り出そう。

 

 

「よし、それじゃあ俺が右側見ながら歩くから左側はまかせたよ」

「あ……は、はい! お願いします!」

「おう、任された」

 

 

 先ほどのような下心は兎も角、こんな風に一生懸命に頭を下げてしまったら頑張らないわけにも行かないよな。

 

 

 

 

 

 その後、店までの道を歩きながらお互いに左右に分かれて田んぼや草むらの中に落ちていないか探すも一向に目的のマフラーは見つからなかった。

 そして目的地である店にも着いて、店員さんに落し物がないか聞いてみるも届いてないとのことだった。

 

 

「うう……どうしよう見つからないぃ……」

 

 

 心当たりの場所をすべて探したにもかかわらず見つからないことでまた泣き出しそうになっている。

 その様子を見て、しゃがみ込んで女の子の目線に合わせてからあやすように頭を撫でる。

 

 

「ほら、泣かない泣かない。それじゃあ次は君の家の近所の人達に聞きに行こうか」

「え?」

「さっきも言ったけど、この時期のマフラーは目立つし、近所の人達だったら君のマフラーだってすぐにわかって拾ってくれてると思うよ。もしかしたら探してる間に家に届けられてるかもしれないしね」

 

 

 都会ならいざ知らず、お世辞にも人が多いとは言えない阿知賀なら顔見知りも多いだろうし大丈夫じゃないかと思う。

 袋に入れた時に落としてなかったなら、家が近くなった時に気が緩んで落としたって可能性も高いしな。

 

 

「でも……もし誰も拾ってくれてなかったら……」

「そしたらまだ俺も手伝うし、もう一度探してみよう」

 

 

 時間的にもう少しで夕食も近いが、乗りかかった船だし最後まで付き合うさ。

 するとまたもや気が緩んだのか、女の子が再び目に涙を浮かべだす。

 

 

「ぐすっ……あ、ありがとうございます……」

「ああもう、泣かないでくれって」

 

 

 流石に何度も泣かれると居心地が悪い、しかも今回は俺が完全に泣かせた感じだしな。

 それから店員さんにもしマフラーの落し物があったら残して置いてほしいと告げ、店を後にする。

 

 その後、もう一度来た道を戻りながら同じように探し続けていたがやはり見つからず、結局旅館に近い所まで戻ってきてしまった。

 途中何度か人とすれ違ったので、マフラーについて尋ねてみたが誰も知らず、地元の人ではない為か女の子の知り合いでもなかったので、拾ったら届けてほしいという事も出来なかった。

 

 

「さて、それじゃあ人通りも多くなりそうだし、色々聞いてみるか。ここら辺の人とは大体は知り合いなんだっけ?」

「うん……お家も近くだから皆よくお話ししてます」

 

 

 探しているうちに緊張が解けたのか、さっきよりも口調が少し柔らかくなっている。

 いつまでも硬いままだとやりにくいし、少しでも心を開いてくれたなら嬉しくもある。

 

 

「よし、それじゃあ聞き込みしながら一度君の家まで行ってみようか」

「はい」

 

 

 女の子の返事を聞いて、人を探すために歩き出そうとしたら――

 

 

 

「お~~~~~~い、おねえ~~ちゃ~~~~~~~~~~~~~~ん」

 

 

 

 ――遠くから声が聞こえた。

 

 

「あ、玄ちゃん!」

 

 

 その声に反応したのか、女の子が声のした方を向き名前を呼ぶ。先ほどまで元気のなかった声とは全く違い、それは年相応の声に近かった。

 そして俺もつられて同じ方向を見ると、この子にどこか似た感じだが、少し年下っぽい女の子がこちらに向かって走ってきた。

 

 

「えっと……お姉ちゃんってことは、あの子は妹さん?」

「はい……妹の玄ちゃんです」

 

 

 なんとなくわかっていたが、一応確認の為に聞いてみると予想通りの返事が返ってきた。

 軽く話している間に急いで走ったのか、アッと言う間に妹さんはすぐそばまで来ていた。

 

 

「もうっおねーちゃんどこ行ってたの! 心配したんだからねっ!」

「ごめんね、玄ちゃん……」

 

 

 余程心配していたのか声を荒げて姉を叱る妹さんと素直に謝る女の子。

 この感じからするに家族にはマフラーを失くした事を言ってなかったんだな。

 

 

「あ、えっと……お兄さんは……?」

「ん、ああ俺はただの観光客で、君のお姉さんがマフラーを落としたって聞いて少しの間だけ一緒に探してたんだ」

「ふ~む、なるほどなるほど。おねーちゃんがお世話になったようでありがとうございました!」

「いや、別に気にしないでくれ。それにマフラーもまだ見つかってないし」

 

 

 女の子を叱っていた妹さんだが、一緒にいた見知らぬ男が不思議だったようで、軽く説明をするとそれで納得にしたのか礼を述べてきた。

 内気の姉としっかり者の妹か……どこぞのポンコツ姉妹とは逆だな。ただし、照がしっかりしているか聞かれると返答に困る。

 

 

「あ、そうだ! そのおねーちゃんのマフラーだけど、少し前に灼ちゃん家のおばあちゃんが道に落ちてたって届けてくれたのです」

「え……!? 本当玄ちゃん!?」

「嘘なんかつかないのですっ!」

 

 

 驚く姉と胸を張る妹。

 しかし姉は厚着していた為わかりにくかったが、よく見ると姉妹どちらも平均的な小学生よりも少し大きなおもちをしてるな…。

 どこぞの宮永(ry

 

 

「というか、おねーちゃんもマフラーを落としてたのなら言ってほしかったのです」

「うう……ごめんねぇ…………でも、玄ちゃん達皆忙しそうにしてるのに言いだせないし、私が無理言ってお遣いもしたのが悪いんだし…」

「そんなこと気にしないでいいんだよ! むしろおねーちゃんが寒いのを我慢してお手伝いしくれて嬉しかったのです!」

「ふぇぇ……玄ちゃん……ッ」

 

 

 セクハラ気味なことを考えている間に話は進み、一人で探しまわっていたことを怒りながらも心配妹さんが再び泣き出してしまった女の子を抱きしめてあやす。

 

 しっかし……今日はやけに親のお手伝いをしている子供に出会うな。さっきのジャージの子もそうだったが、この子もどうやら親の手伝いを自分で買って出たみたいだし、妹さんも家の手伝いで忙しかったみたいだ。

 こうして見ると親孝行な子供がほんと多いよな。当時の俺なんて外で遊んでばっかりだったし、手伝いなんてもう少し年取ってから照達の相手したことぐらいだもんな……帰ったらなんか親孝行の方法でも考えるか。

 

 しかしこの仲の良い姉妹の醸し出す雰囲気の中。須賀京太郎、実に空気である……。

 いや、まあ……いいんですけどね。マフラーも見つかったし、万々歳だわ。

 

 そのような事を考えているうちに数分ほどたち、涙も止まり落ち着いたのか離れる二人。

 女の子は涙を拭くためにポケットからハンカチを取りだすと、ハッと気づいたかのようにこちらを見る。

 

 

「あ、ごめんなさい……ずっとハンカチ持ってて」

「ん?ああ、気にしなくて良いよ。いざというときの為に使い捨て用にたくさん買ってあるやつだからあげるよ」

 

 

 ハギヨシの教え第十三番『常に清潔なハンカチを多めに持ち歩け』。

 

 実際にこの旅行中なんども清潔なハンカチを必要とする機会は多かった為、実に役に立つ教えだったな。それになにやら明日もまた使いそうな予感がするし。

 そんなわけで自由にしていいと告げると、驚いたように視線をこちらとハンカチの間で行き来させる。

 

 

「え? でも……いいんですか?」

「うん、大丈夫だから。それにこっちとしては可愛い女の子に泣かれる方がきついしね、それなら思いっきり使ってくれた方がいいよ」

 

 

 遠慮しがちにこちらに尋ねる女の子に大丈夫だと返答する。常日頃よく転ぶ咲達のために家には箱で閉まってあるし別に安いものだ。

 途中ちょっとキザな事を言ったような気もするが気にしない。

 

 

「あ……あ、ありがとうございます……」

 

 

 とはいえ、この年の女の子なら傍から見れば寒いキザな台詞もそれなりに受け取ってくれるのか顔を赤くし俯いてしまった。

 別の方向から「おー、おねーちゃん真っ赤かだ~お兄さんすごいのです!」と聞こえてくるが無視無視。

 

 

「それに俺はたいして役に立てなかったしね」

「そんなことないです! お兄さんが一緒に探してくれたり、お家に戻ること教えてくれなかったら、きっと玄ちゃんが見つけてくれるまでずっと探してましたっ!」

「そうなのです! おねーちゃん外は苦手なのですごく助かりました!」

 

 

 結局役に立てなかったといった俺に対し、今までの中で一番大きな声を上げてそれを否定する女の子と姉の立場に立ちそれに同意する妹さん。

 気をつかってくれているのもあるだろうが、本心でそれ言ってくれてることが伝わってくる。

 そんな二人の姿と仲の良さに思わず顔がほころんでしまう。

 

 

「そうか、そう思ってくれるなら何よりだよ。それじゃあ、マフラーも見つかったし、俺はそろそろ行くな」

「え……!? あ、その……な、なにかお礼をさせてください」

「そうです。このまま返しては武士の恥なのです」

 

 

 目的のマフラーも見つかった為、その場から立ち去ろうとする俺を引き留めようとする二人。

 しかしさっきも言った通り、結局役に立たなかったし礼を受け取るほどのこともしていない。そもそも子供から礼を受け取るのは(もう数年もしたら)大人の身としてはあまりよくないしな。

 

 

「俺が好きでやった事なんだし、子供がいちいち礼なんて気にしないでいいんだぞ。それに夏だから日が暮れるのは遅いけど、親御さんも心配してるだろうしそろそろ帰った方がいいな」

「でも……」

「それに……ほら、俺もそろそろ夕食だし、帰らないといけないからしょうがないさ」

 

 

 まだ夕方で明るいが、マフラーを探している間に子供が帰る五時を過ぎてしまっている為帰宅を促し、こちらも帰る必要があることを匂わせる。

 

 実際は夕食にはまだ少し早いので、今度こそ土産物にでも見に行くつもりだ。

 あまり良い方法ではないが、こうでも言わないとこの姉妹の性格上諦めそうにもない為である。

 

 

「あっ……そうですか……わかりました、それじゃあ私たちはもう行きますね」

「うん、そうした方がいいな」

 

 

 拒絶されたことに少し落ち込んだ表情を見せつつも納得してくれたのか帰ることを告げる。妹さんの方は納得していない様だったが、当事者である本人たちが良いと言っている為かこれ以上口を出さない様だ。

 

 

「それじゃあ……ほんとうにありがとうございました……さようなら」

「ありがとうございました! さよならです!」

「ああ、さよなら」

 

 

 頭を下げながら礼を言い、何処か名残惜しそうにしながらも手を振りながら帰っていく二人にこちらも手を振り返す。

 何度もこちらを振り返りながら帰る二人が角に消えるまで見送った後、こちらも歩き始める。

 

 しかしあの子を最後にがっかりさせてしまったが、あれ以上のことは浮かばなかったし仕方ないよな……。

 最後の落ち込んだ顔が脳裏に浮かんだが、いつまでも引きずるわけにも行かず、気持ちを切り替え土産物へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 その後、土産物屋を巡るうちに夕食の時間になった為宿に戻り、夕食を取る。

 料理も美味く、露天風呂も気持ちよかったし、値段も悪くないと赤土さんが言っていた通り、実に快適な旅館だった。

 

 ただ……欲を言えば、女将さんや従業員さん達がもうちょっと若ければなーPlease give me omoti!・

 

 それから入浴も済んだあと、明日の為にも早めに就寝に就くことにする。そして寝る直前に今日一日のことを少しだけ思い返してみることにした。

 

 午前中は特に何もなく、午後になりガス欠で悲惨な目にあったが、赤土さんに助けられ、その後はジャージ娘(仮)に会った。

 旅館に着いてからは、軽い散歩のつもりが落し物探索に変わり、結局役には立たなかったが仲の良い姉妹と会えた。

 

 半分以上は歳がアレとは言え、可愛い女の子四人と話ができたし実に良い日だったな。これがあるから旅はやめらないよなー。まあ、昨日までそういった出会いなんてなかったけどね……。

 そんなことを考えているうちに瞼が重くなって来た為に本格的に眠りにつこうとする。

 

 

「今日はとっても楽しかったな。明日は、もっと楽しくなるよな、カピ?」

 

 

 遠い長野の実家にいるペットのカピバラに向けて言う。

 

 

 ――一人旅って虚しいよなー、あー彼女欲しいなーできればおもちが大きいのが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、朝食を軽く終えた後、旅館をチェックアウトしバイクを走らせる。

 さて、旅に出てからそれなりに経つし、夏休みも終わりに近いからそろそろ帰らないとなー、財布も寂しくなってきたし。

 

 今後の心配をしつつ走らせていると、人通りの少ない道に出る。すると視界の端で、自転車の傍にしゃがみ込みなにやら作業をしている人を発見した。

 つーかあれって――

 

 

「ぬぁーもー! なんでこうなるかなぁ! うがーっ!!」

 

 

 ……奇声を上げて自転車を弄りつつも八つ当たりしているのは、どう見ても昨日世話になった赤土さんだ。

 数十分の間の仲とは言え助けられた身だし、暴れている理由はわからないが流石に無視はできないと思い話しかけに近寄る……大丈夫だよな?

 

 

「あのー……赤土さん?」

「なによっ! ……ってあれ?」

 

 

 怒声をあげつつ振り返った赤土さんだが、こちらの顔を見ると思わぬ相手の登場に驚いたようだ。

 

 

 

 

 

 ――これがお互いの人生にとって一瞬だけの交差であり、もう会うことがないだろうと思っていた相手との二度目の出会いだった。

 

 

 

 あ、自転車を弄っていたせいか鼻の上が黒くなっている。

 

 




 レジェンドの出番が少ないのも全て松実玄って奴の仕業なんだ!

 当初の予定では一言二言しか台詞がなかったはずなのに登場させたとたんに表にぐいぐい出てくるとは…
 松実玄…実に恐ろしい奴だ…。

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