一話
―八年前―
2×××年8月。夏休みも終盤に差し迫った日のお昼過ぎ。
清澄の金髪ナイスガイ(自称)こと、わたくし、須賀京太郎(17)は大変困っておりました。
「あぁぁぁ……うぁぁぁぁ……畜生ぉぉ……マジついてねぇぇぇ……」
こんなこと滅多に起きることじゃないと思っていたが、まさか自分の身に起きるとは思わなかったわ。
いやまったく、ギリギリいけるだろうとは思ったんだけど、調子に乗りすぎたな……まさかのガス欠とかしょーもないわ。
「あちぃ……重い……ダルいーーーーーーー」
ぼやいてみるがどうしようもなく、つい先月買ったばかりのバイクを引きずる俺。
車輪がついているとはいえ、100kg越えの鉄の塊を夏の炎天下の中押すとかマジ拷問だろ……。
まあそれよりも一番の問題は――。
「いったいっ! 此処はっ!! どこでっ!!! スタンドは何処にあるんだよぉぉぉーーーっ!!!!!!!」
暑さと辛さを誤魔化す為に声を張り上げて叫んでみるが、余計に疲れるだけであった……。
そもそも一体なぜこんな状況に陥っているかというと、夏休み終盤ということで気晴らしにThe・一人旅!と洒落こんでみたのがそもそもの原因である。
故郷の長野を出てから西に向かい、昨日までは各地の名所を巡りながらも絶好調だった。
しかし、今朝になってから燃料がヤバいことに気付いたのだが、財布の中身も危うくなっていた為『なるべく安い所で入れたいから後で良いや!』などと安易に考えていたら結局見つからずアウトというオチである。
おまけにガソリンより少し前に携帯の充電が切れるという非常事態が起きたため、スタンドどころか自分の正確な位置すらわかず、バイクも放置できずにいた為にこうやって歩き続けるはめになっていた。
充電が切れる前に確認した限りでは奈良県に入ったのはわかるんだが、街の場所などは全く分からなかった。
「くそー……おもちがひとつ……おもちがふたつ……おもちがみっつ……」
気晴らしに好物?のおもちを羊のごとく数えてみるが、傍から見るとどう見ても不審者だろうな……。
まあ、本道から外れている道のせいか人なんてまったく出会わないんだけどね。あー……喉乾いたーーなんか飲みてー……。
「おもちがよっつ……おもちがいつつ……おもちg 「あのぉー……」 ……ん?」
さながら亡者のごとくおもちを唱える俺の耳に戸惑ったような声が聞こえた。
さっきまで人はいなかったし幻聴だろうか?などと考えつつも、もしやと思い声が聞こえた後ろを振り返ってみると――
「あ、えっと……なんか苦しそうな声が聞こえたんですけど、大丈夫ですか?」
そこにいたのはおもち……じゃなくて自転車に跨った女の子だった。
見た目はボーイッシュな感じだが、男みたいだとか、可愛くないなどというわけでなく、むしろうちのクラスの女子達より可愛いぐらいだ。
身長は女子にしてはそこそこあるが、年齢は少し下ぐらいかな?おもちも小さく好みとは言えないはずなのだが、なぜか惹かれるものがあった。
「ああ……いえ、特に体の方は問題ないです。ただ、ちょっとこいつがガス欠起こしちゃったんで、スタンドまで歩いているんですけど全く見つからなくて」
いつまでも黙ってみているのも失礼と思い、アレな所を見られたなー、と苦笑いをしながらも状況を説明する。
買ったばかり愛車だし、ガス欠だけのはず………だと良いなあ……。
「あ、それでしたらこの先に小さい所なんですがありますよ。けど、このまま普通に行くよりもここから200mほど行った先を右に曲がって、奥の道を進んでいけば早く着きますね」
「本当ですか! えっと200m進んで右に曲がって、ええと……」
親切心からか女の子が正面を指さしながら教えてくれるのだが、暑さのせいで頭が茹ってるから微妙に覚えていなかった。
「良かったら案内しましょうか? 表の道じゃないから結構わかりにくいと思いますし」
「確かに助かりますけど、良いんですか?」
俺が困っていると女の子はその様子を見てか道案内を申し出てくれた。
しかし……こんな暑い日にわざわざ外に出てるぐらいだからなにか用事でもあるんじゃないだろうか。
そう思う俺だったが、しかし女の子は手をパタパタと横に振りだす。
「そんな手間でもないですし、お兄さん旅行者みたいだから地元民としてはお客さんに嫌な思いはして欲しくないですしね」
女の子はそんな素振りも見せず、こちらを気遣った感じで問題ないことを話す。
何たる天の助け、こんな場所で女神様(微乳)に会えたことに感謝する。
「じゃあ……ちょっと厚かましいけどお願いします」
「はい、それじゃあ着いてきてください」
途中失礼なことを考えつつもお言葉に甘えることにした。
こんな具合にたまたま会った親切な子に助けられてバイクを押す俺。
どこのラブコメ展開だよ!と突っ込みが入るかもしれんが、現実は非情で、お互いに見知らぬ相手ということもあり緊張していたのか、特に会話もない。
まあ、個人的には喉が渇いてて、話すのも結構ダルい身としては助かった所もあった。
それから彼女に先導してもらいながらある程度歩くとガソリンスタンドが見えた。
道中会話はなかったが、彼女は押して歩くこちらを気遣いペースを落としてくれるなどしていた。この暑さのせいで汗もかいているのに本当にいい子だよ……。
「おーやっとあった! いやー本当に助かったわ!」
目的地に着いた嬉しさから思わずため口になってしまったが年下っぽいし……大丈夫かな?
しかし彼女は特に気にもせず笑っているだけだ。
「いえ、お役にたてたなら良かったです。それじゃあ私はこれ 「あ、ちょっと待ってくれ!」 ……はい?」
「君のおかげで助かったんだし、なにかお礼をさせてくれないか?」
自分の役目は終わりだとばかりに立ち去ろうとする彼女を慌てて止める。
流石にここでなにもしないと男が廃る、というか人間としてダメだろ。帰ってからこの話をしたらハギヨシにも説教されそうだし。
そんな思いを抱え、誘う俺だったのだが――
「いえ、別に気にしなくてもいいですよ。私もこっちの方に用事がありましたし」
――さらりと断られてしまった。
ただ、幸いなことに迷惑だって顔じゃなく、本当にたいしたことをしてないって思っている顔であるので説得を続ける。
「え、えーと……そ、それならあれだッ! そこの自販機のジュースだけでも受け取ってくれないかな? それならすぐ済むし!」
しどろもどろになりながらも必至に言葉を紡いでみるが、はたから見れば完全にナンパに近いものがある。
これはやっちまったかなーと思っていると。
「くすっ、じゃあお言葉に甘えようかな」
意外にもOKが出た。
「……あ、じゃあ! お、俺はコー○でも飲もうかな! 君はなにが飲みたい?」
「それじゃあ、アクエリ○スでお願いします」
注文を聞いてから急ぎ足で自分と彼女の分を買いに行く。くそー、あの笑顔は卑怯だろ。美少女とはわかっていたがおもちがない子に照れるとは不覚!
くだらないことを考えてるうちに自販機までたどり着き、財布を取りだし二人分の飲み物を買う。
ボタンを押す途中に塩コーヒーとか変な飲み物が見えたが無視無視。普段ならチャレンジしている所だけどそんな状況でもない。
「はい、君の分」
先ほどのやり取りで少し赤くなった顔を誤魔化す為にまた走って戻る。うん、これならなんとか誤魔化せるかな。
「ありがとうございます。えーと……」
「あ、まだ名前言ってなかったね。俺は須賀。須賀京太郎だ」
こちらに礼を言おうとする彼女だったが、お互いに名乗っていなかったせいで名前を言えずにいたので、特に隠す理由もなかったし名乗ることにした。
「須賀さんですね。私は――
――赤土晴絵です。よろしくお願いします」
傍から見ればなんの変哲もない出会いであった。
当人たちからも見ても彼女はただの道案内で、こちらも同じ只の迷子であった。
しかし――この出会いこそがこの先長い付き合いとなる、阿知賀のレジェンドこと赤土晴絵との運命の出会いであった。
プロローグに比べて短いですが、切りが良い所でここで一話終了。
向こうと違って話数で投稿するからそこらへんも考えないと…いやはや、SS書くって思ったよりも難しいですね。
あ、関係ないですが私はポ○リ派です。