君がいた物語   作:エヴリーヌ

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うそすじ


「私は赤土晴絵って言うんだ。二人の名前教えてくれるかな?」
「「だが断る」」
「………………………」


 こいつらまたおじさんの漫画読んで変なこと覚えやがったな…。
 いや、ちゃんとさせるから泣きそうな顔でこっち見るなよ赤土。



十四話

 赤土と一緒に長野に帰ってきてから一週間。昨日までは晴れが続き日差しが強かったのと照達も一緒ということであまり遠出は出来ず、主に家でのんびりしたり、近場で遊んでいた。

 

 しかし俺自身はあいつらの相手をするのは日課のようなものだし、まったく嫌ではないのだが、折角旅行を楽しみにしていた赤土には申し訳ないので、ちょうど気温も下がってきたのもあり、改めて出かけることにして今日は軽井沢の方まで足を延ばしていた。

 

 ちなみにあれから赤土と照達はそれなりに仲良くなり、その中でも照は元々友達が少ない事と赤土の友達になりたいって言葉で人見知りセンサーが解除された為か、俺達身内を相手にする時程とはいかないが、普段の他人に対する消極的な面とは裏腹にそれなりに仲よくなれたみたいだ。勿論咲の方も照ほどではないがそれなりに懐いており一緒に宿題などもしていた。

 そして流石の照達も一週間ほぼ毎日相手をしていたので我が儘を言わず、しばらくは家で夏休みの宿題をしているとの事だった。

 

 そんなわけで俺達は午前中に軽井沢のいくつか観光名所を巡り、現在旧軽の土産物屋を見て回っていた。

 

 

「あっ、これ望達のお土産にいいかも。どうかな?」

「んー、大きさ的にかさばらないし、日持ちもするから悪くないんじゃないか。値段も手ごろだし」

「そうだね、じゃあこれ買ってくるからちょっと待ってて」

「おう、先行ってるな」

「いやいやいや、待っててよ!?」

 

 

 赤土が手に取った土産をレジへと持っていき、俺はその様子を眺めながら他の客の邪魔にならないように端へと体を寄せる。

 他の客の事を考えるならさっさと外に出て待っていた方がいいんだろうが、この真夏日の中、少しでもクーラーの効いた店の中に居たいと思う現代っ子的な発想で動く気にはなれない。

 

 暇なのでボーっと店の中を見ながら待っていると、レジで袋詰めして貰って手持無沙汰の赤土と目が合った。

 

 

「(そろそろお腹すいた)」

「(だったらそれ買った後どっか入るか)」

「(さんせーい)」

 

 

 口パクとアイコンタクト、そして勘でお互い何を言っているのかを把握する。流石に半年の間ほぼ毎日顔を合わせているとこれぐらいお手の物だな。

 ちなみにこれより長い付き合いのハギヨシと三尋木他数名とはやろうと思えば目だけで会話ができる。

 

 

「おまたせ、それでどこいこっか?」

「ん、ここら辺でもいいがいっそのこと下に降りるか」

「あー、来る時に見えたショッピングモール? いいね、いこいこ」

 

 

 会計を終えた赤土と一緒に店を出てから停めてあるバイクまで歩く中で、あれは美味かっただの、別の方が良かったなどと先ほど店で試食した品について討論する。

 こういった話って店の中だと、店員に聞かれるからおおっぴらに話せないんだよな。

 

 

「よっしゃ、レッツゴー!」

「はいはい」

 

 

 最初の頃は乗るたびにおっかなびっくり回していた腕も、今ではすんなりと俺の腰へと回される。半年経つとこのやり取りも慣れたもんだ。

 そして赤土がしっかり掴まっているのを確認してから走り出す。目指すは軽井沢駅だ。

 

 

 

 

 

 あれから軽井沢駅の方まで下りてきた俺達は近くの店に入って昼食となった。

 名産的なのでもいいが、この一週間うちでも外でもそれなりにその系統の物はよく食っているから、たまには洋食ということで、昔何度か入ったことがあるピザ屋で食べることにした。専門店だからそれなりに美味く、当たりの店ということで赤土もご満悦だった。

 

 そして腹も膨れたので腹ごなしに歩こうということになっり、そのままショッピングモールを覗くことにする。

 

 

「おーでっかいねー。やっぱり皆服とかの買い物来るときはここなの?」

「まあ、田舎だしそんな感じじゃないか?」

「いやいや、なんで疑問形。同じ長野県民でしょ」

「おまえ、女子と男子の衣類に対する認識の差をわかってないな。近場ならともかく、こんなとこまで来るのは一部のお洒落な奴ぐらいだよ」

「えーと、須賀君は…………あ、ゴメン」

「それはそれでムカつくな」

「あはは、ごめんごめんって」

 

 

 謝りながらもからかう様にこちらの頬を突いてくる赤土をジト目で見る。

 自分のセンスの無さはわかって入るけど、他人に言われるとそれはそれで腹が立つな。いや、別にないわけじゃないけど、雑誌に載っているような男達に比べるとそこまで服に拘りなんてないから劣ってはいるのは仕方がないんだ――なんて、自分に言い訳をしつつそのまま歩き続ける。

 

 昼食を終えてから敷地の中に入ったのだが、向こうにはあまりこういった施設はないので赤土も興奮気味だ。大阪に出ればこれぐらいのはいくらでもあるけど、流石に阿知賀近辺にはないからな。

 昔、子供の頃に来た時は俺もすげえ興奮したっけ……まあ、服とかアクセばっかりで、玩具系がほとんどなかったから直ぐにがっかりさせられた覚えもあるけどな。

 

 ガキの頃を思い出して感傷に浸っていると、赤土が近くにあった案内板を見ながら眉間に皺を寄せて唸りはじめる。

 

 

「む~……これだけあると一日で回りきるのは難しいね」

「そこらへんは時間と相談だな。ついでにブランド物も多いから財布とも相談だ」

「まあ、ウインドウショッピングって感じでいいよ。他にも色々あるみたいだし」

「ああ、場所柄長野の土産も揃ってるしな」

 

 

 これからどうするか相談しながら足並みをそろえていくつか店を眺めていく。

 しかしこうやって歩くたびに思うが、俺と赤土はそこまで身長差がないから楽でいい。下手すると歩幅が俺の半分近い奴もいるからな。

 まあ、口に出すと赤土は凹むからあえて言わないけどな。こいつ自分の身長の事結構気にしてるし。

 

 

「言っとくけど……視線で何考えてるのか丸わかりだから」

「うげぇ!? マジか!」

 

 

 モロバレだったみたいだ。

 

 

「ふん、どうせデカ女さ……」

 

 

 そして拗ねた。

 

 

「悪かったって、ほ、ほら、あれ旨そうだし食おうぜ」

「ん、仕方ないな」

 

 

 拗ねる赤土に対し出店で売っているお菓子を奢ることで宥める。そしたら案の定、コロッと機嫌を直しやがった。

 周りからしたら背も高くてスラッとしてるからモデル体型に見えて良いと思うんだけど、赤土も女だからか妙に気にするんだよな……。

 

 その後、それなりに歩きっぱなしだったのもあり、先ほど買ったお菓子を手にモールに設置されているベンチに座って休憩することにした。

 

 

「ほれ」

「ありがと」

 

 

 近くにあった自販機で飲み物を買って手渡すと並んで座り、外の景色を眺めながら一息つく。

 ちなみに夏休みらしく俺たち以外の客も大勢いるから、家族連れや学生達と思われる集団もいて、中にはカップルもいる。

 

 

「(俺達も周りからすればああやって見えるのかね…)」

 

 

 まあ、男女ペアならそう見えるかもしれないけど、実際は只の友人同士だし関係ないな。今考えたことを頭から振り払い、今一度外の景色を眺める。

 元々ここはゴルフ場だったからそれを活かした広場も大きく、特に店先の通路で円状に囲まれた中央の池も合わせてそこいらじゃあまり見られない景色だろう。

 

 

「……いいね、なんかのんびりしてて」

「だな……しかしここに来るなら冬の方がよかったんだけどな…」

「え、なんで? なんかイベントでもあんの?」

「ん……ああ、いや、そういうわけじゃないんだけどな」

 

 

 ボンヤリとしていたせいか、思わず口から出でてしまった事を聞かれていた。まあ、たいしたことでもないけど隠すほどの事でもないし言うか。

 

 

「ほら、そこにデカい池があるだろ?」

「うん」

「冬の良い時期に当たるとそこが全部凍ってな、それで晴れると日が反射して景色がすごくきれいなんだよ」

「へぇ~、雪に見慣れてる須賀君でもそう思うぐらいなんだ」

「ああ」

 

 

 その景色を思い出すように言うと、興味津々とばかりに同じように池の方を観察する赤土。

 しかし残念ながら今は夏真っ盛りだからその景色は拝めないが、それでもなんとなくは感じ取れるんじゃないかと思う。

 

 

「それにな、ここの通路って長いだろ」

「うん」

 

 

 俺が横を見回してから上を向くと、またも同じように赤土も視線を動かす。

 そこには通路に沿って軒……と言っていいんだろうか、そんな感じで屋根が付いている。

 

 

「この軒の先に氷柱がずらーっと出来るんだよ」

「ほうほう」

「それで氷柱が出来た後に少し気温が上がるとその氷柱が少しずつ溶けて水が落ちるんだけど、氷柱の量も多いから色んなところからその音が聞こえな、凄く綺麗なんだ」

 

 

 中学の頃、冬休みということで皆とここにスキーをしに遊びに来たんだが、たまたまその状況に出くわして皆めちゃくちゃ感動してたっけな。

 当時を思い返して懐かしく思っていると、ふと、横から視線を感じて顔を向けたら、赤土がどこか優しげな表情で見ていた。

 

 

「ま、まあ、そんなわけで夏の長野もいいけど、冬も凄く良いってわけだ」

「ん、そうだね」

 

 

 恥ずかしい所を見られた!と、少し後悔をして少し赤みがかっているだろう顔を見られないように視線を他へ向ける。

 

 ――まったく……なにやってるんだろうか。

 

 きっとからかう様な笑みに変えてこっちを見てるんだろうなーと思い、横目で赤土を見ると、予想とは違い赤土は池の方を見ながらどこか羨ましそうな顔をしていた。

 

 

「いいなぁ……私も見てみたいな」

「その時の写真なら撮ってあるぞ」

「いや、それはそれで見てみたいけど……もう、そうじゃないっしょ」

 

 

 意地悪げに言う俺に対し、拗ねながら抗議してくる。

 まあ、言いたいことはわかってはいるけど、先ほどのことを誤魔化したくてはぐらかそうとしてしまうのはわかっては欲しい。

 

 

「まあ、また冬に来た時に見れると良いな」

「…………いいの?」

「断る理由がねーよ。お袋たちだって歓迎するさ」

「そっかぁ……へへ」

 

 

 照れくさくなったのか頬をポリポリとかいて誤魔化す赤土。

 なんだかんだですぐに馴染んだからお袋たちは勿論照達だって歓迎するだろう。

 

 

「まあ、冬になると駅から離れた土産物屋は結構閉まるからそれはそれで不便なんだけど」

「でも今度はスキーとか色々出来るんでしょ?」

「まあな」

「今度教えてよ」

「いいけど俺の教え方はスパルタだぜ」

「そんなの今更だってば」

 

 

 向こうでのことを思いだしたのか赤土が眉間に皺をよせる。言っておくが俺は悪くないぞ。勉強しないお前が悪い。

 おかしな表情をする赤土をからかいながら立ち上がる。そろそろ休憩もいいだろ。

 

 

「んじゃ、適当に次の店でも入るか」

「おっけー、今度は須賀君に合う洋服選んであげるよ」

「自信ありげだな」

「まあ、望の胸ぐらいにはね」

「それってびみょ…いや、すまん何も聞かなかったことにしてくれ」

「貸し一ね」

 

 

 要らぬところで貸しを作ってしまった……凹む。

 そのような調子でこの後も適当な感じでいくつかの店を回る俺達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから店を回り、インテリアや雑貨の店ではお互いの趣味や個性の違いからちょっとした討論になり、服飾関係では俺だけでなく、赤土のセンスの無さも浮き彫りに出るという結果となった。

 まあ、それでも赤土の『一応』俺以上センスで服や小物をいくつか購入した。

 

 それからいくつか名所を巡ってから街まで帰ってきたが、夏なので日は未だに出ているが、それなりに寄り道もしたので既に時刻は五時を過ぎていた。

 良い時間なのでこのまま家に帰っても良かったのだが、もう少しだけ外を歩きたい気分だったので今はうちの近くの河原で休憩中だ。

 

 

「んーーー、楽しかったぁー!」

「ああ、でもやっぱ一日動き回ると流石に疲れるな」

「若いのに何言ってんだか、向こうでも毎日筋トレしてるじゃん」

「いやいや、そういった疲労とはちょっと違うだろ。まあ、楽しかったからいいんだけどさ」

「だね、明日はどうしよっか?」

「そうだな 「お、あれって須賀じゃねーか!?」 ん?」

 

 

 赤土と河原に座りながら明日以降の予定について決めようとすると、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 声の主がいるであろう上の道へ振り返ると、そこにいたのは見覚えのあるようなないような男子四人だった。

 

 

「あ? ………おお! 久しぶりだな、佐藤、鈴木、高橋、田中!」

 

 

 全員個性のなさそうな顔をしていて少しばかり逡巡したが、四人組みということから記憶が掘り起こされ、高校時代のクラスメイトだということを思いだした。

 そいつらも俺が須賀京太郎だとハッキリと分かるとこちらに向かって降りてきた。

 

 

「おう久しぶり! つーかいつ帰ってきたんだよ、戻ってきてるなら連絡しろよ!」

「というか絶対今『こいつら誰だっけ?』って顔してただろ」

「マジひくわー」

「そうか?」

 

 

 高校時代から変わらないサラウンドアタックをかましてくる佐藤鈴木高橋田中に少々ゲンナリしながらも懐かしく感じる。

 まだ高校を卒業してから半年しか経っていないというのにそれでもひどく懐かしく感じるのは、こちらに帰ってきてから未だ昔の友人に会っていないのと、向こうでの大学生活が充実しているからだろうか。

 

 

「悪い悪い、少し前に戻ったんだけど忙しくてな。しかしお前らも相変わらずだな」

「そういう須賀もかわらねーな。それでいつまでこっちいるんだ?」

「あー、詳しく決めてないが多分八月末ギリギリまではいると思う」

「だったら今度遊び行こうぜ。須賀って見た目悪くないから女も寄ってくるし合コンに持って来いだ」

「ああ、なんせ昨日も玉砕してきたところだからな。俺達の力じゃ足りん」

「マジひくわー」

「そうか?」

 

 

 そういって逃がさないとばかりに肩を組んでくる佐藤鈴木高橋田中。遊びに行くのは構わないけど合コンか……向こうじゃそういったのは行ったことないからな、今後の経験として一つ行ってみるのもありか?

 突如訪れた機会に頭を悩ませていると、佐藤鈴木高橋田中がなにかに気付いたかのように横を見る――って、あ…そうだ赤土がいたんだった。

 

 視線の先にいる赤土はどうしたらいいのかわからないといった複雑な表情だった。

 まあ、いきなり一人で放置状態にされたらそうなるか。こりゃ拗ねて後で色々言われるな。

 

 後の事を考え微妙に頭を痛くしていると、突如佐藤鈴木高橋田中が俺を囲み、まるでドラマで見る容疑者を調べる警察官のような表情かつ赤土に聞こえない程度の声量で詰問してきた。

 

 

「おい須賀! あの子は誰なんだ!? 一緒にいたって事はお前の知り合いだよな?」

「見た感じ女子にしてはかなり身長があるみたいだけど、かなり可愛い子だよな。結構好みかも」

「マジひくわー」

「そうか?」

 

 

 矢継ぎ早に飛ぶ質問のおかげで霹靂とする。

 まあ、確かに赤土って大学でも女子だけで動く時は声かけられることもあるみたいだし、こいつ等としては気になるのもしょうがないか。ついでに俺としても一応可愛いのは同意しておく。

 そしてさっさと教えろとばかりに体をゆすってくるのが鬱陶しいので教えてやることにした。

 

 

「向こうのダチだ。休みだからちょっとした旅行のつもりで連れてきたんだよ」

 

 

 面倒なので簡潔で必要なことだけを伝えることにする。とはいえ、これ以上に説明することなんてないのだが。いや、うちで寝泊まりしているって言ったら炎上しそうだが。

 しかしそれだけでも十分なのか、四人とも苦虫をかみ殺したような表情をしている。

 

 

「あーくっそ、向こうで上手くやれてるか心配して損したわ」

「女同伴で帰省とかありえねーな、でもまだ友人なら俺にもまだチャンスがあるかもしれん。ちょっくら行ってくるわ」

「マジひくわー」

「そうか?」

 

 

 そいつは余計な心配かけてスマンな。いや、絶対嫉妬十割だろ。そんな会話をしていると、俺を囲んでいた円から抜け出して本当に鈴木が赤土の所に向かいだした。

 止めようと思ったが、未だ他の三人に囲まれているのでとっさに動くことができなかった。

 

 

「はじめまして、須賀の高校時代のクラスメイトの鈴木です!」

「え、ええと……はじめまして、あ、赤土です……」

 

 

 元気よく自己紹介をする鈴木に対し、赤土はなにやらヒソヒソしてた野郎五人のうちの一人が突如自分の方へ向かってきたので困惑気味だ。

 

 案の定「これなに?どうしたらいい?」って顔でこっち見てるし。

 別に鈴木が変なことをするとは思っていないが、いきなり初対面の相手に話せって言われるのも困るだろう。そう思い二人の方へ向かう。

 

 

「そうですか赤土さんですか…………ん?」

 

 

 爽やかに語りかけて鈴木が突如黙り込んだかと思うと、こちらに振り向き歩いてきた。

 そして同じようにむこうに向かって歩いていた俺の前で立ち止まると、頭を叩いてきた――って!?

 

 

「なにすんだよ!?」

「うるせぇ、なにが友達だ。期待させやがって」

「はぁ?」

「ったく、恥ずかしいからって彼女隠すんじゃねーよ」

 

 

 ―――――――――――――――――はぁ?

 

 

「「はぁ!?」」

 

 

 最初何言われていたのか理解できなかったが、脳みそがようやく言葉と意味を理解すると、会話が聞こえていたらしい赤土と声を揃える。

 いや、それよりこいつ何言ってんだ。赤土が誤解するじゃねーか!?

 

 

「ちょ、お前なに言ってんだよ!?」

「だから彼女だろ、お前去年の夏休み明けに彼女出来たって言ってたじゃないか」

「あー、そういえばその時赤土って人が彼女だって言ってたなー。後で聞くつもりだったけど中川と室井の話題ですっかり忘れたっけ」

「マジひくわー」

「そうか?」

 

 

 頷きながら話す佐藤鈴木高橋田中を見ていると俺自身も当時を思い出してきた。

 

 

「(あー…確か見栄で咄嗟に赤土の名前使ったんだっけな…)」

 

 

 あの時はすぐ後に隣のクラスの中川(男)と室井(男)が付き合い始めたって話題が出て有耶無耶になったから俺自身もすっかり忘れていた。

 

 しかし既に後の祭り。恐る恐る赤土の方を見ていると―――無表情となった赤土がいた。それなりに付き合いがある相手でなければわからんが、おそらく頭の中では激しい混乱状態になっているんじゃないかと思う。

 

 こいつらの誤解を解くべきか、それともとりあえず今は流して赤土の誤解を先に解くべきかと悩んでいると、佐藤鈴木高橋田中がバツの悪そうに話を進める。

 

 

「だとしたらこれってデート中だよな? 俺達ってすげえ邪魔だし急いで消えるか」

「空気を読んでカップルを応援するイケメン四人……次の合コンではイケるな」

「マジひくわー」

「そうか?」

「んじゃ、俺達もう行くから後でメールでもくれよ。近いうちにプチ同窓会でもしようぜ。じゃあな」

「お、おう、またな」

 

 

 そう言うと佐藤鈴木高橋田中は肩を並べ、どこか哀愁漂う背中を見せながら帰って行った。あいつらホントかわらねーな……って、それより今は大事なことがあった。

 

 

「あー……赤土」

「………………」

「おーい、赤土ー」

「………………」

 

 

 顔の前で手をひらひらとさせてみるが反応なし。別に気絶しているというわけではないが、どうやら頭の中で色々と考えまくっているからかこちらに気付いていないようだ。

 しかし無理に気付かせるときっと『近づいた俺の顔に驚いて大声を上げるorビンタ』という漫画みたいなテンプレ展開が起きそうだしな、さてどうしよう。

 

 

「――――――――なんで初めてのデートが床屋なのさ!?」

「何の話だよ!?」

 

 

 どうしようか悩んでいると、突如赤土がわけのわからんことを叫ぶ。

 驚いて後ずさり、ひとまず様子を見ていると、正気に戻ったのかどこか虚ろ気だった目に光が戻って近くにいた俺へと視線を向ける。

 

 

「え? え? えええ? あれ?」

「おーい、目は覚めたかー」

「え、う、うん……ってすすす須賀ががかかかかかのじょ!?」

「いや、ちゃんと説明するから落ち着けって」

 

 

 どうやら想像……いや、妄想でもしてたんだろうな。目が覚めた後もテンパる赤土を落ち着かせ、先ほどのやり取りで出た誤解を解くために説明をする。

 

 ――去年赤土と出会った旅行が知らぬ間にクラスで広まっていた事。

 ――その中で俺に彼女出来たって噂が出来たって事。

 ――否定すると馬鹿にされるので思わず嘘をついたこと。

 ――そして……思わず旅行先で会った赤土の名前を出してしまった事をだ。

 

 

「ほんとスマン。長野と奈良だったらすごい離れてるし、苗字だけならバレないと思ったんだよ」

 

 

 今になって思えば、当時は知らなかったが、赤土は数年前に麻雀の全国大会にも行っていて、クラスで麻雀やっている奴もいたから下手したら知ってる奴がいてもおかしくなかったんだよな。写真でも見せていたら完全にアウトだったろう。

 

 

「マジで迷惑かけるつもりなんてなかったんだ、なんでもするから許してくれ!」

 

 

 未だ黙ったままの赤土に向けて両手を合わせ、頭を下げて謝る。

 当時はまだ知り合ったばかりの相手に本人がいない所で勝手に彼女扱いされるって嫌だろう。しかも誤解も解かずそのままだったし。まあ、もし俺が逆に彼氏扱いされてたら…その、嬉しいが、そこは男だからだろうしな。

 

 頭を下げている為赤土の顔は見れないが、恐らく恥ずかしさ75%、怒り25%辺りの赤土がいるんじゃないだろうか?

 しかし赤土は何も言わずにいた。どうしようか悩んだが、いつまでも顔を下げたままだと話が進まないので恐る恐る顔を上げると……。

 

 

「………………ん、ああ、別に気にしてないからいいよ」

 

 

 俺の視線に気づいた赤土が予想と反して笑いながらそう言った。

 てっきり恥ずかしさを誤魔化す為に怒りだすと思っていたのだが、俺の予想違いだったか?いや、でもなんか違和感があるな……。

 さっき佐藤鈴木高橋田中がいた時に見せた無表情の時よりも赤土の表情が読めない。

 

 

「それじゃあお腹もすいてきたしそろそろ帰ろっか」

「あ、ああ……」

「ほら、もたもたしてないで急ぐ急ぐ」

 

 

 赤土はそういうと俺の背中を押してバイクの方へ歩きはじめる。振り返って赤土の顔をもう一度見て確かめたかったが、この変な感じは気のせいなんだろうか。

 そしてバイクの所まで行くと、いつも通り赤土を後ろに乗せて家に帰ることとなった。

 

 

 

 ――その後、赤土が先に阿知賀に帰るまでの一週間。俺達の間にはどこかおかしな空気が流れていたが、結局俺はそれがなんなのかわからなかった。

 




 とまあそんなわけで随分と間が空きましたが夏休み後編の過去編14話でした。
 登場を期待していた方々には申し訳ないのですが、咏ちゃんハギヨシの出番はありませんでした。神は言っている…まだ早いと。まあ、そのうち出る予定なので気長にお待ちください。
 そしてそれなりに良い雰囲気だったのになにやら暗雲立ち込めはじめた二人の関係。この先どうなるかは次回で。


 とまあ本編の話はここまでで、なにやら色々と設定が公開されたみたいですのでちょっと横道にそれますが雑談を。
 なんでものどっちのおもちがJ→Kになってたり、明星ちゃんが従姉妹だったりと色々出てきましたが、うちとしては京太郎が中学時代ハンドボール部だったってのが一番重要ですね。
 これまた設定が出てきてくれて色々使えますが、これはこれで既に書いてあるものに影響するという…嬉しい悲鳴ってやつですかね。

 それで入れ替えても本編にはそこまで影響ないですし修正してもいいんですが、めんど(ryいえ、しょせん二次創作ですからね。多分番外編で他の話を書く時はハンドボール部設定で行くと思いますが、本編はこのままで行かせてください。
 ほ、ほら、10年違えば周りの環境も変わるから部活が違ってても問題ないよね!うん!


 それでは今回はここまで、次回もよろしくお願いします。

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