いやぁ、お待たせしました。
プロットとか作ってないおかげで、1度躓くとなかなか進めなくなりましてね。
「」の置き方とか、?や!のあとに半角スペースを入れて見たんですが、どうでしょうねぇ。こうした方が文章が良くなると言うのがあったら、指摘お願いします。
とりあえずどうぞ……
日が傾き始めた頃、世界でも稀な不可思議案件専門の探偵、綾瀬夕映は自宅兼事務所にある寝室で目を覚ました。パジャマ代わりにワイシャツ1枚を羽織った姿でベットに入っていた彼女は、ベットの傍に置いてあった時計を見て、そろそろ動かなくてはいけない時間である事を確認し、仕方ないと言うように大きく体を伸ばした。
このまま寝ていたいと言う体の訴えに僅差で勝ちどうにか体を起こすと、脱いでいたズボンを履き寝室を後にする。
「………はぁ、そろそろ出かけるとしますか」
寝足りないと訴える体に喝を入れる為、洗面所に向かう夕映。
ささっと顔を洗い、寝癖を直して身仕度を整える。さすがの彼女も人と会うのに、ボサボサの髪と寝ボケ気味の顔のままにはしないようだ。
一通りの仕度が終わった彼女は、朝に壊れゴミ箱に捨て去ったカシオペアもどきを回収し、ビニール袋に放り込んだ。これのおかげで今面倒な事態になっていると思うと、ただの金属片がとても恨めしく見える。
「超さんが素直に直してくれるといいんですが……」
コートを羽織って事務所を出た彼女は、とりあえず麻帆良大学に向かう事にした。
夕映の記憶では、目的の人物は工学部の研究室を借りて研究や発明をしていたはずだ。居なかったら居なかったで、また考えよう。そんなある意味他人事のような考えの下、夕映はまっすぐ麻帆良大へと足を進めた。
授業が終わって生徒達が溢れ出てきた麻帆良を歩きつつ、どうやって直してくれるように説得するか、はたまた何を対価にするべきかなどを考える。中等部時代では頼めば大抵の事をやってくれた印象のある彼女だが、今の自分は彼女にとって完全な部外者。頼みをホイホイ聞く理由がないのだから、対価などは必要だろう。
この事態が彼女の仕込みだった場合はまた話が変わってくるのだが。
(その時は……どうしましょう? 脅し透かしが通用する相手でもありませんし……)
夕映は、自分の持てる知識と経験を武器に、未来から来た最強の頭脳に戦いを挑む……なんて事にならないよう祈るしかなかった。
(……そんなめんどくさい事はごめんです)
理由はなんとも怠惰である。
麻帆良大学。工学部などが設置されているこの大学は、麻帆良の中でも特に技術が進んでいる学校である。科学技術だけでも世間一般から数世代は進んでおり、土木技術や建築技術はもはや学生の域を超えている。そんな麻帆良大学の頂点と言われている人物が、今日夕映が会おうとしている超鈴音である。
自称未来から来た火星人で、夕映の恩師ネギ・スプリングフィールドの子孫だと言う彼女こそ、タイムマシン・カシオペアの発明者。今、夕映が陥っている事態を引き起こした可能性のある最重要参考人だ。犯人であろうがそうでなかろうが、会えばきっと事態は動くだろう。少なくとも、カシオペアの事で彼女以上に詳しい人物はこの世界のどこを探しても見つからないのだから。
「さて……、来たはいいですが、どこに居るのでしょう?」
工学部に研究室があるとは聞いているが、さすがにどこの階に居るかまでは知らなかった夕映は、どうしたものかと麻帆良大の校舎を見上げるのだった。
超に会えばどうにかなると楽観視していたが、これではまず会う事も出来そうにない。しかし、日を改めたとしても居場所が分かる訳でもないし、かと言ってここで立っていれば向こうから来てくれる訳でもない。仕方なしに夕映はそこらを歩く生徒達に聞き込みをすることにした。探偵としてよく歩き回って情報を集めたりもしたので、その解決方法事態には慣れている。
夕映はとりあえず近くに居た大学生と思しき男性に声を掛けてみる。
「すいません、少しいいですか?」
「え、なんすか?」
「少し聞きたい事があるんですが……」
気も良く返事をしてくれた男性に超の事を聞こうと顔を向けた夕映は、ふと視界の端に見知った姿を見つけた。ピシッと姿勢良く歩く、緑色の髪をなびかせる女生徒。かつてのクラスメイト、絡繰茶々丸だった。彼女は同じくクラスメイトだった葉加瀬聡美と共に超鈴音が創造したロボット、正確にはガイノイドだ。超の関係者なので、確実に居場所を知っているだろう。
「あの、どうしたんすか?」
「あぁ、すいません。用事が済んでしまいました。御手数をお掛けしたです」
お礼を言いながら男の手を取り微笑む夕映に、微笑まれた方はよく分からないまま顔を赤くする。
「い、いやぁ。なんか分からないっすけど、お役に立てて良かったっす!」
夕映の手を握りながら頭を掻いて笑う彼に、もう一度微笑みかけてから別れを告げ、夕映は茶々丸を追いかけた。
一定のリズムで歩く茶々丸の隣に陣取り、歩みを止めないまま声を掛ける。
「こんにちは、茶々丸さん」
「……こんにちは。どちら様でしょうか?」
急に話しかけて来た夕映に戸惑い足を止めた茶々丸に、夕映はここに来た目的を告げる。
「私は超さんの知り合いです。彼女に会いに来たのですが、居場所が分からなくてですね、貴女に案内を頼もうと思って声を掛けさせて頂きました」
「超の、ですか? 失礼ですが、どういったご用件でしょうか?」
「彼女に直して貰いたい物がありまして。出来れば、超さんの所に案内して頂くか、連絡を取って貰えると嬉しいのですが」
いきなり現れて自分の創造主に会わせて欲しいと言う夕映に、どう対処すべきか判断しかねた茶々丸は超に電話を掛ける事にした。
「少々お待ち下さい。超に連絡を取ってみます」
「ありがとうございます。麻帆良大に居るだろうと言うのは分かってたですが、そのどこに居るかまでは分からなかったもので難儀してたです」
夕映に対応しながら、茶々丸は超と連絡を取った。
『超、貴女に会いたいと言う方が来られているのですが?』
『あぁ、茶々丸。映像を受け取ったネ。見た事無い相手ダガ、ワタシになんの用ネ?』
『超に直して欲しい物があるそうです』
茶々丸の答えを聞き、少し興味を持った超は、茶々丸に一つ指示を出した。
『一体何を直して欲しいノカ、それと相手の名前を聞いてみてクレ』
『了解しました』
動きの止まった茶々丸が超と話をしているのだろうと予想した夕映は、大人しく話が終わるのを待ちながらこの後どうするかを考えていた。すぐに帰るのもいいが、8年もの時間が経った現在では手に入らない、発売停止となった珍妙ジュースを大量購入すべきか、はたまた懐かしいクラスメイトの中等部時代の姿を愛でに行くか、帰れる事を前提に予定を組み出していた。
いつもはもっと冷静に、いくつものパターンを想定して予定を立てて行くのが彼女の持ち味なのだが、今回は少し楽観的すぎる印象がある。やはり冷静かつ余裕があるように見えて、今回の予想外な出来事に混乱していたのだろう。
「あの、超が貴女の名前と、何を直して欲しいのかを教えて欲しいと言っているのですが……」
「あぁ、分かりました。今、彼女に繋がって?」
「はい。リアルタイムで視聴しています」
ある意味一方通行のテレビ電話だ。まぁ、夕映は相手の顔を知っているのでそれでもまったく困らないが。
「そうですか。では、超さん、初めまして。いえ、貴女なら私を知っているかも知れないですね? まぁ、それは置いておくとして。私が直して貰いたいのは、私がここに来てしまった原因であるカシオペアと思われる懐中時計です。なにぶん見た目などがうろ覚えなので確証はないですが、効果は私の知っているカシオペアそのものだったです。私をここに送った後、盛大に壊れてしまい帰れなくなったので、どうか貴女に直して貰いたいのです」
夕映はとりあえず具体的な効果をぼかしつつ、超に壊れたカシオペアの事を伝える。
このような不特定多数の人間がいる所で余り詳しい話をするべきでは無いと考えての事だ。こう言う所は、探偵としてというより社会人としての心得だろうか。
(ふむ……。一体何者ネ、この女。カシオペアの名前だけじゃナク、その効果まで知っているトハ……)
本来協力者の葉加瀬にしか教えていないカシオペアの事を、かなり細かく知っている様子の女性に、超は驚きつつも興味を持った。見た感じからしてただの魔法使いではなさそうだし、何よりこの女性が言った、「ここに来てしまった原因」と言う言葉が気になる。ここは一つ直接会って見るのも一興か。そう結論を出し、茶々丸へ一つ指示を出す。
『茶々丸、ワタシの音声をそのまま出力スルネ』
『はい、分かりました。……準備完了、実行します』
キュイィィンと、何かのモーターが回転する音を響かせたのち、茶々丸は夕映に向かって口を開いた。
「ヤァ、初めまシテ。ワタシが超鈴音ネ。一体貴女は何者ネ? 先ホド貴女が言った事柄は、ワタシと協力者のハカセしか知らないはずの事ヨ。ワタシの研究室から情報を盗もうとも出て来ないはずネ。一体どこでその名を知ったのカナ?」
「おぉっと……? あぁ、なるほど。音声だけを出力してるのですね」
突然超の声で話始めた茶々丸に若干驚いたが、気を取り直して夕映は話を続ける。
「どうもです、超さん。カシオペアをどこで知ったかと言うと、貴女やネギ先生が使う所を見たから知ってたのですよ。私自身は使った事は無いですが、その名称と効果は覚えてました。まぁ、見た瞬間に思い出せなかったおかげで、こうして面倒な事になってますが」
「………ネギ坊主を知ってるノカ。いろいろ聞きたい事があるガ、とりあえず貴女の名前を教えてくれないカ?」
超は、今の時期に知るはずの無い事ばかりを知っている女に警戒しつつも、自分の好奇心を満たす事を優先した。自分の記憶にはない相手、計画の障害になりかねない相手の情報は少しでも多い方が良い。そう思った超は、見ている映像から麻帆良にいる魔法使い達の資料と照らし合わせるが、どこにも記載が無いのでストレートに名前を聞いてみる。
「おや? 貴女なら私を知っていると思ったですが」
「イヤ、失礼だが知らないネ。それなりに麻帆良の事は知ってるつもりダガ、貴女の事は見た事もないヨ」
「まぁ、私は仲間内でも雑魚ですからね。資料も無かったでしょうし、知らないのも仕方が無いです」
「資料がナイ? ………それは貴女が麻帆良の所属では無いと言う意味カ?」
人通りの多いキャンパスの入り口で、深刻そうに会話している二人をチラチラと横目で見ていく学生達を気にもせず、茶々丸越しに超は相手の腹を読もうと苦心していた。
「まぁ、そうですね。麻帆良に暮らして長いですが組織に入った覚えはないですし………」
「フム……。やはり分からないネ。答えを教えてくれなナイカ?」
「教えたら私のお願いを聞いてくれますか?」
名前を教える代わりに先ほど言っていたカシオペアと思われる懐中時計を直す事を条件とされたが、それが本当にカシオペアなら自分以外で直せる者は居ないだろう。むしろ、自分の知らない所で使われたカシオペアを見てみたい。そう思った超はこの女性の依頼を受ける事にした。
「………マァ、いいだろう。カシオペアをどうやって手に入れたか知らないガ、どうせ大発光まで使えないし、ワタシの障害にならないと誓ってくれるのなら直してあげるネ」
「そこはまぁ、約束しましょう。最初から貴女の計画が実行されるまでには帰るつもりですし」
直して貰ったらさっさと帰るつもりの夕映は、失敗する計画をワザワザ邪魔する気はなかった。
「私は綾瀬夕映ですよ、超さん。この時間から約8年ほど未来の、ですが」
答えを聞いた超は、今の麻帆良の資料では見つからなかった理由に気付き、ついでにさっき言っていた「ここに来てしまった」の意味も理解した。
「……なるほど、今の資料に無いハズネ。未来の
「ネギ先生達と違って地味ですからね、私は。気付かないのも無理はないです」
「謙遜しなくてイイネ。とりあえず茶々丸に案内させるカラ、詳しい話はそこでしようカ」
超はそう言って、通信を切った。
「それではご案内致します」
ようやく彼女本人の声で喋り出した茶々丸が、夕映に向かって軽くお辞儀をしてからさっさと歩き始めた。夕映も軽く息をついてから彼女の後を追った。
学生の溢れるキャンパス内を歩くと、そこかしこから茶々丸に掛けられる声が聞こえる。彼女を人形じゃなく、一個の人間として扱っている証拠だろう。
「相変わらず慕われてますね。その気になれば彼氏の2,3人は作れるでしょう」
「いえ……私はロボットですし、そう言うのは無理です」
「そうですか? 『絡繰茶々丸』であれば見た目はどうでもいいと言う人も居ると思うですよ?」
現に何人かの男子生徒は、その態度から茶々丸に好意を寄せているとすぐに分かったくらいだ。その気になれば何人もの男性を侍らせる事も出来るだろう。
「ちょっとすり寄ってお願いすれば、なんでも言う事を聞いてくれるですよ。 一回やって見てはどうです?」
「いえ、私などでそんな事は……」
そうやってまだ性格に遊びの無い頃の茶々丸をからかいながら生徒達の間をすり抜ける事数分、辿り着いた部屋に通された夕映は色々なジャンクに埋まったソファーに座り、対面の超に持ってきたカシオペアもどきの残骸を渡した。
「これが直して欲しいと言うカシオペアカ? ワタシにはゴミにしか見えないガ?」
「私にもゴミにしか見えないので安心して下さい。私を事務所ごとこの時間に放り出してすぐに破裂してそうなったです」
「フム……。カシオペアに建物ごと時間移動させる力はないはずなのダガ……」
残骸を見ながら超は首を傾げる。
自分で開発したのだから、その特性や限界はよく分かっている。なので、本来不可能なはずの建物ごとの時間移動をしたと言う夕映の主張には納得がいかない。しかし現に成長した夕映はここに居て、こうしてカシオペアらしき残骸を持っている。しかも話によれば移動したのは大発光もしていない普通の日らしい。これが自分の作ったカシオペアならまず出来ない所業だ。少なくとも、今の自分では作る事は出来ない。
「それで、どれくらいで直りますか? 余り長くいて歴史が分岐されると困るんですが」
「ン? 何故ネ?」
「分岐して違う歴史を辿り始めたら、『私の』時間に帰れなくなるではないですか」
カシオペアは単純な時間移動しか出来ない。歴史が変わり、進むべき道が変わってしまったら、そこは既に自分の知る世界では無くなっているはずだ。その事に気付かない超ではないはず。そう思って怪訝そうに言う夕映だが、超からの返答は予想外のものだった。
「過去に来た時点で既に分岐してるはずネ。今更気にしても仕方ないヨ」
「ん? それはどう言う事ですか?」
既に分岐してると言う思い掛けない返答に、夕映は疑問に思い真意を聞こうとした。
「マァ、少し考えてみればすぐに気付く事ヨ」
夕映ならば分かると言い放ち、あえてゆっくりとした動作で紅茶の入ったカップを傾ける超。そんな彼女を見て、夕映もとりあえず目の前に置かれていた紅茶を飲んだ。
しばらく二人で紅茶を楽しんでいたが、夕映が何かに気付いたように顔を上げたのを見て、超は話を再開した。
「貴女ならタイムパラドックスの有名な逸話を知っているダロウ?」
「………親殺しのパラドックス、ですね。過去に戻り、自分の両親などを殺してしまうと自分が生まれなくなる。しかし自分が存在しないなら過去に戻る者も居らず両親は死なない。両親が死ななければやはり自分が生まれ、また過去に戻る。タイムトラベルが不可能と言う証明として生まれた話ですね」
「ソウネ。つまり過去は変えられないと言いたいのダガ、これに平行世界、パラレルワールドの概念をプラスするとまた話が変わってくるヨ。過去に戻って来た時点で、AからBと言う道筋から、AからB'と言う道筋に変化すると考えると、ワタシが気にする必要ないと言った意味が分かるダロウ?」
「私がここに来た時点で既に私の世界とは違う歴史を進んでいると言う事ですか。もう単純な時間移動では帰る事は出来ないと」
「そう言うコトネ。つまり、今慌てても仕方ないと言う事ヨ」
紅茶を飲みながら話す超を見ながら、夕映は深くため息をついた。
「はぁ………。まったくめんどくさい事になりましたね」
「はっはっはっ。ご愁傷様ネ。まぁ、どんな世界になったか帰ってみるのも面白いんじゃナイカ?」
完全に他人事なので、超はとても気楽にここに住めと言い出す始末。いくらなんでももう一人自分が居るこの世界で気楽に過ごす気にはなれなかった。
「私はギャンブルは嫌いです。どうにか平行世界への移動が出来る道具などを作れないですか?」
「いくらワタシでも、そんな物ポンポン作れないネ。平行世界は無数に、それこそ星の数ほどもアルヨ。そんな中から貴女の世界をピンポイントで見つけるのは不可能ネ。諦めてここで暮らすとイイヨ」
流石にそんな物は作れないと呆れる超だが、夕映はそれを作ってちょくちょくやって来る目の前の少女を見ているのでそんな話を鵜呑みにはしなかった。
「いえ、私の知る貴女ならそれを作れるはずです。そのカシオペアを直すと同時に、その制作も依頼します」
「イヤ、待つヨ。幾ら何でも無茶と言うモノネ。カシオペアを開発するのに何年掛かったと思うヨ」
キッパリ断言する夕映に、流石の超も呆れて言い返す。
いくら自分が天才と自信を持って言えるだけの頭脳があるとしても、そうそう作れる物では無い。プライドが、絶対に無理、とは言わせないが、それでもすぐに作る事が出来る程、簡単なものではないのだ。
「超さんなら、ポンと出してくると思ったんですが」
「残念ナガラ、ワタシは青いタヌキじゃないネ。出来る事と出来ない事がアルヨ」
「作るとして、どれくらい掛ければ出来ますか?」
夕映の言葉に超は眉を寄せて考え始めた。
理論を確立させて、その通りの現象を生み出す機構を作り出し、更に実際に作動させた時の結果を観測し、とやっていたらかなりの日数になるだろう。それこそ年単位の時間が必要だ。2,3日では出来はしない。
「知っての通りワタシは忙しいネ。そんな物を作ろうとしたら、掛かり切りでやっても10年は掛かるんじゃナイカ?」
「10年は、流石に待てませんねぇ……」
作るまで10年は掛かると言われ、今までなんとかなるだろうと楽観視していた夕映も流石に危機感を感じ始めた。それだけ待って帰ったとしても、周囲からいきなり10歳老けたように見られる訳だ。流石に皆より早くそれだけの歳を取りたくはなかった。
「何とかなりませんか?」
「確かに平行世界を行き来出来る機械が作れるなら、それは面白そうダガ」
むー……と考え込む超を見て、夕映も流石にこれは無理かと思い出した。あの時見た彼女は、余り歳を取っていなかったように見えたが、実は幻術などで子供の姿に戻っていたのかも知れない。もしくは、開発するのに未来にしかない装置が必要で、ここの装置だけでは10年掛かると言う意味ではと考えた。どちらにしても、今すぐは無理そうだ。
「まぁ、とりあえず、そのカシオペアもどきは直して貰えますか? それだけで戻れるなら、儲け物ですし」
「ン? あぁ、ワカタヨ。しかし、これだけバラバラだと、1日2日じゃ無理ネ。最低でもひと月は貰うヨ?」
確かにほぼ部品という状態にまでなっている上、その部品もいくつか壊れている。それらを作り直し組み立てるとなると、プラモデルを作るみたく簡単に、とはいかないだろう。仕方なく夕映はその条件を飲むことにした。
「そうですか、仕方ないですね。時間掛かってもいいのでお願いします。蓄えはありますし、しばらく観光でもしてるとしましょう」
「そうするとイイヨ。しかし、そんなに現金を持ってるとは思わなかったネ。一体どうやって稼いだヨ?」
ひと月観光していると言った夕映に、超は少し驚きながら聞いた。
「へ? まぁ、探偵などをしていて、その報酬を溜め込んでましてね。趣味と言えば、本を読む事とのどかを着飾らせる事くらいで、余り減りませんし。事務所ごと来たので、通帳などもそのままですから、ひと月どころか、夏までは持つですよ」
夕映はそんな感じで軽く言ったが、何故か超は顎に手をやり考え込んでいる。
「どうしたです? 超さん」
「アー……、その蓄えと言うのは主に口座に入っているのカ?」
「えぇ、そうですね。事務所を空ける事も多いので、現金をそのまま置いておくのは危ないですし」
「現金は……どれだけアルヨ?」
何か気の毒そうに聞いてくる超だが、夕映はよく分からず、むしろ金の事を興味深く聞く彼女に違和感を持った。
「いえ、財布の中にはあと2,3万ほどしか入ってませんが………。カシオペアを直すのに、いくらか払えと言うなら、下ろして来ますが……?」
「イヤ、お金はイイヨ。それより気付いていないノカ? ここは貴女にとって8年も過去の世界なのダゾ?」
夕映はそう言う超が、何を言いたいのかよく分からなかった。とりあえず8年と言う時間を考えて、何か不都合があったかと頭の中を探っていく。
「エーット………本当に分からないカ?」
「すいません。何か不都合が………っ!?」
どうやらようやく思い至ったようで、夕映は途端に顔を青くして慌て出した。
「その様子なら気づいたヨウネ」
「ちゃ、超さん……まさか、やっぱり、そうなのですね?」
「今まで気づかなかった方が驚きヨ。ちなみにいつ口座を開いたネ?」
「2年ほど前ですね……。麻帆良に帰ってきてから、探偵としての仕事をより多くこなすようになった辺りでしたから……」
そう。何度も言うがここは夕映にとって過去の世界。この頃の夕映はまだ学生で、依頼料を入れた口座など、まだ存在していないのだ。よって、しばらくのんびり出来るだけの現金なども無い訳で。夕映はこんな簡単な事に今まで気付かなかった事実の方がむしろショックなようだった。
「何故気付かなかったですか……?」
「マァ、なんと言うか、御愁傷様ネ」
ガクっとテーブルに手をついて落ち込む夕映に、超は気の毒そうにそう告げるのだった。
なんか変。
まぁ、夕映の余裕が無くなる回でした。
生活費をどうしましょうかねぇ。高畑にタカるか、身売りするか………
過去の世界で探偵するか、まぁ……どうしよう……。