魔法探偵夕映 R《リターン》   作:遁甲法

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 まず時間がかかってすいませんです。
この1月から3月はすこぶる仕事が忙しいので、なかなか書く時間が作れず一週間投稿が難しいかもしれません。

とりあえず出来たのを投稿です


公園で、ぽけー

 

 

 

 

 

 

 朝早く、枕元で鳴る携帯の着信音で目を覚ました(ゆえ)は、寝ぼけ気味に通話ボタンを押した。

 

「……んむ……、誰です?」

 

『おぉ、夕映君。朝からすまんのぅ』

 

「んんー……? 学園長……ですか? 何の用です、こんなに朝早く」

 

 起き抜けで頭が働いてない(ゆえ)はなんとも不機嫌そうに返事をするが、近右衛門は冷静に突っ込む。

 

『いや、もう8時じゃぞ? 学校が休みじゃからと、教師が寝過ぎじゃないか?』

 

「気にしてはいけません。こちとらバイト気分です」

 

『そう言う事は間違っても生徒の前では言わんでくれよ? いろいろ示しがつかんぞぃ』

 

「分かってるです。それで、何の用なのです?」

 

 余り反省の色がない(ゆえ)の言葉に、近右衛門は密かにため息をついた。

 

『まぁ、いいわい。実はの、君の事務所の工事が予定より早く終わってのぅ。もう全部使えるようになっとるから、いつでも帰ってよいぞと言いたかったんじゃ』

 

「おぉ、そうですか。わざわざありがとうございます………」

 

『フォッフォッ、構わんよ。じゃあ、予定通り領収書は学園名義で切るのを忘れんようにの、夕映君。……夕映君?』

 

 返事がないのでどうしたのかと近右衛門が耳を澄ますと、すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえて来た。どうやら話している途中で再度眠ってしまったようだ。

 

『夕映く~~ん、起きとくれ~~っ! ……ダメか。うーむ、美人の寝息は本来嬉しいものなんじゃが、これは何か違うのぅ……』

 

 妙な事をボヤいて近右衛門が通話を切り、もう1度(ゆえ)が目を覚ましたのはそれから2時間後だった。

 

 

 

 寝惚け眼でチェックアウトした(ゆえ)は、朝食兼昼食にとコンビニで買った菓子パンを頬張りながら、3日ぶりの自宅へ向かっていた。1月だと言うのに日の光は思いの外暖かく、多少風は冷たいがこうして歩いている分にはむしろその冷たさが心地いい。

 

「どうせなら公園で日光浴でもしますか……」

 

 ぐうたらな(ゆえ)にしては珍しく健康的な気まぐれを起こして近くにある公園へ向かった。そこは暇を持て余して様々な昼寝の仕方を研究していた時に見つけた絶好の昼寝スポットだ。公園の周りには木々が立ち並んでいるおかげで必要以上に風が吹き込んでくる事もなく、日当たりの良いベンチに座っていれば冬でも気持ちよく寝られるのだ。

 

「……いい天気です」

 

 空を見上げ、その青さに思わずそう呟いた(ゆえ)は、ベンチに腰を下ろして大きく伸びをした。

 

「んっ、くぅ〜〜〜〜っ! はぁ〜、太陽の光が心地いいです」

 

 (ゆえ)は二個目の菓子パンを口に咥えて両手を空けると、袋から出したパックジュースにストローを刺して左手に構えた。ムグムグとパンを食べながら、左手に持ったジュースで喉を潤すという、パン食の完成された方法を取りながら公園の中央付近で遊ぶ子供達を眺める。

 

「………ふぅ、平和ですねぇ……」

 

「そんな風に言うと、何かの事件に巻き込まれますよ? (ツキ)センセ」

 

 (ゆえ)がその声に頭を反らして後ろを確認すると、カメラを構えた和美が立っていた。顔を向けた瞬間に何回かシャッターを切った和美がするヤホッと言う軽い挨拶に、同じく手を上げるだけで返してやる。

 

「和美さん、こんな所で何してるですか?」

 

「もちろんスクープ探しですよ。特ダネに休日はありませんからね。そういうセンセは………子供ウォッチングですか? センセ、いいんちょと同じ趣味?」

 

「誰がショタコンですか。ここは日当たりがいいですから日光浴してたんですよ」

 

 つつつっと寄ってきて不審な事を言う和美のセリフにツッコミを入れてから、(ゆえ)は拡げてあったパンなどの袋をひとまとめにして和美の座るスペースを作る。

 

「どもっ。っと、でもセンセ。さっきあの戯れる子供達をそれはそれは愛おしそうに見てたじゃないですか」

 

「そこまで熱心に見た憶えはないです。ですが、こうして楽しげに遊ぶ子供達を見ていると、平和だなぁと実感しますね」

 

「さっきも言いましたけど、そう言う事言うと変な事件に巻き込まれますよ。あれです、フラグって奴です」

 

「………それは勘弁して欲しいですね」

 

 よくよく事件が集まって来て大変な思いをさせられ、今ここにいるのもその変な事件のせいである(ゆえ)にとっては歓迎したくないものだった。

 

「そうですかー? 退屈より全然いいと思いますけど。こう一大スペクタクルな状況とか憧れるじゃないですかー」

 

 ウッヒャーと奇声を上げながら子供達に向けてシャッターを切る和美のセリフに、昔自分も似たような事を言ったなぁと、(ゆえ)は少し懐かしい気持ちになった。

 

「私も昔はそう思っていたですが、本当に巻き込まれた時はそんな事言ってられないですよ? むしろ、余所でやってくれと怒鳴りたくなるものです」

 

「なんか実感が込もってますね。やっぱり何かあったんですか?」

 

「以前ちょっとした理由である遺跡に行った時に妙なカップルに絡まれましてね。そのまま彼らの起こすトラブルに巻き込まれて最後には地元テロ組織を壊滅させる手伝いまでさせられたです」

 

「なんすかそれ……」

 

 (ゆえ)の言う事件に好奇心が刺激された和美だが、(ゆえ)の表情が物凄く嫌そうだったのでそれ以上追求するのを躊躇わせた。だが、ここまで聞いたら最後まで聞かないと気持ちが悪い。和美はメモ帳を一応構えてから続きを促した。

 

「そのカップルが起こしたトラブルって、どんな事だったんですか?」

 

「ん? ……そうですねぇ。例えば……」

 

 (ゆえ)はジュースを飲んで一休みしながらどれから話そうかと考え込んだ。無駄にいろいろな事を起こす2人と一緒にいると、いつも以上に事件が寄ってきて正直いい思い出がなかった。彼らと一緒にいたのはせいぜい一週間ほどなのに、その時に巻き込まれた事件は普段の半年分にもなっただろう。特に男の方が自分から事件に向かっていくおかげで連鎖的に事件が起こり、休む暇もなかったくらいだ。

 

 それらを全部話そうとすると5分10分では終わらない上、なにげに大きな事件だったおかげで世界的ニュースにもなったので、下手に話すとそんなニュース見たこと無いと言われそうだ。これがニュースなど普段から見ていないまき絵などだったら誤魔化すのも簡単だが、和美は報道部所属というのもあって普段からよくニュースや新聞を見ているらしいのですぐに気付くだろう。嘘をついたと思われるのも癪なので、ニュースにならない小さな事件をいくつか話した方がいいかもしれない。

 

 (ゆえ)がそんな事を考えながら、どれがいいかと当時の事を思い出していると、公園の中央付近で遊んでいた子供達の方からボールが勢い良く飛んで来た。

 

「あ……」

 

「ん? どうしま……っと!」

 

 空を見上げながら(ゆえ)は、和美が声を上げたのに気付いて目を向けたが、その直後自分の顔に向かって跳ねて来たボールに気付き、片手で受け止めた。

 

「すいませーーんっ!!」

 

 そのボールを追って1人の子供が走ってやって来た。小学校高学年くらいのその少年は、(ゆえ)の前まで来て勢い良くお辞儀をして、ボールを飛ばしてしまったことを謝った。

 

「あの、ボールすいませんでした!」

 

「別にいいですよ。怪我する訳でもないですし」

 

 キュルルルっと指の上でボールを回しながらそう言う(ゆえ)だが、少年の表情は晴れない。彼の視線がベンチの下に向いているのに気付いた(ゆえ)と和美がそれを追って視線を向けると、そこには食べ掛けの菓子パンが落ちていた。

 

「あらま……。うっかりです」

 

「パン持ってた手がボール持ってるなら、普通そうなりますよねー」

 

 うんうんと頷く和美は笑うが、少年は青い顔をして何度も頭を下げた。

 

「あ、あのすいません、俺……、その、弁償します!」

 

「別にいいですよ、パンの一個や二個。それよりボールどうぞ」

 

 パン一個でやたらと責任を感じている少年に(ゆえ)はポンとボールを渡してやる。それでも恐縮している少年にもう一言なにか言って上げるべきだろうかと言葉を考えながら少年の顔を見た(ゆえ)は、その顔に見覚えのある面影を見つけた。

 

「おや、貴方……」

 

「な、なんですか?」

 

 ボールを持った少年の顔を妙に熱心に見つめる(ゆえ)は、おもむろに手を伸ばして少年の髪をかき上げる。突然の行動に思わず固まる少年をよそに、(ゆえ)は手櫛で少年の髪を弄り、ある髪型になった所でようやく手を離し、ベンチに座り直した後うんうんと何か納得したかの様に頷いた。何を納得しているのか分からないが、それを見た和美はニヤリと笑って(ゆえ)の隣にすり寄った。

 

「センセっ。随分熱心ですけど、その子そんなに好みなんですか?」

 

「「へ?」」

 

 和美のセリフに(ゆえ)と少年は揃って驚きの声を上げた。

 

「あ、あう?」

 

「何を言い出すですか……」

 

 (ゆえ)は何言ってるんだがと半眼で和美を見るが、和美はニヤニヤしながらメモ帳を構える。

 

「やっぱいいんちょと同じ趣味なんですか?」

「何をアホな事を言い出すですか」

 

 あうあうと変な声を上げて戸惑っている少年に気付き、ニコっと笑いかける(ゆえ)。そんな彼女を見て顔を赤くした少年は、ボールをいじりながらチラチラと(ゆえ)の顔を見て、そして目が合うと更に顔を赤くして俯いてしまった。

 

「あら、センセったら罪な女ですね。子供を惑わせるなんてっ!」

 

「あのですね……。まぁ、いいです」

 

 どうせ何言っても変な解釈をするんだろうと諦め、(ゆえ)はもう1度俯いてモジモジしている少年の顔をよく見てみた。

 

(ふぅむ……、こうして髪型を変えてみて確信が持てたです。まさか、この時期の影久さんに会うとは)

 

 自分のアゴに手をやりこれも縁かと1人納得していると、和美が耳元に顔を寄せてきた。フニっと触れる胸の感触に気付き横を見ると、なにやら随分と楽しそうな和美がニッコリと笑って囁いてきた。

 

「センセ、なんなら私が連絡先とか聞いて上げましょうか? いえいえ、相手が子供だからと気にする事ないですって。何せ男の子! 早く経験した方が自慢になるもんですから、そうそう拒みませんよ?」

 

「アホですか」

 

 変な事を囁く和美の顔を押して自分から離すと、(ゆえ)はどうすればいいのか困っている少年に声をかけた。

 

「あー、貴方。間違っていたらごめんなさい? 佐々木……影久さんと言うのでは?」

 

「へ? えぇ!? なんで名前がっ!?」

 

 初対面のはずの(ゆえ)が名前を知っていた事に驚きを隠せない様子の影久に、(ゆえ)はまた安心させるように笑顔を向けた。

 

「私は綾瀬(ゆえ)。貴方のお姉さんである佐々木まき絵さんのクラスで教育実習をしている教師見習いなのです」

 

「へ? 姉ちゃんの?」

 

「そうです。貴方の顔にまき絵さんの面影があったのでもしやと思ったですが、やはりそうだったようですね」

 

 まき絵と言うより高校生になった影久の面影を見付けただけだが、それを言う訳にもいかず適当な理由を話して誤魔化す。

 

「驚かせてすいませんね。気になるとどうしてもすぐに確かめたくなる性格なものですから」

 

「い、いえ。別に俺は迷惑じゃ……」

 

 (ゆえ)の顔を見てまた顔が赤くなりだした影久は(ゆえ)から目をそらすが、今度は和美と目が合ってしまう。それに気付いた和美は、ニコっと笑い自分の胸を寄せて強調させながら影久に見せつける様にポーズを決める。

 

「う、あ、あの! 俺、失礼します! パンすいませんでした!」

 

 和美のせいで更に顔が赤くなった影久は、羞恥に耐えられなくなったのか勢い良く頭を下げたあと、ボールを抱えて走って行ってしまった。

 

「ニュフフフフッ! いやぁ、初心な少年ですねぇ」

 

「下手したらただの痴女ですよ、和美さん」

 

「いきなり手を出して自分好みの髪型に変えようとしたセンセほどではないですよ」

 

「別に好みの髪型にしようとした訳じゃないですが……」

 

 単に自分の記憶にある影久の髪型に近付けて確認しようとしただけで、それ以上どうこうするつもりはなかった。しかし、そんな事情を知らない者から見たら、いきなり髪型を変えようとする変人でしかないという事に気付き、(ゆえ)は反論を諦めた。

 

 (ゆえ)はため息を一つついてから、ひょいっと落ちていたパンを袋に入れて口を縛り、近くにあったゴミ箱へ投げ入れた。立ち上がって大きく伸びをして体のコリを解すと、和美の方に向き直る。

 

「私はもう自宅に帰るですが、和美さんはどうします? なんなら招待しますが?」

 

「さっきの男の子の代わりに食べられちゃうのかしらー?」

 

「人肉って美味しいんですかね……」

「物理的に食われる!?」

 

 ある種漫才のようなやりとりをしてから、和美は(ゆえ)の自宅に行く事にした。歩き出した(ゆえ)の隣に陣取り、ごく自然にカメラを構える和美を(ゆえ)はチラリと横目で見るが、特に何も言わずに歩き続けた。

 

「さっきの初心な少年がマキちゃんの弟だなんてよく知ってましたね? 本当に面影だけで気付いたんですか?」

 

 (ゆえ)の姿をカメラに納めながら尋ねる和美に、(ゆえ)は多少の誤魔化しを加えながら答える。

 

「他にも声や雰囲気も判断材料でした。受け持つクラスの家族構成くらいは把握してますからね」

 

「おぉ、実習生とは思えないですね。顔に出ないだけで結構やる気があるんですね」

 

「まさか、バイト気分で居続ける訳にもいかないですしね」

 

「バイト気分だったんですか!?」

「おっと……」

 

 慌てた様に手で口を押さえる(ゆえ)だが、本気で誤魔化そうと言う気概は感じられない。そんな(ゆえ)の様子にクスクス笑いながら、和美は楽しげにカメラを構えた。目を逸らしている(ゆえ)の顔を1枚撮ったあと、カメラの画面で先ほど撮った少年の姿を確認する。

 

「んー……、センセの好みの男の子かぁ。今度マキちゃんに聴き込みしてみよう」

 

「違うと言ってるでしょうに……」

 

 いつの間に撮ったのか、(ゆえ)が髪を直している姿などを見てはしゃいでいる和美を見て、(ゆえ)は少し迂闊だったかと反省する。この時期に会った事が無かったおかげで少年時代の姿は割と新鮮な気分で見る事が出来たのだが、少し気安く接し過ぎたかもしれない。

 

「センセって、やっぱりこういう子が好みなんですか?」

 

「なんでそうなるですか……」

 

「えー? だって、すっごく熱心だったじゃないですか。わざわざ髪型まで直して上げるくらいですし……。ほら、見た目凄いラブっぷりですよ」

 

 和美はグイーっとカメラの画面を押し付けるように見せるが、(ゆえ)は目を逸らして構わないようにする。これ以上墓穴を掘る事がないよう黙秘することとにしたのだが、和美の追求は収まらない。結局、事務所まで歩く間に(ゆえ)が口を割ることはなかったが、追求され続けて疲れた(ゆえ)が和美にケーキを奢ることで許して貰うこととなった。

 

「とんだ出費です」

 

「別にいろいろ話してくれるだけで良かったのに」

 

「そういうのじゃないと言っても聞かないじゃないですか」

 

「今までの恋のお話でもいいんですよ?」

 

「さぁ、ケーキを買って帰るですよ。食べまくって太るがいいです」

 

「どんだけ食べさせる気ですか!?」

 

 傍目から見ると単なる友人同士に見える2人は、(ゆえ)の自宅である事務所に戻るまでの間ずっとこんな調子でイチャついていたのだった。

 

 

 

 







もうちょっとジックリ書く方がいいかなぁ。何故か意図してなかった和美とのカップリングになってきたけど、どう夕映を引き込むか。もう魔法に気付かせるか、それともネギまSSらしく魔法事件に巻き込むか。

どうせならそういうの無しで、ほのぼのと行きたい所ではあるんだが………


でわ次回もよろしくです

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