魔法探偵夕映 R《リターン》   作:遁甲法

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説明が適当な感じ……

でも、自分のボキャブラリーではこれ以上うまく表現出来ない。おぅのぅ……

ではれっつごぉ


夕映とお食事

 

 

 

 

 昼休み、食堂棟にて安くて美味しくそして量が多い、学生にも人気のスパゲティーを1人で黙々と食べながら、(ゆえ)は自分の手を眺めていた。開いたり握ったりを繰り返してみるがそこに違和感はない。朝、過去の自分と握手をした時に走った静電気と一緒に何かが流れていく感覚があったが、あれは何だったのだろうか?

 

「やぁ、(ツキ)センセ。1人で寂しく食事カ? 過去の貴女は、教室で友人達と楽しそうに弁当を広げてたゾ?」

 

「んむ? 超さん、何の用です? 食堂棟に来るとは珍しい」

 

「ワタシだってたまには利用するネ。いつも自分で作ってたらあきてしまうヨ」

 

「それもそうですね。自炊などしなくても生きていけるものです」

 

「それは極端すぎるネ。……っと、ここ座らせてもらうヨ」

 

 そう言って(ゆえ)が承諾する前に超はさっさと向かいの席に座った。

 

「………まぁ、いいですが。わざわざ何故ここに? お酌でもしてくれるですか?」

 

「………その紙パックにどうお酌するネ」

 

 (ゆえ)の前にはいつもの妙なタイトルがついたパックジュースが置かれていた。それに酌をしろとはなかなか理不尽な事を言う(ゆえ)に呆れながら、超は持って来た野菜ジュースをすする。ぷはっ、と一息つくと、(ゆえ)から向けられる不審そうな目に気付き、超は不敵な笑みを浮かべた。

 

「……何です?」

 

「ナニ、お酌は出来ないガ、さみしそうなセンセの為に話し相手にナテあげるネ」

 

「誰が寂しそうですか。私は特に話す事はないですよ」

 

「ツレナイネ。仮にも教師になった人ガ、生徒と話すのを嫌がるものじゃナイヨ」

 

 そんな超の言葉に(ゆえ)はツイッと目を逸らして食事を再開する。うりうりとパスタを丸める(ゆえ)をニヤニヤしながら眺める超。

 

「せっかく生徒がお話シマショと言てるのダカラ、もう少し嬉しそうにしてもバチは当たらないヨ?」

 

「ハッ!」

 

「ウワ、鼻で笑われたヨ。貴女、年取って性格が悪くなてナイカ?」

 

 超は(ゆえ)の反応に大げさなリアクションで返すが、(ゆえ)のジト目は変わらず超を見ていた。

 

「マタク、可愛くナイヨこの女。クラスメイトとしても忠告スルガ、もう少し可愛げがないとモテないヨ?」

 

「大きなお世話です。今は恋人など要らないですし、これでいいんです。……それで何の話なんですか?」

 

「フゥ……マァイイヨ。話と言うのは、貴女にチョト聞きたいコトがあたネ」

 

 そんな事を言う超に何を聞こうと言うのか興味を持った(ゆえ)は、パスタを手繰る手を止めて超の顔を見る。変にニコヤカな彼女の顔は、何を考えているのか分からず、(ゆえ)は眉を顰める。

 

「聞きたい事ですか?」

 

「朝に、貴女は過去の自分と握手してたダロウ? あの時2人して自分の手を凝視してたガ、何かあたノカ?」

 

 確かに朝紹介された時に中学生の自分と握手をしたら、キツイ静電気が走った。その時何かが流れていく感触があったが、その事だろうか? (ゆえ)は他に心当たりも無いので、その事を超に伝えた。

 

「何かが流れたカ。それが何か分かタカ?」

 

「………いえ、魔力のような感触でしたが、魔力ではなかったですし」

 

 (ゆえ)はその時に走った感覚をどうにか言葉にしようと頭を捻るが、どう言っても曖昧にしかならなくて歯がゆく感じた。超はそんな(ゆえ)の想いには頓着せず、フムフムと頷きながらメモを取っている。

 

「………何してるです?」

 

「ナニ、違う時間軸の同一存在が顔を合わせるナド滅多に無い事だからネ。大いに観察させて貰おうと思たネ」

 

 カリカリとメモを取る超を、(ゆえ)は胡乱げな目で見つめる。

 

「違う時間軸と言うなら、貴女も自分自身と会って見ればいいではないですか」

 

「イヤヨ。そんな事をシテ、時空が消滅したら困るネ」

 

「ブッ! ゴホゴホッ!! な、なんですかそれっ!?」

 

 いきなり飛び出た物騒な話に、思わず食べてたスパゲティーを超の顔に吹き出してしまった。

超はハンカチで顔を拭きつつ、話を続ける。

 

「違う時間軸の本人同士が顔を合わせると、宇宙の因果律が崩壊して時空ごと消滅してしまう。なんて話を聞いた事はないか?」

 

「い、いえ。そんな危険があったのですか?」

 

「ソウネ。かの有名な科学者、エメット・ブラウン博士も言及している有名な仮説ヨ」

 

「映画の話じゃないですかっ!」

 

 深刻そうに話す癖に、情報ソースが映画だったせいで(ゆえ)は思わずズッコケてしまった。しかし、超はそれなりに真剣な顔を崩していない。

 

「イヤイヤ、割とあり得る話ヨ? 同じ人間が2人も居たらいろいろおかしくなるのも当然ね」

 

「そう言うものですか?」

 

「マァ、1度実際に崩壊させてみないと証明出来ない事ダガネ」

 

「そんな人の迷惑になるような証明、しなくていいです」

 

 ハッハッハッ、と他人事のように笑う超に、(ゆえ)は頬杖を突いて呆れたようにため息をついた。

 

「トマァ、そんな感じで貴女達はそうとう危険な橋を知らずに渡ってた訳ヨ」

 

 (ゆえ)は思わず身震いしてしまう。ただ過去に戻って来ただけと思っていたら、思わぬ所で時空消滅なんて危険に晒されるとは。

 

「時間移動とは、実はかなり危険な事をしてたんですね」

 

「ソウヨ。綿密な計算をして、ありとあらゆる可能性を考えて、その上で1番リスクの少ない時間に跳ばなければイケナイネ」

 

「そんな危険な事にまきこむとは、私にカシオペアを寄越した誰かを見つけたらどうしてくれましょう……」

 

 事務所に送られてきたカシオペアを弄ったせいでそんなスケールの大きな危険に巻き込まれたとなると、その送り主には相応のお礼をしなければ。そんな事を考えて暗く笑う(ゆえ)を眺めながら超は持って来たパックの野菜ジュースをチューチュー飲んでいる。そんな気楽そうな超の姿を、(ゆえ)はジロリと睨んでフォークを突き付ける。

 

「言っておきますが、貴女が第一容疑者ですからね? カシオペアの開発者ですし」

 

「マァ、そうだロウナ。ダガ、未来の事にまで責任は取れないヨ?」

 

「分かってるです。未来に戻って犯人を見つけた時、それが貴女だった場合には覚悟しておくです」

 

 ふっふっふっ、と笑う(ゆえ)に超は苦笑を返す。

 

「イタイ何するつもりネ?」

 

「女に生まれた事を後悔させてやるです」

「コワイヨッ!?」

 

 暗く笑いながら宣言する(ゆえ)に、超は自分をかき抱いて恐れおののくフリをする。ヒィィ、とわざとらしい悲鳴をあげながら震える超と、クックックッと笑いながら手をワキワキとさせる(ゆえ)。なんとも楽しそうだが、そのフロアにいる利用者はその異様な光景に引いていた。

 

「コホン………サテ、冗談はこれくらいにするとシテ。時空が崩壊されると困るノデ過去のアナタとの身体的接触はなるべく控えるヨウニして欲しいネ。多分握手くらいなら大丈夫ダロウガ、それ以上はやめた方がイイネ」

 

「それ以上、ですか?」

 

「ソウネ。粘膜接触、簡単に言うとキスとかヨ」

 

「ブッ! ……自分相手にそんな事しませんよ」

 

 ニヤリと笑いながら話す超に(ゆえ)は何言ってるんだこいつは、と言った表情を浮かべる。

 

「ソウカ? マァ自分が大好き、なんて性格じゃ無いノハ分かてルヨ。ダガ、何かの拍子にしてしまう事はあり得るネ」

 

「む……」

 

 確かに転んだりなんたりをした拍子にキスしないとも限らない。現に自分の親友は、そんな方法でパクティオーしたのだから。

 

「確かに可能性は無くもないですね……。しかし、何故それがマズイのです?」

 

「握手した時に起こった事がより酷く起こる可能性がアルネ。時空消滅まではしないとシテモ、どちらかが気絶、もしくはそれ以上の事が起こるカモしれないネ」

 

 それ以上。死ぬ可能性もあると言う事か。(ゆえ)は思い掛けない深刻な話にむぅ……と唸る。そんな彼女をしばらく見つめていた超は、(ゆえ)とは逆にのほほんとした態度で持って来たパックの野菜ジュースを飲んでいた。

 

「マァ、その辺りは気を付ければ問題ナイヨ。あるとするナラバ、過去のアナタの方ネ」

 

「どう言う事です?」

 

 (ゆえ)は超のセリフに首を傾げる。過去の自分に問題が出るとはどう言う事か。

 

「アナタ達は時間軸は違えど同一の存在ヨ。趣味嗜好は多少違うダロウガ、精神構造はマタク同じネ」

 

「まぁ、同じ人間ですから当然ですね」

 

「普通、ワタシ達は相手が考えているコトが分からないネ。話し合いや長く一緒にいるコトデ多少は分かるようにナルガ、完全には分かり合えないヨ。何故だか分かるカ?」

 

 そんな問い掛けに(ゆえ)はふむ……と考え込む。

 

「その相手とは育った環境や何かを考える際のプロセスが違いますから、完全に同じ答えを出す事が出来ないせいでは?」

 

「フム、それも答えの一つネ」

 

「違ったですか?」

 

「イヤ、通常の学問ではソレでもイイヨ。ダガ、今回のコトは魔法学の理論デ答えを出す必要がアルネ」

 

 超は持っていたメモに簡単な人の絵を描いて(ゆえ)の方に向けて置いた。

 

「マズ、人にはそれぞれ独自の精神がアルネ。俗に言うアストラル体ネ。このアストラル体で人は物を記憶したり思考を巡らせたりするヨ」

 

 そう言ってメモの絵を囲むように線を描き、矢印でアストラルと但し書きをした。

 

「ダガ、このままデハその人の思考や記憶がダダ漏れになてしまうネ。そこでワタシ達はアストラル体にカギを掛けて自分以外には思考を読めなくするヨ。これが本当の意味で分かり合う事が出来ない理由ネ。本人以外にこのセキュリティを突破する事が出来ないカラ、相手の考えていることが分からない、と言う具合ネ。マァ、時々そのセキュリティを突破出来る能力を持った人間が出て来るガナ」

 

「のどかの様な、ですね?」

 

 (ゆえ)は自分の親友を思い浮かべた。いどの絵日記(ディアーリア・エーユス)を片手に、相手の思考を読み取り攻撃を避けきる彼女の姿は、賞金稼ぎギルドの中でも有名で、その姿を一目見ようと彼女の後ろをついて回る者も多い。彼女が誰もが振り返る美女であるのも要因であろうが。

 

「ソウネ。マァ彼女の場合はアーティファクトのおかげでもあるガ。トモカク、自分以外に突破出来ないセキュリティのおかげで、人は分かり合えないのと同時に自分の考えを悟られないようにしてる訳ダガ、ここに同じアストラル体を持つ人間がいるヨ。ツマリアナタ、綾瀬夕映ネ」

 

 超はメモの絵の横にもう一つ人の絵を描いて、その二つをイコールで結んだ。

 

「自分と同じセキュリティを使ているアナタ達は、ふとした拍子にアストラル体が干渉して、お互いの思考が読めてしまうネ。おそらく握手をした際に流れたものトハ、アナタの思考、もしくは記憶だたのダロウ。ソシテ問題はここからヨ。同じアストラル体ユエニ、アナタ達の思考などは簡単に互いを行き来してしまうと予想出来るネ。何せセキュリティが無いも同然なのダカラ、簡単に読めてしまうヨ。趣味嗜好からトイレの回数。果ては性癖や夜の1人遊びの詳細まで何もかもヨ」

 

 そう言って超はメモに描かれた人の絵に、手で頬を押さえる様な形を描き足し、その横に『イヤン』や『ポッ』などの字を付け足した。無駄に芸の細かい真似をする超に、(ゆえ)はジトッとした目を向ける。

 

「向こうの綾瀬からアナタに流れる分には問題ナイネ。どんな恥ずかしい記憶や思考でも、それは1度通った道ネ。シカシ……」

 

「恥ずかしい思考って、何ですか………」

 

「気にするコトないヨ。人間誰でもたまにはそう言う事を考えるネ。デ、向こうにとってはアナタは赤の他人。にも関わらず、アナタのアンナ事やソンナ事の詳細が流れ込んで来たらパニックになるヨ」

 

 そう言って片方の絵からもう片方へ矢印を沢山書いて、『BONN!!』と吹き出しを書いた。次いで目の部分をグルグルと渦巻きを書いた。どうやらパニックになっている所を表現してるようだ。

 

「思ったのですが、無駄に絵が上手いですね?」

 

「ワタシに弱点はナイネ。まぁ、このようにアナタから流れ過ぎてパニックになるくらいならイイガ、向こうの綾瀬がアナタの情報で塗り潰されてしまたラ大変ヨ」

 

 超は描かれた片方の絵を黒く塗り潰していく。しっかり塗り潰したら、その上に大きくバツを書いた。

 

「……塗り潰されてしまうと、どうなるです?」

 

「もう分かてるダロウ? 紙に描かれた絵なら、消しゴムで消せば元に戻せるガ、精神はそうもいかないヨ。塗り潰されて綾瀬が消えてしまうか、踏みとどまてアナタから流れてキタものを自分の物にするかはヤテ見ないと分からないヨ」

 

 超はメモをしまい話し疲れたようにジュースを飲んで椅子に凭れかかった。(ゆえ)も残りのスパゲティーを食べ切ってひと息ついた。食事中の楽しいお喋りにしては内容が深すぎる。

 

「……もしや既に上書きされてたりしないでしょうね?」

 

「イヤ、あの後も綾瀬はいつも通りダタシ大丈夫ダロウ。タダ、あの後からよく考え込んでイタヨ。既に思考ナイシ記憶が流れ込んでいるかもしれないネ」

 

 (ゆえ)はパックジュースを飲み干し、大きくため息をついて天井を見上げる。

 

「ナニカ手を打っておいた方がイイネ。塗り潰された後デハどうしようも無いヨ?」

 

 (ゆえ)は少し考えてから、皿を持って立ち上がる。

 

「そうですね。私が消えるのは困るですし、今晩にでも手を出すとしますか」

 

「夜這いでもするのカ?」

 

「まぁ、似た様なものです」

 

 その答えに超は目を見開いて驚いた。

 

「ナニするつもりネ?」

 

「私も魔法使いですからね。それなりの手を知ってるです」

 

 そのまま食器を片付けに行く(ゆえ)に、超は面白そうに笑みを浮かべてその姿を追った。

 

「イイネ。ワタシも観察させて貰うヨ」

 

「ご自由に」

 

 

 

 

 麻帆良が誇る大図書館、通称図書館島で、夕映は本を読みながら朝にあった出来事を思い返していた。時間が経つほどにあの時見えた幻の事は思い出せなくなって行くが、それでも何も無かった、ただの気のせいだったと言えるほど曖昧な物じゃないのが困る。気になって授業どころじゃ無くなる上、こうして本を読んでいてもなかなか内容が入って来ない。放課後の部活動中だと言うのに身が入らず、そこらにあった本を手に取って1人で読んでいても、頭の中はずっと朝の幻の事で一杯だった。

 

「誰だった……のでしょう?」

 

 もはや鮮明に思い出せなくなった幻をもう1度思い浮かべてみる。

 

 黒髪の少女を侍らせ、金髪をかき上げながらこちらを指差し何かを言っている長い耳の人。自分の隣でそれに反論しているっぽい犬耳を着けた女の子。横の方には猫を擬人化したような少女が2人、呆れたように肩を竦めていて、自分は多分笑っていた。記憶にない、しかし鮮明なその記憶とも言える幻に、夕映は頭を悩ませる。

 

「ユエユエー……、大丈夫ー……?」

 

「のどか……。えぇ、大丈夫です」

 

「やっぱり具合悪い……?」

 

「いえ、気分が悪いとかそう言うのではないので気にしなくていいですよ」

 

「でもー……」

 

心配そうに見つめて来る親友に心配ないと伝えるが、のどかは悲しげな表情を崩さず、人より少し広い額に手を当てる。

 

「熱はー…無いみたいだけど……」

 

「なーに、夕映。月のもの? あれ? でも、夕映この間来たよね?」

 

 のどかの背後から2本の触角を揺らしながらやってきたハルナが、恥知らずな事を大声で言いながらやって来た。近くに居て聞こえたらしい人、特に男子生徒の視線が向くのに気付き、夕映は顔を赤くしてハルナを睨む。

 

「ハルナ……女性同士でもセクハラは成立するですよ? 変な事を大声で言わないで下さい」

 

「アハハ、ゴメンゴメン。それで、どったの? 風邪?」

 

 怒られても余り堪えてない様子のハルナに、夕映はため息をついた。もう少しデリカシーと言うものを覚えて欲しいものだ。仮にも女なのだから。

 

「ふぅ……、まったく……。風邪ではないので気にしないで下さい。ちょっと……そうですね、強いて言うなら夢見が悪いと言う感じですかね」

 

 夕映の答えを聞いて、のどかとハルナは目を丸くする。

 

「何それ?」

「ゆえ、眠いのー……?」

 

「いえ、そうではなく……。そう言う表現が1番近い感じなだけです」

 

 そう聞いてものどか達はイマイチ分からず首を傾げるだけだった。

 

(変な幻を見て、それが気になって仕方が無いと言っても分からないでしょうね……)

 

 自分でも既に印象しか覚えてない幻の事を、詳細に彼女達に伝える事は出来ず、夕映は再度ため息をついた。

 

「ゆえゆえ、疲れてるんじゃないー……? 今日はもう帰って休もう…?」

 

「それとも、溜まってるのかなー? 何だったら私ら少し遅れて帰ろうか? あ、でも1時間くらいにしてね? それ以上は暗くなっちゃうし……あだっ!!」

 

「友人にセクハラするなです」

 

 ストレートにセクハラ発言をしてくるハルナに、夕映は持っていた本を投げ付けた。見事命中して落ちてくる本をさっとキャッチし、そのまま本棚戻す為に立ち上がる。

 

「のどかの言う通り、今日はもう休むとします。先に帰りますから、後はよろしくです」

 

「うんー……分かった……」

「夕映、後始末までちゃんとやるのよ? こう痕跡を見つけた時の気まずい雰囲気はイヤよ…ってアウチ!!」

 

 今度はカバンを投げ付ける事でセクハラ発言を止め、夕映は家路についた。1人で先に帰るのは少し心苦しいが、これ以上居ても幻のせいで身が入らず、活動の意味もない。大人しく今日は寝てしまった方がいいだろう。そう考えて、夕映はポテポテと重い足取りで寮まで歩いて行った。

 

 

 

 その夜、いつもより大分早くベットに入った夕映は、いつの間にか見覚えの無い大きな図書館に居た。

 

 中央に数段高くなった受付カウンターがあり、それを中心にシンメトリーになっている不思議な雰囲気の図書館だ。左右には壁伝いに階段があり、大きく螺旋状になって上まで登っている。交わった所には大きな通路があり、奥の方にずっと続いている。ここから見えるだけでも相当に大きな図書館だと分かるが、階段の踊り場などからも通路が伸びていて、その全貌が予想出来ない。

 

 そして、その蔵書もかなりの数があるとすぐに予想出来る。なにせ、壁一面が全て本棚で、数十メートルはあろうかと言う高さの天井までの壁をビッシリ本で埋められているのだ。他にも微かに見える通路の壁や、階段の段差にも本が並んでいる。図書館島以外で、こんな所は初めて見た。夕映はボケーっと入り口の前で止まったままだらしなく大口を開けて呆けている。

 

 ふと夕映はこれだけ立派な図書館だと言うのにまったく利用者が居ない事に気付いた。一体何故だろうか? シンと静まり返っている図書館には、一切人の気配がない。まだ開館時間ではないからか、それとも私設図書館なのか、これだけの図書館で1人も利用者も居ないと言うのはおかしい。夕映は少し図書館内を見て回ろうとしたが、足が縫い付けられたように動かない事に気付いた。理由を知る為に足元をみようとしたが、今度は頭も動かない。

 

 一体どうなっているのかと慌て始める夕映だが、その内勝手に自分が歩き出した所で、これが夢である事に気付いた。

 

(自分で行動は出来ないですが、考える事は出来ると。明晰夢と言う奴ですかね? しかし、あれは自分の意思で動く事も出来たような……)

 

 夕映の頭はそうやって今の状況を解析している間に、体はどんどん中央のカウンターに近づいて行く。階段を1段ずつ登って行くと、その段差やカウンターの下にも本が並んでいるのが見えた。全部緑色の表紙で、金色の文字でタイトルらしいものが書かれているがなんて書いてあるのかが分からない。英語にも見えなくはないが、どうも違う気がする。

 

 視線が下を向いているのでよく見えないが誰かがカウンターに居る事に気付いた。この図書館の司書だろうか? そして、ようやく登り切り視線が上がると、カウンターの中まで見えた。

 

「ようこそ、私」

 

 そこには、幻の中で見た制服を着た自分が、自分では出来ない満面の笑みを浮かべて座っていた。

 

 






はいーー。
もう年末ね。年末といえば、夕映が紐な水着を着たテレカ?を全員サービスでゲットする為に切手を探して郵便局を駆け回ったのを思い出す。

こういうと、完全なオタクだな。うん、否定はしない。
では、次回をお楽しみにぃ

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