魔法探偵夕映 R《リターン》   作:遁甲法

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 夕映が主役のSSがほんと少ない。なので、書いてみた。

 この話は魔法探偵として活躍中の夕映の物語。
やっぱり話の行方は考えてないので、この先どうなるかは妄想次第。

 三人称の練習もかねているので、おかしい所はどんどこ指摘して下さい。




夕映、いつのまにかに

 麻帆良学園都市の一角に、一つのボロボロで怪しげなビルがあった。

窓には[YUE'S OFFICE]と書かれてあるが、それ以外には特になんの装飾もなされていない、コンクリートむき出しの建物である。

 

 そんなビルに住んでいる一人の女性、探偵をしている綾瀬夕映は今日も依頼の来ない暇な一日を過ごしていた。

 

 この事務所も、なぜか舞い込む不可思議な依頼をこなしている間に、必要に応じて立ち上げただけのもので、ISSDA、国際太陽系開発機構に就職するのが目標の彼女にとっては、依頼が来ない事など、特に気にする必要もなく、魔法世界での学歴や職歴の代わりになるものをどうにか手に入れようと活動する以外にやる事はないのである。

 

 しかし、最近そんな彼女の平和を脅かす人物が、ちょくちょくこの事務所に現れるようになった。

 

 彼の名は佐々木影久。夕映の親友の一人である佐々木まき絵の弟であり、半年ほど前にあった連続少女下着強奪事件の解決を望む依頼者として来たあと、何かと言うと事務所に来るようになった人物である。時折彼女らしき少女を連れてくる事もあるが、大体は一人で、事務所の掃除や雑務をやって行くのである。これだけ聞けばむしろ助かるのではと思うだろうが、問題はその動機である。

 

 彼は何かと言うと魔法を教えてほしいと夕映に頼むのである。

魔法の隠蔽義務が有名無実かしつつある最近であっても、そうそう一般人に魔法を教える事は出来ない。それは夕映自身もまだ未熟者だと思っているからであり、さらに魔法の世界は危険が多いからである。親友の弟を、そんな危険な世界にポンポン連れ込むのは彼女もやりたくはないのだ。

 

 いつもなら今日くらいにまた影久が来るので、鍵でもかけようか、それとも出かけてしまおうかと悩みつつ、ここ数日で溜まった郵便物の整理をする夕映。

 以前溜めたままにしていて、同窓会の事に気づかなかったと言う失態を犯した後、なるべく1週間以内には片づける事にしたのである。まぁ、それでもズボラなのは変わらず、影久が掃除をしなかったら、郵便物も見つからないほど散らかるのだが。

 

 以前はここまでひどくなかったのだが、今までの人生で寮生活ばかりだった上、ルームメイトが家事を得意とする者達ばかりだったので、任せてしまう癖がついてしまったのだ。麻帆良の中等部で一緒だったのどかしかり、アリアドネーで一緒だったコレット、ではなく夕映をちょくちょく見に来るエミリィが、片付いてない部屋を見て騒ぎつつ掃除してしまうので、自身では余りやらなかったのだ。

 

 おかげで自分では余り家事の出来ない、ちょっと残念な大人になってしまったと言う訳である。

 

 「ん?宛名がない小包。またですか、めんどくさい」

 

 郵便物を確認していた夕映が、その中から宛名の無い小さな箱を見つけた。

その筋では不思議現象専門探偵として名を馳せている彼女は、時折こう言う小包が届くのである。彼女の実力が本物か確かめる為の挑戦状として不可思議な物体を送り、自分達のところまで来れるかと送りつけてくる物だったり、自分では持っていたくないと言う、怪奇現象が起こる物品だったりと、月に数個の割合で事務所に届けられるのである。最初の内は文句を言う為に送り主を魔法や伝手を使い探し出していたのだが、一向に後を絶たないので、今では開けもせず捨てる事にしている。開けて興味を持ってしまったら嫌でも動かなければならなくなる自分の性格をしっかり把握してるのだ。

 

 「これは明日ゴミとして出しますか。……こっちは光熱費の請求ですね。まぁ、引き落としですし、見なくてもいいでしょう。あとは……」

 

 学生であった時から面倒な事を嫌う彼女にかかれば、必ずご覧くださいと書かれていても、内容が分かっているその手のハガキなど、読む必要も無い代物だ。カチカチと時計の針が音を立てているのが響く室内で、もくもくと郵便物を捨てていく夕映は、不意に違和感を覚えた。

 

 「この音はどこから……?」

 

 この部屋にも時計はあるが、それはデジタル式の物で、こんな針の音は出ないのだ。それなのに、そんな音が響くのは何故か。

 

 「……さっきの小包から、ですね。時限爆弾とかじゃないでしょうね?」

 

 粗大ごみ行きの段ボールに放り込んだ先ほどの小包を取り出し耳を近づけると、中からカチカチと言う時計の音が聞こえた。

 

 「やはり、これですか。本当にめんどくさい……」

 

 心底嫌そうな顔をして、彼女は小包を開ける準備を始めた。爆弾だった場合、下手の開けるとただでさえ散らかっている部屋が、完膚無きまでに散らかるのは目に見えている。自分で散らかしたのなら少しは我慢出来るが、人にやられたら堪ったものではない。魔法系の仕掛けが無い事を確認してから、対物理障壁で小包を囲んで行く。この大きさで、この障壁を抜けてくる程の威力を出すのは不可能のはずだ。彼女は障壁がしっかり作動しているのを確認してから、小包を開け始めた。

 

 「……開けた瞬間爆発するなんて事にはならなかったですか」

 

 少し力を抜いて中身を取り出してみる。箱の中に更に箱があり、その中には少し大きめの懐中時計が入っていた。かなり珍しい文字盤のデザインが、妙な既視感を感じさせる物で、夕映はその正体を思い出そうと首をひねった。

 

 「あぁー……、どこかで見た事あるんですが、どこでしたっけ?」

 

 爆弾では無さそうだと障壁を消し、その懐中時計を持って椅子に座る夕映。目の前にぶら下げて眺めてみるも、いまいち思い出せない。どこかで見た事があるのは確実なのだが、それが出てこない気持ち悪さに、夕映は目を細めた。

 

 「ふぅ。まぁ、ただの時計だった訳ですし、放っておくです」

 

 そう言って机の上に時計を投げ出した。思い出せない物にいつまでも構っていたら、またお節介な弟がやって来て掃除をしてしまう。さすがに年上の女である自分の部屋を、年下の高校生男子に掃除させるのは、いささか恥ずかしいものがある。そう考えた夕映は、片づけのスピードを速めた。流石の彼女も、影久に掃除をされるのは恥と感じていたようだ。

 

 それから30分ほど郵便物の整理をし、散らばっていた書類などを棚に戻してようやく人心地ついた夕映は、もう一度机の上に投げ出していた懐中時計を眺めた。

 

 「ふむ。一体どこで見たのでしょう?確かに見覚えはあるのですが……」

 

 時間をおいて見ても、やはり思い出せない。魔法世界で見たのか、はたまたこちらで見たのか一向に思いつかないが、見た事があるのだけは確信出来る。このもやもやした感じをどうにかしないと、今日一日惰眠を貪れないと思った夕映は、本格的に調べる事にした。

 

 まず魔法を使い、これがどこから来たのか見てみる。初心者用の基本魔法である占いの魔法を使い、大雑把にだが時計がどこから来たのか調べるのだ。占いの魔法自体はそこまで精度はよくないが、その魔法を更に改良した物品の出所を探る専用の呪文だ。これは、毎度毎度送られてくる挑戦状の出所を探るのに作った魔法だが、割といろんな事につかえて便利だった。

 

 「さてさて、どこから来たのですか………っな!?」

 

 呪文を唱え、魔法を発動させると、急に懐中時計が光りを放った。

 

 「魔法に反応するマジックアイテムだったですか!?迂闊でした!急いで遠くに……!?」

 

 窓を開けて外に捨てようとしたが、一歩遅く彼女の視界全体を光が満たした。光によって目が見えなくなり、無重力で体が回転させられているような不快感を味わう事数秒、時計の光が収まり、また事務所に静寂が戻った。

 

 「光った……だけですか?一体何がしたかったのでしょう?」

 

 手に持った時計をじっと見ていると、針が動いてない事に気付く。

 

 「ん?今の光だけで動かなくなったのでしょうか?」

 

 指で突いてみても、時計が再度動き出す事はなく、ただそう言う形の置物の様になってしまった。

既に光も無くなり、動く事のない時計をどうするかと考えていると、ポンと言う軽い音と共に時計が爆発した。

 

 「ぉおっと!?」

 

 不意を突かれた形になった夕映は、その音に驚き時計を取り落してしまった。

ガチャンと言う音を立てて、その頑丈そうだった時計は、あっけなく粉々になった。

 

 「うぇえ!?ちょ、破片が飛び散りすぎです……」

 

 壊れた事より、破片が飛び散り掃除の手間が増えた事の方が重要だったようだ。夕映は肩を落としながら呪文を唱え、小さな竜巻を作り出し、破片を吸い上げていく。簡単に言えば、魔法を使ったサイクロン掃除機だ。粗方吸い込み終わったら、そのままゴミ箱まで移動させ、呪文を解除すると、吸い込んでいたゴミが全部ゴミ箱に落ちて行った。外に飛んで行かないように、これまた魔法を使っているので、箒や塵取りを出すこともなく、掃除機などを使わないので、電気代もかからない。とてもお得な魔法なのだ。昔、風魔法の練習にとやっていたのが、今こうまで役に立つとは、夕映もついぞ思っていなかった。

 

 掃除が終わり、現れた影久の驚く顔を思い描きながら、椅子にもたれ昼寝をしようとしていると、不意に扉が叩かれた。

 

 「んん?影久さんですか?珍しくノックをするとは、風邪でも引いたですか?」

 

 軽い調子でなされたノックの音に、夕映は椅子から立ち上がり扉に向かった。

 

 「どうしたです、影久さん。いつもは私が着替えていても、勝手に開けるのに……おや?」

 

 扉の前には、影久とは似ても似つかない男が立っていた。

全体的にグレーでまとめたダンディーな雰囲気の男で、夕映にとっても馴染みのある顔だ。

 

 「少し話がしたいのだが、いいかな?レディー」

 

 「えぇ、いいですよミスター。こちらへどうぞ」

 

 何か芝居がかったセリフを言うその男に、夕映も調子を合わせて返した。探偵業などをやっていると、時折こういうノリが必要になる事もあり、そういう場合そのノリに合わせないと、話もちゃんとしてもらえない事もあるのだ。例えば、どこぞの酒場に居る情報屋とか、こちらが女だと見てセクハラ発言を連発してくるが、それに調子を合わせて返しつつ聞いていかないと何も教えて貰えないなんて事もある。最初のうちは、直接的なセリフを聞いただけで顔を赤くしたり、怒ったりしていたが、今ではそれも軽く返せるようになったが、それを成長したと喜んでいいのか。夕映にとって最近の悩みの一つである。

 

 「どうぞ、そこに座って待ってて下さい。今お茶を入れますので」

 

 「あぁ、お構いなく」

 

 自分用ならフラスコと試験管で入れるところだが、相手は学生時代の恩師。流石に失礼だろう。あまりちゃんと指導してもらった記憶がなくても。

 

 影久の彼女が選んでくれたカップでお茶を出し、さっそく話を聞く事にした。

 

 「それで、高畑先生。何故に私の事務所に?貴方がここに来るなんて、そうそうないと言うのに」

 

 夕映が話しかけると、高畑と呼ばれた男は何かに驚いたように一瞬動きを止めてから、何事もなかったように手にしたカップを傾けた。

 

 「僕の事を知っているのか。君は一体何者だい?」

 

 「は?」

 

 薄い笑顔は絶やさぬまま、高畑は夕映に鋭い視線を送った。しかし、夕映にとってそれは予期せぬもので、どうしたらいいのか分からず思考が止まってしまう。

 

 「僕ら関東魔法協会に気付かれもせずにこんなビルを建て、僕を目の前にその落着きよう。魔法の腕もなかなかの物のようだし、出来れば穏便に行きたいんだ。教えてくれないかい?」

 

 「は、えっと。……何の冗談です?」

 

 「ふふっ。確かにいきなりこう来ても答える筈が無かったね。しかし、こちらも正体不明の魔法使いがいきなり自分達の縄張りの中に現れて驚いているんだ。出来れば君の目的を教えてくれないか?」

 

 何かを勘違いしている様子の高畑に夕映は珍しく慌てた様子で話をさえぎる

 

 「ちょ!ちょっと待つです、高畑先生!一体何を言っているですかっ!?」

 

 「ふむ。僕を先生と呼ぶ君が誰か教えてほしいだけだよ。もし、この麻帆良に危害を加える気なら……」

 

 「わ、私が誰かなんて、この間も会ったではないですか。まだ数週間しか立ってないというのに、もう忘れたと言うですか?」

 

 高畑も夕映の様子がおかしいとようやく気付いたようで、少し戸惑ったように聞き返す。

 

 「この間会ったって?……僕には見覚えが無いんだが」

 

 「高畑先生。自分の元教え子をそんなすぐ忘れるのはどうかと思うですよ?」

 

 「お、教え子だって!?ちょ、ちょっと待ってくれ!どういう事……なっ!?あれはっ!!」

 

 夕映を更に問い詰めようとした高畑が、部屋の一角にある写真立てを見て絶句した。そこには夕映の中等部時代の物から、アリアドネーでの留学中に撮った物まで飾ってあり、今は切ってしまった長い髪をしている夕映の姿が映っていたのだ。

 

 「な、なんだこれは……これは、夕映、君?」

 

 「高畑先生?ど、どうしたです?」

 

 尋常じゃない様子で写真を見る高畑に、夕映も戸惑いながら近づいていく。

 

 「こ、これはいつ撮った物なんだい?」

 

 赤毛の少年と二人で取られた写真を指さし聞く高畑に、夕映は戸惑いながらも答える。

 

 「それはアリアドネーに留学中、ネギ先生が仕事で近くに来たからと遊びに来て下さった時に撮った物です。ご存じのように、その頃はとても忙しくてなかなか先生には会えませんでしたから、とてもうれしかったのを覚えてますが。それが……?」

 

 茫然とその話を聞いていた高畑は、ほかに大勢映っている写真を見て、更に愕然とした。

 

 「な、ナギさん……だって?な、なんで?」

 

 「あー、高畑先生?」

 

 夕映が声をかけると、急に振り向いた高畑が夕映の両肩を掴み、ものすごい剣幕で捲し立てた。

 

 「き、君は夕映君なのか!?しかもこの写真にナギさんが映っているのは何故だ!?彼は死んだはずじゃ!?それにネ、ネギ君が何故!?彼はまだイギリスに居るはず!」

 

 「ちょ、ちょっと高畑先生!落ち着いて下さい!!あっ!!」

 

 余りの剣幕に驚き後ずさっていたら、来客用のソファーに足を取られその上に転んでしまった。しかし、高畑はいまだ興奮状態で、ソファーに倒れた夕映に覆いかぶさるようにして、更に質問をしていった。

 

 「ナギさんだけじゃなく、このもう一人のナギさんは……ネギ君なのか!?これはどうやって撮ったんだい!?ラカンさんまでいるし、何か見覚えのある女性が、これは2Aの生徒たち?君!これはどういう……!!」

 

 「先生!落ち着いて下さい!元生徒を押し倒すのは、どうかと思うですよ?」

 

 「へ?……はっ!?す、すまない!!」

 

 夕映に怒鳴られ、ようやく自分達の体勢に気付いた高畑は慌てて夕映の上からどいて、反対側のソファーまで移動した。

 

 「ふぅ。よもや恩師に押し倒されるとは思いませんでした」

 

 「す、すまない。余りに信じられない物を見たせいで、我を忘れてしまった。許してほしい」

 

 「まぁ、そのまま犯されるなんてハルナ好みの展開にならなかったですし、もういいですよ。一体何にそんな驚いていたんです?まるで、私たちの事を忘れてしまっているような言動でしたが……」

 

 夕映が確認すると、やはり信じられないと言う表情を見せたまま写真立てを見て、もう一度夕映の顔を正面から見る高畑。

 

 「あ、ああ。その前に一つ質問に答えてほしいんだけどいいかい?」

 

 「えぇ?なんでしょう?」

 

 「君の名前をしっかり教えてほしい」

 

 とても真剣な顔でそういう高畑に若干違和感を感じながら、夕映は名乗りを上げる事にした。

 

 

 「元麻帆良学園中等部3年A組、魔法探偵 綾瀬夕映と言います。思い出していただけましたか?」

 

 そう名乗っても、高畑から驚きの表情が消える事はなかった。

 

 

 

 

 




 妄想は爆発だ。
と言う訳でこんなん書いてみました。三人称ってなんか苦手なので、その練習もかねているので、おかしい所は指摘下さい。基本、もう一つの方の合間に書いていくので、余り更新は早くないです。そのあたり、ご了承ください。

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