ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

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もう毎度のことですが……
本当に! 本当に! 遅くなって申し訳ありません!!(;>_<)

ゲイル様、路地裏の作者様、ポンポコたぬき様、piki.様、匿名様、エミリア様、ささみの天ぷら様、ガーデルマン様、バルサ様、リュウゴ様、Reiya様。
感想ありがとうございます! 遅くなって申し訳ございません!m(__)m

文字数が、増えているんですが……読み辛いようでしたらご一報ください(;一_一)



第四幕・休息

 

 

 63層の攻略が始まってから既に1週間が経過した。

 しかし、フロア攻略は順調とは言えず、今日、ようやくフィールドボスの討伐が終わったばかりだ。

 

「……1週間かけて……やっとフィールドボスの撃破、か……こりゃキツイな……」

 

 夕日が映し出す長い影を引き連れながら、隣を歩くマーチが呟いているのが聞こえた。

 

「……しかも……フィールドに引き続き、迷宮区があれじゃ……ルイは出てこれねぇぞ……」

 

 フィールドボスの討伐後、私達を含む攻略組の何名かは、少しでも迷宮区の傾向を掴もうと、滅入った精神に鞭打って探索してきたのだが。

 そこで待っていたのは、フィールド以上に厳しい現実だった。

 

「確かに……ルイさんだけじゃなく、アスナさんも、おそらく同様の理由でほとんど攻略には参加してませんし……」

 

 私は、ついつい苦笑いを浮かべて頬を掻いてしまった。

 

 元々が怖がりな性格のルイさんは仕方がないとして。

 如何に攻略組のターボエンジンと呼ばれ、《閃光》の二つ名を轟かせているアスナさんであろうとも、(もと)(ただ)せばうら若き乙女でしかなく、苦手なものの1つや2つあって当然、ということだ。

 

「サボるのは良くないと思うんだよ! 私は!」

 

 しかし、同じ《うら若き乙女》であるはずのアロマさんは――

 

「だからさ! 明日はアスナとルイルイも連れてきて迷宮区攻略に行こう! きっと楽しいよ!」

 

 ――2人が本気で嫌がりそうなことを、気にも留めずに行おうとしていた。

 

「……お前は元気だな……アロマ……《アレ》やった後で……何でそんなに……」

 

 《あの系統》が、あまり苦手ではないはずのマーチですら、今はゲッソリとしている。

 

「えー? ああいう敵も新鮮じゃん!」

 

 いつもと変わらぬ――否、いつも以上に明るい笑顔を咲かせているアロマさんには、そんなマーチの様子すら気にする要因にはならないようだ。

 

「新鮮……ですかねぇ……あれが骨なら、私としてもやり易くはあるのですが……」

 

 私は思わず、自分の両手を見つめてしまった。

 そこには何の汚れも、傷の1つもありはしないのだが。

 

(流石に、あの感触は、気持ち悪いんですよね……)

 

 

 

 

 63層に初めてやって来た時から、ルイさんとアスナさんの顔は引き攣っていた。

 ルイさんがこの手の物が苦手なのは知っていたが、あのアスナさんも苦手だったという事には、少々驚いたものだ。

 

 まあ、この層に対しては、ほぼ全てのプレイヤーが苦手意識を持ったであろうが。

 

 63層のフィールドは、人と同じくらいの大きさのスラッグ系――所謂ナメクジモンスターや、アンデットモンスターの中でも特に嫌われているゾンビ系で占められていた。

 この世界において、最も倦厭されがちなモンスターが多く出るフィールドは、ここが初ではない。

 だが、それでもこの層は、質も量も跳び抜けていた。

 

 《巨腐蛞蝓(ギガラト・スラッグ)》・《腐乱狂狼(ピューレトファイド・ウルフ)》・《腐乱大尉(ピューレトファイド・キャプテン)》などなど。

 フィールドもそうだったが、迷宮区に跋扈しているどのモンスターにも必ず《腐った》という単語が入っている。

 アロマさんと出会うきっかけとなった27層のクエストでも同系統のモンスターを相手にはしたが、あれはあくまでもクエスト時のみだった。

 階層全体で、この類のモンスターしか(・・)存在しないという層は、ここが初だ。

 

 モンスターの強さとしても、27層とは比べ物にならず、動きも格段に速くなっている。

 体全体が朽ち果てていて、所々の肉は爛れ、化膿し、嫌な色の体液を常に垂れ流している状態で、何でそんなに動けるのか問い質したくなるほどだ。

 攻撃したときの手応えも妙に水っぽく、敵によっては《汚れエフェクト》すら発生する。

 武器や体に飛び散って付着した敵の体液は、とても気持ち悪――じゃなく、攻撃力や防御力の低下、耐久値の消耗度アップといった阻害効果(デバフ)を伴うので厄介極まりない。

 

 そして、何よりも辛いのが《(にお)い》だ。

 

 この層の敵は、そのほぼ全てが、倒された瞬間に強烈な腐臭をまき散らすという特性を持ち、それによって強烈な《眩暈(ディジィネス)》の阻害効果(デバフ)を発生させる。

 発生源が嗅覚由来というのも厄介で、マスクをしなくては息もし辛くなる。

 

 つまり。

 この層の敵は、誰も進んで相手にしたくないと思う敵で埋め尽くされていた。

 そして、それらはフィールドボスにも言えることで。

 

(……アレのデザイナーは……絶対趣味が悪い……)

 

 《ラトン・カーネルトーラス》と名付けられたフィールドボスは……全身に(うじ)らしき虫すら這わせていた。

 あれには、ある種のトラウマになりかねないものがある。

 

 

 

 

 不覚にも思い出してしまい、鳥肌が立つとともに腹部に不快感を覚えたが、えずくのだけは何とか堪えた。

 

 未だに、手に残っている変に柔らかい感触を拭い去ろうと、私は数度腕を小さく振ったが、あまり効果は無かった。

 

 まあ、なんにせよ。

 《アレ》は《新鮮》で片付けられる代物ではないと思うのだが。

 

「アロマさん……ゲテモノ好きなんですか?」

「え、好きじゃないよ? でもほら、食べるわけじゃないし。斬った時の感触とか、他のモンスターと違うじゃん?」

 

 ある意味、非常にタフなのだろうと、納得するしかないかも知れない。

 

「……それに、ちょっと特別な思い出もあるし……」

「はい? 今何か仰いましたか?」

「ううん! ナンデモナイ!」

 

 アロマさんが最後に呟いた言葉は、聞き取ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅぅぅぅはぁぁぁぁああああっ……」

「……マーチ……大丈夫ですか……?」

 

 フィールドボス攻略から4日目の朝。

 相変わらずルイさんは攻略には参加できず――誘うと泣きながら部屋に閉じ籠ってしまうので、声をかけることすら諦めた――アスナさんも殆ど前線には顔を出していない。

 

 アスナさんに関しては聞いた話によれば、活動を休日(オフ)にしてもらったり、数人のKoBメンバーと他層のクエスト攻略に赴いてギルドの資金稼ぎに精を出したりしているらしい。

 そんな中、私・マーチ・アロマさんの3人は、3日連続で迷宮区へと潜ったわけだが。

 

「……ルイは良い……だが……アスナ……あいつが居ないだけで……攻略速度がこうも違うとは……」

 

 流石に精神的限界を超えたのか、マーチは朝食を――いつもの半分程度の量を、いつもの倍の時間をかけて――取り終えた後、リビングのテーブルに突っ伏したまま動こうとしなかった。

 

「いや、アスナさん1人のせいじゃないでしょう?」

 

 マーチの台詞に思わず苦笑いを浮かべてしまいながらも、間違った認識には修正を入れておく。

 

「攻略組全体で見ても、あの層の攻略に本腰を入れているプレイヤーは少ないですよ……ここ数日はキリトさんも見ていませんし……やはり、あの手のモンスターばかりというのは……精神的にキツイものがありますから」

 

 ()()う私自身も、精神的に限界がきている。

 マーチほどではなかったものの、朝食の量は減らしてもらったし、食べるのに費やした時間も普段に比べれば長かった。

 

 今日は、63層には行きたくない。

 だが、私達の中ではただ1人――下手をしたら攻略組でも1人だけかもしれないが――63層攻略に乗り気な人がいる。

 

「ねえねえ! 食べ終わったんだから早く迷宮区行こうよぉ! やっと10階まで上ったんだからさぁ!」

 

 言わずと知れたアロマさんだ。

 

 既に準備万端整えた状態で、ホームの扉の前で地団駄を踏んでいる。

 何でアレを連日見続けていて気が滅入らないのか、不思議でならない。

 

「……アロマさん……申し訳ないですが、今日は休みましょう……私もマーチも、限界です……」

 

 あまり言いたくはなかったが、ギブアップである。

 

「えー!? 何でだよぅ!? 迷宮区なのにライバル少なくて宝箱大量ゲットできて良いじゃん! ここ最近で1番稼げてるじゃん!」

 

 その、ライバルが少ない理由について、もう少し意識を回して欲しいものだ。

 

「……とにかく……今日は休みにします……どうしてもというのでしたら、他のギルドの方々と一緒に潜れるようにお願いしてみますが?」

「ブゥー! それじゃ意味ないでしょー! セイドと一緒じゃないなら行かないよ!」

「そうですか……なら、休みということで、諦めて下さい……」

 

 私としても、精神的負荷が大きすぎた為か、昨日の迷宮区攻略では何度もミスを連発していた。

 ここらで1度、しっかりと休まないと今後の攻略へ支障が出てしまう。

 

「ごめんね~、ロマたん。私、ホントにあ~いうのはダメなんだ~」

 

 私とマーチの様子を見てか、ルイさんが貴重なハーブティーを淹れてくれた。

 ハーブの甘い香りが疲れた心を解してくれる。

 

「手伝ってあげれればよかったんだけど~……体が(すく)んじゃうんだよね~……」

 

 味も格別で、熱いはずなのに飲んだ後には涼やかな後味が残る。

 レアモンスターだけがドロップする、なかなか手に入らない茶葉なだけあってか、耐毒の支援効果(バフ)までついている。

 

「ルイルイは気にしないで。ほんとは一緒に行きたいけど、無理なものは仕方ないし。でもさぁ……男が2人とも揃ってダウンってーのは、情けないんじゃないのー?」

 

 私とマーチがハーブティーをチビチビと飲んでいるのを横目に、アロマさんは辛辣なコメントをしていた。

 

「……悪ぃな…………俺ぁお前ほど図太くねーんだよ、繊細なんだよ……ってか、ルイと一緒に居て、あーいうもんを全然見てねーから、耐性が落ちてたんだよ……」

「あー、ルイルイのせいにしたー。なっさけないなー。それでも男かー、マーチィ?」

 

 マーチは、アロマさんへ反論する気力すら惜しいとばかりに――

 

「何とでも言え……」

 

 ――そう呟いて、テーブルからソファーへと移動し、大きなため息とともに身を横たえた。

 どうやら、私の想像以上に(こた)えていたようだ。

 

「だいじょぶ~? マーチん」

 

 ルイさんは心配そうに、マーチへ寄り添うように腰掛けた。

 

「ほら~、頭ここに乗せて~。冷たいタオルもあるからね~」

 

 そう言ってルイさんは、マーチの頭を自分の太腿へと乗せて――いわゆる膝枕をして――額と目元を覆うように、冷たいタオルをかけてあげていた。

 ルイさんに言われるがままになっているマーチを見て、マーチが本当に弱っていると分かったのか、アロマさんもそれ以上マーチへと口出しはしなくなった。

 

【そうすると、皆さん、今日は時間があるということですか?】

 

 店へと出かける支度を終えたログさんが、唐突にそんな言葉を打ってきた。

 

「そうなりますね。気持ちが休まれば、それで良いということになりますが」

【そうですか】

 

 私の言葉に、ログさんは数秒思案した後、何かを思い切ったようにホロキーボードをタイプした。

 

【あの、もし良ければなのですが――】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼少し前。

 私達は全員で揃って、ある場所へと足を運んだ。

 目の前にあるプレイヤーショップからは、巨大な水車が緩やかに回転するゴトンゴトンという心地よい音が響いている。

 

「ほへぇ……ここがログたんの知り合いのお店?」

【はい。知り合いで、ライバルで、友だちで、お客様です】

「な、なかなか複雑な付き合い方してるな、嬢ちゃん」

「職人同士なら、そういう関係もありでしょう」

「ログっちが~、自分からライバルって言うのは珍しいね~。ちょっと楽しみだな~」

 

 私達がやってきたのは、48層の主街区《リンダース》で、その一角にあるプレイヤーショップ――《リズベット武具店》と名付けられた、大きな水車が目立つ店だった。

 

 店は中々繁盛しているようで、数名のプレイヤーがショップへ出入りしていたのが遠目にも見えた。

 店の前へとやって来た時には、受け取ったのであろう武器を満足気に撫でながら笑顔で出てきたプレイヤーとすれ違った。

 職人クラスの目安の1つとして《客を笑顔にさせる職人に悪い職人はいない》というものがある。

 そういう意味では、ここの店主もログさんに勝るとも劣らない、良いプレイヤーなのだろうと想像ができた。

 

【時間は伝えてありますが、一応ショップ側から入りましょう。工房に直接行くと、作製中だった場合は邪魔してしまう可能性もありますから】

 

 というログさんの提案に沿って、私達は《リズベット武具店》の扉をくぐった。

 店内には、低価格の汎用品から値の張る一品物まで、多種多様な武器が展示されている。

 店の奥にあるカウンターには、NPCの店員とは別に、ベビーピンクのショートヘアという目立つ外見の少女が1人立っていた。

 

 この店の主らしきその少女は、長身の槍使いらしき男性相手に何やら話をしていて――

 

「って、ゼルクじゃねーか」

「おぉ? あれぇ? マーチさんたちじゃないですかぁ?」

 

 ――意外なところで意外な人と出くわしてしまった。

 

「あれ、ログじゃない。もう約束の時間だったっけ?」

【はい。ちょっと早かったですけど。お話し中に、お邪魔してしまってごめんなさい】

 

 ログさんの知り合いである少女と話をしていたのは、行商人のゼルクさんだった。

 

「あー、いいのいいの。気にしないで。話はもう終わりだったし」

「えぇ~? リズベットさ――」

「だぁから、金属が無いんだってば! 偶然1つ確保できただけで、それ以外は確保できてないんだからしょうがないでしょ!」

 

 店主――リズベットと呼ばれた少女は、ゼルクさんとの話を一方的に切り上げるところだったらしい。

 

「さ、帰った帰った! あたしは次の予定があるのよ!」

 

 にべも無くゼルクさんを追い立てたリズベットさんだが、そんなゼルクさんをマーチが呼び止めた。

 

「ゼルク、お前何しに来てたんだ?」

 

 ゼルクさんはそれを最後のチャンスと感じ取ったのか、マーチに(すが)るようにして――今回ばかりはギルドの話はせずに――ここに居た目的を話し始めた。

 

「それがですねぇ! リズベットさんが見つけたぁ、新しい金属の話でしてぇ! 詳しい話をぉ、どうにか売ってもらおうとしてたところなんですよぉ!」

 

 しかし、そこまで言った段階でログさんがテキストを挟んだ。

 

【あれ? 今からその話をするところだったんですけど】

 

 ログさんのこの発言は想定外だったようで――

 

「あっ! ちょっとログ?! そんなこと言っちゃったらそいつが――」

 

 ――リズベットさんが慌てて口を挟んだが、時すでに遅く。

 

「リズベットさぁん!? 俺だけ除け者扱いは酷いんじゃないですかぁ?!」

 

 ゼルクさんが泣きそうな顔でリズベットさんに詰め寄っていた。

 

「~っ!……あ~もう! 分かったわよ! 金属手に入れたら連絡するから! とりあえず今は帰って!」

 

 何か観念したように、リズベットさんはため息交じりに、ゼルクさんとの話に分かり易い区切りを付けた。

 

「むぅぅ……約束ですよぉ……俺だってぇ、リズベットさんには色々と贔屓してるんですからねぇ」

「分かってるってば……いつも感謝してるわよ。だからほら、あんたも暇じゃないんだから、何時までも此処で足止めてないで、やることやってきたら?」

 

 ゼルクさんも、とりあえずは納得した様子を見せ、リズベットさんの言う通り、この場を去ろうと扉へと向かった。

 

「そうさせていただきますねぇ……ではぁ、皆さぁん……っとぉ、そうそう、皆さんに渡すものもありましたぁ」

 

 そう言ってゼルクさんは、数枚の紙を取り出し私へと差し出した。

 

「姉御からぁ、リストの追加分だそうでぇす」

 

 以前ゼルクさんから渡された新規および未攻略クエストのリストは、未だ全てをこなせてはいないというのに、また新たに追加分が来たようだ。

 

「なるほど……確かに受け取りました。アルゴさんにもよろしくお伝えください」

「はぁい。では皆さぁん、また近いうちにぃ」

 

 そう言い残して、ゼルクさんは立ち去って行った。

 

「はぁ~……全く、毎度毎度疲れる奴よねぇ」

【リズさんも、ゼルクさんと取引があったとは、知りませんでした】

 

 リズベットさんの零した溜め息に、ログさんが率直な感想を打っていた。

 

「ん~まあ、露店やってた時から結構世話になっててさ。断り辛いっていうか。腐れ縁っていうのかな、そんな感じ」

 

 と、そこまで語ったところで、リズベットさんは唐突に私達へと視線を走らせた。

 

「……ふむ……なるほどなるほど……貴方達がログのギルドメンバーなんですね。噂には聞いてました。攻略組のメンバーが居るって」

 

 そう笑顔で見抜いたリズベットさんに、私はまだ自己紹介をしていないことを思い出した。

 

「おっと、これは失礼しました。ギルド《逆位置の死神》のセイドと申します。こちらはマーチ。ルイさん。アロマさんです」

 

 リズベットさんに全員を紹介し、皆一様に軽く頭を下げて挨拶する。

 

「ログさんとはお知り合いのようですから、大丈夫でしょうか」

【はい】

 

 私の言葉にログさんは素早く反応し、さらにテキストを続けた。

 

【こちらが、このお店を私より早く購入した、鍛冶師のリズベットさんです。鍛冶スキルは私より上ですよ】

「どうも初めまして。ここで武具店を営んでます、リズベットです。ヨロシク!」

 

 ログさんに紹介されて、リズベットさんは笑顔で私達に挨拶をし――

 

「って、ログ、まだ根に持ってるの? この店の事」

 

 ――そのまま笑顔を引き攣らせながら、ログさんへと顔を向けていた。

 

【いえ、それ程でも。セイドさんたちと出会った後でしたから、私は今のお店で何の問題もありませんでしたし。下手にお店を変えずに済んだことに感謝してるくらいです】

「だったらさぁ、わざわざ言わなくても良いんじゃない?」

【そうはいきません。負けは負けですから、忘れられません】

「あんたってば、そういうところは頑固だよねぇ」

 

 非常に珍しい光景を目の当たりにして、私達は思わず言葉を失った。

 あの人見知りなログさんが、ここまですんなりと会話をする相手が、私達以外に居るとは思っていなかったからだ。

 

「ログっち~、良いお友達だね~」

「うぅむ……ログたんよりスキルが上とは……やるね! リズリズ!」

「リ……リズリズ?」

【アロマさんは大型武器をメインにしていて、ルイさんは――】

 

 2人の会話にルイさんとアロマさんも混ざり、女性4名による会話が始まると、私とマーチの存在は忘れ去られた。

 まあ、それはいつもの事なので気にせず、私達は私達で、リズベットさんの鍛え上げた武具を見て回ることにした。

 

「ほほぉ。確かに良い武器が揃ってんな……でもよ、ログんところの倉庫品に敵うやつはなさそうだな……金属の差かね?」

 

 おそらくこちらの会話など気にも留めていないだろうが、マーチは念のために声を最小限度の大きさに絞っていた。

 

「おそらくそうですね。ログさんの倉庫にあるのは、素材が《あのクエスト》の報酬でしか発見されていないようですから。おそらく、もう少し上の層でないと発見されないのではないかと」

 

 私はいつも通り《警報(アラート)》を使っているので、この周辺で《聞き耳(ストレイニング)》を使っているプレイヤーがいないことは確認しているが、それでもやはり声のボリュームは最小に抑えた。

 ログさんが《ウィシル》のクエストの事を他人に――それも自らライバルと認めている相手に――話すとは考えにくい。

 

「ま、同じ金属を使った場合なら、嬢ちゃんよりピンク髪の方が質は良くなりそうだぁな」

「ログさんは鍛冶だけではなく、全てを1人で賄ってますからね。専門の職人に敵わないのは仕方ない事ですよ」

 

 

 

 

 

 近頃、ログさんの《特殊性》は、ログさんの長所であるとともに短所ともなりつつある。

 《万能職人(オールラウンダー)》と呼ばれるが故に、何か1つに突出した――いわゆる《専門職(スペシャリスト)》となった職人クラスのプレイヤーとのスキル差が広がりつつあるからだ。

 

 今この場に居るリズベットさんならば《鍛冶》の専門職――《マスタースミス》と呼ばれる職人にあたる。

 他にも有名どころであれば、裁縫スキルを誰よりも早く1000に上げた《マスターテイラー》のアシュレイ氏などだろう。

 

 ログさんの個々のスキルも、決して低くは無い。

 一般に《マスターランク》と呼ばれるスキル800台にほぼ全てが到達しているが、そこからはあまり伸びていない。

 元々800以降は非常に数字が伸びにくくなっていて、ログさんはどれか1つを集中的に鍛えることができない状況でもあるため、それは仕方がない事だろう。

 

 無論。

 

 当然のことではあるが、ログさんの様に多くの職人系スキルを高い数字で維持することは、通常では不可能だ。

 そこが、ログさんの特殊性であり――いや、あえて言うのなら《ユグドラシル》というギルドの特殊性というべきだろうか。

 

 

 

 ログさんが私達に、以前のギルドのことを話してくれたのは、私達と生活するようになってから2ヶ月ほど経った頃だ。

 

 まあ実際には、私達は既にログさんの過去に関する情報を知っていたわけだが。

 しかし、私とマーチにもサッパリ分からなかったログさんのスキルに関して、この時初めて知ることとなり、そしてそれは同時に、私達に大きな物議を醸した。

 

『【私は、世界樹の皆さんのスキルを、受け継いでいるんです】』

 

 そう言ってログさんが私達に見せてくれたのは、これまで見たことも無い、他の結晶アイテムよりも2回りほど大きい玉虫色の結晶だった。

 それも、同じものが4つ。

 

『【これが、皆さんの形見です】』

 

 玉虫色の結晶の名は《継承結晶(インヘリタンス・クリスタル)》。

 その効果は、驚くべきことに――

 

『【この中には、世界樹の皆さんのスキルが、保存されているんです。そして、それを私のスキルと入れ替えることができます】』

 

 ――自分のスキルと他者のスキルとの入れ替えだった。

 

 その効果のみ(・・)を知った時には様々な考えが頭に浮かんだが、しかし、そんな途轍もない効果の、しかも繰り返し使えるアイテムが、何の制限も課されていないわけがない。

 

『【この結晶1つにつき、スキルを登録する人とスキルを入れ替えられる人は1人ずつのみで、入れ替えられる人は登録する人が指定します。他の人が利用することはできません】』

 

 この場合《世界樹(ユグドラシル)》のメンバーであった4名が登録者であり、その全員が使用者にログさんを指定したということになる。

 

『【そして。この結晶を、指定された人が使用できるようになる条件は】』

 

 

『【登録者が、この世界から、居なくなった場合のみ、です】』

 

 

 この一文を、ログさんは涙を流しながら打っていた。

 その後、結晶に関していくつかの文章を打ったログさんだったが。

 遂には堪えきれなくなり、声を上げて泣き出してしまった。

 そんなログさんを、ルイさんとアロマさんが優しくなだめながら、ログさんが寝付くまで一緒に居たことを覚えている。

 

 

 そして、私とマーチは、その結晶に関して様々な論議を繰り広げることになった。

 

 

『人が死んで初めて効果を発揮するアイテム……茅場のヤロウ……ふざけたモン作りやがって!』

『……ですが。ログさんの様に、救われる人もいます。一概に悪いとは言い切れない』

『そのことは認めるさ。だがな、これが公に知られると、かなり厄介だぞ?』

『……犯罪者(オレンジ)……ですね……』

『ああ。あの結晶は、良く言やぁ仲間にスキルを残すことができるアイテムだが。俺はむしろ、悪用されることしか思い付かねえよ』

『……相手を脅し、スキルを登録させ、自分を指定させて、殺す……』

『相手を指定しなけりゃ意味がねぇんだから、実際の脅威としちゃぁ然程レベルは高くねぇはずなんだが』

『ですが、結晶の存在が知られれば。必ずそういった悪用をする犯罪者共は現れるでしょうね……』

『……どうする……公開しなきゃしねぇで、脅された時の対応を周知させられねぇし……』

『……いえ。あんな結晶が、そう易々と手に入るとは思えません。それに、ログさんが言ってたじゃないですか。あれは《加工された結晶》だと』

『ああ、そういやぁ言ってたな……で? それにどんな意味がある?』

『もし仮に、あの結晶の原石が手に入ったとしても、それだけでは継承効果は発揮できないでしょう』

『ふむ……まあ、それは良いとしよう。原石だけなら、まだ安全だとして?』

『それを加工できるのはごく限られた職人だけになるのではないかと思います。それも、スキルが高ければいいというわけでは無さそうです』

『……あれを作ったっていう世界樹のメンバーの話か?……いや……当時のスキル最高値を考えりゃ――』

『マスタークラスになっているとは考えにくい。ですが、あの結晶は加工できた』

『スキル最高値だけで考えりゃ、もう原石が見つかっててもおかしくねぇ筈だろ?』

『しかし、原石は未だ未発見のまま』

『原石の入手に何らかの条件があるってことか?』

『それだけではなく、踏破されている階層の問題だと思います。それと、先ほども言いましたが、加工できるのも、特定の条件を揃えられた職人だけだと推測します』

『その根拠は?』

『原石の名前です』

『名前?……確か《メムントゥーリ・ストーン》だったか?』

『由来は《メメント・モリ》――死を想え、死を忘れるな、といった意味だったはずです』

『ふむ……んで?』

『加工できた職人……ログさんの仲間のその人は、過去に仲間の1人を亡くしている』

『……お前。アルゴに追加調査を依頼したのか?』

『……ええ。目的は全く別の事でしたが、その過程で分かったことです』

『……つまり……あの結晶は。既に仲間を亡くしたことのある職人だけが、造ることができる、と?』

『そうだと思いますよ』

 

 

 そんな論議を通して、私達はログさんの持つ《継承結晶》のことは伏せることにした。

 重要度は、私のスキルの秘匿度よりも上。

 いつどんなことがあるか分からないので、私達はこうして、秘匿している情報には優先度を付けている。

 最悪の場合でも、秘匿している情報を売ることで、命を救えることもあるからだ。

 実に、利己的な考えではあるが。

 

 

 

 

 私は昔のことを思い出しながら、ログさんのことを見ていた。

 私とマーチのことなど気にすることも無く、女性陣は会話に花を咲かせていた。

 今でこそ笑顔で暮らしているログさんだが、その身には私達が経験したことのない重い過去があることを、私はこうして時々思い出している。

 

「おーい、セイド? お前な~に考えてんだ?」

「あ、いえ、ちょっと昔のことを」

 

 記憶を辿っていたために、マーチからの呼びかけに反応するのが遅れた。

 

「……ははぁん? アロマの事かぁ?」

 

 すると、マーチは何を思ったのか、目を細めてニヤリと口元を歪めた。

 

「はぁ?! いや、違いますよ! っていうか、ログさんの話をしていて、どうしてアロマさんのことに――」

「だって、アロマの事をじぃーっと見つめてたじゃねぇか」

「いや! 見てたのはログさんで――」

 

 マーチからの揶揄に、反論していると。

 

「ん? セイド、ログたんのこと見つめてたの? やっぱロリコンだった?!」

「だぁぁぁからぁ!! なんでそういうところだけこっちの会話を聞いてるんですか、あなたは!! 違うって言ってるでしょう!!」

 

 何故か女性陣の会話の中からアロマさんだけがこちらに首を突っ込んできた。

 

『やーい! セイドのロリコ~ン!』

 

 仕舞いには、揃って声をハモらせたマーチとアロマさんを、私が全力で店外へと蹴り出すことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――55層へ、金属を取りに行くのを手伝っていただけませんか?】

 

 私達がリズベットさんの店を訪れたのは、ログさんのその言葉を受けての事だった。

 

 ログさんとリズベットさんから詳しく聞いた話を要約すると、ログさんの知り合いが――つまりリズベットさんが――新しい金属を見つけたという。

 ただ、その場所というのが55層の山奥で、そこを守護する白竜が居るらしい。

 ログさんもリズベットさんも、レベル的にはほぼ同じ60台半ば。

 最前線が63層であることを考えれば、55層のモンスターはまだ危険な部類に入る。

 

 とはいえ、レベルだけで見るのなら2人とも安全マージンは取れていることになるわけだが。

 

「ま、そりゃ、お前ら2人でだけで行かせられねえよな」

 

 ログさんとリズベットさんの話を、腕を組みながら聞いていたマーチは、ため息交じりにそう言った。

 

「そ~だね~。レベルはマージンがあっても~、職人さんだもんね~」

 

 マーチの言葉にルイさんも賛成していた。

 

 ログさんもリズベットさんも戦闘スキルが無いわけではないが、あくまでも武器スキルが1つか2つあるという程度。

 私達の様に戦闘に主軸を置いたスキル構成ではなく、あくまでも《職人》なのだ。

 そしてなにより、レベルを上げるのに得た経験値の大半はアイテム作製によるものだ。

 

 戦闘において真に重要なのは、敵の動きを冷静に見つめ、剣技を効率的に使い、アイテムによる対応・予防法を熟知している等々、それまでに培ってきた経験――踏んできた場数がモノを言う。

 職人クラスのプレイヤーは《戦えなくもない》というだけなのだ。

 

「本当なら、場所だけ教えていただいて、私達が取ってくる、と言いたいところですが」

 

 私がリズベットさんを見ながらそう言うと、彼女は肩を竦めて見せた。

 

「そうね。そうすれば《パーティー内にマスタースミスが必要》っていう条件の検証にもなるし。でもそれは。場所を覚えてから、貴方達だけで検証して」

【私も新しいインゴットに興味がありますし、ご一緒したいんです。お願いします】

 

 情報の提供者であるリズベットさんから、インゴットの話を聞いたログさんがインゴット収集の協力を申し出た、というのが簡単な話の流れだ。

 

「いいじゃん、セイド? 私達なら余裕だし! 白竜にも興味あるし!」

「その金属の噂なら俺も聞いたが、ドラゴンのドロップはショボいらしいから、期待すんなよ、アロマ?」

 

 アロマさんとマーチも、話には乗り気なようだ。

 むしろマーチは、ログさんとリズベットさんの話を聞いた時点で行くことを決めていた。

 こういった決断の速さは、マーチらしいところだ。

 

「それじゃ~、色々準備しないとね~。その穴って~、深いんでしょ~?」

 

 話を聞いた限りでは、ドラゴンとの戦闘という難易度自体は高くない。

 問題は、ドラゴンの巣穴への侵入方法と脱出方法だ。

 

『ま、まあ……一緒に居た奴が、助けてくれたのよ……ホント、無茶苦茶なやつでね――』

 

 場所の説明やドラゴンの特徴、巣穴の概要などを聞いた時、リズベットさんは、噂の金属――《クリスタライト・インゴット》を発見するに至った経緯を私達に話してくれた。

 

 リズベットさんが金属を見つけた時は、不覚にもその巣穴に落とされてしまったという。

 直径約10メートル、深さ約80メートルという巨大な穴に。

 そんなところに落ちたら、普通は助からない。

 だから、リズベットさんが今こうして生きているのは、彼女と共にその巣穴へ跳び込んだ剣士のおかげだという。

 

 リズベットさんの語った《一緒に居たプレイヤー》は、おそらくキリトさんだろう。

 話に出た外見や戦闘スタイルからして、まず間違いない。

 リズベットさんがキリトさんの名前を出さなかったのは、《特定プレイヤーの名前を他人に教える》というのがマナー違反である事を弁えているからだろう。

 

(しかし……剣を壁に突きたてて落下速度を緩めたり、巣に戻ってきた竜の尻尾を掴んで巣から脱出したり……如何にもキリトさんらしい型破りな方法だ)

 

 内心で、呆れつつも感心した。

 

 もし仮に、私がその時のキリトさんの立場であったのなら。

 穴に落ちてしまった彼女(・・)を助けるために、跳び込めただろうか。

 跳び込んだとして、体術しかない私が落下速度を――しかも人を1人抱えた状態で――緩めるという芸当が可能だったろうか。

 答えはおそらく――

 

「おーいセイドー? お前今日はボーっとし過ぎじゃねーか?」

 

 マーチに肩を叩かれ、声をかけられたことで我に返った。

 気が付くと、全員が私を見ていた。

 

「あ、すみません……ええと……何でしたっけ?」

「……ねえログ。ホントにこの人が噂の《指揮者(コンダクター)》なの? とてもそうは思えないんだけど」

「も~。しっかりしてよね~、セイちゃ~ん。巣穴へ降りるのに必要なアイテムとかの話だよ~」

 

 リズベットさんが疑うような目で私を見、ルイさんは困ったようにため息を吐きながらもう1度話を繰り返した。

 

【本当ですよリズさん。セイドさんは凄いんですから。今日はちょっと疲れてるだけです】

 

 リズベットさんへログさんが返答しつつ、私の事をフォローしてくれた。

 ありがたくも情けないと思わざるを得ない。

 

「セイドらしくなーい! っていうか、何考えてんの? 今も、さっきも」

 

 そしてこういう時に、妙な鋭さを発揮するのがアロマさんだ。

 

「……いえ、巣からの脱出などは、特に難しそうだな、と。それに、アイテムの準備もそうですが、クエストフラグとなる長老の話も長いのでしょう? 下手をすれば野宿も視野に入れるべきかと、そんなことをツラツラと」

 

 咄嗟に誤魔化したが、どこまで通じるかは内心冷や汗ものだ。

 

「やっぱ疲れてる? そのくらいなら話聞きながらでも考えられるのがセイドなのに」

「大丈夫ですよ。さて、それでは必要な物を手分けして用意しましょう。マーチとルイさんは――」

 

 私は、誤魔化しがアロマさんに看破される前に話を次の段階へと進め、全員に必要な物の用意を指示していく。

 

「――それでは、今言ったものを用意して、55層へと出発して下さい」

 

 私の指示に、この場に居た全員が肯定の返事をして準備へと移り――

 

「って、セイド? お前は準備しねーのか?」

 

 しかしそこで、私の掛け声――『出発して下さい』という一言に違和感を覚えたのか、足を止めて問い返してきたのはマーチだった。

 長い付き合いだからこそ、こういう時の勘はマーチが最も鋭い。

 

「私は今回、別行動とさせていただきます」

『えぇえええええ?!』

 

 私のこの発言に、マーチ・ルイさん・アロマさんだけでなく、リズベットさんまでもが声をハモらせ、ログさんも驚いたという表情を顔に張り付かせていた。

 思わず笑ってしまったが、流石に説明をしないわけにもいかないだろう。

 

「転移結晶の使えない巣穴へ降りるのに、全員で行って、想定外の事態が起こった場合、最低でも1人は外に居ないと、助けようがありませんよね?」

「そりゃぁ……そうだな」

 

 まずはマーチが納得した。

 ルイさんとログさんも、マーチと同様に納得したようではあるが、今一つ納得しかねるところがある表情をしていた。

 

「それと、今回はログさんとリズベットさんを守りながら進むことが大前提になります」

 

 私は全体を見回しながら今回の作戦の説明を始めた。

 

「中距離までの援護が可能なルイさんが2人の近くに居ることが重要になります。ルイさんは常に2人と共に行動して、お2人も、ルイさんから離れすぎないように注意して下さい」

「は~い」「りょ、了解」【はい】

 

 3人がほぼ同時に了承の意を返してきたのを確認し、私は次に話を進める。

 

「3人を挟むようにして、高速移動、高速攻撃に長けたマーチが殿から全体をフォロー。私達の中では最も防御行動に適しているアロマさんが先頭を務めて下さい」

 

 この言葉にマーチは頷いて肯定したが、アロマさんだけは、私が抜けることに納得しなかった。

 

「セイドだって周囲の警戒をすれば――」

「今言った構成が必須だと判断し、その上で、1人残らねばならないのですから、私が残るべきだと考えたんです」

 

 アロマさんの発言を遮り、私が同行しない理由をゆっくりと、丁寧に説いていく。

 

「私個人のスキル構成は、全体の警戒には向いていても、護衛には向いていません。それに――」

 

 更に私は、先ほどゼルクさんに渡されたリストを取り出してみせた。

 

「――私は私で、こちらのクエストを少しこなしてこようと思っています」

「アルゴのリストか」

 

 某有名映画のタイトル宜しく、マーチがそんなことを呟いた。

 

「じゃあ私もセイドと一緒に行く! また危ない事をするんでしょ!」

 

 私以外のメンバーが揃っていなければ非戦闘職の2人を安全に護衛できないと説明はしたが、やはりそれだけではアロマさんは納得しないようだ。

 苦笑を浮かべずには居られなかったが、ここでアロマさんを雪山パーティーから外させるわけにはいかない。

 

「誓って、危険は無いですよ。全て低層――アロマさんたちが行く雪山よりも遥かに下層のクエストですから」

「ムゥ……」

 

 私自身の実力も良く知っているからこそ、アロマさんもこう言われては反論の材料がなくなる。

 

「ですから、アロマさんは皆さんを守って差し上げて下さい。私達の中では、アロマさんが最も守るという行為に向いているんですから」

 

 優しく、噛んで含むように説き伏せてみると。

 

「…………本当に、危ないことはしない?」

「はい」

「本当の本当に?」

「本当の本当です」

「絶対の絶対の絶対に?」

「絶対の絶対の絶対にです」

 

 数度、確認を繰り返したアロマさんは。

 

「……分かった……じゃ、今日の所は許してあげる」

 

 少しの間をおいて、ようやく私の別行動を承諾した。

 

「私の事よりも、アロマさんたちの方が危険な場所に行くんですから、しっかり気を付けて下さいね」

「フフン! 私を誰だと思ってるのかな! 遂に二つ名まで付けられたアロマさんですよ?」

 

 私の言葉に、アロマさんはフンッと胸を張って不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

「では、大丈夫ですね」

 

 私は笑顔と共に軽くアロマさんの頭を撫で、次いでマーチとルイさんに視線を移した。

 

「マーチ、ルイさん。頼みましたよ」

「おう」

「ん。まかせといて~」

 

 幼馴染みで親友の2人は、いつもと変わらぬ笑みを浮かべて頼もしく引き受けてくれた。

 

 が――

 

「……はぁ~……やっぱ攻略組の人って違うわ……セイドって人も、二つ名があるだけあるわ……さっきまでは頼りなさ気だったのに」

【最前線の攻略で疲れ気味だったようなので。こんなのはまだ序の口ですよ】

 

 ――少し離れた所で囁いていたリズベットさんとログさんのやり取りが聞こえ、自身の不甲斐無いところを見せてしまったことは深く反省することとなった。

 

 

 




もう言い訳のしようもないほど間が開いてる orz
面目次第もございません!m(__)m

そして、前々回の感想でご指摘いただいたマーチとセイドに関しての追記なのですが……。
話の構成上、ちょっと今回は見送らせていただきました m(__)m
流れの上で、可能な限り違和感がないように差し込むつもりですので、ご了承ください(>_<)

……というか……(;一_一)
まだ読んでくれる人がいるのか、甚だ疑問ではありますが(-_-;)
停滞しすぎて、見捨てられても仕方がないと思うのです(>_<)

今後も更新は遅いかと思いますが……エタる予定はないので(-_-;)
完走まで、精一杯書き続けようと思います m(__)m

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