なんと……ついに……お気に入り登録件数が1,000件を突破いたしました!!(>▽<)
本当に、本当に感動しました!
リアルでガッツポーズをとったのは久しぶりですw
亀更新ではありますが、今後ともDoRのメンバーともども、お付き合いいただければ幸いです!m(_ _)m
タウラスが崩れ落ちたことで、この騒動は決着したと見ていいだろう。
俺はそれを見届けて、ようやく安堵のため息を吐いた。
「ハァ~…………みんな……よく来てくれた……スマン」
「ハッ! 俺らが助け合うのは今に始まったことじゃねえだろ」
「そ~だよ~セイちゃん。気にしな~い気にしな~い」
俺の言葉に、マーチとルイがいつも通りの笑顔で答え、それを見て俺は――
「ととと?! ちょ、大丈夫セイド?!」
――気が抜けたのだろう。
膝から崩れる様に力が抜けてしまい、目の前に居たアロマにもたれかかってしまった。
「ッ……ぁぁ……すみません……アロマさん……」
「ぉ、いつものセイドに戻ったね……良いよ、セイド1人くらいなら全然平気。何ならおんぶしてあげようか?」
屈託のない笑顔を見せたアロマさんに、私は力なく笑みを浮かべるのが精一杯だった。
(本当に……ギリギリでした……)
今までに経験したことが無いほどに死へと近づき、それでも私は生き残れた。
運が良かったとしか言いようがないだろう。
あの瞬間――タウラス達がナイフを振りかぶったあの時、アロマさんとキリトさんが来るのが、ほんの数瞬でも遅れていたら、私の命は無かったはずなのだから。
「アスナ?」
「もう大丈夫よ、キリト君、ありがとう」
ふと、キリトさんとアスナさんの声に視線を向けると、装備を戻したアスナさんがキリトさんの支えから復活したところだった。
アスナさんはキリトさんから離れ、つかつかとタウラスの前まで歩いて行った。
その手には、油断なく細剣が握られている。
「タウラス、貴方には聞かなければならないことがあるわ」
アロマさんに支えられたまま動けずにいる私とは違い、先ほどまでのショックなど欠片も見られないアスナさんの立ち振る舞いは、年下の女の子とは到底思えないものだった。
とはいえ、その表情はとても苦悶に満ちていた。
「何故貴方ほどの人が、こんなことをしたの!」
アスナさんの言葉に、しかし項垂れたままのタウラスは――
「何故……どうして救援が……14階だ……間に合うはずが……」
――ぶつぶつと呟くばかりで、アスナさんの質問が耳に届いている様子は見受けられなかった。
私はアロマさんの肩に手を置いて、よろよろと立ち、アロマさんに支えられながらタウラスの近くへと歩み寄った。
「タウラス! 答えなさい!」
アスナさんがタウラスの胸倉を掴み、前後に揺さ振ると、かすかにタウラスの瞳に光が戻ったような気がした。
「……タウラスさん……と言いましたか」
間を逃さずアスナさんの台詞を遮り、私は静かにタウラスの名前を呼んだ。
それを聞いて、アスナさんもタウラスも、そして部屋に居る全員が私に視線を向けていた。
「何故救援が来たのか、と言っていましたね。その答えは単純ですよ。運とタイミングが、私に味方してくれただけです」
「運……だと……?」
「ええ。私がこの部屋に踏み込む前、貴方達がアスナさんを麻痺させた直後に、私はギルドの仲間にメッセージを送ったんです」
「……伝言結晶か……だがここは……」
「最前線の迷宮区で、しかも14階。普通に上って来たのでは何時間もかかりますね」
実際に、私とアスナさんは14階に至るまでに7時間以上を費やしている。
と、ここでマーチが話に割って入ってきた。
「そうそう、俺達もそれが気になってたんだ」
「そういえば……キリト君たちが来れるはずが……」
マーチとタウラスの言葉で、アスナさんも自分が助かったことに関しての疑問を感じたようだ。
「セイド、何で
「だよね~? 何でっていうのもそうだけど、いつの間に~?」
アロマさんとルイさんも、流れに逆らわず疑問を口にした。
「それは、単に……」
私は、そんな中でアロマさんに視線を向けた。
「ん?」
私を支えつつ、私に見られたことで、アロマさんは首を傾げていた。
「アロマさんを探すため、ですよ」
「ほえ?」
しかし私の言葉には、アロマさんだけではなく皆が疑問符を顔に浮かべていた。
「私はアロマさんが迷宮区に潜っていると思い、探していました。そうして13階まで到達したところで集中力が切れ、街に戻ることにしたんです」
「あぁ! なるほどな! それで13階だったのか!」
「マーチん、分かったの~?」
ここまで言ったところで、マーチが私の意図を察したようだ。
「つまり、セイドはアロマ捜索のために13階に戻ってくるつもりで、脱出前に回廊の出口をあそこに設定したんだよ」
「あ~、そっかそっか~、なるほどね~」
こちらが最後まで説明しなくても真意を把握できるのは、付き合いの長さもあるのだろうが、流石マーチというべきだろうか。
マーチがルイさんの質問に答えたところで、今度はアスナさんが一言呟いた。
「でもセイドさん……回廊結晶なんて、いつも持ち歩いてるんですか?」
「まさか。あんな高価なアイテム、普段は持っていませんよ。幸運なことに、13階に至るまでに回廊結晶が1つだけ手に入ったからこその手段です」
「ん~……でもさ、セイド?」
そこへ更にアロマさんが顔を
「それなら何で自分が使わなかったの? ここに来るためにだって、回廊使った方が速かったじゃん」
「それは、今私がここに居るのが、アロマさんの捜索と同時に、アスナさんとの合流を考えていたからです」
「……わたしとの合流、ですか?」
今度はアスナさんが眉を
「アスナさんが午前3時頃にソロで迷宮区ですよ? 何かあったと思うじゃないですか」
私の返答に、アスナさんは無言のまま呆けたような表情になった。
それまで、仲が良いとは言い難かった私とアスナさんの関係からは、彼女には私の行動と心理は想像もつかなかったのだろう。
「しかし、フレンドリストで分かるのは何層の何処に居るのか、まで。迷宮区の何階に居るのかは分かりません。回廊を使ってしまっては合流できない可能性が高い」
そんなアスナさんに笑顔で答えていると。
「それで、使わない回廊結晶をポストに放り込んでから、徒歩で迷宮区に入ったのか」
キリトさんも一連の流れを把握したようだった。
「高価なアイテムは、あまり持ち歩いて居たくないですからね」
「ハハハハハッ! こりゃ確かに、偶然に偶然が重なったとしか言えねぇな!」
回廊結晶をポストに入れた理由を聞いたマーチは、1人腹を抱えて笑っていた。
「と、まあ、そんなわけで――」
私は一通りの説明を終え、タウラスに向き直った。
「――彼らの救援が間に合ったのは、本当に偶然ですよ」
「……偶……然……」
タウラスは疑問が解消し、しかしその答えを聞いて更に放心した様子だった。
「私とアスナさんだけであったなら、少なくとも《生命の碑》の私の名前には二重線が引かれていたでしょうね」
素直な感想と、あり得たであろう結末を述べた。
今回ばかりは、本当に《死》を覚悟したのだから。
「……貴方達の連携は見事だった。タウラスさんの指揮も素晴らしかった。それだけに、実に残念です……貴方達が利用されていることが……」
「利用? それはどういう意味ですか、セイドさん?」
アスナさんが私の言ったことが分からず、問い返してきた。
「彼らはおそらく、脅迫されているんだと思います。相手は――」
「――《
私の言わんとしたことを察したマーチが言葉を引き継いだ。
「おい、えっと……タウラスだったか? お前ら、誰か人質にでも捕られてるな?」
「……ああ……その通りだ……全く……噂以上だ……見事だよ《
タウラスは私とマーチの言に肯定の意を返した。
「……副団長殿……それに《指揮者》のギルドの者たち……《黒の剣士》……言い訳にしかならぬが、聞いていただきたい……そして……」
タウラスはノロノロと視線を上げて、私達全員を見回した。
そうして彼が口にした言葉は――
「……助けてほしい! 彼女を……《アクア》をっ……!!」
――悲痛な叫びとなって、部屋に木霊した。
「……我らは元々《
「Sigh of Zodiac?」
私とアスナさんがタウラスさんの話を聞くことにしたので、マーチ・ルイさん・キリトさんの3人はタウラスさん以外のオレンジカラー5人をロープで縛り上げた。
彼の話が、仲間が気絶から回復するまでの時間稼ぎである可能性を憂慮してのことだ。
しかし、マーチは縛り上げながらもタウラスの言葉に反応した。
そんなマーチに私が視線を向けると、マーチは黙して縛る作業に戻った。
「メンバーは次第に増えていき、40層を超えた頃には10人が所属するギルドになっていた」
更に念のため、マーチとキリトさんがその5人を見張るように立っている。
悲しい話だが、相手を疑うことを常に念頭に置かねば、いつ寝首をかかれても文句は言えないのが、今のこの世界の情勢だ。
「だが……あの日……! 我等は新年を迎えるにあたって、大晦日に野外で、仲の良かった少人数ギルドとともに、簡素ながらも宴を開いていた……そんなところへ……奴らが現れた……!」
「……新年に結成宣言をした《
「……そう……我らだった……」
《笑う棺桶》の結成宣言――殺人者ギルドの大々的な告知と称して、
その場に居た全員を殺したと思われていたが、よもや生き残っていたプレイヤーがいたとは。
「我らと共に宴を楽しんでいたギルドのメンバーは……アッサリと……あまりにもアッサリと全員が殺された……我らも、サジットとアリエス、そして《カプリ》という3人を殺された」
ここが現実世界であったのなら、手から血が滴るであろう程にタウラスは拳を握りしめていた。
「……我らSoZは準攻略組と呼ばれる程度の実力はあると……自負していたのだが……全く歯が立たなかったっ……! 誰1人……助けられなかった!!」
タウラスの悲痛な告白は続く。
「リーダーが殺されるのを……ただ見ているしかできず! 友と呼ぶに相応しかったギルドを! 誰1人! 助けられず! 我らも……死を……覚悟した……」
タウラスは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしていた。
「だがPoHは……我らを利用することを考えた……我らの仲間……アクアを人質にし……残った我ら6人はバラバラにされ……犯罪行為に手を貸すよう強要された……」
「……こう言ってはなんですが……タウラス以外の5人は犯罪行為に対する心理的リミッターをかなり緩められていたようでした……わたしに対しての態度や表情が……その……」
「申し訳ない、副団長殿……私自身、奴らに感化されなかったと言えば嘘になる」
アスナさんの言葉を肯定するように、タウラスさんは悔しそうに言葉を紡ぎ続けた。
「気付かぬうちに、犯罪に対する忌避感は薄れ、殺し以外のことに対しては……あまり抵抗なく行えてしまっていた……恥ずかしい限りだ……」
「PoHの真に恐ろしい所は、オレンジの素養の有無を見抜く洞察力かもな」
マーチの言葉を聞いたキリトさんは苦い表情をしていた。
「誘いを断れない状況を作って強引に引き込めば、後は……なし崩し、ってことか……」
「悔しいことに……その通りだ……」
キリトさんの言葉に、タウラスさんは弱々しくも首肯した。
「……そうして貴方達を犯罪者側に染め上げ、KoBへと潜り込ませた。それが半月ほど前……PoHの狙いはアスナさんを陥れ、KoBを内部から瓦解させること、でしょうか」
「……真意は、我らも聞かされてはいない……ただ、KoBに加盟し、副団長殿を襲え、とだけ……」
タウラスさんの話を一通り聞き終え、私は事の真相が大まかに見えてきた。
「……事態は、理解しました。アロマさん、もう大丈夫です」
私はここで、アロマさんに声を掛けて1人で立った。
そうしてマーチへ視線を向け、その後タウラスさんへと向きなおした。
「ですが、タウラスさん。どんな事情があったにせよ、貴方達のしたことは、看過するわけにはいきません」
「セ、セイドさん!?」
私の台詞と行動に、アスナさんが声を上げた。
私がアイテムストレージから艶消しされた白い結晶――《牢獄結晶》を取り出したからだ。
しかし私は、アスナさんを気にせず言葉を続ける。
「私が牢獄結晶を所持していたのも、1つの運でしょうね。これで貴方達SoZメンバーには牢獄へ跳んでもらいます」
「待て、セイド!」
ハッキリと言いきった私に対して、今度はキリトさんが、言葉だけではなく動き出そうとして――
「キリト、今は動かず黙ってろ」
――即座にマーチがキリトさんの前に立ちはだかった。
マーチの手は、いつでも抜打ちできるよう刀の柄に置かれていた。
流石のキリトさんも、マーチのこの行動は予想外だったらしく動けなくなっていた。
「キリト君!?」
マーチの凶行を目の当たりにしたアスナさんが、反射的に細剣に手をかけ――
「アスナ、あんたも黙ってて」
――しかし、アロマさんがアスナさんの喉元に剣を突き付けたことで、アスナさんも咄嗟には動けなくなっていた。
更に言うならば、ルイさんもまた、鞭を静かに床に垂らしていた。
ルイさんの立ち位置からは、キリトさんもアスナさんも鞭の攻撃範囲に入っている。
無言ではあったが、ルイさんの存在もまた、2人の動きを抑えた大きな要因だろう。
「あ……貴方達! これは何のつもりですか!」
「何のとは、間抜けたことを言うな《閃光》? オレンジだから牢獄へ送る。それだけだろ」
「セイドが牢獄へ送るって判断したのなら、間違ってないよ。だからセイドの邪魔をしないで」
「セイドさんだって判断を間違えることはあるでしょう?!」
「
アスナさんの言葉にマーチとアロマさんが答えている間に、私は拘束されていた5人のロープと身体の間に牢獄結晶を差し込んで起動させていく。
起動から発動までの30秒。
その間は、既に確保されていると思っていいだろう。
キリトさんもアスナさんも、マーチとアロマさんの行動に躊躇いを見せ、更に言われていることに対する咄嗟の反論が出なかったことで、致命的なまでに動きがぎこちなくなっていた。
剣を抜くべきか否かで迷い、抜いたとしてもマーチとアロマさんを斬っていいのかで迷っている。
「副団長殿。我らのことは気になさらずに。これは《指揮者》の言う通りです。我らは如何なる理由があろうとも、犯罪に手を染めた。我らが牢獄へ行くは必定」
そう言ったタウラスさんは、自ら両手を私に差し出した。
私はその手に牢獄結晶を置き、起動させた。
「これだけは頼みたい。《笑う棺桶》に囚われている《アクア》と言う女性を、どうか、助け出して欲しい。彼女はまだ、生きているはずだ。我らのリストに名がある」
タウラスさんは牢獄結晶を握り締めながら、悔しそうに、悲しそうに、私達にそう訴えてきた。
その背後で、彼らSoZのメンバーは、順に牢獄へと転送されていく。
「どうか彼女を、無事に現実世界へ帰してやって欲しい!」
そう懇願し、タウラスは頭を下げながら――
「頼む!」
――一言を残し、牢獄へと姿を消した。
私はそれを見届け、心中でタウラスさんの言葉に答える。
(……貴方の願い……それを叶えられるかどうかは、約束はできませんが……出来得る限りを尽くします)
「セイド! 彼らを牢獄に送ったりすれば、そのアクアという女性の命が危険に晒されると思わなかったのか?!」
私の背後では、堪えきれないと言わんばかりにキリトさんが怒鳴るように声を上げた。
そのキリトさんに触発されてか、アスナさんも声を張り上げた。
「そうです、セイドさん! 《笑う棺桶》が、価値の無くなった人質を生かしておくはずが――」
「――そうならないと判断したからこそ、彼らを牢獄に送ったんです」
私は2人に振り向きながら、ため息とともにそう答えた。
「そして、お2人には、ちゃんと事情を説明しないとなりませんね」
私がそう口にするのとほぼ同時に。
「悪かったなキリト。俺としてもお前と斬り合うのは御免だったから、動かずにいてくれて助かったよ」
「アスナもごめんね。ああでもしないと動きそうだったから」
マーチとアロマさんも戦闘態勢を解除し、2人に対する姿勢を改めた。
「とりあえず、移動しましょうか」
「あ~……づっがれだぁ~……」
私達はセイドの提案通り、DoRのギルドホームへと――ちょっと贅沢だったけれど、セイドとアスナの体調を考慮して転移結晶を使用して――移動した。
「んも~、マーチん? お客さんがいるんだから~、ちゃんと座って~?」
キリトとアスナも一緒にホームのリビングに入り、マーチが真っ先にリビングの隅に置かれているソファーへと腰を下ろし――というかソファーの肘掛けに脚を乗せて寝転がった。
それを見たルイルイはマーチを注意したけど、その顔は笑ってて説得力は無かった。
「アスナさんとキリトさんはそちらに。どうぞお座り下さい」
セイドは自ら率先してテーブルに備え付けてある椅子に座り、手振りでアスナとキリトにも対面の椅子へ座るよう促した。
「失礼します」
アスナが丁寧に言いながら椅子に腰を下ろして、セイドはその隣の席にキリトを座らせた。
「アロマさんも座って下さい」
続けてセイドが、笑顔で自分の隣の席に座るよう、私に促してきた。
「う、うん……」
何となく気恥ずかしかったけど、とりあえず座る。
すると、いつの間に用意を始めていたのか、ルイルイがあっという間に紅茶と珈琲のポットをテーブルに置き、カップのセットを私達の前に並べていく。
「こっちが珈琲で~、こっちが紅茶だよ~。好きな方を飲んでね~」
「あ、ありがとうございます……」
「どうも……」
そんな会話を交わしながら、私達は自分のカップにそれぞれ飲みたいものを注いだ。
ルイルイは、と思えば、マーチと向かい合う形に置かれたソファーに腰を下ろして紅茶を1口啜るところだった。
「さて。では、状況説明と行きましょうか。飲みながら聞いて下さい」
自らのカップに注いだ珈琲に手を付けることも無く、セイドは唐突に切り出した。
「まず、タウラスさんの仰っていた話が真実だとしたうえで、話を進めます」
セイドはそう前置きをしてから話を始めた。
「彼らのメンバーの1人である《アクア》という女性について、私とマーチには心当たりがあります」
『は?』
私・キリト・アスナの3人の、間の抜けた声が見事にハモった。
「《笑う棺桶》の結成宣言以降、奴らのメンバーの中に女性プレイヤーがいるという情報は聞いたことがありますか?」
「ああ、それなら俺もアスナも知っている。だが、名前も顔も分かっていないはずだ」
セイドの問いかけにキリトが即座に答えた。
「いいかキリト。重要なのは、結成宣言以降ってとこだ」
キリトの答えをソファーに寝転がりながら聞いていたマーチが、行儀の悪いことに寝転んだまま口を挟んできた。
「SoZが襲われたことと、その後のラフコフに女がいるという情報。発覚時期が重なるだろ?」
「……つまりお2人は、アクアという女性が元々ラフコフのメンバーで、タウラス達のギルド《SoZ》を罠に
マーチとセイドの話を聞いて、アスナが2人の言わんとしていることを先読みした。
「ええ、その通りです」
アスナの導き出した答えをセイドがサラッと肯定した。
「いや、その通りって……何を根拠に……?」
「何か証拠でもあるのか?」
私とキリトは思わずセイドを問い質していた。
「実は以前、マーチから《
「《SoZ》創設メンバーの《サジット》と《アリエス》。この2人は、俺のフレだ」
セイドの言葉をマーチが引き継いだ。
「ギルド創設の手順や、結婚についてとか、結構色々聞かれて、俺とセイドで世話してやった――っていうとなんか上から目線で嫌だがな。そんな関連で付き合いがあったんだ」
マーチは、いつの間にか私達がついているテーブルの近くに歩み寄って来ていた。
「とはいえ、俺もギルド名と2人のこと以外は知らなかった。そのこともあって、本当は年越しパーティーの時に、互いのギルドメンバーを紹介し合わないかって誘われてた」
「なっ!? 何それ!? そんなの聞いてないよ?!」
マーチの唐突な言葉に、私は無意識のうちに声を荒げていた。
「ああ、俺らには俺らの予定があったし、都合が合わなくて断ったからな。今考えりゃ、下手してたら俺らも《笑う棺桶》結成の得物にされてた、かもな」
などと、マーチは恐ろしい事を、何故か不敵な笑みを浮かべながら口にした。
「んで、年越しパーティーに誘われた時、話の流れでアリエスが言ってたんだ。『最近メンバーに加わったアクアちゃんが可愛くて、みんなデレデレしちゃってるんだ』ってな。それとサジット曰く『野外パーティーの発案もアクア』だと言っていた」
マーチのその台詞を受けて、セイドは小さくため息を吐いた。
「その時は、ただの会話だと思い意識していませんでした。ですが、タウラスさんの話を聞いたことで、それらが意味を持って繋がったんです」
「アクアのギルド加入が年末のちょっと前。メンバーへ素早く馴染んだ事実。年越しパーティーの発案。ラフコフの襲撃。人質として取られたのがその《アクア》って女。そして結成宣言後の目撃証言。どうだ?」
マーチが話の根幹になるポイントを連ねていくと、私にもなんとなく状況が分かってきた。
「これだけの状況証拠があれば、推測を確信に変えるには充分でしょう」
「……確かに……だが、状況証拠でしかない……それだけで断定するのは……」
「アクアさんが本当に殺されていないか、まだ確認ができていません」
セイドの見解に、キリトとアスナは今一つ納得しきれないようだった。
「それに関しちゃぁ――ぉ、来た来た」
何かを口に出しかけたマーチが、不意にメニューを操作し始めた。
メッセか何かを受け取ったのかもしれない。
「……タウラスらが牢獄に行った今現在も《アクア》という名のプレイヤーは存命中、だってよ。ここに来るまでにアルゴにメッセ飛ばして《生命の碑》にあるアクアって名前を確認してきてもらった。これでもまだ足りねえか?」
「では……やはり……」
「まず間違いなく、アクアという女性は《笑う棺桶》メンバーでしょう」
流石の2人も、マーチとセイドがこの短時間で証拠足り得る情報を示したことで納得したようで、これ以上の反論は出なかった。
「なるほど……だけどセイドたちは、何時そのことについて打ち合わせたんだ?」
話を一通り聞き終えたところでキリトが口にした問いかけに、私は首を傾げた。
「打ち合わせって?」
キリトの質問の意味が分からず、鸚鵡返しに聞き返すと――
「マーチさんは、セイドさんと示し合わせたようにキリト君の動きを抑えました。アロマさんも、わたしに剣を突き付けたじゃないですか。ルイさんだって、わたしとキリト君の2人を牽制してましたよね?」
「セイドの独断とは思えない連携だったよ。サインか何かで意思疎通をしたんじゃないのか?」
――アスナとキリトが重ねて問いかけてくる形になった。
「意思疎通やら打ち合わせなんぞ、必要ねえよ。俺もセイドもSoZの連中が罠に嵌められたって、タウラスの話で分かった。それが分かりゃ、こいつのやる事なんざ分かり切ってる」
マーチはセイドを視線だけで指しながらそんなことをのたまった。
言われたセイドは、苦笑を浮かべるにとどまった。
「私はマーチんをフォローしただけのつもりだったんだけど~。ロマたんとアスナんも範囲に入っただけだよ~」
「は……入っただけ……」
ルイルイは相変わらずの柔らかな笑顔を浮かべてソファーに座ったまま、優雅に紅茶を口元に運びながら、まったりと答えていた。
ルイルイの返答にキリトは顔を引きつらせ、アスナに至っては声を出すこともできていなかった。
「私も別に、セイドたちの考えが分かった訳じゃないよ? セイドのすることに間違いはないって思ってただけ。セイドの事、信じてるから」
特に深く考えず感じたことをそのまま口にした私に、アスナは何やら思うところがあったようだ。
「……アロマさん、とてもセイドさんのことを信用してるのね」
「信用じゃない。信頼だよ」
私がそう返した途端、アスナはポカーンとした表情になり、セイドは私から視線を逸らして頬を掻いていた。
「うん、良い台詞だ。けどお前、まだ家出したままでギルド再加入してねえからな?」
「あ」
「やーい! 家出娘ー!」
「せっかくカッコよく決まったのに! マーチのバカ! 埋まれ!」
その後は、いつもの如く。
私とマーチがバカ騒ぎに突入して。
話の詰めをするために、セイドが騒がしいからと、キリトとアスナを外に連れ出し。
私とマーチは、ルイルイが笑顔のままで、しかし本気で恐怖を感じた一喝で、2人揃って正座をしてルイルイに謝り倒した。
DoRのギルドホームは、やっぱり、とても居心地の良い所だった。