ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

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あまり自分が詳しくない原作キャラを、オリジナルキャラと同時に登場させるというのは、難しいですね……。



第六幕・βテスターの輪

 

 

「――で? なんでこうなったんですか?」

「いや、俺にもよく分からんのだが、なんでだろうな」

「分からんで済むか! しっかりと説明しなさい!」

 

 マーチからのメッセージを受けて、取り急ぎ宿屋に戻ってみると、何故か人だかりができていた。

 その理由は――

 

「人目もはばからず! 宿屋の食堂で堂々と夫婦漫才繰り広げたからこうなったんじゃないんですか?!」

「夫婦漫才言うな! 漫才じゃねえだろ、どう考えても! 立派な喧嘩だ!」

「貴方とルイさんの口喧嘩は、はたから見てる分には漫才と変わりませんよ!」

 

 人だかりの中心にいたのは、マーチとルイさん、それと見知らぬ顔の男が1人いた。

 人だかりをかき分けて、マーチたちの所まで辿り着くと、ルイさんは早々に部屋に戻ってしまい、話を聞く間すらなかった。

 

「まーまーまー、お互い落ち着こうや、な?」

「うっせえノイズ! 大体てめえが! 俺がちょっと目を離してた隙に、ルイをナンパしやがったのが原因だろうがっ!」

 

 ノイズと呼ばれた男性は、おそらく私たちと同じ歳の頃――18から20歳といったところだろうか。

 

 体格は私より頭1つ分背が高く、筋肉質で角ばった肩幅に、引き締まった肉体という、いかにも体育会系というような雰囲気が漂っていた。

 

「しょうがねえだろ? お前が《マーチ》だとは思わなかったんだよ。許せよ、な?」

 

 ノイズさんは、マーチにそっと囁くようにそう言った。

 周りのβ経験者達にマーチの名前を聞かれないようにしたといった感じを受けたのだが、何故だろうか。

 

「な? じゃねえ! ルイがへそ曲げて部屋に帰っちまったじゃねえか! どーしてくれんだよ!」

 

 マーチもノイズさんにつられて声量を落として、抗議の声を上げているが、今、そんなことを言っている場合ではないだろうと思う。

 

「はぁ~……とりあえず、もう彼のことは放っておいて、貴方はルイさんを追って下さい。喧嘩ではなく、ちゃんと話し合えますね?」

「……おう……行ってくる」

 

 なおもノイズさんを睨み続けるマーチの背を押し、部屋へと戻らせる。

 

 夫婦漫才が終了した様子を感じたのか、とりあえず人だかりも解消されていた。

 

「カカカカ! しっかし、あのマーチに女がいたとは、いや~まいったまいった!」

 

 周囲のプレイヤーの関心が散ったのを感じたようで、ノイズさんは普通の会話程度の声量で話し始めた――のだろうが、それにしても声が大きいと感じた。

 

 それに、豪快に笑うノイズさんには、反省の色が見えなかった。

 

「まったく……ええと、ノイズさん、で宜しいのですね?」

「おう、ノイズだ。ヨロシクな、にーちゃん」

「セイドといいます、以後お見知りおきを。ノイズさんは、マーチのβ時のご友人ですか?」

「そうなる。つっても、βん時のマーチは、フレンドが多かったからな。その中の1人ってだけだが、な」

 

 マーチの顔の広さは相変わらずのようで、これまでやってきたどのMMOでも、フレンドの数はリストいっぱいになるほどだった。

 まあ、数は多くても、その後の付き合いの有無は差があるのだろうけれど。

 

「それで、何があったんですか?」

「いや、何がって言われてもよ。いい女がいたから声かけたら、マーチの彼女だったってだけだぜ?」

「それだけでルイさんが部屋に取って返すようなことにはならないでしょう?」

「あー……この周辺のモンスターは気を付けねーと即死するから守ってやるよ、って言ったら、女が急にマーチに怒りだした」

 

 ノイズさんの台詞を聞いて、私は唖然としてしまった。

 表面上、とりあえず落ち着いただけのルイさんに、余計な不安を与えて欲しくないものだ。

 

「……そういうことを言ったんですか……普通は、この村に来ている時点でβ経験者だと思うのでは?」

「おお、そういやそうだな。ってことはあの女もβテスターか」

 

 思慮の浅い人らしい。

 

 ちょっと考えれば分かりそうなものだが、彼がルイさんに言った一言は、β経験者に言う必要のない事だ。

 そこまで考えが及ぶ前に、ルイさんを見てナンパしたのだろう。

 

「いえ、私もルイさんも違います。私たちがここに居るのは、マーチの案内があってこそです」

「へえ。流石《友情(フレンドリー)》だな」

「《友情》? 何ですかそれは」

「ああ、βテストん時のマーチのあだ名だよ。βテスターのほぼ全員と面識があるのはマーチだけじゃねえかな。しかも、全員がマーチのことを悪く言ってねえ。ほんとに良い奴だよ。いやぁ、さっきのだけは、マジでマズったわ」

 

 反省の色が見えないと思っていたが、一応本気で悪いと思っているらしい。

 困り顔で、気まずそうに頭を掻く姿は、嘘には見えなかった。

 

「オヤオヤ。何か騒がしいと思ってきてみれバ。騒ぎの中心にいル、そこのでっかいノ。お前《騒音(ノイジー)》ノイズじゃねーカ?」

 

 そう言いながらやってきたのは、先ほどまで武器屋の前で何やら話し込んでいた3人だ。

 

「《騒音》言うな。その名で俺を呼ぶお前は《鼠女》で決まりだ」

「《アルゴ》って名前で呼んでほしいネ」

 

 背が低く、武器屋で売っていたフードコートを着込んでいるのが、やはりアルゴという女性らしい。

 先程の会話を聞いた限りでは、《情報屋》を生業にするプレイヤーということだっただろうか。

 

「アルゴと一緒にいるのは……前と同じのメンツだってんなら、そっちの二枚目は《ディアベル》か?」

 

 ノイズさんのその言葉に、アルゴさんの左にいた青髪の青年は目を丸くした。

 

「よく分かったな。久しぶり、ノイズ!」

「おう! 相変わらず《騎士(ナイト)》な気分か?」

「当然!」

 

 ノイズさんとガッチリ拳を合わせて挨拶をしているのは、盾を背に、片手直剣を左腰に下げた、好青年だった。

 《騎士》のディアベルと覚えておけばいいだろうか。

 

 すると、今度はアルゴさんの右隣にいた長い黒髪を後ろで1つにまとめている細身の男性が進み出てきた。

 

「ま、俺のことは分からんだろ。初めましてだ、《騒音》。俺は《ジョッシュ》という」

「お初。あんま《騒音》とは言ってくれるな。ノイズって名前だけどよ。あんたもβテスターなんだよな?」

「ああ、一応な」

「一応ってなんだよ一応って」

「俺は殆どフレがいなかったし、君らみたいに冒険や戦闘を主体にしてたわけじゃないんだ。俺は鍛冶職人としてβをプレイしてたんでね」

「職人クラスか! そりゃ知らんわ!」

「だから、一応とな。君らに比べれば、俺の知識なんぞ、今のSAOじゃ、そんなに役には立たん」

「んなことねーッテ、ジョッシュ。それぞれ専門分野ってのがあるンダ。だからジョッシュの力も必要なんだヨ」

 

 何やら、先ほどからの話に決着がついていない様子で、アルゴさんは大きくため息を吐いた。

 

「ってことでナ、ノイジ……じゃなくテ、ノイズ。実はお前を探してたんダヨ」

「ああ? まるで話が見えんのだが?」

 

 アルゴさんたち3人は、私のことには見向きもせずに、ノイズさんと話を始める気配だ。

 

(おやおや……これはこれで、情報を手に入れられるチャンスと考えるべきですかね)

 

「こんなことに巻き込まれちまったダロ? だかラ、俺っちたち元βテスターがビギナーに情報を流してやっテ、事故を減らしてやる必要があると思うんダヨ」

「アルゴの提案で、俺たちがβテストで得た知識を《ガイドブック》みたいな形で配布できれば良いんじゃないかって考えているんだ」

「情報屋として生きてきたアルゴが、その手の伝手は一番知ってる。戦闘に関してはディアベル、職人系に関しては俺が、それぞれ情報を出し合って作ろうという話になってる」

 

 その発案を聞いて、私はとても驚いた。

 

 β経験者たちのほとんどはこの村に先行している。

 つまり、スタートダッシュの重要性を熟知し、いち早く現状に馴染んだ(と思われる)、ある意味で、もっともこのデスゲームを現実として受け止めている人たちだろう。

 他者を切り捨て、自己強化のみを追求し、利己的に生きる人が多いだろうと、私は思っていたのだが、こういった発想を持つ人もいたことは、実に嬉しい誤算だ。

 

「そりゃそれで良い案だな。だが、そこになんで俺が出てくる? 俺だって戦闘しかしてねーぞ?」

「ノイズはディアベルと違っテ《壁戦士(タンク)》ダロ? だから壁戦士としての情報を出して欲しイ。お前の情報で、死ななくなるプレイヤーが、グッと増えるはずダヨ」

 

 アルゴさんは、ノイズさんを《壁戦士》といった。

 しかし、今の彼はとてもそうは見えない装備だ。

 

 序盤に装備だけでプレイヤータイプを見極めるのは無理だろう。

 ということは、ノイズさんはβテスト中に壁戦士として活躍していたということになるだろう。

 それも、おそらくはトップクラスの壁戦士として。

 

「ま、確かに壁戦士仕様のビルドにするつもりだがな。で? それに協力した俺に、何の見返りがある?」

 

 しかし、ノイズさんの返事は、ある意味、予想を裏切らない残念なものだった。

 

「言うと思ったよ。ノイズは絶対こだわると思ってた」

「ったりめーだ、ディアベル。俺はお前みたいに善人じゃねーよ。俺は仏じゃねえ。損か得か、それが基本だ」

「なら、安心しろ。ノイズ、お前には得がある。協力してくれれば、今後アルゴからの情報は半額だ。俺たちもその条件でこの話の乗っている。それに、俺も職人クラスを辞めるつもりはないんでな。俺の方でも、安くオーダーメイドも引き受けてやろう」

「……なるほどな、つまり即物的な得じゃねーけど、将来的に大きな得になるってことか……悪い話じゃねーな」

「じゃ、決まりだナ。ちと手間だが、しばらく頼むヨ《騒音》」

「……うるさくて悪かったな《鼠》」

 

 アルゴさんとノイズさんは、互いに悪態をつきながらも、握手を交わした。

 腐れ縁というのは、ある意味、友情より複雑でありながら、分かり易いものなのかもしれない。

 

「デ? そっちの男は誰なんダ? オレっちの知ってる奴カ?」

 

 アルゴさんは、話が一応形としてまとまったところで私のことに触れてきた。

 

「失礼、お話に入れなかったので聞いて居ましたが。初めまして。私は新規組ですよ」

「なっ! βテスター以外でこの村までもう来ているプレイヤーがいたのか!?」

「これは驚いた……アルゴに話を持ちかけられた時より驚いたぞ」

「俺も驚いたぜ。だが、話を聞いて納得もした」

 

 ノイズさんの言葉に、疑問をぶつけたのはアルゴさんだった。

 

「どーいうことダ?」

 

 それに答えたのは、ノイズさんではなく、私だ。

 

「私がこの村にいる理由は、マーチのリアフレだから、といえばご理解いただけるかと」

 

 マーチの名前を出した途端、3人の表情が分かり易いほどに明るいものに変化した。

 

「おおおおお! マーチもここに来てるのか! そりゃ早く会いたいな!」

 

 ディアベルさんが、真っ先に声を上げ。

 

「やっぱ《友情》の名は伊達じゃネーナ。オレっちもマーチとは損得抜きで会いたかったンダ」

 

 アルゴさんも女性らしい可愛らしい笑顔を浮かべながらつぶやき。

 

「マーチか。俺にとっても数少ないフレだ。ぜひ挨拶せんとな」

 

 ジョッシュさんも、マーチのことを知っているようだ。

 

 本当に、あいつはどんなプレイスタイルをしていたのやら。

 この場にいるβ経験者全員と、本当に面識があり、且つフレンドであったらしいことは確かだが。

 

「まあ、今はちょっと、ノイズさんのせいで、マーチの彼女が部屋に閉じこもってしまったので、その説得に行っていますから、少しかかると思いますよ」

「……おい《騒音》。お前は相変わらずトラブルメイカーだナ」

「し、仕方ねーだろ! マーチの女だなんて知らなかったんだから! 知ってりゃナンパなんてしてねーよ!」

「はぁ~……ノイズらしいな、全く。女と金と名声に弱いってのは、どうにかしないと、この世界じゃ命取りだぞ?」

「ああもう! 悪かった! 俺が悪かった! それでいいだろ! もう勘弁してくれ!」

 

 ノイズさんの悲鳴を聞いて、その場にいた私達は、大いに笑ってしまった。

 

 

 




アルゴやディアベルの登場や台詞など、原作の知識があまり無いので変なところがあったら、ご指摘ください……ただ、直せるかどうかは微妙なラインです……(;一_一)

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