ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

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鏡秋雪様、路地裏の作者様、Joker様、感想ありがとうございます!m(_ _)m

お気に入り件数が940件を超え、亀更新ながらもお読みいただけていること。
また、評価にも多くの一言コメントをいただけていることに感激しております!(>_<)

今後もこれらを励みに更新を続けていきたいと思います m(_ _)m



第十二幕・障

 

 

 セイドさんに荒い口調で怒鳴られて、わたしは躊躇いを振り切って通路の奥へと走った。

 

 奥で身動きが取れていない彼らを助けて、すぐにセイドさんを助けに向かえば、わたしの不注意でリンクさせてしまったモンスターにもすぐ対処ができるはずだ。

 わたしは細剣(レイピア)を抜いたまま一気に部屋まで駆け込み、団員たちに声をかけた。

 

「貴方達、無事?!」

 

 わたしの言葉に反応して、部屋の奥から彼らの声が聞こえてきた。

 

「副団長殿!」

 

 部屋そのものは《モンスターハウス》と呼ばれるトラップがありそうなそれなりの広さの部屋だった。

 だけどモンスターなどは見当たらず、念のために使用した《索敵》に反応があったのは、プレイヤー反応だけだった。

 目に見えるような罠も無く、彼らは皆、床に座り込んでいる状態だった。

 

「おぉ! 本当に来て下さった!」

「やった! やったぁ!」

「これで……これで……っ!」

 

 わたしの姿を見て、彼らは皆一斉に歓声を上げて立ち上がった。

 サッと様子を見たところ、HPの損耗も部位欠損もないようで一安心だ。

 

「無事で良かったわ。一体何があったというの?」

 

 敵対対象が居ないことを確認して、わたしは細剣を鞘に収めつつ、彼らの元へと歩み寄った。

 

「申し訳ありません、副団長殿。私が不甲斐無いばかりに……!」

 

 彼らのリーダーである、短い髪を暗青色に染めた中肉中背の男性――《タウラス》が、わたしの前で片膝をついて頭を垂れた。

 

「いや、リーダーは悪くねえんすよ! 俺がピスケの言うこと聞かなかったせいで!」

「イヤ! 俺もレオと一緒に部屋に突っ込んじまった! スンマセン!」

 

 タウラスに続いて、少し長めの髪を金色に染め上げ、それをバンダナで纏めている軽薄そうな印象を受ける両手棍を装備した攻撃特化型(ダメージディーラー)の男――《レオ》が、わたしの前で額を床にこすり付けた。

 それを見た長身痩躯で茶髪に縁なしの四角い眼鏡をかけた、背にある大振りな両手鎌が目立つ攻撃特化型の男――《スコル》も、レオと並んで土下座を始めた。

 

「ちょ、ちょっと2人とも! やめなさい、そんなことしなくて良いわ! タウラスも顔を上げなさい!」

 

 わたしは慌てて3人に止めるよう声をかけたけど、3人とも頭を上げる気配はない。

 

「メンバーの統率を取り切れなかった私の責任です! そのせいで副団長殿にこのような場所までご足労をかけてしまい――」

「タウラス! 謝罪は良いから、何故このようなことになったのか、その説明を――」

 

 わたしがタウラスへ状況説明を求めようとした時、不意に首筋に不快感を覚えた。

 

(何!?)

 

 その不快感の正体を突き止めようと振り返ろうとし――

 

「え?」

 

 ――それは叶わなかった。

 

 急に足の力が抜け、崩れ落ちるように床へ倒れ込んでいた。

 辛うじて左腕を頭の下にすることで、頭部へのダメージを避けることはできたけど、横倒しの状態になってしまった。

 視界の端のHPゲージを見ると、HPバーは緑の点滅する枠に囲まれ、その右端には黄色い雷のようなマークがついていた。

 《麻痺》の阻害効果(デバフ)だ。

 

(麻痺?! 何で!)

「いやぁ、さっすがに現状で最高レベルの麻痺毒だぁねぇ。まぁあ? いっくら閃光様でぇもぉ、急所の首に喰らったぁらぁ、麻痺にもなるよぉなぁ」

 

 独特なイントネーションでそんなことを口にしたのは、灰色の髪をした、痩躯の小男――探索型の《ピスケ》だった。

 

「ピスケ……! これは何のつもり……?!」

 

 ギリギリ視界に納まっていたピスケを示すカーソルは、当然の如く《犯罪者(オレンジ)》カラーになっている。

 咄嗟のことでそんなことを口にしていたけれど、この状況で考えられることは1つだけだった。

 即ち――

 

「何のつもりとは……これはまた面白くないご質問ですね、副団長殿。もうお分かりなのでしょう?」

 

 タウラスの声が、今までの彼とは比べようがないほどに――いや、同一人物なのかすら疑いたくなるほどに、暗く平坦に、わたしの鼓膜を揺らした。

 

 

 ――わたしに届いた《救援要請》は、犯罪者の罠だったのだ、と。

 

 

 瞬間の思考と同時に、ポーチに入れてある解毒結晶を取り出そうと右手を動かしたけど、その動きは、果てしなく緩慢で。

 右手がポーチに届くよりも遥かに速く、ピスケがわたしの右手を掴んでいた。

 

「はぁい、はぁい。右手はぁあ、こうするんだぁよぉ」

 

 ピスケがわたしの右手に両手を添えて、人差し指と中指を揃えて伸ばす――メニュー画面呼び出しの際の形を作らせた。

 

「くっ! やめなさい……っ!」

 

 麻痺のせいで思うように動かない腕で、必死に抵抗するけれど。

 

「ハッ! 無駄な抵抗してんじゃねえよ。おら、ピスケ、とっとと可視化しちまえ」

 

 わたしの右腕を、更にもう1人、スコルが掴んで縦に振らせた。

 それだけで、わたしの意志とは関係なく、わたしのメニュー画面が開かれる。

 そのままピスケとスコルの誘導によって、メニュー画面の可視化ボタンをクリックさせられてしまう。

 

「くっ……!」

 

 こうなると、他のプレイヤーでも細かい操作が可能となってしまう。

 それこそ、身の毛もよだつような操作さえも。

 

「ワハハハハッ! あのアスナちゃんも、こうなっちまえばただの女の子だな!」

 

 全身金属鎧(フルプレート・アーマー)を震わせて兜すら外さずに笑っているのは、まず間違いなく、短槍(ショートスピア)を武器としている壁戦士(タンク)の大男――《リブラ》だろう。

 兜越しなので、声がくぐもって聞こえる。

 

「ワハハハハッ! 模擬デュエルじゃ1発も当てられなかったが、この状況じゃご自慢のスピードも形無しだな! ワハッ、ワハハハハハッ!」

 

 わたしの醜態が余程愉快なのか、この状況を延々と笑いながら眺めているようだ。

 悔しさが溢れるほどに湧き出ていても、今のわたしには抵抗する術がなかった。

 

「ウルッセェなリブラ。少し笑い堪えろよ。っつか、ホントのお楽しみはまだこれからだっての」

 

 レオがリブラを窘めつつ、わたしの眼前にしゃがみ込んだ。

 

「な? ア~スナちゃん、今から俺らとお楽しみタイムだもんな? 笑うなら、楽しんだ後にしろってな?」

 

 わたしの髪を掴んで顔を自分に向けさせたレオは、とても醜悪な笑みを浮かべていた。

 

 わたしは彼らの目的が分かった時点で、声を上げることを止めていた。

 せめてもの抵抗の意志を、態度で示し続けるために、声を出さずに睨み続けていた。

 

「お~お~、視線だけで人を殺せそうってのは、こんな感じっすかねぇ? どう思います、リーダー?」

「そんなことに興味は無い。それよりもピスケ。反応があったのは2人だったはずだな?」

 

 タウラスの言葉を聞いて、わたしは息を飲んだ。

 

 彼らはセイドさんの存在も当然の如く探知していた。

 仮にも《血盟騎士団》に入団できるだけの実力を持つ彼らが相手では、いくらセイドさんでも分が悪いだろう。

 

(何とか、この状況から抜け出さないと!)

 

 しかし、今のわたしには大きな声も出せず、辛うじて動かせる腕もピスケとスコルに抑えられている。

 わたし個人では対処しようがない。

 

「あぁあ、そうですよぉう。もうひとぉりぃ、来てるはずですねぇえ……あ~ぁ、通路の先に居ますねぇえ。なんで来ねぇんかぁなぁ?」

「ジェミ、連れてこい。後々面倒になる前に始末する」

 

 タウラスに言われ、無言で部屋を出て行ったのは、曲刀を腰に佩き、大楯を背負った全身金属鎧装備の大柄な壁戦士――《ジェミ》だ。

 同じ壁戦士のリブラとは違い、ジェミは常に無口で、わたしは彼が喋ったところを聞いたことが無い。

 

「やめなさい! 貴方達の狙いはわたしでしょう?!」

「ああ、その通りだ。我々は貴女が目的でKoBに加盟した。この世界で最も有名な《孤高の名花》のアスナさん」

 

 タウラスの言葉には、未だ感情の色が見られない。

 

「だが、目的が何であれ、不確定要素は取り除く。そのことに変わりは無い」

 

 他の4人は色めき立った様子だというのに、タウラスの、どこまでも暗澹とした様子には別種の恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 そんな会話をしている間にも、ピスケとスコルはわたしのメニュー画面の操作を続け、ついに、話に聞いたことだけはあった《倫理コード解除設定》を呼び出してしまった。

 

「いんやぁ、この設定ってぇえ、引っ張り出すだけでぇもぉ、一苦労だぁねぇ」

 

 《倫理コード解除設定》というメニューは、オプションの中でも特に深い位置に設置されていて、呼び出すだけでも結構な手間がかかる。

 

 それもそのはずで、簡単に言うなら、倫理コードを解除してしまうとあらゆるハラスメント行為に対して警告が出なくなる。

 これは《アンチクリミナルコード》によって保護された主街区などの街――所謂《圏内》においても同様の結果をもたらす。

 

 それが今、圏外であってもある程度有効な、ハラスメント行為に対して最も重要な《倫理コード》が、ピスケらの手によって解除されてしまった。

 

「クフッ……クフフフッ……ピスケ、分かってんだろーな? 一気にやるなよ? 1枚ずつだぞ?」

 

 スコルが笑いながら、そんなことを口にしていた。

 

 1枚ずつというのが何のことなのか、理解した瞬間に悪寒が背中を走った。

 この人たちは、わたしを殺そうとしているのではない。

 もっと別の――

 

「わぁかってるよぉう。んじゃぁあまずはぁ」

 

 スコルの言葉にぼやくように答えたピスケは、わたしの装備フィギュアを操作して、まず武器を解除させた。

 自分の半身とも言える武器が消え、わたしは身一つで床に寝そべる状況となった。

 

 リブラが、その身体にそぐわない高い声をあげた。

 

「フォホゥ! 細剣が無くなるだけで、こんなにも可愛らしくなるなんてなぁ! 女ってのはホントに分からんもんだな! ワハハハッ!」

「女が、ってか、閃光様だからだろ、それ。ってか、スコルの趣味に合わせなくていいから、サッサと裸にひん剥いちまおーぜ」

「はぁ~……レオ、お前、分かってねえなぁ。1枚ずつ、こっちが焦らされるくらいゆっくり、脱がしていくのが、楽しいんだよ」

 

 リブラ、レオ、スコルが何やら問答を繰り返している間にも、ピスケはゆっくりと、しかし確実に、わたしの装備を1つずつ解除していく。

 わたしはそれに、声を出さないように必死に唇を食いしばって堪え続けた。

 

「気丈な女だ。流石、KoB副団長に任命されるだけのことはある、か」

 

 わたしの装備が、1つ、また1つと解除されていく中、タウラスは感情の無い一瞥をわたしに投げかけるだけだった。

 他のメンバーが《女》であるわたしを目当てにしているのに対して、タウラスの本当の目的は、何か違うのではないだろうか。

 

 わたしの思考が及んだのはここまでだった。

 徐々に肌の露出が高くなり、恥ずかしさで頬に血が上る。

 涙など見せるつもりはないのだが、男たちからの冷やかしの声と羞恥心、そして屈辱で、わたしの感情はいっぱいいっぱいだった。

 

「さぁあさぁあ、いっよいよぉ、下着だっけにぃい、なりましたぁよぉ」

 

 装備の解除にどれ程の時間をかけられたのか分からない。

 わたしは、覚悟を決め、目を閉じ、歯を食いしばった。

 

 泣いたりしない。

 やめてくれ、と懇願することもしない。

 この先、どんな辱めをうけようとも。

 この世界が現実で無い事だけが救いだと、絶望に沈む自分に言い訳をした。

 

 その時――

 

 

「そこまでだ」

 

 

 ――冷たい声が響いた。

 

 誰が、と思う間も無く、吹っ飛んできたジェミの身体に、ピスケが押し潰された。

 

「ウギャァッ?!」

「な、何だ!?」「ぬぉ!? ジェミ?!」

 

 ピスケの叫びに続いて、スコルの動揺した声と、リブラの驚愕の言葉が重なった。

 

「あ……っ!」

 

 悠然と姿を現したのは、いつもよりも――ボス攻略戦の時にも見たことのないほどに表情を険しくしたセイドさんだった。

 セイドさんを見て、不意に声が出て、更には涙も浮かんできたような気がした。

 

「何だ、お前は」

 

 唐突なセイドさんの乱入に、しかしタウラスは慌てた風も無く、武器を抜くこともしないまま、落ち着いてセイドさんと向き合っていた。

 わたしの視界の端では、スコル・リブラ・レオの3人もセイドさんの登場に応じるべく、それぞれの武器を抜いて身構えたのが見えた。

 

「うるせぇよ」

 

 そう言ったセイドさんは、臆することも怯むことも歩みを止めることも無く、大胆不敵にわたしの所へと向かってくる。

 

「そうか、なら聞くまい。だが、それ以上は――」

 

 タウラスの警告らしき言葉を最後まで聞くことなく、スコルとレオが僅かに時間差をつけてセイドさんに攻撃を仕掛けた。

 今のやり取りの何処で攻撃のタイミングを打ち合わせていたのかは分からないが、息の合った踏込に、わたしは思わず息を飲んだ。

 

「――近寄らせん」

 

 両手棍と両手鎌が織り成す《剣技(ソードスキル)》の連携は、あの2人の、そして彼らギルドの最も得意とする戦術でもある。

 

 リーチの長い大型武器であることを活かして、互いに隙の少ない広範囲を制圧する《剣技》を繰り出す。

 大型武器であるにもかかわらず、それぞれの隙を互いにフォローし合うことで相手に反撃を許さない。

 攻勢に出た2人の連携は、KoBの中でも屈指の攻撃力を誇ると言ってもいいだろう。

 

 しかし――

 

『なっ?!』

 

 ――セイドさんはそんな彼らの範囲型剣技の連携を回避するのではなく、拳で、そして蹴りで打ち払い、止まることなく歩き続けていた。

 

 高速で繰り出された強烈な《剣技》を、まさか武器も持たないセイドさんに打ち払われるとは思いもしなかったのであろうレオとスコルは、驚愕の声を上げるしかなかった。

 

 よくよく見やれば、セイドさんは見慣れない防具を装備していた。

 先ほどまでのセイドさんは、いつもの道着系防具だけで身を包んでいた。

 

 しかし今のセイドさんは、それに加えて手と足に追加の防具――おそらく《籠手(こて)》と《甲懸(こうがけ)》と呼ばれる物――を身に付けていた。

 

(普段、布製防具しか身に付けていないセイドさんが……初めて見たわ……)

 

 セイドさんは籠手と甲懸を利用して、2人の《剣技》を打ち払ったらしいのだけど、そのHPにはダメージらしいダメージが見受けられなかった。

 

 《武器防御》スキルでも、大型武器の攻撃をノーダメージで受け流すのは難しい。

 スキル値やレベル差だけではなく、攻撃を受け流すタイミングや角度によってもダメージの発生判定があるからだ。

 それにもかかわらず、無手のセイドさんが打ち払いながらも微細なダメージだということは、あの籠手や甲懸に打ち払いに関してのボーナスでもあるのだろうか。

 

「む」

 

 スコルとレオの攻撃を物ともせず、歩みを止めないセイドさんを見て、流石のタウラスも片手斧と小円盾(バックラー)を構えた。

 その隣でリブラも大楯と短槍を構えてゆっくりと前に出る。

 

「うぉおぃジェミィ! はやぁく退いてくれぇえ!」

 

 わたしの背後では、ジェミに押し潰されたままのピスケが、ジェミの鎧を叩きながらそんな悲鳴を上げていた。

 

「動けねぇよ。そいつ《気絶》してるからな」

 

 普段とは様子の違うセイドさんが、悠然と歩きながらそんなことを口にした。

 

「気絶だと? バカな! 俺とジェミは《行動不能(スタン)》耐性の高い防具で身を包んでいるんだぞ!」

 

 リブラが信じられないというように大声を上げ、セイドさんの進路を塞ぐように進み出た。

 

「なら、耐性値が足りなかったんだろう」

 

 セイドさんはリブラの叫びなど意に介さず、一言返すだけで更に歩を進めた。

 タウラスもセイドさんの進行に呼応するように1歩前へ出た。

 

 セイドさんの後ろでは、受け流されたスコルとレオが技後硬直(スキルディレイ)から回復し、セイドさんへと向き直ったところだった。

 

 これでセイドさんは4人に囲まれる形になる。

 こうなることをセイドさんは分かっていたはずだ。

 

(そう、セイドさんなら分かっていたはずなのに……何故、スコルとレオを迎撃するのではなく、受け流すというような形で()なしたんだろう?)

 

 わたしの疑問に答えが出る前に事態は進展する。

 

 セイドさんの背後からスコルとレオが再び襲い掛かり、リブラは大楯を前に突き出して更に前進し、タウラスはリブラの陰に身を隠してセイドさんへ攻撃を仕掛けるタイミングを計っていた。

 

 ここに来てようやくセイドさんは歩みを止め、その場で身を捻るようにして背後の2人からの攻撃を完全に回避して見せた。

 

 セイドさんが回避した瞬間を狙ってタウラスが飛び出し、体勢を崩していたセイドさんへと片手斧を振り下ろした。

 

 わたしは思わず息を飲んだ。

 タウラスの攻撃はほぼ完ぺきなタイミングで行われ、セイドさんがそれを回避することは不可能だと――いや、むしろ直撃するとしか思えなかった。

 

 しかしセイドさんは、崩れていた体勢を立て直したり踏ん張ったりしようとせず、そのまま床へと身を投げ出した。

 それでもセイドさんは倒れたわけではなく、側転するような勢いで床へ手をつき――というより、床を殴り、その反動で大きく跳ね上がり、驚いたことにリブラの真後ろに着地した。

 

 セイドさんは、ほんの一瞬の攻防だけで、4人の包囲を突破してしまったのだ。

 

 とはいえ、タウラスの1撃を完全に躱すには至らなかったようで、僅かながらセイドさんのHPが減っていた。

 

「ぬぅぉお! させるかぁああ!!」

 

 跳び越えられたリブラは、身を捻り、その勢いのまま短槍(ショートスピア)を横に薙いだ。

 

 咄嗟の1撃にしては相応に鋭い1撃ではあったけれど、短槍は貫通属性の武器なので横薙ぎにしたところで大したダメージは見込めない。

 しかし、セイドさんも短槍による突きでの追撃を予想していたようで、横薙ぎに振るわれるとは思っていなかったようだ。

 

 リブラの1撃が突きであったなら回避できていただろうけれど、横に薙がれた1撃は、身を捻ったセイドさんの腕をしっかりと捉えていた。

 

「っと! やるな」

 

 とはいえ、セイドさんのHPはタウラスの1撃が掠めたのと同程度のダメージしか受けていなかった。

 短槍ではなく曲刀や片手剣などの斬撃属性武器であったなら、もっと大きなダメージになっていたか、下手をすればセイドさんの腕に部位欠損が起こっていたかもしれない。

 

 なんにせよ、セイドさんはリブラの1撃を腕に受けつつも、ダメージを無視してわたしの所に飛び込んできてくれた。

 

「セイドさんっ! ごめんなさい!」

「話は後だ。おそらくこの部屋は――」

 

 可能な限り声を出して、わたしはセイドさんに謝った。

 今言う事ではないかも知れないけれど、言わずには居られなかった。

 

 しかし、セイドさんはそんなわたしには興味を示さず、視線をタウラス達に向けたままわたしに何かを伝えようとし、その言葉をタウラスが遮った。

 

「やるな、貴様。だが、アスナの元へと辿り着いたところで、状況は変わらんぞ。ここは――」

 

 タウラスは片手斧と小円盾(バックラー)を構え直し、セイドさんを睨みつけながら言葉を続けた。

 

 

「――《結晶無効化空間》だからな」

 

 




え~……今回は個人的に、ちょっとした挑戦的な回です。

オリジナルキャラであるDoRのメンバー視点ではなく、アスナ視点、という……。
なので、何か変だとか、アスナとしての違和感など、看過できない範囲であるようでしたらご一報ください m(_ _)m
可能な限り原作の雰囲気を壊したくありませんので、修正できる限り修正する所存です。


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