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私が生きている限りは……(一_一)
私はアスナさんと、迷宮区を先に進みつつ話をすることにした。
「実は、ギルドメンバーから救援要請を受け取ったんです」
「救援要請?」
その言葉を聞いて、私は眉をひそめた。
この世界では、救援要請そのものが珍しい。
ダンジョンでは《伝言結晶》を使用しない限りメッセージを飛ばせず、同様に受け取ることもできないためだ。
つまり、救援要請のメッセージというものに対して真っ先に考えるのが、犯罪者プレイヤーの罠であるということを疑うのが基本になる。
私の抱いた疑問はアスナさんも分かっていたことのようで、彼女は私の表情を見て1つ頷いてから話を進めた。
「メッセージによると、彼らはこの層の迷宮区の14階まで辿り着いたらしいのですが、罠を見落としてしまい、その罠のせいで身動きが取れなくなってしまったそうなんです」
「……ふむ……」
アスナさんのその言葉で、私はとりあえず疑問を打ち消した。
攻略中の迷宮区には、基本的に
攻略組を相手取れるほどの高レベル
敵に襲われた場合にはメッセージを打つ余裕はないので、救援要請を罠ではないかと疑ってしまったが、私は自分の頭の奥にある暴走の残滓が、猜疑心を掻き立てているのだと判断した。
アスナさんの言葉通り、通常ならば罠によって身動きが取れない状況を想定するべきだっただろう。
それに何より、攻略組最強ギルドと名高い《血盟騎士団》のメンバーが、
自身の意識の切り替えがまだ上手くいっていないことを改めて認識しつつ、私は状況を口に出して確認した。
「とすると……行動阻害系の罠と併せて転移不可の罠、といったところでしょうかね」
私の言葉にアスナさんは頷いて話を続けた。
「そのようです。何とか《伝言結晶》で救援要請はしたらしいのですが、
現在の時刻は午前4時を少し過ぎたところだ。
アスナさんが何時メッセージに気が付いたのかは分からないが、迷宮区の進み具合から考えて、遅くとも2時前には迷宮区に踏み込んでいるだろう。
そんな時間に起きているようなプレイヤーは、そう多くないはずだ。
「確かに……普通なら寝ている時間ですからね……気付かなくても無理はないでしょう」
さらに言うなら、緊急時とはいえ、連日で行われている迷宮区の攻略で疲れている団員たちを起こすことを、アスナさんが避けようとしたことは想像に難くない。
「ええ。それで仕方なく、わたし1人で迷宮区に駆け付けたんですが……わたしは《罠解除》スキルを修めていないので……罠の回避や切り抜けなどに時間がかかってしまって……モンスターとの戦闘も1人ですから……」
そこまで語ったところで、アスナさんは少し俯いてしまった。
「罠に関しては仕方ない事ですよ。アスナさんは主に戦闘を担当しているんですから。むしろ《罠解除》なしに、無傷でいることに驚いたくらいです」
アスナさんも、本当ならもっと早く、もっと先に進みたかったのだろうが、彼女のスキル構成は戦闘に特化しているはず。
上に進むほどに敵も強く、罠も多くなる迷宮区では、アスナさんがソロであったのならこの先さらに時間がかかる事は間違いない。
それに普段はパーティーで行動をしているので、ソロでの探索は不慣れなのだろう。
軽く唇を噛み、悔しさを露わにしているアスナさんに、私はさらに言葉を続けた。
「とりあえず14階まで急ぎましょう。罠は私が引き受けます。モンスターに関しても私が合図しますので、合わせて下さい」
私はそれだけ言って、迷宮区4階の通路を軽く走り始めた。
そんな私に、アスナさんは慌てて走り出しながら声を荒げた。
「ちょ! ちょっとセイドさん! 急ぐにしてもモンスターも罠もあるんですから、走るのは危険です!」
流石にアスナさんはもっともな意見を述べた。
私とて、通常時ならば迷宮区を走りなどしない。
しかし、今は目的地の分かる緊急時だ。
「可能な限り早く行きたいじゃないですか。なら、走りましょう」
「そうですけど――」
「さあ、階段です。このまま一気にマップのある階は駆け抜けます」
「え?!」
おそらく、私とのやり取りの間、アスナさんは気付いていなかっただろう。
私たちが罠にもモンスターにも足止めされることが無かったということを。
「急ぎましょう、アスナさん」
「え、あ、はい……」
一声だけかけて問答無用に駆け出した私を、アスナさんは半ば呆然としながら追走し始めた。
「あの、セイドさん……」
アスナさんがついに口を開いたのは5階を駆け抜けて、6階へと至った時だった。
「なんですか?」
アスナさんの前を走っている私に彼女の表情は見えないが、その声はとてもこちらを訝しんでいる声だった。
「……何をした――いえ、何をしているんですか?」
「何を、とは、何がですか?」
アスナさんが聞きたいことは分かっているが、一応とぼけて返した。
「さっきから1度もモンスターと遭遇しないんですけど……」
アスナさんと合流して以降、私は5階を駆け抜ける際に《
「ああ、それは《索敵》と《聞き耳》を駆使して、モンスターを徹底的に避けているからですよ。運が良いという事でもあるでしょけどね」
差し障りが無い、
「《索敵》ならわたしも使えますが、ここまで完全にモンスターとの戦闘を避けられるような性能ではないはずです。それに、セイドさんは《隠蔽》も《忍び足》も使っていませんよね?」
「《索敵》だけでは無理ですね。ですから《聞き耳》も使って避けています。《隠蔽》と《忍び足》は覚えていませんが、それが何か?」
受け答えを続けながらも、私たちは走り続け、その間も私は《警報》の効果を利用してモンスターも罠も避けて進んでいく。
「ここには、数は少ないですが《ハイトロール》種が存在しています。あのモンスターの厄介な点はご存知ですよね?」
アスナさんの質問に疑問形で返し続けていたのが気に入らなかったのか、アスナさんは少し苛立った様子で遠回しに話を振ってきた。
「もちろんです。ハイトロールに限らず、トロール種はその高い感知能力が1番厄介な点です。特に、発達した聴覚による音の感知範囲は広く、こうした会話であっても――」
「にもかかわらず」
アスナさんは私の言葉を遮って、強引に話の主導権を持っていった。
「わたし達、5階で1度も敵に遭っていません。もう1度聞きます。セイドさん、何をしているんですか?」
背中に刺さる視線が、先ほどよりもさらに強くなった気がする。
私が何かを隠していると、確信を持っているのだろう。
私は思わずため息を吐きながら、少し走る速度を緩めた。
「……まあ、人には何か、隠し事の1つや2つや3つや4つは、あって当然じゃないですか?」
私は笑いながら振り返り、そう言って誤魔化すだけにとどめた。
「……そういうことを言ってるんじゃないんですけど……まあ、仕方ないですね」
スキルについての詮索はマナー違反だとアスナさんも分かっているので、彼女もこのことに関してはこれ以上追及してはこなかった。
とはいえ、私が何かのスキルを秘匿していると、アスナさんなら感付いただろう。
(隠し続けられなくなる日も近い、か)
私が《
これまで《警報》の情報を、ギルドメンバーのみに止めておくことができただけでも奇跡に近いだろう。
最近は、私も攻略組の一員としてボス攻略などに参加することが増えてきた。
こうなってくると、流石に《警報》のスキルを人前で使うことも多くなる。
情報屋の誰か――1番可能性が高いのは《鼠のアルゴ》さんだろう――が、私のスキルに関して追及してくるのも時間の問題だと思っている。
(まあ、この際《警報》の習得方法以外に関しては公開しても良いでしょうけど)
私自身、詳細を把握しきっていないのだから、習得方法は公開しようがないともいえるが。
そんなことを考えながら、私とアスナさんはさらに先へと走り続けた。
流石にモンスターや罠を完全に回避し続けられるほど敵と罠の配置も甘くなく、5階をエンカウントなしに駆け抜けられたのは、本当に運が良かっただけだと言うほかない。
6階では戦闘を5回、罠の解除を8回行って、7階への階段に辿り着いた。
これでも、通常で考えればあり得ないエンカウントの少なさであることに変わりはない。
そんな感じのペースを何とか維持したまま、私とアスナさんは迷宮区を走り続けた。
驚異的な速さで駆け抜けたとはいえ、9階へ至るための階段に着いた頃には午前7時を回っていた。
【1VS1デュエルを申し込まれました】
私は思わず目を
間違いなくデュエル申請のメッセだ。
メッセを見直した拍子に時刻も目に入った。
午前7時。
確かに、攻略組のパーティーがチラホラと迷宮区に向かって歩いて行ったのが見えたが、だからといって突然私にデュエルを申し込むような人がいるとは思えないし、申し込む理由もない。
(……っていうか……この名前……)
デュエル申請メッセをもう1度見直し、相手の名前を再確認した。
【Kiritoから1VS1デュエルを――】
差出人の名前には見覚えが――というか、聞き覚えがあった。
《キリト》――《黒の剣士》・《
セイドの話にも何度となく名前が挙がったことがあるが、個人の実力をセイドが褒めることは稀なので、ちょっと複雑な心境で聞いていた覚えがある。
そしてそれを確認したところで、また同じ疑問が頭に浮かんだ。
(……で、なんで私にデュエル申請?)
と、そんなことを考えながら首を巡らせた時――
「や、ゴメンゴメン。ちょっと操作を誤ってデュエル申請しちゃったよ。断ってもらっていいかな」
――街道の先に黒いコートに身を包んだ、可愛らしい顔をした男の子が立っていた。
「……え、あなたがキリト?」
聞いていた二つ名や評判から、もっと悪党面か、逆に勇者然とした人相を予想していた私は、一見すると女性にも見えかねない彼の容貌に唖然としてしまった。
「ああ、そうだけど……どこかであったことは……無いよな? アロマさん」
私はキリトに名前を呼ばれて、はたと気が付いた。
デュエル申請は、した方にもされた方にも相手の名前が表示される。
私がキリトの名前を確認できたように、キリトにも私の名前が分かったことになる。
「うん。初対面。でもあなたの名前は聞いたことはあるわ。有名みたいだし」
「あまり良い評判はないだろうけどね。それで――」
キリトは何かバツが悪そうに頭を掻きながら言葉を続けた。
「――デュエル申請だけど。面倒をかけて悪いけど、拒否してくれないかな?」
再度キリトに言われて、私は未だに申請メッセに答えていなかったことを思いだした。
「あ、ああ、ゴメン――」
キリトに言われてデュエル申請を拒否しようとして、不意に、このデュエルを受けてみるのもいいのではないか、という考えが頭をよぎった。
考えてみれば、私たちは攻略組に引けを取らないレベルを維持している、とセイドは言っていたけど、実際に攻略組のプレイヤーと剣を交えたことは数えるくらいしかない。
今私の目の前に居るのは、あのセイドが褒めた、攻略組でも相当な実力のソロプレイヤーであるらしいキリトだ。
《DDA》のサブリーダーの一人は、然程苦も無くあしらうことができたけど、彼はどうなのだろう。
もしここで、このデュエルを受けて、彼と剣を交えることができれば――
「……あ~……デュエル了承されても、すぐに
――などと考えていたのが表情に出ていただろうか。
キリトは私の思考を先読みするかのように、苦笑を浮かべながらそう言った。
「あはははは……ダイジョブダイジョブ……」
思わず笑って誤魔化しながら、キリトからのデュエル申請を断った。
(……勿体ない……)
「ところで――」
私がデュエルを断ったことを惜しんでいると、不意にキリトが歩み寄ってきた。
「――セイドがあんたを探して、あちこち走り回ってたよ」
キリトのその台詞を聞いた次の瞬間、私は出てきたばかりの獣道に飛び込んだ。
「なっ?!」
私の突然の行動に驚いたキリトの声が聞こえたけど、振り返らずに獣道を走り続けた。
何故、キリトが私にデュエル申請をしたのか、その真意が分かったからだ。
彼は、私を探していたんだろう。
それも、セイドに頼まれて。
そのことを理解した瞬間、反射的に体が動いて、何故か逃げだしていた。
無我夢中で獣道を突っ切って、途中で出てきたモンスターすら無視して、足場の悪い獣道をただひたすらに走り続けた。
そして、そのまま朧月宮の前まで戻ってきたところで足を止めた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
身体的な疲労の無いはずのこの世界で、走っただけで息が切れた。
それほどに、さっきのキリトの発言は不意打ち過ぎた。
(まさか、こんなところでセイドの名前を聞くなんて)
手を膝に置いて呼吸を整えていると、背後で木々が揺れる音がした。
「まさか! 突然逃げ出すとは思わなかったよ!」
飛び出してきたのは黒い剣を片手に持った、優男風な少年。
「……振り切れないか……」
「追いかけるのは簡単さ。トレインを追えばいいんだから」
キリトに改めてそう言われて、自分の行動が全く理に適っていないことを反省した。
そもそも逃げる時に《隠蔽》を使っていなかったこともそうだし、出てきたモンスターを無視したこともそうだ。
相手に、追いかけるための目印を作っているようなものだ。
「まあ、モンスターは片付けたから気にしなくて良い。それより――」
キリトは剣を背に収めながら、しかし今度は私に歩み寄ることはせず、立ち止まったまま私を見――
「――これ、もしかして隠しダンジョンか!」
――ていなかった。
キリトが興味を向けたのは、朧月宮へだった。
私は思わず脱力し、自分でも気付かぬうちに笑っていた。
「プッ……フフフフフ……」
「な、何だよ……何笑ってるんだ?」
「そりゃ、笑うでしょ……フフ……」
「さて……ねえキリト。あんた、セイドに言われて私を探してたんでしょ?」
「ああ、その通りだ」
「それにしても、赤毛の女性プレイヤーだからって、いきなりデュエル申請ってのは強引なんじゃない?」
「……それは……まあ……」
この世界では、名前を使った《インスタント・メッセージ》を送れるシステムがある。
ただし《インスタント・メッセージ》は、同じ層に居ない相手には届かず、メッセージを飛ばしても相手に届いたかどうか判別はできない。
これは単純に、インスタント・メッセージを悪用したハラスメント行為や犯罪行為を防ぐための当然の仕様だ(と、セイドが言っていた)。
だから、私の顔を知らないキリトが、私の名前を直接確認するための方法が《デュエル申請》だったわけだ。
私はゆっくりとキリトに歩み寄りながら話を続けた。
「でも、それも仕方ないのか。私たち、記念撮影とか全然してなかったから、
笑みを浮かべて話を続ける私を見て、キリトは右手を縦に振った。
「そうか、SSがあればもっと早かったんだよな……今度、ギルドで記念撮影でもしといてくれよ。そうすればあんな――」
キリトはメニュー画面を開き、私の言葉に答えながら何かを操作し始めた。
そして、その瞬間が私の狙い目でもあった。
キリトの注意が私から外れ、メニュー画面に意識が移った瞬間を狙って、私は両手剣を抜き、キリトの背後に回り込み、そのままキリトの首に右腕を回す。
右手に両手剣を持ったまま、腕で首を絞めるような体勢だ。
但し、剣の刃はキリトには向けていない。
「動くな」
私の突然の行動に、キリトは戸惑いの様子を見せながらも、動きをピタリと止めていた。
「今から私の言うこと以外で指1本動かすな」
「……何のつもりだ?」
視線だけ動かして、キリトは自分に剣の刃が向けられていないことを悟ったのだろう。
しかし同時に、何故私が右手に剣を持ったままキリトの首に腕を回しているのかが分からないようだった。
「ついてこないでって言っても、どうせついてくるつもりでしょ? なら、こっちとしても考えがあるわ」
私の力量ではキリトは振り切れない。
それは、レベル差でもあり、パラメーターの割り振りの差でもある。
キリトを振り切れないということは、キリトとフレ登録をしているセイドとマーチに、私の居場所がばれる可能性が高いことになる。
なら、キリトについて来られてもセイドに、そしてDoRのメンバーに私の居場所がばれないようにするしかない。
セイドが私を探しているとしても、今のDoRに私の居場所は無いのだから、連れ戻されるわけにはいかない。
「どうしろと?」
動くべきか動かざるべきかを悩むように、キリトが言葉少なに聞いてくる。
「まず、あんたのウィンドウを可視モードにして、私にも見えるようにしなさい。余計な操作をすれば分かるからね」
キリトの右手は、キリトの胸の前辺りに持ち上げられたまま動きを止めていた。
そこから手を動かせば、キリトの背後を取った私にもしっかりと見える位置だ。
キリトのそのことは理解しているようで、すぐにウィンドウが可視化された。
案の定、キリトが開いていたのはフレリストだった。
「やっぱり、セイドかマーチに連絡を取るつもりだったのね」
「……ああ、そういう話になっていたからな」
キリトはゆっくりと答え、おそらく視線を巡らせて今の状況と体勢を分析しているのだろう。
私としても、高レベルプレイヤーのキリトに下手に暴れられるのは本望ではないので、素早く話を進める。
「キリトには悪いけど、セイドとマーチを、あんたのフレリストから削除して」
「……居場所を特定させないためか……」
私の指示に対して、キリトはすぐには動かなかった。
「早くして」
「……この程度の脅しが通用すると思ってるのか? 俺なら、あんたの攻撃を直撃されても3発は耐えられる。それだけの間があれば、この体勢から抜けるのは
キリトは、首に回されている腕に込められた力が少し強くなったのを感じ取ったのだろう。
しかし、こちらとしても別にキリトの首を絞めたかったわけではない。
そもそも、この世界では、首を絞めたところで窒息などしないのだから、ダメージにすらならない。
「ああ、勘違いしないで。この体勢はあんたのウィンドウを見るためのもの。だから――」
私は右手を捻り、剣の刃が
「――人質は私。あんたが言うことを聞かないなら、私はここで自分の首をはねて自殺するだけ」
「っ?!」
キリトが息を飲むのが分かった。
「消すの? 消さないの?」
「分かった、消すよ。だから、馬鹿なことは考えるな」
少なからず動揺したキリトは、抗うことなく私の指示通りに指を動かした。
私はキリトのウィンドウを確認しながら、彼がフレリストからセイドとマーチを削除したことを確認した。
「OK。それじゃ次は、伝言結晶を渡して」
「……なんで持っていると?」
私は左手をキリトの前に突き出し、キリトは驚きながらも大人しく伝言結晶を私の左手に乗せた。
「どうせセイドに渡されたでしょ。ダンジョンにいる相手には、フレでもメッセは届かないもの」
「……参ったね。想像以上に頭が回るんだな。驚いたよ」
キリトはそう言うと両手を上げた。
降参という意思表示らしい。
「セイドには及ばないけど、私もバカじゃないわ」
そこまで答えたところで私はキリトをゆっくりと解放した。
キリトも私が腕を外したところで、ゆっくりと此方へ振り向いた。
そのタイミングに合わせて、私は剣を背に収めつつ――
「ああ、それと」
――キリトを睨みつけて言い放った。
「私の攻撃を3発、本当に耐えられるかどうか、いつか試してみましょ。きっと後悔するから」
一撃の威力に関してはDoR内であっても負けるつもりはない。
その私の攻撃を、3発は耐えて見せると言い放ったキリトには、いつか必ずその身を持って知らしめてやろうと心に誓った。
「まあ、そう噛みつくなよ」
私の視線と怒気を、キリトは飄々とした態度で受け流し、視線を私ではなく《朧月宮》へとチラチラ向けていた。
そんなキリトの態度に、肩透かしを食らったような気分になり、思わずため息を吐いてしまった。
「まあ、今は良いわ。それより、ここ、入りたいの?」
別に《朧月宮》は私の物というわけではないが、この場を独占したかった私にとって、キリトという珍客をこの場まで引き連れてきてしまったことは予定外のハプニングだ。
「う……うん、入りたい。というか……まさかアロマ、ここに籠ってたのか?」
「……そうよ。見つけたのは偶然だったけどね」
キリトはもう、今にも《朧月宮》へと飛び出しそうな様子ではあったが、それを辛うじて堪えているのは私がいるからだろう。
ここで1人《朧月宮》に突っ込めば、私を見失うことになる。
そうなっては何の意味も無いと理解しているのだろう。
私は仕方なく、キリトにパーティー申請を送りつけた。
「へ?」
「ここで少し狩りをしたいんでしょ? なら付き合ってあげる。ただし、条件としてDoRの連中に私のことも、ここのことも教えないで」
「う……それは……」
私の提案に、キリトは呻き声を上げて苦々しい表情を浮かべた。
「さ、どうするの? DoRのメンバーには連絡が取れないこの状況下で、私と別行動なんかとれば、また私を見つけるのは難しくなるわよ」
私としては、キリトが余計なことを思いつく前に、ここでキリトとパーティーを組んで朧月宮に入るように仕向けたい。
微妙に踏ん切りがつかず、未だにうんうん唸って悩んでいるキルトに、更に畳み掛ける。
「即決できない男は嫌い。じゃ、またどこかで――」
私がそう言いながらキリトに背を向けたところで。
「あ、いや! 待った!」
キリトは慌ててパーティー申請を了承した。
「――OK。それじゃ、ちょっと狩りに行きましょうか。今回だけ、よろしくね、キリト」
朧月宮への好奇心に負けたキリトに、私は笑顔とともに右手を差し出した。
第十幕のサブタイトルですが、《
そして、第十幕なのに章が終わりません!
ここで終わると予想していた方々を裏切る形になりました(;>_<)
まだ続きます……(-_-;)長くてすみません……。