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お気に入り登録件数が890件を超え、ついに900台が見えてきました!
夢の1000という大台にも……辿り着けるといいなぁ、などと、大それたことを夢想している今日この頃です(>_<)
見慣れた部屋を後にするのは寂しかった。
それでも、みんなで居たリビングを見るのは辛かった。
そこに、私の席が無いと分かってしまったから。
私は何故か、49層の主街区《ミュージェン》に転移していて、そこで宿を取っていた。
何故ここだったのかは覚えていないけど、1つ確かなのは、窓から見える夜明け前の《ミュージェン》は、クリスマスの時とは打って変わって静かなもの、ってことだ。
私は、ギルドの脱退とフレ登録の抹消を終えた後、ベッドに腰掛けたまま、ルームサービスで頼んでおいた紅茶を口にした。
少し濃くて、まだ熱かった紅茶を一口飲んだところで、ほうっと、長いため息が漏れた。
心なしか、少し緊張が緩んだ気がする。
(……でも、これで……私の居場所は、本当になくなったんだ……)
ボタン1つ、クリック1回で済んでしまう事だった。
そのことを自覚した途端。
はたはたと、涙が頬を伝って流れ落ちた。
私は紅茶をサイドテーブルに戻して、腰掛けていたベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めた。
かなり泣いてから出てきたと思ったけど、私の心はまだ、DoRのみんなを想っているみたいだ。
私は、飲みかけの紅茶が冷めるのもそのままに、枕に顔を押し付けて泣き続けた。
ふと、日の光を感じて目が醒めた。
カーテンを閉めていなかったので、朝日が直接顔を照らしたようだ。
そっと起き上がり、カーテンを閉めに窓に近付くと、外は朝焼けで照らし出されていた。
何となく窓を開けると、空気の寒さが身に凍みた。
「……朝焼けには、いい意味と悪い意味があるんだっけ……」
思わず呟いた言葉とともに、吐きだされた息が白くなった。
私にとっての朝焼けは、別離と決別、割り切れない想い、といった意味になるだろうか。
自嘲気味な笑いが口元から漏れる。
時間を確認すると、まだ5時半前だった。
あれから、ほとんど寝ていないことになる。
(……そろそろ、ルイルイが起きる頃かな……)
私は窓を閉め、カーテンも閉めた。
(ルイルイが朝食の準備をして。終わった頃にみんな起きて来て。バタバタし始めるんだろうな)
ベッドに腰掛けて、すっかり冷めきっていた紅茶を一口。
(……みんな、怒るかな? 心配……してくれるかな……)
味なんか分からなかった。
(それとも……
冷めきった紅茶をその場でひっくり返して床に捨てた。
現実なら後始末が大変だけど、この世界なら何の問題も無い。
床にこぼされた紅茶は、すぐにポリゴン化して、後には何も残らなかった。
どうしても、
私は、
カナカナカナ、という鳴き声が
(……これは……ヒグラシの声……?)
夕焼けの赤い光に満たされた、どこか見覚えのある部屋だ。
木製の天井からは、古くなった電球が1つだけ垂れている。
うつぶせに寝ていたはずなのに、いつの間にか天井を仰いでいた。
横を見やれば小さな座卓があって。
でも、その座卓が大きく感じられるほどに、今の私は小さくて。
(……ああ……夢か……)
これは夢だ。
子どもの頃の、私の記憶だ。
そうと分かった途端、暑さを感じた。
(……そう……この部屋……カーテン無かったから……暑かったよね……)
窓が閉め切られた部屋は、夏も終わりが近づいたとはいえ、まだまだ暑かった。
身体が汗でベタベタする。
ヒグラシの鳴き声が『カナカナカナ』と、頭に響く。
不意に、空腹を感じた。
痛みを感じるような、細く鋭い空腹感だ。
(……あれ……これって……どのくらい食事してない時だっけ……)
ぼんやりとそんなことを考えて、すぐに考えるのをやめた。
こんなことが、何度あったか分かったものじゃない。
それを今更、思い出せるはずもない。
(……母が……帰って来ないのも……ざらだったし……)
虚ろな記憶が確かなら、この頃の母は、平気で3日くらい家を空けていたはずだ。
小さな私には何もできず、ただただ動かずに、可能な限り体力の消費を抑えるだけで精一杯だった。
虚ろな視線を座卓越しに玄関へ向けたまま、古い畳に横たわっているだけだった。
すると、唐突に。
――ガチャガチャッ――
ドアの施錠が解かれた音がした。
――お母さんだ!
――帰って来てくれた!
(……あれ……昔の私って……こんなに母の帰宅を喜んでたっけ……)
夢の中の私を、今の私が傍から眺めているような、そんな奇妙な感覚に囚われた。
小さな私は、身を起こそうとして、でも体力が無くて起きれなくて、それでも這うようにして玄関に向かった。
ドアが開き、母が入って――来なかった。
そこに立っていたのは、1人の若い男だった。
(……セイド……?)
そこに立っていたのは、セイドだった。
――私、この人のこと知ってる。
――私が、ついて行きたいって思った人なの。
――私を、いつでも待っててくれる人なの。
――私の事、見捨てないでいてくれる人なの。
小さな私が、そんなことを口にした。
その途端、私の身体がグンと成長して、意識と現実に追いついた。
息の詰まるような部屋がパアッと散って、見慣れたギルドホームへと変わった。
ギルドホームの扉の所には、セイドが笑顔で立っていた。
思わず――
「セイ――」
――名前を呼びながら手を伸ばしていた。
けれど、私の手が届くよりも前に。
私が名前を呼び終えるよりも先に。
『お前が居なかったら、もっと幸せになれたのに』
母と同じ台詞を吐いて。
彼は私の目の前で、狼の群れに食い殺された。
あまりといえばあまりのことに目が醒めた。
ゆるゆると意識が覚醒していき、相変わらずSAOの世界で、さらに言うなら、ギルドホームではなく《ミュージェン》の宿屋の一室で眠っていたことをボンヤリと再確認した。
「……最悪……」
自然と、右手で目元を覆っていた。
横になって眠ってたのに、額や首筋に嫌な汗がまとわりついていた。
ゆっくりと瞬きを繰り返し、何度か手を握ったり開いたりしてから寝返りを打った。
(……大丈夫……私の身体だ……私の意志で動かせる……)
夢と現実をしっかりと区別して、身体の中から嫌な意識を吐き出すように腹式呼吸を何回も何回も行ってから。
私は体を起こし、ベッドから降りた。
部屋に備え付けられていたシャワールームで、熱いシャワーを浴びて嫌な汗を流した。
(……狭い……)
思わずギルドホームの浴室と比べてしまい、首を横に振って、頭からシャワーを浴び直す。
汗を流したところでシャワールームから出て、バスローブを羽織った。
それから、部屋に用意されていた冷蔵庫から、サービスとして用意されていた柑橘系のジュースを取り出して一気に呷る。
そうしてようやく、悪夢に乗っ取られていた頭が、一気に現実へと切り替わった。
セイドとの喧嘩。
ギルドからの脱退。
フレンドリストの抹消。
DoRに合流させてもらうまでソロで生きていた私には、彼らに関わらないところの――つまり、私個人のフレというものは皆無だ。
DoRを抜けた以上、これから先は完全にソロで生きていくしかない。
そう覚悟を決めて、バスローブをベッドに投げ捨て、首を回して部屋をぐるっと眺めた。
この宿屋にも、いつまでも居据わることはできない。
私個人の財産は、そう多くない。
私は右手を振ってメニュー画面を呼び出した。
(まずは、要らないアイテムを売る)
街中だけでお金を生み出すには、これが手っ取り早い。
そう思い、アイテムストレージを呼び出して、スクロールしていくけれど――
(……う~ん……あんまり、売れるものが無いかも……)
――思った以上に、所持しているアイテムは必需品が多かった。
これでは、売るに売れない。
(……しばらくは、節約しないと……っていうか……この部屋、今日限りにしよ……)
小さくため息を吐いてメニューを消し、椅子の背もたれにかけておいたタオルで髪を拭き――
(………………酷い顔……)
――ふと、開けっ放しにしていたクローゼットの、その中に備え付けられていた姿見に映った自分と、目があった。
固く、表情の無い女性が、バスローブも下着も身に付けず、タオルを頭に乗せたまま、タオルと髪の隙間から此方を覗いている。
(……酷い顔だ……本当に……)
鏡とは。
古来、鑑みる――即ち、自分を振り返らせる代物、だと聞いたことがある。
私はため息を吐きながら、クローゼットを閉めた。
しばらく、鏡を覗くことは出来なさそうだ。
私はベッドに腰掛けて頭をガシガシと拭き、髪が乾いたところで再度メニュー画面を呼び出して、装備フィギュアを操作して服を着る。
そのままアイテムメニューを出して、
(……これだけは……
それを手にしたまま、私は時間を確認した。
「……さむっ」
ここ数日は暖かい日が続いていたのに、今日は冬に戻ったかのように寒かった。
(三寒四温って、こんな時期のことだっけ……)
そんなことを考えながら、私は着ているフーデッドケープの上から体を抱くようにして腕をさすった。
今私がいるのは、39層の《ウィシル》の村。
それも、ログたんのお店が良く見える場所にある民家の2階にいる。
(……そろそろ……ログたんが昼食でお店を空ける頃なんだけど……)
視線を動かして時間表示に目をやると、あと10分ほどで午後2時になるところだった。
5時半頃に寝た後、変な夢で目が醒めたのが正午。
シャワーを浴びて、色々と準備を整えてここに来るまでに1時間半程かかっていた。
つまり、ここに来てから20分ばかり経ったことになるだろうか。
と、時間を確認したところでログたんがお店から出てきた。
いつものようにフードを目深に被ったログたんは、足早に転移門へと向かって行った。
そんなログたんが見えなくなるまで民家の2階から見送って、私はため息を吐きながら窓辺から立ち上がった。
(これで、しばらくお店はNPCだけ……)
私はフードをかぶり直して、周囲に気を付けながらログたんのお店へと移動した。
『いらっしゃいませ。申し訳ございません、現在マスターは留守にしております。オーダーメイドなどのご注文は、時間を改めてお願い致します。ご用件をどうぞ』
店番をしているNPCの応対を受けて、私はまっすぐカウンターに向かった。
「ログた……じゃなくて、マスターに渡して欲しいものがあるので、預かって下さい」
『マスターへのアイテム譲渡ですね。かしこまりました。アイテムをカウンターへお置きください』
NPCの指示通り、私はカウンターの上に持ってきたアイテムを置いた。
宿屋で録音した《録音結晶》と。
(………………結局……渡せなかったな……)
ログたんに頼んで作ってもらった、現状のSAO内では、おそらくこの一着しか存在しないであろう道着を。
『お預かりするアイテムは《録音結晶》1つ、《朧月の道着》1つ、合計2つのアイテムで宜しいでしょうか?』
「うん」
ログたんの銘が入っている装備品を、無下には扱えない。
なら、やはりログたんに返すのが1番いいだろう。
「……大事に、してもらってね……」
カウンターの上に置いた道着を1度手に取り、それをそっと抱きしめながら口の中で呟き、綺麗に折り畳んでからカウンターの上に戻した。
カウンターの上に置かれた2つのアイテムは、ポリゴン片となってNPCに回収された。
『確かにお預かり致しました。マスターへアイテムを渡した際に、お客様にそのことをメッセージにてお知らせ致しましょうか?』
「ううん、必要ないよ」
『かしこまりました。他にご用件は御座いますでしょうか?』
「いいえ」
『ご来店、誠にありがとうございました。またのお越しをお待ち申し上げております』
NPCのその言葉を聞いて、私はお店を出た。
しばらく歩いてから、そっと振り返る。
主が不在のお店でも、大きな風車が音を立てて回っていて、今にもログたんが笑顔で出迎えてくれそうな、そんな錯覚を覚える。
当分は、このお店にも顔は出せない。
名残惜しさが込み上げてくるのをグッと堪えて、私はすぐに転移門で移動した。
場所は60層、攻略組が闊歩する最前線の街《ビリンメル》へ。
私は転移後、すぐに街から出た。
ログたんがメッセージを確認する前には街から離れておきたかった。
(さってと! まずは迷宮区へ行ってみようかな!)
アイテム類は結局、売らず買わずで済むと結論付けたので、時間はかけずに済んだ。
セイドから渡されていた60層のマップを基に、迷宮区への道を進んでいくが、流石にこの時間から迷宮区へと向かう人はほとんど居ないようだ。
攻略組の面々は午前から籠ってるだろうし、それ以外のプレイヤーが未攻略の迷宮区へは滅多に行かないためだろう。
そんなことを思いつつ、森の中に出来た道を歩いていると――
(……ん? 今、何か聞こえた……)
――木々の擦れる音や風の音などではなく、何かの鳴き声らしき音がかすかに聞こえた。
歩みを止めて《索敵》を使って周囲をゆっくりと見渡す。
すると、ちょっと奥の樹の陰に、あるモンスターの名前を見つけることができた。
「――っ!」
危うく声を出しそうになったけど、どうにか堪えた。
(あれ! 《ラグー・ラビット》だ!)
最上級食材をドロップする確率のある、超レアモンスターだ。
幸いなことに、レアウサギは私に気付いている様子は無い。
とはいえ、私とウサギとの距離は10メートル以上離れている。
しかも、間に相当な数の枝葉が生い茂っている。
《隠蔽》を駆使して近付いたとしても、《忍び足》の無い私では、5メートル以内に近付くことはできないだろう。
(……う~っ……《投剣》は覚えてないんだよねぇ……)
あのウサギは、現在知られているモンスターの中では最速の逃げ足を持っていると言われている。
大型武器しか扱えない私には、基本的にソロでは狩れないタイプのモンスターだと言っても過言ではない。
(多分狩れない……けど…………だからってそのまま立ち去るってのもヤダし……)
ダメもとで、攻撃を仕掛けるくらいはしてみたい。
可能な限り近付くために私は《隠蔽》を使って、茂みを避けれるだけ避けて進み、足音も立てないように、もの凄くゆっくりと歩いて行く。
その際、両手剣は先に抜いておいた。
鞘から抜く音だけでもウサギに気付かれるからだ。
そうして、そろりそろりと近付いてゆき、距離を約8メートルほどにまで縮めたところで、茂みを避けるだけの場所が無くなった。
つまり、これ以上はどう移動したとしても音が立つ。
(……遠い……)
まだ8メートル近くあるのだ。
突進系の《剣技》で一気に間を詰めるというのも考えたけど、両手剣ではあまり距離を稼げない。
曲刀カテゴリの《フェル・クレセント》という優秀な突進技ですら、詰められる距離は4メートルだ。
(なにか……何か方法は無いかな……)
こんな時、セイドなら《投剣》で仕留めるくらいの芸当ができるかもしれない。
セイドなら、たとえ《投剣》が無くても、狩る方法をひねり出すかもしれない。
(……って、セイドセイドって……居ないやつのこと考えたって始まらない……)
私は頭を振って意識を切り替える。
地面には草葉が生い茂り、歩くだけで確実にウサギに気付かれる。
低木を乗り越えるにしても、身体が枝に当たる確率が高い。
(あ、そうだ。下がダメなら――)
とそこまで考えが及んだ時、ウサギが小さく跳ねた。
しかも、こちらに向かって。
それはつまり、顔がこちらに向いているということで。
ウサギの視線と、私の視線がぶつかって。
次の瞬間、ウサギは180度方向転換して即座に逃げ出し――
「まてぇえええええ!」
――逃がしてなるものかと、私は近くの樹を踏み台に、空中からウサギへと跳びかかった。
下は動きづらいなら、樹と樹の幹の間を、ジャンプする要領で飛び移れば行けるのではないかと考えたのだ。
結果としては正解だった――かも知れない。
唯一問題があったとすれば、そういったアクロバティックな行動をスキルに頼らずに行うのには限界があるということだ。
軽装備で且つ敏捷値がある程度高いプレイヤーが取ることのできる《軽業》というスキルがあれば、ある程度の距離なら壁を走ったりもすることができるらしいのだが。
生憎と、重量級武器を扱う私では、スキル要件を満たせない。
結果。
渾身のダイブは届かずに終わり、その後も、逃げるウサギの尻尾が見える限り追い続けたものの、触れることすら叶わずに終わった。
「うぁぁぁああ! 逃げられたぁあああ!」
あまりの悔しさに、手近にあった樹の幹に剣を叩き付けたけど、紫色のライトエフェクトに阻まれて、傷を付けることすら叶わなかった。
「はぁぁ……無駄な労力を費やしたなぁ……」
仕方なく剣を鞘に納め――ふと、その場で周囲を見回した。
《ラグー・ラビット》を追いかけるのに夢中になって森の中に突っ込んだせいで、周囲に道らしきものが見当たらない。
「え……ここ……どこ……」
慌ててマップを広げてみたけれど、周囲一帯が森となっているだけで、道は表示されていなかった。
(…………これってまさか……迷った……?)
冷たい汗が首筋を伝った――様な気がした。
「やっと……道にでた……」
森の中を彷徨う事、約4時間。
ようやく細い道を見つけることができた。
辺りは完全に夜の闇に包まれていて、この道を見つけるまでに、何度となく夜行性のモンスターと遭遇していた。
けれど、レベルそのものは安全マージンを取っているので、苦労することなく撃破してきた。
やっとの思いで見つけた道は、残念ながらマップには表示されていなかった。
(一応道っぽくなってるから……これって獣道……隠し通路かな……)
時々存在する隠し通路には色々な種類があるけど、フィールド――特に森などでは、マップに表示されない獣道のような形で用意されている、と聞いたことがある。
(なんであれ、道なのだから沿って進めばどこかに出るはず……森から抜けられれば、迷宮区のタワーを目印に戻れるはずだし……)
とりあえず何とかなりそうなので、大きくため息を吐いた。
夜の森、しかも最前線のフィールドでのソロ狩りが、迷子の結果だったというのは、何とも恥ずかしい話ではあったけれど。
(ソロの勘を研ぎ澄ませるのには、役に立ったのだから良しとしよう)
何とか気分を好転させつつ、獣道を進んでゆくと。
道の先が開けていた。
森から抜けられるようだ。
思わず駈け出して、一気に森から飛び出すと、目の前にあったのは山のような大きさの古びた洋館だった。
実際、山なのだろう。
背後にそびえ立つ山と一体であるかのような、山から削り出されて作られたかのような洋館は、異様な雰囲気を醸し出していた。
(入り口だけが洋館で、中は巨大なダンジョンってところかな……)
そう当たりを付けてマップを開いてみたけれど、やはり洋館の名前は表示されていなかった。
隠しエリアにある場合、実際に入らない限り表示されないらしい。
「……上等。入ってやろうじゃないの」
折角見つけた隠しエリアの、おそらく誰も入ったことのない隠しダンジョンだ。
入らない手は無い。
私は思わず笑みをこぼしつつ、洋館の扉に手をかけて一気に開け、ためらうことなく足を踏み入れた。
表示されたダンジョン名は《