ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

52 / 74
テンテン様、zakuto様、駆け出しプランナー様、感想ありがとうございます!m(_ _)m

お気に入り件数も850件を超え、更には10評価も頂きました!
皆さんありがとうございます!(>_<)

同時に1評価も頂いている点は、とても反省材料となります。
可能であれば、なぜ1なのか、一言やメッセージを頂けると、作者としては嬉しい限りです m(_ _)m

アニメは終わりましたが、DoRのメンバーの話は、まだ終わりが見えておりません!
飽きずにお付き合いいただければ、幸いです(>_<)



第六幕・朔

 

 

 60層は、全体が荒野をイメージして作られていた。

 フィールドに存在するモンスターは、そのほとんどがコボルド・オーク・ゴブリン・オーガというような獣人系モンスターだ。

 

 流石に60層まで来ると、通常Mobですら、それぞれの名称の上に《高位(High)》という単語が付くのだから油断はできない。

 当然、迷宮区でもそれらの獣人系モンスターがプレイヤーを待ち構えているわけだが、その実、未踏破の迷宮区で1番厄介なのはモンスターではないと、私は思っている。

 

「……またトラップか……」

 

 《索敵》と《警報》の効果で、罠の類はあらかじめ見つけることができる。

 だが、罠やモンスターを回避・排除しながらの探索では、思い通りのペースで進めない。

 特に、ボスが未攻略の迷宮区のトラップは、1度解除してもしばらくするとランダムで再設置されてしまう。

 攻略において1番時間がかかるのは、こうした罠の解除や回避によるところも大きい。

 

(ここに罠があるということは、この先に人がいる可能性は低いか……)

 

 私は見つけた罠を《罠解除》のスキルで解除しつつ、思わず溜め息を吐いてしまっていた。

 トラップの有無で人の通過などを知ることができるのは案外短い時間だけだが、それでも多少の目安にはなる。

 この先にアロマさんが居る可能性は、今ここに罠があったことで低くなったと言わざるを得ない。

 

 ついでに言うなら、この先に攻略組プレイヤーがいる可能性も低くなり、同時に、上層への階段はこの先には無いだろう、という予測も立てることができる。

 

(仕方ない、さっきの分かれ道まで戻るか……)

 

 私は来た道を駆け足で戻りつつ、何度目かも分からなくなった溜め息を吐いた。

 

 今私が走っているのは、60層迷宮区の6階だ。

 ここに辿り着くまでに出会った攻略組プレイヤーたちと情報のやり取りを行い、彼らがマッピングした地図と情報も合わせて、更に奥へと進んできている。

 

 パーティーで動く彼らよりは、フットワークが軽く、自由の利くソロなので、モンスターを極力避けて奥へ奥へと進むことができているが、1度戦闘になると私のスキル構成では火力が不足するために時間を取られる。

 

 気が付けば、既に21時を回っていた。

 この時間になると、攻略組とはいえ多くのプレイヤーが最寄りの街へと戻っている。

 夜間の活性化したモンスターを相手にするのは相応の危険を伴うし、安心して休息を取るためには、やはり圏内の宿屋やホームなどを利用するしかないからだろう。

 人気のなくなった迷宮区を走りながらアロマさんを探し続けるが、未だに何の手がかりも得られていない。

 

(ここに来ている可能性が一番高いはずですが……アロマさん……無事でいて下さいよ……)

 

 《罠解除》のスキルを持ち合わせていないアロマさんでは、ソロで安全に迷宮区を歩くのは難しい。

 即死級のトラップなどは今のところ見かけていないが、無いとは言い切れないのだから、やはりアロマさん1人でここを歩かせるのは危険だろう。

 ここまでくるのに、私は1階1階を隅々まで踏破することはせず、階段を見つけ次第、上へと進んできた。

 アロマさんの性格上、そういった行動に走るのではないかと予測したうえでの判断だが、今となっては、その予測があっているのか不安になってきた。

 

 不安を誤魔化すように6階を走り続けていると、道の先に1人のプレイヤーの反応があった。

 ソロで戦闘中のようだ。

 

(もしや!)

 

 慌てて駆け付けると、そこにいたのは――

 

「……キリトさんでしたか……」

 

 ――《黒の剣士》や《ビーター》と呼ばれ、盾無しの片手剣使いとして有名になっている、ソロプレイヤーにして攻略組の1人であり、私のフレンドでもあるキリトさんだった。

 

「フッ!」

 

 彼は敵対していたモンスター――《グラップラー・ハイオーガ》にトドメの1撃を加えたところだった。

 

「……ふぅ……」

 

 オーガがポリゴン片になって散っていく様を背に、キリトさんは剣を払い1つ大きく息を吐き、こちらへ視線を向けた。

 

「セイドか。久しぶり……でもないか。昨日ぶり。こんなところで会うなんて珍しいな」

 

 彼は剣を背の鞘に収めながら、私に笑顔で挨拶をしてくれた。

 

「こんばんは、キリトさん」

 

 私も笑顔でキリトさんに挨拶しつつ、彼の様子に目をやった。

 キリトさんは昨日、フィールドボス討伐後、すぐにここにやって来ていた。

 その彼が、この時間に此処に居るということは――

 

「――キリトさん、もしかして……ずっと籠っていたんですか?」

「あぁ、出来る限り先行して、宝箱とかも開けたいからな」

「……そうですか……」

 

 何とも、キリトさんらしい答えに、思わず笑ってしまった。

 まあ、そのくらいでなければ、ソロで攻略組の一角を担うのは難しいだろう。

 

 と、そこで、キリトさんが籠り続けていたということを再認識するとともに、アロマさんを見かけた可能性があるのではないかと思い至った。

 キリトさんはモンスターを避けるどころか、積極的に狩っているはずだ。

 それにおそらく、可能な限りマップを埋めながらここまで来ているはずだ。

 ならば、アロマさんがここに来たとすれば、キリトさんが見かけている可能性は高い。

 

「すみません、つかぬ事を伺いますが、この辺りで、赤髪で、このくらいの身長の、両手武器を背負った、おそらくソロの女性プレイヤーを見かけませんでしたか?」

 

 私は挨拶もそこそこに、身振り手振りでアロマさんの身長や特徴を伝え、キリトさんに尋ねた。

 アロマさんのことだから、野良でパーティーを組んでいるとは考えにくい。

 

「女性プレイヤー? ん~……いや、知った顔以外は見てないな。もし見かけてたら、ソロ以外であっても流石に覚えてるよ。それに、こんな場所にソロで来るような女性は、まず居ないよ」

 

 然程期待はしていなかったが、それでも微かな望みは叶わなかった形になった。

 

「……見ておられませんか……やはり、ここには来ていないと考えるべきなのか……?」

「……何かあったのか?」

 

 私の様子を見て、キリトさんが何事かと尋ねてきた。

 話して良いものかとも思ったが、この際、協力者を得られるのであれば形振り構っている場合ではないと判断し、キリトさんに簡単に事情を説明した。

 

「――なるほど。その、アロマって女性を探してるのか」

「ええ……これで彼女に何かあったら……私の責任です……!」

 

 私は思わず下を向き、唇を噛み、両手を強く握りこんでいた。

 

「……分かった。俺も気にしてみるよ。まだしばらくここにいるから、流石にソロの女性プレイヤーが通りかかれば気付けるだろうし」

 

 そのキリトさんの言葉を聞いて、私は跳ね上がるような勢いで彼の手を取って、真正面から彼の顔に近付いてしまっていた。

 

「本当ですか?!」

「あ、ああ……」

 

 あまりの勢いに、キリトさんが引いてしまったところで、身を乗り出し過ぎたと反省し、手を放して頭を深く下げた。

 

「ありがとうございます! すみません、余計なお手間を取らせることになってしまって! アロマさんが見つかったら、このお礼は必ず!」

「いや、まだ見つけてないし! そんなの気にしなくていいから! 頭を上げてくれ!」

 

 何故か慌てた様なキリトさんの言葉に、私は頭を上げてから、アイテムストレージを開いた。

 

「すみません。では、私は1度ホームに戻ってみます。キリトさんの方で何か分かったらメッセージを飛ばして下さい!」

 

 私は、ストレージから取り出した《伝言結晶》を、キリトさんに強引に2つ押し付けた。

 通常、ダンジョン内にいるとメッセージを送ることも受け取ることもできないのだが、この《伝言結晶》を使えば、互いがダンジョンに居たとしてもメッセージの送受信ができる。

 

 と、それだけなら便利なようだが、実はこの《伝言結晶》、中々使い辛い消耗品だ。

 《伝言結晶》でメッセージを送れる相手は、フレンドもしくはギルドメンバーリストに名前がある相手に限られる。

 更に、送れる文字数は50文字だけで、それでいてそれなりに値が張るの物なので、普段はあまり使うことは無いが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

「……分かった」

 

 キリトさんも私の心情をくみ取ってくれたのか、それなりに値の張る物を受け取ることに一瞬の躊躇いは見せたが、特に断ることなく《伝言結晶》を受け取ってくれた。

 

 その代わりと言うように、キリトさんはマップデータを私に送ってくれた。

 ありがたいことに、1階から5階までは、ほぼ全てのマップが埋められていて、6階も4割以上が埋められていた。

 

「流石、キリトさんですね……しかし、徹夜は程々にして下さいね」

「ハハハ、分かってるよ。安全エリアで仮眠は取ってるから大丈夫さ」

 

 私の言葉に、キリトさんは笑って答えた。

 流石、トップを走るソロプレイヤーだ。

 迷宮区で夜を明かすとは、大した胆力だと、つくづく思い知らされた。

 

「では、この場は失礼します。キリトさんはキリトさんで、ご自分の予定を優先して下さい。こちらのことは、事のついでで構いませんから!」

 

 それだけ言い置いて、私は来た道を戻り――アロマさんを探しながら――迷宮区を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 1度ギルドホームへと思ったところで、私たちは再度情報を纏めたのだが、何の進展も無いことが分かっただけだった。

 

 いや、アロマさんの捜索の手を広げることができたという意味では、進展していると言えなくはないが。

 結局、ログさんの店にもマーチの情報網にもルイさんの捜索先にも、アロマさんの痕跡は見つけることができなかった。

 私はそのまま夜通しアロマさんの捜索をするために、アイテムを補充してホームを出たが、マーチ・ルイさん・ログさんの3人には、無理をせずに寝るように言いつけておいた。

 

 特に、ログさんとルイさんの2人は、マーチにホームで寝たことを確認させた。

 マーチ自身が寝たかどうかは、知る術は無いが、おそらくホームで夜を明かしてはいるはずだ。

 マーチがルイさんから離れることは、基本的にあまりないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 私は再び迷宮区に足を運び、夜を徹して上へ上へと進み続けた。

 途中で再びキリトさんと出会うこともあるのではないかと思っていたが、昼頃にフレンドリストで居場所を確認した時には、キリトさんは街に戻っていた。

 

 

 私はマップを埋めながら上へ上へと進み続け、20時を回った頃には11階へと至るための階段に辿り着いた。

 そしてそこで、複数のプレイヤーの反応が下りてくるのを捉えた。

 反応は6人で、全員がグリーンだった。

 

(攻略組のパーティーか……この時間に、この上に居たということは……《KoB》か《DDA》かな……)

 

 私は階段ですれ違うであろう相手パーティーのギルドを予想したが、よもやここでこのメンバーに出会うとは思っていなかった。

 

「む……」

 

 相手は、私の顔を確認すると、表情を曇らせて小さく呻き声を上げた。

 

「……こんばんは、セイドさん」

「アスナさんたちでしたか。こんばんは」

 

 下りてきたのは、ギルド《血盟騎士団》のアスナさんが率いるパーティーだった。

 

 アスナさんの苦々しい表情に、私は笑顔で挨拶を返しておいた。

 どうもアスナさんとは、以前のデュエル以降、決して仲が良いとは言えない、妙に緊張感のある間柄が続いている。

 

「……先に行って下さい。わたしは少し、この人と話をしていきます」

 

 唐突にアスナさんがそんなことを言って歩みを止めた。

 この人というのは、やはり私の事なのだろうが、何故突然そんな事を言いだしたのだろうか。

 

「アスナ様。このようなところで、どこの馬の骨とも分からぬ輩と2人きりで話をするなど――」

「クラディール。先に行きなさい。副団長命令です」

 

 何やらアスナさんの行動を咎めようとした、《両手剣》を腰に佩いた細面の男性だったが、アスナさんの無表情での命令の一言で、苦々しい表情を顕にしながらも、渋々その場を後にした。

 他のメンバーも一緒に階下へと下りて行くをの確認し、彼らの反応が捉えられなくなったのを確認してから、私は口を開いた。

 

「……よろしかったのですか?」

「良いんです。少し息苦しい位ですから……」

 

 私の質問にそう答えたアスナさんは、小さくため息を漏らした。

 私の見慣れた、凛としたアスナさんとは違う、素顔の彼女の一面を垣間見た気がした。

 

「それに、貴方に話があるのは本当の事ですから」

 

 そう言って私に向き直ったアスナさんは、普段の――攻略組を取り仕切る《KoB》の副団長としての表情を取り戻していた。

 

「キリト君に聞きました。貴方が、あの赤髪のアロマさんという女性を探しておられると」

 

 あぁなるほど、と、キリトさんからアスナさんへ情報が渡っていたということが分かって、得心がいった。

 攻略にしか意識を向けていないアスナさんに、そんな話が届くはずがないのが普通なのだから。

 

「ギルドメンバーやフレンドなら、居場所が分かるはず。それなのに探しているということは、ギルドを脱退したうえに、フレンド登録まで抹消されたということですよね?」

 

 キリトさんがアスナさんに詳しく話をしたとは思えないが、探しているという話だけでそこまで推測したのだとすれば、やはりアスナさんは恐ろしい洞察力を備えていると言えるだろう。

 

「流石アスナさんですね……その通りですよ。今アロマさんの行方は、一向に掴めていません」

「……一体何をしたんですか? まさか貴方のような人が……その……いかがわしいことはしないとは……思いますが……」

 

 アスナさんの考えが良からぬ方向に向いていたようなので、流石に訂正を入れる。

 

「まさか! 流石にそういったことはしてませんよ……ちょっと口論になって、デュエルになったんですが、本気で相手をしてしまって、泣かせてしまいました……」

 

 アスナさんに詳細な事情を説明すると、ルイさん以上に説教されそうなので、簡単に事実だけを伝えることに留めた。

 

「……女性相手にむきになるなんて、貴方にしては珍しいですね」

 

 此方の心を探ろうとするような視線を掻い潜り、至って平坦な笑顔だけを返すと、アスナさんは思わぬ言葉を口にした。

 

「……しかし、彼女には貴方も全力を出さざるを得なかったというのは、少し羨ましいです」

「羨ましい?」

 

 アスナさんの《羨ましい》という発言の意図が掴めず、私は鸚鵡返しに聞き返した。

 

「以前の貴方とのデュエル。わたしは本気で勝ちに行ったのに、貴方に全て受け流されてしまいましたから」

 

 アスナさんの瞳に、敵対心の炎が揺らいで見えたような気がした。

 

「いやいや! あの時の私には、あれが精一杯だったわけですから。あれも私の全力ですよ?!」

 

 アスナさんが何か勘違いをしている気がしたのだが、その誤解を解くのは難しそうだった。

 

「いずれあの時の借りは返しますよ」

 

 真顔でそんなことを言われては、私としてもこれ以上弁明することは無理だろう。

 

「あはは……私は私で、貴方の攻撃の速さと的確さに、回避できなかったことで落ち込んだんですけどね」

「あれで回避されたら、わたし、立ち直れないと思うんですけど……」

 

 そこまで話が至ったところで、思わず、お互いに小さく吹いてしまっていた。

 アスナさんはアスナさんで、今の話は冗談半分だったのだろう。

 

「――失礼しました」

 

 アスナさんはすぐに表情を引き締め直した。

 

「アロマさんといいましたよね。赤毛で両手剣を使う、背の低めな女性プレイヤーという絞り込みでよければ、わたしたちの方でも少し探してみましょう」

 

 アスナさんからの思いもよらぬ提案に、私は心の底から驚いた。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 そんな私に、アスナさんはちょっと苦笑いを浮かべていた。

 

「ええ、貴方がそんなに疲れ切った表情でいるのは初めて見ましたから。わたしたちにも、できることをさせていただきます」

 

 アスナさんのその言葉に、私は初めて自分の表情というものに意識を向けた。

 そんなに疲れた顔をしていたつもりは全くないのだが、普段会わないアスナさんですら分かるほどとなると、相当だったのだろう。

 私は、自分の頬を1度叩いて表情を引き締め直した。

 

「すみません、ありがとうございます」

 

 私はアスナさんに頭を下げて礼を言い、キリトさんの時と同じように《伝言結晶》を2つ渡した。

 

「これは《伝言結晶》……本当にアロマさんのことが心配なんですね」

「……はい……あ、もちろん捜索は、攻略やレベル上げのついでなどで構いませんから」

 

 アスナさんは私から《伝言結晶》を受け取り、それをポーチにしまった。

 

「分かりました、何か分かり次第、メッセージを送ります」

 

 笑顔で引き受けてくれたアスナさんに、私は深く頭を下げて、この場は別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 アスナさんはKoBメンバーと合流後、街まで戻っていた。

 私はアスナさんから譲ってもらった12階までのマップデータを基に、さらにアロマさんの捜索を続けたが、マップの無い13階に辿り着いた時点で午前5時を回っていた。

 

(……流石に……時間も時間か……)

 

 ロクに睡眠を取っていなかったためか、注意力が散漫になり、13階を捜索しようと踏み出した瞬間に、小さな段差に躓いて派手に転倒した。

 そこで初めて時間を確認した位だ。

 

(1度、帰るべきか……)

 

 誰も見ていなかったとはいえ、気恥ずかしさに後押しされ、慌てて立ち上がった。

 アイテムストレージを確認し、アイテムの補充も必要になっていたことに気が付いた。

 

(……注意力散漫にもほどがあるな……このまま進んでたら、死んでたかもしれない……)

 

 私はモタモタとメニュー画面を色々と操作し、一通りの確認を終えたところで、ポーチから《転移結晶》を取り出した。

 と、そこで、真っ直ぐにギルドホームに跳ぶのではなく、1度、確認しておくべき場所があることに思い至った。

 

「転移。《はじまりの街》」

 

 あり得ないことだとは思いつつも、一抹の不安を拭いきれなかった私は、ここに転移した。

 

(絶対にあり得ないとは思いますが……)

 

 《はじまりの街》でしかできないこと――それが、黒鉄宮にある《生命の碑》の確認だ。

 第1層の《はじまりの街》の中心部にある《黒鉄宮》は、SAO最大ギルドである《アインクラッド解放軍》のベースでもある。

 そこに安置された《生命の碑》には、SAOに囚われた全プレイヤーの名前が記されており、そして、死んでしまった者たちの名前には、無情な横線が刻まれる。

 

 あり得ないとは思いつつも、不安に後押しされるようにして、ここに足を運ばずにはいられなかった。

 日の出が近くなり、地平線の彼方がうっすらと明るくなり始めた頃、私は《生命の碑》の前にやって来ていた。

 

(アロマさん……アロマさん……)

 

 イニシャルがAなので見つけるのは容易(たやす)かった。

 そこには――横線が刻まれた《Aloma》の名前があった。

 

「――っ!」

 

 息が止まった。

 何度も瞬きをし、目を擦り。

 しかし、見間違いではなかった。

 

「う……そだ……」

 

 だが、何度見直そうと、文字は変わらない。

 横線も消えはしない。

 

「うそだ……うそだ……うそだっ……う……うぅぅ……ぅ……そだぁぁぁぁああ‼」

 

 気が付けば、床が目の前にあった。

 膝をつき、亀のように体を丸めていた。

 

「うそだうそだうそだうそだぁぁ……」

 

 床が濡れていた。

 涙が止まらず、流れ続けている。

 

「う……うぐぅぅぅっ……」

 

 意を決し、もう1度顔を上げるが。それでも事実は変わらない。

 そこにあるのは【Aloma 完全決着デュエル】という表記。

 

「完全……決着……デュエル……」

 

 そんなものを挑まれて、受けるプレイヤーがいるはずがない。

 負ければHPが全損する――つまり死に至るこの世界で、そんなデュエルは誰だって受けたりしない。

 なら、あり得る可能性は1つだ。

 

「P……K……少し前に流行った……睡眠PKか……!」

 

 思いっきり床を殴りつけていた。

 反射的に床に破壊不可のシステムメッセージが流れるが、そんなものは気にもならなかった。

 

「……犯罪者(オレンジ)どもめ……! 殺人者(レッド)どもめぇ……!」

 

 感情の置換だったのだろう。

 アロマさんが死んでしまったという事実を認めたくないという悲しさと、アロマさんを殺したであろう犯罪者プレイヤーたちに対する憎しみの、すり替え。

 だが、この時の私には、それ以外に心を保つ術がなかった。

 

「……うおぉぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁああっ!!」

 

 

 




さて、気が付けば今年も終わりですね(ー_ー)

今年は私にとっては、新しいことに挑戦した年でした。
主に、DoRをネット投稿してることに関してですが!

新年になってもまだまだ終わりの見えないDoRの話を、お読みいただけている皆々様に感謝をこめて、これからも続けていきたいと思います。

これからも、DoRのメンバーともども、よろしくお願い申し上げます m(_ _)m

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。