ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

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きっく様、皇 翠輝様、テンテン様、ポンポコたぬき様、無零怒様、鏡秋雪様、イツキ87様、路地裏の作者様、ぬおー様、感想をお寄せいただき、誠にありがとうございます!! m(_ _)m


更新が遅くなりまして、申し訳ありません(;一_一)
2週間以上……間が開いた……orz
本当なら2~3話まとめて投稿したいところなのですが、できそうにありません(ーー;)ゴメンナサイ


お気に入り登録件数が830件を超えておりました……!(>_<)
ありがとうございます!(>_<)

皆様からの声を糧に、今後はあまり間を開けずに投稿できるよう努力します!

そして気が付けば50話目です。記念すべき、かどうかは、微妙な内容かもしれません……(・_・;)



第四幕・無月

 

 

 頭の中で鳴り響く音に目が醒める。

 ほぼ毎日利用している《強制起床アラーム》も、流石に1年以上利用していると慣れはするが、未だに気持ちの良い目覚めという感覚とは程遠い。

 だが同時に、現実ではあり得ないシステムを利用することで、この世界が現実ではないということを、目覚めて真っ先に自覚できる。

 

(……今日も、デスゲームか……)

 

 私は体を起こしてベッドから降り、大きく伸びてから軽く腕や首を回した。

 現実の肉体ではないことは分かっているが、気分的にも体を解すと目が醒める。

 

(……最前線は60層……まだまだ先は長い……)

 

 SAOの世界に囚われて1年半が経過しようとしているが、徐々に1層毎のクリアペースが落ちている。

 特に、ここ数層は2週間近くかけて1つの層をクリアに漕ぎ着けるのがやっとだった。

 

(……ペースダウンの原因は、間違いなく……)

 

 ペースダウンの原因を考えると、気付かぬうちに眉間に皺が寄っていた。

 

 今現在の最大の厄介事と言えるであろう、システムに規定されていない《殺人者(レッド)》属性を自称する最悪のギルド――《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の台頭は、それまで殺人という行為に走らなかった犯罪者(オレンジ)プレイヤーたちも煽り立て、その結果、ここ最近はプレイヤー同士の争いが高い頻度で生じている。

 

 それに伴い攻略組にも様々な弊害が起こり、攻略の速度が鈍った。

 昨日のフィールドボス討伐戦すら、当初の予定より2日遅れての攻略となったのだ。

 

(流石に、このまま放置はできないでしょうが……奴らの隠れ家が分からないのでは始まらないですね)

 

 有力な情報屋プレイヤーたちは総出で《笑う棺桶》のアジト探索を行っているようだが、未だ発見の報告は上がっていない。

 

(私も探索した方が良いかもしれませんね……しかし……そうなると、さらに時間が無くなる……)

 

 現状を鑑みて、思わずため息を吐いていた。

 そんな暗い気分のまま部屋を出ると、ルイさんが用意してくれているのであろう朝食の良い香りが鼻腔をくすぐった。

 

(……何はともあれ、まずは朝食ですかね)

 

 直前まで悶々と考えていたことなど鼻で笑うかのように、空腹感が襲ってきた。

 自身の呑気さにも軽く呆れつつも、私は空腹感で少し軽くなった足取りと笑顔で食事が並べられ始めていた居間へと下りた。

 そこでは毎朝のように、ルイさんが朝食を並べているところだった。

 

「相変わらず時間に正確だね~、おっはよ~セイちゃん」

 

 私が下りてきたことに気が付いたルイさんは、相変わらずの柔らかい笑顔で出迎えてくれた。

 

「おはようございます、ルイさん。私より早く起きて食事の支度をしているルイさんには敵いませんよ」

 

 私は食事を並べる手伝いをしようとして、今日のメニューのある共通点に気が付いた。

 

「これは……アロマさんがとても喜びますね」

 

 食卓に並べられ始めていたメニューは、どれもアロマさんの好物ばかりだった。

 キッチンで調理中の物も、おそらくアロマさん好みの物なのだろう。

 そんな私の言葉を聞いて、ルイさんはちょっと苦笑した。

 

「だって~、セイちゃん、昨日ロマたんに辛い思いさせたみたいだから~、少しでも元気出してもらおうって思ってね~」

 

 ルイさんの一言で、私は思わず動きを止め、顔を伏せて立ち尽くした。

 

「……すみません……ルイさんにまで気を遣わせてしまって……」

 

 私とアロマさんのデュエルには、マーチが立ち会っていたのだ。

 そのマーチが、昨夜の事をルイさんに話さないわけがない。

 昨夜の事を聞いたからこそ、ルイさんはアロマさん好みの朝食を揃えたのだろう。

 

「私は良いんだよ~。っていうか~、私に謝っても仕方ないでしょ~?」

 

 ルイさんは苦笑を浮かべたまま、食事を並べながらそう言った。

 私が1人で何をしているのかルイさんとマーチには説明してあるので、私がアロマさんに言えない事情は分かっているはずだ。

 

「……しかし、あれは……アロマさんには……」

「ん~……セイちゃんの気持ちも分かるけどね~」

 

 私が立ち尽くしたまま何とかそう答えると、ルイさんは何か考えるように少し間を開けてから続きを口にした。

 

「でもね~? ロマたんの気持ちも分かるんだ~。マーチんがセイちゃんと同じことしたら~、私だって騒ぐよ~?」

 

 柔和な性格のルイさんがそう言う程だ。

 アロマさんに知られれば確実に『騒がれる』では済まないだろう。

 

 だからこそ、アロマさんを同行させることは避けたいのだ。

 私が何と答えればいいのか黙考していると――

 

「ま、俺だったら? ルイに隠したりせず、正直に話して、一緒に行くけどな」

 

 ――唐突にマーチが話に入ってきた。

 何時の間にやら起きて来ていたらしい。

 

「おはよ~マーチん。今日は早いね~」

「おはようございます、マーチ」

 

 とはいえ、マーチはまだ眠いようで、(しき)りに欠伸(あくび)を噛み殺している。

 

「珍しいですね、ルイさんに起こされる前に起きてくるとは」

「おはようさん。何となく目が醒めただけの、気まぐれだ」

 

 欠伸を噛み殺していたマーチは、未だに立っていた私を追い越し、自分の席に腰を下ろした。

 マーチが椅子に座ると、すかさずルイさんがマーチの前に珈琲を置いた。

 流石の対応だ。

 

「ん、サンキュ」

 

 マーチがコーヒーを口に運ぶのを見て、私もとりあえず座ることにした。

 

「セイちゃんは~、今日は紅茶にしとく~?」

「ありがとうございます、お願いします」

「は~い」

 

 私の返事を聞いて、ルイさんは一旦キッチンへと戻って行った。

 

「んで? アロマとは話したのか?」

「はい?」

 

 珈琲を皿に置いたと同時に、マーチは唐突に話を振ってきた。

 私は瞬間、話の流れを理解しきれずに疑問を返すしかできなかった。

 

「だから、昨日の話だ」

 

 マーチは言葉少なにそれだけ言うと、また珈琲を口に運んだ。

 おそらくマーチは、私がアロマさんに事の説明をしたのかと問うているのだろう。

 

「昨日……あれからすぐに出かけて……戻ってきたのは3時過ぎた頃でしたし、流石にまだアロマさんは起きてこないでしょう」

 

 アロマさんが自然に起きてくることは滅多にない。

 朝食の支度が全て整った頃に起こしに行くのが通例になっている。

 

 ――ちなみに、ログさんはこの時間だと既に《ウィシル》に出向いている。

 ルイさんとログさんは毎朝5時には起きているのだから、大したものだと思う。

 

「……ってことは顔も見てねえのか……今はそっとしといてやるべきか?」

 

 マーチの呟きの様な一言に、私は少し苦笑しながら答えた。

 

「ルイさんがアロマさんの好物ばかりを揃えて下さっていますから、すぐに起きてくる気もしますけどね」

 

 しかしマーチは、そんな私の言葉など耳に届いていないようで、至極真面目な表情で私を見て――いや、睨んでいた。

 

「……なあセイド、1つだけ言っとくぞ」

「はい、何でしょう?」

 

 マーチの態度を見て、私も雰囲気を真剣なものに改める。

 

「午前の狩り、いつも俺らと一緒に居る必要はねえぞ?」

 

 マーチの言葉に、私は今度こそ話の流れを汲みとるのに苦労した。

 

「夜はアロマと一緒に狩りに行ってやれ。お前は午前の時間を使って、やりたいことをやりゃあいい」

 

 その言葉に、私は思わず眉間に皺を寄せていた。

 

 つまりマーチは、これまで常に3~4人で行動してきた午前の狩りを、団体行動でなくてもいいと言っているのだ。

 だが、私はこれには反論ができる。

 午前の狩りは、パーティー内での連携やスキルの確認、新しい狩場での傾向と対策を模索する時間でもあるのだ。

 そう易々と無くしていい時間ではない。

 

「マーチ、何言ってるんですか。午前は全員で――」

「その考え方から、変えろって言ってんだよ」

 

 しかしマーチは私の言葉を遮って、さらに言葉を重ねてきた。

 

「この城の前半までは、確かにルイのことを考えてそういう体制を取ってきた。取ってもらってきた。それには感謝してる。だがな、今の俺らはその頃とは違う。充分にレベルも上がったし、ルイももう大丈夫だ」

 

 確かに、私がこのサイクルを考えたのは主にルイさんの為でもあった。

 しかし、今はその趣旨とは別に目的があって、このサイクルを続けているのだ。

 

「そうかもしれませんが――」

「黙って聞け」

 

 私が更に反論をしようとすると、マーチはついに、私に黙れと言い切った。

 

「この世界の状況を考えりゃ、お前はもっと前に出るべき時が来たんだよ。攻略組の一員として、お前が最前線に立つべき時がな」

 

 マーチは断定する形で話を続けた。

 

「その時、お前の横に立つのは俺でも、ルイでも、ログでもねえ。アロマだ」

 

 マーチのその言葉に、私は思わず呼吸することすら忘れた。

 

「いいか。アロマのことを第一に考えて行動してやれ。ギルド全体のことは二の次で良い」

 

 そこまで言って、マーチは珈琲を1口飲んだ。

 しかし、その真剣な視線は、私を見据えたままだった。

 

「そして、お前は今後、ギルドのことより前線に出ることを優先しろ。だが、俺はルイを前線に引っ張り出したくねえ。俺とルイはそのことを話し合って、互いに了承している。だが、アロマは違う」

 

 マーチはここで言葉を切った。

 

「……アロマさんは違う、とは、何が違うんですか?」

「あいつは、俺とルイとは違う。お前が俺達に気を遣ってるみてえに、あいつに気を遣う必要はねえ。あいつはお前の横に立ちたいって願ってんだ。役に立ちたいって言ってんだ。なら、それを尊重してやりゃあいい」

 

「マーチ、何を言っているのか分かってますか? 私が前線に出、それにアロマさんが付いて来れば、アロマさんを危険に晒すということに――」

「本人がそれを望んでるって言ってんだよ。アロマの実力なら、すぐにレベルも盛り返せる。あいつも、最前線に出た方が伸びるタイプなのは分かってんだろ?」

 

「タイプの問題じゃない。危険だと言っているんだ。私はアロマさんに危険な目に遭って欲しく無い」

「アロマも、お前にそう思ってるだろうさ。お互い様なんだよ、そんなこたぁ。ルイみてえに前線に出たくねえって言ってる奴を引っ張り出すのは問題だし反対だが、出たいって言ってる実力者を無理やり押し込めるのは正しいとは言えねえぞ」

 

 マーチの論に、私は思わず言葉を飲み込んでしまった。

 

「そして、今のままじゃ、お前もアロマも最前線で通用するかは微妙なラインだ。だからこそ、お前はアレを始めるって言い出したわけだが、ならアロマも同時に引き上げてやるべきなんじゃねえのか?」

「だが、あれは……見せるのは……」

「恥なんざ晒せ。命より大切なものはねえってのが、このギルドの基本だろう。危険に晒したくねえってんなら、アロマは鍛えてやるのが1番いい。あいつはまだ確実に伸びる。昨日のデュエルでお前も実感しただろ」

 

 確かに、アロマさんの実力には驚かされた。

 そして、その先にある可能性も、私よりも多くのものを持っている。

 

「アロマは未完成の器だ。あいつはきっと、この先の攻略でカギになる、なれるだけの実力がある。少なくとも俺はそう思った。お前の横で、一緒に伸びていくべきだ」

 

 マーチはそこまで言うと、小さくため息を吐いて珈琲を口に運んだ。

 言いたいことは全て言い切ったと、態度で表すように。

 

「んじゃ、次は私から言わせてもらおうかな」

 

 マーチからの《説教》が終わったところで、ルイさんが私の前に紅茶を置いた。

 それと同時に、そんなことをルイさんが言いだした。

 

「え……」

 

 私は出してもらった紅茶に手を出すことなく、恐る恐るルイさんに視線を向けた。

 ルイさんは席に座らず、出来上がった朝食をテーブルに並べながら口を開いた。

 

「ねえ、セイちゃん、ロマたんとセイちゃんの立場を入れ替えて、考えてみた?」

 

 ルイさんはいつもの間延びした口調ではなく、ハキハキとした口調で話し始めた。

 

「セイちゃんがロマたんの立場だったら、どうしてる? ロマたんがセイちゃんと同じことをしようとしたら、どうしてた? そういう事をちゃんと考えた?」

 

 ルイさんのその言葉に、私はしばし黙考し、首を横に振った。

 

「……いえ……全く考えていませんでしたね……」

 

 私のその返答を聞いて、ルイさんは朝食を並べ終えるまで黙ってしまった。

 

「あの……ルイさん?」

 

 朝食を並べ終えたところで、ルイさんは呆れたようにため息を吐いて、私を真正面から見据えた。

 

「まったく……セイちゃんはそういうところが弱いよね。女心が分かってないって言うべきかな。戦略とか攻略とか、セイちゃんの得意な頭脳戦かも知れないけど、人の心って、そんな簡単には理解しきれないんだよ」

「そう言ってやるなよ、ルイ。こいつに女心が分かるような要素がありゃ、彼女の1人や2人、いてもおかしくねえだろ?」

「……マーチ……それはフォローのつもりですか?」

「いや。全然?」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべたマーチは、しかし即座にルイさんに頭を叩かれ、沈黙することになった。

 

「からかわないの。私も真面目な話をしてるんだよ、コウちゃん」

「ご、ごメンなさイ……」

 

 今のルイさんの一言で、私もマーチも、ルイさんが本気で説教する気になっていることを痛感した。

 まさか、マーチのリアルネームを口にするとは、驚いた。

 マーチに至っては、謝罪の声が震えていた。

 

「セイちゃん」

「はい」

 

 そんなルイさんの言葉の矛先が私に向いた。

 

「食事も整ったから、ロマたん起こしてきて。そして、食事の後で、しっかり話をしなさい。洗いざらい全部だよ。そして、隠してたことも謝る。デュエルしたことも謝る。女心を理解できなかったことも謝る。全部謝るの。分かった?」

「……はい」

 

 有無を言わせぬ絶対零度の眼差しでルイさんはそれだけ言うと、再びキッチンに戻って行った。

 

「……何であんなに怒ってんだ?!」

「……多分ですが……マーチがからかったのと、私がアロマさんの考えを蔑ろにしたからかと……」

「ここ最近で、1番の恐怖を感じたぞ」

「同感で――」

「セイちゃん! サッサと動く!」

「はいぃ!」

 

 ルイさんの一言で私はすぐに立ち上がり、アロマさんの部屋へと直行した。

 

 このギルドで1番強いのはルイさんだ、間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

「アロマさん? 起きてますか?」

 

 私はアロマさんの部屋の扉をノックして、そう声をかけた。

 しかし、返事は無い。

 いつものことながら、また二度寝でもしたのだろう。

 私はもう1度ノックをして声をかける。

 

「アロマさん、入りますよ?」

 

 やはり返事は無いが、これもいつものことだ。

 私はため息とともに、毎朝のことながら、ギルドマスター権限でアロマさんの部屋の鍵を開け――

 

「ん?」

 

 ――ようとして、鍵がかかっていなかったことに気が付いた。

 

 このギルドホームの基本設定で、各々の部屋の扉はオートロックになっている。

 その設定変更は個人ではできないようにしてあるので、アロマさんの部屋の鍵がかかっていないという状況は、普通はありえない。

 

「アロマ、さん?」

 

 私はアロマさんの部屋の扉を開け、中に入った。

 室内は真っ暗で、カーテンどころか雨戸まで閉まっていた。

 私はすぐに部屋の灯りを点け、そして愕然とした。

 

 ベッドは無人――いや、室内は無人だった。

 相応に散らかっていたはずのアロマさんの私物も、1つも見当たらなかった。

 

(ま……さか……)

 

 私は、アロマさんの部屋の鍵がかかっていなかった理由に、1つだけ思い当たった。

 部屋主登録がされていない、もしくは無効(・・)になった部屋は、オートロックにならない。

 

 ――即ち、今この部屋は、誰の部屋でもないと、システムに認識されているということに他ならない。

 

 

 それはつまり――

 

 

(まさか! アロマさん!)

 

 私は慌ててメニュー画面を開き、ギルドのメンバーリストを呼び出した。

 そこには、アロマさんの名前が――無かった。

 

 

 ――アロマさんがギルドを抜けたという、確たる証拠でもあるということになる。

 

 

 


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