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皆様本当にありがとうございます!m(_ _)m
これからも精一杯書かせていただきます!(>_<)
第四章の開幕となります m(_ _)m お付き合いいただければ幸いです。
第一幕・虧月
いつ頃からだっただろう。
私の所属するギルド《
私は1人、50層の隅にあるダンジョンで両手剣を振り回していた。
目的のモンスターを探しては狩り続けながら、ふと、そんなことを考えていた。
(ああ、ギルドっていうか、セイドが、か)
近頃になって、セイドは攻略組の1人として、その名を知られるようになった。
《閃光》や《黒の剣士》などのように、通り名まで付けられている。
それも1つではなく、2つ。
セイドの実力から考えれば当然のこととも思うけど、攻略組としての認識がギルドとしてではなくセイド個人としてというのは、何となく寂しい気もする。
(まあ、それも仕方ないのかなあ)
ダンジョンを歩き、モンスターを見つけては叩き斬る、を繰り返しながら、私は黙々と考え続ける。
ここ最近、1人で狩りをしていると、あの日のことを――私にとって、運命の分かれ道になった時のことを――思い出すようになった。
『私もあなた達の仲間に入れて。セイドの傍で、役に立ちたいの』
私とセイドが出会ったMPK騒動の後、私がセイドにギルド加入申請をしたときの一言だ。
これは、本音半分、建前半分だった。
『《
私はこの質問をする時、わざとセイドに抱き着いた。
聞かれたくないなんて言う理由をこじつけて、セイドに真正面から質問するために。
『何故貴女はこのギルドに入りたいと思ったんですか?』
でも、セイドはそんな私の行動にも、真面目に対応してくれた。
襲われても文句の言いようがないような挑発的な行動だったのに。
自分のした行動にドキドキしながらも、セイドが私に何もしてこなかったから、ドキドキした分、とてもホッとしたのを覚えてる。
『昨日、あの場にセイドが居なかったら、私はきっと死んでた。それを救ってくれたのは、間違いなくあなた。だから、私はセイドに恩を返したい。本気でそう思ったから、ギルドに入れてほしいと思ったの』
正直に言うなんて言いながら、実はこれも、建前半分、本音半分だった。
『エクストラスキルだ、《剣技》だ、って、確かに聞きたいことは聞いたよ。でも、傍にいたいと思ったのは本当。命の恩人の傍にいたいと思うことが、そんなに変?』
コレが1番、本音に近かったかな、と思う。
結局のところ、私がDoRに加入したいと思った1番の理由。
それはとても単純で。
『セイドの傍に居たい』っていう事だけだった。
目の前の雑魚を2体続けて斬り飛ばしたところで、ふと思考が過去から現実へと戻ってくる。
私たちDoRは基本的にフィールドボスの攻略や、迷宮区のマッピング及び攻略、迷宮区最奥に鎮座するフロアボス攻略にも参加してない。
ちょっと前のKoB副団長様とのいざこざの後、ボス系の攻略にセイドが呼ばれるようになったくらいだ。
まあ、実は最近になって、マーチの所にもそんな感じの勧誘が来てるみたいだけど、マーチは1度も参加してない。
ルイルイを危険な目に合わせないためだろうし、自分が死んでしまった時のことも考えて、参加していないんだと思う。
(セイドも、マーチを見習って断ればいいのに)
セイドとマーチのスタンスの差かもしれないが、この点はルイルイが羨ましい。
『ギルドとしては参加しないが個人としてなら考えなくもない』
――なんてことを、閃光様の前で言った手前、都合のつく限りは参加するというのがセイドの姿勢らしい。
だけど、セイドが参加するたびに、毎回毎回見送りしかさせてもらえないこちらの気持ちも考えてほしい、と思わずにはいられない。
セイドの実力を疑うことは無いけれど、マーチもセイドも、ボス戦では何が起こるか分からないとハッキリ言っている。
セイドがギルドホームに無事に帰ってくるまで、気が気じゃない。
(私だって、強いはずなのに……何で一緒に行かせてくれないかな……)
無意識に頬を膨らませていた。
八つ当たりついでに通路を塞いでいたモンスターを切り伏せた。
セイドが招集されるたびに、私も連れて行ってほしいと駄々をこねてみるが、セイドは聞く耳を持たず――
『ついてくるつもりなら、1週間、アロマさんの食事は無しです』
――などと言って、いつもおいて行かれる。
本気で私を連れて行かない、というのがありありと見て取れるのだ。
(……私はやっぱり、足手まといなのかなぁ……)
そんなことを考えていると、無意識のうちにため息を吐いて、今日の午前のことを思い返していた。
午前中のギルドでの――といってもログたん以外の4人での――狩りは、何の問題も無く順調に終わった。
ギルドとしても連携は上々だし、個々の実力だって申し分ないし、装備もログたんお手製の渾身の一品だし、最前線に出ても何の問題も無いだけの状態ができているはずだ。
ちょっと前にも、攻略組トップギルドの1つ《聖竜連合》の攻撃部隊のサブリーダーだって、デュエルで負かしている。3戦全勝だった。
まあ、マーチに至っては10戦もやって、全て完封勝利だったけど。
(……それでも、実力は伴ってると思うんだけどなぁ……)
自分の両手を見つめながら、もう1度、ため息を吐いていた。
私は最近になって、焦りを感じ始めている。
今のDoRのメンバーをレベルが高い順に挙げれば、セイド・マーチ・私・ルイルイ・ログたんの順だ。
ちょっと前までマーチより私の方が高かったのに、いつの間にか追い抜かれていた。
ルイルイも私と同じレベルになっていて、正直驚いた。
差が縮まり始め、更には差が付き始めているのは、おそらく午後からの自由時間での狩りの差だ。
マーチとルイルイは常に行動を共にしているから、2人のレベルの伸び率はほぼ同じ。
それでいて、午前に4人で狩りに行っていた狩場に2人で行くのだ。
午前よりも効率は上がっているだろう。
それに比べて私は、ログたんがギルドに加入してからというもの、午後はソロ活動をしていることが多い。
それも、レベル上げが目的じゃない、今行っているようなソロ活動だ。
(う~……やっぱり、レベル上げメインじゃない分、追い付かれるのは仕方ないけど……)
目的のためとはいえ、やはりセイドとのレベル差が開く一方というのは、どうしても焦りを感じてしまう。
(これ以上レベル差が開くと……夜の狩りが厳しくなっちゃうかもなぁ……)
経験値的には決して美味しいとは言えないダンジョンで、1体、また1体とモンスターを切り伏せながら、それでも私の焦りは消えない。
夜は夜で、私はセイドと一緒に高効率のレべリングを行ってはいるが、現段階で、私とセイドのレベル差は8に開いている。
ついでに言えば、マーチは私より1つ上だ。
これで私に焦るなというのは無理な話だろう。
ルイルイとマーチには追い付き追い越され、セイドには離される一方。
さらに追い打ちのように、セイドは今、最前線である60層のフィールドボス戦に駆り出されている。
おそらく今日中にフィールドボスが撃破され、1週間と経たずに迷宮区のボス部屋へと至るだろう。
そして、フロアボス攻略に、またセイドは駆り出されることになるかもしれない。
――私が傍に居たいと思ったセイドは、今や私の手の届かない、遥か高みにいるように感じられる。
そんな焦りに押されたのか、私は不意に、過去の感情と今の焦りなどが
(私はセイドの傍に居たかった。でも、セイドはどうだったんだろう……今は、どうなんだろう……)
そんなことが脳裏をよぎって、私は知らず知らずのうちに歩みを止めていた。
たとえば、たとえばだけど。
私が何もできない女の子でも、セイドは笑って私を隣に置いてくれるかな。
セイドは、ただ単に、私が傍に居るっていうことを、良しとしてくれるかな。
……そんなことないよね。
そんな自信ない。
だって、私は、セイドに『役に立ちたい』『恩を返したい』って言ったんだもん。
きっとセイドは、それを信じてる。
だから私は、DoRの……セイドの役に立つことを考えた。
一生懸命考えた。
DoRの……セイドの役に立ったな、って思うと、安心してセイドの傍に立つことができた。
……最初の頃は、分かり易くて、良かったんだ。
私がDoRで1番火力が高かったから。
1度の戦闘にかかる時間は減って、1日で倒せるモンスターの数も増えて、狩りの効率がとても上がったって、みんなが喜んでたから。
セイドが褒めてくれたから。
『役に立ってる』っていう実感があった。
でも……最近はみんなも強くなった。
レベルも上がって、スキルも鍛えられてきて、私が抜けた狩りでも、着々と稼げるようになった。
あれ?
これって……もしかして私って……
……もう、セイドの役に立ってない?
そんな答えに行き着きそうになって、私は慌てて首を横に振った。
(そんなことない……はず……私は……)
悶々と悩みながらヨタヨタ歩き出して、特に注意も払わずに通路から小部屋に入った瞬間、唐突に部屋中にアラームが鳴り響き、出入口が塞がれて、モンスターが大量にポップした。
進入反応型のモンスタートラップだ。
「……だぁぁぁぁっ! うっさぁぁぁぁぁぁぁい!!」
悶々と悩んだ末に溜まっていた、よく分からない鬱憤を、安全マージンの確保されたダンジョンのモンスタートラップにぶつけることにした。
昼食後の狩りは、マーチとルイさんは2人で57層のダンジョン《溶岩龍のねぐら》でクエスト攻略も兼ねてレベル上げに、アロマさんはソロで50層のダンジョン《蜘蛛の巣の迷宮》で、ログさんに頼まれたらしい素材を集めに行っている。
(アロマさんですから……ソロでも、ここより10層下のダンジョンなら余裕でしょう)
「(おい、セイド!)」
黒服の片手剣士に、横から軽く肘で突かれながら小声で名を呼ばれ、私は意識を引き戻す。
「はい?」
「セイドさん。今の話、聞いてました?」
私は今、DoRの面々と離れて、最前線である60層のフィールドボス攻略会議に出席していた。
陣頭指揮を執っているのは、攻略組トップギルドの一角《血盟騎士団》副団長にして、SAO屈指の美貌と強さを併せ持つ《閃光》のアスナさんだ。
その彼女は今、もの凄い形相で私を睨み、話を聞いていたかと問い詰めてきている。
「ええ、聞いていましたよ。ですからその作戦に関して考えていただけです」
確かに一瞬、別のことに意識を向けはしたが、流石に攻略会議の内容を聞き逃すほど疎かにはしていない。
「では、貴方の意見を聞かせてもらいましょうか」
「ふむ……では、僭越ながら」
私は作戦マップの拡げられているテーブルに歩み寄り、アスナさんの提案した作戦にさらに細かな注意事項と反対意見も織り交ぜ、作戦の方針そのものは肯定しつつ、内容に大きな変更を提案した。
「――という方法を取ってはいかがでしょう。仮にこの策が途中で崩れたとしても、そこからアスナさんが提案なさった作戦へと変更することが可能です。ですが、逆は難しい。だからこそ、この作戦を提案します」
「……では、貴方が言ったように、貴方の策が崩れ、さらに私の策も崩れた場合の対策は?」
「それを補うための事前策が私の提案したものです。この形から崩れたとすれば、アスナさんの作戦に欠けていた配置に1パーティーか2パーティー素早く回ることができます」
作戦図上でパーティーに仮定した駒を動かしながら作戦の概要を説明する。
アスナさんの作戦を私の策で補った形になる。
「……流石ですね」
そう言いつつも、アスナさんの目は笑っていない。
先程よりもさらに強く睨まれている感じがする。
「他に何か意見のある人は?」
アスナさんにそう問われ、フィールドボス攻略に集まっているメンバーは沈黙で答える。
「では、今回のフィールドボスはこの作戦で討伐します。各隊に作戦の概要と役割を――」
アスナさんは決定した内容を素早く伝達し始めた。
それを確認して、私は思わずため息を吐いていた。
そうして、また意識をDoRのことに向け、ギルドリストを開いた。
そこには、それぞれのメンバーが今どこにいるのかしっかりと示されている。
マーチとルイさんは予定通り2人でクエストをこなしているようだ。
こちらに関しては、心配は無用だろう。
だが、やはり――
(アロマさんは……ソロですよね……)
その状況を再確認して、私は再び黙考する。
アロマさんがソロで狩りをするのは、いつものことではあるが、それでもやはり気になる。
アロマさんの実力は疑う余地は無く、DoRで最も攻撃力が高く、攻撃と防御のバランスが取れた、戦闘における万能型と言えるスタイルに仕上がりつつある。
それは、ルイさんを守るために自身を鍛え上げているマーチとも、マーチをサポートするために彼の隣に立つルイさんとも違う、ソロでも確実に行動ができる立ち位置だ。
(私との火力差は、火を見るよりも明らか。DoRが今のレベルを維持できたのはアロマさんがいたからでしょうね)
とりあえず、アロマさんの無事も確認できたのでメニューを消すと、丁度アスナさんが指示を出し終えたところだった。
「では、それぞれ、作戦開始時間の10分前までには所定の位置に着くように! 今回も勝つわよ。誰一人欠けることなく!」
アスナさんのその掛け声に皆が力強く応じ、作戦会議は終了、所定の位置に向けて各々が散って行った。
私も指示されている場所に向けて歩きだし、再び歩きながら思索する。
アロマさんはアロマさんのスタイルをしっかりと確立して、この先もさらに強くなるだろう。
しかし、それでも心配になるのは、やはり『アロマさんだから』だろうか。
我らがトラブルメイカー、とマーチはアロマさんのことをそう評してはよく笑う。
確かに、彼女はトラブルメイカーだ。
だが、それは悪意がある訳ではないし、彼女なりに考えて行動した結果がトラブルになってしまっているのだろう。
喜怒哀楽が激しくて、好き嫌いがはっきりしているアロマさんの性格に由来するのかもしれない。
しかし私は、そんな彼女の生き方が好きだ。
(……いや、羨ましいと言うべきか……)
気が付くと、層の外――浮遊城アインクラッドの外――に広がる広大な空へと視線を向けて立ち止まっていた。
よく笑い、よく食べ、いつも明るく、思い立ったら行動せずにはいられない。
何より、アロマさん自身が信じる方向へと真っ直ぐ突き進むその強さは、眩しいほどだ。
勝ち気な目、不敵に笑う口元、腰に手を当てる仕草。
彼女の通った後には道ができていきそうな、そんな頼もしさがある。
(それに比べて、私はどうなんでしょう……)
私は自分の右手に視線を落とし、拳を握り締めていた。
アロマさんと自分を比べると、どうしても考え込んでしまう。
通り名を頂いたりエクストラスキルを入手していたりしても、私は彼女に敵わないことがいくつもある。
攻撃力然り、防御力然り、着眼点然り、その他にもアロマさんは私に足りないところを多く持っている。
(全く……出会った時はMPKのことすら分からなかったというのに……)
不意に笑みがこぼれた。
私がアロマさんを育てた訳ではないが、何となく、成長した子供を見ている親のような気分になった。
(しかし、アロマさんを含め、DoRは強くなっている……攻略組に数えても遜色はないほどに……しかし……)
ギルドのレベル上げも順調に進んでいる。
攻略自体も今から60層のフィールドボス攻略だ。
後半に入って、敵はさらに強く、そしてさらに厄介になりつつある。
(……《体術》を軸に据えたことは後悔していない……しかし、この先……)
視線を外に向けながら、私は両手を強く握りしめていた。
(この先、もっと辛い戦いがあるだろう。その時私は、ギルドを、そして――)
顔を上に向け、天を仰いで上層の底を見つめる。
(――彼女を守っていけるのか?)
「おい、セイド、どうした?」
そんな私を見て背後から声をかけてきたのは、私と同じパーティーでフィールドボス攻略に参加しているキリトさんだった。
「いえ、何でもありません。行きましょう」
「ん? いや行くけど、本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。ちょっと考え事をしていただけです。それよりもキリトさん、今回の作戦、要は貴方なんですから、しっかり頼みますよ」
「そうそう、そのことを言おうと思ってたんだ! 何であんな作戦にするんだよ!」
「ですから、あの場で説明したじゃないですか」
「聞いてたから分かってるけどさ……俺の負担がデカくないか?」
「攻撃力と機動力と防御力の全てを兼ね備えているプレイヤーの筆頭はキリトさんですからね。50層ボスのレアドロップ武器を存分に振るって下さいね」
「……いやまぁ……LAを取ったのは俺だけど――」
そんな感じに、キリトさんとの会話を続け、私は意識をDoRからフィールドボスに完全に切り替えた。
(色々考えるのは、これを終えてからだ)
フィールドボス戦は順調に進み、1時間ほどの戦闘を経て、誰一人欠けることなく終了した。
これで迷宮区に進むことができるようになった。
アスナさん率いるKoBの面々はこのまま迷宮区攻略に進むとのことだった。
だが、それよりも早く、キリトさんはボス戦が終わってすぐに、私を含むパーティーメンバーに短く挨拶をして、この場を後にしている。
フレンドリストで確認してみると、キリトさんは既に迷宮区に入っていた。
(流石、キリトさん……行動が速い……)
キリトさんの行動に思わず苦笑したところで、私も攻略組の皆に帰る旨を告げ、その場を後にした。
とはいえ、私は迷宮区には向かわない。
私が向かったのはマーチとルイさんのいる57層のダンジョン《溶岩龍のねぐら》だ。
フィールドボス戦を終えてから、私は自分の考えに、私なりの答えを出した。
(マーチとルイさんは、おそらく分かってくれるでしょうが、説明はしておかないとなりませんよね)
この答えに、アロマさんが納得してくれるかどうかは、かなり微妙だ。
本当のことを言っても言わなくても、おそらく納得してくれないだろう。
(1番の問題は、アロマさんですね……どう話したものか……)
マーチたちの所尾へ向かう道すがら、私はアロマさんをどう説得するか、そればかりを考えていた。
読み辛いので……第一幕は《