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そして、幕間のはずなのに、やはり4話分になりそうです……(-_-;)ゴメンナサイ
潮干狩りが始まってみると、誰よりも先に砂を掘り始めたのはログさんだった。
開始後数分で、ログさんはすでにいくつかの貝をバケツに放り込んでいた。
一定の作業をこなしていく、ということにログさんは楽しみを見出せるタイプのようで、その表情は――何とか女性陣にも目を向けられる程度には慣れた――実に楽しそうだった。
「ログっち、もうこんなに見つけたんだ~……んん~?」
ログさんのバケツをのぞいたルイさんは、ニコニコとログさんに声を掛け、その後、何やら怪訝な顔をした。
【海なのに、シジミがありました。あとは、アサリ・ハマグリ・カキ・ムール貝です】
ルイさんが怪訝な顔をした理由を、ログさんがテキストで伝えてくれた。
「……やっぱ、貝なら何でもいいってことで、適当に撒いたか? 茅場のヤロウ……」
「いくらなんでも雑多に過ぎるでしょう……
マーチはフラフラと近寄ってきたラミア1体を、一刀のもとに切り捨てながら、ゲームを設計した茅場晶彦への不満をこぼし、私もこんな状況を見せられては、茅場晶彦をフォローする気にはならなかった。
「まあ、何でも良いじゃん! これならホタテも居そうだし!」
茅場への不満など何もないようで、アロマさんは鼻息も荒く、熊手を片手にダッシュの姿勢を取った。
「待っててねログたん! 私がホタテを見つけてみせるからねぇぇぇぇぇぇ!」
と、言うが早いか、アロマさんは猛烈なダッシュを決め、行く手にフラリと進み出てきたマーメイドを、ダッシュの勢いを殺すことなく両手剣の1撃で両断し、そのまま敵のいない一帯に辿り着くと、砂浜に埋もれるようにして熊手を砂に叩き付けはじめた。
潮干狩りなのに、明らかに深く掘る様相を見せるアロマさんを見て――
「……ここほれ、わんわん……」
――私は思わず、そんなことを呟いていた。
「ちょ、おま……聞こえたら殺されるぞ」
苦言を呈するマーチは、しかし完全に顔が笑っていた。
「内緒にしておいてください」
潮干狩りなど、何年ぶりだろうか。
小学校に入学するよりも前に、両親に連れられて、1度だけ行ったような記憶があるが、あまり鮮明ではない。
まぁ、子どもの頃の記憶など、そんなものだろう。
「本当にいろんな種類がありますね」
潮干狩りの記憶を手繰りながら、私は雑多な貝類を熊手で掘ってはバケツに入れていった。
「淡水だの海水だのってレベルじゃねえ……生息域無視して貝類全部ごちゃ混ぜになってるぞ、こりゃ……」
貝が手に入るたびに、マーチは渋い顔をしていた。
時々出てくる貝には、食用から宝飾関係まで幅広く使われる、
こういう細かいことに関して、マーチは私以上にこだわる質なので、貝類が無差別に出てくることが気に障るのだろう。
「ん~♪ でもお蔭で、いろんな料理ができそうだよ~♪」
しかし、ルイさんはとても満足げなので、マーチもそれを見てヤレヤレとため息を吐くにとどめている。
ログさんに至っては、貝の種類など気にするのをやめて、鼻歌交じりにあちらこちらを掘り返し続けている。
そしてアロマさんは――
――ガギンッ!!
――と、アロマさんの方へ視線を向けた時、普通の潮干狩りでは聞くことのない、衝突音が聞こえた。
「……がきん?」
アロマさんは、やはりと言うべきか、浅く広く掘るのではなく、深く大きく砂浜を掘り返していて、そこは完全に穴と呼ぶべき状態になっていた。
そんなアロマさんの掘っていた穴の底から、その音は響いてきたようだ。
「あ!」
音に反応して、皆がアロマさんの掘った穴の方を見ていると、何やら声を上げたアロマさんが、穴から飛び出してきた。
「どうしました? アロマさん」
自分で掘った穴の淵に立って穴の底を眺めているアロマさんに、私は歩み寄りながら声を掛けた。
しかしアロマさんはこちらを見ようとはせず、穴の底を見つめ続けている。
「あー、うん……これ、多分ホタテだと思うんだけどね」
「お、マジでホタテ見つけたのかよ!」
アロマさんの台詞にマーチが立ち上がり、穴の方へと歩み始める。
「そういえば~、ホタテは出てきてないね~。こんなに色々種類があるのに~」
そのマーチに続くように、ルイさんもアロマさんへと近づくと。
「……見つけたっていうか……」
アロマさんは未だに穴の底を見つめながら、何故かジワジワと後退を始めた。
「どうかしたんですか?」
そう声を掛けた私を――
「襲ってくるかも。セイド後よろしく!」
「は?」
――追い越して穴から遠ざかるアロマさんを、私は不覚にも、体ごと振り返って視線で追ってしまった。
つまり、穴に対して背を向けてしまった。
そこで初めて、私の視界に《警報》によるモンスターの出現告知が現れた。
「っ! セイド! 後ろだ!」
マーチの叫びよりも先に、私は振り向き、それと同時に飛び退いてはいたが。
穴から出てきたソレを見て、思わず呆けて呟いてしまった。
「……ホタテ? この大きさで?」
出てきたのは、厚さだけで人の3倍の高さはあるであろう、巨大な二枚貝だった。
前後左右の長さや、その面積を考えると、恐ろしい大きさだ。
かなり飛び退いたはずの私の足元ですら、この巨大な貝の出現の際に少し盛り上がったほどだ。
それが、唸り声を上げながら目の前の地面から突然出現すれば、誰もが口を開けて見ているだけになるのではないだろうか。
【ホタテじゃないですね。多分、シャコガイです】
離れた位置にいたログさんの、冷静なテキスト文のおかげで、私は冷静さを取り戻すことができた。
確かに、この巨大な貝――《ギガース・クラム》という名のモンスター――は、開口部が大きく波打った特徴的な形をしていて、それが、シャコガイ――それも最大の貝類であるオオジャコガイがモデルであることを示唆していた。
更に大きく飛び退くと、丁度アロマさんの隣に立つ形になった。
「おっきいおっきい! これ、焼いて食べよう!」
両手剣を構えていたアロマさんは、突如出現したシャコガイ型モンスターを見て、嬉々としていた。
「いや、どうしてこれを見て食べようという気に――って!」
アロマさんに思わずツッコんだ私の視界に、恐ろしいものが見えた。
驚いたことに、シャコガイは唸り声を上げながら、
超巨大な貝のボディプレスならぬ、シェルプレスといったところだろうか。
《警報》の知らせる攻撃予測範囲は、これまで見たことのない異様なまでの広さを示していた。
とはいえ、レベル差があるので、受けるダメージ予測はそれほど危険なものではないと告げていたが、だからといってあの大きさの貝の下敷きにされるという光景は、夢にまで見そうなので御免被りたい。
「全員、全力で――」
後方に退避、と声を掛ける前に、自分の迂闊さに気付いた。
ログさん、ルイさん、マーチの3人は、シャコガイの出現に合わせて、私の元へ駆け寄るべく動き出していたのだ。
このまま退避の指示を出した場合、私やマーチ、ルイさんとアロマさんなら確実にシャコガイのボディプレス範囲の外に逃れられるだろう。
だが。
元々戦闘職ではないログさんは、話が別だ。
ログさんは咄嗟の指示に即座に対応できるほど場馴れしていないし、もし仮に退避できたとしても、範囲外に逃れられるという確証が持てない。
「――後方に跳べ!!」
故に、
案の定、ログ以外は即座に大きく跳び退いたが、ログは焦りのためか、辛うじて小さくバックステップはしたものの、着地時に砂地に足を取られて尻餅をついてしまっていた。
そして、ログの尻餅と同時に、シャコガイが上に跳躍した。
「うおぉっ?!」
マーチが驚いたように声を上げた。
流石にシャコガイのこの行動は予測外だったようだ。
「ログっち!!」
それを見て、ルイはログが貝の範囲内にいることに気が付いたのだろう。
慌てたようにログに声を掛けるが、ルイの位置からはログまでは距離があり過ぎた。
ルイの鞭でも届かないため、鞭を使ってログを引っ張るという手も使えない。
「セイド!」
そして、それに気付いたのであろうアロマが俺の名を呼ぶ。
「分かってる!」
そう、分かっている。
だからここで踏みとどまったのだ。
ログの退避が間に合わないのなら、取るべき対応は1つだ。
迂闊にも、セイドに駆け寄ろうとしていたために、俺もルイも、嬢ちゃん――ログとの間に距離があった。
アロマも、ログの所までは離れている。
ログを連れて離れるのは、距離的にも時間的にも、俺達には無理だ。
そして、それはセイドも同じだった。
「分かってる!」
だからだろう。
セイドは俺たちに退避の指示をしながら、その場に留まっていて、そして両手を上に突き出していた。
――受け止める気だ。
俺ならおそらく、打ち返すとか、蹴り飛ばすとか、何らかの迎撃という選択をしたところだろうが、セイドの対応を見て、すぐにそれは失策だと理解する。
巨大ということは、重量があるということに直結する。
そんなものを、如何に筋力補正が効いているゲーム内だといえど、易々と打ち返せるわけがない。
仮に打ち返せたとしても、あの貝は面積が広い。
的確に重心を捉えて迎撃しなければ、打ち返すどころか下手に傾くだけでログを助けるには至らない。
(てか、だからって受け止められるわけがねえ!?)
セイドの選択は、それしかないものだっただろうが、しかしそれすら苦肉の策だろう。
あの巨大な貝を受け止められるとはとてもではないが思えない。
――1人では。
わずかに遅れて、俺は前に駆け込み、両手を上に突き出す。
ログの元へは届かないまでも、貝の面積範囲に跳び込むくらいなら可能だ。
なら、1人より2人で受け止めればいい。
そんな俺の行動の意図を察したのだろう。
ルイもアロマも俺と同じように前に跳び込んで両手を上げ――
そこに巨大な貝が降ってきた。
受け止められたのは、皆の協力あってのことだっただろう。
かなりの衝撃はあったが、辛うじて押し潰されることなくシャコガイを受け止められていた。
しかし、衝撃の割にはHPがそれほど減っていないのは、レベル差があるためだろう。
「ちょ! セイド! この後どうするよ?!」
受け止めたのは良いが、ログ以外の4人が身動きの取れない状況になっていた。
「どうするも何も!」
俺はすぐに次の指示を出そうとし――そこで《警報》の攻撃予測警告が目に入った。
こちらは身動きの取れないこの状態で、しかし頭上のシャコガイには、こちらを攻撃する術があるのか、と攻撃予測を見やると。
(足元? しかも1つじゃなく複数だと?!)
《警報》の知らせてきた攻撃予測の対象は、頭上のシャコガイではなく、足元の何かを示していた。
その表示を辿って足元を見やると、そこには、とても見慣れた形の貝が10個ほど落ちていた。
――いや、落ちていたというのは正確ではないだろう。
その貝こそが、攻撃を仕掛けてくるモンスターとして《警報》に認識されているのだから、これは出現したのだろう。
ただし、その貝は、どこからどう見てもホタテ貝だった。
「……ホタテが……モンスター扱いかよ……」
「はぁ?!」
俺のぼやいた言葉が聞こえたのだろう。
マーチも驚いた声を上げて下に目を向けた。
「さっきまで1つも見つからなかったのに、何でこんなにホタテが~?!」
ルイも、砂浜に散らばっているホタテを見てそんな声を上げた。
「このおっきい貝が出てくるときに、一緒に飛び出してきたよ! 子分なんだよ、きっと!」
アロマはこのホタテどもが出てきた瞬間を見ていたようだ。
要約すると――つまり、頭上のシャコガイ共々、ホタテも砂浜に深く埋まっていて、このシャコガイが出てきたからホタテも出てきた。
が、どっちもモンスター扱いで、シャコガイもホタテも扇貝と呼ばれるものだから、ボスと取り巻きの関係にした、と。
「茅場の……ばっかやろぉぉぉ!」
俺と同じ結論に辿り着いたのであろうマーチの叫びが、虚しく砂浜に響いたと同時に、ホタテが
両足の、指・
「うおぉ!? 地味に痛い!」
ダメージにしてみれば一桁程度のことなのだが、痛いものは痛い。
強いて例えるなら、箪笥の角に小指をぶつけたみたいな感じだろうか。
「うわぁ~……」
その様子を見たルイさんは、顔を歪め。
「……シュールな光景だな、これ……」
マーチは苦笑いを浮かべ。
「何かキモイ……セイドがキモイ」
「アロマ?! 俺がキモイみたいじゃないかその言い方だと?! キモイのは貝だ!」
アロマに至っては俺をキモイ呼ばわりだ。
この状況は望ましくない。
主に、俺の精神的な意味で。
「ログ! 戦鎚でこのシャコガイを下から、全力でぶっ叩け!」
4人が動けない現状では、ログに攻撃を頼む以外は無い。
幸い、このシャコガイには細かい攻撃方法も無いようだし、今ならシャコガイ自体も身動きが取れない。
シャコガイの取り巻きであるホタテ共は、全て俺に噛み付いているので、ログの邪魔をすることも無い。
こういった動かない敵や、動きの単純な対象なら、ログの攻撃力は遺憾なく発揮される。
ログは返事をする代わりに戦鎚を抜き出して腰だめに構え、ライトエフェクトとともに上空に戦鎚を振り上げた。
片手鎚用重単発打ち上げ技《ヘヴィ・ガイザー》――間欠泉の名が示す通り、下から上へ戦鎚を振り抜くその《剣技》の1撃は、見事にシャコガイを穿ち、更に驚いたことに、その1撃だけでシャコガイは上空に打ち上げられていた。
忘れがちだが、ログのステータスはかなり筋力寄りで、DoRのメンバー中、最大の筋力値を誇っており、更にレベルも、攻略組には及ばないまでも、前線で充分に通用する高さがある。
単純な筋力値による攻撃力だけなら、俺たちの中で1番強いことになる。
そのログの強烈な1撃を受けて、巨大シャコガイは上空に浮いただけでなく、戦鎚を受けた位置からガラスが割れるかのように、殻一面に罅が走り――
「おぉー! お見事ログたん!」
――そのまま、ポリゴン片へと化したのだった。
想定外の戦闘を終えたところで、私たちは全員がその場で砂浜に腰を下ろして一息ついていた。
「しかし、驚いたな。セイドがあれの存在に気付いてなかったってのは」
マーチの台詞に、私も同じ感想を抱いていた。
「ええ。まさか、モンスターの反応が無かったにもかかわらず出現するとは」
今の一件で1番考えさせられたのは、あの巨大なシャコガイ――《ギガース・クラム》の出現を《警報》が直前まで察知できなかった点だ。
このことに関して、私はある予測をしていたが――
【多分、元はモンスターではなかったのでは?】
――それを口にするよりも早く、私と同じ予測を先に言葉にしたのはログさんだった。
「ログっち、それどういう事~?」
「セイドが《警報》の設定、ミスってたんじゃないの?」
ルイさんとアロマさんが、ログさんの言葉に疑問を返した。
アロマさんに至っては、私のミスだと思っていたらしい。
「流石に、外に出るのにそんな設定ミスはしていませんよ。ログさんの仰った通り、あのシャコガイは、アロマさんが熊手で叩くまではモンスターではなく、通常の貝として、フィールドに埋まっていただけなのでしょう」
「おいおい……あんなもん、アロマみてーな変わり者が掘らねー限り、見つかりっこねーぞ?」
マーチの言葉に、私が答えるより先に、ログさんが
【貝が多いのはこの時期限定のイベント扱いみたいですから、イベントボスとして、潮干狩りの終了時期になると出現する予定だったのでは。ホタテが通常時に拾えなかったのもそれなら説明が付きます】
少し不安げな表情でテキストを打っていたログさんだったが、その見解は、しっかりと整理されたものだった。
「なるほど。それは考えられますね」
「ははぁ……だからアロマがぶん殴るまではモンスターじゃ無かった、と」
「それをロマたんが起こしちゃったんだね~」
ログさんの見解を受けて、私、マーチ、ルイさん、そしてログさんの4人が、一斉にアロマさんに視線を向けた。
「う……」
4人分の視線を受けて、アロマさんは現実から顔をそむけるように横を向いた。
「やっぱアロマが悪いんじゃねえか! こんのトラブルメイカーが!」
「仕方ないじゃん! 知らなかったんだし!」
マーチがアロマさんを糾弾すると、アロマさんは悲鳴に近い声で反論した。
「あはは……まあ~、ロマたんみたいに深く穴を掘る人がいるとは~、茅場晶彦も想像してなかったんだろうね~」
「アロマさんの突飛な行動は、誰にも想像できないかと」
【アロマさん、潮干狩りは砂を浅く掘るんですよ】
残念なことに、今回の騒動に関しては、誰もアロマさんをフォローできなかった。
辛うじて、ルイさんがフォローに近い発言をしたくらいだった。
「うわぁぁぁん! みんなしていじめないでよぉぉぉぉ!」
ログさんにまでツッコまれたのがショックだったのか、アロマさんはこの場から走って逃げだした。
そんなアロマさんの様子を見て、先ほどの戦闘で生じた緊迫感は一気に吹き飛び、アロマさん以外は、一様に笑ってしまったのだった。