ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

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第八幕・巡る人脈

 

 

 ヴィシャスさんのデュエル――と言う名の処罰――が終了したところで、私はヴィシャスさんと連れ立ってDDAのギルドホームまで同行することにし、こうして夜道を歩いているというわけだ。

 時刻はすでに22時を回っていて、DoRの皆は流石に疲れたのか、ホームで休んでいる。

 

「……あのマーチさんって人……なんであんなに強いんすか……」

 

 マーチとのデュエルで、1勝もできずに10連敗を喫したことによって、心身ともにボロボロという感じのヴィシャスさんは、ヨロヨロと何とか立ち上がりながら、そんなことを呟いていた。

 

 ここで詳しい説明をする義理も無いし、仮に話をするにしても、マーチの実力に関してはリアルの事情に直結してしまうので、私は適当に言葉を返しておいた。

 

「攻略に参加しないというだけで、マーチもアロマさんもルイさんも、貴方達に引けを取らない実力者ですから」

 

 欲しかった両手槍は無事手に入ったというのに、マーチやアロマさんに1度も勝てなかったのが相当堪えたのか、ヴィシャスさんは肩を落としてトボトボと歩きながら、私の答えにため息交じりに答えた。

 

「それはそうかも知んねえっすけど……なんつーか……マーチさんには勝てる気がしねえっす……」

 

 言外に、アロマさんには実力で負ける気はしないと言っているのだが、それは追及しないでおく。

 彼にも攻略組攻撃部隊サブリーダーとしてのプライドがあるのだから、それを更に圧し折る必要はないだろう。

 

「でしょうね。マーチはおそらく、デュエル、特に初撃決着戦に関しては最強に近いと思いますよ」

 

 初撃決着に限定した理由は、以前マーチ自身も言っていたが、同レベル帯のプレイヤーとのデュエルにおいて、マーチの《無拍》は強攻撃とは認識されても《剣技》ではないが故に、クリティカルヒットしても良くて3~4割削れる程度だ。

 半減決着などのデュエルの場合、この《無拍》の欠点がもろに出てしまう。

 つまり、通常攻撃の域を出ないという欠点が。

 

 速度や鋭さに関してはプレイヤースキルで恐ろしいほどの補正を得ているマーチだが、《剣技》ではないためにどうしても得ることのできないものがある。

 それが《仰け反り(ノックバック)》や《行動不能(スタン)》《行動遅延(ディレイ)》といった各種阻害効果(デバフ)だ。

 

 半減決着のデュエルでは、相手のHPを先に半減させた方が勝つルールであるために、《剣技》で相手に阻害効果を与えた方が圧倒的に有利――というか、わずか3秒程度の《行動不能》であっても、それだけで勝敗が決まることは往々にしてある。

 マーチの《無拍》と相打つ形でデバフ効果を持つ《剣技》を叩き込まれれば、マーチはその後の追撃を避けることはおろか、捌くことすらできない。

 それどころか《剣技》1撃で半減させてしまえばマーチに勝てる。

 

 ――のだが、今のヴィシャスさんにはそこまで考えられるような余裕はないだろう。

 だからこそ、私は先の発言をしたわけだが。

 

「速すぎて、手も足も出ないとか……あんなの初めてっす……」

 

 やはり、マーチの弱点に気付くことなく、ヴィシャスさんはただひたすらに落ち込んでいるだけだった。

 何にせよ、今回の事態を招いたのはヴィシャスさんの自業自得なので、私は励ましたり慰めたりはしなかった。

 

「刀の相手は、初めてではないのでしょう?」

「そりゃDDAの模擬戦やデュエルで何度もやってるっすよ……けど、マーチさんのアレは反則っす……」

 

 つまり、DDAにもカタナスキルを持つプレイヤーはいるが、マーチほどの居合いの使い手は存在しない、という情報を私は得るに至った。

 

(ヴィシャスさん本人は、情報漏洩している自覚が無いんでしょうね)

 

 直接的にどうという情報ではないが、こういった細かい情報がどこで役に立つか分からない以上、気に留めておくのは損ではない。

 

「まあ、いい経験をしたと思って下さい。マーチの《無拍》を、あそこまで何度も味わえた人は、ヴィシャスさんが初めてなんですから」

 

 慰めにならない慰めをかけると――

 

「ちっとも嬉しくないっす!」

 

 ――と、やはりヴィシャスさんは悲鳴に近い声で嘆くだけだった。

 

「まあ、それはそれとして」

 

 DDAのギルドホームへと至る夜道を歩きながら、私は話題を切り替えた。

 

「ヴィシャスさん。そろそろ白状してもらいましょうか?」

「へ? 何の事っすか?」

 

 私の突然の言葉にヴィシャスさんは、とぼけているいるのではなく、本気で意味が分からないようだった。

 

「貴方は、私たちに言ってないことがありますよね? ルイさんに目を付ける前に、1度あのクエストをやったのでしょう?」

 

 私のその指摘に、ヴィシャスさんは明らかに動揺した。

 

「え、な、何言ってるっすか。んなわけないっすよ」

 

 しかしヴィシャスさんのその台詞は、微妙に声が裏返っていた。

 

「ぼろ出しまくっていたんですから、隠し事はできないと理解して下さい。誰に頼んだのかは知りませんが、既婚者のペアに協力してもらって、1度は巨聖花の広場まで行ったのでしょう?」

 

 私がここまでハッキリ言うと、ヴィシャスさんは数回「あ~」「う~」と呻き声を漏らした後、盛大にため息を吐いた。

 

「……セイさんにもいろんな意味で勝てる気がしないっすね……」

 

 そう漏らし、ヴィシャスさんは事情を語ってくれた。

 

「DDAに1組だけ結婚してるペアがいるんす。その2人に頼んで協力してもらったんすけど、奥さんだけじゃなく旦那も一緒に森に来たんすよ。一応、パーティー外だったんすけど、巨聖花の所にいった段階でクエスト失敗って出ちまったんす。色々話し合って、旦那が一緒に居たらダメなんじゃってことになって、受けなおしてもう1度巨聖花の所まで行ったんすけど、今度は何の反応もなかったんす」

 

 ヴィシャスさんは歩きながらそう語ると、再度ため息を吐いた。

 

「原因は分からなかったっすけど、ボスに聞いたら、1度失敗した相手じゃ無理なんじゃないかってことになって……」

「なるほど……しかし、それは判断が難しいところですね……単に時間を空ける必要があった可能性もありますし……」

「んなこと言っても、時間を空けるとかじゃなかったっすよ。俺がルイさんを口説いてる間にも、前に協力してもらった奥さんともう1度巨聖花の所まで行ったんすけど、やっぱり変化なかったんす。これはもう、別の既婚者に何が何でも手伝ってもらうしかないって、必死だったっす」

 

 彼がルイさんのストーカーを始めてから3日目の辺りで、確かに彼は黄昏時前にホーム前から姿を消していた。

 多分その時に巨聖花の元まで行ったのだろう。

 

「何故、素直に協力を申し出なかったんですか?」

「素直に頼んで、前みたいに旦那さんがついてきたら終わりっす。説明して納得させられるだけの自信も無かったっす」

 

 確かに、ヴィシャスさんの説明では、マーチを説得できたかどうかは怪しいだろう。

 

「それにDDAの知り合いならアイテムのことも互いに融通が利くっすけど、俺、ルイさんのことなんも知らないし、ルイさん俺のこと苦手そうだったっす。クエスト報酬俺にくれなんて言っても、聞いてもらえると思えなかったっす」

 

 どちらかというと、こちらの方が本音だろう。

 流石、DDA所属のプレイヤーと思わなくもない。

 

「……初めから私に言ってきても良かったのでは?」

「セイさんのことをはっきり思い出したのは4日目のことっすよ。今更、なんて言っていいのか分からなかったっす……」

 

 そこまで話して、ヴィシャスさんはさらに落ち込んだ様子だった。

 

(ああ、つまり、私がボス攻略戦に参加してたプレイヤーの1人だと、思い出せていなかったのか……)

 

 まあ、私はボス戦においてほぼ全く前線には立たなかったので、ヴィシャスさんの印象には残らなかったのだろう。

 それは仕方がない事だ。

 

(嘘のつけない方ですね。そして、なんと不器用なことか)

 

 私は思わず苦笑いとともにため息を漏らしていた。

 

「まあ、今回は運よく目的の物も手に入ったのですから、それで良しとしましょうよ。ヴィシャスさんとしては、ちょっと手痛い結末だったかもしれませんがね」

「ちょっとじゃねえっすよ……もう2度とゴメンっす……ホント、迷惑かけてすんませんでした」

 

 そんな話をしながら歩いていると、DDAのギルドホーム前に到着した。

 56層に構えられたDDAのギルドホームは、《家》というより《要塞》といった(おもむき)だった。

 DDAのホームの門前で立ち止まって私に頭を下げたヴィシャスさんに、私は軽く首を振りながら笑顔で答えた。

 

「もうお気になさらずに。こちらとしても、未クリアクエストの情報を得ることができましたし、今後はストーカーのような真似をしないと誓っていただければ、それで良いんですから」

「そう言ってもらえると何よりっす……ところで、セイさんはうちに何か用っすか?」

 

 ここに来て、ようやくヴィシャスさんも私が何故ここまで同行したのかを疑問に思ったらしい。

 

「用、というほどのことでもないですがね。たまには挨拶をしておこうかと思っただけですよ。あなた達のギルドの《マスター》ではなく、《ボス》に」

「え! 《ボス》っすか?! 《マスター》じゃなくて?!」

 

 私の発言に、ヴィシャスさんは驚愕の表情を見せた。

 DDAの内情を知っていなければ、ボスとマスターという単語は使い分けない。

 

「取り次ぎをお願いしますね、ヴィシャスさん」

 

 とはいえ、ヴィシャスさんにそのことを説明するつもりはないので、私はそれだけを言ってDDAのホームへと歩みを進めた。

 

「わ、分かったっす。とりあえず、客間に案内するっす……」

 

 

 

 

 

 

 

 客間、と言っていいのか分からないが、少なくとも一般のホームに比べれば圧倒的に広い客間で待たされること数分。

 

「いよぅ! セイちゃん! 久しぶり!」

 

 彼がやってきた。

 入ってくるなり、この挨拶だ。

 出会ったころから、この人は変わっていないらしい。

 

「お久しぶりです、ノイズさん。夜遅くに突然訪ねてしまい、申し訳ありません」

 

 彼が入ってきたのに合わせて、私は立ち上がって一礼する。

 客間に現れたのは、私よりも大柄な体格の体育会系な男性にして、元βテスターであり壁戦士(タンク)(さきがけ)とも言えるプレイヤー、ノイズさんだ。

 歯を見せてニッカリと笑う彼を見て、私は思わず苦笑してしまった。

 

「貴方は、相変わらずのようですね」

「良い意味じゃねーだろうけどな。俺は変わらんよ。俺は俺のやり方を貫いてるだけだ」

 

 ノイズさんは笑いながら、私と向かい合う位置に置かれているソファにドッカと派手な音を立てて座った。

 私も改めてソファに腰を下ろしたところで、ノイズさんはおもむろに切り出した。

 

「――で? 急に訪ねてきて、どうしたよ。旧交を温めに来たってわけじゃねーんだろ?」

「単刀直入ですね」

「回りくどいのは苦手でな。知ってるだろ?」

「苦手というか、嫌いですよね。そういうところでも、私たちは反りが合わなかったんですから」

「カカカカ! 違いねえ!」

 

 ノイズさんの笑い声を聞きながら、私は小さくため息を吐いた。

 ノイズさんと出会ったのは、このデスゲームの開始から間もなくの頃だったが、マーチの知り合いだったということもあり、出会ってから1週間ほど一緒に行動していた時期があった。

 

 しかし、ノイズさんと私の性格の不一致もあって、喧嘩別れというほどではないにせよ、ちょっとしたいざこざを原因としてノイズさんと別行動を取ることになったのだ。

 マーチはノイズさんとフレンド登録もしていたようだが、私は結局最後までノイズさんとフレンドにはならずに別れた。

 とはいえ、別段彼に何か含むところがあるわけではないので、こうして訪ねるのはやぶさかではない。

 

「では。率直にお聞きします。ルイさんが既婚者だと、ヴィシャスさんに教えたのは貴方ですね」

 

 お聞きしますとは言ったが、私はほぼ断定していた。

 

「おー、さっすがセイちゃん、よく分かったな。ヴィシャスが言ったのか?」

「いいえ。彼にはその辺りのことは何も聞いていません。ですが、貴方しかいませんよ。ルイさんが既婚者だと知っていて、且つDDAに関与しているプレイヤーは」

 

 私はノイズさんを睨みながら確信を持ってそう言い切った。

 

「おいおい、そう睨むなって。ヴィシャスだから教えてやったんだ。あいつ、悪い奴じゃなかったろ?」

 

 然程悪びれた様子も無く、そんなことをのたまうノイズさんを私はさらに鋭く睨みつけた。

 

「そういう問題ではありません。今まであえて貴方に口止めなどをしなかったのは、そういったマナーを弁えていると信じていたからです。ですが、今回の一件を受けて、言わずにはいられなくなったので、こうして出向いてきたんですよ」

 

 私の言葉の端々から怒気を感じ取ったのか、ノイズさんは流石に表情を改めて真面目に反省の色を示した。

 

「わかった、悪かったよ。確かに俺が軽率だった。すまん。ヴィシャスがクエミスを嘆いてて、俺も他に結婚してる奴を知らなかったもんで、つい、な。すまん!」

 

 ノイズさんはそう言って、深々と頭を下げた。

 

「……貴方にも悪気が無いことは分かっていました。だから今回は、今後こういったことが無いようにと、念を押しに来ただけです」

 

 ノイズさんにも、マーチとルイさんに含むところがないのは分かっている。

 だが、今回のような騒動があった以上、DoRのリーダーを任されている身としては、ノイズさんの軽率な言動を注意しないわけにもいかなかったのだ。

 

「ああ、マジで悪かった。以後無いよう気を付ける」

 

 私は軽く苦笑を浮かべつつ小さくため息をついてしまった。

 

「そうして下さい」

 

 それだけ言って立った私を見て。

 

「って、おいおい、もう帰る気かよ」

 

 ノイズさんは引き止めるように声を掛けてきた。

 

「帰りますよ。夜遅くに訪ねた私にも非礼がありますからね」

 

 客間の出口たる扉に向かって歩き始めた私を、ノイズさんが呼び止めた。

 

「そうか。ま、引き止めはしねーが、せめてこれくらいは受け取ってけ」

 

 ノイズさんのその言葉に振り返ると、彼が何かを放り投げた。

 私はそれを右手で受け止める。

 

「……これは?」

 

 投げられたのは巾着袋だった。

 中には、手のひらに収まる程度の、少し大きめのコインが5つ入っていた。

 

「俺が独占してるクエの報酬アイテムだ。そのコイン1つで、モンスターのアイテムドロップ率が1%上がるって程度の、ま、いわゆる幸運アイテムってやつだな」

「……そんなクエストを秘匿していたんですか。しかし、これ1つでは……」

「ま、大差ないな。けどうちは大所帯だからな。メンバー全員に1つ持たせるように、俺の日課はこのクエストを回数こなすことになってる」

 

 メンバー全員が1%ずつドロップ率を上げれば、確率的な話ではあるが、その数および効率は確かによくなるだろう。

 しかし――

 

「……暇なんですか?」

 

 そんなアイテムを、一体いくつ確保することになるのか、DDAの規模――所属人数の多さを考えるだけで気が滅入る。

 

「暇じゃねーよ! ってか、そう難しいクエじゃねーんだよ。ただ、クエ受注条件が俺くらいしか達成できないってだけだな」

「……ギルドの所属人数が一定数を超え、さらにそのギルドマスター権を持つプレイヤーでなければ受注できない、といったところですか?」

 

 ノイズさんが独占しているというクエストについての推測を口にすると、ノイズさんはあからさまに嫌な顔をした。

 

「――ったく……だからお前は嫌いだよ。なんでそうすぐ分かっちまうのかね」

 

 と、ノイズさんは言いながら自分の頭をガシガシと掻いた。

 

「貴方がそれだけの情報を出しているからですよ。とはいえ、貴方しかできないというのも頷けますね。KoBの団長は、自ら進んでクエストをするような人ではないようですし、所属人数最大のALFは上層には来ない。となれば、所属人数・上層クエスト攻略可能ギルドマスター権所持者・報酬秘匿、という情報を合わせて考えればDDAしか条件を満たせるところは無いでしょう」

「秘匿してるからDDAってのは偏見じゃねーのか?」

 

 訝しげな表情を見せるノイズさんだが、決して偏見などではない。

 歴とした事実だ。

 

「仮にKoBやALFが見つけていれば、情報屋に流れていますよ、そのクエスト情報。貴方だから情報屋に流さないし、流れないと考えるべきでしょう」

 

 私がそう言うと、ノイズさんは肩を竦めて見せた。

 

「ま、間違っちゃねえか。てなわけで、それは俺らしか持ってねーアイテムってことになる。今回の詫び代わりだ。持ってけ」

 

 ノイズさんはニヤリと笑いながら、手を前に突き出して、人を追い払うような仕草で振っていた。

 

「……変わりませんね、貴方は。では、遠慮なくいただいておきましょう。夜分遅くに失礼しました」

 

 今度こそ私は席を立ち、ノイズさんに一礼して扉をくぐる。

 

「おう、もうくんな。やっぱ、おめーは苦手だ」

 

 その言葉を背に受け、私はDDAのギルドホームを後にした。

 

 

 

 ――のだが。

 

 

 




SAO、DVD&BR発売になりましたね!
特典についていた《サ・デイ・ビフォア》も面白かったです!

今後も楽しみです!(>_<)

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