ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

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マコト様、感想ありがとうございます!m(_ _)m

お気に入り件数が560件を超えておりました(>_<)
お読みいただけている皆様に感謝です!(>_<)

風邪なのか何なのか、体調がなかなか良くならず……(-_-;) 
さらに、プログレッシブ発売も重なり……執筆が遅くなりました(-_-;)スミマセン 
変なところ、誤字脱字等ありましたらご指摘くださると助かります m(_ _)m 



第五幕・香る森林

 

 

 第47層は通称《フラワーガーデン》と呼ばれる、一面が花で覆われたフロアだ。

 そのフロアの北端に位置する《巨大花の森》は、まさしく花でできた迷路といった様相だ。

 

 とはいえ、35層の《迷いの森》のように、マップが無いと脱出も難しいというようなものではなく、むしろ逆だ。

 道は単純な構造で、もし仮に迷ったとしても、見失いようのない目印があるので、すぐに位置を把握できるはずだ。

 

「ほぇぇ~。これは綺麗だねぇ」

 

 アロマさんは、どうやら初めてここを訪れたらしい。

 

(まあ、初めて来た時は、見惚れますよね。この光景には)

 

 花吹雪に霞む森林、とでも表現すればいいのだろうか。

 

 辺りを舞っている花びらも森に咲き誇る花々も、色とりどりで光を反射して輝き、しかし香りは強すぎず、周囲を心地よく包んでいて、ただでさえ幻想的なこの世界においても、際立った雰囲気がある。

 アロマさんも、この《巨大花の森》の雰囲気に見惚れているようだ。

 

「ここはね~、デートスポットとして有名なんだよ~」

 

 そんなアロマさんに、ルイさんが嬉しそうに話しかけた。

 

「ふえ? 《圏外》なのにデートスポットなの?」

「うん。レベルがそれなりにあげてれば~、敵はすごく弱いし~、《思い出の丘》と比べるとかなり簡単だねぇ~」

 

 ルイさんの言った《思い出の丘》は、同じく47層にあるフィールドダンジョンで、《ビーストテイマー》と称されるプレイヤーたちにとって、とても重要な場所である。

 

 47層では難易度が高めになっている《思い出の丘》に対し、《巨大花の森》はこの層だけで見ても難易度は最低だろう。

 出現するモンスターは全て移動しない植物型で、出会ってしまっても簡単に逃げることが可能だし、強さも4つか5つ前の層のモンスターと同程度だ。

 

 更に、モンスターの出現数自体がかなり少なく、その割には安全エリアの数が非常に多いという、レベル上げにはまったく向かない場所ということでも有名だ。

 

 この場所に関するクエストも、つい最近まで1つも見つかっていなかったために、観光目的の場所として作られているのではないかと、プレイヤー間で噂が飛び交っていた。

 

「マーチんとも、何度も来てるんだよ~」

「ばっ――!」

 

 ルイさんの何気ない一言に、マーチは顔を赤くした。

 

「へー。マーチってば、なかなか良いデートスポットをご存知なんですなぁ。奥さんと2人きりでこのようなところでデートとは、隅におけませんなぁ。ふぉふぉふぉ」

「アロマ! てめ!」

 

 何のキャラだと思いつつ、私はアロマさんの後ろから、彼女の頭に手を乗せた。

 

「あー、はいはい、そこまでそこまで」

 

 私の意図を察知したらしいアロマさんは一瞬で逃げようとし、しかしすでに遅く――

 

「あ! や! ちょ! まっ! ぎにゃぁあぁぁぁっ!」

 

 ――マーチをからかったアロマさんの頭を、片手で握るように締めながら、私は場の空気を仕切りなおした。

 

「では、先に確認しておきます。まずヴィシャスさんは、ルイさんと2人でクエストポイントとなっている森中央の《巨聖花》の根元まで行く」

「うっす!」

「いたいセイド、いたいいたい、たいたいたい!」

「そこでクエストイベントを進行し、ボスが現れるであろう選択肢、もしくは会話が発生した段階で合図を出して下さい。可能ならボスのポップは待つように」

「了解っす!」

「だから痛いって! セイド放してよねぇ、いやまじいたたたたたたたたたぁっ!」

 

 とりあえずヴィシャスさんに行動確認を取り、次に、私の手から逃れようとジタバタしているアロマさんの顔を覗き込む。

 

「アロマさんは、何かあったら、すぐに2人のパーティーに参加できるよう2人と一緒に行動して下さい。クエストフラグの関係上、パーティーリーダーはヴィシャスさんなので、ヴィシャスさんからパーティー勧誘メッセージが行くと思いますので、すぐにパーティーに入って下さい。ちゃんと聞いてました?」

「聞いてた聞いてた! 頭締めると今の話抜けてくからやめてイタイ!」

 

 とりあえず聞いていたようなので良しとして、しかしアロマさんは解放せず、手で締めたまま次の確認をする。

 

「ログさんは、森の入口近くで待機してもらって、私からのテキストチャットを確認次第、森を出てマーチに声を掛けて下さい」

「あ、まだ続くの? うぅぅ……」

【わかりました】

 

 実は今回、ログさんも参加している。

 

 クエストに出発する時にはログさんはまだ営業中だったのだが、私たちが出かけてしまうとログさんがギルドホームに来るまでに戻れる確証が無かった。

 そのため、メッセージでログさんに《巨大花の森》に出かける旨を伝えると、ログさんも合流したいという返信があったのだ。

 

 何でも、この森でのみ手に入る木材が不足していたらしく、ログさんはログさんでクエスト攻略中から終了までの間、その収集を行いたいと同行を申し出てくれたのだ。

 これには私たちの誰も反対することは無く、ログさんと47層の転移門広場で合流後、ここへやってきた。

 

 まあ、クエストの内容自体は、ログさんにはまだ(年齢的な意味で)早いと思ったので詳細には説明していない。

 複雑かつ面倒なクエストとだけ言ってある。

 

 ――それはそれとして。

 

「んえぇぇぇん! ルイルイ、ログたん、セイドにやめさせてぇえ! 頭が割れるぅ!」

 

 マーチをからかったアロマさんの頭を鷲掴みしたまま話を進めていたのだが、流石にアロマさんが泣きだした。

 

「……セイちゃん、そろそろ許してあげなよ~」

【アロマさん泣いてます、許してあげて下さい】

 

 ルイさんとログさんのその言葉と同時に、私はアロマさんの頭を離した。

 うずくまって頭を抱え、痛みが抜けるのを待っているアロマさんに、私はため息とともに話しかけた。

 

「まったく……今のマーチをからかうようなら、帰って下さい。そのくらいの空気は読めるでしょう?」

「うぅぅぅ……和ませようとしただけなのに……うぅぅ……」

「知りません。和んでません。逆効果です」

「うぇぇぇえん! ルイルイ~!」

「よ~しよ~し」

 

 今回ばかりは甘やかさなかったので、アロマさんはルイさんに泣きついた。

 

「さて、では、さっさとクエストに行きましょうか。アロマさん、ルイさんの護衛は任せましたよ」

「ぐすん……わかってるよ~だ! ばかせいど! イーっだ!」

 

 さらに最期に私に向かって、アカンベー、をしながら森に入っていくアロマさん。

 痛みも抜けて元気なようで何よりだ。

 

「では、ヴィシャスさん。ルイさんに何かあったら、その首、無くなりますからね」

「う、うっす! 命に代えてもお守りするっす!」

 

 ヴィシャスさんには、決して大げさではない脅――罰則を告げて、クエストに対する緊張感を維持させる。

 アロマさん効果で緊張感に欠けられては困ると、余計な気を回した感じもするが、ヴィシャスさんには相応に効果があったようなので良しとする。

 

「行ってくるね~、マーチん」

「おう、気を付けてな」

 

 ヴィシャスさんもアロマさんに続き森に入り、ルイさんも、マーチとの別れを惜しみつつ森に入っていく。

 

 今現在の私たちのパーティー構成状況は、ヴィシャスさんとルイさんで1つ、アロマさんがソロ、私・ログさん・マーチの3人で1つという形で、それぞれはレイドしていない。

 通常フィールドからダンジョンへ入ると、外のメンバーの姿も見えなくなるし、声もメッセージもテキストチャットも届かなくなるため、パーティーメンバーであってもその隔たりを超えて交信するためには、特殊な結晶アイテムなどが必要になる。

 

 目の前で人が森に、文字通り消えていくというのは、現実では絶対に体験しえない現象だ。

 こういう光景を見るたびに、この世界は仮想世界なのだと、意識し直すようにしている。

 

【今日のセイドさんは、なんか怖いですね】

 

 ちょっと物思いにふけっていたら、ログさんがそんな台詞を文字にしていた。

 

「おう、俺も、ちと怖くなってきた……」

 

 ログさんのその台詞を見て、マーチもそんな一言を洩らした。

 

「あのなぁ……誰のために心を鬼にしてやってると思ってるんだ? マーチ?」

 

 思わずマーチに苦情を言ってしまうと。

 

「分かってる分かってる分かってる! だからそう睨むな! お前マジでこえーぞ今日は!」

 

 マーチはそう言いながら1歩後ずさった。

 ショックだったのは、そのマーチの後ろに、ログさんまで隠れるようにしていたことだ。

 

(むぅ……そんなに険しい顔になっているだろうか。反省……)

 

 私は気を取り直して、ログさんとマーチに最後の確認をする。

 

「うっんん! さて、ではログさんも森の入り口近くで伐採を始めて下さい。マーチ、分かってるとは思いますが、ログさんから連絡があるまで、絶対に森に入らないで下さいね?」

「わ~ってるよ。ったく……ほんと嫌なクエだぜ」

 

 マーチは苦虫を噛み潰したような表情でそう呻いていた。

 

「それには同感ですけどね」

【面倒ですよね、複雑な手順があるクエは】

 

 私とマーチのぼやきに、ログさんは少しずれた感想を述べた。

 クエストの仔細を話していない私たちも悪いが、思わずマーチと見合って、互いに苦笑いを浮かべてしまった。

 ログさんは表情に《?》を張り付けていたけれど、まだログさんには分からない大人の話だとマーチに諭されて、ログさんはちょっとむくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度か訪れたことのある《巨大花の森》だけど、今回は景色が違って見える。

 やっぱり、私の隣を歩いているのがマーチんじゃないからだと思う。

 

「意外に人がいるもんすよね、こうしてみると」

 

 ヴィシャス君は私の心中など知る由も無く、かといって無言でただただ歩くわけでもなく、ちゃんとした会話を振ってくれていた。

 

「そだね~。いっつも思うけど~、意外に女性プレイヤーって多いのかも~?」

 

 ここはデートスポットだ、とは言ったけど、このダンジョンに限らず、この層全体がデートスポットと言ってもいいはずだ。

 《フラワーガーデン》の呼び名は伊達じゃないって感じ。

 

「いやいやいや! この層には女性が多いってだけで、全体数で考えりゃ、圧倒的に女性ユーザーってレアっすよ!」

 

 ヴィシャス君は私にキラキラした視線を向けていた。

 どうもあのデュエル以降、クエストのためだけに私にストーカー行為をしていたものとは違う視線が混じるようになった気がする。

 

「あのさぁ、私もそのレアな女性なんですけど? なんで私を無視してるのかなぁ?」

 

 私を挟む形で一緒に歩いていたロマたんが不服そうに頬を膨らませていた。

 確かにヴィシャス君は、森に入って以降、1度たりともロマたんに話しかけていない。

 

「そりゃ、俺はルイさん一筋っすから! っていうか、ルイさんとアロマさんを比べたら、月とスッポンていうか、お日様とスリッパていうか……」

「……あんた、後で私ともデュエルしろ、泣かすから」

 

 男勝りな台詞を、視線だけで熊でも殺せそうな目つきをしたロマたんが口にした。

 

(うん、今のはヴィシャス君が悪い)

 

 私個人を褒めてくれるのは、それがたとえヴィシャス君であっても嫌じゃないし嬉しい事だけど、ロマたんを下に見るような真似はされたくない。

 とはいえ、私ではヴィシャス君にデュエルで勝てる要素が無いのも、先の1戦で分かったことだから、その辺りも含めてマーチんとロマたんにお願いして、ヴィシャス君にお灸を据えてもらおう。

 

「受けて立つっすよ。皆さんにご迷惑おかけしてるっすから、これが終われば、気の済むまでお相手するっす」

「あんたのそういう根性は気に入ってるんだけどなぁ……」

 

 清々しいまでに潔いヴィシャス君に、ロマたんもある程度は好印象を抱いていたようだ。

 しかし、ロマたんは何とも困ったような表情を浮かべていて、ヴィシャス君をどう評価していいのか迷っているといった感じがあった。

 

「……アロマさんに気に入られても、あんま嬉しくないっす」

「やっぱあんた嫌い」

 

 残念ながら、続いた会話で好印象も一転したようだ。

 ヴィシャス君も余計な一言が無ければ、きっと良いパートナーができると思うけど、それを教えてあげるのは今じゃダメな気がするので、先送りにしておく。

 

(照れ隠しで悪態をつくのは減点だね~。もっと精神的に成長してくれなきゃ~、いくら教えてもダメっぽい)

 

 ヴィシャス君の悪態は、そのほとんどが照れ隠しだと思う。

 女性と会話するのに慣れてないのだろうけれど、その辺りはもっと思慮深く対応できるようにならないと、私が教えたところで意味は無いだろう。

 

 自分で言っておきながら、その後に肩を落としてる辺り、ヴィシャス君にも自覚はあるらしい。

 

 と、考え事をしながら歩いていると、前方左脇から、バラの花をカリカチュアライズしたようなモンスター《敵意ある薔薇(ハストル・ローズ)》がゆっくりと進路上に棘のある蔓を伸ばしていた。

 あの蔓に触ると《敵意ある薔薇(ハストル・ローズ)》に足を絡め捕られることになるけど、結構簡単に蔓が斬れるので――打撃系武器の場合、斬るというより潰すだけど――慌てずに対処すれば問題ない。

 それに何より、本体の薔薇は動けないので、蔓を飛び越していけば戦闘にすらならない。

 

「邪・魔!」

 

 なのに、ロマたんは、その一言のもとに薔薇本体を両手剣で縦に真っ二つにしてしまった。

 それだけで《敵意ある薔薇(ハストル・ローズ)》はポリゴン片となって消えていく。

 

「って、ありゃ? こんなによわっちいの?」

 

 拍子抜けしたというようなロマたんの顔を見て、私は思わず笑ってしまった。

 

「アハハ~、だから言ったでしょ~。ここのモンスターはすごく弱いって~」

「ああ、うん、そなんだけどさ。私ここ初めてだから、それなりに注意してたんだけど」

 

 そう答えながら、ロマたんはどことなく恥ずかしそうにしながら両手剣を背に収めた。

 

「良い事っすよ。初めての場所で油断しないってのは、めっちゃ重要な事っす!」

「あんたに言われると何かムカつくんだけど、ありがと」

 

 複雑な表情を浮かべながらロマたんは私の隣に戻って歩きはじめる。

 

 ロマたんのこの行動は、ひとえにセイちゃんの指導の賜物だ。

 出会ったばかりの頃のロマたんは、初見のモンスターにも、初めて訪れるダンジョンにも、何の予備知識も予防対策も考えずに、モンスターを見つけては特攻するという恐ろしいまでの猪っぷりを見せていた。

 それも、1発目から《剣技》で突っ込む。

 

 モンスターがこちらに気付いていない状況ならそれもありだけど、セイちゃんと一緒に居る場合、モンスターのほぼ全てがセイちゃんに気付いている。

 セイちゃんから離れ、隠れた位置から不意打ちするならまだしも、ロマたんはセイちゃんの隣に立って、真正面から敵に斬りかかる。

 

 そのために、何度か技後硬直も考えずに《剣技》を放って、避けられたところに手痛いカウンターを喰らっていたことがあった。

 セイちゃんが何度となくそのことを注意して、自分のスキルのことも説明して、それを繰り返して、やっとロマたんは1発目から《剣技》で突っ込むという危険なことをしなくなった。

 

「《剣技》で斬り込まなかったのは良いですが、相手が植物系だということを失念していませんでしたか?」

 

 と、後ろからセイちゃんが唐突に話しかけてきた。

 いつの間にか追い付いてきたみたいだ。

 

「ほえ?」

 

 セイちゃんの声に、ロマたんが不意を突かれたように振り返ると、そこにはちょっと険しい表情のセイちゃんがいた。

 

「呆けてる場合じゃなく。植物系、特に花を模したモンスターの多くは、攻撃された時に状態異常効果のある花粉などをばら撒くことがあると教えたはずです」

「あ……」

「やっぱり忘れてましたね……花粉系は範囲効果です。油断するとパーティーメンバーにも被害が及びます。1番気を付けるべきはそこでしょう」

「いや、だって――」

「言い訳してる暇があるなら反省して下さい。幸い、ここのモンスターにはそういった反撃が無いだけで、他ではその一瞬の油断がパーティー全体を危険に晒すんです。注意していたのなら、何故縦に斬りました? 花本体を残せば花粉の反撃は無い事も教えてありますよね?」

「うぅ……」

「全く……アロマさんには、まだまだしっかりと覚えてもらわないといけないことが多そうですね。今夜は私に付いてきて狩りをするのではなく、自分でその辺りの復習をして下さい」

「ええええっ?!」

「何か文句でも? 以前にそういう約束をしましたよね?」

「うぅ……はぁい……」

「明日の朝にはその辺りのテストもしますから、全て答えられなければ、その日の夜狩りもアロマさんはついて来ないように」

「分かったよぉ! しっかりやるから怒んないでよぉ!」

 

 ――その後もしばらくセイちゃんのお説教は続いた。

 私はヴィシャス君を促して先に進むことにした。

 

「い、いいんすか? あの2人置いてっちゃって」

「い~のい~の。いつものことだから~」

 

 私は慣れっこだけど、ヴィシャス君は何度となく後ろを振り返って2人のことを気にしている。

 

「いつものこと……セイさん、おっかねーっすね……」

「そだよ~。期待してる人にはすんごく厳しいよ~」

 

 私のその一言に、ヴィシャス君は疑問を持ったようだ。

 

「期待してる人には? どーいうことっすか?」

「セイちゃんは自分が期待してる人には色々と教えてあげるけど~、決して甘やかさないんだ~。元々親切なのがセイちゃんだけど~、期待してない人にはその後のフォローも何もないことが多いからね~。ああやって~、ロマたんを甘やかさないのはその証拠なんだよ~。セイちゃんのこと~、多少知ってるなら何か身におぼえな~い?」

 

 私がヴィシャス君にそう聞き返すと、彼は何か思い出すように考え込み。

 

「あ! 確かにそっすね! 自分も1回、ボス戦前に注意されたことがあるっすけど、そん時、セイさんの事まだ全然知らなくて、完全に聞き流したんす。そしたら、注意されたことをボス戦でミスって、でもあんな風には怒られなかったっすね。すんごい冷たい目で見られただけっす」

 

 そのヴィシャス君の言葉を聞いて、私は思わず笑ってしまった。

 まあ《DDA》攻撃部隊サブリーダーなんて役職の人が、名前も知らない小規模ギルドのプレイヤーに何か注意されるとか、普通はありえないだろうから気持ちはわかるけど。

 

「それって一応注意はしたけど、ヴィシャス君にそこまで期待はしてないってことになるんだ~。今後も付き合いがあるか分からないからだと思うし~、ヴィシャス君が失敗しても大事にならないからだと思う~」

「そっすね……自分がミスっても、うちのリーダーがすぐカバーしてくれましたし」

「セイちゃんって、そ~いうところがドライなんだよ~。もしヴィシャス君のミスで~、全体が危険な目に合うようだったら~、注意するときに~、もっとしっかり話をしたと思うし~」

 

 セイちゃんの本当の実力は、私たちみたいな小規模ギルドでは発揮しきれない、驚異的な指揮能力にあると私は思っている。

 《警報(アラート)》なんて言うスキルもそうだけど、それが無くても、セイちゃんの指揮能力は高い。

 

 私とマーチんは、セイちゃんと色んなゲームを一緒にしてきたけど、その度に毎回思い知らされてきた。

 セイちゃんは自分が最前線で戦って戦場を引っ張るのではなく、戦場の中央で、自分は動かずに全体の指揮を執るタイプだ。

 

 本気でそういう系統のゲームの世界大会とかに出てもいいのではないかと、私もマーチんもセイちゃんに話したことがあるけれど、セイちゃんは、そんな実力は無いの一点張りで、参加申し込みすらしなかった。

 セイちゃんの実力は疑わないけど、世界でどの程度通用するのかは、正直なところ私にもマーチんにも分からない。

 少なくとも、良いところまでは行けると、私たちは思っている。

 

「むむむ……尚更セイさんには攻略組として戦ってもらいたいっすね……そんだけ気が付けるなら、戦闘の指揮を執るのも上手そうじゃないっすか」

 

 と、ヴィシャス君もこの話の流れだけでセイちゃんの本領に行きついたみたいだ。

 流石、最前線で戦い続けるプレイヤーなだけはある、というところだろうか。

 

「今の所、《KoB》の団長さんとか副団長さんが指揮を執ることが多いっすけど、セイさんなら、あの人らに並ぶかそれ以上の指揮が執れる気がするっす!」

「ん~、ど~だろ~ね~」

 

 私は簡単な返事をするだけにとどめた。

 下手なことを言えばセイちゃんが最前線に引っ張り出される口実を作ることになるかもしれない。

 

 ちょっと喋り過ぎたかなと、反省して、私は黙って歩いて行くことにした。

 

 隣では未だに何やら考えているらしく、唸っているヴィシャス君。

 後ろからは、お説教が終わったらしく、ロマたんとセイちゃんが駆け足で合流してきたところだった。

 

 もう少し行けば、クエストのポイントとなるらしい《巨聖花》の広場だ。

 

 


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