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これ程の人数の皆様にお読みいただけて嬉しい限りです!
「もっかい確認するよ~? デュエルは《初撃決着》で~、私が勝ったら、もうここには来ないし、あなたの装備も全部貰う~。あなたが勝てば~、私と2人きりでパーティーを組んで~、クエストに行く~。それでいいんだね~?」
「そうっす! 《巨大花の森》に付き合ってもらうっす! って、あれ? 何でクエストって分かったっすか?!」
みょ~に元気な彼の台詞に、私はちょびっとだけ、かわいいなぁなんて思いながら、デュエルを申し込む。
「セイちゃんと話したら~、隠しきれないよ~」
「うぅ……セイさん、あいっかわらず、おっかねえっす……」
ヴィシャス君は呻きながら、デュエル申請メッセージを承諾した。
デュエル開始のカウントダウンが始まる。
私が構えるのは両手棍。
飾りも何もない《八角棍》という名の武器。
私がデュエルで用いるNPCの武器屋で売っている汎用品だ。
対するヴィシャス君が構えるのは両手槍。
豪奢とは言わないけれど、目立つ装飾が施されている。
確か《偃月刀》と呼ばれる、薙刀のような武器だ。
武器はお互いに長柄武器。
(セイちゃんが両手棍を勧めた理由はこれかなぁ)
同系統の武器の使い手として、それなりにお互いの手は読めるだろうと、セイちゃんなら思ったに違いない。
私は棍を下段に構え、彼は偃月刀を上段に構える。
カウントが残り5秒になる。
私はゆっくりと、構えを中段に移行させ、それを見た彼は目を細め、しかし構えは変えずに上段のままにとどまった。
カウントが――2――1――
――0になった瞬間、ヴィシャス君は爆発的な勢いで突っ込んできた。
しかし、彼の持つ偃月刀は光っていないので、動きそのものは《
(ただの加速が、こんなに速いの~!)
私とヴィシャス君との距離は、歩幅にして20歩ほど。
彼はその距離を1歩の加速だけで詰めてきた。
まさしく正面に跳躍するかの如くだった。
しかし私は動かず待つ。
加速は速かったけど、目で追えないわけじゃないし、反応できないわけじゃない。
それに何より――
(加速だけなら、ロマたんといい勝負かな~?)
DoRでの圏内戦闘訓練で、ロマたんが時々見せる加速と似た感じがあった。
だから私は落ち着いていられた。
「ハッ!」
彼は気合い一閃、真っ正直に、上段から斬り降ろし――右上から左下への袈裟斬りをしてきた。
私はそれを半歩左に身をひねって紙一重で避ける。
と同時に、彼の進行上に八角棍を置いておくような感じで伸ばす。
足を引っ掛けるようなイメージ。
しかし彼は、加速の勢いからは信じられない反応を見せ、私の棍を踏みつけた。
(うわ~ぉ、さっすがサブリーダー)
互いの距離が近く、しかし彼は今、私に僅かながらも背を取られるというような状態であるにもかかわらず、私の武器を巧みに封じ、自らの隙を突かせないという素晴らしい芸当。
思わず感心したけど、勝負は勝負。
(私の棍を封じたのは見事だけど~)
刹那のこう着状態。
瞬間、ヴィシャス君が何か仕掛けてこようとする気配があったけれど。
それより早く、私は《剣技》を発動させていた。
(それで攻撃を封じたと思うのは甘いんだよ~!)
両手棍・
「ぅぉ!」
棍を踏んでいた彼の足を跳ね上げ、バランスを奪うという効果を発揮し、バランスを崩した彼に1撃加えて終了――といった展開を狙ったのだけど。
「ぉ~」
私は思わず感嘆の声を上げていた。
彼は瞬時に、跳ね上げられる足を踏ん張ることなく打ち上げられる勢いに任せてその場から後方宙返りをして距離を取るという受けをしてみせたのだ。
「っ! やるっすね!」
「そっちこそ~!」
やっぱり、一筋縄ではいかない相手だった。
いつの間にやら、周りに人だかりができていた。
「おい、あれ《DDA》のヴィシャスさんだぞ!」「あの相手してる女性、誰だ?!」「何だ今の!? どっちが何したんだよ?!」「おい、記録結晶だ! こんなの滅多に見れねえぞ!」
一気に騒がしさを増した観衆など気にも留めず、一瞬の攻防を終えた2人は、再び間合いを測って緊迫した空気を張り詰めている。
「……騒がしくなってしまいましたね……」
ある程度予想していたこととはいえ、やはりデュエルは目立つ。
どうしても人が集まってくるのだ。
「しっかたないんじゃな~い? 一方は相応に有名人だし、その相手をしてるのは、うちのギルド、自慢の若奥様だもの」
私が渋い表情で周囲にも視線を配っているのに対し、アロマさんは平然と2人のデュエルを眺めていた。
「……目立っちまったなぁ……これでまたウゼえのが増える気がする……」
マーチはマーチで、ルイさんが目立ってしまったことに対して苦い表情でそう呻いていた。
マーチの心労は晴れるどころか募るばかりといった感じだが、この際それは置いておくしかない。
「そういえば! 開始前にしっかり名乗らなかったっすね! ギルド《聖竜連合》ポールアーム攻撃部隊サブリーダー、ヴィシャスっす!」
彼の名乗りを聞いて、アロマさんが不思議そうな顔をした。
「ふぇ? なんで今更名乗ってんの? あいつ」
「……認めたってことだろ、ルイの実力を」
アロマさんの疑問に、マーチが短く答えた。
「そして名乗ることで、ギルドの名も背負ってこのデュエルに挑むと、宣言し直したんですよ。本気ですね、彼も」
先ほどまでなら、互いにハッキリと名乗らなかったので、もし仮に負けたとしても、個人の敗北ということだけで片付けることもできた。
だが、こうして名乗った以上、ヴィシャスさんは攻略組最強ギルドの一角《聖竜連合》のサブリーダーという地位と名誉も賭けたことになる。
「ん~、じゃ~私も名乗らないとね~」
そして、ルイさんも、ヴィシャスさんがルイさんの実力を認めたからこそ、改めて名乗りを上げたことを理解したのだろう。
「ギルド《
先程までの間延びした喋り方ではなく、とても真面目な
そのルイさんの気配の変化を感じ取ったのか、ヴィシャスさんも表情をさらに引き締めた。
「《デスオブリバース》? 聞いたことねーよ! どんなギルドだ?!」「情報屋の伝手で探れ!」「俺は断然、ルイちゃんを応援するぞ!」「バァカ! 《DDA》のヴィシャスに勝てるわけねーだろ!」
2人の名乗りによって、周囲のギャラリーもヒートアップする。
良くも悪くも、私たちのギルド名が世に知れることになったわけでもあるが。
「んじゃ、仕切りなおして、いくっすよ!」
「どうぞ」
そして2人は構え直し。
しかし、仕掛けたのはヴィシャスさんではなく、ルイさんからだった。
ルイさんは、先ほどのように中段に構えたところで、ノーモーションの加速をしてみせた。
(ルイさん、本気ですね……《
筋力値補正及び敏捷値補正最大での、後ろに引いた脚の、足首だけを使っての加速。
私達は、これを《滑水》と呼んでいた。
静かに、そして水面を滑るように突然加速するその技術は、システムに規定されたものではない。
ルイさん個人の技術だ。
そして、《滑水》の勢いそのままに、ルイさんの手元から棍がヴィシャスさんの喉元へと伸びる。
一切の力みも無く、予備動作も無い、これもまたノーモーションで繰り出された高速突きだ。
「っ?!」
予備動作なく、不意を突かれた形で一気に間を詰められて、一瞬焦りの表情を浮かべたヴィシャスさんだが、そこは流石の《DDA》攻撃部隊サブリーダーを務める男。
間一髪、ルイさんの繰り出した高速突きを、体を捻りつつ偃月刀の柄で受け流した。
しかしルイさんは止まらない。
薙刀のような刃のある武器と違い、棍の最大の利点は、攻撃部位が決められていないことだ。
棍は、どの部位であっても、攻撃でき、防御もできる。
流れるように突き、払い、薙ぎ、打ち、押し、巻き、突く。
棍という利点を生かした、まるで何かの演舞かのようなラッシュは、まさに見事としか言いようがなかった。
――そして同時に。
「く! ぅぉぉ!?」
それを全て受けきっているヴィシャスさんもまた、見事と言えるだろう。
私のようにエクストラスキルの力で僅かながらも予測して見切るのとはわけが違う。
《剣技》ではないにもかかわらず、高速の打突を放つルイさんの攻撃は、苛烈の一言だ。
それを受けきったのだから、彼の場数と経験、そして実力を推して知るべしだろう。
「惜しい! ルイルイもーちょい!」
「やっちまえ、ルイ!」
アロマさんもマーチも、ルイさんの優勢とみて、応援にも力が入っている。
周囲のギャラリーも、ルイさんを応援し、それと同じくらいにヴィシャスさんを応援している。
(いや、この流れだと……)
しかし私は、ヴィシャスさんの巧みな攻撃捌きで、ルイさんが少しずつ、ヴィシャスさんに誘導されていると感じた。
(……しかしこれは、2人のデュエル……口出しは無用でしょう……)
確かにここで助言をすることは簡単だ。
しかしそれでは、2人の真剣勝負に水を差すことになってしまう。
だから私は、黙って勝負の行方を見つめていた。
私は一切手加減をしていない。
これだけの攻撃なら、マーチんにも、ロマたんにも、セイちゃんにも、ある程度通用する自信がある。
確かに防がれはするだろうけど、でもそれは、みんなが私の攻撃に慣れているからだと思っていた。
しかし、ヴィシャス君は違う。
私の攻撃を見るのも受けるのも、これが初めての相手だ。
なのに、こうも見事に捌かれてしまっている。
(強い。これが、常に最前線で、戦い続けている人の実力!)
そしてそれを知ると同時に、私の実力がどこまで通用するのかも、窺い知ることができた。
(私の実力も、攻略組に、劣ることは無い!)
今のところはまだヴィシャス君に反撃の隙は与えていない。
反撃されたら負ける気がするからこそ、隙を与えずに、持てる力をすべて出し切って攻め続けている。
しかし、彼にも隙らしい隙が無い。
だから私も《剣技》を使うタイミングが無い。
絶え間なく、私の両手棍とヴィシャス君の偃月刀のぶつかり合う音が辺りに響き続けている。
(このままなら、何とか、隙を作って、《剣技》を1撃、入れられる!)
行ける、と思った。
確かに防がれているけれど、攻め切れると思った。
――それが悪かった。
ほんの一瞬の慢心が、私の集中を乱した。
攻め続けていた私の集中がかすかに乱れたことで、わずかに甘く入った攻撃を彼は見逃さず、少しだけ、ほんの少しだけそれまでよりも強く棍を弾かれ、そこにわずかな、しかし致命的な間が生まれた。
(クッ!)
形勢が逆転するには、それだけの間で事足りた。
弾かれた瞬間に、ヴィシャス君は、偃月刀の刃の無い側――石突側を、下からすくい上げる様にして私の顎を狙って反撃してきた。
攻撃するために前傾姿勢になっていた私には、体を逸らせて避けるだけの余裕は無かった。
慌てて棍を旋回させ、ギリギリのところで防御――したと思ったら、次の瞬間には上から偃月刀が振り降ろされる。
それも危ういところで何とか棍で受け――しかし次の瞬間には、ヴィシャス君は体裁きを利用して私の体勢をさらに流し、再び石突が、今度は脚めがけて襲い掛かる。
先ほどまでの攻防が一転、私が防ぎ、ヴィシャス君が攻める形になる。
私は全てをギリギリのところで防ぎ、しかし、私が攻めていた時の彼の防御とは違い、私には一切の余裕が無かった。
反撃に転じるための防御とか、受け流してからの体勢の立て直しとか、そんな暇はない。
防御してるはずなのに、防御できていないとでも言うべきだろうか。
受ければ受けるほど、防げば防ぐほど、どんどん後が無くなってくる感じがする。
(な、んていう! 攻め方! これが――)
これが本当の攻撃技術。
相手の防御すら利用して、次の攻撃につなげる。
それを繰り返し、何れは相手を追い詰め――
(ああ、これは――)
私はこの段階で悟った。
まだ数手は防げる。
しかし、その後で手詰まりになるのが分かった。
(――負けかな)
諦めるつもりはないが、しかしおそらく、逆転の目はこないだろうことが分かってしまった。