ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

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お読みいただけている皆々様に感謝します m(_ _)m

先ほど確認しましたところ、被お気に入り件数が370件となっておりました!
感激です! ありがとうございます!
また、ユーザー登録して下さっている方々もおられ、さらに見えないところでも読まれている方がおられると思うと、書いてみて良かったと思っております(>_<)

今後とも、DoRメンバーたちの話を楽しんでいただければ幸いです m(_ _)m


第八幕・《警報》

 

 

「……良かったのか? あの子にまでバラしちまって?」

「元はと言えば、マーチが口を滑らせたからでしょう……」

 

 私とマーチは、テーブルの隅でワイングラスを片手に、和気藹々と話に花を咲かせている女性陣を眺めながら、そんなことをぼやいていた。

 

 今、ログさんのHPバーには私達DoRのギルドタグ――海賊旗に描くような可愛らしい感じのドクロマークを天地逆転させたもの――が付いている。

 

「ログさんもギルドの一員となったわけですし、それに、アロマさんだけでなく、ルイさんもログさんのことを気に入ったようですから、良いのではないかと」

 

 私はワインを1口飲み、ログさんも知るところとなった、私が直隠(ひたかく)しにしているスキルのことを考えながら、女性陣を眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドメンバーには教えてあるが、私は、あるエクストラスキルを獲得することに成功し、しかしその情報を公開していない。

 

 情報屋プレイヤーによって作られ、現在も更新され続けているガイドブックやスキル名鑑などを何度となく確認しているのだが、今のところ、このエクストラスキルは載っていなかった。

 

 スキルの出現条件などが特殊なものも多いSAOの中でも、1人しか持ちえないエクストラスキル、いわゆる《ユニークスキル》と呼ばれるスキルは、確かに存在する。

 KoB団長にして伝説の男が持つ《神聖剣》というスキルが、それだと言われている。

 

 しかし、私の持つこのスキルがユニークスキルなのかと問われれば、否と言えるだろう。

 ユニークスキルとして有名な《神聖剣》ですら、その存在が確認されたのは50層からで、その存在を広く知らしめたのも50層のボス攻略戦でのことだ。

 

 だが、私の持つエクストラスキルは、もっと早い段階からスキルスロットに存在していたし、何より《神聖剣》のようにチートじみたスキルではない。

 

 想像通りなら、条件が厳しく、他のプレイヤーが条件をクリアできていないだけだろう。

 そして、以前アロマさんが見抜いたエクストラスキルが、それだ。

 

 

 そのスキル――スキル名を《警報(アラート)》という。

 

 

 このスキルの性能を簡単に言えば、自身およびパーティーメンバーへ迫る危険を教えてくれる、というようなものだ。

 

 このスキルの効果をマーチとルイさん、さらにはアロマさんにも分かりやすく説明するために、私は犯罪者(オレンジ)プレイヤーを例に出した。

 

 犯罪者プレイヤーの多くは《隠蔽(ハイディング)》スキルを鍛えているし、不意打ちに用いられる非金属防具専用スキル《忍び足(スニーキング)》を覚えていることも多い。

 通常、こちらの《索敵(サーチング)》のスキル熟練度が、相手の《隠蔽》スキルのそれと同等か、もしくはそれ以上でなければ、《隠蔽》によって隠れた相手を見つけるのは不可能となってしまう。

 

 だが、この《警報》というスキル。

 相手が如何に《隠蔽》スキルマスターであろうと《忍び足》スキルマスターであろうと、それが犯罪者プレイヤーであるのなら関係なしに知らせてくるのだ。

 

 正確には、《犯罪者(オレンジ)カラーのプレイヤーがいたら知らせる》という条件を設定した場合の性能だが、まさか《隠蔽》スキルを無視して知らせてくれるとは、初めてその効果を知った時には大いに驚いた。

 

 だが、ここで疑問が1つ出た。

 

 ならば、何故これほどに便利なスキルが、誰にも発見されていないのか。

 

 このことに疑問を持ったのはマーチだった。

 

 私はその理由を、《隠蔽》スキルを1度も習得していないことが絶対条件なのではないかと思い至り、《警報》習得後、わざと《隠蔽》を空きスロットに入れようとしたことがある。

 すると、【スキル《警報》が消滅しますが宜しいですか?】という確認文が出たことで、確信を得た。

 

 それともう1つ。

 

 ある2種類のスキルを一定値まで鍛えなければ出現しないのではないかと、あたりを付けている。

 

 こちらに関しては確認の取りようがないが、私の推測では、その2種類とは、《索敵(サーチング)》と《聞き耳(ワイアタピング)》のスキルだ。

 

 《索敵》に関しては習得しているプレイヤーも多く、特にソロプレイヤーにとっては必須ともいえるスキルだ。

 だが、ソロプレイヤーは同時に《隠蔽》も習得してしまうので、結果的に《警報》にはたどり着けない。

 

 そして、重要且つとてもマイナーなのが、もう1つの《聞き耳》だ。

 ある意味、このスキルも《警報》が発見されない原因の1つだろう。

 

 何故なら、このスキルを上げているような一般プレイヤーは非常に少ないからだ。

 《聞き耳》を好むのは、犯罪者(オレンジ)や、それに組する準犯罪者(グリーン)プレイヤーがほとんどだと言われている。

 

 《聞き耳》は、スキル熟練度を上げていくと、防音機構によって遮断されている宿屋の個室や、プレイヤーホーム内での会話を外から聞くことができるという使い方ができる。

 これによって、犯罪者(オレンジ)プレイヤーの仲間が、宿屋内で明日の予定を立てているパーティーの会話を盗聴し、その行動先に待ち伏せする、ということができてしまう。

 

 故に、《聞き耳》を習得するようなプレイヤーは、一般的に嫌われる。

 

 しかし、私はこの《聞き耳》を習得することに躊躇いは無かったし、鍛えるための努力も怠らなかった。

 

 何も、壁に張り付いて他人の会話を盗聴しなければ鍛えられないわけではないし、このスキルの本当の使い道は別にあると思ったからだ。

 

 自分の《索敵》で発見できない、高レベルの《隠蔽》能力を持つモンスターが居たとして、しかしそのモンスターには《忍び足》が無いのならば、足音や鳴き声などが聞こえるはずだ、と考え、それを察知するために、私は《聞き耳》を習得してみたのだ。

 

 結果としては、正解だった。

 

 一部の高レベルプレイヤーたちは、《聞き耳》と似たような、システムにスキルとして用意されたものではない――システム外スキルと言われている――《聴音》と呼ばれる技術を身に付けている。

 そちらも、環境音からモンスターやプレイヤーの発するSE(サウンドエフェクト)を切り分けて、動きや位置を音で把握する、といった、私が《聞き耳》に求めたものと同じ効果を発揮している。

 

 《聴音》の話を知ったのは《警報》を身に付けた後なので、何故《聞き耳》が流行らないのか、その時に初めて理解した。

 

 《聞き耳》も充分に便利なスキルだと思うのだが、現状ではやはり、悪用が目立つため避けられる傾向が強い。

 また《索敵》があれば無用となる場合が多い――《索敵》無効というような敵の存在が現段階では確認されていない――ため、やはりマイナーなスキルという感じは拭えない。

 

(何事も、使い手の心がけ1つだと思うんですがね)

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 エクストラスキル《警報(アラート)》を身に付けたことで、私の――いや、私たちの狩りは劇的に変化した。

 

 出現当初は、知らせてくれる警報内容は5つまでしか設定できなかったが、現状では10個まで設定できるようになっている。

 

 セットしている内容の1つは、絶対に外すつもりがない《犯罪者(オレンジ)プレイヤーの察知》で決まりだ。

 

 そして。

 

 他は、《警報》最大の利点とも言えるだろう《攻撃予測系》がほとんどだ。

 

 相手の《攻撃軌道予測》や《攻撃速度予測》《攻撃効果範囲予測》などを知覚情報として知ることができ、スキルが上がると、その攻撃による《ダメージ予測》すら分かるようになった。

 

 これはつまり、相手の連撃《剣技》やモンスターのブレス攻撃などの範囲攻撃も、攻撃される位置、効果が継続する位置、位置によるダメージ発生量の差異などをも把握できるということだ。

 

 

 問題は、あくまでも予測できるだけで、その攻撃自体に反応・対応するのは自分自身の実力という点と、予測であって確定ではないので、実際にそこを攻撃されるとは限らないという点だ。

 

 前者に関しては自分の実力を磨くしかないが、後者は、対人戦以外ではあまり気にならない。

 

 対モンスター戦に関して言えば、システム上のAIが動かしている以上、同じシステム上のスキルである《警報》の予測はほぼ確実だ。

 

 しかし、システム上のAIと違って、プレイヤーの攻撃に関しては如何にスキルであっても予測するだけで、それが確実だとは言えない。

 特に《剣技(ソードスキル)》以外の攻撃はシステムに規定されていないので、予測はほぼ役に立たないとすらいえる。

 

 《警報》で対人戦に勝てるのは、相手がシステムに用意されている《剣技》を主体に戦ってくる場合に限られるのだ。

 

 また、他にも《警報》の内容は、状況によって組み合わせを変えている。

 ソロの時は《罠》《状態異常効果》《モンスターのポップ》などを知らせるという具合だ。

 

 《警報》は《索敵》同様、鍛えにくいスキルで、戦闘中はほぼ常に使用され続けているにもかかわらず、未だマスターには届いていない。

 

 

 

 アスナさんと行った先ほどのデュエルでは、初撃こそ予測線によって完全に回避できたものの、その後の猛ラッシュは、《剣技》と通常攻撃が入り混じったため、回避しきれずパリィに徹するしかなかったのだ。

 

 これはもう、自分の研鑚不足を嘆くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――あの後。

 マーチが口走った内容を聞いていたログさんだが、私が1度話を濁すとそれ以上は聞いて来なかった。

 

 ホッと一安心したところで、不意にアロマさんが、意気揚々とログさんをギルドに勧誘し始めたのだ。

 

 通常、職人クラスのプレイヤーは、それぞれの専門職に応じた職人ギルドに所属しているプレイヤーがほとんどだ。

 もし所属していなくても、間接的に職人ギルドに関わっていくため、個別にギルドに入っているプレイヤーは少ないと聞く。

 

【おきもちはうれしいのですが】

 

 というログさんの文を途中で遮って。

 

「良いじゃん良いじゃん! 私ログたんと一緒に居たいし!」

 

 と、アロマさんはログさんに迫るばかりだった。

 

 案の定、ログさんは困った表情で何と打ったものかと悩んでいるようだった。

 

「アロマさん、ログさんを困らせてはダメですよ」

「えー? 困らせてなんかないよ? 一緒に居たいって思っただけだもん!」

「……だから、それが困らせているというのでは……」

 

 アロマさんを止めようと声を掛けると。

 

「セイちゃんセイちゃん、私もログっちをギルドに誘って欲しい~!」

 

 ここでも、意外なことにルイさんがアロマさんに同意した。

 

 これには、私もマーチも本気で驚いた。

 

「ル、ルイ?! お前今日はどうしちまったんだ?! アロマに毒されたか!?」

「マ~ァ~チィ~! それはど~いう意味かなぁ?!」

 

 マーチの言葉に睨みを効かせたアロマさんは放置して、ルイさんに事の詳細を尋ねると。

 

「だってぇ~! こんなに可愛い子、手放すのは惜しいんだもん!」

 

 という……私にもマーチにも、その心理は理解しかねる発言だった。

 

(……ヌイグルミ感覚、ですか?)

 

 私は思わず額に手を当てて唸ってしまった。

 

 アロマさんとルイさんに挟まれて、逃げ場のないログさんはアワアワと両手を宙に泳がせている。

 

 見たところ、ログさんにはギルドタグが無く、何処かに所属しているわけではない。

 ならば、確かにDoRに勧誘するのは、ありなのだろう。

 

 私は少し思案して、ログさんに言葉を投げかけた。

 

「……ログさん、アロマさんもルイさんもこう言っています。貴女さえ良ければ、私たちのギルドに入ってみませんか?」

「ぉぉ! さっすがセイド! そうこなきゃ!」

 

 大声を上げたアロマさんに抱きしめられながら、ログさんが、目を丸くして私を見つめていることが分かった。

 

 まさか私まで勧誘してくるとは、思っていなかったのだろう。

 

「とはいえ、ログさんはすでにお店を構えていますから、常に一緒に行動しようということではありません。お店の時間が空いたときにでも、ギルドホームに遊びに来て下されば、それだけでもみんな喜びます」

「うん! 喜ぶ喜ぶ! ログたん来てくれたら嬉しい!」

 

 アロマさんは、ログさんを抱きしめながら、激しく肯定した。

 

「今日のように、何か必要な素材があれば、素材集めのお手伝いもできます」

「そうだね~。協力するよ~♪ 1人で集めるより楽しく~、い~っぱい集められるし~♪」

 

 ルイさんも賛成しながら、ログさんの頭を、満面の笑みを浮かべながら撫でていた。

 

 普段の大人しいルイさんからは想像もつかないほどのテンションの上がりっぷりに、後ろでマーチが何やらため息を吐いていた。

 

「何より、この人たちは、叩いても壊れないし、簡単には死にません。とても丈夫です」

「そうそう、100人乗っても大丈夫! って、セイド! 何言わせるのよ!」

「アロマさんが勝手に言ったんじゃないですか……」

 

 ボケツッコみを1人で演じたアロマさんは置いといて、私はログさんにギルドへの招待メッセージを送った。

 

「私たちのギルドは『生き残ること』を目的に結成されています。どんなことがあっても、全員でこのゲームから生還します。ログさんが、その仲間となって下されば、とても心強いです。もちろん、決断はログさんに任せます」

 

 ここまで話したとき、ログさんはとても驚いた表情をしていた。

 

 そしてその後に、凄く複雑な表情を浮かべた。

 

 迷い、驚き、喜び、楽しみ、そして――悲哀。

 

 そんな表情を一瞬浮かべてから、ログさんはギルドへの招待を快く受け入れてくれた。

 

 

 


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