昼食後は、マーチとルイさんで情報収集を担当、私とアロマさんで買い出しを担当することとなった。
街で必要なアイテムを買い揃えたり、競売所を覘いたりしている間、アロマさんは私の周囲をちょこまかと動いていることが多かった。
せめて、賢い買い物の仕方でも覚えてくれれば買い出しを頼める、と考えて、アロマさんを連れて歩いているのだが。
「アイテムを安く買う方法は分かりましたか?」
「だいたい分かったけど。なんだか面倒だねぇ」
アロマさんは両手を後頭部で組んで少し上を仰ぎながらつまらなそうに答えた。
NPCショップの販売価格は、ハッキリ言って、高い。
もちろん、中にはNPCショップで買った方が安いものもあるにはあるが、それは極一部の素材系アイテムだ。
つまり、アイテムを安く仕入れ、且つ、量を確保するには、多くない職人クラスや商人クラスのプレイヤーショップや競売所を利用することになる。
――のだが。
どうも彼女は、アイテム取引そのものに不慣れな様子だった。
競売所を
そんなアロマさんを競売所から引き剥がして、大通りを歩いている時に、私は彼女に聞かずにはいられなくなった。
「……ところでアロマさん? 貴女、今まで、どうやってアイテムを買ったり売ったりしていたんですか?」
「ん? 買わないよ? 買ってくれたり、貰えたから」
――何か、聞き間違えただろうか?
(……買ってくれた? 貰えた?)
「…………それは……誰にですか?」
「パーティー組んだ人とか。後は、お店見て回ってると、近くにいた人が買ってくれたり、お店の人から貰ったり、プレゼントされたり。あ、通りすがりの人から貰うこともあるよ。さっきも貰ったんだ。回復ポーションと回復結晶を1ダースも! ほら!」
満面の笑みで『貰った』という回復ポーションと回復結晶を見せびらかしてくる。
それを見聞きした次の瞬間には、思わず両手でアロマさんの顔を挟んでいた。
「だ・れ・に・で・す・か?」
自分でも分かるほどに、笑顔が引き攣っていた。
まさかここまで天然貢がれっ娘だとは思っていなかった。
というか、受け取るな、と教えねばならない。
「むぎゅー! 3軒くらい前にセイドが見てたお店の人だってばぁ~……これ余ったからくれるって」
何をどうすれば、回復ポーションや回復結晶が余るというのか、そこのところを問い質したい衝動に駆られるが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「何でもかんでも貰うんじゃありません! 面倒になる前に返してきなさい!」
「え~……でも~――」
「か・え・し・て・こ・い!」
「ぶしゅ」
反論を許さぬよう、アロマさんの顔をさらに強く挟んだ。
強制的に唇が突き出され、変な空気の抜けるような音を立てて、アロマさんが不服そうな目で私を見ていた。
「っはぁぁ~……まったく……本当に、何なんですかね……あの娘は……」
アロマさんに回復ポーションと回復結晶を返しに行かせている間、私はもう1度競売所を覘いていることにした。
あらかた必要な物は買い揃えた後だったので、マーチとルイさんと合流するために宿屋に戻るはずだった所で、あのアロマ爆弾の炸裂である。
これは1度、腰を据えてこの世界での立ち振る舞いを教え直さないといけないと思う反面、今までどうやって生きてきたのか、その謎めいた過去も聞いてみたいという好奇心も湧き上がっていた。
(なんにせよ、あの娘を連れて歩くのは、骨が折れますね……)
何かにつけてこういうことがあるので、あまりアロマさんを連れて歩きたくは無いのだが、そのことに関して、本人が無自覚なのが1番困る。
だからこそ、マーチやルイさんに彼女を任せて別行動をとるという選択肢が取れないのだ。
あの2人では――無論私もだが――アロマ爆弾の予測不可能な炸裂には対応が困難だからだ。
そして、1つ対応を誤ると、さらに厄介ごとに発展する。
――例えばこんな風に。
「お嬢ちゃん。連れってこの男かい?」
競売所で防具を適当に眺めていたところで、突然後ろから服の襟首を捕まれた。
(……オイオイ……また厄介ごとを持ってきたのか……)
「ちょっと! うちのギルマスを引っ張らないでよ!」
野太いオッサンの声の後に、我らがトラブルメイカーこと、爆弾娘アロマさんが騒いでいた。
「威勢が良いのも好きだよ~、おじちゃんは♪」
「コイツきもい」
そんなやり取りを私の背後でしながら、自称おじちゃんなプレイヤーは私の襟首を放そうとはしなかった。
早速面倒に巻き込まれたらしい。
そして、2人がこれだけ騒いだことで、私達3人を取り巻くように、他のプレイヤーたちもこの事態を眺めている。
(……1人で行かせたのが失敗だったと……今後は私も同行するとしましょう……はぁ……)
こちらの心中など知る由もなく、謎のオッサンとアロマさんは一通り騒ぎ終えたところで、私に話を振ってきた。
「悪いね、兄ちゃん。この子がうちのギルドメンバーからアイテムを掠め取ったらしいんだよ。この落とし前、どうつけてくれるのかねぇ?」
ここにきて、ようやく襟首を放されたので、振り返ってオッサンの顔が見れた。
小太り、紫色の短髪、そこそこの強面という、何処となく子悪党という雰囲気が漂ってきそうな戦鎚使いのプレイヤーだった。
これが現実世界の話なら、色々と考えねばならない場面ではあるが、残念ながらここはSAOというゲーム世界だ。
「はぁ……そんなことできるはずないでしょう。他人の所有するアイテムを《圏内》で掠め取れたら《
というかそもそも、圏外でも掠め取ることなどできない。
できるようなら、PKをしてアイテムを強奪する、というようなプレイヤーは減っていたはずだ。
「そうよこのバカ! くれるっていうから貰ったって言ってるでしょ!」
だがしかし、小太りのオッサンは動じない。
「うちのギルドメンバーは、脅されたって言ってんだよなぁ。困るんだよねぇ、そういうの」
野太い声でニヤニヤと笑みを浮かべながらそんなことをのたまう。
(……なるほど……つまり、アロマさんにアイテムを渡したことも計画のうちだった、というところでしょうかね……)
「脅してないってば! ね~、セイド! どうにかしてよ~!」
私の後ろに隠れているアロマさんが、困ったことに、私に問題を押し付けてくる。
(……さて……どうしたものか……)
おそらくは、何かと因縁をつけて、こちらからアイテムないし金銭を巻き上げようという魂胆なのだろうが。
何でもかんでも貰ってしまうアロマさんにも非はあるが、だからといって、この手の悪党に屈するつもりは毛頭ない。
ため息交じりに私は男に尋ねた。
「……条件は何なんですか?」
「ポーションと結晶を倍にして返して貰おうか。それができなきゃ、その娘をうちによこしな」
オッサンのニヤニヤ顔が更に醜悪な、下卑たものとなった。
「この娘を……ですか? それは……苦労すると思いますよ?」
アロマさんを渡すことに苦労する、のではなく、アロマさんをギルドに入れたら苦労する、という意味でだが、そんなことは口にしない。
「ばか! あほ! きもおやじ!」
こちらのやり取りの最中も、アロマさんは延々とオッサンに罵詈雑言を投げつけまくっていた。
「アロマさん、良い子だから黙ってなさいね」
流石にやかましいので止めようと思ったのだが――
「デュエルで話をつけようじゃないの! 叩きのめして、アホな口きけなくしてやるんだから! こっちが勝ったら、黙って帰れ!」
――再び爆弾が炸裂した。
(……こっちからケンカ売ったよ……この娘は……)
思わず右手で額を押さえた。
アロマさんが来てからというもの、こんなやり取りが日常茶飯事になっている気がする。
気のせいであることの祈るばかりだ。
「ほへ~、威勢良いねぇ、お嬢ちゃん!」
「うっわ! きもっ!」
男の下卑た顔は、確かに気持ち悪いが、だからといって、私を前に押し出すのは止めて欲しい。
さっさと買い物を済ませて帰ってしまえば良かったと思う反面、こんな連中に宿屋にまで押しかけられなくて良かったと思うところもある。
何にせよ、こんなアホなことに付き合わされるとは思ってもいなかった。
流石アロマ爆弾……恐ろしい威力だ。
「デュエルでもいいよぉ? お嬢ちゃんが勝てば、今回のことは無かったことにしよう。ただし、お嬢ちゃんが負けたときには、倫理コードを解除したままうちのギルドに入ってもらおうか」
「ん? なんだかわかんないけどそれで良いわよ!」
(いやまて、言われたことを理解できていないのに了承するな!)
アロマさんにツッコもうとしたところで、アロマさんが立続けた言葉は――
「セイドが負けるわけがないんだから!」
――思わずこけた。
「……どうして私がデュエルをする羽目になるんですか?」
「コイツ気持ち悪いんだもん! 私の武器が汚れる!」
あまりと言えばあまりの台詞だった。
知らず知らずに項垂れながらアロマさんに言葉を返す。
「私の拳が汚れるのは良いんですか? 自分で何とかなさい。アロマさんの実力なら負けることも無いでしょう」
しかし、アロマさんは私の後ろから出てこようとはしない。
「セイド~……頼むよぅ~……もう知らない人からアイテム貰わないからぁ~……」
「……全くもう……」
「兄ちゃんが相手でもいいぜぇ? お嬢ちゃんが貰えるなら何だってねぇ……フヒヒッ」
そんなオッサンの台詞に、アロマさんはあからさまに嫌悪を表情に出した。
私の後ろに引っ込んで、顔すら出さない始末だ。
よほどこのオッサンが気持ち悪いらしい。
まぁ、確かに、勝負に負けたら倫理コードを外せ、などと言う時点で、コイツは単なるエロオヤジに違いない。
オッサンから私にデュエルが申し込まれ、承諾か否かの選択画面が浮き上がった。
アロマさんが両手剣を背負っているのに対し、私が無武装且つ布系防具というのを見ての判断なのだろう。
「……今回だけですからね、アロマさん」
私の呟きに、アロマさんが何度も何度も頷いているのが振動として伝わってきた。
まったくもって、アホなことに巻き込まれたものだ。
デュエルは、列記するほどのことも無く終わった。
始まって1秒足らずで勝負がつくのは確かに珍しいが、裏拳1発でオッサンをぶっ飛ばしただけで、この場の騒動は治まった。
「もう勘弁してくださいね、あんな面倒なことは」
「うんうん、もう貰わないよ! セイド、ありがとー」
宿屋に帰る途中で、アロマさんに注意するよう言っているのだが、当の本人からは反省している気配が感じられなかった。
「本当にわかってるのかなぁ……はぁぁ~……」
「だーいじょーぶだーってー!」
「知らない人から物を貰ってはいけませんよ? 知っている人からでも、貰う前に私たちに相談するんですよ?」
「セイド、お母さんみたい」
「誰がそうさせてるんですか誰が。それと、そこはせめてお父さんでしょう、性別的に」
そんな実りのなさそうな会話をしながら宿屋に戻ると、入ってすぐの食堂で、すでにマーチとルイさんが座って待っていた。
「ルイルイ、マーチ、おっまたせぇー!」
先程の騒ぎなどなかったかのように、アロマさんは明るく元気にマーチとルイさんのもとに駆けて行った。
それを眺めて、やはり勝手にため息が漏れた。
やれやれである。
なんにせよ、お互いの戦果を報告しあう。
マーチとルイさん側では特に有益な情報も無かったようだ。
こちらも特に変わった買い物はしていなかったので報告は手短に終わらせた。
アロマさんの起こした騒動に関しても手短に話すだけにとどめた。
私がマーチと午後の狩り場を選定している間、アロマさんには、反省の意味を込めて床に正座させておいたからだ。
ルイさんはアロマさんが可愛そうと言ったが、こればかりは譲らなかった。
「セイド……足が痛い……」
「正座で済んでいるだけ良いと思いなさい」
「マスター、足が痛いです」
「言い方を変えても慰めてあげません。黙ってないと話が長引いて、その分正座時間も伸びますよ?」
「ぶ~」
午後の狩りは、最前線の1つ下のフィールドで行うことにした。
経験値やコル稼ぎもそうだが、現時点での私達の力を把握し直すという意味合いも込めている。
マーチと私で連携や《剣技》の確認を行っている間、ルイさんとアロマさんは、新たに鞭を装備することも考えたルイさんの動きの確認をしていた。
「攻撃前のモーションがちょ~っと大きいかなぁ~?」
「私が使っている武器に比べれば早めなんだけどねぇ。鞭ってすごく使いづらいし、無理そうならやめた方が良いかも?」
――とか。
「ん~……普通に攻撃する分には、こんなものなのかな~?」
「さっきのルイルイの1撃であのイノシシのHP、2割削れたよね……その鞭の攻撃力から考えると……2割って、結構強いと思う」
「そだね~、でも威力が安定しないね~」
「鞭だもん。タイミングが合わないとノーダメだよ。やっぱりダメージより、武器を叩き落としたり、手足に絡みつかせてメイン武器でトドメって方が良いね」
――とか。
こうして聞いていると、アロマさんも馬鹿ではないのに、どうしてトラブルばかりに見舞われるのだろうか。
(危機回避能力が著しく無いんでしょうか? もしくは天然で思慮が浅いか……)
「ってか、セイド。アロマが気になるのも分かるが、今はこっちに集中しろよ」
「……まさかマーチに言われるとは思いませんでした。失礼」
「そりゃどーいう意味か、今度じっくり聞かせてもらおうか?」
意識をアロマさんとルイさんの会話に割いていたのをマーチに見抜かれ、私はマーチと軽口をたたきながら戦闘に意識を戻した。
――そのため、この後、ルイさんとアロマさんがしていた会話を聞くことはできなかった。
「う~ん……イノシシ相手だと、絡みつかせるのは難しいねぇ~」
「それはまあ、別の敵で試そ! 今はまず慣れることだよ! それに、鞭の最大の利点って、やっぱりリーチの長さだよね! マーチの間合いよりは絶対リーチが長いから、使いこなせるようになれば援護もバッチリじゃん!」
「マーチんに援護なんか要らなさそうだけどね~」
「そうかもしんないけど……まぁ、できると嬉しいでしょ?」
「ロマたんも、セイちゃんの援護ができると嬉しい?」
「……う……そりゃまぁ……でも、セイドこそ私の援護なんか要らないよ。強いもん」
「そうでもないんじゃないかな~。戦いの援護だけが援護じゃないよ~?」
「むぅ?」
「フフ……そのうち分かるよ~」
太陽がゆっくりと傾き、空が赤く染まるころに狩りは終了とした。
空に浮かぶ城の外周と、その外に広がる地平線、そして遠い空が金色に変化しているのを見ると、いつも郷愁に駆られる。
こんな故郷で生まれ育ったわけではないのに、生きて帰りたいと強く願わずにはいられない。
(生きてこの世界から帰る。絶対に)
そんなことを考えながら街道を歩いていると、マーチはマーチで別のことを考えていたらしい。
「……女子2人が並んで話してるってのは、絵になるな。華があっていい。特に俺の嫁」
相変わらず、マーチの頭の中はルイさんでいっぱいだった。
「マーチんのば~か。そいえば~、経験値は稼げたの~?」
マーチの台詞に、ルイさんは笑いながら答えた。
顔が赤く見えるのは夕焼けのせいだけではないだろう。
「ん、レベルアップまで行ったからな。今日は順調だった」
「マーチ、レベルアップしたの? おめでとー! それに比べてセイドは……」
アロマさんは、マーチへの賛辞を送った後、私にジト目を投げてきた。
「私はこの間レベルアップしたばかりじゃないですか。まだ上がりませんよ」
「このロクデナシ! 稼ぎがないなら帰ってくるんじゃないよっ!」
何のキャラだよ、というツッコみはしない。
その手のノリをするより、今日はもっと有力な反撃手段が手元にある。
「そうですか。じゃあ今日の夕食に出そうと思っていた《グリル・ラビットの肉》は売りに出しましょう」
「申し訳ございませんでしたマスター!!」
私の台詞を聞くや否や、アロマさんは土下座をしてみせた。
「変わり身、はやっ!」
ルイさんの手によって素晴らしく焼き上げられた《グリル・ラビットの肉》をメインに、私たちは夕食を堪能し、ゆったりと夜の一時を過ごす。
――ただし、アロマさんは正座でメインディッシュをお預け状態にしている。
明日は、少し経験値稼ぎをルイさんにさせながら、鞭の扱いをさらに向上させるために、武器を持ったモンスターとの戦闘を主軸にしようという話になった。
――まだアロマさんは正座でお肉をお預け状態だ。
ルイさんは、そんなアロマさんを不憫に思いつつも、食事を終えてマーチと共に部屋へ戻った。
半泣き状態で料理と私の顔を見比べるアロマさんを見て、さすがに可哀想になった。
「今日のことは本当に反省しましたか?」
「反省したよ~……私が悪かったよ~……気を付けるから~……うぅぅ……」
「はい。食べて良いですよ」
と、言った瞬間。
「いただただきまフ!」
いただきますと言い終える前に、アロマさんは肉に喰らい付いていた。
語尾がフになったのはそのせいだ。
「……急ぎすぎです……まったく、行儀悪いですよ」
とは言いつつも、美味しそうに料理を食べるアロマさんを見ると、ついつい顔が綻んだ。
(まあ、色々と騒がしい娘ではありますが、悪い娘ではないのは確かですね)
「しぇいど、ほひひい」
「美味しいですか、良かったですね。落ち着いて食べて下さい」
「んまんま」
「……頬にソースがついてますよ」
「ん~」
「全く……料理は逃げませんから、落ち着いて食べなさいって」
そう言った私の言葉に、アロマさんは頬張った肉を飲み込んだ。
「んっ! だって! セイドは夜の狩りに行っちゃうじゃん! 早く食べないと置いて行かれるもん!」
「……鋭いですね。ですが、落ち着いて食べて下さい。置いて行きませんから」
「え? ちゃんと待っててくれるの?」
「ええ。置いていこうとすると、あなたは形振り構わず追いかけてきますからね。落ち着いてから行かないと、余計なトラブルが――」
「ひゃっはー! 待ってて! すぐ食べちゃうから!」
私の言葉も聞かずに、アロマさんは一気に肉を口に放り込んだ。
「いや、だから落ち着きなさいと――」
そしてそのまま、大して咀嚼もせずに飲み下す。
(なんという食い方をするんだこの娘は⁈)
「ごっそさまでした! 40秒で支度するね!」
「だから落ち着け!」
こちらの話も聞かずに、高速でパネルをタップするアロマさんを眺めていると、狩場についてからの光景が目に浮かぶようだった。
私の後ろで、また間抜けなBGMを流しながら彼女は踊っているに違いない。
それを聞きながらのレベル上げは、確かに効率がいいものではないが、それはそれで良いのかもしれない。
そんなことを考えていると、不意にアロマさんが話しかけてきた。
「昼間ね、ルイルイと話してたんだ」
「何をですか?」
「ルイルイの鞭はマーチの援護になるかどうかって話」
「ふむ……なるときはなるでしょうね。あの2人なら呼吸もピッタリですから」
「だよね! でね、そのときにね。ルイルイがわかんないことを言うんだよ」
メニュー操作を終えて、アロマさんが私に向き直った。
「ふむ?」
「私じゃセイドの援護はできない、って言ったら、戦いだけが援護じゃないって言うんだよ。どういうことなのかな? 普段の生活でだって……その……私はあまり役に立たないし……」
アロマさんの、『役に立たない』という発言は、自分のスキル構成が戦闘に特化し過ぎている上に、アイテムの売買に関しての知識も不足していることを言っているのだろう。
「ふ~む……」
「セイド、意味分かる?」
アロマさんには、ルイさんの言葉は、分かり辛かっただろう。
「ルイさんの真意は分かりかねますが、あなたが私の援護になっている、というところは当たっていますよ」
「え? だって……買い物できないし、料理だって……」
買い物はまだしも、何故ここで料理という発言が出たのかは……聞き流そう。
引っ張ると、恐ろしいことになる予感しかしない。
「いや、役に立つかどうかが援護になるとは限りませんよ」
「んん~?」
「そもそも、アロマさんは充分役立つ存在です。私の周りに貴女がいてくれると助かります」
「え、あの……それって……どういう……」
難しそうな顔をして考え込んでいたアロマさんだが、少しだけ顔を赤らめ、私の顔を見つめてきた。
答えにたどり着いたらしい。
なにやら、ちらちらと私に視線を投げている。
「貴女の世話をしていると、しっかり生き延びなきゃいけないと思えますからね」
「……へ?」
「うっかり私が死んだりしたら、だれもアロマさんの面倒をみれないじゃないですか」
「――っ! そこへなおれーっ!!」
その夜の狩りは、破竹の勢いで進んだといっていいだろう。
いつもなら踊り狂っていたであろうアロマさんが、がりがり敵を連れてきて粉砕していったからだ。
何か、私が気に入らないことを言ったらしいが、この成果があがるなら、まぁ良しとしていいだろう。
「セイド……いつか絶対ぶっとばす!」
「それは楽しみです。早くそれくらい強くなってくださいね」
「むきぃーっ! 見てなさい……後悔させてやるんだからねっ!」
そんなこんなで今日も、まあ、平和と言っていいであろう1日が過ぎていった。