ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

10 / 74
長かったプロローグだけで飽きられてるかもしれませんね(・_・;)

ある意味、やっと本編です(;一_一)


第一章・運命
第一幕・竜骨の墓地


 

 

 静まり返ったダンジョン内で、私は1人、静かに静かに息を吐いた。

 

 時刻は午前1時。

 

 マーチとルイさんが寝入ったのを見計らって、私は狩場に出向いていた。

 

 私は相変わらず、睡眠時間を最低限にし、人が減る時間帯を見計らって《レベル上げスポット》に出向いている。

 

 現在知られている中で最も効率のいいスポットは、私のスキル構成的に向かないので、今私が来ているのは、私には最も効率のいいスポットであって、他のプレイヤーは皆無だ。

 

 というか、この場所は、倦厭されているだろう。

 27層のフィールドダンジョン《竜骨の墓地》。

 

 最前線が30層であることを考えれば、このフロアも、そう楽な場所ではないはずなのだが、朝昼のマーチたちとのパーティー狩りに、夜間のソロ狩りも合わせ、私のレベルは、このフロアでの安全マージンを充分すぎるほどにとっている。

 

(人がいないことを加味すると、まだまだ、ここでやれますね)

 

 マーチとルイさんも、すでに私が夜間にソロ狩りをしていることは知っている。

 

 私に同行してこないのは、2人だけの時間を作ってあげたいと、私が随分前に言ったからだ。

 

 現実世界で私と同じ大学に通う2人は、リアルでも恋人同士であり、この世界においては結婚もしている。

 そんな2人と、常に私が一緒にいるというのは、正直、2人に悪いし、私としても一緒に居続けるのは気が引ける。

 

 そんなことを考えながら一息ついたところで、周囲の敵が再出現(リポップ)し始める。

 

 この《竜骨の墓地》の基本モンスター、《骸骨兵士(スケルトン・ソルジャー)》たちは、手にしている武器こそ剣・斧・槍・戦鎚などとバラバラだが、武器を持つモンスターとしては珍しく《剣技(ソードスキル)》を使用してこないという特徴がある。

 

 その分、通常攻撃の速度は速めで、全体的な動きも他の骸骨系モンスターに比べると速い。

 だが、間違って喰らっても、通常攻撃なので1撃1撃の威力は然程高くはない。

 

 とはいえ、集団で囲まれて袋叩きにあえば、防御力の低い私のHPなど、あっという間に赤の危険域(レッドゾーン)に陥るだろうが。

 

 また、骸骨兵士たちは、防御力は低いものの、最大HPが高めなので、武器を選ぶ狩場となる。

 

 骸骨系に最も有効なのは《打撃》属性だが、メジャーな武器である剣や斧などは《斬撃》属性なので、若干効き目が薄い。

 さらに、槍や刺突剣(エストック)といった《刺突》属性の攻撃は、もともと骸骨系には効果が薄いのでさらに出番がない。

 

 それにどうやら、ここの骸骨たちは、《打撃》属性以外のダメージをさらに半減させる特性もあるようで、殊更効果が薄くなってしまっている。

 

 さらに、敵の持つ武器が、墓場で錆びているということからか、低確率ではあるが、《麻痺》や《毒》といった状態異常を引き起こす可能性もある。

 

 ――と、これらの理由により、この場はメジャーな狩場としては機能していなかった。

 

 私のような例外を除けば。

 

「シュッ!」

 

 鋭く息を吐きながら、回し蹴りで手近な骸骨の頭を粉砕し、回転の勢いを殺さず、後ろから近付いてきていた骸骨に二連拳撃技《ファング》を叩き込み粉砕する。

 

 私の使う《体術》スキルは、拳や蹴りといった肉弾戦のスキルで、特別な例外を除いて、その攻撃属性は《打撃》に分類されている。

 故に、私にとってここの骸骨たちは、非常に倒しやすい敵だ。

 

 注意すべきは、《麻痺》だけ。

 しかしそれも、全ての攻撃を回避することで受けないよう努力している。

 

 《体術》しかない私にとって、受け流し(パリィ)は体力も一緒に削られるため、可能な限り避けたいところであるし、体力が削られるということは、相手の武器による状態異常の発生判定があるということでもある。

 回避が追い付かなかった場合以外は、取りたくない手段だ。

 

 プレイヤーが私しかいないため、周辺の骸骨たちはワラワラと私の周りに集まってくる。

 

 それらを遠慮なくスキル全開で粉々に砕けるのも、やはり周りにプレイヤーが居ないからだ。

 

 最近目に見えて増えてきたPK(プレイヤーキラー)の問題もあり、自身のスキル構成やレベルなどは、親しい仲間にすら教えないという風潮が基本となっている。

 私達もその例外ではない。

 

 特に、私は人に言えないようなスキル構成になってしまっている。

 おそらく、マーチ辺りが知ったら、怒鳴られるのではないかという構成だ。

 

(しかしまぁ、必要だったわけですし、それに)

 

 背後から曲刀を振り下ろしてきた骸骨の攻撃を、身を捻ることで躱し、そのままの勢いに裏拳を叩き込んで吹き飛ばす。

 

構成失敗(ビルドエラー)とは言いませんしね。むしろ大正解でした)

 

 カシャカシャと音を立てて動く骸骨兵士たちを私は軽く見まわし、再び突撃していく。

 

(……普通、このスキルを上げるような人はいませんし……上げているとしたら、同時に他2つも、上げているでしょうからね……)

 

 骸骨兵士を殴り、または蹴り、次々と粉砕していくと、レベルアップのファンファーレが鳴り響いた。

 

 ここに来たのが午後21時だったから、4~5時間、ぶっ通しで狩り続けていた甲斐があったというところだろう。

 

(睡眠時間を考慮すると……まだ2時間は行けますね……)

 

 近頃の私の睡眠時間は、基本的に3時間。

 まあ、2週間に1度、8時間ほど爆睡するが。

 宿屋に帰るまでの時間を考慮しても、ここを4時前には出ればいい。

 

(休憩なしで2時間……しかし……次のレベルアップは……2~3日先かな……)

 

 正直に言えば、この段階でマーチとルイさんのレベルと、10ほど差が開いているはずだし、スキルの熟練度に至っては、街でも鍛えられるものは鍛え続けている甲斐もあり、マスターに至った2つのスキル以外にも、そろそろ900の大台に乗るものもある。

 

 ギルドまで設立した仲間と、これほどにレベル差が開くというのは、正直いいことだとは思わないが、私の意志は変わらない。

 

(仲間を守れるだけの強さを……そのためなら……)

 

 突出したレベルを持てば、高効率のパワーレベリングも可能になるというのも、理由にある。

 

(マーチも、ルイさんも、死なせない)

 

 私を突き動かすのは、この一点に尽きた。

 

 ――骸骨兵士の粉砕音とともに、周囲のモンスターのポップが、一旦止んだ。

 と、同時に。

 

(ん。人が来た?……こんな時間に……こんな場所へ?)

 

 私のスキルが、人の接近を捉えていた。反応は4。一応全員グリーンだ。

 

(まあ、《隠蔽(ハイディング)》している人がいたとしても、見破れないことは多分ないでしょう)

 

 意識を集中して、《隠蔽》プレイヤーがいないか注意するも、反応は無い。

 

 もうしばらく彼らが進んで来れば、私に気が付くだろう。

 

 私は《隠蔽》を習得していないので、隠れようがない。

 もしくは、彼らの中に《索敵(サーチング)》を高いスキルで修めているプレイヤーが居れば、すでに捉えられているかもしれない。

 

(気にしても始まりませんかね……っと!)

 

 プレイヤーの接近を気にしていると、骸骨兵士たちの再出現が始まった。

 

 この場所はこのダンジョンで最も敵がポップするスポットで、安全エリアも少し遠い。

 

 やってくるプレイヤーがグリーンなら気にせず私は私の狩りに集中する、と決め、意識をモンスターに向け、再び拳を振るった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。