ある意味、やっと本編です(;一_一)
第一幕・竜骨の墓地
静まり返ったダンジョン内で、私は1人、静かに静かに息を吐いた。
時刻は午前1時。
マーチとルイさんが寝入ったのを見計らって、私は狩場に出向いていた。
私は相変わらず、睡眠時間を最低限にし、人が減る時間帯を見計らって《レベル上げスポット》に出向いている。
現在知られている中で最も効率のいいスポットは、私のスキル構成的に向かないので、今私が来ているのは、私には最も効率のいいスポットであって、他のプレイヤーは皆無だ。
というか、この場所は、倦厭されているだろう。
27層のフィールドダンジョン《竜骨の墓地》。
最前線が30層であることを考えれば、このフロアも、そう楽な場所ではないはずなのだが、朝昼のマーチたちとのパーティー狩りに、夜間のソロ狩りも合わせ、私のレベルは、このフロアでの安全マージンを充分すぎるほどにとっている。
(人がいないことを加味すると、まだまだ、ここでやれますね)
マーチとルイさんも、すでに私が夜間にソロ狩りをしていることは知っている。
私に同行してこないのは、2人だけの時間を作ってあげたいと、私が随分前に言ったからだ。
現実世界で私と同じ大学に通う2人は、リアルでも恋人同士であり、この世界においては結婚もしている。
そんな2人と、常に私が一緒にいるというのは、正直、2人に悪いし、私としても一緒に居続けるのは気が引ける。
そんなことを考えながら一息ついたところで、周囲の敵が
この《竜骨の墓地》の基本モンスター、《
その分、通常攻撃の速度は速めで、全体的な動きも他の骸骨系モンスターに比べると速い。
だが、間違って喰らっても、通常攻撃なので1撃1撃の威力は然程高くはない。
とはいえ、集団で囲まれて袋叩きにあえば、防御力の低い私のHPなど、あっという間に
また、骸骨兵士たちは、防御力は低いものの、最大HPが高めなので、武器を選ぶ狩場となる。
骸骨系に最も有効なのは《打撃》属性だが、メジャーな武器である剣や斧などは《斬撃》属性なので、若干効き目が薄い。
さらに、槍や
それにどうやら、ここの骸骨たちは、《打撃》属性以外のダメージをさらに半減させる特性もあるようで、殊更効果が薄くなってしまっている。
さらに、敵の持つ武器が、墓場で錆びているということからか、低確率ではあるが、《麻痺》や《毒》といった状態異常を引き起こす可能性もある。
――と、これらの理由により、この場はメジャーな狩場としては機能していなかった。
私のような例外を除けば。
「シュッ!」
鋭く息を吐きながら、回し蹴りで手近な骸骨の頭を粉砕し、回転の勢いを殺さず、後ろから近付いてきていた骸骨に二連拳撃技《ファング》を叩き込み粉砕する。
私の使う《体術》スキルは、拳や蹴りといった肉弾戦のスキルで、特別な例外を除いて、その攻撃属性は《打撃》に分類されている。
故に、私にとってここの骸骨たちは、非常に倒しやすい敵だ。
注意すべきは、《麻痺》だけ。
しかしそれも、全ての攻撃を回避することで受けないよう努力している。
《体術》しかない私にとって、
回避が追い付かなかった場合以外は、取りたくない手段だ。
プレイヤーが私しかいないため、周辺の骸骨たちはワラワラと私の周りに集まってくる。
それらを遠慮なくスキル全開で粉々に砕けるのも、やはり周りにプレイヤーが居ないからだ。
最近目に見えて増えてきた
私達もその例外ではない。
特に、私は人に言えないようなスキル構成になってしまっている。
おそらく、マーチ辺りが知ったら、怒鳴られるのではないかという構成だ。
(しかしまぁ、必要だったわけですし、それに)
背後から曲刀を振り下ろしてきた骸骨の攻撃を、身を捻ることで躱し、そのままの勢いに裏拳を叩き込んで吹き飛ばす。
(
カシャカシャと音を立てて動く骸骨兵士たちを私は軽く見まわし、再び突撃していく。
(……普通、このスキルを上げるような人はいませんし……上げているとしたら、同時に他2つも、上げているでしょうからね……)
骸骨兵士を殴り、または蹴り、次々と粉砕していくと、レベルアップのファンファーレが鳴り響いた。
ここに来たのが午後21時だったから、4~5時間、ぶっ通しで狩り続けていた甲斐があったというところだろう。
(睡眠時間を考慮すると……まだ2時間は行けますね……)
近頃の私の睡眠時間は、基本的に3時間。
まあ、2週間に1度、8時間ほど爆睡するが。
宿屋に帰るまでの時間を考慮しても、ここを4時前には出ればいい。
(休憩なしで2時間……しかし……次のレベルアップは……2~3日先かな……)
正直に言えば、この段階でマーチとルイさんのレベルと、10ほど差が開いているはずだし、スキルの熟練度に至っては、街でも鍛えられるものは鍛え続けている甲斐もあり、マスターに至った2つのスキル以外にも、そろそろ900の大台に乗るものもある。
ギルドまで設立した仲間と、これほどにレベル差が開くというのは、正直いいことだとは思わないが、私の意志は変わらない。
(仲間を守れるだけの強さを……そのためなら……)
突出したレベルを持てば、高効率のパワーレベリングも可能になるというのも、理由にある。
(マーチも、ルイさんも、死なせない)
私を突き動かすのは、この一点に尽きた。
――骸骨兵士の粉砕音とともに、周囲のモンスターのポップが、一旦止んだ。
と、同時に。
(ん。人が来た?……こんな時間に……こんな場所へ?)
私のスキルが、人の接近を捉えていた。反応は4。一応全員グリーンだ。
(まあ、《
意識を集中して、《隠蔽》プレイヤーがいないか注意するも、反応は無い。
もうしばらく彼らが進んで来れば、私に気が付くだろう。
私は《隠蔽》を習得していないので、隠れようがない。
もしくは、彼らの中に《
(気にしても始まりませんかね……っと!)
プレイヤーの接近を気にしていると、骸骨兵士たちの再出現が始まった。
この場所はこのダンジョンで最も敵がポップするスポットで、安全エリアも少し遠い。
やってくるプレイヤーがグリーンなら気にせず私は私の狩りに集中する、と決め、意識をモンスターに向け、再び拳を振るった。