ソードアート・オンライン ~逆位置の死神~   作:静波

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どうも初めまして、静波と申します。
前々から書きたい書きたいと思ってはいたものの、なかなか書く機会もなく、また書いては見たものの出す場がなかったので埋もれていたのですが、今回、この場にて、ださせていただきました。
更新速度は非常に遅いと思いますが、お付き合いいただければ幸いですm(_ _)m




Prologue
第一幕・ゲームとして


 

 

「だから! 何度言えば分るんだ! 外からの解決があるにせよ! 無いにせよ! 待ってるだけじゃ何もできなくなる! ヤバい奴らにも対抗できない!」

「でもっ……! 街から出たりすれば死んじゃうかもしれないんだよ?!」

 

 宿屋で確保した一室で。

 

「だからっ! β経験のある俺が指導するし、守ってやるって言ってんだろ!」

 

 私の親友が、彼の恋人を一生懸命に諭している。

 だが、彼女はなかなか現状を受け入れられないでいるようだ。

 

「でも……でも……ぅ……っ」

 

 そしてそれは当然の反応だといえる。

 突然こんな状況に放り込まれては、私や彼のように受け入れられる方が異常なのだ。

 

「とにかく! すぐこの《はじまりの街》を出て、隣の村に移動するぞ! 俺のβの知り合いは、もう昨日のうちにこの街を出てる! 今からでも遅い位だ!」

「……何か、準備などは?」

「必要ない。このままでも充分安全に行ける」

 

 私の問いかけには短く答え、彼はすぐに彼女の説得を続ける。

 

「なぁ、頼むよルイ。俺がお前を守るから。とにかく今は、俺を信じて一緒に来てくれよ、頼むから!」

 

 私の親友マーチは、恋人のルイさんを説得するためだけに、ここに留まっている。

 彼女が居なければ、間違いなく、あのチュートリアルが終わった段階でこの街を飛び出していただろう。

 

「で……でもぉ……怖いんだもん……ぅ……ぅぅ……」

 

 ルイさんはまた泣き始めていた。

 先ほどようやく話ができる程度に泣き止んだばかりなのに。

 

(……これでは話が進まない……どうするんだ、マーチ)

 

 不安に思いながらマーチを見やると、彼はもう説得をあきらめていた。

 

「あ~もう! わかった! 引っ張ってでも連れて行く!」

 

 言うが早いか、マーチはルイさんの手を取り引っ張るように歩き始めた。

 

「え、ちょっとマーチ、それはハラスメントになるんじゃ」

「ルイがハラスメント認証しなけりゃ平気だよ! されるはずがないだろ!」

「……それはまぁ……確かに……」

 

 それに、犯罪防止コードも発生していない。これはつまり、ルイさんにもマーチに引っ張られることを拒絶する意思がないことを示すことでもある。

 

「急ぐぞ。β経験者ならもう隣の村に殺到していてもおかしくない。早いやつならそこを抜けて、さらに先の拠点に行っている可能性すらある」

 

 こうして、マーチに連れられてルイさんもようやく《はじまりの街》から出るに至った。

 

(……ふぅ……昨日、基礎的な手ほどきをマーチから受けていたのは正解でしたね……それに……彼らに先んじてログインしていたことも、多少の差ではあっても良かった……)

 

 

 

 

 

 あの、忌まわしいチュートリアルよりも少し前のこと。

 

 私がこのVRMMORPG《ソードアート・オンライン》にログインしたのは、正式サービス開始時刻とほぼ同時だった。

 本当はマーチやルイさんと時間を合わせて始めるという話だったけれど、ゲーマーの端くれとしては、βに当選できなかった分を少しでも早くログインすることで埋めたかったというのがその時の心境で、待ち合わせの時間までの30分すら待てなかったのだ。

 

 β経験者のマーチが、サービス開始時刻と同時にログインできないのは、恋人のルイさんとの外出予定があったからだが、そこは二人とも重度のゲーマーである。30分以内には入るという連絡がメールで届いていた。

 

 βのデータを持ち越しできるわけではないので、ゲーム開始直後のステータス的な差は無いということになるが、最大の差は情報と知識と経験であることを私は知っている。

 

 街のショップの場所や品揃え、周辺地域の地理や敵の攻撃方法及び弱点、こなすことで有利になれるクエストの情報などなど、数えだせばきりがない。

 

 だから私は少しでも早くログインして、1つの経験をしておくことにしたのだ。

 

 それが、このSAOの最大の特徴である《戦闘》である。

 

 MMORPG系にしては珍しい、魔法という概念の排除されたこの世界では、プレイヤーは皆、武器ひとつで敵と戦うことになる。

 その戦闘にはクセがあり、慣れるのにちょっとコツがいるとマーチが言っていたのだ。

 

 ならば、習うより慣れる。

 ログイン後、私はすぐに街から出て、始まりの草原でイノシシ型のモンスター相手に戦闘をしていた。

 

 なるほど確かに、このSAO独特の《剣技(ソードスキル)》の発動にはちょっとしたコツが必要だったが、1~2度やってみると、想像以上に体になじむ感じがした。

 それに。

 

(直接戦っているという感じが、たまらなく気持ちいい……)

 

 ソロで試行錯誤しながらイノシシとの戦闘を3度ほど終えた頃には、マーチとルイさんがログインしてくる時間となり、私は街へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「マーチィ? どこですかー?」

 

 《はじまりの街》に戻り、あらかじめ合流場所として決めてあった《黒鉄宮》と呼ばれる建物の前へ辿り着いた私は、少々憚られながらも大声を上げて、友人がβ時に使用していたというプレイヤー名を呼んだ。

建物前の広場は多くのプレイヤーで賑わっていて、外見が分からない友人と合流するには、声を上げるくらいしか思いつかなかった。

 

「よぉ、こっちこっち!」

 

 私の呼びかけに応えた友人の声を頼りに視線を巡らせると、そこには手を大きく振っている男女のペアがいた。

 友人の《マーチ》と、その恋人の《ルイ》さんだった。

 マーチのキャラは、黒いバンダナをした銀髪に、切れ長の碧眼を持った、少し筋肉質な長身の男性キャラ。

 ルイさんは、長めのオレンジがかった金髪をオールバック気味流して、ぱっちりとした碧眼の女性キャラで、マーチより頭2つほど低い身長だった。

 

「ごめんなさい、待たせましたね」

 

 合流するや否や、マーチからパーティーに誘われ、私はすぐにパーティーに合流した。

 

 私のキャラはというと、黒髪で黒目、マーチと大差ない体格をした柔和な顔の男性キャラだ。

 

「気にすんな。こっちこそ待たせたな《セイド》。オンラインネームはやっぱ変えないのな」

「まぁ、他のゲームでの慣れもありますからね。お2人も《マーチ》と《ルイ》じゃないですか」

「私は変えてもいいって言ったんだけど~、マーチんは変えたくないって~」

「やっぱ慣れてるし、愛着ってのもあるからなぁ。それと俺はβの知り合いもいる分、変えない方が何かと便利なんだよ」

 

 2人のやり取りを眺めていた私は、思わず笑みを溢しつつ短くため息を吐いてしまった。

 まったく、相変わらず仲のいい2人だ。

 

「ってか、それよりセイド、もういろいろ見て回ったのか?」

「いえ、街はほとんど回っていません。すぐに外で戦闘を始めたので」

「そっか。んじゃ、とりあえずルイも外で戦闘になれるところから始めるとするかね」

「え~! 私、街を見て回りたいって言ったじゃん!」

「街は逃げねぇよ。でも、外のモンスターは、この人数のプレイヤーが一斉に狩りはじめたら取り合いになっちまう。近場で練習できなくなると、ますます街を見て回るのが難しくなるぞ?」

「むぅぅ……しょうがないなぁ……」

 

 というようなやり取りを繰り広げ、私達3人はパーティーを組んでイノシシ狩りへと出向いた。

 マーチは初期武器に片手用曲刀を選択し、ルイさんは両手用棍棒を選択していた。

 

 マーチのレクチャーは的確かつ分かりやすく、またルイさんも持ち前の適応力ですぐに《剣技》に慣れた。

 合流後1時間ほどで戦闘に関するレクチャーも一通り聞き終わり、後は少し連携を練習しようということになった。

 

「しっかし……セイド、お前そのスキルで良かったのかよ?」

「え? 何か問題ありましたか?」

「う~ん……セイちゃん、やっぱり変わってるよね~、こんなに武器がいっぱいある世界で武器を選ばないとかさ~」

 

 2人が苦笑しながら言ってきたのは、私のスキル構成のことだった。

 ゲームを始めてすぐの段階では、選べるスキルスロットはたった2つで、そのうちの1つは攻撃系にするのが基本。

 攻撃系スキルを入れないと《剣技》を使えないし、《剣技》なしではモンスターは非常に狩り辛いからだ。

 

 しかし、私はそこで、あえて攻撃系スキルを選ばないという道を選んだ。

 代わりに入れたのは、日常系に分類される、あるスキルだ。

 

 確かに、はじめは《剣技》を体験するために《短剣》を使っていたのだが、1番使ってみたかった《体術》が、初期スキルにはなかったのだ。

 

「体を動かす感覚で攻撃できるんですから、これが1番しっくりくると思ったんですよ」

「間違っちゃいないとは思うがなぁ……」

「リアルと同じって、つまんなくな~い?」

 

 現実世界の私を知っている2人は、当然の疑問を口にしたが。

 

「いえいえ、これが癖になりそうな快感ですよ。現実では、これほどに殴れませんからね」

「……いや……あぶねーし……こえーぞ、そのセリフ……」

「だれも現実で殴る蹴るをしたいなんて言ってませんよ」

「言ってなくてもそう聞こえるんだってば~。見ず知らずの人には言わないようにしてよね~、セイちゃん」

 

 そう言いあいながら、私たちは笑顔も絶えずに狩りを続けていく。

 この時はまだ、このSAOの恐ろしさを、何1つ知らなかった。

 

 

 




自分で見直しただけでも、誤字・脱字・ルビミス等が見当たりました。
お気づきになりましたら、ご一報いただけると助かります(;一_一)

Lazy様より矛盾点のご指摘を頂きましたので、一部修正いたしました。
他にも何かございましたら、ご指摘くださいm(_ _)m

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