マスターは犬?...狼?......いいえ大神です 作:シャーロックペン
「よく頑張ったキリエライト。だが、相変わらずのその頑固さは直した方がいいぞ.........はっ!!」
上空から飛び降りてきた狼がその白い全身を使って、口にくわえた剣をサーヴァントへと振り下ろした。
「なんとか、間に合ったか。全員無事か?」
初撃は避けられたか。
周囲の状況を確認するとどうやらマシュ以外は大きな怪我はしていないようだ。敵はどうやらランサーらしく大きな鎌と鎖を携えていた。反英霊か?いや
「どうやら、新しい獲物が来たようですね。サーヴァントではないようですが、この威力...」
とりあえずは敵の注意をこちらへそらすことから。
キリエライトの足を貫通している鎖は今の衝撃でやつの手元から落ちている。
「所長はキリエライトに回復を!敵はこっちで対処します。」
「え、ええ....?」
返事が遅いような
「あなた一匹で私を?舐めないでもらえますか。サーヴァントでもない喋れる犬ごときに」
サーヴァントが敵意丸出しで突っ込んできた。たしかに、この間合いならランサーの方が有利か?
だが
「ん?一体いつから俺が一人だと思っているんだ。...キャスター!」
合図を送ると背後の建物からキャスターが現れる。そこまで時間はなかったが、それなりの仕掛けは施せただろう。
「あいよ。ったくいきなり走り出したと思ったらこれか、ま、女の為と思えば悪くはねぇか。そらよ!」
ルーン魔術、一瞬で空中に描かれる文字だけで彼の英霊としてのすごさが伝わってくる。
これが、英霊か
「キャスター?!まさか、あなたまでいたとは、犬は犬同士仲良くと言うことですか。」
犬っていうな、どこがだ。俺は大神だし、しかも元、というか現在も人間だ。多分。
「犬っていうな!」
「っく!まずはそっちの白犬から、死になさい!」
手に持った鎌のようなもので切りかかってくる。だが、キャスターほどじゃない。それにこの武器に、この雰囲気、この英霊は、
「...かわせ身、そら、お返しだ」
攻撃を回転して避けながらのバックステップでの回避技能。大神として覚えさせられた。鼠にな。
決めに行った攻撃を避けられてバランスを崩した、サーヴァントに後ろ蹴りを食らわす。
「なっ?!」
後ろへ吹き飛ぶ。
くそ、決めるつもりで蹴ったのに。腕で防ぎやがった。だが、この調子なら勝てるだろう。しかし、無駄な体力を消耗したくはない。俺の能力にも制限があるし
「どうする?逃げるか?俺は心が狭いから見逃してやるぐらいしかできんぞ?」
「はっ!見逃す?この状況でもそれが言えますか?」
マシュに鎌を突きつけるサーヴァント
飛ばした方向がまずかった。ちょうどマシュたちが回復を行なっているところだった。気づいたマシュが藤丸と所長を突き飛ばして逃したのだろう。
「せ、先輩...」
「マシュ!」
藤丸が叫ぶ。
「......」
おい、ふざけるなよ
「おいボウズ、どうする。.....ボウズ?」
なぁ
「だんまりですか?」
「......お前、誰に刃向けてるのか分かってんのか?...筆しらべ」
もう絶対に失わない。失くさない。死なせない。殺させない!
「な、なにを...」
時間が停まる。世界が一つの紙へと変化する。
描くは横一線
総てを断ちっ切る!
世界が動き出す。そして描いたものが現実となる。
「『断神・一閃』...お前程度じゃ見切れんさ。泥に飲まれているようじゃな」
首と胴体が別れたサーヴァントに向かって言う。この場で理解できたのはキャスターだけだろう。敵に回らなくて本当に良かったと思う。
「おいおい、まさかここまでやるとはな」
「助かったよキャスター、上手いこと俺に合わしてくれたみたいで。」
自分でも戦いたかっただろうに、俺にやらしてくれたのはキャスターの実力が高いのを物語っている。こいつならいつでも乱入して仕留められるだろう。
「いや、構わんさ、しかしボウズ。あっちの女三人が状況を飲み込めてねぇ」
いちいち漢らしいやつだ。
「ん?あぁ」
事情を話そうと振り向くとマシュがこちらに向かってきていた。キャスターの前に立つと縮こまりながら
「あ、あのつかぬ事をお伺いしますが、あなたがこの聖杯戦争のキャスターでしょうか?」
と聞く。
「おう、悪いな、挨拶もせずに」
「い、いえ!!それでそちらのワンちゃんは使い魔か何かでしょうか?日本語を喋ってるようにお見受けしましたが」
わ?!わんちゃんだと?!
なんだそのヘンテコな呼び方は、親しみを込めて大神さんと呼べと言っただろう?
「いや、俺の使い魔じゃねぇーよ。むしろ俺が使い魔だ。」
「?それはどう言う」
まぁいい
「三人とも無事か?怪我してるのはキリエライトだけだな、なんとか間に合ってよかった。???どうした、不思議そうな顔して」
藤丸、所長、マシュの三人がポカンとしていた。
「...ボウズ、お前その姿に見せるの初めてなのか?」
ああ!!そう言うことか!
「ん?あぁ、そういえばそうだな。ま、いずれ見せることになるんだ。仕方ない」
やばい。いろいろと感情が混ざりすぎて冷静になれてなかった。なんたる失態。
「あの、まさかとは思いますが、大神さんでしょうか?」
その、まさかだ。
「あぁ、そうだ。よかった。理由はわからんがお前が無事で、本当に良かった。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ〜?!犬だったんですか?!いや狼なんですか?!」
「いや、大神」
「え!なになに!!この犬、大神くんなの?ふわぁぁぁぁぁ!!ハスハスしていい?ハグしていい?はい、お手!!」
「させねぇーよ、しねぇーよ」
「お、大神。あなた.....私もちょっと触らせなさいよ....」
「何ですか?所長、あなた猫派でしょうが」
そのせいで俺ともめたでしょうが、一回。ちなみに俺は犬派
「おう、なんだボウズ、モテモテじゃねぇか」
「うるさいぞ。キャスター、.....うっとおしい。撫でるな!」
何回も撫でようとしてくる。藤丸と少しマシュ
「えぇ!!いいじゃん!綺麗な毛並みなんだからさ!触らせないともったいないよ。マシュもそう思うでしょ?」
「え?!い、いえ別に私は....もう少しだけ..」
「......勝手にしてろ」
本当に...
「......それで、デミサーヴァントになって生き残れたと、そう言うことだな?」
マシュがあの状態から生き残れた理由がわかってなんとなく安心した。彼女の中の英霊がなぜ、助けたかはわからないが、今は感謝しかない。
「はい、そうです。」
「まぁ、なんにせよ。キリエライトが生きていてくれてよかった。」
「私も、大神さんが生きていてくれてよかったです。......あの、大神さん」
「なんだ?キリエライト」
「い、いえ。...その、本当に無事でよかったです。もう会えないんじゃないかと」
「俺もだよ。でも、会えたから問題ない。次はもう絶対に離れたりしない。お前を危険な目には合わせない。」
そう、絶対にもう泣かせたりなんかしない。俺は、お前のためなら死んでやれる。
「......」
マシュが黙りこむ
「ほう?」
キャスター
「ほうほう」
続いて藤丸
「なにこれ」
そして所長、三者三様の反応を示す。
「そ、それで、ですね!大神さん」
「だからなんだ?」
「いえ、あの、っっ...」
「ダメだなぁ、大神くん、なってないよ。全然なってない。ねぇ、キャスター」
「そうだなぁ、俺は結構ボウズのことを気に入ってたんだが、これは評価を改めないといけないかもな」
「なんなんだよ、揃いも揃って」
「だーかーらー、名前だよ!な、ま、え!!」
「名前?それがどうした」
「さっきから聞いてたらキリエライト、キリエライトって。ちゃんと名前で呼んであげなよ!カルデアの時みたいにさぁ」
「せ、先輩!?」
『そうだぞ、ちゃんと呼んであげないとかわいそうじゃないか!』
一瞬ノイズが走った後、カルデアでロマンに渡された通信機から音声が入る。
「ロマニ?!あなた今更出てきて!今までなにしてたのよ!」
当然、所長が怒鳴る。
『ひっ?!いや、復旧作業と音声データの復元に手間取っちゃって、仕方なく、つながったと思ったらこんな状況だし』
「音声データ?」
『あぁ、うんこれこれ
「キリエライト!おいマシュ!」
「おお...がみ..さん」
「マシュ!」
「すいません、こんな姿をお見せして...」
「気にするな。すまない何もできなくて」
「いえ、いいんです。どうせ私は」
「そんなこと言うなよ。お前は俺の大事な人間の一人だ。何ならわがままの一つや二つ言ってみろ。一緒に死ぬぐらいならしてやる。」
「最後にお願いを聞いてもらってもいいですか?」
「あぁ、言ってみろ」
「名前、はもう呼んでいただけたので、.........手を握っていてもらえますか?」
「お安い御用だ。」
......どう?バッチリでしょ!!」
通信機の向こうで親指を立てているのがわかった。見えなくても分かった。
「さいっこうだね!」
それに藤丸が答える。
「......」
「アーキマン、プライバシーって知ってるか?」
「もちろん!!」
「はぁ...マシュ。」
「は、はい!!」
「これでいいんだろう?」
「いやぁ、いいねぇ、こう言うの見てっ
と。」
「あ、わかる?キャスター」
意気投合し始める藤丸とキャスター
「あぁ、俺のとこじゃ、もっとドロドロしたやつだったからな」
なんか声が切実だ。
やっぱりぽあっとしてる大神さんでした。血筋を超えた何かがそこにはあるんです。
筆調べについてはおいおいあげていきます。
感想お待ちしております。