マスターは犬?...狼?......いいえ大神です 作:シャーロックペン
「おお、我らが慈母アマテラスよ。本日も良き天気でございます。」
耳元で鼠が囁く。比喩表現でなく、まぁ見た目が体より大きな剣に乗った鼠である時点で既におかしい。本当の名前は別にあるのだが、この施設の住民には鼠と呼ばれている。ま、俺の眷属みたいなものだ。
そんなことは置いておいて、俺が今寝ている場所は自分の家ではない。
人理保障機関カルデア。簡単に言えば、大きな地球儀であるカルデアスを用いて人類の存続を保障する場所である。魔術だけでは見えず科学だけでは測れない世界を観測することで成そうとする機関。それがカルデアである。
しかし、めちゃ標高の高い山の上なのでなにかと不便だし外出ると死ぬ、寒くて。俺あったかいのが好きなのに。あぁ〜日向ぼっこして〜!
そしてかく言う俺だが、人ではない、と言えば嘘だけども。アマテラス、かつてヤマタノオロチを討ち果たし、常闇の皇を屠った大神の転生体と言うよりは憑依体に近いと思う。自分でもよくわかってない。俺の家系は代々日本の神を祀る神社をやっている。祀っているのは犬神で、石像が境内にぽつんと立っているだけである。
憑依体になったのは10歳の時、夢で木精サクヤとの出会いからのウンヌンカンヌンのお陰で
まぁ、かくしてアマテラスたる大神になったわけだが、なんとか人型は保てているし、常人に見破られることはない。力使いきったり、感情が高ぶると犬になってしまう時もあるが。
パラレルしてるおっさんには、ばれたが、その話はまたおいおい「大神さん!」
「ん、なんでキリエライトがここに?」
俺の部屋だよ?ここ、ダメだなぁ女の子が男の子の部屋ノックもせずに入って来ちゃ。何があるか、いるかわかったもんじゃないんだから。まぁいるのは神と鼠一匹
「おお、これはキリエライト嬢、本日もまた良いお天気で」
お前それしか言わんのか。
「あ、鼠さんおはようございます!そうですね。今日もいい天気です!」
そりゃそうだろ。俺がいるんだから。太陽神だぞ?舐めんな、
「じゃなくてですね!もうすぐ集合の時間ですから迎えに来ました。」
「あぁ、もうそんな時期か。じゃ先行っといてくれ。」
「え?!ダメですよ。大神さんをつれてかないと私まで怒られちゃいます。」
「着替えるんだよ。なんだ?見たいのか?」
瞬間、キリエライトが一人百二十面相をしてから顔を真っ赤にして出て行った。おい、ドア壊れるだろう。
「し?!失礼しました!」
よろしい、それで?あと五分か。ゆっくり行こう。いや、どうせアーキマンもどっかでサボってそうだし。遊びに行くか。
マシュには悪いけど
「ということで、来たんだが、何してんだお前?女子の部屋で」
ロマンがいた。女子の部屋に。お菓子食いながら、ベッドの上で
「ち、違うんだ?!これは、ここって前まで空き部屋だったろう?だから誰もいないかなって思ったら藤丸さんがいて......」
「ヤッホー!君もマスター候補の一人?よろしく、私は藤丸立花!」
何このコミュ力高そうな人間。主人公とかなの君は?普通、初対面の男子にそれはないだろう。世の中の男子の何人を勘違いさせて来たんだい?
「あぁ、よろしく。俺は大神照夜、親しみを込めておおかみさんと呼びなさい。」
「ふぅん、わかった。おおかみくんだね!」
おい、わかってないだろお前。俺の方が多分年上だぞ。まぁ、いいけどさ
「ところで、こんなところでサボっていていいのか?少なくともアーキマン、君は仕事があるはずじゃないのか?」
「え?いやぁ、別に僕がいなくても出来るようなことだけだし、どうせまだ所長のお弁ちゃらだよ。そんな急くものじゃnっっ!いいいいい?!?!」
突然の爆発音と揺れ。アーキマンがベッドから転げ落ちる。藤丸はホエーって感じに呆けてた。バカしかいねーのかここは。
「今のは、予定通りのものなのか?アーキマン!」
「そんなわけないだろう!レイシフトでこんな爆発が起こるわけない!向こうで何かあったに違いない」
「わかった。先に行って見てくる。お前は管制室の方だ。行くぞ藤丸」
「う、うん!」
俺たちは所長の演説が行われているであろう部屋へと向かった。あの規模の爆発ならかなりの被害が出ているはずだ。最悪全員...
「あった!あの部屋だよね!?」
「あぁ」
赤いランプが点灯しアラートを鳴らしていた。爆発のせいで、入口のドアが潰れて開かなくなっている。
「邪魔だ。『断神・一閃』!」
切り開いた先に待っていたのは
燃え盛る炎、眼前には死体の山が出来上がっていた。立っているものは誰一人としていない。崩れた柱や壁、押しつぶされる肉。全てがここは人のいていい場所ではないと告げている。
「俺は奥を見てくる。お前は手前を探せ!」
俺は全力で駆け出した。人の目など気にしている余裕はなかった。
「狼?というか花が咲いてたような?」
炎をかき分けて目的の人物を探す。
「どこだ!所長!キリエライト!」
俺が一緒にいてやれば、少なくとも部屋の前で待たせていれば、救ってやれた、守ってやれたかもしれない。今の自分の失った力でも人一人は守れると思っていた。
「いたら返事をしろ!」
ただ至らなかった、実験中の事故に思いが至らなかった。いつもと同じ朝だったから、自分が人知を超えたものを手にした故の傲慢もあったかもしれない。ただ至らなかった。
「キリエライト!おいマシュ!」
叫んだ。
「おお...がみ..さん」
「マシュ!」
しかし、状況は変わらない。彼女の下半身は潰れているのだから。すでに下半身の感覚はないらしい。
「すいません、こんな姿をお見せして...」
「気にするな。すまない何もできなくて」
「いえ、いいんです。どうせ私は」
「そんなこと言うなよ。お前は俺の大事な人間の一人だ。何ならわがままの一つや二つ言ってみろ。一緒に死ぬぐらいならしてやる。」
「最後にお願いを聞いてもらってもいいですか?」
「あぁ、言ってみろ」
「名前、はもう呼んでいただけたので、.........手を握っていてもらえますか?」
「お安い御用だ。」
彼女の優しい手を抱きしめたところで俺の意識は跳んだ。