ブラック・ブレットー伊熊将監に転生した男ー   作:赤沢錦

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何と言う長期失踪。


新人類の力

「なあ夏世、蓮太郎達どうなると思う?」

 

「将監さん、今は蓮太郎さん達じゃなく自分の依頼に集中しましょう。動きはありましたか?」

 

モノリスの周り、外周区と呼ばれる地域の廃ビルの屋上で、将監は双眼鏡を使い、モノリスによる結界の外側、未踏査領域を睨んでいた。森と草原との境目辺りで、一匹の『虎』が眠っている。『モデル・タイガー』、虎の因子を持つガストレアだ。それが、モノリスのすぐ近くに居座っている。将監たちの依頼は、このガストレアの駆除だ。

 

「正直、あいつは『タイガー』じゃなくて『キマイラ』なんじゃないかと思うがね・・・・・・・」

 

無論ガストレア。人知を超えた化物に変わりは無い。サイズこそ大柄な虎と大差無いが(それでも一般的な人間と比べると十分大きい)なんと首の根本からもう一つ、巨大な角を持った山羊の頭が生えている。その異形は、将監の言う通りギリシャ神話の怪物キマイラを連想させた。

 

「完全に眠っているようですね・・・・・・将監さん、行きましょう。おんぶして下さい」

 

そう言うと、夏世は将監におぶさった。

 

「OK、飛ぶぞ、しっかり掴まれよ。」

 

将監の背中から、『翼』が生えた。それは、新人類創造計画によって将監に与えられた人工肺に備わる力の一つ。大量の空気を吸い込み、それを圧縮。息として吐き出す代わりに背中の噴出口から噴き出す事で、文字通り『空を飛ぶ』のだ。

 

「よし、行くぞ・・・・・・ッ!」

 

圧縮空気式スラスタ、展開。噴出口から噴き出す窒素と二酸化炭素の塊が、人二人を中空へと投げ出した。

 

「おぉおおおおおおおお!」

 

ガストレアの真上で急降下。夏世と将監、二人の体重とスラスタの推進力を乗せた大剣が、虎の頭部を叩き割らんと光るが、山羊の頭部が一瞬早く覚醒した。凄まじい勢いで頭を振るい、湾曲した角が将監を夏世ごと貫こうと迫る。

 

「ちっ!」

 

このまま差し違えては堪らない。瞬時に手首を返して刀身を寝かせ、鋭く尖った角を受け止めた。その衝撃で吹っ飛ばされるが、背中のスラスタで勢いを殺し、足から着地した。

 

「山羊覚醒の後、追って虎も覚醒。反撃に移ろうとするも、覚醒直後のため隙ができる」

 

パッパッパッ。将監にガストレアが跳び掛かる寸前、空中で将監から離れた夏世が閃光弾(フラッシュバン)を炸裂させた。瞬間三つの太陽が生まれ、虎と山羊、計四つの眼を完全に潰した。

 

「よくやった夏世!」

 

山羊の角を防いだ際に視界を剣で塞ぎ、閃光弾を見なかった将監は再度剣を振り被る。狙いは先程剣を防いだ山羊の首だ。

 

しかし、将監の剣はまたもガストレアに届かなかった。

 

「んなっ!?」

 

今度は虎の首が激烈に反応した。ほとんどバランスを崩すように姿勢を下げ、大剣の横薙ぎをかわす。その時に折り畳んだ足を伸ばし将監の首に跳び掛かる。長い犬歯から、黄色い液が滴り落ちた。

 

(不味い、やられーーーーーー)

 

「将監さん!」

 

ガオン!と轟音を立て、夏世の散弾銃(ショットガン)が火を吹いた。バラニウム製のスラング弾が、牙を折り、皮膚を破り、目を抉った。その瞬間、将監はスラスタを前に向け、全速力で飛び退いた。

 

「将監さん、無事ですか!?」

 

「ああ、助かったぜ。しかしこいつ・・・・・・・『モデル・タイガー』じゃないな。多分だが、未踏査領域で野生化した虎がガストレアウィルスに感染してガストレア化したんだ。しかし蛇の因子まで持ってるか・・・・・・リアルキマイラじゃねぇかよ畜生・・・・・・」

 

恐らく閃光弾を受けても将監の斬撃に対応出来たのは蛇の因子によるピット器官によるものだろう。ただでさえ動物から変異したガストレアは厄介なのだ。

 

「どうします?」

 

「仕方ないさ。夏世、何か弱点とかないのか?」

 

んーと、顎に手を当てて考えてから、口を開く。

 

「恐らくですが、いくら頭が二つあるといっても脳は一つの筈です。山羊の頭は虎の体から生えてるから、脳があるのは虎の頭の方でしょう。私が山羊を引き付けますので、将監さんは虎を仕留めて下さい」

 

「OK。行くぞ・・・・・・今だ!」

 

左右から二人同時に仕掛ける。跳躍した夏世のショットガンが火を吹く。至近距離で放たれた散弾が山羊に突き刺さり、下顎から先が吹き飛ぶ。勿論、その中に脳は無い。

 

「将監さん!」

 

「分かってる!」

 

超バラニウム製の大剣が一閃。斜めに黒い光が走り、虎の頭部を完全に断ち割っていた。どす黒い血液が溢れだし、どう、と巨体が横倒しになる。いかにガストレアといえど、脳をバラニウムで破壊されれば死は免れない。もう動き出すことはないだろう。依頼完了だ。警察に報告した後、報酬をもらわねば。

 

「ふぅ・・・・・・・今回は流石にひやりとしましたね。帰りましょう、将監さん」

 

「そうだな。・・・・・・・ってまた飛ばなきゃいけねぇな・・・・・・・あぁ面倒くさい」

 

「ふふ、将監さん、れでぃーふぁーすとですよ?さぁ私をおぶって下さい」

 

「へいへい・・・・・・まずは警察署からだな、いくぞ夏世」

 

「いつでもどうぞ」

 

黒い翼から圧縮空気を吹かし、一組の民警ペアが東京エリアを飛翔した。




何か将監さんが別人・・・・・・だと思ったけど転生ものなんでご容赦下さい。あと夏世可愛いです。

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