デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する―   作:ホスパッチ

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第七二話『二番目』

 (うおーう、無駄にデケー)

 あれからウェストコットとエレンと共に飛行機に乗ってイギリスにやってきた夕騎はそのままジェット機に載せられて目の前にある建物の大きさに見上げて声を上げる。

 一応興味を持ってくれたのかと隣に立つエレンはおおーと声を出す夕騎に説明する。

 (Deus Ex Machina Industry、通称DEM社。様々な分野の事業を手がけていますがその中でも特筆すべきなのは『顕現装置(リアライザ)』です)

 (リーサル・エリミネイター?)

 (それはドミネーターの執行モードの一種です。顕現装置(リアライザ)とは『科学技術をもって魔法を再現する技術』のことです)

 (科学技術をもって魔法を再現……? それ普通に科学力なんじゃないのー?)

 (……少し痛いところを突いてきますね。例えば空間震の被災地を短期間で修復しているのも顕現装置(リアライザ)なのですよ。本来なら数年以上かかるものを一日で復興させる、どうですか。素晴らしい技術でしょう)

 (顕現装置(リアライザ)すげぇ!)

 (その顕現装置(リアライザ)のシェアの大半を占めているのがこのDEMインダストリーなのです)

 (何かスゲェDEMインダストリー!)

 ようやく食いついてくれたことにエレンも胸を撫で下ろしていると夕騎はきょろきょろと視線を彷徨わせ、

 (そういえばコットンくんは?)

 (コットン……ああ、アイクのことですか。彼なら別の仕事は入ったので先に行きましたよ)

 (えーっと、エレンだっけ? 秘書なのについていかなくて良かったの?)

 (DEMインダストリーの中の案内とあなたが住む場所を案内を言付けられていますので)

 (ふぅん、シャチョーはやっぱり忙しいんだねぇ)

 秘書がいるからにはやはりウェストコットは社長なのだと仮定して『シャチョー』と呼ぶことを決めていると夕騎の前にエレンの手が差し伸べられる。

 (何この手、お手しろってか!)

 (違います。これから本社の中に入りますがあなたはどうにも目を離すといなくなっていそうなタイプに見えますので予防策です)

 (バカにすんなっつうの! 手を繋がなくてもはぐれねえっつうの!)

 (……と言いつつ手は繋ぐのですね)

 もはや日本でもないアウェイ空間では日本語を通じる人間は数少ないので少しばかり不安なのかエレンの手をがっちり掴む夕騎。

 こういうところは可愛げがあるのですね、とエレンも心の内で思いつつ夕騎を連れてオートマチックドアの前に立つとIDカードで開き、中へ入ると受付をしていた女性がエレンに向かって一礼する。

 内装は思いの外豪華というわけでもなく一般の会社とそう変わらないように見えるがエレンは見慣れているので平然としており、夕騎に一枚のIDカードを差し出す。

 (先ほども私が使っていましたがこのIDカードはDEMインダストリーの様々な施設に入室する際に使いますからなくさないように。それとこの会社内での食堂でもこのカードを使うことが出来ますので)

 (へぇ、でもこういうのってチャージ制じゃないの? 俺一銭もないけど)

 (大丈夫です。私の口座から引き落とされているので心配はありません)

 (ありがとなー)

 (いいえ、あなたの世話をするのも私の務めですから)

 そう言って夕騎の手を引いてエレンは夕騎の歩幅に合わせて歩き出すと夕騎もついて歩き出し、そこからは色々と巡ることとなった。

 世界屈指の大企業とあって従業員の数も多く皆一様に事務的な作業をしており、食堂も広くメニューも豊富だったが夕騎的には顕現装置(リアライザ)について見たいと心の中で思っているとエレンもそれに気付いたのか口を開く。

 (これが表向きの事業です)

 再び乗ったエレベーターの中でエレンはボタンを押す前にIDカードを専用の通し口に通すと先ほどまではなかった地下行きのボタンに切り替わる。

 (何かに襲撃された際に上階で顕現装置(リアライザ)を製作していれば被害が大きいのでこうして地下階で作っているのです。それにここでの製作は一部で他にも多くの場所で顕現装置(リアライザ)は製作されています)

 (へえー、てか何か兵器っぽいのしか見えないんだけど……?)

 エレベーターから出てガラス越しに開発光景を眺める夕騎だったが中ではレイザーブレイドやミサイルポッドなどどうにも非日常的にしか見えない兵器の製造工程を見ればエレンの顔を見ると彼女は平然とした表情で言う。

 (精霊を倒すための兵器ですよ。戦術顕現装置搭載ユニット――通称CR―ユニット。着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)と共にあの武装を使用します)

 (エレンも使えるの?)

 (はい、当たり前です。私ともなれば精霊を討ち取ることも可能です)

 さも当然のように言ったエレンは今夕騎は自身を感心していると少しだけ手応えを感じていた。

 自他共に認める最強の魔術師(ウィザード)である自身に尊敬の念と憧れの念を抱かせてその上で懐かせる。そうすることでエレンの言うことを従順に聞くように育てウェストコットの計画を遂行しやすくする。

 そんな打算がエレンの頭の中で思い描かれており、さらに感心させようとそのまま次に向かって歩き出す。

 (一応本社にも訓練場がありますからそこで私の実力をお見せしましょう)

 (おーう)

 何やら張り切って手を引いて前を歩くエレンに何故張り切っているのかわからない夕騎はとりあえず引かれるままついていった――

 

 ○

 

 (メ、メイザース執行部長!? お、お疲れ様です!)

 (お疲れ様です、精が出ますねベイリー)

 エレンに連れられさらに下階に下がった夕騎が見たのは何とも白い空間だった。

 一箇所だけガラス張りのようにされていてその中には数人の監視役のような人間達がいる。

 現在訓練中だった赤毛で狐を連想させる顔つきをした女性――ジェシカ・ベイリー率いる一数人のDEM社専属の魔術師(ウィザード)達がエレンや夕騎の前に整列して敬礼している。

 二人共話している言葉は英語か何かわからないがとりあえず外国語などで夕騎にはさっぱりだがどうやら立場はエレンの方が上らしくジェシカはぺこぺこと頭を下げている。

 (それで執行部長、その子供は……?)

 (精霊を殺す牙を持ったツキアカリユウキです。階級は第二執行部部長補佐ですからあなたよりも立場は上ですので扱いには注意を)

 その言葉を聞いてジェシカは一瞬夕騎のことを忌々しげに見て、その他の隊員達も夕騎のことを不審げな目で睨みつけてくる。まるで『化物』でも見るような目だ。

 (ここ居心地わりーな。それにエレンは外国人でも美人な方なんだな、コイツら見ればわかるブッサぶふふ)

 (日本語が通じないからといって挑発するものではありません)

 睨み付けてくるジェシカ達に夕騎は舌を出して中指を立てているとジェシカが拳を握り締めているのがはっきりと見えて尚生意気な態度を見せる夕騎にエレンは軽く小突いてやめさせる。

 (ベイリー、これからそちら全員対私の模擬戦をしますので準備を。全力でかかってきてください)

 (わかりました!)

 慌しく準備をし始めたジェシカ達に夕騎は怪訝そうにしているとエレンは夕騎を連れて一度訓練場から退室し、訓練場の様子を映し出すモニター室の方に移動させる。

 (ここで私の戦いを見ていてください)

 (んー、わかった)

 手近な椅子に座らされれば夕騎は適当に返事をするとエレンは何故か夕騎の頭を撫でて退室し、元いた訓練場の方へ戻っていく。

 するとエレンの身に白金の機械の鎧が纏われ手に握られるは大剣<カレドヴルフ>。その雄々しき姿にジェシカ達もその圧力に少し慄くが模擬戦開始のカウントがゼロになれば開幕される。

 ジェシカの命令で編隊を組んで連携した攻撃を見せるのに対しエレンはたった一人でその編隊の連携を崩していき、圧倒的な力を見せ付ける。

 模擬戦の決着に五分もかからなかった。

 (ありがとうございました)

 一人で一数人を圧倒し続けたエレンの前にはジェシカ達が一人残らず倒れていてエレンは一礼すると鎧を仕舞い、モニター室の方へと戻る。

 夕騎は自分の勇姿をモニターでよく見ていたはずだ。圧倒的な強さを見せた自分にこれで尊敬の念を抱くに違いないと心の中で確信したエレンは笑みを浮かべて入室すると――

 (………………んん?)

 思わずエレンは不審げな声を上げてしまう。

 ものの数分だったというのに夕騎の姿が忽然と消えてしまっているのだ。

 (ユウキ! どこにいますか!?)

 部屋の中を見回してもどこにも見当たらず探し回っているとモニター室にいた女性社員が恐る恐る手を挙げ、

 (あ、あの、メイザース執行部長。先ほどの子供を捜しているのなら先ほど『喉渇いた』と言ってどこかへ行ってしまいましたが……)

 日本語がわからない女性社員は出来るだけ発音を似せて言うとエレンは夕騎が自動販売機でも探しに出掛けてしまったことを知り、つまり模擬戦をまるで見ていなかったことを知ればとにかく見つけなければとモニター室から飛び出す。

 (世話の掛かる子ですね!)

 マイペースな夕騎に振り回されることになったエレンはとりあえず走り出し、五○メートルに達するまでに息切れを起こした――

 

 ○

 

 (むむ、道に迷った……)

 自動販売機を探してとにかく上階に上がってきた夕騎は念願の自動販売機を見つけ、そこでも渡されていたIDカードが使えたのでお茶を購入し元いた下階に戻ろうとしたのだが来た道がわからずに彷徨っていた。

 気付けばヘリコプターなど輸送機が仕舞われている場所まで来てしまっていてどうにも帰り道がわからない。

 すると開けっ放しのコンテナを発見し、中へ入ってみると木箱のようなものが所狭しと詰め込まれていて中身を確かめてみる。

 (見たところ食糧みてーだな、DEM社って食べ物の輸出もやってんのかね)

 身を木箱の中に乗り出すようにして中を見ていると――

 (ここの荷物は確かネリス島行きだったよな)

 (あの島黒い噂しかねえからな)

 (噂って?)

 (何でも人体実験してるだとか、それにだいぶ前から精霊が捕獲されてるらしいぜ? 最近出来たもう一つDEMインダストリーが所持している島にも新たな精霊がいるらしいしこの会社ってブラックなことが多いぜ)

 (ウェストコットさんも不気味だしな)

 話し声がどんどん近くなってくることに驚いた夕騎はそのまま体勢を崩して木箱の中に入ってしまい、その木箱が入ったコンテナは社員が中を点検した後で出入り口が閉められ輸送機に積み込まれていく。

 (ちょ、ちょちょちょ! マジか!!)

 輸送機に詰め込まれたところで木箱から脱出した夕騎がコンテナの壁をゴンゴン叩くが壁は厚く外まで響かないために誰にも気付かれることがなく、よくわからないがコンテナの中が少し震動で揺れ始める。

 (ま、まさか……)

 あのまま輸送機が離陸しようとしているのならこの震動も納得出来る。この何とも言えない浮遊感に夕騎は飛行機の感覚を思い出し危機感が増す。

 (うぉおおおおおシートベルトねえぞココぉ!?)

 離陸の際にはシートベルト着用は必須だというのにコンテナの中は当然のことだがシートベルトらしきものはなく壁に背中を預けて離陸の際に襲い掛かる重力に耐える。

 こうして夕騎はDEM社に入社して二時間ほどでどこかわからない地に向かって旅立っていった――

 

 ○

 

 (……何だココは)

 地図にも記されていないDEM社が保有している島――ネリス島で運び出されたコンテナからどうにか抜け出した夕騎は誰にも見つからないように気分は潜入捜査官で研究所らしき場所の探索を行っていた。

 監視カメラの死角に入ってどんどん奥に進んでいけばガラス越しにまるでペットショップのように中に人間が座っており、酷い者では隅に座って虚ろな眼で何やらうわ言を吐いている。

 廃人、そう例えるのが最も正しい人間達の様子に夕騎は不審そうな目を向けながら進んでいくと――

 (この島に子供が?)

 (――ッ!?)

 扉を通ろうとした途端に扉が開いて夕騎は咄嗟に扉のすぐ隣に張り付けばワイヤリングスーツを着用した女性二人が通る。二人共会話に集中していて夕騎に気付かずに通りすがると夕騎は静かに一息ついて言語はわからないが二人の会話に耳を澄ます。

 (メイザース執行部長が慌てた様子で連絡してきてネリス島への輸送機の中に子供が入り込んだのですって。ツキアカリユウキって子、見た?)

 (いいえ、そもそもそれならコンテナを下ろす時点で気付くはずじゃない)

 (それもそうですね)

 何を話しているかさっぱりわからなかったが『メイザース』、『ツキアカリユウキ』という二つの単語は聞き取れたのでとにかくエレンは自分のことを探しているのだろう。

 それにここはDEM本社から本当に離れていってしまったらしい。

 (でも精霊を殺す牙を持つって子供にしても『化物』じゃないの)

 (そんな『化物』の牙を研いで利用しようとしてるのだからこの会社もおぞましいわよねぇ)

 いくら何を話しているかわからなくとも『化物(クリーチャー)』ぐらいはわかる。明らかに『化物』扱いされている夕騎は少しばかりバツが悪そうな表情をすれば開いたままの扉からさらに研究施設の奥へ進む。

 薄暗いのはどこも同じだが曲がり角を曲がった先に不可解なまでに大きな扉を発見する。

 IDカードの差込み口もあってこうなれば中が気になる夕騎はエレンから手渡されていたIDカードを取り出すと通してみる。

 『申し訳ございませんが管理者制限のためこのIDカードでは入室出来ません』

 (むむ、流石に無理か……っと諦める俺じゃないってね!)

 独り言にしてはやけに大きかったが夕騎がポケットから取り出したのはエレンのIDカード。エレンが意気揚々と訓練場に行く前に軽い遊び感覚でくすねておいたのだ。

 (よいしょっと、おお。開いた開いた)

 エレンのIDカードを通してみれば見事に厳重そうな扉は開いていき、夕騎は恐る恐る中に入ってみるといきなり光の球体のようなものが夕騎の顔面に差し迫っていた。

 (がっ!?)

 見事に顔面に直撃したかに思われたが歯が変化した牙を反射的に顕現され光の球体を食い尽くしていた。

 それを見ていた相手は少し驚いた表情と感心するような態度を見せる。

 (へぇ……人間にしては凄いですね)

 (お前は……?)

 今にも切れそうな電球に照らされて映るその姿は夕騎が今まで生きてきて初めて見るような美しさだった。

 電灯に照らされ小さく輝くのは絹糸のような長い灰色の髪。大人びた顔立ちに線の細いスレンダーな体型には見たこともないような材質のもので編み込まれたドレスに身を包んでいる。

 その身体は椅子に座らされていて手足は拘束具で縛られていて如何にも窮屈そうに見える。

 藍色の双眸は夕騎の姿を眺めれば口を開く。

 (初めまして、ボクに名前はありませんから『二番目の精霊』とでも呼んでください)

 (二番目の、精霊……)

 二番目の精霊、そう自己紹介をした精霊に夕騎はその容姿にただただ見惚れるばかりだった――


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