デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する―   作:ホスパッチ

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第六三話『誓い』

 「十香は士道が大切にしてる精霊なんだ。もちろん俺も大切に思ってる。だから助けるのを協力してくれ」

 「仮に協力しても私に何の得があるんですかー? むしろ危険なだけですしー」

 「確かにDEM社に乗り込むことになるから危険なのは確実だしなぁ……。零弥ぁ助けてくれー」

 「ええ、わかったわ」

 美九を説得するだけのものが夕騎の頭に思い浮かばずに零弥に抱きついて男ながらに甘えた声を出してみれば零弥は即答し、夕騎の頭に手を置く。

 「私もあの場にいたのに十香を助けなかった、そのことをとても後悔してるわ。だから必ずあなたの力になる」

 「さっすが零弥たん頼りになるー!」

 人類最強の魔術師(ウィザード)さえも簡単に凌いだ零弥さえいれば十香を救出出来る確率も格段に上がる。そうしている間にも八舞姉妹も四糸乃も決めたようで、

 「我も協力するぞ夕騎! 我が眷属が捕らわれているのだ、主君として黙ってはおれん!」

 「同調。夕弦もついていきます」

 「わ、私も、十香さんを助け……たいです……」

 「みんな……大好き超好き抱きしめてやるぅ!!」

 「ぎゃー! 飛び込んでくんなし!」

 協力的な態度にうるっときたのか夕騎は腕を広げて耶俱矢たちの方にダイブし、あわゆくばキスまでしようとしてぎゃーぎゃー騒いでいる。すると見かねた零弥が夕騎の頭に拳骨を落とし、

 「やめなさい夕騎、セクハラよ」

 「あ、あの零弥さん……俺こう見えて重傷人なんですけど……」

 床に面して割と痛かった拳骨に夕騎が悶えていると美九が何やらツーンとした表情でそっぽを向いているのが見えてしまい、起き上がると美九と向き合うようにして座る。

 「まあ、何だ。人を助けるってのは損得を考えねえ部分があるというか……今回の場合は繋がりを消したくないっつうか」

 「だったらあなたは見ず知らずの人は助けないってことですかー?」

 「そうだな」

 美九の意地の悪い問いかけに夕騎は迷うことなく頷く。

 「どれだけの力を持っていても世界中のみんなを助けられるわけじゃない。だから俺は自分の周りにあるモンを守るために全力を振るう。守れる範囲内は狭かろうがそれでも俺はそういう『繋がり』を消したくねえんだ。もちろん繋がりの中には美九もいるぞ」

 「それなら私がピンチの時、命を懸けて助けてくれますか?」

 「当たり前だろ、俺は精霊(おまえ)の味方だって言ったし」

 「…………」

 夕騎の言葉に美九は顔を俯かせ数瞬何かを考えたかと思うとまた夕騎の服の袖を掴み、

 「私もいきます」

 「おお、美九も来てくれるのか!」

 「い、言っておきますけど仕方なくですからね! ここに一人で残ればあの金髪の魔術師(ウィザード)さんがくるかもしれませんし!」

 「それもそうだな、でもありがとな。そんじゃ準備おっとと!?」

 これでメンバーは揃ったなと立ち上がって背を向けた夕騎に美九は何かが気に入らないのかポカポカと二発ほど拳を振るって夕騎の背中を叩く。

 「ど、どした……?」

 「何でもないですよーだ」

 「夕騎、こういう時は鈍いのね」

 何故叩かれたのかわからない夕騎は怪訝そうにしているが零弥は何となく美九の気持ちをわかっているようで夕騎はさらにわけがわからないといった表情をする。

 「何をもたもたしてるんですか、いきますよー」

 「お、おう」

 よくわからないが美九は一番乗り気ではなかったはずなのに夕騎の袖を持って一番初めに歩き出し、それを見た零弥達は互いに顔を合わせてくすくすと笑いながらその後を追っていく。

 

 ○

 

 「ここからはDEMの敷地内ですわ、覚悟はよろしくて士道さん?」

 「ああ」

 天宮市の東方にある鏡山市の一角、そこはオフィス街となっているがすでに時刻は深夜になっていて人通りもまばらだ。ふと士道が見上げてみれば先に存在するのは一際大きいビルの群れ、狂三が言うにはその一帯全てがDEM社に関係するものであり、そのどこかに十香は捕らわれているらしい。

 「おーおー大きいねー」

 士道が緊張した面持ちでいると士道の頭に手を置いて持たれかかりながらビルの群れを眺める兆死はしみじみと口にする。彼女自身今まで街の風景を眺めることなどしてこなかったのでこうしてみれば凄いものだと思っていると士道が兆死の腕を軽く叩き、

 「お、重いんだけど……」

 「あっごめんごめん! キザシこーいうの見ることなくってね! つい見惚れてたんだ!」

 いつも兆死が見ているものは違ったので珍しく感じながらも士道から離れ、狂三の先導をもとに一歩踏み出せばむわ……っとまるで熱気を越えたかのような感覚が全身を伝う。

 「今のは……」

 

 ウゥウウウウウウウウウウウウウウウ――ッ!!

 

 士道が何か言う前にけたたましく鳴り響くは警報音。

 それは一瞬無断で敷地内に入ったことでの警報音かと思ったがこれだけ鳴り響くのは建物の警報音ではない。

 精霊が現れる前兆を知らせる――空間震警報。

 「せ、精霊が現れるのか!?」

 「いえ、空間の歪みも見られませんしどうにもそういうわけではありませんわねぇ」

 冷静に空を見上げた狂三は夜空に不釣合いな全身にCR―ユニットを纏った銀色の人形――<バンダースナッチ>が幾体も浮遊していることに気付けば士道の襟首を持って咄嗟にその場から離れるように跳ぶ。兆死もそれに合わせて回避したところで狂三達がいた場所に光の本流が突き刺さり爆風を撒き散らす。

 硝煙を見ながら狂三は我先にとシェルターに避難し始める一般市民に目を通しつつ、自身の憶測に確証を得ていく。

 「政府にすら顔が利くDEM社なら空間震警報を意図的に鳴らすことは可能ですわね」

 「何でそんなことをするんだ?」

 「それは勿論暴れやすくするためでしょう」

 そう言いながら狂三は<バンダースナッチ>を見据え、

 「兆死!」

 「あーいあいさー! 【死士(ライツェ)】!」

 魔力砲の爆風で飛んで軽く遊んでいた兆死は狂三に呼ばれれば足を地面に叩きつければ地面はヒビ割れていき、そこから一斉に何か獣の腕のようなものが連続して飛び出す。

 「な、何だこれ……?」

 出てきた者達は全員一様に愛らしさは微塵もなく不気味だがぬいぐるみのような動物の姿をしていた。

 種類は違えど眼窟は不気味に赤く輝きを放ち、爪や牙は全てに返しが付いており確実に殺すことを目的とされているのが垣間見える。

 それに士道はとてつもない違和感を感じた。

 兆死が【死士(ライツェ)】と呼んでいたこの動物達だがどれも関節と思われる箇所から赤い液体を垂らしている。それは妙に鉄臭く、士道も一度狂三とのデートで目の当たりにした――

 「士道さん、いつまでぼーっとなされてるおつもりですの?」

 「あ、ああ……でもこの動物達……」

 まるで人間が着ぐるみを着ているような、そう言おうとした士道だったが狂三の人差し指で唇を押さえられる。

 「世の中には知らない方が幸せなこともありますわ。精霊を救おうとしているなら尚更ですわ、でも覚えておいてくださいまし。精霊は誰しも人間に友好的ではないことを――」

 「あっはははははははは!! いっけぇ! 皆殺しだーっ!!」

 号令と共に飛び出した数○○体もの【死士(ライツェ)】の群れは飛べはしないものの互いに協力することで投げ飛ばして<バンダースナッチ>へと接近すればその鋭利な牙や爪を突き立てて地面に落とし、複数でその肢体を引き千切っていく。

 これが人間相手に行われていればどれだけおぞましいことか考えるだけで悪寒が止まらなくなりそうな士道だが狂三は平然とその光景を眺め、

 「兆死、あなたはここでDEM社の人形も含めて魔術師(ウィザード)さん達の相手をしておいてくださいまし。()()()()()()()()()()()()()()()()どれだけ来ても軽く一蹴出来るでしょう」

 「うん! まっかせてよ!!」

 「さて士道さん、ここは兆死に任せて行きましょう。そろそろ後続隊も来る頃ですわ」

 <バンダースナッチ>が【死士(ライツェ)】の数に圧倒されているうちにもDEM社のビルの壁面は可変していき、それぞれ中から五○○人は下らない数の魔術師(ウィザード)や<バンダースナッチ>が姿を現す。

 その数に兆死の口元は醜く歪み笑みを浮かべればまるで玩具を眺める子供のように双眸を輝かせ、

 「あははははははははははははは!! 頭数揃えるだけでキザシに敵うわけないじゃんかヴァァァァァァァァァァカッ!! 全員磔にしてあァげる!!」

 高笑いすればさらに地面から【死士(ライツェ)】が出現し、その数は追加されたDEM社の軍勢をさらに上回る。

 「付け加えておきますけどもし精霊達が来た場合は手出ししないこと。すれば夕騎さんが哀しみますわ」

 「わかってるわかってる!! きゃはははははははははははははは!! たんのしぃ!!」

 すっかり脳内麻薬が分泌されて高揚感に支配されている兆死はもはや狂三の方すら向いていないが一応話は聞いているようだ。必要事項だけ聞けば兆死は宙に顕現したどこに繋がっているかわからない黒い穴から鋸のような刃をした長刀を抜き出して【死士(ライツェ)】に混じって戦場に飛び込んでいく。

 「兆死が時間を稼いでくれている間に行きましょう」

 「ああ……」

 何とも言えなくなった士道を狂三に小脇に抱えられ【一の弾(アレフ)】で加速し、その場から一気に抜けていく。

 

 ○

 

 「……何だコリャ」

 士道達に送れて鏡山市にたどり着いた夕騎は上空から見下ろしてみればもはや地獄絵図としか思えない光景が広がっていた。

 何やら二足歩行の動物のような形をした者達が魔術師(ウィザード)や<バンダースナッチ>相手に数で圧倒し、爆炎やら硝煙やらでとりあえず戦闘中ということはわかるが何が何だかわからない状況だ。

 「すでに士道達が先に着いて狂三ともう一人の精霊が陽動してるのだと思うわ」

 「それにしても派手にやるなー」

 夕騎は現在零弥が顕現した大きめの白盾の上に座っていて到着してものほほんとした表情で美九はその隣に座っている。

 今は服の袖からグレードアップしたようで小指を握られている夕騎はうーんと何やら悩み始める。すると美九はジト目で夕騎の顔を見て、

 「まさか何も考えずに来たんですかー?」

 「ば、ばばばばばばばっきゃろー! このおおおおおお俺が何も考えてななななないとでも!?」

 「……わかりやすすぎてリアクションに困るんだけど」

 夕騎達の近くを飛んでいた耶俱矢は思わず素の話し方になって呆れ気味で見られれば夕騎はむぐ、と口ごもるが何とか持ち直す。

 「十香は室内に閉じ込められてるのは確かだ。それで問題はどこに捕らえられてるか、だがコッチには美九がいる。つうわけで下降してどれでもいいからDEM社の魔術師(ウィザード)を確保して美九が聞き出す」

 「まあ私の<破軍歌姫(ガブリエル)>なら簡単ですねー」

 「そんでもって聞き出せば屋内向きじゃねえ零弥、八舞姉妹、四糸乃には外で露払いしてもらって美九と俺が建物内に入って十香を助けに行く」

 「意外と考えてるのね夕騎」

 「失礼な! 俺はいつもちゃんと考えてるタイプだってーの!」

 「失笑。先ほどの焦り具合からとてもそうは思えません、ぷぷぷ」

 「むきーっ! 何だとチミら!! 怒っちゃうどー!」

 ぷんぷんと怒っているような風で夕騎は握り締めた拳を顔横で構えて如何にも怒ってますよと言わんばかりなポーズで夕弦達の方へ飛び込もうとするが夕弦はひょいと躱し、

 「回避。そんな速度では夕弦は捕まえられませんよ」

 「どわっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 「ちょ、夕弦! 夕騎落ちた!」

 「ゆ、夕騎さん……っ!」

 つい地上の乗りで飛び込んだがそこには地面がなく一瞬空中で停止して地面に向かって真っ逆さまに落ちそうになった夕騎を<氷結傀儡(ザドキエル)>に乗った四糸乃が何とかキャッチし、

 「あ、あぶねぇ……マジで死ぬかと思った。てかコレ日本に来る前にも同じ感じのを味わった気がするぜ……」

 「だ、大丈夫、ですか……?」

 「ああ、ありがとな四糸乃」

 「ふふ、もう何してるのよ夕騎」

 「笑ってるけど結構笑い事じゃねえからなお前ら……」

 零弥につられ八舞姉妹も笑うので夕騎はぜぇぜぇと息を荒げて抗議を申し立てるものの意に介していないようで地上は戦闘中だというのにここまで楽観的にしているのも含めて思わず美九も笑ってしまい、

 「ぷ、く……ふふ、本当におかしいですねー」

 「はははは! 楽しいだろ美九、これが『輪』ってモノなのさ」

 今まで美九はまるで人形劇のように『声』で操った者としか話をしてこなかったがこうして操られていない者が集えば次に何を話すのか、何をするのかがわからない。だがそれが楽しいんだと夕騎は美九に説いて美九の頭を撫でようとするが寸で止まり、

 「……? どうしたんです――きゃっ!?」

 てっきり撫でられるかと思っていた美九が夕騎の表情を伺えば夕騎はそのまま止まって耳を澄ましており、やがて何かに気付いたのか美九をお姫様抱っこして大きく一歩下がる。

 直後、濃密な魔力の奔流があまり集中していなかったとはいえ『要塞』と称されるほどの零弥の白盾を貫き天へと昇っていく。

 「何事だ!?」

 「戦慄。零弥の盾を破るとは」

 半分以上削り取られた白盾から見下ろせば急速に接近してくる影一つ。

 八舞姉妹が驚愕しているうちにもその影は夕騎達よりも上空まで飛び、翼を用いて滞空すれば今度は夕騎達が見下ろされる。

 「これは……機械のドラゴン、ですか……?」

 四糸乃が乗っている<氷結傀儡(ザドキエル)>よりもはるかに大きく、全長は一○メートルはあろうかというほどで四糸乃が形容した通りその姿はまさに伝説の生物(ドラゴン)

 背には二門の砲身を携え、全身は鋭利な刃物のような銀の光沢を放っては攻撃的なフォルムだ。

 はっきり言ってその姿に夕騎には見覚えがあった。或美島で相対した旧友――ヨマリとワンナのCR―ユニットが合わさった形態<ヴァンフェイルバンテ>。目の前にいるのはそれよりもはるかに巨大なものだ。

 「……零弥、美九を」

 「え、ええ」

 機械の竜を見れば夕騎の表情は真剣なものとなり零弥に美九を預ければ羽ばたく<ヴァンフェイルバンテ>と相対する。

 「どっちだ(、、、、)?」

 すでにわかっていた。あの時、殺すと決めたはずなのに夕騎はどうにもトドメを刺しきれなかった部分がある。だからどちらでも、または両方でもおかしくないのだ。

 『殺す、殺す……必ず殺す、ユウキィ……』

 くぐもった声が聞こえたかと思えば<ヴァンフェイルバンテ>の口が開かれる。口の中は前の時と変わらずにレイザーブレイドの牙が並び、駆動音を打ち鳴らして威嚇するように唸りを上げている。

 そして見えたのは――

 「……ワンナ、か」

 自分やヨマリよりも少し年上で何とも天然そうな間の伸びた話し方をしていたというのに<ヴァンフェイルバンテ>の喉奥から上半身を見える今のワンナの目は憎悪に淀んでいた。ヨマリの姿はどこにも見られない。

 わかっていたのだ、誰かを殺したのならばこういった報復を受けることになる。

 殺しきれなければこうなることはわかっていたのだ。

 「お前らは先に行って十香救出を開始してくれ、手筈はさっき言った通りだ」

 「夕騎はどうするの……?」

 「これは俺が招いた結果だ。だから俺がケリをつける」

 <ホワイト・リコリス>よりも巨大なあんな重火力な武装を使えば一五分も持たずに廃人になることは確定だというのにワンナは全てを捨てる覚悟で挑んできているのだ。

 『あはは、はははは……ヨマリはねぇ! もういないの! 誰のせいだれのせいダレノセイィ? ユゥキィのせぇぇぇぇぇぇぇだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 狂ったように叫ぶワンナに夕騎は静かに身構え、

 「ああ、別に言い繕うことなんざ何もねえ。だから――全力で殺しに来い!」

 『ユゥキィィィィィィィィィッ!!』

 雨のように撃ち出されたミサイルが戦いの火蓋を切り、旧友同士二度目の殺し合いが再び始まった――


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