デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する― 作:ホスパッチ
「きの、ついて来てる?」
「は、はい!」
天宮市駐屯地の武器格納庫にて燎子の先導のもとにきのは歩いていた。
周りの整備員たちはきの以外隊員たち全員の入院によってすることがないと思っていたがそうでもなく、何やら忙しそうにあたりを駆け回っている。
しばらく歩くと格納庫の奥の方に見たことがないようなものが置かれていた。
「これは?」
「<ヴァルキューレ>、精霊が多く現界する天宮市のあまりにも戦績が悪いからってDEM社が気前良くくれた新型のユニットよ。高スペックすぎて誰も使えないなんてお笑い種だけどきのは違う。これはDEM社があなたの適正率を認めて渡してきたのよ」
「<ヴァルキューレ>……」
きのはその名を口にしながら<ヴァルキューレ>の全貌を目にする。
装甲は白銀を基調とした色合いに蒼のラインが数本入り、照明の光で美しく輝く。
機械の鎧といえどそこまで重厚なものではなくすらりとしたフォルムで腰には西洋剣らしきものがそれぞれ一本ずつ携えられている。
「……綺麗ですね」
「この機体はあなたのフル出力にも耐えられる。まさにあなたのために作られた機体、殺すも生かすもあなた次第よ。本来ならもっと訓練を詰んでから渡そうと思ってたんだけどこんな状況だしね。正直なところもうあなたに賭けるしかないの、やれる?」
「はい!!」
「いい返事ね! それなら調整の間、映像で隊員たちを瞬殺してくれたあのよくわからない攻撃の解明するわよ」
そう言いながら燎子はきのの肩に腕を回せば歩き出して駐屯地にある映像管理室に向かって歩き出す。
きのは最後に後ろを向いて<ヴァルキューレ>の姿をもう一度だけ見る。
――あれが、私のCR―ユニット……先輩待っていてください。私頑張りますから!
人知れず覚悟を決めたきのは燎子に連れられて格納庫から立ち去っていった。
「もうすぐで午後九時ですね」
あれからずっと本を熟読していた夜三は本を閉じ広場に建てられている時計を見ると一息つき、立ち上がる。
そして彼女の傍で倒れているのは士道。何箇所か刃で貫かれたような痕があり、いくつもの血が滲んで浮かび上がっている。
あれから士道は何度も夜三にコミュニケーションを試みたのだがその度に見えない刃のようなもので貫かれ、黙るまで刺し貫かれた。さらに士道の回復能力も知ってかどれも急所を躊躇いなく打ち抜いている。
回復能力はあれどそれ相応に疲労感が押し寄せ肩で息をする士道は痛む身体をゆっくりと起こすと夜三と向き合い、
「……まだ何かするつもりですか? 聞く耳は持っていないといい加減理解してもいい頃なんですが」
「言ったろ、夕騎の代わりにお前を止めるってよ」
今にも倒れそうな足取りで近付こうとする士道に夜三は一言「馬鹿ですね」と述べれば右手を銃の引き金を引くような構えにすれば影が手に纏われていく。
「私を止めたかったら武器の一つでも構えてください。そして殺すつもりでかかってきてください」
影はやがて銃となり、照準は士道の額へと向けられる。
「あなたは無力、言葉なんて圧倒的な暴力の前には詭弁ですらないんですよ。対話による霊力の封印? 精霊を保護? 私から言わせれば危険な精霊なんて力を奪った後は殺せばいいんです。五河士道、今のあなたなら出来るでしょう。夜刀神十香、八舞、四糸乃、とても信頼されているのでしょう?」
「何言ってんだよ! 精霊を殺すなんて出来るわけがねえだろうが!! それに霊力を封印すれば十香たちは俺たち人間と代わらない生活を送れてる! 殺す必要なんてどこにも――」
「それは、あなたたち<ラタトスク機関>の言い分でしょう」
夜三の一言がまるで氷柱のように冷気を帯びて士道の胸に突き刺さり、威圧感で士道を黙らせる。
「封印してから精霊に霊力が逆流したことありますよね、精霊の感情の変化によって」
「……ああ」
「それで何が起こりましたか? 少なからず周りに被害を及ぼしたでしょう。下手をすれば大災害に繋がる。つまり封印したとしてもいつ逆流するかわからず、それを事前に知ることが出来ない一般市民が超災害の元凶である精霊の存在を知ったらどう思うと考えますか? いいえ、もっとシンプルに聞きましょうか。身近にいつ暴発するかわからない不発弾があれば誰もが不安に思いますよね」
「怖い、だろうな」
「ええ、人間は今まで自身に不都合な『怖い』ものを出来るだけ排除してきました。一般市民が精霊の存在を知って<ラタトスク機関>からどれだけ説明されても人類は納得してくれると思いますか? あなたは精霊のことを知っている、だけど市民からすればそんな不発弾のような存在を決して快くは思いません」
何も答えられなくなった士道に夜三は一度ため息を吐けば最後に問いかける。
「あなたは全人類と精霊、天秤にかけられた場合どちらを選びますか?」
「それは……」
「別に答えなくていいですよ。知っていますから、あなたは二者択一が出来ない人間だと。でも先輩は違った。たった一人の精霊を救うために何もかもを捨てたんです。愛する者も誰もかもみんなみんな捨てました」
でも、と唇を血が出るほど強く噛みしめた夜三は銃をさらに強く握り締める。
「結局あの人は何もかも捨てたというのに精霊一人すら救えなかった。代わりに命を奪われ二度と帰ってくることはなかった!! 残される者の気持ちも何もかも全部置き去りにして先輩はいなくなった!! それは世界を殺す引き金になったんだ!! 誰がそうしたそうさせた!!」
人が変わったかのように殺意に満ちた眼差しで睨みつければ夜三は憎きその名を口にする。
「――時崎狂三!! 私はあの女を決して許さない!! 誰がどれだけ私を阻もうとも必ず殺す、全世界を敵に回してでも私が成し遂げなければならないんだ!!」
死んでも成し遂げるという覚悟を胸に秘めた夜三の殺意は銃弾となって銃口から噴き出す。正確に銃弾は士道の額に向かって一直線に突き進む。
見えるわけもない弾速に士道は動くことすら出来なかった。だが――
「――それは困りましたわね。わたくしにも命を懸けて達成しなければならない悲願がありますの」
横から飛んできた銃弾が夜三の放った銃弾にピンポイントで直撃し、弾けた欠片が当たりに飛び散る。
「ですからあなたがどれだけの覚悟で来ようとも死んであげられませんわ」
「狂三っ!!」
「ええ、そんなに声を荒げなくとも大丈夫ですわよ士道さん」
血色のドレスを身に纏った狂三は夜三たちがいる場所から少し離れた位置にある影から突如として現れる。
その容姿に夜三は憎々しげに見つめ、
「――会いたかったですよ、時崎狂三」
「正直なところわたくしは会いたくありませんでしたけれど、わたくしの夕騎さんに手を出した不届き者を見過ごすわけにはいきませんの。士道さんはそのついでですわ」
「ついでかよ……」
普段は凶悪で最悪の精霊と呼ばれている狂三だがこんなときはとても頼もしく思えてしまう。
両手にそれぞれ歩兵銃と拳銃を携えた狂三はすでに<
「覚悟は出来ていまして?」
「あなたこそ、必ず嬲り殺しますから」
夜三が構えたのはまるで時計の長針と短針のような骨組みを持ち、刃が連なった剣を構える。さらに夜三の手首には機械の輪が装着される。
「まさかそのリング……」
「余所見してるとすぐに死にますよ」
静かな声音と共に剣が銃とぶつかり合い火花を散らす。その余波で周りの地面は削れ士道の身体は大きく後方へと吹き飛ばされる。
「うわっ!?」
「――士道さん」
吹き飛ばされた先で士道は優しく包み込まれるように受け止められ、後ろを向いてみればそこにいたのは分身体の狂三がいた。
「ここはもう士道さんが入り込める領域ではありませんわ。早く逃げてくださいまし」
「そんなこと言われても引き下がれるかよ」
「先ほどあれだけ言われてもまだ引き下がらないのは流石ですけれど今回は話が違いますわ。それに協力して欲しいことがありますの」
「協力して欲しいこと?」
「悠長に話している暇はありませんわ。行きますわよ」
「え、ちょ、どこに――ぬあぁっ!?」
もはや士道の返答も聞かずに狂三は士道の身体をお姫様抱っこの要領で持ち上げるとその場から跳躍し、物凄い速度で過ぎ去っていく。
「士道さんは
「使えないんじゃなかったのか?」
「いえいえ使えるには使えますのよ。ですが分身体は本体から微々たる寿命を貰って生存している身。【
「それならどうしてそんな話をするんだよ」
「夕騎さんは夜三さんの力で今も時間を停められていますわ。【
そう言う狂三の表情にいつもの余裕はなく、ただ懸命に夕騎を助けたいと思っている表情に士道はどことなくどのいつの狂三なのか理解したようで口を開く。
「お前、もしかしてと一緒に住んでる狂三なのか?」
「ええ、そうですわ。夕騎さんには色んな思い出を貰っています、だからわたくしは少しでも返したいのですわ」
その言葉に嘘偽りはなく、士道もそれを理解したのか頷く。
「そうか、わかった。行こう、夕騎を助けに」
「ふふ、わかっていただきありがとうございますわ。それではさらに速度を上げますので振り落とされないでくださいまし」
さらに速度を上げ、狂三と士道は病院に向かって突き進んでいく。
「【
<
「【
「――ッ!?」
後頭部に向け引き金を放った寸前に夜三の姿が消え、相手の動きを一瞬でも目で追った狂三の身体は吹き飛ばされていた。
頬を伝う痛み、これは打撃による痛み。気付いた狂三だが建物の壁にぶつかり衝撃で肺から空気が無理矢理排出される。
「何ですの今のは……?」
「【
狂三が顕現させたものとは形状が違う巨大な時計を後ろに従えた夜三は時計の針を模した剣を構え、
「【
『Ⅱ』の時刻から生まれた濃密な影は長針に吸い込まれていき、切先を狂三に向ければ一直線に黒い光が放たれる。避ける間もなく胸に受けてしまった狂三は貫かれると思ったが実際に起こったことはまるで別の事象が巻き起こる。
狂三の片腕は鋭利な刃物で斬られたように宙を舞い、身体の何箇所からは血が噴き出て先ほど打撃を受けた頬の痛みが再度起こり再び狂三の身体は吹き飛ばされる。
「かは……っ!」
もはやわけもわからず喀血した狂三に夜三は笑みを浮かべながらその様子を楽しげに見ている。
「自分が何をされたのかわけがわからないでしょう?」
「くっ……」
「そう、その表情です。他人の未来を奪っておきながら平然と笑えていたのがおかしいんです。あなたには絶望している表情の方がお似合いですよ」
靴裏を鳴らしながら近付いてくる夜三に対し、本当にわけがわからず軽いパニックに陥りそうになる狂三だがかろうじて冷静さは失われなかった。
まず切り落とされた腕には覚えがある。来禅高校の屋上で真那の不意討ちによって一度切断されたことがある。今回の切断もまさに同じ切り口で落とされている。
それに何箇所かから血が出ているのは人工島にて戦闘したあの精霊によって傷つけられたところ。
殴打の痛みはつい先ほど受けたもの。
つまり夜三の言い方にすれば――
「……事象の再現」
「よく気がつきましたね。でも、それを知ったところであなたに勝ち目はありません」
「【
「それはさせません」
狂三の<
「これで【
「やはり、そうでしたか……」
夜三が構えているのは長針を模した剣でも短針を模した剣でもなく、
機械のリングはCR―ユニットの武装をしまっていたもの。夜三は狂三の言葉に答えることもなくもう片方の腕を長針の剣で切り落とす。
「これでもう抵抗出来ません」
さらに
「さあどうしますか?」
「――
追い詰められた時用にここいらの影全体に潜ませていた分身体で総攻撃を仕掛けさせようとする狂三だが、分身体たちは誰一人として出てくるわけでもなく狂三は狭い視界周りを見る。
「どうしましたの
「どれだけ呼んでも来ませんよ、先に仕留めておきましたから」
代わりに影から出てきたのは
驚いた表情をする狂三に夜三は呆れた顔をし、
「別に【
夜三が言うとおり何も手立てがなくなった狂三に拒否権はない。
「私は知っているんです、この先世界に何が起こるのか。嫌なほど知っています。だから言ってあげましょう、あなたが誰にも愛されない」
「……何ですって?」
「聞こえませんでしたか? 誰にも愛されないって言ったんですよ」
「……わたくしには、夕騎さんが――」
「月明夕騎が未来で誰を伴侶にしたのか、教えてあげます」
あれだけ狂三を憎んでおきながらどうして夜三が追い詰めて尚殺さないのはきっとこのためなのだろう。
「あの人は零弥さんを選んだんです。考えてみれば当然ですよね、自分を利用しようとするためだけに近付いてきた女よりもずっと傍にいて支え続けてくれた人を選ぶのは」
「夕騎さんが、零弥さんを……?」
「ええ、本当なら挙式をあげて正式に結婚するはずだったんですよ」
言葉で嬲り殺しにするために、狂三の希望をへし折るために、あえて生かしているのだ。
「あなたは選ばれなかった。選ばれるわけがないんですよ。それなのに、何を思ってあなたは生きてるんですか? 言っておきますけどあなたの悲願は未来でも果たされていませんし。あなたは何も得ることなく生涯を終えるんです」
狂三は何も返答することは出来ず、そのうちに立ち上がった夜三は長針の剣を振りかざす。
「さようなら、誰にも救われなかった哀れな女。その生涯に別れを告げなさい」
避けることも出来ずただ目を閉じることしか出来ない狂三。淡々と告げられた事実に反論も出来ずにその生涯を終えるかと思ったその瞬間――
「終わらせません!!」
弾け飛んだのは夜三の剣。
間髪入れずに砲撃を浴びせられ飛ばされた夜三は煙を払いつつ、現れた敵を目にする。
「……何も出来ないくせにまた出てきたんですか、無能」
敵意むき出しの視線に相手は慄くどころか堂々と狂三を背に夜三に相対する。
白銀に美しく輝く鎧を身に纏い、長大な剣を手にした少女――きのは真っ直ぐ相手を見据え、
「殺させはしませんよ、例えどんな精霊であっても夕騎先輩が愛する精霊は誰一人として奪わせません!」
「……だったら精霊を殺そうとする
相手の鎧を見た夜三は霊装の上にさらに自らもきののものとは対極の黒色のCR―ユニットを纏い、戻した長針の剣に魔力を纏わせ切れ味を上げるときのに向かって突貫する。
「この力は殺すためのものじゃないんです! だから絶対に殺しません!!」
「ほざけ!! 実力もないくせに偉そうなこと言うな!!」
きのも応じて真正面からぶつかり合い、剣戟を交わす。
二人の戦いはこうして火蓋が落とされる――
オリジナル精霊募集は引き続きしております故良ければ宜しくお願いします。