デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する―   作:ホスパッチ

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番外一話『零弥パーティ』

 「――今日からあなたたちのクラスの一員となる明月(あかつき)零弥よ。以後お見知りおきを願うわ」

 自己紹介して零弥は自分の名前をチョークで黒板に書いていく。字はどこで教わったかはわからないが非常に綺麗なものだ。

 零弥は来禅高校の二年生として夕騎や士道、十香と同じクラスに転入した。

 不慣れなクラスで粗相をするのは零弥的にアウトだったので琴里に頼み込んだのだ。元より琴里も同じクラスにしようと考えていたらしく、都合が良かったようだ。

 明月という苗字は零弥が夕騎に「夕騎と同じ苗字がいいわ」とお願いしたのだが、それは駄目だろと言われて渋々に月明の漢字を逆にしたのだ。

 ――どうして駄目だったのかしら。

 怪訝に思うがクラスの様子を見てみると、これから同じクラスの男子たちや女子たちは零弥の容姿を見て騒然とする。きっと十香も同じような反応をされたのだろうと十香の方を見てみると物凄く良い笑顔で零弥に向かって椅子に座りながら手を振ってくる。

 「おお! 零弥も同じクラスになれたのか! 嬉しいぞ!」

 「ええ、私も嬉しいわ」

 あまりのはしゃぎように零弥は苦笑いを浮かべなら手を振り返す。クラスメイトたちは「夜刀神さんの友達だったのか」と何やら妙に納得したような会話が聞こえてくる。

 十香とは知り合って本当に日が浅いのだが検査を受けている間にすっかり仲良くなり、「まるで私の姉のように思えるぞ!」とまでランクアップしてしまった。どちらかと言えば十香たち精霊の想いで零弥は生まれたのだから娘が正解だと思うが精神年齢的に十香から見て零弥は上らしい。

 はしゃぐ十香の隣の席に座っているのは夕騎の『トモダチ』の五河士道。中肉中背でいかにも普通といった風体だがキスすることで精霊の力を封印することができるらしい。士道とはそんなに関わったことがないので情報は少ない。

 「それじゃあ明月さんの席は――」

 「あの席がいいわ」

 「そういった指定制ではないんだけど……」

 零弥が人差し指で指定したのはちょうど夕騎の隣の席で十香の前の席だ。当然その席にはすでに座っている生徒がいるのだが何故かデジャヴ感を感じたその生徒は快く退いてくれる。

 「感謝するわ、ありがとう」

 席を譲って貰った零弥は相手に感謝の意を示しつつ席に座る。

 「席まで近いとは素晴らしいことだぞ」

 十香は喜んで背後から抱きついてくる。零弥も微笑ましく思いながらポンポンと十香の頭を撫でたあと隣にいる夕騎の様子を見てみる。

 夕騎なら零弥が転入してきたのなら一番に喜んでくれると思っていたのだが先ほどから一言も話しかけてくれない。

 ――……寝てる?

 見てみると夕騎は机に枕を置いてまで熟睡していた。騒然としているクラスのなかでここまで眠れるのは凄くどうでも良い才能の片鱗を見せているのかもしれない。

 熟睡状態の夕騎の顔を怪訝そうに見ていると士道が言う。

 「夕騎は昨日何か徹夜していたみたいで眠いんだってよ、授業始まったら起きるって言ってたしもうすぐ起きると思うぞ」

 「へぇ、そうなの。それなら無理に起こさなくていいわね」

 今日から夕騎と二人暮らしになるのだが、その前に少しは「制服姿可愛いな」とか言って欲しかったが夕騎の場合、絶対にオーバーなものになると思うので家で言ってもらうことにする。言葉にしてもらうのは大事なことだ。手で口元を押さえていないと口元が緩んでしまうのは内緒。

 ――徹夜って何のためにしていたのかしら。

 疑問を残しながら零弥は初授業を迎えていく。

 

 

 

 授業はと言うと静粛現界した際に古本屋で色々本を読み漁っていたこともあったので文系科目は何を書いているか一通りわかったものの理数系科目はなかなか理解できるものではなかった。

 ――人間はこんなことを習っていたのね。夕騎も苦労して……って、また寝てるわ。

 隣の席で夕騎はまた寝ていたのだが不思議と右手にはシャーペンを持っていてこれまた達筆な字で黒板に書かれている字を一字一句逃さずにノートに書き写していた。まさに神業。

 これは起こすべきではないのかと思ったが夕騎の寝顔を見るのも悪くないしきちんとノートは書いているので問題ないだろう。夕騎には甘い部分も多い零弥だった。

 休憩時間はと言うと零弥の席の周りには人だかりができていてどうにも転入生とは珍しい存在のようだ。質問ばかりされて零弥は何とか対応していたものの夕騎とはまだ会話していない。何やら士道や十香たちと話し込んでいるようで助けは求められそうにない。

 「明月さんって好きな男性のタイプとかいる?」

 女子生徒の一人がそんなことを聞いてくる。

 何故他人の好みが気になるかはわからないが質問されたからには応える義務がありそうだ。

 

 「そうね、普段は子供っぽくてふざけた口調で話すけど時折真剣な姿を見せてくれてる馬鹿な夕騎が好きよ」

 

 ん? と零弥の周りにいた生徒たちが一斉に怪訝そうな顔をする。

 なるべく遠くから夕騎に当てはまるように夕騎の特徴を述べていたつもりだったがどうやら最後の最後で暴露してしまったようだ。

 「……馬鹿な勇気があるような男性が好きなの」

 強引な誤魔化し方だったが生徒は先ほどのは聞き間違えかと思って納得してくれたようだ。

 ここで「キスしたこともあるわ」などと言えば夕騎と零弥の関係が邪推されてしまう。そんなことで夕騎がストレスを感じてしまったら一大事だ。いや別にキスしたことには変わりないのだが。

 「良かった……、夜刀神さんや五河くんみたいな関係を想像しちゃったじゃない」

 「あの二人ってあんなことやこんなことまでしたことあるって噂あるし、夜刀神さんは五河くんに荒々しく求められたこともあるって言ってたし」

 十香の方はすでにやらかしてしまっているようである。だが考えてみれば零弥も夕騎に荒々しく求められた気がしないわけではない。

 いや最後にキスに誘導したのは零弥自身だった。でも零弥をあそこまで催促したのは夕騎が隠れイケメン性を発揮したからであって――

 ――駄目混乱してきたわ……愛されてるのはわかってるのに夕騎を殴ってしまいそうね……。

 「明月さんどうしたの? 顔真っ赤だけど」

 「え、ええ、大丈夫よ全然大丈夫」

 零弥自身でもわからないうちに零弥は赤面してしまっていたようだ。

 この葛藤を夕騎に話しても良いのだが何だか笑われそうなのでやめておこう。

 

 

 

 「ココが……わからん。自分でもわからないのに案内って無理ざんす……」

 「自分でもわからないのに案内するのはどうかと思うわ」

 「だって零弥が『夕騎に案内してほしい』って言うからわたくしめはこうやってわけわかめな場所を案内してるんじゃあーりませんか!」

 「夕騎、それは案内してるとは言わないわ。ただ単に他人(ひと)を巻き込んでの迷子よ」

 「そんなヒドイ! 俺だってわからないなりに真面目に案内しようと出発前は思ってたのにヒドイなり!」

 「……いまは真面目に案内してないことだけは理解できたわ」

 「いやんバレました?」

 「そっちが白状したんでしょ」

 放課後、零弥はようやく夕騎と二人になれていた。夕騎は片手に校内地図を持っているというのに迷子になっている。

 ――こうやって話すのも久しぶりに思えるわ。

 検査の間は会うこともなく物寂しいものがあった。

 夕騎と話がしたいと頼んでみても〈フラクシナス〉のクルーからは断固拒否され、事情を聞いてみたところ霊力を封印した瞬間に不可解な回復が起きたことによってより綿密な検査が行われていたらしい。

 「夕騎、あの時の検査は大丈夫だった? 何も変なことされてないかしら?」

 まるで保護者のような心配振りに夕騎はぶふーっと吹き出す。

 「にゃはははははははは! なーに心配しちゃってたのかよん。悪かったな心配させて、結果は見事に異常ナシ。んでもってまあ色んな事情があって零弥の霊力は俺を通して士道っちに渡しちゃったわ」

 「いろんな事情?」

 「ああ、何せ俺の封印方法は実際封印したって言えねえんだよん。ただ零弥の霊力を体内に留めているだけ。戦闘で零弥の霊力を使えばその分の霊力は零弥の身体に戻っちまう。なっかなか不便利なモンだよ。んで考えられたのは士道と俺を見えない経路(パス)で繋ぐと同時に霊力を士道っちに渡す方法。士道っちの方は精霊の感情が不安定にならない限りは戻らないらしーし、ハッキリ言って封印に関しては士道っちは俺の強化バージョン。まあパス繋ぐ時に噛み付いたけどやっぱ精霊じゃないとダメだな、うん。四糸乃を甘噛みしてみたい」

 「四糸乃にそれ言ったら次から避けられるわね」

 「デスヨネー」

 何気ない会話のなかで唐突に零弥が真剣な様子で問いかける。

 「ねえ夕騎……」

 「急に何だよ改まっちゃって?」

 「私は……本当に、このまま普通に暮らしていいのかしら?」

 不意な問いかけに夕騎は怪訝そうに思うが夕騎はその場から歩いて立ち止まった零弥と少し距離を取り、天井を覆うようにして大きく手を開いては笑顔で言う。

 

 「当たり前だ。お前が守ろうとしている精霊たちはこれから俺や士道が誰からも傷つけられないように守っていく。救っていく。否定するヤツはブッ飛ばす。だからもう心配しなくていいぜ。もう零弥は幸せになってイイんだ」

 

 窓際から夕日の光が差し込む。

 夕騎の笑顔は夕日で眩しく思え、零弥の顔は自然と熱を持っていく。口元も緩んで微笑みを作ってしまう。

 だけど、

 「幸せになるのは私だけじゃないわ――あなたも一緒よ」

 バシン! と一発掌で夕騎の胸元を思いっきり叩くと踵を返して先に進んでいく。

 「もう充分楽しめたし帰りましょ……このまま学校に長くいるとあなたの隠れイケメン性に気づく子が現れるかもしれないし」

 「ぐぉぉぉぉぉ……何故叩かれたかサッパリわかんねえし後半まったく聞こえなかったし何なのさもぉう……」

 何とも言えない不条理さを感じている夕騎は何故か足早に進んでいく零弥のあとを追って帰っていくのだった。

 

 

 

 「……ここが夕騎の家?」

 日が完全に沈み、夜を迎えたあたりで零弥たちが通う来禅高校から割と近いところに月明の表札がある一軒家にたどり着いた。隣には五河家が、その隣には〈ラタトスク〉が作り上げた精霊用のマンションがある。視察もしていなかったので零弥は少し驚いていた。

 「二人で住むには大きいわね……」

 「〈ラタトスク〉が手配してくれたんだよ。しかも水道代とかも払ってくれてるからDEM社の給料、ASTの給料、〈ラタトスク〉からの……初任給は減給されたがとりあえずリッチな生活ができるのさ」

 「あなたも大変だったのね」

 「まあ置いといて……とりあえず入って手洗いうがいしようぜ」

 零弥は夕騎に促されるまま家の中へ入り、洗面所に案内されて手洗いうがいを済ませてタオルで拭き、また促されるままリビングへと向かっていく。

 「開けてみそ」

 零弥がリビングのドアを開け、夕騎がリビングの電気を点けると――

 

 「「「「ようこそ零弥!!」」」」

 

 パンパンパンッ! と、けたたましいほどのクラッカー音が鳴り響く。

 零弥は目を見開いて見てみると士道、琴里、十香、それに四糸乃までもがクラッカーを片手にしていて、『零弥歓迎パーティ』と書かれたものまで用意されていた。室内はいろんな飾り付けをされていてどれも手が凝っていた。

 「む、何故私のは鳴らんのだ!」

 「十香は力みすぎだ……紐だけ抜けるって普通ありえないぞ」

 人数に対してクラッカーの音の数が足らないと思っていたらどうやら十香が失敗していたらしい。

 『よーこそ、零弥おねーさん! 歓迎パーティーへ!』

 「あ、それ俺が言おうとしてたのに!」

 「よ……っ、ようこそ、零弥お姉様……」

 「このパーティは夕騎が考えたのよ」

 テーブルには様々な料理が並べられていてどれも美味しそうだ。ケーキもあり、四糸乃や琴里が零弥を迎えてくれる。

 「ふふふ、零弥よ。徹夜してまで作り上げた『くす玉くん』を割ってもらいたい!」

 夕騎の声で振り向いてみると天井からくす玉らしき地球儀ほどの大きさをしている球体が吊り下げられていて夕騎は目を爛々と輝かせている。

 「わざわざこんな気を遣わなくてもいいのに」

 「いいからいいから。割ってあげなさい」

 「私たちも協力したんだぞ!」

 勧められるまま零弥は『くす玉くん』の下まで移動し、垂れ下がっている糸を手で掴む。

 「引けばいいのね」

 シュッと引いてみると――

 明らかに分量が多い色取り取りの紙くずたちが一斉に零弥の頭にずっしりと落ちて積り、垂れ幕は全然下がってこない。

 「あれ!? 失敗っつうかやっぱり多かったか!」

 「どうやら張り切って詰め込みすぎたようだぞ!」

 『十香ちゃん本当に張り切って折り紙切ってたもんねー』

 「だ、大丈夫……ですか……?」

 夕騎は大笑いし、十香は悔しがって、四糸乃は零弥に降り積もった紙くずを取ろうとしてくれている。

 「ふふ、もう何なのこれ」

 自然と笑みが溢れてくる。本当に愉快なことだ。

 「これは掃除大変そうだなぁ」

 「まあいいじゃない、喜んでくれたんだから」

 士道が床に広がった紙くずの量を見てうわぁ……と言った表情になるが琴里は夕騎たちと一緒になって笑っている。

 「それにしても私はもうお腹ペコペコだぞ」

 『自由! 十香ちゃんフリーダムすぎるよ!』

 「そうね、もうそろそろ食べましょう。私が待たせていたようだし。四糸乃ありがとう」

 「はっ……はい、どう、いたしまして……」

 四糸乃と協力して紙くずを取り終えた零弥は皆をテーブルの方へ促す。

 

 

 

 「何故パーティの場にピーマンの肉詰めが……ッ!」

 全員で食事をし始めた頃に夕騎がそんなことを言い出す。

 「脂っこいものばっかりだと駄目だと思ってさ。サラダを用意しようと思ったけど時間がなくてな」

 調理を担当した士道が悪びれた様子で言う。

 「何だ夕騎、ピーマンが嫌いなのか?」

 『夕騎くんもお子ちゃまだねー』

 「うっせぇ! 俺は納豆と梅とピーマンは人類の食いモンじゃねえと思ってるからな! 食わねえ!」

 『な、何という暴論……!』

 十香と『よしのん』に対して夕騎が暴論を披露していると琴里は呆れ気味で言う。

 「好き嫌いは良くないわよ夕騎」

 「嫌いなモンを無理に食う方が健康に悪いと俺は思ってるぜ!」

 「自信満々に言うなよ……」

 そんな夕騎に零弥はピーマンの肉詰めを口に一口含み、夕騎の方へ顔を向けば両手で顔を掴まえて躊躇いなく口移しで無理矢理夕騎に送り込む。

 その様子を見ていた零弥以外の全員が驚き、

 『わぁ零弥おねーさんってば大胆!』

 「本に書いてたわ、『嫌いなものを食べさせるには異性からの口移しが効果アリ』って」

 「……それ絶対間違ってるわ」

 「でも効果ありだったみたい、夕騎はピーマンを食べることができたわ」

 「ちが、う……飲み込むまで口押さえられてたからだろ……」

 色々な思いで夕騎はダウンしていて、それを見た十香はジッとピーマンの肉詰めを見て顔を赤面させながら言う。

 「シ、シドーはピーマン嫌いか!? 嫌いなんだな!? 良かろう食べさせてやろう!」

 「わ、ちょ、落ち着け十香!」

 騒然としたパーティを零弥は微笑みながら見ていたが、

 「話を振った私が悪かったのかしら……?」

 疑問に思うところもあったが楽しければ何でも良かったのかもしれない。

 「ところで夕騎、私の制服姿どう思う?」

 十香たちが騒いでいる間に零弥は夕騎に問いかけてみる。

 すると夕騎は、

 「そりゃあもうベリーグーだね! ああ可愛いよ俺の零弥たんハァハァ! 寝起きで見た瞬間なんてたまらなかったねもう授業中なんて関係なしに写真撮影会いってもイイかなって思っちゃったぐらいですしマジ視線を釘付けにされてしまふぐぅッ!?」

 あまりにもオーバーに褒めるので零弥の羞恥心が限界を迎えたのか顔を真っ赤にしてピーマンの肉詰めを夕騎の口の中に手で押し込む。

 こうしてパーティが終わり片付けも済ませ士道たちが帰ったあと、力尽きていた夕騎に「好きな部屋で寝てくれ」と言われて夕騎が寝静まったあとで一緒のベッドで寝たのはまた別の話。


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