真剣で私にD×Dに恋しなさい!S改 完結   作:ダーク・シリウス

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Episode18

川神百代たちが蒼天に侵入して以来、川神学園は夏季休暇を迎えた。

生徒たちはようやく終えた終業式に溜息を吐いたり、今後の長期休暇をどう過ごすか、

この休暇を利用しS組になろうと勉強に励む者たちが学園から姿を消していく。

その中に川神百代たちもいることは当然だった。

 

そんな彼女たちに露知らず、一誠はいま宇宙まで伸びた塔の頂上、

宇宙空間で作業員達と共にいた。

 

「―――よし、完成だ!」

 

長い年月や月日を掛けて、ようやく完成した塔。一誠の発言に場が歓喜に包まれた。

蒼天の象徴と代表する物が完成したのだ。自分たちの手で歴史に残るであろう事を一誠達は

したのだ。その後、記念撮影とばかり写真を撮りだした。集合写真や個人、ツーショット、

スリーショット、面白可笑しいポーズの写真、様々な写真を撮った。未来に残すために。

 

「なあ、一誠。何時この塔を出入りできるようにするん?」

 

「三日後でいいじゃないか?ここは民間人が観覧できる場所で、

俺たち作業員が工事する場所は別の場所だしさ」

 

「で、月面にコロニーを建造するのは何時にするん?」

 

「しばらく作業員たちに休暇をさせるから・・・・・そうだな、八月の初日からにしよう」

 

「じゃあ、ウチもか?」

 

どこか期待の目をする真桜。自分も塔を建ててきた一人だ。

だったら自分もそうじゃないか?って思わずにはいられなかったようだ。一誠の返事は―――。

 

「そうだな。真桜も他の作業員と同じ休暇だ。―――それじゃ、皆。お疲れ!

しばらくお前たちには休暇を与える!休暇の期間は後日こちらから送るから帰って良し!

ただし、羽を伸ばし過ぎないようにな?」

 

『はいっ!かしこまりました!』

 

「わーい!やったでぇー!」

 

と、作業員たちや真桜がこの場から去っていく。一誠はその場に残って天井を見上げる。

硬度で強度なガラス張りの向こうに真っ暗な宇宙空間に浮かぶ白い塊―――月を視界に入れる。

 

「ようやく完成したな・・・・・この塔の名前、何にしようか?」

 

―――数日後―――

 

世界は蒼天に注目する。宇宙空間にまで伸びた塔が十年という年月を掛けて完成した、

とテレビで報道されたり新聞で記事になったりと見聞し、話題が絶えなかった。

それは勿論、世界最大の企業の九鬼財閥の耳にも入っていた。とある国の高層ビルの最上階で

九鬼揚羽はその新聞の記事を見て薬と笑みを浮かべた。

 

「完成したか。おめでとうと言っておくぞ一誠」

 

愛しい男、片思いの異性に称賛する。そう言えば、完成したら入れてくれる約束は覚えて

いるのだろうか?九鬼揚羽は天井を見詰め、思い返していると視界が急に真っ暗になった。

同時に顔に温もりも感じた。

 

「だーれだ?」

 

「・・・・・!」

 

背後から声が聞こえた。自分の命を狙う者であれば、この瞬間に命を奪われているか、

逆に狼藉者を成敗していた。だが、九鬼揚羽はそんなことをする動作もしなかった。

聞き覚えのある声の主が子供みたいなことをして心の中で苦笑を浮かべているだけだった。

 

「お前の名を当てたら、何か褒美が出るのかな?」

 

「そうだな・・・・・二人きりの宇宙観覧というロマンチックなスポットへ案内することだな」

 

どこか楽しそうな声だった。自分の目を隠す存在の声からして男は約束を

果たそうとしているのだろう。口元を緩ませて九鬼揚羽は言った。

 

「旅人・蒼天の中央の兵藤一誠」

 

そう言えば、視界が一気にクリアして、仕事部屋が見えるようになった。

目を覆った手がまるで恋人のように腹へと回され、後にいるであろう男の体にまるで恋人のように

抱きかかえられた。

 

「正解だ」

 

「・・・・・っ」

 

耳元でボソリと呟かれ思わずビクと体が震えたその直後、足元が急に光り輝きだした。

視線を下に向けると、見たこともない羅列が刻まれている円陣の紋様、

中央にドラゴンを模した紋様も浮かんでいた。

 

「宇宙観覧と行こうか。あの時の約束を果たさせてもらう」

 

そう耳元で言われ、九鬼揚羽と背後に立っている男が光に包まれ、光と共に弾いた。

その時、テーブルに一枚の紙が二人と入れ代るように現れた。

 

『夕方になるまで出掛けてくる』

 

―――蒼天―――

 

今話題の塔の頂上、宇宙空間にまで伸びた建物中で慣れない無重力に、

宇宙を見ようと集まってきた蒼天の住民たちが係員の指導のもとでガラスの向こうに広がる暗い

光景を目に焼き付けるような感じで眼差しを向けていた。そんな係員と住民たちがいる場所とは

違うところで九鬼揚羽は、無重力を感じながら

未だに自分を抱きしめている男と宇宙を眺めていた。

 

「真っ暗であるな」

 

「地上から見れば綺麗な星が見えるけど、実際にあるのは暗闇に無重力、石の塊があるだけだ」

 

「だが・・・・・こうしてお前と見る宇宙は悪くないぞ」

 

「光栄の極まりだ。九鬼財閥の令嬢にそう言ってくれるとはな」

 

「男で言うのはお前だけだ一誠」

 

半回転して背後から抱き締めている男の首に腕を回してさらに密着する。

額と額がコツンと重なり合い、どちらから顔と突き出せば唇が重なるほど

距離が近い状態で九鬼揚羽は口を開いた。

 

「それに約束を守ってくれたな。嬉しいぞ我は」

 

「それはなによりだ」

 

一誠も九鬼揚羽の腰に腕を回して抱き寄せるのだった。互いの服から感じる温もりは心地よく、

心臓の鼓動さえも感じ取れる。九鬼揚羽が徐に目を瞑る。その意図に気付き、

心の中で迷い苦笑を浮かべ―――自分の唇を目を瞑る目の前の女性の額へと押し付けた。

いざ、九鬼揚羽の顔を覗けば―――。

 

「むぅ・・・・・」

 

「拗ねるなよ」

 

「一誠の意地悪」

 

「お前は子供か。成長していないな」

 

「しておるわ。無論。ここもあの時より立派に育ったぞ?」

 

首に回していた腕を優しく力を籠めて、九鬼揚羽の胸に顔を引き寄せられる一誠。

目を白黒させて硬直状態となった一誠に笑みを浮かべた九鬼揚羽は言った。

 

「男は大きな胸が好きだと聞く。一誠もそうであろう?」

 

「・・・・・いや、それは人それぞれ好みがあってだな。俺は胸の大きさに関係なく好きなんだ」

 

「そう言う割には胸の大きな部下たちが大勢いるようだが?」

 

「・・・・・偶然だ。それ以上はノーコメントだ」

 

「ふふっ、ならばそうしておくことにしよう」

 

楽しげに九鬼揚羽は言う。離れようとせず、九鬼揚羽の胸の谷間に埋もれたまま、

感じる温もりが心地よく安らかな気持ちになり、このまま寝てしまおうかなと思った矢先だった。

 

「なぁ一誠。日本で開催する大会に出てみないか?」

 

「・・・・・大会?」

 

「うむ。KOS大会という大会を開催しようと思っている」

 

「で、参加者制限は?」

 

「四人に一チーム、バトルロワイヤルだ。年齢制限は無し。どうだ?一誠も出てみないか?」

 

その問いかけに一誠は―――笑みを浮かべて答えた。

 

―――○●○―――

 

―――KOS大会、開催日。七浜では、華やかなパレードが行われていた。昼から花火が上がり、

まさに祭り、大賑わいだ

『開港150周年のイベントとして相応しい―――』

オープニングセレモニーを総理がやっている。出場選手達は、七浜公園集合になっていた。

大勢の人間が公園を埋め尽くす勢いだ。なにせ、世界各地から参加者が来たのだ。

強者達の気で公園内は満ちていた。報酬金の効果は、絶大なものだった。

 

『フハハハハハ!』

公園に九鬼揚羽の声が響き渡った

『全世界の戦士諸君!良く集まった!これより武の祭典、KOSの開催を宣言する!』

公園から歓声と怒号が響き渡る。

『それでは・・・・・戦いの説明をしよう!戦いは、何でもありだ・・・・・機転を利かせろよ。

武器を使おうが、どこを狙おうが自由!参加者は軌約書に同意しているゆえ負傷しても責任は

成らん。思いきりいけい!またリングはここ七浜と隣町の川神の大地とする。

そして、戦いの期間は三日間とする!優勝条件は、最後まで生き残った組みだ!

最後に立っている者が優勝者と言えるからな。これから選手達は七浜と川神の街を

移動し・・・・・敵の選手と出会ったら戦闘に入る!例え食事してようが、寝ていようが常に

戦闘だ。一寸たりとも気が抜けない三日間という訳だ』

 

参加選手達の気持ちがさらに引き締まる。九鬼揚羽の言葉はまだ続く。

 

『敵だらけの街でバトルロワイヤル・・・・・燃えるな?

闘わないでいるチキンが発生した場合の対処だが、 これには処刑人を用意した。処刑人は我と』

 

『川神鉄心じゃ、よろしくのう・・・・・見た顔多ッ!』

 

『頑張ってるかね?ルーだヨ』

『川神百代だ!』

『以上、四名が処刑人に成る。もし一定以上、

戦わないでいるチームがあったら我等がそのチームを消去しに

向かう。夜の間もこのルールは適用される!忘れるな、チームの動向はそれぞれのサポーターが

持っている腕輪からデータを通し本部で監視する。これにより、隠れて勝ち残る事は不可能だ。

最後に禁止事項をあげておこう。七浜市と川神市から出たチームは即座に失格。一般人を攻撃し、

負傷させれば失格。この事、ゆめゆめ忘れるな!』

そこで九鬼揚羽は口をと出して笑みを浮かべた。

 

『それとここで追加のルールを説明する。すでに知っているだろうが今大会には

蒼天から武士が参加している。その者たちの一人でも倒せば―――蒼天から五百億が手に入る』

 

ざわ・・・・・っ!

 

新たな追加ルールを聞き、参加選手達は一誠にとある方へ視線を向けた。

『蒼天』の文字が象った青い外套を羽織っている少女、女性の一団へ―――。

 

『それでは、はじめい!』

 

大会開始の宣言が告げられた。―――蒼天の武将メンバーが動き始める。

青い外套を翻して身近にいた選手へ襲いかかった。気合の声と同時に一閃。

秋蘭や紫苑といった弓兵の矢の矢じりには、毒が塗りこまれていて、

突き刺さった選手はその場で崩れ落ちて三日間動くこともままらない状態に陥る。

 

ドンドンドンドンッ!

 

が、桔梗のような武器、回転弾倉式のパイルバンカーは容赦なく選手を撃ち貫く。

 

「どいつもこいつも、弱い!」

 

春蘭が怒涛の如く、得物を振るい、たった一閃で五人の選手を斬り倒した。

 

「つ、強い・・・・・!」

 

「これが蒼天の武士・・・・・!」

 

「相手は女子供だぞ!蒼天の一人でも倒せば、五百億が手に入るんだ!」

 

チリン―――。

 

「私達を倒せばの話だがな」

 

戦争と呼んでも過言ではない戦場と化となった七浜に鈴の音が聞こえたかと思うと、

選手がバタリを倒れた。

 

「あたし達の実力を、女子供だってなめちゃいけないぜ!」

 

「私を倒せる者はいるかーっ!」

 

「ウチの神速についてこれるもんはついてこいや!」

 

「我が主の期待に応えるまでだ!」

 

「あはははっ!こんな混戦状態を戦うのって初めて!楽しいわ!」

 

一方的な戦いとなりつつあった。銃器を手にして戦う者が、蒼天のメンバーに撃ったとしても、

弾かれたり避けられたり防がれていく。

逆に―――蒼天から参加した警備隊のISを装着した者達の重火器によって一掃される。

 

「私達の任務はこのISの性能を世界に見せつつ、各区の王のサポート」

 

「「「「「「「はっ!」」」」」」」

 

指揮を執っている天衣。七人の警備隊を率いて参戦。

 

「HAHAHA!蒼天のお嬢さんと戦ってみましょう!」

 

「兄さん!蒼天と戦うのはダメだよ!10000%の確率で、負けてしまう!」

 

「な、なんで―――!」

 

刹那、巨躯の外人の太股に矢が刺さってその場で倒れ込んだ。

 

「に、兄さ―――!」

 

続いて長身痩躯の中年男性も矢で射ぬかれた。

 

「的が多いな」

 

ポツリと秋蘭は呟いた。

 

「隙あり!」

 

そんな秋蘭の背後から空手家の男が奇襲を仕掛けた。

 

「弓を射させる時間を当てない!」

 

「五百億GETだぜ!」

 

「覚悟!」

 

周囲から強襲。―――しかし、秋蘭は冷静に動いた。腰に携えていた剣を手にすると、

その場で駒のように身体を回し、跳躍しながら周囲の選手達の身体に切りつけた。

 

「私をそこらへんの弓兵と侮ってもらわれては困ると言うものだ」

 

「な、ん・・・・・だと・・・・・」

 

ドサッ!と地面にひれ伏す選手達。着地して剣に付着した血液を振るい払って、

鞘に納めればまた矢を射始める。

 

 

 

七浜を見ていた九鬼揚羽と川神百代は、

青い外套を羽織っている蒼天のメンバーをハッキリと見えていた。

 

「揚羽さん・・・・・」

 

「ダメだぞ?」

 

「私、なにも言っていないんだが?」

 

不満そうに言う川神百代。九鬼揚羽は溜息を吐く。

 

「蒼天の者達と戦いと言いたいのであろう。

お前の身体がさっきからうずうずしておるのが見えている」

 

その指摘に川神百代は七浜に指した。

 

「だって!あんなに可愛くてきれいな女の子やお姉さんが目の前にいるんだ!

私だって美少女らしく戦いたくなった!」

 

「・・・・・私も、蒼天の人と戦いたかったです」

 

そんな二人の背後に体育座りしていて拗ねている織田信長の姿がいた。

織田信長も参加を希望していたが、川神百代と同等の実力者を参加させては一方的に

勝ってしまうため、案の定というか必然というか当然というか、参加を認められなかった。

 

「我ら四人、蒼天の者と戦えば勝てるだろうが、この大会でそれはフェアではないからな。

我慢しろ」

 

「むー、一誠が出てくれば私も参加できたいうものを・・・・・」

 

「一誠の目的はあくまで蒼天の武士の実力を世界に知らしめることだ。一誠が出てきたところで、

意味がない。一誠もそう自覚しておるから参加をしていないのだ」

 

「・・・・・で、その一誠は蒼天からこの光景を見ているんだろう?」

 

「そうみたいだな」

 

視点を七浜に戻せば、蒼天のメンバーは強者と戦い始める者が出始めた。

 

「とりゃぁっ!」

 

「くっ!」

 

源義経と鈴々。身の丈を優に超える佗矛で源義経を刀ごと弾き返した。

 

「身体が小さいのにこの力は・・・・・!」

 

「鈴々をちっこいからって見かけに判断しちゃダメだなのだ!」

 

佗矛の矛先に淡い光が纏い始めた。

 

「お兄ちゃん直伝を食らうのだー!」

 

鈴々は跳躍して源義経に向かって思いっきり佗矛を振り下ろした瞬間。

七浜の広場が轟音と共にクレーターができたにも飽き足らず、その衝撃波は源義経にも襲った。

 

「ぐぅ・・・・・!」

 

敬愛している一誠の弟子の力はこれほどのものか・・・・・・!

源義経は衝撃波を耐えきりながら刀を構えた。

 

「お兄ちゃんは鈴々達の強さを世界に教えてほしいと言われたから、全力で戦うのだ!」

 

全身に闘気を纏い始め、神々しい光を放つ。

 

「にゃー!」

 

―――○●○―――

 

「嵐脚!」

 

爆発的な脚力で鎌風を起こし、周囲の選手達を切り倒していく凪。

 

「ほぇー、凪ちゃん物凄く張り切っているのー」

 

「そりゃ、一誠に頭を撫でながら『頑張れ、お前の戦いぶりを見ているからな』と言われちゃあ、

張り切らないわけないんやで?」

 

「そういう真桜ちゃんも、妙に張り切っているのー」

 

「えへへ?バレた?実は、一誠に生き残ったら開発班の

これを三倍上乗せしてくれる約束をしてくれたんよ」

 

親指と人差し指の指先をくっつけ合い、輪っかの形を知れば沙和が途端に

羨望の眼差しを真桜に向け出す。

 

「いいなー!沙和もなにか一誠に言っておくんだったー!」

 

「もう今から言っても遅いと思うんよ?」

 

意地の悪い笑みを浮かべる真桜に叱咤の声が掛かる。

 

「真桜!沙和!早く周囲の敵を倒すんだ!」

 

「おお・・・・・怖い」

 

「うん、いまの凪ちゃんに逆らったら怖い目に遭いそうなのー」

 

二人はそう言いながらも苦笑を浮かべた―――そのときだった。

 

「嵐脚」

 

別方向から鎌風が発生して、真桜と沙和に襲いかかった。

 

「んなっ!?」

 

「これ、一誠の技なのー!?」

 

鎌風から揃って回避したが、鎌風は他の選手たちに直撃して戦闘不能に陥った。

 

「今の技は・・・・・」

 

凪も今の技を見て警戒の色を濃くした。

 

「ふっふっふっ、君の技は面白いからコピーさせてもらったよー?」

 

「―――っ!」

 

ゆらりと長い水色の髪を一本に結んだ少女が現れた。手には一対の青竜刀。

 

「いや、それ以前にこの技は知っていたんだけどねー」

 

「・・・・・どういうことだ?」

 

怪訝な面持でいると、黒と赤を基調としたチャイナドレスを身に纏う赤い髪と赤い瞳の少女が

水色の髪の少女の肩と並べた。

 

「この時を待っていた、蒼天の武士達と戦う日を」

 

「・・・・・」

 

一筋縄にはいかない、と凪は悟った。目の前の敵は―――できると確信する。

 

「いや、違うな」

 

「・・・・・?」

 

「―――蒼天にいるドラゴン。あのドラゴンがいると言うことは一誠師匠がいるんだろう?」

 

赤髪の少女の言葉に凪は目を見張った。初めて会う少女が一誠の名前を口にしたからだ。

 

「お前達・・・・・一誠様のなんだ?」

 

「師弟の関係だ」

 

悠然と佇む赤髪の少女。その佇む姿勢こそまた一誠に似ていた。

 

「お前達、蒼天の武士は一誠師匠の弟子なのだろう。だったら、

同じ師の弟子同士―――どっちが強くどっちが相応しいのか・・・・・いざ、尋常に勝負だ」

 

一誠に相応しい・・・・・。そう耳にした途端、凪が握る拳の力が増した。

 

「いいだろう。一誠様に鍛えられ強くなったこの私の力、貴様にぶつけてやる!」

 

―――○●○―――

 

膝まで伸びた黒髪を一本に束ね、黒を基調としたチャイナドレスを身に包む少女と白い帽子に

白い浴衣みたいな服装を着込んでいる長い髪を一本に結んでいる少女たちが槍を

突き合いだしている。

 

「その槍術・・・・・一誠と同じですね」

 

「ふっ、主のことを知る者と会い見えるとは思いもしなかった。私は星。お前は?」

 

「林中。梁山泊の天雄星を継ぐ者だ」

 

「梁山泊・・・・・聞いたことがある。確か、千年前から中国に存在している傭兵団だったな」

 

「その通りだ。私は小さい頃、一誠と出会い、『守る』という事を学んだ」

 

林中は徐に周囲を見渡した。

 

「この大会に一誠はいないか・・・・・」

 

「私では不足か?」

 

「今の私の実力を一誠に見せたかっただけだ」

 

槍を構え直して星と対峙する。

 

「あなたを倒し、一誠に教えるだけです。同じ槍術を使役するあなたを超えたら、

一誠は私と戦いに来てくれるかもしれません」

 

「・・・・・ふっ、それは有り得んな」

 

「なに・・・・・?」

 

星は不敵に言った。

 

「私は負けもしないし、お前を超えるからだ。私の敗北など、

主が見ている前で見せるわけにはいかないからだ。

―――林中、遠くから見ているであろう主にどちらか主に相応しい槍術使いか、勝負だ」

 

「受けてたちます」

 

―――二人の槍術使いが激突した―――。

 

―――○●○―――

 

「おーおー、皆頑張っているなー」

 

蒼天の中央区の建物の一室に一誠は七浜を中継している映像を見ていた。

その場にオーフィスと知将のメンバー、瑠琉と共に。

 

「当然じゃない。あんな場所でみじめに負けてしまったら、蒼天の名が泣いちゃうわ」

 

「皆ー!頑張ってー!」

 

「お姉様・・・・・あんまりはしゃがないでほしいものだがな」

 

「もう、既に手遅れかと」

 

各区の王も七浜にいるメンバーを応援していた。

 

「一誠、当然。あの子達は誰にも負けないわよね?」

 

「俺はそう信じているぞ。だが、予想外なこともあるし絶対とは言い切れない。

それは愛紗達にも教えているし分かっているはずだ」

 

「戦況次第、ということね・・・・・」

 

「ま、俺たちはただあいつらを信じて待つだけだ。

三日後、仕事が溜まっているだろうから今のうちのんびりしよう」

 

「ううう・・・・・書類の山ができているのが目に見えますよぉ・・・・・」

 

机に突っ伏して涙を流し始める桃花であった。

 

―――○●○―――

 

KOS大会が始まって早くも一日が経った。愛紗達は予約したホテルからぞろぞろと出てきた。

 

「梁山泊・・・・・その者と会ってみたいな」

 

「はい、もう一度あの者とリベンジをしてみたいです」

 

「主の弟子は我らだけかと思ったのだがな」

 

「きっと、私達と出会う前に会っていたと思うわ。だからしょうがないんじゃない?」

 

雪蓮がそう言えば、霞が皆に問いかける。

 

「で、これからどうするん?七浜だけじゃなく、川神んとこも戦場やで?」

 

「今日から七浜と川神の二手に分かれて選手を倒していこう。こう固まって行動すれば向こうから

攻撃してくるかもしれないが、二手に分かれて早く相手を倒していくべきだ」

 

秋蘭の提案に愛紗達は首を縦に振った。KOS大会は二日目を送る―――。

 

 

 

ドサッ!

 

多馬川沿岸に赴いた秋蘭達はさっそく相手選手を倒した。

 

「歯応えのある奴はいないな」

 

「私達が強過ぎるだけだよ姉者」

 

「これも一誠様から科せられる特訓のおかげです」

 

「けっこーきついんやけどねー」

 

倒した選手を山積みに重ねて処理し終えると、次の選手を探し求めた。

 

「―――いました。十時の方向に」

 

「よし、さっさと終わらせよう。例え、戦闘中だとしてもだ」

 

「せやな!」

 

意気揚々と相手選手達がいる場所へ駆けていく。そこは野原で広がる場所で、

すでに二チームの選手達が戦いを繰り広げていた。

そこへ凪の気弾が放ち、意識を向けさせたのだ。

 

「あいつは・・・・・」

 

春蘭が目を細めた。その視界に映る人物は―――クリス・ティアーネ・フリードリヒ。

 

「一誠様を化け物よばりした少女でしたね」

 

凪はクリスに近づく。

 

「あなたは私が倒します」

 

「そう簡単に倒される私ではない!」

 

持っていたレイピアを鋭く真っ直ぐ凪に突き出された。

そのレイピアの切っ先を凪は確かに目で追っていた。

拳に装着している籠手を同じ速度で突き出されるレイピアに突き出せば、

凪の突き出された拳に耐えきれず文字通り砕け散った。

 

「な・・・・・っ!」

 

「はぁっ!」

 

トドメとばかり拳を突きだす凪だが、クリスの胴体に巻かれた鞭に引っ張られ、

よって空振りした。

 

「クリス、大丈夫か?」

 

「あ、ありがとうございます。ですがレイピアが・・・・・」

 

「クリスは後方に下がっていろ。こいつらは私達大人が相手をする」

 

と、クリスと共にいる小豆色の髪の女性、小島梅子が一歩前に出た。

続いて赤い髪に眼帯を付けている女性と中年

 

「その前に問いたい。兵藤一誠は元気か?」

 

「・・・・・今でも一誠様はお元気です」

 

「そうか・・・・・なら、話は無用だ。ここからは戦いで語ろう」

 

鞭を振るい、凪に向かって手を動かす小島梅子―――。

 

―――○●○―――

 

その頃、七浜で愛紗達は広場で相手を待ち構えていれば、

星と戦った林中が率いるチームと出くわしていた。

 

「お前が林中とやらか?星から聞いた。一誠様の弟子だそうだな」

 

「ああ、そうだ。昨日は決着がつかなかったが、今日こそお前達を倒す」

 

「昨日の銀髪の女がいないな・・・・・まあいい。蒼天の武士は目の前にいる。―――倒すまでだ」

 

「にゃにゃ!鈴々達は負けないのだ!」

 

両リームの間に火花が散る。二日目の激しい戦いが繰り広げられると思ったその時だった。

 

空の彼方から―――真っ直ぐ光の柱が下へ落ちていく。光が落ちた方角は―――西だった。

 

「あの光は・・・・・・?」

 

「ちょっと待て、あの方角は・・・・・蒼天の方ではないのか?」

 

「蒼天・・・・・もしかしたら、一誠様が何かしたのか?」

 

「そんなことをするようなら、私達にの誰かに教えているはずだと思うぜ?」

 

愛紗達の中で疑念を抱き始めた。

 

「すまん、ちょっと待ってくれ」

 

「・・・・・分かった」

 

携帯を取り出す愛紗に何か遭ったのだろう、と林中は察知して首肯する。

携帯を操作し、一誠に連絡する。

数秒ぐらいで一誠が出るはずなのだが―――十秒、十五秒、二十秒と一誠は愛紗からの通信を

繋げようとはしない。

 

「・・・・・一誠様が出ない・・・・・」

 

「え?」

 

「何だか、嫌な予感がしてきた・・・・・」

 

何とも言えない不安感。愛紗は何度も一誠に連絡を入れるが・・・・・一向に出ない。

 

「どうして、どうして出ないのですか・・・・・一誠様・・・・・!」

 

「―――お前達!」

 

九鬼揚羽が上空から舞い降りてきた。

 

「九鬼揚羽・・・・・?」

 

「今しがた、光の柱の正体が分かった。―――宇宙に存在する衛星のレーザー光線の光だ」

 

「レーザー光線・・・・・?」

 

「どこぞの国が打ち上げた人工衛星の攻撃だ。

先ほど、織田信長に光が落ちた方へ偵察させに行ったが・・・・・」

 

そこで口を噤んで手に持っていた携帯に「蒼天はどうなっている?」と話しかけると。

 

「―――なんだと」

 

信じられないと目を大きく見開いた九鬼揚羽だった。そして、携帯を切ると愛紗達に告げた。

 

「お前達、心して聞いてくれ」

 

真剣な面持ちで九鬼揚羽は口から衝撃的な事実を告げた。

 

「蒼天が―――消滅した」

 

―――○●○―――

 

「な、なんで・・・・・!」

 

西日本海に存在している蒼天。その上空に翼を広げて宙に佇む織田信長が驚愕の色を

浮かべていて、目の前の光景を心から受け入れられない心境に陥っている。

 

「どうして・・・・・蒼天が・・・・・消滅しちゃっているの・・・・・?」

 

大陸は存在するものの、石壁や町、宇宙にまで伸びていた塔が、

すべて消失していた。その大陸に町はあったのだと思わせる何かの残骸が残っているも、

蒼天に住んでいた人間の人っ子一人も見当たらない。

 

「なんで・・・・・蒼天が消えちゃっているのですか・・・・・」

 

その瞬間、一誠は無事なのだろうか?と織田信長は蒼天だった大陸に向かって飛んだ。

―――そんな織田信長に続くように、浮遊している巨大な複数の大地からドラゴンが降りてきた。

ドラゴン達は分かっているのか、真っ直ぐとある場所へと向かっていく。

織田信長も続いて後を追えば―――キラキラと神々しい輝きを放つ球体が映り込んだ。

その中には織田信長が探し求めていた人物がいた。

 

「先輩!」

 

一誠と、数人の少女と女性。光る球体の中で一誠達は呆然と佇んでいた。

 

「・・・・・蒼天が・・・・・私達の国が・・・・・」

 

「なんで・・・・・どうして・・・・・」

 

「民は?五万人以上の民達は・・・・・?」

 

「私達は夢を・・・・・見ているの・・・・・?」

 

「塔も、建物も・・・・・何もかもない・・・・・」

 

織田信長は何て声を掛けて良いのか分からないでいる。

いや、声を掛けたらその皮きりに発狂してしまうんじゃないか、と懸念する。

 

「・・・・・」

 

金色の球体が解けた直後、一誠が地面に跪いた。

 

「数十年の歳月を要して・・・・・こんな、一瞬で・・・・・」

 

「先輩・・・・・」

 

「俺の家が、俺の家族が、皆の夢が・・・・・跡形もなく、あっという間に無くなった」

 

それから一誠は―――空に向かって咆哮をあげた。大切な物が目の前で無くなり、桃花達が見ている前だとも、悲しみの咆哮を上げずにはいられない。

 

「イッセー・・・・・」

 

オーフィスがギュッと一誠の頭を抱き抱えた。オーフィスも一誠の気持ちが分かるようで、

何度も何度も一誠の頭を撫で始めた。織田信長は徐に顔を上げてドラゴンに問うた。

 

「なにが遭ったのですか?」

 

『・・・・・』

 

金色のドラゴンがしばし沈黙を貫いたが、瞑目して口を開いた。

 

『ラードゥンの結界でこの大陸を覆っていたところ、

上空から光の柱が降って塔を貫いたのです。

その塔が消失し、針に糸を通すような感じで穴が開いた結界に―――光の柱が入って来て

蒼天を消失したのです』

 

「―――っ!」

 

織田信長は絶句したところで樹の龍が声を発した。

 

『私の結界は国を覆っているだけで外部からの攻撃を遮断する。

ですが、開いた穴に攻撃をされては攻撃が通るのは必然的。

流石に塔まで結界を覆うほどの事はできなかったですが、

カバーとして兵藤一誠とアジ・ダハーカが防御魔法を幾重にも施していたのですがね』

 

だが、それでも上空から降ってきた光の柱を防ぎきれず、

蒼天は一誠たちを残して消滅してしまった。

その事実に。織田信長は一誠を見つめた。天に仰いでジッと空を見つめている。

神に対して何か思っているのか、この現実に否定したい気持ちでなのか、

涙を流しながら快晴な青い空を見つめている。

 

「先輩・・・・・」

 

泣いている一誠を見たのはもちろん初。オーフィスは少しでも一誠の悲しみを和らげようと、

一誠の頭を撫で続けている。―――と、その時だった。上空に浮かんでいた複数の大地が、

ゆっくりと降下してきたのだ。蒼天を中心と変わらず、海に墜ちた。

 

『不味いですね・・・・・』

 

メリアが険しい表情とばかり目を細めて呟いた。

 

「え?」

 

『我らの住処であるあの大地が墜ちたということは、主の精神が危ういということです』

 

その事実に織田信長は一誠に視線を向けた。未だに空を仰いでいる一誠が泣き叫んでいる。

 

『複数の大地を浮かしているのは主の力です。その力が失って墜ちたということは、

主の心、精神の均衡が崩れかけている・・・・・』

 

「そ、そんな・・・・・!ど、どうすればいいんですか!?」

 

一誠の精神が崩れかけているということは正気を失うのと等しい。

織田信長は対策があると思われるメリアに問いだたした。

―――が、空から飛来する無数の影によって答えは聞けなかった。

 

ドドドドドドドドドドドドッ!

 

蒼天の大陸に何かが落ちた直後に爆発が連続で生じた。

―――ミサイルや砲弾を放たれ続けているのだ。

 

『人間め・・・・・またしても攻めてくるか・・・・・!』

 

『国を滅ぼして勝てると思った人間どもが、調子に乗って襲ってきたか!

おい、ヤッてもいいんだよなぁ?』

 

『構いません、迫りくる敵を全て滅ぼしてきてください』

 

『グハハッ!おう、滅ぼしてきてやんよォッ!』

 

グレンデルが哄笑を上げながら、真正面からミサイルに当たりながら空へ飛翔していく。

他のドラゴン達もグレンデルに続く。程なくしてミサイルや砲弾が降ってこなくなった。

 

『・・・・・主よ』

 

メリアは悲しげに漏らした。

ミサイルが振って来ても悲しみで泣き叫ぶ一誠に視線を向ける。

 

『この世界の人間はなんて愚かなのでしょう。我らは主の悲しむであればその悲しみを何とか

拭いたい。この国を滅ぼした敵を復讐したいのであれば、

我らは喜んで主の願いを叶えるつもりです』

 

翼を広げ、メリアは傍にいるドラゴンに頷き空へ飛翔した。

 

―――○●○―――

 

九鬼家専用特殊飛行ヘリに乗っている愛紗達は沈黙を貫いている。

だが、愛紗達だけではなかった。

 

「・・・・・なんで、お前達もついてくるのだ」

 

重々しい空気の中で漏らす理由。愛紗達に混ざって、林中達までもが乗っているからだ。

 

「一誠の弟子同士、関係なくないことだ。私達も一誠の事が心配なのだ」

 

「・・・・・」

 

弟子同士、そう言われて愛紗の気持ちは複雑で一杯になる。

そう言われてそれでも突き放すような言い方ができなくなる。

高速ヘリを七浜から飛んで西日本海まで約数十分は掛かる。

それまで愛紗達は静かに乗っていた。

 

「―――見えてきたぞ!」

 

『っ!』

 

だが、操縦席の傍らに立っていた九鬼揚羽が告げた。愛紗達は直ぐに立ち上がって、

ヘリから覗ける蒼天の光景を目の当たりにした。

 

「な、なんだと・・・・・」

 

愛紗が知る蒼天の影も形もなかった。

あるのは、蒼天から離れた場所で絶え間なく爆発が生じている空。

 

「蒼天が・・・・・私達の家が・・・・・なくなっている・・・・・!」

 

「にゃっ!?本当だ!鈴々達の家がないのだ!?」

 

「バカな・・・・・!」

 

塔も町も何もかもなくなっていた。

あるのは・・・・・長年、蒼天を支えてきた大陸のみだった。

ヘリは地上に接近して着陸を果たせば、ヘリの扉を開け放って飛びだす愛紗達。

 

「そんな・・・・・!」

 

「なんで・・・・・こんなことに・・・・・」

 

「ここが本当に、蒼天なのか・・・・・?」

 

信じられない光景を目の当たりにし、愕然となる。

そんな中、凪はキョロキョロと周囲を見回していて、

何か察知したようにとある方向へ駆けだしていく。大陸のみとなった蒼天の大地を、

力強く踏んで足を早く前に出しながら凪は痛感する。

―――ここは、本当に蒼天は、消滅しているんだと。

 

「―――っ」

 

涙が出そうなのを堪えて掛け出す。一つの希望はまだ消えていないと信じて―――。

そして、凪は見つけた。

 

「ああああああああああああああああああああああああっ!」

 

「一誠様ぁっ!」

 

青い空に仰いで泣き叫んでいる一誠を―――。その傍には蒼天に残っていた仲間も一人残らずいた。

そして、サマエルや凶暴で獰猛そうなドラゴンもだ。凪が一誠たちのもとへ駆け寄った瞬間。一誠が途端に倒れた。

 

『不味い・・・・・!主の精神が崩壊した・・・・・!』

 

「なっ・・・・・!?」

 

『主!?しっかりしてください!主!』

 

メリアが必死に一誠に問いかけても、一誠は微動だせず動かない。

 

『織田信長!至急、あなたの家の医者のもとへ主を連れて行ってください!』

 

「え?」

 

『早くしなさい!このままでは、主は死んでしまいます!主が死んでもいいのですか!?』

 

「―――っ!?」

 

その言葉に織田信長を動かした。倒れた一誠を担ぎあげて、物凄い速さで空へ飛翔して行った。

一誠と織田信長と擦れ違うように九鬼揚羽達が現れた。

 

―――○●○―――

 

数日後。九鬼家極東本部の医療施設。白い空間に設けられた白いベッドにいる一人の男性。静かな寝息を漏らし続け眠り続けている。その傍にはオーフィスがジッと静かに男を見守っている。

 

コンコン・・・・・。

 

ドアを叩く音が聞こえた。オーフィスはぴょんと椅子から降りてトコトコとドアに近づいて開け放った。

 

「オーフィス・・・・・一誠の具合はどうだ?」

 

「・・・・・寝ている」

 

「そうか・・・・・」

 

オーフィスの言葉に九鬼揚羽がベッドに寝ている男、一誠の傍に寄った。

 

「一誠・・・・・あれからの報告をしにきた」

 

九鬼揚羽は椅子に腰を下ろしながら告げる。

 

「蒼天は事実上、消滅した。あの大陸は、隣国の領土となってしまった」

 

報告をしていても一誠は目を覚まさない。

 

「お前の家族達はお前のために九鬼家従者になることを提案を持ちかけてきたぞ。我が九鬼家の人材不足は一気に解消に近づいたが、我としては複雑な思いで堪らない。お前を人質にして、強制的に働かせているように感じるのだからな。特例として、九鬼特殊従者部隊として迎え入れてみた。従者の位を与えないが、我の専属の従者として働いてもらう。悪いようにはしない。お前を会いたいと言うのであれば、すぐに会わさせる」

 

一誠の髪を触れだす。黒かった髪は面影を残さず、白くなっていた。医者からの報告では精神的にかなり大きなショックを受けてしまった反動だと聞かされた。

 

「銀色だったら、我と同じ髪だったのにな・・・・・」

 

「イッセーは、黒が似合う」

 

頬を膨らませながら言った。オーフィスの嫉妬である。

 

「ふふっ、確かにそうだったな」

 

オーフィスの嫉妬に可愛いと思いながら小さく笑んだ九鬼揚羽は椅子から立ち上がった。

 

「そろそろ時間だ。お前の食事は何時も通り用意しよう」

 

「ありがとう」

 

「気にするな。我は当然のことをしたまでだ」

 

部屋を後にする。そこで廊下に出て九鬼揚羽は呟いた。

 

「・・・・・早く、目を覚ませ。・・・・・一誠」

 

 

 

 

 


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