真剣で私にD×Dに恋しなさい!S改 完結   作:ダーク・シリウス

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英雄のクローン×別れ×旅立ち

 

 

「俺に会わせたい人物達?」

 

「はい、そうでございます」

 

クラウディオが勝負を吹っかけてきたヒュームを倒した後の俺に、そう告げてきた。

 

「いきなりなんでまた?」

 

「九鬼家に仕えて数年。あなたも知っても良い頃合いかと思いまして」

 

「ふーん・・・・・で、どんな奴ら何だ?」

 

「それはついてからのお楽しみです」

 

それだけ言い残して俺をついてくるように言えば、歩を進め出した。

訳が分からないと、怪訝な面持ながらも俺はついていく。

 

 

―――某場

 

 

「こちらにおります」

 

案内され、部屋の中に通された。部屋の中に入るとコンクリートで囲まれた広い空間。

生活用品や家具が揃えていて、その空間に四人の子供がいた。

その内の一人の子供に俺は目を丸くした。

 

「ん?あっ、クラウディオさん」

 

クラウディオの存在に気付いた子供達が顔をこっちに向けてきた。

 

「・・・・・クラウディオ、この子達は?」

 

「英雄のDNAから生み出したクローンでございます」

 

「クローン・・・・・どうして、そんなことを?しかも、英雄クローンなんて、」

 

「旅人はまだお会いしておりませんが、九鬼家従者序列2位のマープルの立案なのです。

『過去の偉人に学ぶ』という目的で・・・・・」

 

「なるほどな・・・それじゃ、数年後にはこの子達を表舞台に出させて、大きなことでもしようて考えか?」

 

「察しがよろしいですね。ええ、そうです。ですので、あの子達はここで勉強し、

鍛練をさせております」

 

「外には出さないのか?」

 

「この本部の周りなら出歩かせております。さすがにあの空地までだと、ミス・マープルの了承を得ない限りでは行けれませんが」

 

・・・・・別に、窮屈な暮らしを強いられているわけじゃないのか・・・・・。

 

「で、誰がどの英雄のクローンなんだ?」

 

四人の子供はすでに俺達の前に佇んで見上げている。

クラウディオは四人の子供に自己紹介を、と促した。

 

「義経は源義経だ」

 

「私は武蔵坊弁慶」

 

「俺は那須与一だ」

 

「私は・・・・・すいません。自分はどんな英雄のクローンなのか、知らされていませんので

分かりませんが、名前は葉桜清楚と言います。よろしくお願いします」

 

源氏物語に出てくる人のクローンかよ・・・・・。

それより清楚が誰の英雄のクローンなのかは知っているがな。その髪飾りもその証拠になる。

 

「・・・・・クラウディオ」

 

「何でしょうか?」

 

「当ててやろうか?」

 

「何をですかな?」

 

「―――葉桜清楚は誰の英雄のクローンなのかを」

 

不敵な笑みで言うと、クラウディオの顔から笑みが消えた。

まるで俺を警戒するかのように、鋭い視線を俺に向けてくる。これは珍しい。

 

「旅人、珍しい事を言いますね。

出会ってすぐに彼女が誰のクローンなのか分かったのですか?」

 

「証拠が十分過ぎるほど揃っているんだよ。バラしているようなもんだぞ?」

 

「・・・・・では、言ってもらいましょうか」

 

頷き、この世界の清楚の前に跪き・・・・・抱きしめた。

 

「え?」

 

「―――力は山を抜き、気は世を蓋う。

時、利あらず、騅、逝かず。騅の逝かざるを奈何にす可き。虞や、虞や、若を奈何んせん」

 

「―――っ!?」

 

刹那―――。葉桜清楚が急に苦しみだした。俺はギュッと力強く抱きしめて、

苦痛に耐えるようにとする。彼女も苦しみから逃れたいと俺の服に掴んで、

何かに必死で耐えている。

 

「大丈夫だ・・・・・自分を受け入れろ」

 

「じ、自分・・・を?」

 

「そうだ・・・・・だから、自分を受け入れるんだ。項羽―――」

 

「・・・・・っ!?」

 

ガクリと、葉桜清楚の力が抜けた。どうやら意識が失ったようだ。

体に気を流しこんで、疲労を回復させ、精神を安定させていると、

 

「う・・・」

 

「大丈夫か?」

 

「・・・・・」

 

意識が回復したようで、葉桜清楚は顔を上げた。―――その瞳は琥珀色ではなく、

血のように真っ赤な色になっていた。

 

「おはよう。どうだ、現世に出れた気分は」

 

「・・・・・不思議な気分だと言っておく」

 

俺から離れて、自分の足で立ち、部屋中を見回す。

自分の体や足、手を見て葉桜清楚・・・いや、覇王・項羽は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「なるほど・・・・・」

 

「お前の内にいる葉桜清楚にも話しかけてやれよ。不安と恐怖で一杯かもしれないからな」

 

「ふん、分かっている。元々この体の持ち主だからな」

 

そう言って、項羽は独り言を呟きだした。そうすると、誰かと話すかのように

独りで喋りだした。

 

「それと、内に戻りたいんならば、お互い意識を強く思ってすればできるはずだ」

 

「・・・・・こうか」

 

片手で顔を覆って何かに集中するように瞑目した。

すると、次に目を開けた時には彼女の目は琥珀色に戻っていた。

 

「・・・・・」

 

「お帰り」

 

「・・・・・えっと、ただいま?」

 

「もう一人の自分と話せた感想はどうだった?」

 

「不思議な気分。こうしている間でも私の中に誰かがいる感じがするのが分かるの」

 

「仲良くするんだぞ?お互い自分なんだからな」

 

「はい、ありがとう・・・・・えっと、名前は・・・・・?」

 

「偽名だけど、俺の名前は旅人だ。よろしくな」

 

「うん、よろしくお願いします。旅人さん」

 

清楚に、朗らかに笑う。・・・・・あの清楚と変わらない笑みだ。

本当に彼女といるようだと錯覚がする。彼女は彼女じゃないのにな・・・・・。

 

「で、これで理解したか?」

 

「ええ・・・・・まさか、あの歌まで口にするとは思いもしませんでした。

旅人、あなたは本当に何者です?」

 

「詮索をしないのが条件だろうが。俺は九鬼家に敵対するようなことは一切しない。

勿論、裏切るようなこともな」

 

「・・・・・ですが、彼女の素性は一部の物しか知らないハズですがね。

それも旅人、数年前まで世界中を旅していたあなたも例外ではないですよ。

―――一体、どうやって彼女の事を知ったのです?」

 

「ノーコメントだ」

 

それだけ言い残して、俺は去ろうとする。途中で足を止めて葉桜清楚達に振り返る。

 

「またお前達のところに顔を出す。その時は一緒に遊ぼうな」

 

「はい、楽しみに待っています」

 

それだけ言ってこの部屋から俺は出た。

 

 

―――???

 

 

「夜分遅くすいません」

 

「なんだい、そんな恐い顔をしてあたしゃに何か用かい」

 

「葉桜清楚の件についてお話が」

 

「あの子の件?あの子は何も問題はないはずだがね?」

 

「確かに本人は問題はございません。しかし、序列1位が彼女と接触するまでは」

 

「・・・・・どういうことだい」

 

「我々九鬼従者部隊のほんの一部しか葉桜清楚の正体を、序列1位はまるで前から

知っていたかのように明らかにしたのです。

葉桜清楚の英雄のクローンは、西楚の覇王・項羽だということを」

 

「・・・・・」

 

「覚醒させるあの歌のキーワードもスラスラと述べて、

葉桜清楚の内で眠る者を覚醒させました」

 

「序列1位・・・・・確か、旅人とか言う男だったね。

クラウディオ、お前さん自ら勧誘した男だ」

 

「ええ、そうです」

 

「その男は、あのプランの障害になるとでも?」

 

「その可能性はないと思います。ですが、あの計画(・・・・)を実行したときに、

彼は敵となるに違いません」

 

「そうかい、なら・・・もう少し様子を見るべきだね。下手に刺激を与えると、

厄介なことになりそうだ」

 

「分かりました。では、そのように・・・・・」

 

 

∞                    ∞                     ∞

 

 

葉桜清楚達と出会って一週間が経過した。休憩の時間の度に誰かと一緒に遊びに行くことが

仕事の合間の日課となった。今日は李と一緒だ。

 

「だー!また俺の負けかよ!?」

 

「与一の瞳にスートが映るから分かりやすいんだよ。目が良いのって考え物だな。

で、弁慶はどうして俺の足の上に乗ってトランプをするんだ」

 

「ここが温かくて良いんだよねー。心地よくてだらけれる」

 

「俺は湯たんぽじゃないけどな・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「李?」

 

ピッタリと腕に絡むように抱きついてきた。

 

「私も・・・・・旅人の温もりが恋しいのです」

 

「・・・・・」

 

よしよし、と李の頭を撫でる。撫でられる感触が心地良いのか、

李は頭を撫でている俺の手を掴んで今度は頬に擦りつけた。

 

「李さん、幸せそうだ」

 

「義経も旅人の体にひっついてみればいいよ。気持ちが分かる」

 

「そんなに良いのか?」

 

「かなり」

 

豪語する弁慶。義経はじゃあ、といそいそと胡坐掻いて座っている俺に座っている

弁慶の隣に座りだした。背中を俺の胸にそっと委ねた。

 

「あ・・・・・」

 

「どう?」

 

「うん・・・・・優しい温もりが伝わってくる。心から安心できる」

 

「ふふっ、仲間が増えた」

 

弁慶が嬉しそうに笑む。義経の頭にも撫でてみると、

少しの抵抗もしないで撫でらしてくれる。逆に、目を細めて嬉しそうな表情をしていた。

 

「じゃあ、私は背中で感じてみよっと」

 

清楚も乗じて俺の背中にやってくれば、腰を下ろして背中と背中を合わせるようにする。

 

「・・・・・うん、弁慶ちゃんの言う通りだね。旅人さんの温もりは何故か安心できるよ」

 

「あっ、なんか仲間外れだな。俺も入れてくれよ」

 

そう言って与一も傍に寄ってきては、皆と同じようにくっていてきた。

 

「うん、見事に囲まれて動けないな」

 

「旅人の体温は温かくて優しいんだ。

できれば、寝る時も旅人に抱きつきながら寝たいもんだ」

 

「それは何時かしてやるさ」

 

「約束だよ?」

 

「ああ、約束だ」

 

と、ほのぼのとした時間の中で俺達は過ごしたのだった。

 

 

―――調練場

 

 

ドサッ!

 

 

「はい、これで俺の戦績は99戦99勝で、お前は逆に99戦99敗っと」

 

「っ・・・・・!」

 

「ヒュームも諦めが悪いというか、負けず嫌いか?何度俺に挑んでも同じ結果だって。

まあ、それは良い事だけどよ」

 

パンパンと汚れを落とすかのように手を叩いて、床に這いつくばるヒュームを見下ろす。

 

「月歩と嵐脚が使えるようになって日が経つけれど、もう少し調整が必要だと俺は思う。

俺のようにコントロールができれば、どんな角度からでも俺を襲えるようになるからな」

 

「お前は・・・・・本当に何者なのだ・・・・・」

 

「俺は俺だって、詮索はするなよ」

 

「・・・・・」

 

「はい、そんな恐い目をしても言わないぞ。別に俺は別の企業のスパイとかじゃなく、

九鬼家の家族を暗殺しようとする暗殺者でもないんだ。俺はただの旅人だぞ?

そんなに信用できないのか?」

 

嘆息し、ヒュームに呆れて首を傾げる。

 

「貴様の個人情報があまりにも無さ過ぎるのだ。いや、無いに等しい。

そして、奇妙な力を持っている。穴を開けては潜って別の場所に移動する。

壊れたビルが巻き戻しするビデオテープのように元に戻る。

お前の血はこの世界に存在する血液の中で特異で異質」

 

「・・・・・で?」

 

「お前は本当に人間なのか?」

 

「人間じゃなかったら赤い血を流さないだろう?」

 

「そんな答えで、俺が納得すると思っていないことを知っているはずだ」」

 

「ああ、プライドが高くて負けず嫌いなお前はこの程度の言葉で納得するとは

思ってもいないさ」

 

やれやれと、溜息を吐く。執拗に俺の事を聞いてくるな。

何が気に入らないんだが。それとも・・・。

 

「お前、もしかして俺の事が怖いのか?」

 

「―――ふざけるな!」

 

ブンッ!

 

「おっと」

 

鎌風を起こしたヒュームの一撃を余裕でかわして、話しかける。

 

「冗談だって・・・・・?」

 

ヒュームの口がかすかにつり上がった。そんな0位を怪訝に目を細めながら口を開いた。

 

「なにが可笑しい?」

 

「何時までも、俺が昔のままだと思うなよ」

 

ズバンッ!

 

「―――――」

 

俺の体に衝撃が襲った。一拍して、ボトリと何かが落ちたような音がした。

右腕が軽い。視線を右腕に向けると、俺の右腕は床に落ちていた。さっきの嵐脚で・・・?

 

「・・・・・悪かった。さっきの言葉を訂正するよ。

お前は経った今コントロールができるようになった訳だ。末恐ろしい奴だな」

 

「くくく・・・・・!ようやく、ようやく一矢を報いてやったぞ・・・・・!」

 

懐から小瓶を取り出し、落ちた右腕を拾って、脇に抱えて小瓶の蓋を開けた。

右腕と腕の断面とくっつけて小瓶の中に入っている液体を口で咥えながら飲みほした。

そうすると、腕の傷口から煙が生じて見る見るうちに腕の傷が塞がって―――腕が完全に

くっついた。

 

「高が腕一本だ。ちょっと成長したぐらいで喜ぶようじゃ、まだまだ俺を倒せれないぞ」

 

「貴様・・・・・!?」

 

「お、珍しく驚いたな」

 

右腕を回しながらヒュームの顔を見ていたら、驚愕の色が浮かんだ。

 

「貴様・・・・・今、なにを飲んで・・・・・」

 

「ノーコメントだ。治療費が掛からなくてよかったよ」

 

指をパチンと弾く。床に広がった俺の血が意志があるのかのように動きだして、

俺の口の中に入ってきた。

 

「・・・・・」

 

この光景をヒュームは沈黙して見詰めてくる。直ぐに血は俺の体の中に戻って床は、

綺麗さっぱりになった。

 

「何か、言いたげだな」

 

「そうだな山ほどある。まず言いたいことは―――貴様は危険な存在であるな」

 

「大丈夫だ、自覚している」

 

「考え直した方が良さそうだな・・・・・貴様を殺すつもりで倒す必要があるな」

 

「おいおい、殺すつもりもなにも・・・99回も俺に負けている奴が何を言っているんだ」

 

「ふん、殺し合いでもない勝負に勝って満足するような赤子が良く吠える」

 

「・・・・・へぇ?」

 

なら、殺し合いをしたら・・・・・もっと楽しめると思ってもいいんだな?

 

「そいつは楽しみだ。一度、お前と本当の意味で殺し合いをしてみたいと

思ったことがあったしな」

 

「・・・・・では、俺の傷が治り次第、貴様に真剣勝負の決闘を申し込む。

もし、俺が勝ったならば、何でも俺の言う事を聞いてもらうぞ」

 

「面白いな・・・・・だったら、俺が勝ったらその条件だ。いいな?」

 

「ふん・・・・・」

 

鼻を鳴らし、ヒュームは踵返して俺の前からいなくなる。

 

「・・・・・」

 

そろそろ・・・・・潮時か・・・・・。

 

「(オーフィス。また旅に出よう)」

 

俺の内から、分かったと聞こえた。そうだ、俺は何時までもこの街にいる

訳にはいかないんだ。俺には、目的がある。

 

「(少し、寂しいが・・・・・これも運命だろう)」

 

脳裏に浮かぶ風間翔一達。あいつらは絶対に悲しむだろうな。

 

 

∞                    ∞                     ∞

 

 

そして、その日がやってきた。俺とヒュームは極東本部の外で決闘をすることになった。

本部の方では・・・九鬼局、九鬼揚羽と九鬼英雄が窓からこっちを見ていた。

 

「長期戦はできないんじゃないのか?」

 

「ああ、そうだな。だがその前に短期戦で決着をつけるつもりだ」

 

全身から闘気を出した。どうやら、全力で来るらしいな。

 

「一つだけ質問して良いか?」

 

「なんだ?」

 

「お前、俺の事をどう思っている?」

 

「嫌いだ」

 

・・・・・即答ですか。まあいいけどさ。

 

「俺との約束を違えるなよ」

 

「そっちこそ」

 

「では・・・・・この決闘をこの私、クラウディオが執らせてもらいます」

 

真剣な表情でクラウディオが俺とヒュームの間に佇む。

 

「時間は無制限。勝敗は相手を戦闘不能にする、又はギブアップ宣言です。

それらが確認するまでは決闘は続行します。良いですね?」

 

「「ああ」」

 

相手はやる気満々。こっちは何時通り相手を倒すだけ。

この決闘でヒュームと勝負をするのは最後になるだろう。

 

「―――試合開始です」

 

クラウディオの口から開始の言葉が告げられた。その直後、ヒュームが姿を暗ました。

 

「なあ、クラウディオ」

 

「何ですか?」

 

「お前、ずっと俺の事を気にしていたよな」

 

背後から拳が突き出す気配を感じ、体を横にずらせばヒュームの姿が見えた。

 

「ええ、今でも気になっております。あなたは一体何者なのかを」

 

ヒュームは足を鋭く、素早く何度も突き出してきた。俺はその場で上半身だけを動かして

次々とかわし続ける。しばらくして今度は、回し蹴りをしてきてその足を瞬時に掴んでは、

空へ思いっきり放り放った。

 

「・・・・・そう言う事なら、一度だけ見せてやるよ」

 

「・・・・・何をですか?」

 

目を細めて、俺を見据える。上空から極太のエネルギー砲が接近し来るのが視界に入る。

 

「俺の力の一部をだ」

 

次の瞬間、俺の背中から燃え盛る炎の翼と腰に燃える尾羽が生じた。

全身に炎が揺らめき出る。

 

「・・・・・」

 

「ふん」

 

ヒュームの攻撃をかわし、炎の翼を羽ばたいて空へ飛翔する。

一瞬でヒュームのところに近づき、拳を突き出す。

 

ドンッ!

 

「―――っ!」

 

「おいおい、今のは軽めだぞ?」

 

「貴様・・・・・その姿は―――!?」

 

両腕で俺の拳をガードするヒュームの表情にまた驚愕の色が浮かんだ。

 

「俺の力の一部だ」

 

ガシッ!

 

とヒュームの顔面を鷲掴みにして地上に投げた。そして、俺はさらに全身に炎を纏えば、

炎は巨大な鳥へと変化した。その姿で、地上に落下するヒュームへと迫る。

 

「旅人・・・・・!」

 

『お前の言う通り、短期戦で決めてやる』

 

「旅人ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

エネルギー砲が向かってくる。そのエネルギー砲をかわさず、

直撃しながらヒュームに突貫する。

 

『終わりだ』

 

ドゴンッ!

 

燃え盛る炎に飛び込んできたヒュームの腹部に俺の拳が深く突き刺さった。

バキボキと肋骨が折れる感触が拳に伝わる最中、俺とヒュームは地上に落ちた。

 

 

―――揚羽side

 

 

本部から急いで外に出た。

視界には濛々と立ち籠る煙で旅人とヒュームの姿が隠れて見えない。

 

「クラウディオ!」

 

「揚羽様・・・・・」

 

「二人はどうなった!勝負は!?」

 

「・・・・・」

 

我の問いに答えず、真っ直ぐその瞳を煙に向けている。

 

「―――何時も通りだ」

 

煙から我とクラウディオの前に何かが飛び出してきた。そして、それは・・・・・。

 

「ヒューム・・・・・」

 

満身創痍、全身火傷を負っているヒュームが我の視界に飛び込んできた。

 

「これで100戦100勝だな」

 

煙が突然に吹く風によって吹き飛ばされる。

煙が無くなったことで、旅人の姿が見えるようになった。

・・・・・燃え盛る炎の翼と燃える尾羽を生やしている旅人の姿を―――。

 

「旅人・・・・・その姿は・・・・・」

 

「俺の力の一部さ」

 

ボッ、と翼と尾羽が焼失した。旅人はヒュームを一瞥してクラウディオに顔を向けた。

 

「さて、勝者は敗者に何でも聞くという決まりの下で決闘に勝ったわけだが・・・」

 

「ヒュームの代わりに私が請け負いましょう」

 

「じゃあ・・・・・俺は従者を辞める」

 

・・・・・え・・・・・?

 

「・・・・・それは」

 

「ダメだというなよ?それに俺が従者になる条件の一つを忘れたわけじゃないよな?」

 

「・・・・・」

 

条件・・・・・?旅人の素性を詮索しない他に何かあったというのか・・・・・?

 

「俺が従者を辞めると言ったときは、素直に了承し認める、という条件何だよ揚羽様」

 

「待て・・・・・我はそんなこと一度も聞いては・・・・・」

 

「これはクラウディオと局様しか知らないことだからな。揚羽様が知らないのは当然だ」

 

―――――その事実に我は耳を疑った。では、旅人は従者では無くなるというのか?

 

「クラウディオ、良いな?」

 

「・・・・・あなたはそう言う条件で九鬼家に仕えていたのですから仕方ないですね」

 

なっ・・・・!?

 

「色々と世話になったし、楽しかった。また何時か会おう」

 

「できれば、このまま九鬼家に仕えてくれると私共は嬉しいのですがね」

 

「俺は旅人だぞ、忘れたのか?何時までもこの街に留まるわけにはいかない」

 

「そうですか・・・・・」

 

嘆息するクラウディオを余所に、

旅人は本当にここから去ろうと踵返して歩を進め出した・・・。

 

「た、旅人・・・・・!待ってくれ・・・・・!」

 

縋るように旅人の手を掴んで引き止めた。

 

「何故だ・・・・・どうして、旅に出ようとするのだ・・・・・このまま我の従者として、

過ごせばいいではないか・・・・・」

 

「揚羽様、俺には目的があるんだ。そのためには全世界をこの目で見ないとダメなんだ」

 

「その目的とは何だ!?我に話せ、そうすれば旅人の目的を達成できるかもしれぬ!」

 

「・・・・・いや、九鬼家の力を借りてもできやしないだろう。現実的に、物理的にも」

 

「な・・・・・そ、そんなことは・・・・・!」

 

「では聞くぞ。違う世界から違う世界へワープできる技術が、今の九鬼家にできるのか?」

 

「は・・・・・?」

 

突拍子的な質問に声を呑む。旅人・・・・・何を言って・・・・・?

 

「俺はそのぐらいの事をしたい目的がある。だから、世界中を旅して、

それができると思しき可能性を秘めた物を探そうと旅していたんだ。そう、数年前まではな」

 

「・・・・・」

 

「だが、九鬼家に使えながらも密かに探していたが・・・・・

そろそろ違う国に旅する必要があるんだ。

従者として、付き添ってばかりでは探したいところを探しに行けないからな」

 

「ならば、我も手伝う!旅人の目的を叶える手伝いを我もする!」

 

「揚羽様・・・・・」

 

「辞めないでくれ!ずっと我の傍にいてくれ!」

 

涙を流しながら旅人の胸に飛び込んで抱きついた。

 

「―――そうです、辞めないでください」

 

「李・・・・・?」

 

不意に、我の隣にメイドが旅人に抱きついた。

 

「あなたは私に言ったことを忘れたのですか?」

 

「・・・・・」

 

「あなたのあの言葉で私はここにいるのです。あなたがいないなら、

私がここにいる意味がないです」

 

メイド・・・李の顔を見れば、頬を涙で濡らしていた。この者も旅人の事を・・・・・。

けれど、それでも・・・・・旅人は・・・・・首を横に振った。

 

「・・・・・悪い。これは俺の命の3番目に大事なことなんだ」

 

「では、2番目はなんですか?」

 

「―――俺の家族だ」

 

愁いに満ちた瞳が我と李に向けられた。初めてそんな瞳をする旅人に、我は驚いた。

 

「俺は家族に会いたい。そのためにも俺は世界を旅している」

 

「家族・・・・・?家族なら・・・・・我ら九鬼が探す!

教えてくて、家族の容姿を、特徴を!」

 

「―――この世にはいないんだ」

 

な・・・・・なに・・・・・?

 

「俺の家族はこの世にはいない。だから、家族に再会する方法を探し求めている」

 

旅人の家族は死んでいる・・・・・?旅人は家族を甦らそうと世界中に旅していたと

いうのか・・・?

 

「揚羽様。揚羽様達をずっと見守って俺は常に思っていた。羨ましいと」

 

「羨ましい・・・・・?」

 

「家族と離れ離れにならないで暮らしている。

そんな私生活をし続けた揚羽様がとても羨ましかった」

 

「・・・・・」

 

オーフィス・・・・・何時の間に・・・・・?

 

「俺とオーフィスは家族と離れ離れになった。だから世界中を旅してまわっていた。

家族と再会する方法をずっと探し続けてきた」

 

「我、皆と会いたい。これ、大切なこと」

 

「だから、その続きをしようと決めたんだ。今日、従者を辞めてな」

 

肩にオーフィスを乗せながら旅人は言った。

 

「明日は丁度、休日だ。最後に遊びに来てほしい」

 

それじゃ、と旅人とオーフィスが我らの前から忽然と姿を暗ましたのだった。

 

「旅人・・・・・っ」

 

 

∞                    ∞                     ∞

 

 

翌日、俺達は旅に出ようとテントや外に置いてある器具や道具を異空間に仕舞い、

荷物を纏め始めていた。

 

「旅かぁー。旅人、どこに行くんだ?」

 

「取り敢えずは神奈川県以外の地域に行く予定だ」

 

「じゃあ、外国も行くのかい?」

 

「ああ、その予定だ」

 

「うっは!そいつは楽しみだ!ウチ、一度でもいいから外国に行ってみたかったんだぜ!」

 

「私は、皆と一緒ならどこでも・・・・ぐぅ・・・・」

 

四人は昨日の内に伝えた。まあ、俺が引き取っているからついてくるのは当然だった。

全部片付け終わる頃に―――。

 

「旅人さぁーん!」

 

何時ものように風間翔一達が空き地にいる俺達に近づく。そして、少ししてクラウディオと

九鬼揚羽と九鬼英雄、忍足あずみと李とステイシー、までもが空き地にやってきた。

 

「あれ、旅人さん。どうしてテントが無く成っているの?」

 

「ああ、そろそろまた旅に出ようと思って片づけた」

 

「え・・・・・?」

 

「だから、お前達と遊ぶのは今日で最後に成る」

 

「旅人さん、いなくなっちゃうの?」

 

「そうだな。もう翔一達とお別れだ」

 

「・・・・・やだ」

 

「・・・・・」

 

「行っちゃやだ!」

 

椎名京が小さい身体で俺の足にしがみつく。反対の足に榊原小雪もしがみ付いた。

 

「旅人のお兄ちゃん!行っちゃダメ!」

 

「・・・ごめんな、もう決めた事なんだ」

 

「何でだよ!ずっと此処にいればいいじゃないか!」

 

「俺は旅人だって言っただろう?今度は違うところに旅をするんだ」

 

「俺達の事が嫌いになったのか!?俺達と遊ぶのが嫌になったのか!?」

 

「いや、嫌ってもなければお前達と遊ぶのが嫌になった訳じゃないんだ。

翔一、俺は他の所に行きたいんだよ。冒険の続きをするだけだ」

 

「私は認めないぞ!旅人がいなくなるなんて!」

 

「百代・・・・・」

 

「旅人さん、行かないでぇー!」

 

岡本一子が涙を流しながら俺に請う。

 

「一子・・・・・俺を困らせないでくれ。人は何時か別れの時があるんだ。

それをお前等も何時かその時が来る。そして、それが今なんだ」

 

「関係無い!関係無いですよ旅人さん!僕達は旅人さんがいるから僕達が此処にいるんだ!」

 

「卓也・・・・・」

 

「そうだぜ!旅人さんのお陰で俺達はこうしていられるんだ!

旅人さんがいない生活と遊びだなんて考えたくない!」

 

「岳人、お前・・・・・」

 

「旅人!考え直してくれ!また従者として我らの傍に・・・・・!」

 

「英雄様。もう決めたことだ。誰であろうと俺の決意は揺るぎはしない」

 

「ファック・・・・・本当に行っちまうのかよ?」

 

「そうだ。お前の声を聞くのは今日で最後だな、ステイシー」

 

「マジかよ・・・・・お前が本当にいなくなっちまうのかよ」

 

「あずみ・・・・・お前は俺の命の恩人だ。

お前の事は忘れない。でも、俺は決めたんだ。だから旅に出ようと思う」

 

「モモ先輩!モモ先輩のお爺ちゃんを呼んで、

旅人さんをここに留まらせるように説得してもらおう!」

 

「大和、そんな事をしても無駄だ」

 

首を横に振り直江大和の考えを否定する。

だけど、川神百代は直江大和の指示に従い、大きく口を開けて叫んだ。

 

「クソボケのエロジジイ!」

 

ドヒュンッ!

 

「こらモモ!またワシの悪口を言ったな!?今日と言う今日は―――」

 

「ジジイ!頼む!旅人を止めてくれ!」

 

「んむ?どう言う事じゃ?」

 

「ああ、それは―――」

 

再び一秒の間も置かず現れた鉄心に事情を説明する。

 

「ふむ。そう言う事じゃったのか・・・・・」

 

「ジジイ!」

 

「お爺ちゃん!お願い!旅人さんを行かせないで!」

 

「まあ、こんな感じで困っていた」

 

川神鉄心は川神百代に顔を向けて申し訳なさそうに口を開く。

 

「・・・・・モモ、ワシは旅人を引き止める権利は無いのじゃ。

じゃから旅人をこのまま行かせるべきじゃ」

 

「何でだ!?」

 

「旅人は世界中を旅している。いわば旅人の人生なのじゃ。世界を渡り、人々と触れ合い、

色んなものを学び己を知り世界を知る。旅人の人生は旅人の物。モモ、それに子供達。

旅人の人生はお主達の玩具ではないぞい」

 

『・・・・・っ』

 

「それに俺は今すぐ旅に出る訳じゃない。

夕方までいるつもりだ。お前達と最後に遊ぶ為にな」

 

「それでも・・・・・もう二度と会えなくなるじゃないか」

 

「おいおい、俺は旅に出たら死んじゃうのかよ?俺は死なないさ」

 

「でも・・・・・」

 

「こいつらを残して死ねるかよ」

 

板垣兄弟姉妹を一瞥して未だ、俺の足にしがみつく榊原小雪と椎名京の頭を撫でる。

 

「俺達がいない間に百代は最強の武闘家となっているだろうし、

お前等は彼氏や彼女ができているかもしれないな」

 

「私は旅人さんが好きだよ!」

 

「僕も旅人のお兄ちゃんが大好き!」

 

「・・・・・そうか」

 

跪き、ギュッと優しく二人を抱き締める。不意に頬に柔らかくて温かい感触が伝わった。

 

「えへへー♪」

 

「・・・・・」

 

「ふぉふぉふぉ、お主。好かれておるのう」

 

その感触に俺は何をされたのか気付いた。

川神鉄心の笑いに俺は苦笑を浮かべるしか出来なかった。

 

「・・・・・」

 

「李?」

 

「・・・・・本当に行ってしまうのですか」

 

「ああ」

 

「・・・・・酷い人です」

 

俺の顔を見詰め、そう言いながらも俺の首に腕を回して、俺は李の方へ引き寄せられる。

 

「んっ・・・・・」

 

「んんっ・・・・・」

 

李の唇と重なった。

 

「・・・・・私の気持ちです。忘れないでください」

 

「お前・・・・・」

 

長かったような短かったようなキスが終わった。李の顔は無表情だが、

どこか物悲しげにだった。はぁ・・・・罪悪感で心が一杯だ・・・・・。

 

「百代?」

 

「・・・・・うん、決めた」

 

「・・・・・何がだ?」

 

「私もする」

 

「はっ―――?」

 

近づいてきた川神百代に顔を両手で挟まれてしまい、彼女は顔を近づけて俺の唇に自分の唇を

押しつけた。そんな事をする川神百代に唖然とする最中、

殺意が向けられていることに気付く・・・・・。

 

「・・・・・鉄心」

 

「・・・・・なんじゃい」

 

「これ、不可抗力だよな?」

 

「完璧に不可抗力じゃのう」

 

「そうか―――なら、その闘気を抑えてくれないか?」

 

「ふぉふぉふぉ―――旅人。最後にワシと戦ってはもらえないじゃろうか?」

 

「絶対に怒っているよな!?俺、そんな性癖ではないからな!?」

 

「ぬかせ!よくもワシの可愛い孫からチューをしてもらいおって羨ましいぞい!」

 

「嫉妬か!?自分にはしてもらわないからって俺にあたるか!?」

 

「食らうがいい!川神流、無双正拳突き!」

 

「しかもいきなり!?」

 

紙一重でかわし、川神鉄心と拳と拳の拳劇をする。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

「いい迷惑だ!こんちくしょうがああああああああああああっ!」

 

ドガガガガガッ!ガッ!バキッ!ドゴッ!ゴン!ガガガガガガッ!

 

「・・・・・凄い、ジジイと余裕で戦っている」

 

「速過ぎて何がなんだが・・・・・」

 

「それに僕達、金色の光に包まれているね」

 

「これ、リュウゼツランの時にもしてもらった奴だよな」

 

「ぬっ!ここまでワシと渡り合えるとは・・・・・!川神流、無双正拳突き!」

 

「―――無双正拳突きっ!」

 

ドオオオオオオオオオオンッ!

 

拳と拳がぶつかりあって、激しく衝撃波が生じた。川神鉄心の顔に驚愕の色が浮かんだ。

 

「川神流の技じゃと!?」

 

「というか、ただのストレートパンチが必殺技に昇華しただけじゃないか!」

 

「ならば、これならどうじゃ!顕現の参・毘沙門天!」

 

「それがどうした!」

 

「むっ―――!?」

 

その技はあの世界で何度も食らっているんだ。

だから、かわせる!天から伸びる足を避けて直ぐさま、

 

「食らえ―――轟龍波!」

 

腰まで引いた両手の間に気を集束させ、川神鉄心に突き出し龍と化となっている

気のエネルギー砲を放った。

 

「ぬっ!この攻撃を食らったらただでは―――っ!?」

 

「何かする前に動きを封じさせてもらったぜ」

 

瞳を赤く煌めかせ、川神鉄心の動きを停めた。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

俺の一撃は川神鉄心に直撃し天に昇って消失した。

 

ドサッ!

 

「今の攻撃は相手の気を奪い取る。鉄心、今のお前じゃあ百代にすら勝てない。

ま、一日もすれば気は元に戻るさ」

 

原っぱに倒れた川神鉄心に近づき声を掛ける。

 

「・・・・・あのジジイが負けた・・・・・」

 

「えっ、そんなに凄い事なの?」

 

「ああ、ジジイは現役の時は負け知らずだと聞いている。

でも今は現役から引いてもまだまだ強いらしい。そんなジジイに旅人は勝った・・・・・」

 

「そうなんだ・・・・・」

 

「ははは・・・・・、私は決めたぞ・・・・・!」

 

「姉さん?」

 

「私はもっともっと修行して強く成って何時か旅人と戦うんだ!

今の私では旅人にとっては赤子だろうが、成長した私ならきっと渡り合える筈!」

 

川神百代は拳を握りしめ、目標を目指す決意を示した。おう、楽しみにしているぞ。

 

「―――さて、お前達。お前達とこれで最後の遊びに成るが今日は思いきり遊ぼう」

 

ズルズルと川神鉄心を引きずって近づく俺に子供達は―――。

 

「じゃあ、旅人さんが鬼で私達が逃げる!」

 

「皆、散れ!」

 

既に川神百代達と囲んでいた金色の光の膜を消していたから川神百代達は俺から逃げていく。

 

「はっはっはっ!俺から逃げられると思うなよ?全員、捕まえてやる!」

 

ドヒュンッ!

 

逃げる子供達をもの凄い速さで追いかける。子供達と俺は夕方に成るまで笑いを絶やさず。

意識を回復した川神鉄心も途中参加で色々な遊びをした。

 

 

―――数時間後

 

 

「さて、もう夕日に成った」

 

夕陽を背景に子供達を見詰める。

 

「俺は旅に出る。お前等、元気でな」

 

「旅人さん・・・・・」

 

「翔一、最初に出会ったのはお前で良かったと思っている。

このバンダナ、何時までも付けているよ」

 

「ああ!友情の印を失くしたら怒るからな!」

 

「大和、お前はお前らしく生きてみろ」

 

「分かった」

 

「本当に行っちゃうの・・・・・?」

 

「一子、もう泣き虫は卒業しないとな。じゃないといじめられちゃうぞ?」

 

「うん!アタシ、頑張る!」

 

「岳人、お前はもう少し勉強をしろ。それとその力で仲間を守れ。男だからな」

 

「最後の別れだって言うのにそれかよ!?・・・・・ああ、分かっているさ。

仲間は俺が守る」

 

「卓也、もう少し身体を鍛えるようにしないとな。

でも、お前しか出来ない事がある。それを活かしてこいつ等をサポートするんだ」

 

「はい、僕なりに頑張ってみます!」

 

「百代、お前が強く成る日を俺は楽しみにしている。

お前は何時か世界最強の『武神』となるだろう」

 

「武神・・・・・」

 

「その時は百代。お前と戦おう」

 

「っ!?」

 

川神百代は目を丸くした。でも、すぐに嬉しそうに満面の笑顔で頷いた。

 

「京、小雪」

 

「旅人さん・・・・・」

 

「旅人のお兄ちゃん・・・・・」

 

「元気に生きていて欲しい。お前達には掛け替えのない友達がいるんだ。

寂しくはないだろう?」

 

「「うん・・・・・」」

 

「冬馬、準。小雪と一緒に元気でな」

 

「ああ、旅人さんも元気で」

 

「悲しいですが・・・・・これもまた運命ですからね」

 

榊原小雪の傍にいる2人に声を掛ける。

 

「鉄心、また何時か戦おうな」

 

「うむ。今度は負けやせん」

 

「ははは、まだまだ死にそうにないな」

 

「ふぉふぉふぉ。ワシはまだまだ現役じゃぞい」

 

「英雄。野球もするのもいいが腕を使いすぎて痛めるなよ」

 

「分かり申した・・・・・」

 

「李、ステイシー。二人とも仲良くやるんだぞ?」

 

「へいへい、性格が合わないからいがみ合うけどな」

 

「・・・・・はい」

 

「あずみ、英雄様の従者として頑張るんだぞ」

 

「・・・・・手紙ぐらいは出せよ。それぐらいはしろ」

 

分かった、とそう言い、クラウディオに話しかける。

 

「クラウディオ、まだまだ死ぬなよ」

 

「あなたのサラダが食べれないことに残念で仕方がないですね」

 

そっちが本命かよ?心の中で溜息を吐く。そんな時、九鬼揚羽が静かに歩み寄ってきた。

 

「・・・旅人」

 

「・・・・・」

 

「もう、我は止めぬ。川神鉄心殿の言葉に一理ある。民の心は民の物。

民の意志は民自身が決まる。ならば、お前を送ることが我の義務であろうな・・・・・」

 

「揚羽様」

 

「我の事をまだ揚羽様と呼ぶか。

すでにお前は従者ではないのだ。呼び捨てで呼んでも構わんぞ」

 

「数年間、仕事柄でどうも呼び捨てができなくなっているようなんだよ。でも・・・・・」

 

九鬼揚羽の耳元で、揚羽・・・と呼んだ。

 

「―――旅人!」

 

いきなり九鬼揚羽が俺に抱きついてきた。

そして―――俺の頭を掴んだかと思えば、九鬼揚羽は俺の唇に自分の唇を押し付けてきた。

少しして、俺から離れると真っ直ぐ俺の顔を見据えて叫んだ。

 

「覚えておけ!我はお前に好意を寄せているのだと!我は、旅人が好きなのだ!」

 

「・・・・・」

 

「次に我の前に現れたその時。旅人よ、我と勝負をしろ!我が勝った暁には、

我と結婚してもらう!」

 

ええええええええええええっ!?と風間翔一達の口から驚愕の声が上がった。

実際、俺も驚愕した。

 

「・・・・・行くとするか」

 

板垣兄弟姉妹にも行く準備を促し、荷物を手に持って俺はもう一度子供達を見詰める。

 

「旅人さん!」

 

「翔一?」

 

「俺はさようならって絶対に言わない!俺はこう言うぜ!―――またな!」

 

「・・・・・!」

 

またな・・・・・その言葉は何時かもう一度再会すると信じているから言える言葉。

俺は口の端を吊り上げ、拳を突き出して親指を立てる。

 

「ああ、また会おう。―――じゃあな」

 

「また、会う」

 

「じゃあな、お前ら!」

 

「一子、元気でいろよなー!」

 

「じゃあねぇ~」

 

「またね」

 

オーフィスと板垣兄弟姉妹も別れの言葉を告げる。風間翔一達も別れの言葉を言いながら

大きく手を振った。―――東方は赤く燃えている。俺達を見守るかのように夕日が照らし続ける。

何時までも。どこまでも。

 

「さぁーて、オーフィス。旅の続きの始まりだ」

 

「ん、我はどこまでも、イッセーについていく」

 

肩に乗っかるオーフィスが言う。そんな時、一緒に歩いている板垣亜巳が訊ねてきた。

 

「ずっと気になっていたけど、オーフィスはどうして旅人の事を

『イッセー』と呼ぶんだい?」

 

「ん?ああ、それは―――」

 

俺の名前は兵藤一誠だからと、板垣亜巳に告げた。

 


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